IPEの果樹園2006

今週のReview

4/10-4/15

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :アーミテイジ

安全保障 :イラク

貿易・投資 :米中貿易・通貨摩擦グローバリゼーション改革・左派

通貨・金融 :金融政策

世界統治 :タクシン移民政策論争中国

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


Asia Times Online, Mar 29, 2006

How the US-Japan alliance will shape Asia

(コメント) 2001年から2005年まで国務副長官であったR.アーミテイジRichard Armitageに対するThe Oriental Economistによるインタビューです.要点を衝いた,興味深い内容です.ジョセフ・ナイとアーミテイジの使命は日米関係の現代化にありました("Armitage-Nye" report).しかし9・11と北朝鮮,靖国参拝により,問題が複雑化したように思います.

ブッシュ大統領と小泉首相の個人的信頼関係が日米関係を安定させ,アメリカは日本を重視してきた.「歴史」問題では,中国が靖国参拝で激しい非難を繰り返さなければ,むしろ日本側が譲歩できる.また,日本政府は教科書に過去の戦争を反省する叙述を増やすことでアジアにおける役割を高められる.小泉首相はピョンヤン訪問に先立ち,国民よりも先にアメリカ大使に知らせていた.米朝二国間交渉も拒まない.外交は決して敗北を意味しない.しかし,金大中の「陽光政策」は,政権の課題として重視しすぎた.その政策によって北朝鮮は韓国政府の命運を握り,それを利用することを警戒した.6カ国協議は有意義な仕組みである.アメリカとの合意がなければ,北朝鮮は核兵器を諦めないだろう.

特に,日本の世論やアメリカのアジア政策が何であれ,われわれは核を保有する北朝鮮,そして南北統一朝鮮と生きていかねばならないだろう,という示唆に出会います.「北と南はますます接近している.それは疑いない.そして中国は北朝鮮に莫大な投資をしているから,北朝鮮は経済的に強化された.数年前のように,崩壊の瀬戸際にはない.」「韓国はますます北朝鮮経済に浸透している.韓国の多くの人が,ピョンヤンは韓国を攻撃しないだろう,と思うようになった.事実として,われわれは二つの朝鮮が統一を進める過程に遭遇している.

さらに,アメリカと韓国の関係や,アメリカと中国の関係についても,アーミテイジはその複雑さと重要さを十分に理解し,簡潔に表現していると思います.日本の外務省や防衛庁の幹部にも,国民に対して,同様の力量を示してほしいです.

FT April 2 2006

Nato plans stronger military ties worldwide

By Daniel Dombey in London Diplomatic Correspondent

Asia Times Online, Apr 6, 2006

Kaesong zone a troubled Korean jewel

By Andrew Salmon

Asia Times Online, Apr 7, 2006

New globalization battle threatens Asia

By Joergen Oerstroem Moeller

(コメント) ソ連が軍事的・政治的に支配することから西欧を守るために,NATOは組織されました.しかし,そのNATOを世界全体の防衛システムに再編する試みがあります.オーストラリア,ニュージーランド,フィンランド,スウェーデンが参加します.日本,韓国も.NATOフォーラムに参加しています.これはイラク後の,国連安保理(中露)回避型・有志連合かもしれません.

NATOは既にアフガニスタンで秩序維持に機能しています.地理的な制約を離れて,地球的な安全保障の共有が重視されます.

ケソン工業地区The Kaesong Industrial Complexは,2003年に南北朝鮮政府の合意で始まりました.ソウルから車で1時間,南北を隔てる非武装地帯の北10キロにあります.毎日300台のトラックが行き交い,高速道路を建設しているようです.靴やポット,衣服など,15の韓国企業が進出し,既に11工場が稼動しています.北朝鮮の労働者6000名が働き,韓国からも500名が参加しています.それは第三世界の「スウェットショップ(苦汗工場)」ではなく,ゆったりとした近代工場群です.50%のボーナスをもらう韓国人労働者のために,銀行やコンビニもあります.ここが韓国資本主義の飛び地となっているわけです.

2012年前に6610ヘクタールを開発し,70万人を雇用する,と期待されています.もちろん,そこには多くの問題があります.アメリカ政府は北朝鮮に金融制裁を発動しました.その影響も含めて,対米関係は予想できません.北朝鮮の労働者の生活条件は低く,賃金や住宅がどの程度改善されているのか,まったく分かりません.中国との国境沿いにも開発地区があり,鉄道の計画がどこを通るのかで輸送コストが変わります.

一国の産業や雇用を維持するほうが重要か,それとも効率やコスト削減を重視し,世界的規模の合併や再編・合理化を断行するべきか? ヨーロッパやアメリカだけでなく,アジアでも同じ論争が波及しつつあります.論争激化の背景には,@ブルーカラーからホワイトカラーへと,雇用流出が広まっている.A工場だけでなく,優秀な技術者やエンジニア,学生も奪い合いが始まった.B冷戦終結から新しい脅威や冷戦の再現,ハイテク兵器へと,安全保障についての関心が高まっている.と指摘されます.

対策が不十分なまま,こうしたナショナリズムが放置されれば,これから多国籍化し,世界戦略を立てつつあるアジア企業に制約となるでしょう.


FT March 29 2006

Legitimacy elusive in Thailand’s poisoned poll

By Amy Kazmin in Bangkok

FT March 30 2006

People power can undermine Asian institutions

By Anthony Spaeth

FT April 4 2006

Democracy in Asia

April 5 (Bloomberg)

Thaksin's Exit Good for Thailand. Asia, Too

William Pesek Jr.

