IPEの果樹園2006

今週のReview

3/27-4/1

IPEの種

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******************************

IPE方法論 :《ホッブズ的契約》

安全保障 :《ミニNATO》日本の変身イラク開戦3周年記念

貿易・投資 :経済ナショナリズムアウトソーシング

通貨・金融 :外国為替市場と金融センター

世界統治 :移民法改正《エイリアンズ》国連改革

******************************

ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


Asia Times Online, Mar 16, 2006

Who's afraid of the new Japan?

By Malcolm Cook and Huw McKay

(コメント) 最近,日本は変わった,とMalcolm Cook and Huw McKayは指摘します.その背景や中身を要約した論説です.

かつて,「壊れやすい経済,致命傷を抱える金融部門,ヤミ将軍に操られた弱体な政治システム,屈辱的な対外政策,すなわち,役立たずのばら撒き援助と絶対平和を唱えて孤立する外交.日本は重要な国だが,その力を行使する意志を持たない.」と言われました.

わずか10年前には思いもつかないようなことが起きています.株式市場は41%も上昇し,農産物を輸出するメキシコとの自由貿易協定を締結して,その他の国ともFTAを準備し,国連の分担金を削ると脅し,中国を「深刻な脅威」と名指しし,台湾に独自のビザを発行し,国連の支持もないのに,自衛隊をイラクに派遣しています.

Cook and McKayは,小泉・前原の現代が宮沢・村山の時代からいかに遠く隔たってしまったか,と述べています.なぜか?

一方では,日本の政治システムに世代交代や都市化が起きたからです.第二次世界大戦の経験から,東アジアにおけるイメージの改善を重視する外交姿勢は,海外の軍事行動や集団的安全保障に参加せず,国連や開発援助を重視し,中国に対する懐柔策に徹してきました.こうした前提が,新しく都市の戦後世代による政治的支持を得た小泉政権や,その手法を真似る前原・民主党によって,はっきりと否定されたのです.財政難を理由に国連への財政移転や開発援助を抑制するとともに,軍備拡張は例外とし,迎撃ミサイル・システムをアメリカと共同開発し,スパイ衛星を独自に打ち上げ,国外でもアメリカ軍を積極的に支援して,日本の武器輸出規制も見直し論が起きています.

他方,日本経済の復活も重要です.銀行は不良債権を減らし,デフレから脱却し,企業のバランス・シートも回復して,新規投資に意欲的です.中国向け輸出から個人消費による需要が,景気の拡大を維持しそうです.日銀による量的緩和策の解除は,海外投資から国内投資への転換も加わって,次第に円高をもたらすでしょう.輸入と海外投資が,アジアにおける日本の存在感を増します.そして,日本はアメリカの過剰消費を支えるだけの役割を果たさなくなるのです.

要するに,どういうことか? Cook and McKayは,日本の転換をもたらした要因が,循環的ではなく構造的である,と考えます.それゆえ,日本の新しい方針は続くでしょう.防衛庁長官(そして,すぐに防衛大臣)はワシントン,キャンベラ,シンガポール,などを活発に訪れて,武器を輸出し,北朝鮮や中国に対する強硬姿勢を示すはずです.日米同盟は強化され,日本はより明確に国益を主張して,同盟を拡大しようとするでしょう.そして国連は軽視され,中国は封じ込めを懸念するでしょう.

北東アジアで,世界最大のパワー・ゲームが展開される.日本はその傍観者ではなく,主要参加者である,と.

Asia Times Online, Mar 18, 2006

A 'little NATO' against China

By Purnendra Jain

The Japan Times: March 23, 2006

Trilateral breakthrough Down Under

(コメント) 米豪日の三極安全保障構想が,実際に,動き始めています.それは,中国を封じ込めるための「冷戦」を準備するだけではないか,という批判があります.ライス国務長官はこれに対して,「中国はマイナスの力にもなりうる.」と述べ,従って「われわれこの(アジア・太平洋)地域に属するすべての者,特に長期の同盟関係を維持している米豪日の三カ国は,中国の台頭

をプラスの力とするような,国際政治の条件を創り出す責任と義務があるのだ.」と.リアリスト・ライスの至言です.

米豪日三極の安全保障構想は,APECやASEANの安全保障機能が不十分であることを契機に20017月から提起され,北朝鮮の非核化を求める6カ国協議も進まない中で重視されるようになりました.三カ国はともに,北朝鮮の核兵器開発,台湾海峡,テロに関心を共有しており,豪日の保守政権が構想を支持しました.その要点は,アメリカから見て,米豪,米日の二国間関係を,地域共同安全保障に拡大することでした.

中国はこれに強く反発し,アジア太平洋地域における「ミニNATO」と非難する論説もありました.Purnendra Jainの「ミニNATO」評価も優れています.アメリカとオーストラリア,日本とは,対中認識が違っています.すなわち,資源輸出国として,オーストラリアは中国の発展に多大の経済的な利益を見ています.また日本も,中国との貿易や投資が増え続けている以上,対中経済摩擦の回避を願うでしょうし,封じ込め政策を公式に支持することは無いのです.

