IPEの果樹園2006
今週のReview
2/20-2/25
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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IPE方法論 :ムハマドの風刺漫画
安全保障 :孤立主義
貿易・投資 :NAFTA
通貨・金融 :ECB
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor
FT February 2 2006
Swedish lessons for the west’s leftwing parties
By John Lloyd
(コメント) 社会民主主義の政治運動には,一匹の妖怪がさまよっている.それは,(穏健な)保守主義,と呼ばれる.・・・カナダ,イギリス,何よりも,スカンジナビア諸国で.
どのようにして社会民主主義は権力を失うのか? 所得の65%を税金で奪う福祉国家に対して,保守派は減税を主張し,国民に怒りを呼び起こしたのか? ・・・むしろ,逆です.
穏健な保守派は福祉国家を賞賛し,低所得者を除いて,高率の税負担を決して減らすつもりはない,と約束しました.彼らは,社会民主主義の築いた手厚い社会保障制度に依拠して,穏健派や緩やかな改革を唱えることができるのです.それでも社会民主主義は長く政権にあったため,余りにも「エスタブリッシュメント」になり,また急進的な左派から見れば,余りにも資本家に妥協しすぎたわけです.
FT February 2 2006
America must not retreat from the world
LAT February 2, 2006
What isolationism?
(コメント) アメリカは孤立主義へ向かうのでしょうか? ブッシュ氏は一般教書演説で,パンとバターの政策を望み,国民に厳しい選択を求めませんでした.しかし,イラクからの撤退や孤立主義の主張を退けています.FTは,二期目の選択として,それが正しい道である,と認めます.
孤立主義? どんな孤立主義か? ANDREW J. BACEVICHは,現代のアメリカに孤立主義者など存在しない,と主張します.むしろ,それは,アメリカが世界で果たす役割について,外交政策の原則的な議論を妨げるために利用されている,と.
9・11により,再生派のキリスト教徒であるだけでなく,ブッシュ氏は,再生派のウィルソニアンになりました.彼は,アメリカが世界に自由を普及する使命を帯びている,と考えたわけです.・・・世界は自由に向かう歴史にあり,アメリカがそれを実現する.そして,ウィルソンの霊感を得たブッシュ氏は,イラクに軍隊を差し向けたのです.
しかし,中東はおろか,イラクだけでも,アメリカは自由を確立する軍隊を十分に送れませんでした.ここに,ジョージ・ワシントンが登場します.ワシントンは孤立主義を唱えたのです.その意味は,アメリカ的なリアリズムでした.幻想を抱くことなく,アメリカの軍隊と,国内権力の不安定性を前提に,国際舞台では慎重な行動を取ったわけです.
孤立主義という非難で議論を避けることは,無謀であり,無責任である,と.
FT February 3 2006
LAT February 3, 2006
The freedom to blaspheme
FT February 4 2006
The reality of cartoon violence
By Christopher Caldwell
BG February 4, 2006
Forms of intolerance
(コメント) 昨年の9月にデンマークの新聞Jyllands-Postenが,預言者ムハマドの風刺漫画を掲載しました.その後,今週になってヨーロッパの新聞が転載し始めるまで,この問題は徐々に広がっていましたが,今や,一気に火柱を吹き上げたようです.
ムハマドの頭に巻かれたターバンは爆弾の形をしていました.それは,しかし,子供のいたずら書きでしかありません.
すべての宗教は,風刺も含めて,こうした批判や解釈を受け入れる責任がある,とヨーロッパ人は考えます.デンマーク政府も,それを出版した新聞には権利がある,と擁護しました.新聞も,イスラム教徒の感情を損ない,抗議を招いたことに対してだけ謝罪しました.
しかし,論争は雪だるま式に膨らんでいます.北欧諸国の製品をアラブ諸国はボイコットし始めました.アラブ連盟が抗議し,サウジアラビア,シリア,リビアがコペンハーゲンの大使を召還しました.他方,ノルウェー,フランス,ドイツ,イタリア,スペインの新聞が漫画を転載しました.
表現の自由は絶対的なものではない,とFTは譲歩します.自分たちは了解できても,他者の感情を傷つける権利があるだろうか? と.しかし,アラブ諸国の政治家も,信仰や聖職者に対する偽善を誇示しているのではないか?
風刺漫画に対する,反動的な政府による誇張された反応は,信者による欧米社会の非難を自分たちの権力強化に利用するものです.ムハマドを描くことに強く反発したイスラム過激派は,欧米人の事務所が入った建物を襲い,放火し,デンマーク人を誘拐するために探しています.「デンマーク人を殺せ!」 「フランス人を殺せ!」・・・それを止めようとしない,それどころが抗議を煽る現地政府に,欧米社会は失望と怒りを表しています.