LAT April 6, 2006

A Thai surprise

(コメント) アジアの民主主義,特にタイに関する考察です.タクシンThaksin Shinawatra首相への利権疑惑は,アジア通貨危機後の経済復興と民主主義の指導者であったはずの人物を,激しい批判の標的にしました.復興にともなう汚職や利権,貧富の格差,その経営者を気取る政治手法が,一国の首相にふさわしくない,というわけです.しかし,バンコクでは批判されても,農村部での人気は高く,首相の地位を降りても,まだタイ政治の行方を支配し続けるようです.

疑惑を払拭するために選挙に訴えたことが,むしろ事態収拾を強引な政治的集票力で乗り切ろうとしました.露骨な公共事業の配分や買収工作で,タクシンが地方の投票を支配できることは分かっていたのです.反対派は愛国党Thai Rak Thaiへの投票ボイコットを呼びかけました.タイの政府機能が次第に麻痺し,成長の見込みも悲観主義に代わったのです.

他方,首相の側では「暴徒による支配を許すな!」とキャンペーンを繰り広げ,愛国党は「再び,人民の力を投票で示せ!」と唱えました.タクシン首相が辞任することはありえない,と予想されていましたが,実際には投票結果を示しても政治的紛糾を抑えることができず,軍事クーデタの懸念を共有したビジネス界や政界に迫られ,国王の仲介に頼る辞任へと進むわけです.

タクシンは家族の株取引と政治的関与や資金の流用,権利の濫用に関して,個人の良識や裁量だけに頼り,法律や制度を無視しても,自分が正しいことをしていると譲らなかったわけです.「世界中で,多くの独裁者が選挙に勝利している」と反対派は言います.民主主義の濫用を防ぐのは誰・何なのか? イタリアでも,フィリピンでも,ロシアでも,・・・政治とカネ,ビジネスと利権は癒着します.地方の貧しい民衆をポピュリズム型選挙に取り込んだのも,メディア業界への支配を強めて反対派を弾圧したのも,タイではタクシンが最初でした.

シンガポールやマレーシアの独裁型民主主義?を理想として,「民主主義は目的ではなく手段である,民衆の生活を改善することが目的だ.」と語ったのがタクシンでした.彼は議会制度にまったく関心がなかった,と専門家は言います.野党議員を買収してでも,愛国党のみの議会を望んだわけです.

フィリピンでも,アロヨ大統領が繰り返されるスキャンダルや弾劾裁判を生き延び,反対派を街頭デモに訴えさせています.タクシンもアロヨも,政権や秩序を維持するためには,そうするしかないのだ,と主張するでしょう.あるいは,これがアジアの民主主義だ,と.権力を追求し,それに固執する人々は,たとえ選挙によって勝利しても,民主主義を滅ぼすのです.政治システムと利権とを切り離し,汚職や腐敗を監視・告発するシステムを市民が担う必要がある,とこれらの論説は指摘します.

アジア通貨危機後の時代を担った「タクシン経済学Thaksinomics」はどうなるのか? 財政政策を活用した内需依存型の成長,CEO型経済運営・国際競争力=産業振興,農民の貧困解消・格差是正,金融・株式市場の活性化,など.低利融資や減税が多用されました.その中心は革新的なものではなく,基本的に,旧来の債務依存型成長刺激策でした.

石油価格の上昇で,タクシン経済学の限界ははっきりした,とWilliam Pesek Jr.は言います.好況に加えて石油価格が上昇したため,インフレが高進しました.所得の上昇は止まり,巨大プロジェクトは大幅に遅れています.それは政府の上層部がはしゃいだだけの幻想でした.特に,タクシンの次の指導者は,国家の資産売却や公的な規制に市民の利益を守る観点を明らかにし,ビジネスへの関与に慎重でなければなりません.タクシンが辞任すると表明したのは,何よりも,こうしたアジアの政治腐敗一掃に向けて,良い刺激となるでしょう.また,反対派が民主的な制度そのものを破壊してしまうことを防いだのです.


March 29 (Bloomberg)

Corpse Thieves Thrive as `Body Brokers'; $900 for Severed Head

Mark Gilbert

The Guardian Saturday April 1, 2006

Sex slaves to the market

Madeleine Bunting

The International Herald Tribune, 3 April 2006

Managing Globalization: Costs of Exporting Labor

Daniel Altman

Asia Times Online, Apr 4, 2006

Japanese flock to China for organ transplants

By David McNeill and Clifford Coonan from Japan Focus

(コメント) 資本主義では,何でも売ります.・・・死体でも,セックスでも,臓器でも,もちろん,労働者でも.

Annie Cheney, ``Body Brokers'' (Broadway, 193 pages, $23.95) に依拠して,死者を埋葬することが専門の職業となって以来,死体の売買が反映した,とMark Gilbertは紹介しています.外科器具の会社,病院,科学者,実験室,化粧品会社,その他,さまざまな買い手が世界中で死体を求めています.

Madeleine Buntingは,セックス産業の繁栄,セックス文化の蔓延を伝えています.市場によって性的な刺激が利用され,誇張され,人々は洗脳され,強迫されます.商品の宣伝だけでなく,さまざまな性的表現が公共空間を支配しています.もはや男性は女性を誘惑することもない.それは「アウトソーシング」されてしまった,と.そして,さまざまな道具や環境を買うことになる.