これは「ミニNATO」ではなく,透明なルールに基づく地域安全保障であり,中国もマイナス面だけでなく,もっとオープンに議論するべきである.中国を何らかの形で話し合いに参加させることがもっとも望ましい,とPurnendra Jainは主張しています.

The Japan Timesも同様の姿勢ですが,叙述が浅いですね.むしろ昨夜のニュースで,JICAの緒方貞子総裁が中国の環境・エネルギー問題解決を支援することに共通の利益を強調したことの方が印象的でした.


BOB HERBERT Stop Bush's War NYT March 16, 2006

William Pfaff If Bush ruled the world IHT SUNDAY, MARCH 19, 2006

Shock, awe and humility LAT March 19, 2006

Anatol Lieven Why are we trying to reheat the Cold War? LAT March 19, 2006

David Unger The Stuff That Happened NYT March 19, 2006

PAUL D. EATON A Top-Down Review for the Pentagon NYT March 19, 2006

George F. Will Bleakness In Baghdad WP Sunday, March 19, 2006; B07

Kanan Makiya Iraq Needed a Benign DictatorInterview WP Sunday, March 19, 2006; B05

(コメント) イラク開戦3周年に当って,多くの論説がブッシュ政権を批判しました.

BOB HERBERTは,「戦争によるイラク人の死者は,開戦以来,おそらく6桁におよぶ(10万人を超えた).それは歴史上のすべてのテロによる死者の数よりずっと多い.またイラクに対する制裁は,それ以上に多くの,ほとんど子供たちを殺しただろう.」 というForeign Affairsの推定を引用します.「サドル・シティでは,4人のテロ容疑者が抹殺された.政府など消え去った.サッカー・ジャージを着た10代の若者たちが,マシンガンを持って通りを占拠する.」 というThe Timesの記事も.

ボストンのthe John F. Kennedy Presidential Library and Museumで集会があり,政府はベトナム戦争の教訓を学んでいない,と人々は議論しました.・・・民主主義を他国に押し付けることは非常に難しい.政治家たちは繰り返し新種の戦争を賛美するが,すべての戦争は非人道的で,野蛮で,無感覚なものであり,堕落に満ちている.いかに多くの健全な男女がイラクに送られて,精神を麻痺させ,あるいは手足や目を失い,心を失って帰国したか.あるいは生きて帰国できなかった数千の死者.・・・

『ベスト・アンド・ブライテスト』の著者David Halberstamは書いたそうです.ジョンソン大統領とその取り巻き連中は,強く,タフな男であろうとした.しかし,強さやタフさ,そして勇敢さは,小国を相手に,清潔で防腐処理された戦争を行うことで示される外面でしかない.むしろ内面の,より孤独な強さ,勇敢さは,国民に真実を告げ,国内政治におけるリスクを冒すことであった,と.

William Pfaffは,ブッシュ政権が議会に対して行った防衛計画の報告を酷評します.その最大の特徴は「知性の貧困」である,と.そこで説明された唯一の戦略とは,ブッシュ政権が世界を支配したがっている,というだけです.報告する相手である議会に対する侮蔑と,ネオ・キッシンジャー型の地政学が,ネオコンの思想に加わりました.「アメリカの目指すものとは,世界から独裁者を追放することである.」 ああ,勝手にすれば・・・

外国の読者は,まじめに受け取らないか,あるいはイランのように,イラクでやったことを自分たちの国で再現する意志を読むでしょう.報告は,先制攻撃を説き,冷戦の始まりを警告します.このときライスはインドネシアに,ブッシュはインドに赴いて,その戦略を説明していたわけです.3年前,ライスは勢力均衡を批判し,《グレイト・ウォー》を回避せよ,と説いていたはずですが.・・・アメリカはアジアの勢力均衡を利用することなら(安く)楽しめる,というわけです.中国の胡錦涛主席はワシントンを訪問して,この戦略を承認するでしょうか? Anatol Lievenは,アメリカの対ロシア政策にも,チェイニーのような冷戦型の強硬派が多く,失敗している,と書きます.

退役した陸軍大将Paul D. Eatona retired Army major general, in charge of training the Iraqi military from 2003 to 2004)は,ラムズフェルドこそ,戦略,作戦,戦術において失敗を重ねたのであり,辞任するべきだ,と主張しています.彼は軍人として,ラムズフェルドが自分のエゴと冷戦時代の見方,そして兵士よりも技術を重視する非現実的な姿勢により,ペンタゴンを支配した,と厳しく批判しています.

亡命知識人としてAhmed Chalabiの政権樹立を強く支持し,イラク開戦を主張したKanan Makiyaがインタビューに答えています.

WP Sunday, March 19, 2006; B07

What We've Gained In 3 Years in Iraq

By Donald H. Rumsfeld

縛り首の縄が締まるとか,時は我が方を利さずとか,士気の低下などと言う者がいる.事態は非常に危険な局面にある,とも言うだろう.テロリストたちは,われわれがイラクから敗走する,と思っている.しかし,歴史こそが正しいことを示す,と私は信じている.

