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IPEの種 4/10/2006
グローバリゼーションの渦中にある政治家たちは,あるときはナショナリズム,人種・民族・歴史の情念,紛争勃発への不安を動員し,またあるときは貿易や国際投資の甚大な利益,技術進歩の素晴らしさ,未来の理想世界を動員します.右翼政治家と連携する安倍・麻生氏,そして国際派大企業と連携する谷垣・福田氏は,国民をどのように説得するでしょうか?
自民党総裁,そして首相となった安倍生氏は主張します.憲法を改正し,日米同盟を軸にアジアの安全保障を積極的に指導しなければならない.北朝鮮や中国の軍事力を抑止できるだけの軍備増強,自国産業の競争力改善を優先するべきだ.何よりも「愛国心」によって,教育システムやメディア産業を統制し,国内社会秩序を固めよう.・・・しかし,アメリカ政府は急速に中国寄りの外交を展開し,南北朝鮮の再統合によってアジアの秩序再編を考え始めます.
安倍生氏が健康問題を理由に引退した後,首相となった谷福氏は,中国の台頭に先んじて日本企業がアジアと世界の市場を席巻できる,と訴えます.アメリカと中国のバランスを重視し,国際秩序の平和的な再編成を指導するべきだ.靖国神社や天皇の皇位継承問題で内外の分裂を煽るのではなく,積極的に国際的な勢力の宥和を図ろう.また,イラク派兵や北朝鮮の拉致問題だけに外交を限定せず,貿易自由化や通貨協定,直接投資の急拡大で,アジアを越えた協力関係を築くべきだ.・・・そんなとき,中国経済に最初の21世紀型恐慌が起こります.
アメリカの移民論争とフランスの移民暴動・学生暴動は,ともに「インサイダー」と「アウトサイダー」の闘争と見られました.調整や補償,権利の政治的メカニズムは,その実現条件を急速に変化させるグローバリゼーションの過程で,社会的な制約や負担,抜け穴となります.既得権を守るインサイダーと新興アウトサイダーとが衝突を繰り返し,国内政治勢力や制度の再編,政党システムの機能麻痺,ポピュリスト的独裁,などを生じます.
EUの構造改革は,社会・政治統合の理想を掲げるよりも,ますます競争と敵愾心で動きつつあります.労働市場改革や社会福祉改革は市民たちを苦しめ,エネルギー政策,企業買収,外交政策で各国政府は互いに対立しています.政治家たちが罵声を浴びせ合うのも,不安や恐怖を煽ることで支持を固める方が,複雑な将来の計画に参加を促すよりも簡単で,確実だと思うからでしょう.
中国の農村貧困,土地争議,米中間の貿易・通貨摩擦,などを解消することが容易でないとしても,グローバリゼーションはその解決の条件となるでしょう.日中関係の修復と並んで,中国は北朝鮮を重視します.北朝鮮が核兵器を持つことで東アジア外交を複雑にするのを嫌いながらも,同時に,国境を接した隣国に深刻な政治不安が生じることを何としても避けたいと願います.・・・アメリカにとってメキシコ危機がそうであるように.朝鮮半島の再統合(核兵器管理)は,将来の国際秩序に予定された一部です.
「あるものは腰痛になり,あるものは難聴に悩まされ,あるものは足を鉄板の下敷きにしてつぶし,あるものは足場から転落して死亡した.そんな造船労働者たちの犠牲のうえに,巨大なクレーンがたち並び,ドックがめまいのするほど掘りこまれ,バケ物のように大きくなった船が海に出ていった.」(鎌田慧『ドキュメント造船不況』)
The EconomistやFinancial Timesばかり読んでいると,世界は市場の流れに抗って変えられるものではない,という考えに縛られます.しかし,市場の示す激しい変動や気まぐれに翻弄される人々が,それでも毎日,荷を運び,クレーンを操り,食べるものや着るものを買い求めているから,市場は存在するのです.銀行家や政治家のおかげではありません.グローバリゼーションの,誰がスチュアードstewardで,誰がマスターmasterか?
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