フィリピンは,長年にわたって,労働者を輸出することを政府が組織し,支援してきました.中東の裕福な産油諸国からアジアの高所得国で,家政婦や,臨時・一時雇用として危険な仕事をこなします.世界に及ぶ彼らの数は300万人,労働人口の10%に当り,家族も含めると800万人に及びます.海外のフィリピン人労働者(OFWs)が本国に送る送金額は,107億ドル,GDPの12%にも達するのです.その資金は住宅の建設や改修,子供の教育や小さな店舗の開店に使われます.

政府はそれを自慢しますが,問題もあります.家族が長期にわたってバラバラで暮らし,子供を育てるのは祖父母です.優れた教育を受けた人材が流出し,海外では未熟練労働に従事しています.また,フィリピンの年金制度に穴を開けます.彼らの送金に依存することでフィリピン経済は弱体化し,海外におけるショックに対して脆弱になりました.労働力の輸出は一時的な方策として有効かもしれないが,それに頼ることは間違いなのです.

日本における臓器市場についても記事がありました.それらの臓器の多くは,貧しい国から供給され,インターネットでも売買されています.たとえば,肝臓移植を望む患者は国内に一杯います.そこで患者は中国に行って,病院で手術を受けました.「臓器移植ツアー」です.その日の朝に検査を受け,すぐに移植できた,恐ろしく早い,と患者の男性は言います.費用は680万円.臓器の提供者が囚人であることも珍しくないようです.

中国の病院では,肝臓を売りたい人たちがトイレの壁などにスプレーで落書きして,携帯電話番号を記します.国民が貧しく,しかも医療設備や技術が進んだ国では,たとえばインドやパキスタンなど,外国人への臓器移植がブームになっています.


BG March 29, 2006

A madness for war

By Derrick Z. Jackson, Globe Columnist

NYT March 30, 2006

The Cost of Invading Iraq: Imponderables Meet Uncertainties

By ALAN B. KRUEGER

(コメント) 世界から狂人を取り除くため,と称して戦争を始めたブッシュ氏自身がなんと狂人であったことか!

パウエル国務長官が国連安保理で大量破壊兵器(WMD)の証拠を見せる前に,ブレアとブッシュが交わした極秘メモは,彼らがWMDの存在を示せないと理解しています.ブッシュはそれでも開戦日を決め,大規模な空爆で短期にけりがつくと信じています.WMDが無いのに戦争を始めたことを責められると心配し,偵察機を飛ばして意図的にイラク軍に追撃させようとも考えます.

ある意味では,今も続くこの戦争の費用は,さまざまに推定されています.いずれも最初のブッシュ政権の予想をはるかに超えます.2003年の開戦直前Steven J. Davis, Kevin M. Murphy and Robert H. Topelの推定額は,2580億ドルから3800億ドル.その後,4100億〜6300億ドルに修正されました.William D. Nordhausは,推定額が余りにも低い,と2002年に警告しました.戦争会計は,その予測の前提がまったく不正確で,科学ではありません.たとえば,戦争しなかった場合のコストを推定するとしたら,大幅に異なった額が示されるでしょう.Linda J. Bilmes and Joseph E. Stiglitzは,2015年に米軍が完全撤退していることを前提に,22000億ドルと推定しました.しかし,これは過大評価である,と論説は考えます.また,Zbigniew Brzezinskiは,戦争の利益のほうが推定しにくい,と言います.

戦争をめぐる政策論議に経済学が会計原則を主張することは無いでしょう.・・・利益が出る戦争だけを戦え?


LINDA CHAVEZ American Dreams, Foreign Flags NYT March 30, 2006

George F. Will Guard the Borders -- And Face Facts, Too WP Thursday, March 30, 2006

David S. Broder Immigrants, Finding Their Voice WP Thursday, March 30, 2006

Christopher Caldwell Migration debate out of control FT March 31 2006

Daniel Schorr The immigration debate: reform vs. enforcement BBC 2006/03/31

Robert Kuttner Stagnant wages? Made in USA BG April 1, 2006

Joe R. Hicks Civil rights? How about lawlessness? LAT April 1, 2006

JOHN TIERNEY King Canute at the Border NYT April 1, 2006

Peter Schrag California's lessons on immigration BG April 2, 2006

(コメント) 1200万人の非合法移民(そして非合法移民をかくまったり助けたりする者)を重罪人にするという移民法改正が上院を通過したことに反対して,デンバー,ロサンジェルス,フェニックスなど全米数十の町で,週末,抗議デモが行われました.そのような移民規制を行えば,移民に対する激しい差別や攻撃を誘発するでしょう.これまでの移民と同じように,ラティーノたちも英語を学び,人種間の結婚を通じて,アメリカ人に融合している,とLINDA CHAVEZは考えます.

George F. Willは,処罰だけでなく国境のフェンスを求めます.「アメリカは第三世界と2000マイルの国境線で接している唯一の先進国だ.」 このことを東西ドイツ境界線と比較します.「壁,有刺鉄線,地雷,マシンガンを持った兵隊が監視塔に登り,獰猛で巨大な犬が出番を待っていた.」 もちろん,アメリカはもっとハイテク装備を利用できる.そして本国に帰還する移民たちにバスの隊列を準備してやればいい!