ただし,歴史とは毎日のニュースの見出しや,ウェブ上のブログ,感情的な攻撃によってできているのではない.歴史というのはもっと大きな変化であり,それを正しく見るには時間がかかるし,展望を得る必要がある.

3年でイラクがどれほど変わったか,考えてみよ.野蛮な独裁制から暫定政府の選挙へ,イラク人によって書かれた憲法の国民投票へと変わった.昨年12月には政府を選出した.選挙のたびに,テロリストの脅迫や攻撃にもかかわらず,投票の参加者は大幅に増加した.

この1年で最も重要なことは,イラクのスンニー派コミュニティーが政治過程に参加したことだ.かつて反政府軍に協力していたスンニー派の族長や宗教指導者が,今では連立代表に応じ,イラク治安軍に参加するようイラク人を励ましている.

テロリストたちは,宗派間の対立を煽り,イラクで内戦を起こす決意を固めた.しかし,多数のイラク人は国の統一を維持し,エスニックな紛争を回避したいと願っている.

もう一つの重要な変化は,イラク治安軍の規模・能力・責任が増したことだ.結局,自分たちの国を守るのは彼らである.今も,およそ100個の歩兵大隊が戦闘に参加している.49個は自分たちで戦闘の指揮を取る.この国の75%の軍事行動にはイラク治安軍が参加しており,その約半分はイラク人が計画・指揮・指導している.彼らはテロリストの外国訛りを聞き分け,地元の容疑者を見出し,占領されているという反感を生まないで行動できる.確かに,さまざまな暴力は続いているが,連立政権こそがすべてを可能にしている.

自由で民主的なイラクという根本原理は,3年前と同じく,今でも正しい.自由で安定すれば,イラクは隣人を襲うことなく,テロリストに妥協することなく,自爆した家族に褒美をやることもないし,アメリカ人を殺さない.その代価に値するのかという人もあるが,現実的に世界を見る人なら,その結論は一つしかない.今は解決のときであり,退却のときではない,

戦後イラクに背を向けることは,戦後ドイツにナチスの下へ帰れ,ということだ.もし解放された東欧諸国の国民に,自由な諸国を建設するのは余りにも困難で,タフなことであり,われわれはそれほど忍耐がないから,ソビエトの支配を復活してもらう,と言うなら,なんと恥ずべきことか.

イラク国民の多数が連立政権の成功を望んでいる,ということを理解する必要がある.彼らは自分や家族のためにも,より良い未来を求めている.それは過激派が勝つことではない.彼らの国を守るために,彼らは日々命を危険にさらしている.

「イラクの自由作戦」開始を記念する日に,このことを思い出してほしい.

FT March 20 2006

Iraq's last chance to pull back from brink

(コメント) FTの概観は名文であり,私には,的確な評価に思えます.

「ずっと昔のように思えるが,まだ3年しか経っていない.その頃は,イラク侵攻とフセイン打倒で中東を解放し,世界を安全にできると思っていた.懐疑的な者はイラクの歴史やアラブ世界の政治力学から見て多くの欠陥を知っていた.しかし,彼らでさえ楽観的過ぎたわけだ.」

ブッシュ政権が失敗を重ね,無能さをさらけだした.・・・イラクの将来は,新しい世代のビン・ラディンが溢れ,タリバンのアフガニスタンなど子供の遊びであったと思えるようになる.・・・住民の安全を守ることもできず,宗派間対立は激化し,内戦と分裂の危機は近づいている.・・・経済再建は頓挫し,政治的な混迷は一層手に負えない.・・・アメリカ軍は,親米政権を願って選挙を遅らせすぎた.・・・イラクの指導者たちには,国民の統一を願って,すべての派閥を集まる声もある.・・・他方ブッシュ政権は,イラクの勝利を喧伝し,イランとの対決姿勢に向かいつつある.・・・アメリカとイランが平和的な交渉を成功させないなら,イラクにとって破滅の道しかない.・・・アメリカ軍は既にイラク政治の紛争において中立的な介入とみなされていない.・・・空爆による破壊に頼るのは,アメリカ軍の無力さを示している.

「重要な決定を行えるのはイラク国民である.彼らは一緒に国家を統一していくのか? 占領軍は解決の一部なのか? それとも問題の一部なのか? 彼らが決めるべきだ.」

The Guardian Tuesday March 21, 2006

Europeans should beware of wishing for US failure in Iraq

Francis Fukuyama

WP Wednesday, March 22, 2006; A21

Why Iraq Is Still Worth the Effort

By Fareed Zakaria

(コメント) Francis Fukuyamaは,ブッシュ政権がイラクで失敗することを望んでいました.しかし,保護主義や孤立主義,ナショナリズムへの流れは,共和党だけでなく民主党でも同じです.そして,風刺漫画で分かったように,ヨーロッパとアメリカは,敵対視するより,共有する価値を守る方が多いのです.

