IPEの果樹園2006

今週のReview

3/6-3/11

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor


FT February 25/26, 2006

Berlin cool comes in from the cold

Bertrand Benoit

(コメント) ベルリンでもっとも大きな交差点Alexander PlatzKaufhofデパートを経営するDetlef Steffensと記者のBertrand Benoitは,ドイツ再統合の夢の後を見て考えます.

ベルリンの壁が倒されて16年以上が過ぎた.そこに広がるのは,ドイツ政府が夢見たユートピア的な摩天楼であろうか? ・・・当時よりもっと汚れて,もっと朽ち果てた,見捨てられた都心がそこにはある.朝8時.ベルリンからSバーンに乗り,Alexander Platzから10番目の駅で降りる.そこは,凍てついた,むき出し土地で,建物など何も無い,まるでシベリアの入植地だ,と.

急速に工業力は失われ,労働者の雇用は減少した.失業率は全国平均を超えて17%に達する.200億ユーロの予算の半分以下しか税収でまかなえず,債務は600億ユーロに達する.ベルリンの財政は,事実上,破綻している.「19世紀の日本開国以来」と地元の政治家たちが喧伝した政治経済的冒険は大失敗に終わった. ・・・なぜか?

1.   産業構造や産業配置が大きく変化した.ベルリンがライン川沿いの工業集積地を指導した時代はもう過ぎ去ってしまった.ソフトウェアやデザインの技術者や芸術家が集まる一方で,工場や労働者は吐き出され,流出し続けている.

2.   東西再統合が間違った再編過程を助長した.時代は19世紀半ばに戻るはずが無い.それを政府は無視して財政資金を浪費してしまった.再統合によっても,主要な企業の本社はベルリンに戻らず,むしろ旧産業の衰退が早まった.

しかし,この廃墟こそ新しい成長の源である,と記事は続きます.何も無い,捨て去られた土地に,多くの未知の才能が集まり,豊富な資源が眠っている.それらは政府が意図したのとは,まったく異なる形で,急激な新興企業の生成と消滅をもたらしている.サービス経済こそ,新しい成長のエンジンだ.それは激しい脱工業化過程を伴っているが,1930年代のドイツがそうであったように,連合軍の爆撃の後,そして,再統合の復興計画が育てたバブルの後,新しいドイツがよみがえる,と.

変化は止められず,リスクは避けられない.


FT March 1, 2006

Asia’s dance of the twin elephants

Todd Thomson

(コメント) シティグループの世界投資を統括する幹部は,中国とインドの成長に驚きながら,その悲観的な将来,そして結末を予想する人々に反対します.

中国は,もちろん,輸出に依存して成長し続けることはできません.しかし,その中産階級の消費意欲や,インフラ整備に必要な投資を考えれば,今後50年間は高成長を維持する可能性が高い,と主張します.他方,懐疑論が指摘する諸問題は,そのために解決しなければならない課題なのです.

また,中国やインドの成長を脅威と考え,これを牽制するべきだ,という主張にも彼は反対します.開発諸国が抱く不安と「既得権」意識は,潜伏する病巣,競争力を蝕む種である,と.年金や社会保障だけでなく,雇用の維持も,彼はこうした既得権に転じるなら,経済停滞と保護主義をもたらし,こうした優位をもたらした基礎を破壊するに至るだろう,と.

彼らの成功に怯えるのではなく,それを祝福するべきである.もし彼らが経済において発展すれば,より自由で民主的な,安定した世界への展望も広がるだろう.われわれは成功をもたらす触媒,すなわち,教育,革新,自律,自由な市場,を忘れてはならない,と.


FT March 1, 2006

There is something rotten in the welfare state of Europe

Martin Wolf

(コメント) Wolfは,同様に,ヨーロッパが守り抜こうとして譲らなかった福祉国家のモデルを,いよいよ見直すべきときである,と主張します.

なぜか? それはこのモデルが最も成功していると思われている北欧,特にスウェーデンでさえ,多くの深刻な問題を生じている,と報告され始めたからだ,と.甚大な税負担と公的支出.それがヨーロッパ・モデルを動かしている中心です.そして,それこそがフリードリヒ・ハイエクが批判したように,「社会を合理的に計画し,指令できる」という,致命的に誤った「うぬぼれ」(自信過剰)なのです.