法律の改正によって最も影響を受ける人々が発言できなかったことから,David S. Broderは詳しい調査結果を紹介しています.アメリカでは,移民の流入が賃金水準を引き下げている,という合意が形成されつつあるようです.共和党の提案は非合法移民への処罰を重視し,民主党の提案は再規制と市民権を付与する条件を示します.結局,1986年の移民法改正がそうであったように,移民の阻止には成功せず,市民権の付与だけが続く,と予想されます.

移民の何が問題なのでしょうか? 移民たちが政治的な論争になると,いつも反動が強まります.移民を排斥する法案が通過するのです.フランスでも,ドイツでも,カリフォルニアでも.

Robert Kuttnerは,未熟練労働者の賃金を下げる,と移民たちを非難するのが専門家の常だが,賃金を低下させているのはアメリカの経済政策である,と主張します.もし労働法が厳しく適用されれば移民労働者が賃金を大きく下げることもないでしょう.また労働需要は固定されているのではなく,経済活動の水準で変化します.弾力的な労働力の供給は投資や成長を刺激し,雇用も増やすはずです.むしろ,アメリカの労働者の生活水準を悪化したのは,移民が増えたからではなく,中産階級の支出に大きな割合を占める医療費や教育費などが一般物価よりも急速に上昇したからです.生産性上昇の利益を富裕層に与えてしまった政府を責めるべきだ,と.

Joe R. Hicksは,移民法改正を人種差別と批判し,移民の人権だけを主張するのは間違っている,と考えます.移民規制に反対する者は,完全な自由化がアメリカの誰をも幸せにしない,ということを理解しません.これは政治的権利の問題ではなく,アメリカは国民の福祉を改善するという点から考えて,移民をすべて受け入れてはいけない,という経済問題なのだ,と.

JOHN TIERNEYは,ブッシュ大統領を,潮流に命令したCanute王にたとえます.移民を阻止するほうが,麻薬を阻止するよりも難しい,と言います.なぜなら,麻薬を支持する政治家はいないからです.むしろ,移民を非合法化して取り締まりに苦しむより,彼らを役立つ形で合法化するほうが賢明である,と.

Peter Schragが見事に描いたように,アメリカ政府はカリフォルニアから学ぶべきでしょう.右派は,移民を排斥することが有権者のますます大きな割合を占める彼らの反発を強めたことを.左派は,移民たちが賃金の低下や公共サービスの悪化につながったことを.それは,たとえラティーノが学校や病院の多くを利用しても,裕福で高齢化した住民の多くはラティーノのために納税することを嫌ったからです.住民の直接投票による財政悪化が進み,公共サービスも放棄されました.しかし今や,ラティーノの増加も新しい多民族社会・ハイテク経済の繁栄の一部として受け入れられています.

LAT April 2, 2006

Sonia Nazario

The love left behind

(コメント) 移民たちが家族を置いてアメリカに来る理由を紹介する記事です.

「月に二度,部屋を掃除してくれるMaria del Carmen Ferrezと話したときだった.もっと子供を作らないの? と私は尋ねた.カルメンはいつもおしゃべりだが,急に静かになった.そして泣き出した.彼女はグアテマラに残してきた4人の子供たちについて話した.彼女の夫が出て行き,カルメンは子供たちに11度か2度食べさせることしかできなくなった.子供たちはもっと食べ物をほしがったが,彼女には何も無かった.だから彼女はグアテマラの祖母に子供たちを預けて,エル・ノルテで働くことにした.もう12年も子供たちに会ってない.最後に見たとき,末っ子は1歳だった.」

移民をめぐるコスト・ベネフィットを指摘してから,共和党案(処罰)も民主党案(アムネスティ)も,その解決策にはならない,と否定します.「もしラテンアメリカからアメリカへ移民たちを運ぶルートを旅すれば,移民たちが来る道は一方通行でしかない,と分かるだろう.彼らの国は余りにも貧しいから.これほど絶望的な人々は,たとえ壁や規制があっても,それを迂回して入ってくる.」

「私がメキシコ南部の移民避難所で会った女性は,ホンジュラスから来ていた.ホンジュラスでは人口の42%が失業もしくは半失業であり,新聞の求人欄を見ても28歳以上の女性は応募できない.彼女はシングルで,3人の子供を置いて国を出た.一日にパンのかけらをいくつか与えることしかできなかったからだ.1歳の子には母乳とパンを与えたが,空腹で泣く子供にトルティーヤの素を水で溶いて与えたりした.メキシコ北部に向かう貨車に跳び乗ろうとして,彼女は両足を失った.数ヵ月後,彼女は打ちひしがれてホンジュラスに帰るだろう.」

多くの母親,多くの若者に筆者は会います.彼らはアメリカに行くことを諦めません.しかし,とNazarioは書きます.彼らもできることなら自国にとどまり,家族と一緒に暮らしたいのだ.彼らは国境を越えることがどれほど危険であるかを知っている,と.