イラク侵攻を支持した保守派のFareed Zakariaも,その後のブッシュ政権のイラク統治には多くの点で反対でした.特にアメリカ軍の不足や,イラクの官僚制と軍隊を解体するのは間違いだ,と批判していました.イラクをイデオロギーや戦争理論の遊技場にするのではなく,また政府内部の政策立案や省庁間の内輪もめを輸出するのではなく,旧秩序の復活を許すのでもなく,たとえネルソン・マンデラのような指導者がいないとしても,市民一人ひとりの希望を助けてイラクから中東世界に広がる新しい政治秩序を支持しなければならない,と.

Ibrahim al-Jafari My Vision For Iraq WP Monday, March 20, 2006; A15

Eugene Robinson The Planet of Unreality WP Tuesday, March 21, 2006; A17

Derrick Z. Jackson Bush follows Johnson's logic BG March 22, 2006

Margaret Carlson President Bush Takes His `I Get Iraq' Tour March 23 (Bloomberg)

Apocalyptic president The Guardian Thursday March 23, 2006

BOB HERBERT George Bush's Trillion-Dollar War NYT March 23, 2006

M K Bhadrakumar Reheating the Cold War Asia Times Online, Mar 24, 2006

(コメント) イラク首相Ibrahim al-Jafariの説明は簡潔ですが,要点を尽くしています.しかし,それが本心や実効性をともなうのか,は分かりません.

Eugene Robinsonは,イラクの現実と,ブッシュ政権が描く幻想との乖離が,如何にはなはだしいか,を強調します.チェイニー,ブッシュ,ラムズフェルド,・・・ 別の惑星に住む,どうしようもない連中だ.彼らが幻想に依拠して戦争を続けるなら,事態はわれわれの想像以上に悪化する,と.

かつてブッシュ政権はイラク戦争のコストを500億ドルから600億ドルと推定しました.大統領の主任経済顧問であったLawrence Lindseyは,1000億ドルから2000億ドルと予想したために解任されたのです.そして,ブッシュ政権は,大量破壊兵器の情報で間違っていたのと同様に,戦費の予想でも完全に間違っていたことが分かりました.

BOB HERBERTは伝えます.コロンビア大学のJoseph Stiglitzとハーヴァード大学のケネディー行政大学院Linda Bilmesの最近の予想では,イラク戦争によるアメリカの負担は1兆ドルから2兆ドル以上にも達する,と言います.イラクから帰還する退役軍人の医療や生活保障などの費用,通常以上に進む軍備の消耗と更新の費用が加えられているからです.新兵の募集にも多くの費用が追加されました.借り入れによって行われた戦争であり,石油価格を上昇させた戦争です.数千人のアメリカ人が殺されました.こうした費用も考慮されます.

スティグリッツはインタビューで述べています.この戦費の約半分で,今後の社会保障費用の75年分が支払える.もし中東に民主主義を樹立したいのであれば,この費用を「超特大マーシャル援助(mega-mega-mega-Marshall Plan)」として支出した方が,イラク戦争よりもはるかに効果的であった,と.


The Guardian Friday March 17, 2006

The economic booms that fail to reach the rural poor

Jonathan Steele

NYT March 19, 2006

Deep in China, a Poor and Pious Muslim Enclave

By JIM YARDLEY

(コメント) Jonathan Steeleは,インドと中国を挙げて,貧富の格差を緩和するために農村開発や地方への投資が主張されていることを考察します.もし貧困を減らすなら,将来の雇用をもたらす工業やサービス部門に投資しなければならない.農村に貧困を解消するだけの十分な投資を行えるのか? それは地方における腐敗を悪化させるだけではないか?

中国における敬虔なイスラム教徒の住む飛び地について,JIM YARDLEYが伝える内容も一読の価値があります.飛行機を見たこともないし,テレビを観たこともない男性が,中国は貧しい自分たちの生活を改善してくれる,と期待しています.

・・・グローバリゼーションによって,地球は平坦になるのではなく,ヒマラヤ山脈よりも険しい山になる.そして生き延びるために,僻地の民は固有の信仰や言語を失うだろう.・・・


LAT March 17, 2006

Immigration -- the game

Rosa Brooks

(コメント) Rosa Brooksは書きます.「誰であれ,グアテマラからここまで歩く決意をした者にふさわしいのは,敵意ではなく,賞賛である.」

アメリカ議会の移民政策に関する論争の焦点は,非合法移民をどうやって処罰し,阻止するか,ということに尽きます.しかし移民たちは,残してきた家族に仕送りするため,アメリカで必死に働いています.アメリカ経済は彼らを必要としています.彼らの入国を完全に自由化しても,決してすべての人々が移民となるわけではない,ということをEU拡大と移民政策の異なる諸国が実証しました.新規加盟した諸国からの労働者を自由に受け入れたイギリス,スウェーデン,アイルランドは,移民が急増することもなく,むしろ成長や雇用増加を遂げました.

Rosa Brooksは考えます.移民法改正に忙しい議員たちのために,《エイリアンズ》というTVショーを作ってはどうか?