今や,財政破綻,お粗末な公共サービス,労働意欲の減退,生産性上昇の遅れ,経済調整への抵抗,経済資源をめぐる奪い合い,移民流入との衝突,家族の崩壊,が起きている.それはヨーロッパ的な社会モデルのもたらした「モラル・ハザード」である.

1.教育と医療.富裕化と高齢化.2.公的負担と給付の効率性と満足.3.労働時間.4.生産性上昇.5.雇用の保障と調整回避.保護主義.6.高税率,高規制,低投資,低雇用.7.税金と失業による負担が未熟練・マイノリティー・移民労働者に集中.社会不安と暴動.8.家庭崩壊,少子化,人口減少.


FT March 4/5, 2006

Complete world domination beckons to King Google

Richard Wayers

The senseless ordeal of George Reyes

John Authers

(コメント) Googleの業績見通しをめぐってNYSEが動揺する事態について,証券市場と投資家の性格を吟味しています.Googleが完全に世界を作り変えてしまったわけではない(それゆえ,まだ拡大する)が,競争は強まり,新興市場(中国など)は手に負えないかもしれない.むしろ,ウォルマートやGM,マイクロソフトのように,消費やすべての産業に影響を及ぼすわけでもないGoogleの業績について,動揺する投資家の心理は危険である.


FT March 4/5, 2006

Welcome to the world of block-thy-neighbour

(コメント) 「1914年の8月を忘れるな!」 イタリアの経済大臣Giulio Tremontiがこのように演説しました.イタリア企業による買収提案を政治的に阻止する主張がフランスで出たからです.グローバリゼーションは本格的な逆転の危機に,すなわち,誰一人戦争など望まなかった(しかし,その後,戦争は避けられなくなった)1914年に戻りつつある,と警告したわけです.

FTは,ヨーロッパ諸国が再び戦争するとは考えませんが,グローバリゼーションの逆転はアメリカでもヨーロッパでも強まっている,と認めます.情報伝達や技術移転によるグローバリゼーションの加速が,他方で,激しいアレルギーを引き起こしているからです.これまで苦労して,ヨーロッパは貿易や通貨における「近隣窮乏化政策」を回避してきました.しかし,パリは今でも,投資において「近隣窮乏化政策」を繰り返そうとしている,と.


FT March 4/5, 2006

Bush seeks to calm Pakistan worries

Jo Johnson and Cariline Daniel in New Delhi

US urges Taiwan to clarify China stance

Kathrin Hille in Taipei

(コメント) ブッシュ政権の外交政策は,「テロとの戦争」でパキスタンに肩入れし,中国を牽制するためにインドの核兵器開発を容認し,しかし中国との直接対立を避けるために台湾に自制を強く求めています.

積極的な面を見れば,これは国際秩序の平和的な調整過程です.しかし,ブッシュ政権の行ったイラク戦争がすべてをマイナスにして,イランや北朝鮮への強硬姿勢も混乱を呼ぶものへと向かいそうです.


FT March 4/5, 2006

Obituary Sir Hans Singer

Scholar dedicated to the cause of a just world order

1910-2006

(コメント) 開発論を学んだ者には,シンガー・テーゼによって良く知られているサー・ハンス・シンガーが亡くなったことを,記事は伝えています.

1910年,ドイツ・ラインラントで,世俗的な中産階級のユダヤ人家庭に生まれた.ボン大学でシュンペーターの講義に出席して経済学を志す.ヒトラーが権力を握った頃,彼はアカデミックな書店を開こうとイスタンブールに逃れた.しかし,シュンペーターの推薦でケンブリッジの奨学金を得る.J.M.ケインズの下で働き,1930年代のイギリスの貧困を2年にわたって研究する.それはイギリスの社会福祉政策を方向付けた1942年のベヴァリッジ報告に強い影響を与える.その後,国連に属して発展途上国の研究に従う.

シンガーの目指したものとは,「より公正な国際秩序」であった,と記事は要約します.