「グリーン・カードやフェンスの高さを議論するより,新しい外交政策を示すべきだ.アメリカに非合法移民の3分の2以上を供給しているメキシコや中米諸国の状態を改善するため,資源や外交努力を費やすべきなのだ.移民送出国で雇用を増やすような通商的な優遇策を与えられるだろう.もっと多くの援助を投資できるだろう.」 「移民たちは言う.もし子供に食べさせる物,子供に着せてやれる服があれば,もし子供たちを学校に通わせ,あるいは,せめてその望みを持てるだけでも,彼らを置いて,その家や子供たちとの暮らしを捨てて,アメリカに向かうことなど無かっただろう,と.」

America's choice on illegal immigration FT April 3 2006

Kevin Hassett In U.S. Immigration Debate, Specter Has It Right April 3 (Bloomberg)

Scot Lehigh A sensible look at immigration BG April 4, 2006

DAVID BROOKS Scuttling Toward Sanity NYT April 6, 2006

US parties agree immigration deal BBC NEWS: 2006/04/06 21:29:24 GMT

Fareed Zakaria To Become an American WP Tuesday, April 4, 2006

Ruth Marcus Immigration's Scrambled Politics WP Tuesday, April 4, 2006

Erin Aubry Kaplan Are we here yet? LAT April 5, 2006

(コメント) FTなど,多くの経済紙は主張します.高齢化する国は,移民労働者を歓迎できるはずです.それと並行して,労働者たちに再訓練や移動を促す支援策を取るなら.

Kevin Hassettの論説も,いかにも経済学風です.もし今非合法移民を合法化すれば,それは将来も繰り返されるから,今すぐに非合法で入国するものを増やすだろう,と.移民政策にも「時間整合性」を求めます.今すぐに非合法移民を国外退去させ,国境に壁を築いて,二度と移民は入れないと約束するか,あるいは,彼らを合法化する手順と帰国したい者が帰国する手段を用意するしかありません.

移民排斥が本当の目的になれば,犯罪,貧困,疫病,などが争点として強調され,選別政策が重視されます.自らグリーン・カードを持つFareed Zakariaは,欧米の移民政策を比較します.1990年代に,ハイテク新興企業で繁栄するアメリカ経済をまねて,ドイツもインドのエンジニアなどを大規模に引き寄せようとしたそうです.政府はドイツ版グリーン・カードを宣伝しました.しかし,それはアメリカのように5年で自動的に市民権を与える仕組みではなかったのです.ドイツ社会に入ることも許さず,言葉を学び,高度な技術を生かし,必要なくなれば帰国するはずだ,と期待したわけです.

ヨーロッパには,アメリカで議論されているさまざまな規制手段の,すべてが既に溢れています.ゲストワーカー,雇用主の処罰,送出国への制裁,強制送還,・・・ その成果はパリの暴動でした.9・11の後,なぜアメリカでは,誰も映画館や野球場を,爆弾を詰めたバックパックで吹き飛ばさなかったのか? それは多民族化し,自由な文化を尊重するアメリカ社会では,ヨーロッパに広まっているような過激な破壊組織が支持される土壌は無いからです.それにもかかわらず,アメリカ議会はヨーロッパの隔離政策の結末を学びたいわけか!?

Erin Aubry Kaplanは,アフリカ系アメリカ人の200年に及ぶ闘争と,ラティーノの新しい声を比較しています.

FT April 4 2006

Disputed fruit of unskilled immigration

By Martin Wolf

NYT April 4, 2006

The Wall That Keeps Illegal Workers In

By DOUGLAS S. MASSEY

(コメント) Martin Wolfの意見では,移民が国民の一人当たり所得を増やすかどうか,が重要です.移民は阻止できます.雇用主への罰金を強化すれば需要は失われ,移民たちも来なくなるからです.そうする価値があるか? 立場によって利益・不利益は異なります.しかし,世界的に貿易自由化が進み,貿易財の輸入が増える一方で,非貿易財では移民労働者が利用されることで,国民一人当たりの所得は増えるのです.もし非貿易財で所得が減っていくなら,不平等が強まり,民主主義を脅かします.

Douglas S. Masseyの視点は異なります.アメリカ政府は,移民の流入を阻止するために,国境を軍事要塞化してきました.国民はますます多くの財政負担を強いられ,そのたびに移民たちは帰国を先延ばしにし,非合法に入国するコストが増えた分だけアメリカ国内で長い潜伏と劣悪な労働条件に従います.移民問題がますます眼に見えるようになり,財政的な負担をともなうようになって,しかも減るわけではないのです.世界経済の統合過程で移民が増えることを正しく政策として取り込めないなら,この悪循環は終わらない,とMasseyは警告します.

NYT April 5, 2006

High Fence and Big Gate

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Wednesday, April 5, 2006; A23

The Immigration Impasse: A Way Out

By Robert J. Samuelson

(コメント) アメリカは巨大な磁石であるから,それに見合った高いフェンスと,本格的なゲートを築くことが望ましい,とTHOMAS L. FRIEDMANは考えます.彼はグローバリストであり,フラット・ワールドの提唱者,フラッター(お世辞ではなく? 平坦派)の教祖です.鉄の時代,工業の時代,情報の時代を経て,今や,タレント(高度な人材)の時代だ,とFRIEDMANは強調します.

フラット・ワールドの原則,その一.この世界では,革新する力がすべてだ.革新的なアイデアと起業家を集めることだけが世界を制覇する道だ.アメリカの移民文化が最高の優位を発揮する.

フラット・ワールドの原則,その二.移民は社会を弾力的で,競争的にする.自国を捨てることは,高度技術者であろうと,未熟練の肉体労働者であろうと,成功への最大の動機となる.彼らはがむしゃらに働くだろう.