競争に参加する者は,まず,クレジット・カード,携帯電話,コンピューター,そして自動車を没収されます.次に,家族と一緒に,貧しい諸国の農村や都市のスラム街に送られます.新しい家で,彼らは惨めな仕事に就きます.その報酬は,一日1ドル.

議員たちがこのゲームについて来るとは思えない.子供たちの出張っていた腹は急速にしぼみ,その代わり,栄養失調で腹が膨れ上がるだろう.その辺かはすべての余裕を吹き飛ばす.

残された参加者にはさらに過酷なゲームが待っている.彼らは,遠く離れた国へたどり着け,という指示を渡される.しかし,お金もパスポートももらえず,移動手段はない.その途中にはさまざまな障害がある.しょっちゅう氾濫している川を渡り,危険な砂漠を徒歩で横断する.武装した盗賊団や,略奪,拷問,誘拐を試みる人身売買組織に捕まってはならない.

そして出場者たちは,武装した政府職員が警備する国境を,ひそかに越えなければならない.

このゲームをクリアできた者は,さらに,食べ物と寝る場所,そして雇用を見つけなければならない.ただし,そこの言葉は彼らに理解できないし,警察に追われ,拘留され,国外退去させられる危険が常にある.彼らが就ける仕事は,低賃金の,しばしば体を壊すような仕事である.

このゲームの賞品とは何か? と,あなたは尋ねるだろう.1年を生き延びたものには,アメリカのために移民法改正の草案を書く機会が与えられる!」

Colin A. Hanna A real fence for a real problem LAT March 17, 2006

Robert Kuttner Bad times for immigrants BG March 18, 2006

An Immigration Breakthrough NYT March 18, 2006

GEORGE BALL Border War NYT March 19, 2006

David S. Broder For Gates, A Visa Charge WP Sunday, March 19, 2006; B07

H.D.S. Greenway Immigrants' bitterness boils over in France BG March 21, 2006

ROGER MAHONY Called by God to Help NYT March 22, 2006

EDUARDO PORTER Who Will Work the Farms? NYT March 23, 2006

(コメント) 国境線にフェンスを建設するのか,あるいはリモート・カメラやロボットなど,技術を駆使して非合法移民を防ぐのか? 移民たちは,かつてのように,アメリカ市民となって同化し,この国の民主主義に参加することを望んでいるのか?

George Ballは,環境派による国境封鎖支持論を批判しています.いかなる生物種も固有の土壌に依存しており,国境を越えた侵略はそれを滅ぼしてしまう,というわけです.移民やテロ,ナショナリズムや保護主義,民族浄化や宗教戦争の,とんでもなく純粋な故郷を示す逸話のように思えます.他方で,ビル・ゲイツはワシントンへ来てH−1BビザによるIT技術者の受け入れがこの産業でアメリカの地位を維持するために絶対必要だ,と政府に働きかけを強めています.

フランスにおける移民問題や人種差別について,H.D.S. Greenwayはアメリカ人に伝えています.それは,ブッシュのイラクとはまた違う,現実と理想との深刻な乖離,です.

非合法移民を助ける聖職者や教会まで重罪にするという新しい移民法案について,ROGER MAHONYは「神の法に背く」と断言します.EDUARDO PORTERは,非合法移民を管理できない限り,一時雇用契約制度(H−2Aビザ)は機能しない.非合法移民の雇用はなくならないだろう.つまり,それが機能するために必要なコストは大きすぎる,と指摘します.

WP Wednesday, March 22, 2006; A21

We Don't Need 'Guest Workers'

Robert J. Samuelson

(コメント) 最初に,アメリカのトマト産業に関する,Philip Martin教授の話が紹介されています.

1960年代前半,耕作はメキシコからの季節労働者に頼っていた.政府のブラセロ計画がその受け入れを担っていた.メキシコ人がトマトを収穫し,それはケチャップなどに加工された.1964年,農家はトマト産業の死滅に繋がると反対したが,議会はブラセロ計画を廃止した.そして,何が起きたか? 科学者は長方形のトマトを開発し,機械による収穫ができるようになった.それ以来,カリフォルニアのトマト産業は生産量を5倍に増やしている.

Robert J. Samuelsonは,「ゲスト・ワーカー」計画に反対です.なぜなら,それは貧困を輸入することになるからです.ゲスト・ワーカーは非合法移民を合法化するだけでしょう.雇用契約が終わっても彼らは帰国しません.そして,彼らは貧しいのです.貧困の増加は,学校,病院,住宅に緊張をもたらします.家政婦や庭氏のサービスが安くなるからという理由で,それを歓迎するのは間違いだ,と.

彼らは経済に必要だ,という神話をSamuelsonは拒みます.移民労働者だけで行われている業種はないし,彼らが雇用されるのは「労働力の不足」ではなく「低賃金」がその理由です.もっと賃金を上げれば,アメリカ人を雇用できます.企業や経営団体は「ゲスト・ワーカー」を好むでしょう.彼らは社会的緊張のコストを支払わないし,いつも低賃金労働者を探しています.不思議なのは,貧困や不平等を攻撃するリベラル派が,なぜ「ゲスト・ワーカー計画を支持するのか? と.