FT March 4/5, 2006

Investors find it hard to accept the mean truth about alluring markets

FT March 4/5, 2006

Europe’s Goldilocks moment

Dave Shellock

(コメント) 債券市場において,利回りと価格水準は逆に動く.平均利率を超えることは難しいし,それを長期的に実現することは,さらに難しい.要するに,あまりにも高い利回りを狙う投資戦略はすべてを失うリスクを冒す.たとえば,バブル前の日本に投資した者のように.

ヨーロッパの債券市場とECBの金利引き上げについて,それが景気回復をくじいてしまうのか,それとも持続的な景気回復につながるのか?


FT March 4/5, 2006

Composing an out of office reply

Andrew Ward

(コメント) カーター政権と言えば,アメリカの恥辱の時代,としばしば非難されます.Andrew Ward記者は,テキサス州アトランタ,大平原の端にある,質素な平屋を訪れます.そこに81歳のカータオ元大統領と妻のロザリンが待っているから.

大統領を辞めてから,カーター・センターを設立して,世界の平和,人権,病気撲滅に貢献してきました.その功績が評価され,2002年にノーベル平和賞を受賞しています.

しかし,この質問を避けられない以上,記者は訊くことにします.あなたの大統領としての「失敗」(という評価)をどう思うか? ・・・カーターは笑って,そうかもしれないが,私が大統領として行ったことと,その後,カーター・センターにおいて行っていることとは分離できない,と.

妻のロザリンは反論します.彼は良い大統領でした,と.ジョンソンとケネディーを除く,その他の大統領よりも多くの法案を通過させた.批判者は,ベトナム戦争とウォーターゲート後に,インフレ加速やイラン大使館人質事件で,アメリカは無能であると見なされた.

しかし,カーターは,アメリカが軍事力を行使しないことを選んだのだ.彼が大統領職を去るとき,人質は無事に解放された.「私はイランを破壊できただろう.」と,彼は言います.「しかし,それは数万人のイラク人を殺し,アメリカ人の人質たちもすべて殺されたはずだ.」

彼は,平和的な人権外交を,生涯にわたって誠実に追求したわけです.

多角的な国際協調を損なったブッシュ政権を厳しく非難し,イラク戦争の誤りを主張します.民主党が次の選挙で勝てるだろうか? と訊かれた彼は,難しい,と答えます.南部の住民たちが民主党を支持しないから.

その後,記者はお店で尋ねました.カーターの意見は隣人たちに支持されているのか? 実際,あまり支持されていない,と言います.しかし,彼は常に誰からも尊敬されている,と店の主人は答えます.

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The Economist, February 11th 2005

Cartoon wars

Islam and free speech: Mutual incomprehension, mutual outrage

(コメント) 間違ったコミュニケーションは確かに多く合った.しかし,自分たちの新聞を黙らせるのは,イスラムとの関係を導く正しい道ではない,とThe Economistは考えます.

これは信仰の問題であるより,より過激な行動を示すことで政治的主導権を得たい,イスラム運動内部の競争である,と.


The public mood: The isolationist temptation

Freedom fried

Europe’s labour mobility: When east meets west

(コメント) アメリカの保護主義とヨーロッパの保護主義.どちらが深刻な災いをもたらすか?

国際関係に関与して,自分たちには,一体,何の利益があるのか? ・・・とアメリカ人は考え始めているようです.「われわれはイラク人に自由を与えた.・・・彼らは道路に爆弾を仕掛けて返礼する.パレスチナ人に選挙を成功させた.・・・彼らはテロリストを政府に選ぶ.他の世界はどう見ているのか? 年老いたヨーロッパはアメリカを軽蔑する.中国人はわれわれの職を奪う.メキシコ人は静かに南西部を征服し続けている.もういいかげん,この雄大で豊富な,正気の世界を,われわれの国としてフェンスで囲い,その他の世界は滅ぶままに放置したほうが良いのではないか?」

その後に紹介される貿易や移民に関する保護主義,フェンスの建設法案,は実現するかもしれない,と言うことです.

ヨーロッパの移民に関するEUのレポートも紹介されています.要するに,移民を締め出すことは有効でないし,有益でもなかった,と.


(ドイツについての特集は,次回に持ち越します.)