つまり,FRIEDMANは移民を大いに奨励しているわけです.しかし,もし彼らを歓迎しようと思えば,同時に,より厳格で安心できる,巨大なフェンスも必要である,と主張します.もし移民問題が安全保障や情緒的な人種差別に結びついてしまえば,移民を受け入れる政治的な条件が損なわれるでしょう.IDカードを導入して,バーチャル・フェンスを築くことです.それによって反移民感情を煽るデマゴーグを政治から排除できます.

他方,国際ケインズ主義者?のRobert J. Samuelsonは,アメリカ型福祉国家に非合法移民を正式に吸収し,それゆえ,ケインズ主義の基盤を強化する主張につなぎます.@雇用主への罰則を強化せよ.A非合法移民に市民権を与えよ.Bゲストワーカー案は放棄せよ.彼がもう一つ書きたかったのは,国境を厳しく管理せよ,ということです.FRIEDMAN風に言えば,国内の社会政策・福祉制度が整備されて,初めて移民問題も解決できる,と.


Frederick W Stakelbeck Jr Schumer-Graham 'nuke' holstered Asia Times Online, Mar 31, 2006

EDUARDO PORTER U.S. and Europe Say Tariff by China Is Discriminatory NYT March 31, 2006

Henry C K Liu THE WAGES OF NEO-LIBERALISM PART 2: The US-China trade imbalance Asia Times Online, Apr 1, 2006

DAVID BARBOZA Labor Shortage in China May Lead to Trade Shift NYT April 3, 2006

Ralph Jennings Beijing fair a snapshot of textile trade Asia Times Online, Apr 4, 2006

(コメント) 貿易不均衡と貿易摩擦,保護主義と通貨摩擦,は中国に対する世界的な懸念です.人民元の切り上げが無ければ,27.5%の関税を課す,という法案を,昨年,示した二人のアメリカ議員Charles Schumer and Lindsey Grahamが中国を訪問しました.また,Henry C K Liuの興味深い,しかし長大な論説を,ここに紹介する余力はありませんが,参考までに.

FT April 3 2006

Chinese manufacturing myths

By Guy de Jonquieres

FT April 6 2006

Beware the spikes of China’s success

By Richard Florida

(コメント) 「不公正な中国の貿易がアメリカの製造業を破滅させ,雇用を奪っている.」 アメリカ人の多くは強い不満をもっています.そこでGuy de Jonquieresは,こうした主張が間違っていることを立派に示します.

米中二国間で不均衡を唱えるのは間違いです.アメリカの赤字が拡大してきたのであって,中国が占める割合は増えていません.つまり不均衡の原因はアメリカの需要超過です.とはいえ,アメリカ製造業は,日本などと違って,健全で,今も世界の主要工業国です.確かに,その多くはアメリカ以外の外国企業に所有されるようになりました.しかし,旧工業が衰退しても,新興産業は活発に拡大しているのです.

Jonquieresは,中国に雇用を奪われた,という主張も退けます.アメリカの製造業は長期的な雇用の減少傾向を示しており,その主な理由は生産性の上昇です.さらに,たとえ主要企業が金融や管理部門をアメリカに残しても,製造部門を海外に移転してしまった結果,国内の製造業が減少したと統計上は示されています.何よりも,中国の製造業の強さは誇張されています.中国は製造業大国ではなく,巨大な組み立て加工作業所に過ぎません.

人民元の切上げは,貿易不均衡を解消するよりも,もっとコストの安い内陸部や他国からの輸入を増やすでしょう.あるいは,中国の低賃金熟練労働に依存する部門が抑制され,より高度な部門への移行が促されるでしょう.外国企業に国内生産シェアを奪われ,中国からの輸入が増えたことを嘆く人は,もっとアメリカ企業を責めるべきなのです.

Richard Floridaは,フラット・ワールドは,同時に「スパイキー(とんがった・釘のような)」ワールドだ,と考えます.革新,人材,富が,ますます数箇所に集まって,世界のとんがった頂点を形作るのです.それゆえ,中国を全体としてみるのは間違いを招くでしょう.中国にも,確実に,世界のスパイキーな頂点が現れています.たとえ貧富の較差や国内政治の混乱を招くとしても,それはグローバリゼーションの一部として,逃れられない,というわけです.


A warlord in the dock FT April 1 2006

LYDIA POLGREEN A Master Plan Drawn in Blood NYT April 2, 2006

Terrorists or Victims? NYT April 3, 2006

War crimes: Ending African impunity The Guardian Tuesday April 4, 2006

Trying a tyrant LAT April 2, 2006

A beckoning in West Africa BG April 6, 2006

(コメント) ナイジェリアに亡命中の,元リベリア大統領,チャールズ・テイラーをめぐる論説です.


NYT April 2, 2006

The Endgame in Iraq

WP Wednesday, April 5, 2006; A23

Let the Iraqis Bargain

By David Ignatius

(コメント) 私は,アメリカがフセイン政権と軍隊を倒した後,速やかに,国連指導の多国籍軍に治安維持を委ね,イラクの主要勢力を集めた戦後復興会議において,国際社会の援助や復興計画を協力して推進する仕組みを作っていたら,今頃はどうなっていただろうか,と空想しました.残念なことに,アメリカのブッシュ政権は勝利とイラク復興事業を独り占めにしよう,と考えました.現状は,NYTによって,顕著に悲観的に示されています.