NYT March 18, 2006

How I Learned to Love the Wall

By IRSHAD MANJI

The Guardian Monday March 20, 2006

It's not too late for lasting peace in the Middle East

Jimmy Carter

(コメント) イスラエルの建てた壁は,自爆テロによる悪循環を断つ方法として,今では認められるようになりました,あるいは,カーター元大統領のように,イスラエルがパレスチナの占領地域から退いて,和平交渉の再開が重要なのでしょうか? そのために,アメリカ軍が駐留する目的をしっかり説明し,自爆テロを許さず,パレスチナにおいて平和と繁栄を実現することです.


The Guardian Saturday March 18, 2006

Foreign lesions

James Surowiecki

FT March 19 2006

Protectionists play with fire

By John Plender

FT March 21 2006

Barricades to business may rent Europe asunder

By George Parker

(コメント) 世界には,投資が不足し,海外からの投資を渇望している多くの国があります.しかし,アメリカ,フランス,イギリスなど,次々と国際投資に対する保護主義もしくはナショナリズムが顕著になっています.海外からの投資は雇用を維持するだけでなく,生産過程の革新を行い,輸出市場を開拓しました.それが自国の企業か,外国企業か,に関わらず重要なことです.

あるいは,アメリカから中国への直接投資は雇用を輸出してしまうから阻止するべきでしょうか? ドル安によってアメリカが輸出を増やし,雇用も回復する,と予想することは難しいようです.FTは,ユーロ債市場が十分な流動性を持つまでは,石油輸出国の資産はドルで保有され,ドル安による貿易不均衡の調整は起きそうにない,と考えます.また,アジアの公的なドル資産保有者たちも,ドルの保有には励んでも,ユーロを保有する理由に掛けます.

しかし,アメリカの保護主義者たちは,中国がドル資産の保有を増やしてきたことを忘れてはいけない,と指摘します.保護主義のエスカレートは金融的解体の前兆となります.

EU憲法が否決されて,再考の始まったEU諸国は,その統合精神を回復するより,勝手な経済ナショナリズムで競い合っています.EUが何であるのか,について加盟諸国の国民が自信をなくしています.EU拡大に反対して敗北した勢力は,新規加盟諸国からの移民労働者を阻止する政策で報復しました.そのレトリックは,保護主義とナショナリズム全般を加熱したのです.他方,ポーランドなど,新加盟国はEUの将来に関心があるのです.

すでにリスボン合意はEUの進む道を示したはずでした.ヨーロッパの指導者たちは,45000万人の人口を擁するEUがグローバリゼーションに応じてその企業にどのような行動を求めているのか,有権者に説明しなければなりません.ところがフランスの有権者は,EUをグローバリゼーションの「トロイの木馬」として攻撃したのです.

もしさまざまな動きが米欧間の対立とWTO貿易自由化交渉の破綻に至るなら,そのとき保護主義は深刻な脅威になる,とPeter Sutherland予想します.


NYT March 19, 2006

Fair Prices for Farmers: Simple Idea, Complex Reality

By JENNIFER ALSEVER

(コメント) 「フェアトレード(公正貿易)」運動が,どの程度,世界の貧しい農家を支援することに繋がっているのか,批判する声が紹介されています.その善意を疑わないとしても,その効果を確かめたのか? と.結局,小売業者や中間商人の利益,NGO・NPO団体の活動資金として消えてしまう部分も多いのです.

他方,これを支持する団体は,フェアトレードがあることで農民たちにも力が付き,彼らの協同組合や流通組織も育っている,と指摘します.価格メカニズムが働かず,生産性上昇やコスト削減より,生産者も中間商人も利益の拡大だけに向かいます.その結果は,品質悪化,過剰生産,運動の分裂・衰退ではないでしょうか?

かつて,国際商品の価格安定を目指す基金がUNCTADによって支援されましたが,成功しませんでした.フェアトレードが,こうした過去の改革運動と同じ運命をたどるのか,それとも過去のアイデアを再生し,活性化するのか?


FT March 20 2006

Autocracy’s empty promise

By Guy de Jonquieres

(コメント) タイのタクシン政権に対する大衆抗議についてGuy de Jonquieresは考えます.

開発過程で必要な《安定性》は,ナショナリズムに揺れる未熟な民主国家よりも,しばしば中国のように,専制的支配体制や官僚統制の国家によって提供された.しかし,インドネシアのスハルト体制が崩壊したように,それも永遠には続かない.同時に,今,求められる投資家をひきつける政府の《ビジネス感覚》は,官僚や軍人よりも,新興大企業の経営者にふさわしい特質だ.そこでタクシンのようなカリスマ的経営者が専制支配を行うタイの経済復興は,新しい開発モデルとして注目されたわけです.

いずれのタイプも《開発独裁》のモード・チェンジです.支配者たちは政治的な均衡を軽視し,柔軟な政策転換に失敗しました.経営者の《ビジネス感覚》も,所詮,貧しい者に金を配って,巨大公共工事を喧伝し,反対派を弾圧したわけです.


