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IPEの種 3/27/2006

金融市場や土地価格,投機に振り回されながら,世界は地理的な再編成を繰り返しています.私たちも,知らぬ間に,《エイリアンズ》の出場者となるのです.

京都大学の経済学部図書館を訪ねて,本の一部を複写させてもらいました.ここは少しも変わらないのに,独立法人化された効果(!)か,キャンパスのあちこちに新しい建物が建ち,観光客用の売店や施設ができて,舗装を張り替えるなど美観を重視した工事が行われています.正門では,修学旅行生たち(?)が記念撮影にはしゃいでいました.以前からあった京大周辺のお店も多くが改装されて美しくなり,なるほど,これが都市の《ジェントリフィケーション》だな・・・と思いました.

同志社大学の京田辺キャンパスに車で向かう途中,京阪奈プラザを通ります.ここでも宅地開発の熱気が再生し,土地整理が加速しているように見えます.学園前周辺では大阪方面からの近鉄電車延長があり,巨大店舗やマンションの建設が目立ちます.他方,古くからの住宅地はバブル崩壊後の地価下落を今も引きずっています.センターの移動により,私が住む旧住宅地などは,老人の多い,活気のない土地となり,ビジネスからも行政からも見捨てられたような格好です.そして教室や学校は,静かに閉鎖されます.

NHK・BSで「地球・街角アングル」を観ました.シンガポール政府は少子化に対応して,教育産業の転換を模索しています.優れた学校,教育施設や教師,そこから生まれる人材や知識産業は,シンガポールの貴重な戦略的資源です.しかも彼らの多くは英語を話す中国人です.そこは東南アジアのビジネス中枢として,また日本とオーストラリアとの中間点,アメリカと中国との政治的な翻訳者として機能するだけでなく,マレー半島の先端,イスラム教徒のマレー人や,シーク教徒のインド人も多く住む土地です.中東やヨーロッパと東アジアとを結ぶ海上輸送の拠点でもあり,優れた空港施設や金融センターを擁しています.香港の支配権が完全にイギリスから北京政府に返還された結果,こうしたシンガポール独自の魅力は強まったはずです.

13歳から17歳の子供に,英語のみの授業を行う学校が紹介されていました.子供のときから英語をしっかり身に付けてほしい,という願いをもつ親たちが世界中から子供を入学させます.学生寮が用意されており,食事も含めて月7万円の費用は,たとえ発展途上国でも,裕福な親であれば支払える額です.子供たちは授業と宿題で,みっちり知識を習得します.

シンガポール国立大学は政治家や多くの著名人を輩出した最高学府です.3万人の学生の約2割(?)が留学生です.優秀な留学生を増やすため,政府が奨学金を用意しています.中国出身の劉さんも,政府と企業から学費や生活費(年間190万円)を得て,子供のときからここで学んでいます.シンガポール政府は成長する中国との結びつきを重視し,中国の貧しい地方にスカウトを送って優秀な子供を集めています.劉さんの家庭は貧しく,奨学金がなければ決して進学できなかっただろう,と言います.卒業後6年間はシンガポールで就労する義務があります.それが終わると30歳になり,その頃には既に結婚しているから,ここに永住するだろう・・・ と彼女は考えています.

大学では夜8時からも授業が行われています.MITとの合意で授業が共有され,時差12時間を超えて,学生たちは直接にMITの授業に参加できるからです.世界の主要大学・研究機関が,ここにアジア拠点を設けています.シンガポールの経済開発庁も観光サービス局も,シンガポール教育産業の世界化を積極的に推進します.つまり世界の教育分野は,開発のフロンティアとして,いまだ規制されない産業育成策を使うことのできる漁場なのです.

フィリピン出身のハミルさんもシンガポールで学び,今では,完全自動化されたレンタルDVD店舗を展開する青年実業家です.彼のような優れた人材には永住権の取得も容易です.政府は人材とビジネスをシンガポールに集積するため,果敢に投資します.・・・世界中の富裕層はもちろん,貧しい農村や難民キャンプからも,優れた頭脳を持った子供たちが選抜されてシンガポールに集まり,英語で提供される世界最高水準の教育を受けます.そしてシンガポールで開発され,シンガポールで資金調達したビジネス・モデルが成功すれば,それはこの地でコネクションを容易に見出し,中国や東南アジアの華僑経済圏に拡大します.製造業であれ,サービス業であれ,十年後の世界は彼らが活躍する舞台なのです.

・・・Amazonで古本を購入できるなら,もはや多くの古本屋さんはその下取りのための窓口になるでしょう.古本屋を巡り歩いて掘り出し物に出会う興奮も失われます.・・・Googleがヴァーチャル図書館を開設すれば,他所の図書館を捜し歩く必要もないわけです.・・・しかし,古本屋や書庫で感じる本の薫り,探す本以外に,偶然,見つける他の本や,ひらめき,まだ分からないものを探す過程それ自体,を人々が好むなら,きっと古書店も静かに生き残るでしょう.

新しいビジネスと知識は急速に普及し,その過程で世界の富が増え,しかも平準化します.その一方で,古い知識や生活圏も失われず,各地で,独自の文化と新しい可能性の宝庫になる・・・ そのような社会的バランスを見出した国や都市,大学も,現れるのではないでしょうか?

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