他方,アメリカ政府と国民は,イラク各派と地元指導者たちの不手際にますます苛立ちを募らせています.民主的な統一政府はいつになったらできるのか? いつまでアメリカが支えるべきなのか? アメリカの駐イラク大使Zalmay Khalilzadは憤慨します.そして,ブッシュ政権にとってもイラク撤退が,狡猾な?現地政治家との分離・独立条件として含められつつあるようです.介入失敗を認めたくなければ,プラグを抜いて,本当に内戦を開始させるかもしれません.


NYT April 2, 2006

Invest Globally, Stagnate Locally

By DANIEL GROSS

Swedes lead Europe on reform

By Wolfgang Munchau

FT April 5 2006

Toxic corporate nationalism

By John Plender

April 6 (Bloomberg)

Europe Is Threatened by Politicians

John M. Berry

(コメント) グローバリゼーションをめぐる不安は次々に実現しています.たとえばDANIEL GROSSが指摘するように,企業の業績は良くても,景気は悪く,国民所得は増加しません.その理由は二つです.1.大企業はますます国境の外に投資することで国内の組織に依拠する労働者から交渉の優位を奪った.その結果,企業業績に反して,労働者への分配は減っている.2.大企業の拡大と利益の源泉はますます国外の市場に移っている.その結果,大企業の行動はますますコスモポリタンとなり,一国の景況を無視して価格決定や交渉を行うようになった.

もちろん,こうした大企業の行動に対して,いつまで労働者や政府が黙っているだろうか,と指摘されます.つまり,政治的なナショナリズムと規制・介入が再現するでしょう.John PlenderJohn M. Berryの論説にこれに関わります.ますます世界中で,国境を超える企業の買収・合併を妨げ,EU統合を悲観し,移民流入に対する国民の不安を煽ることで,政治家たちは支持率を稼ぐようになっています.

他方,スウェーデンやオランダは,グローバリゼーションにおいても,国民政府の異なったアプローチを示しているかもしれません.Wolfgang Munchauの論説は,スウェーデンを賞賛し過ぎかもしれませんが,一つの改革の理想を語っています.現在,どの国でも,政治家や経済学者が繰り返し主張して国民に嫌われている《改革》や《弾力性》とは,労働者を解雇し,社会福祉を解体することです.他方,スウェーデンは労働者の配置や能力を《弾力化》するために,教育制度や福祉制度を《改革》しました.何よりも,スウェーデンは《改革》の目標や筋道を国民に理解してもらい,その「不安」を取り除きました.多くの国が《改革》と《生産性上昇》を掲げながら,《不況》を招くのは,「不安」を強めたからです.同じ《改革》でも,政府や政治文化が異なれば,その過程や結果は異なるのです.


FT April 4 2006

Wobbly rung on Shanghai property ladder

By Geoff Dyer

FT April 6 2006

Tackling America's growing inequality

(コメント) 一方には,中国・上海の不動産・住宅市場と都市中産階級の直接行動主義.他方では,ブッシュ政権に代わって,アメリカの不平等を緩和する政策論争を掲げたthe Brookings Institution the Hamilton Project

IHT WEDNESDAY, APRIL 5, 2006

World Bank should link loans to press freedom

David Hoffman

IHT THURSDAY, APRIL 6, 2006

Don't trade with this dictator

Farid Tukhbatullin

(コメント) Wolfowitzの世界銀行は,ますます明確に,融資の条件として自由な報道活動を求めていくようです.自由な報道があれば,政府の腐敗をもっとも効果的に減らすことができるからです.あるいはまた,ベラルーシのLukashenkoのような独裁者との貿易を,EUは人権を理由に制限するでしょう.

FT April 5 2006

Investors deaf to Latin American populists

By Richard Lapper

(コメント) 投資銀行は潤沢な資金を持ち,高収益の投資先を探しています.たとえ反米主義やポピュリズム,左派政党が政治を支配しているとしても,石油資源があり,あるいは,通貨や資本市場の価値が上昇すると期待できれば,様子を見て投資をためらうより,我先にと競い合って投資しています.

その背景として,アジアの繁栄がラテンアメリカに利益をもたらしています.中国は潤沢な外貨準備でアメリカの消費と低金利を支えています.そして中国における生産増大は,世界の一次産品(資源・農産物)価格を上昇させています.アメリカが成長すればラテンアメリカは輸出を増やし,また移民たちの稼ぎや送金も増えます.それゆえ対外債務が減り,借り入れコストも減りました.かつてのポピュリズムと違って,現代の左派政権は,社会支出を増やしながら,同時に,財政均衡を重視できます.

しかし,Richard Lapperは慎重です.ラテンアメリカ政府の多くが活況に酔って,改革や効率性を重視しなくなる恐れもある,と.特に,偏った輸出構造に依拠すれば,外的なショックによって簡単に不況を招きます.政府は経済構造を長期的に多様化するべきなのです.そのための社会基盤や投資促進が不十分だ,と考えます.むしろ,投資よりも消費,貯蓄よりも借金に頼り,不況になれば,次の選挙に向けて財政均衡を無視するにいたります.

今はまだ,気が付かないだけです.中国やインドの台頭は,ラテンアメリカに無限の市場をもたらすだけではなく,激しい国際景気変動ももたらすでしょう.