March 21 (Bloomberg)

Singapore Banks Must Brace for Mumbai Challenge

Andy Mukherjee

FT March 21 2006

Setting the rupee free

March 22 (Bloomberg)

Vietnam Seeks Growth Without McDonald's Help

William Pesek Jr.

FT March 22 2006

Lex: Renminbi reform

(コメント) どの国も,貿易や経済発展とともに,通貨や金融センターのことを心配し,地域もしくは国際金融センターを自国に立ち上げる,と宣伝し始めます.そして通貨戦争や金融センター間の対立が表面化し,融資競争や起債競争の末に,突如,短期資金移動が不安定化します.金融協力のネットワークが必要であるとどの国も理解しながら,各国の協力姿勢は不確かで,深刻な政治危機とともに,脆弱な金融基盤の小国から,市場を介した危機の感染が始まるのです.・・・もし歴史が繰り返すなら.

Andy Mukherjeeは,シンガポール,ムンバイ(インド),香港あるいは上海,の金融センター競争を予想しています.もちろん,通貨の交換性回復と金融システムの整備,健全化,金融技術の習得,もしくは欧米金融機関の誘致(選択),が重要になります.

インド政府は,為替管理を全廃し,ルピーを資本勘定も含めて交換可能にするでしょうか? これまで,厳重な資本規制を敷いたことで,アジア通貨・金融危機の波及を回避して,着実に成長できたと評価されていたはずです.企業は海外にも拠点を持ち,黒字を運用する必要があるのかもしれません.しかし,予算赤字を減らす前に,資本勘定も含めて自由化することには,FTでさえ反対しています.

William Pesek Jr.は,ベトナムの「漸進的」自由化・グローバル化,を議論しています.中国に並行する生産拠点としても,ナイキなど,世界企業に注目されています.

米中貿易摩擦とともに,再び,人民元レートが関心を集めています.昨年7月に2.1%増価した後も,人民元はドルに対して0.78%増価したに過ぎません.ブッシュ政権の苛立ちが続いています.しかし,為替レートを市場によって決めるシステムは着実に整備されてきている,とFTは評価します.外国の銀行も為替市場に参加し,先物取引などのヘッジ手段や,市場型の金利システムが導入されつつあるようです.中国政府は,次第に,変動レートに対する自信を深めている,とも言われます.

アジアの経済発展が金融市場としても変化をもたらすのは間違いありません.あるいは,危機をもたらすことも.それが深刻でなければ,彼らも市場への信頼を失わないわけです.


NYT March 20, 2006

Dell to Double Workforce in India

By SARITHA RAI

NYT March 20, 2006

Is the Next Silicon Valley Taking Root in Bangalore?

By SARITHA RAI

The American Prospect, 03.23.06

Will Your Job Survive?

By Harold Meyerson

(コメント) アウトソーシングは続きます.あるいは,新興企業家やシリコン・バレーそのものも.

そこで,Harold Meyersonは,イラク戦争や鳥インフルエンザ,あるいは宇宙の消滅よりも,グローバリゼーションにおけるアメリカの将来を心配します.Alan Blinderによれば,直接の販売店員を除けば,製造業だけでなくサービス業でも,あらゆる職種が海外に移転されうるだろう.それは職場が直ちに失われる,と言う意味ではないが,厳しい競争にさらされる,と言うことだ.「広く分かち合える繁栄というのは,ドードーと同じく,絶滅してしまった.」

さらに,かつてクリントンが励ましたように,教育によってグローバリゼーションに適応するという政策も,同様に,無意味になりつつある,と主張します.なぜなら,教育を受けた労働者も海外に競争する相手がいるからです.それゆえBlinderは,職業の細分化・専門家を提唱します.アメリカ人は単なる司法書士ではなく(それはインドでもできるから),ますます多くの離婚弁護士になるわけです.

Meyersonは,日本やヨーロッパと同じように,アメリカも専門職を国内にとどめるような保護政策を取るべきだ,と主張します.たとえば,アメリカ企業はその会計書類の作成や年金管理を,必ず,国内業者に委託する,というように.


FT March 21 2006

Biggest test yet to come for Bank of Japan

By Grant Lewis and Ben Eldred

FT March 22 2006

Overhaul produces resurgent corporate Japan

By David Pilling

FT March 23 2006

Japan suspends loans to China

By David Pilling in Tokyo

(コメント) Grant Lewisは,たとえ量的緩和政策が破棄されても,金利はなかなか上昇しないだろう,という意見に反対します.バランス・シートの改善した企業や銀行の行動は変化しており,日銀は過剰な流動性がインフレに転化することを強く懸念しているから,と.

果たして,日本の企業や銀行,政府,日銀,消費者はどれほど変わったのか?


FT March 21 2006

Why the ‘edutainers’ merit a failing grade

By Michael Schrage

(コメント) この論説も,教育ユートピア論(“edutopian”)の蔓延に反対します.むしろ,学校システムというのは,驚くほど新技術に適応できないものである,と.

彼らの発想は非現実的で,イデオロギーとして利用されているに過ぎません.たとえば,ハイテクを利用すれば《教育》を《遊び》に変えることができる,という“edutaining”“Edutainment”です.その理想や期待は,まったく現実離れした水準で議論されています.むしろ,ハイテクは教師と生徒の関係を変え,学校とコミュニティーの関係を変えるための新しい装置・手段に過ぎない,と考えるほうが正しい議論を始められます.


FT March 22 2006

A better way to choose United Nations leaders

By David Hannay

(コメント) 国連憲章を変えなくても改革はできる,ということをDavid Hannayは示しています.どのような組織でも,それは責任者の選考や権限について,決定方式を改善することです.

1.選考の際に,地域による割り当てやローテーションをやめる.出身地に関わらず,最善の候補者を選ぶべきだ.

2.すべての候補者が,規則に従って,公開された簡潔な綱領に基づき,質問を受けるべきだ.綱領には,その機関・組織の主要な課題と,それに対する自分の方針を示しておく.

3.新しい国連事務総長は,一期限りで7年間職務を果たし,再任されない.

4.たとえ選考は独立に行われても,事務総長と副総長とは同じ機関,同じ課題に協力して取り組む.彼らは能力や経験の点で補い合い,副総長の権限も明確にされる.

5.アナン事務総長が提示した事務局の改革を今年中に行い,新しい事務総長は新体制でスタートする.

6.安全保障理事会の常任理事5カ国は,新しい事務総長の指名に対して拒否権を行使,あるいは干渉してはならない.安保理の決定は,多数の意見に従い,さらに国連総会にも従う.

・・・なるほど,どのような組織も同じことで悩むわけです.


FT March 22 2006

The rate conundrum

(コメント) 長期金利の水準について,バーナンキ自身が唱えた「世界的貯蓄過剰説」が,それと対立する「低リスク・プレミアム説」と並んで,将来の金利動向に対する混乱があります.こうなると金融政策の決定に対して市場の反応が予測できない,というわけです.


The Guardian Wednesday March 22, 2006

Don't sign up to this upside down Hobbesian contract

Karma Nabulsi

(コメント) 《ホッブズ的契約》とは何か? 権力は,それに従う(ことで戦争状態を終わらせる)ために自分の権限を放棄することを認める社会契約によって成立する,という話です.しかし,この考えを,市民の自由と治安維持やテロ捜査とのジレンマに適用するブレアの主張を,Karma Nabulsiは批判します.

たとえば,このような国家論は民主主義と矛盾します.われわれは単に治安を消費する消費者ではないし,ホッブズ的なテロの世界に住むわけでもありません.経営学や経営者の冗漫な専門用語によって,自由や民主主義に関する蓄積された思想を放棄してはならない,と.

ホッブズと異なる伝統に拠れば,社会契約の目的は市民的自由を守ることにあり,主権は譲り渡すことができないものです.すべての民主的な機関は,国家に対して,自由を守るために協力して行動します.他方,ホッブズ的な社会契約は,市民の背後で,密室において権限を行使するでしょう.市民的自由と治安とが対立すると考えること自体が間違っているのです.

******************************

The Economist, March 4th 2005

Economic nationalism: From Karl Marx’s copybook

Iceland and Europe: Euro dreams

Charlemagne: The nationalist resurgence

(コメント) マルクスがかつてヨーロッパで見た妖怪は,《共産主義》ではなく,《経済ナショナリズム》に変わったのか? エネルギー,鉄鋼,電信,証券市場,あるいは,通貨.いずれの国も自国だけで所有したがっているようです.それは単なる勲章なのか? あるいは・・・内臓(心臓・ハート)か?

政治家は自分たちのやましい意図を隠すときに《国益》や《愛国心》を叫びだす.ジョンソン博士も言うように.EU内の国境を越える企業買収や,アメリカ議会の中国叩き,ドーハ・ラウンドの紛糾,・・・《近隣窮乏化政治》と呼んでThe Economistは批判します.それらは政治的に支持を得やすいかもしれませんが,経済過程を歪め,コストを追加し,汚職や腐敗をもたらします.

利益を得るのは一握りの政治=ビジネス・エリートであり,庶民は負担を強いられるでしょう.これは,マルクスが憎んだことではないか? The Economistは,それを理由に主要産業を国有化し,国家が管制高地を支配するように求めて,マルクスは今日の《経済ナショナリズム》という妖怪を生み出した,と考えます.

現代では,二つの戦いが重なります.一方の側に,保護主義と経済ナショナリズム.他方の側に,企業の再編とグローバリゼーション,です.保護を求める心情は強く,ますます強まるでしょう.しかし,一般に市場が成長をもたらす間は,市場開放を求める企業の活動の方が,市場を閉鎖しておきたい国家の本能を圧倒するようです.なぜなら,市場の閉鎖という主張は,実際,その内部に統一性がないからです.彼らは特殊利益の短期的な同盟に過ぎません.しかも政治同盟を拡大すれば一般的な(消費者の)負担が増える,というマイナス面が現れます.成長を損なうような政治同盟は,長期的に衰退と反動を招くのです.