The Guardian Wednesday April 5, 2006

Marx's reserve army of labour is about to go global

Andrew Glyn

The Huffington Post, 6 April 2006

Globalization’s New Left

Nathan Gardels

(コメント) グローバリゼーションとマルクスについて,私たちはどう考えるべきでしょうか? たとえばAndrew Glynが指摘する「産業予備軍」の概念です.もし産業予備軍が,生産性上昇や零細企業の倒産だけでなく,中国やインドからも追加されるなら,先進諸国における分配率が労働者に悪化し続けます.安価な輸入財の消費も,実質賃金をそれほど引き上げないでしょう.それは「産業予備軍」が今でも機能していることを示しています.それゆえ,経済活動は富裕層の奢侈的な消費に依存しなければなりません.あるいは,労働者が政治闘争に勝って,累進課税を強化するか.

もし左派が生き残っているとしたら,私は誰よりもMike Davis がそうであると思います.彼の新著 "Planet of Slums" (Verso Press, 2006) についてNathan Gardelsが紹介しています.世界資本主義が強いた「構造調整」と,地球環境破壊のツケを支払わされる,世界の貧困層に対する包括的視点を,Davisなら一つの概念としてつかみ出せるかもしれません.

イスラエルもアメリカも忘れているのではないか? ガザも,バクダッドも,世界に広がるスラムの一角でしかない.自爆テロを生み出すのはスラムであり,それは世界中に広がっている,と.世界は,単に平坦でも,スパイキーでもなく,広がるスラムの中に浸っています.もしグローバリゼーションが生き残るとしたら,それは貧困層の解消を願うニュー・レフトが勝つからです.

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The Economist, March 18th 2005

South Korea: Jobs tomorrow

The Economist, March 25th 2005

European economies: Europe inside out

Singapore: Self-replicating

French economic nationalism: Colbert was here

(コメント) 中国の成長に支えられて危機から這い出した,という説明は,日本よりも韓国で顕著に当てはまります.韓国は日本よりも経済規模が小さく,技術水準が低く,貿易額は圧倒的に中国へと向かっているからです.アメリカとのFTAは,こうした状況を打開したい,という韓国政府の願いを反映しています.しかし,国内では零細企業が自由化に反対し,また北朝鮮政策では中国寄りの姿勢が変わることはないでしょう.

シンガポールに関する記述には驚嘆します.企業国家シンガポールは,国土の制約をインドネシアから島を借りて解消し,世界中にシンガポール型開発のコンサルタントを派遣します.そして,開発利益にあらかじめ国家が投資しておくわけです.なんとダイナミックな国家企業!

他方,フランスやヨーロッパを席巻する社会不安は,保護貿易でおなじみのロジックです.既得権を守るために過激な政治行動を取る政治集団と,広く分散した利益に対して行動を起こそうとしない多数派.改革は余りにも遅く,妥協を重ねるために,その利益を実現するより早く,反感を強めてしまいます.政治家も企業も,グローバリストよりナショナリストが優勢です.


The Economist, March 18th 2005

Currencies: The yen also rises

The Economist, March 25th 2005

Central banks: Running on M3

The rupee: Fear of freedom

(コメント) なぜ景気が回復する中でも円安が続いたのか? と言うのは間違いでした.円安が続くから景気を回復できたのです.オープン・マクロ経済学が示すように,金融緩和は為替レートを減価させることで景気を刺激する効果をようやく発揮した,と.では,量的緩和後の円は増価するのか? 世界の資本市場に重大な影響が出るのか? ・・・もちろん.

バーナンキのFRBは貨幣供給量が無意味な統計であると発表することもやめてしまいました.他方,アジア通貨危機を回避したことで賞賛されたインドの金融政策は,再び自由化に向けて動き始めています.どちらについても完全な答えは無く,慎重な,現実的模索が続くでしょう.


How to make China even richer

Balancing act: A survey of China

(コメント) 中国についての特集に期待しましたが,何か予想外の興味深い指摘はどこにも見当たらない,という印象です.すなわち,中国の将来は,@リベラルな国際国家,Aナショナリストの反動,B社会・政治的危機,のいずれでもありうる.

その試金石は,2008年の北京オリンピックと,成長維持のための条件整備,特に農村改革です.民主化を先送りにすることは中産階級もThe Economistも承知しています.日本と関わりの深い記述を見ても,当然,靖国問題や領土問題はありますが,日中両政府がそれらを経済交流と切り離すことに同意しています.それでも過激派が領有権争いに介入し,護衛船が拿捕や衝突,死者を出した場合,一気に反日感情が政治を転換させるかもしれません. ・・・まさに,そうした懸念を両政府が共有し,回避に努めているわけです.

農村改革は,The Economistに言わせれば,農民の土地所有を認めることに集約されます.貧しい農民が土地を売って都市に移住し,あるいは土地を元に融資を受けるなら,中国の成長を刺激するでしょう.中国政府は成長を維持する条件を整備する中で,農村改革も民主化も漸進的に実行し,成果を挙げることができるわけです.また,それが遅れるほど,経済危機によって地方政府だけでなく中央政府にまで腐敗追求や左派の復権が大衆行動として押し寄せる危険を冒すわけです. ・・・中国の指導者たちは,もちろん,そのことを良く知っています.

北京オリンピックはかつてない国際ジャーナリズムと世界主要メディアの中国流入をともないます.もし成功すれば,それはヨーロッパの産業革命と現代の環境保護運動を一気に実現する舞台となるでしょう.もし失敗すれば・・・? 国際社会は成功を強く願い,協力を惜しまないはずです.そして日本政府はいつまで遅れるのか?