それは,欧米の民主的社会がイスラム教徒の移民たちに与えてきた仕打ちを,増幅して反響させる結果ともなりました.
LATは,デンマーク政府が民間の新聞社が取った行為についても公式の謝罪を述べるに至ったことで,政府はどこまで責任を持つべきか,細かく新聞内容を検閲するつもりか,と批判しています.国籍を理由に誘拐したり,表現の自由を暴力の理由や外交の道具にしたり,・・・欧米社会は民主主義の中身をぐちゃぐちゃに歪める危険と向き合っています.
Christopher Caldwellは,宗教が政治であるのは当然だ,と考えます.スターリンが,「ローマ法王は何個師団を動かせるか?」と,尋ねたように.
抗議の運動には,理性的なものと過激派と,二つの流れがある,と考えます.同時に,二つの数字も示しています.デンマーク人の80%は政府の謝罪を求めない.移民の第二世代は45%が失業している.
寛容,という啓蒙の価値観でイスラム教徒を侮辱した新聞は,同様のことをヨーロッパの過去や信仰に対しても行うでしょうか? おそらく,自制したはずです.BGは,その風刺画を転載しませんでした.それは,ナチスがユダヤ人を侮辱し,KKKが黒人を侮辱した風刺画を掲載しないのと同じ理由です.
The Observer Sunday February 5, 2006
Timeline: a history of free speech
David Smith and Luc Torres
BC399年 ソクラテスは法廷で自ら弁明した.「アテネの人々よ,私はあなた達にではなく,神々に従うのだ.」
1215年 マグナ・カルタをイングランド王が認める.
1516年 エラスムスは,The Education of a Christian Princeにおいて,「自由の国では,発言も自由である」と書く.
1633年 ガリレオ・ガリレイの地動説が異端審問にかけられる.
1644年 ジョン・ミルトンがパンフレット'Areopagitica'を著す.「良書を破壊する者は,理性そのものを抹殺する.」
・・・・・ヴォルテール,J.S.ミル,チャールズ・ダーウィン,ハクスレー,ホームズ判事,・・・・・
1962年 アレクサンドル・ソルジェニーツィンがスターリン時代の強制収容所について小説を描く.1974年,亡命.
1989年 イランの指導者,ホメイニ師がサルマン・ラシュディーとその小説にファトワを示す.
1992年 ノーム・チョムスキーは,「もし表現の自由を認めるなら,あなたの嫌悪する意見を表現する自由を支持するべきだ.」と,指摘する.
2001年 9・11後,アメリカは愛国者法を成立させ,市民的自由を制限する力を政府に与える.
2002年 ナイジェリアのジャーナリストが書いた文章がイスラム教徒の暴動に繋がり,200人以上の死者を出す.
2004年 オランダの映画監督Theo van Goghが,イスラム社会における女性への暴力を描いた作品により,殺害される.
2005年 イギリス議会の周囲1キロ以内では,許可なく抗議活動を行えない,というThe Serious Organised Crime and Police Actが成立する.
Jeff Jacoby, We are all Danes now BG February 5, 2006
Henry Porter, A few bad cartoons are no reason to fall out The Observer Sunday February 5, 2006
We must put a stop to this savage bitterness The Observer Sunday February 5, 2006
Philip Stephens, Cartoon row hijacked by extremists FT February 6 2006
H.D.S. Greenway, The power of the political cartoon BG February 7, 2006
Those Danish Cartoons NYT February 7, 2006
Thomas Kleine-Brockhoff, Tolerance Toward Intolerance WP Tuesday, February 7, 2006
Cartoons crisis enters manipulative stage FT February 8 2006
Anne Applebaum, A Cartoon's Portrait of America WP Wednesday, February 8, 2006
Peter Schworm, Showing of Danish flag roils town BG February 9, 2006
Tariq Ramadan, At the crossroad of Islam, the West BG February 9, 2006
Jamil Momand, What would Muhammad do? LAT February 9, 2006
Kishore Mahbubani, The Opportunity of the Cartoon Crisis The Asian Age, 9 February 2006
Paivi Munter, A most un-Danish Dane FT February 10 2006
Those handy cartoons BG February 10, 2006
Anas Altikriti, This is not a cartoon war The Guardian Friday February 10, 2006
Susilo Bambang Yudhoyono, Let's try to get beyond caricatures IHT FRIDAY, FEBRUARY 10, 2006
David Ignatius, Hope Beyond the Rage? WP Friday, February 10, 2006
Charles Krauthammer, Curse of the Moderates WP Friday, February 10, 2006
Behind the cartoon protests CSM February 10, 2006 edition
Daniel Schorr, Balancing freedom and responsibility CSM February 10, 2006 edition
Robert Kuttner, Preserve values in cartoons war BG February 11, 2006
Jonathan Steele, Europe's cartoon battle lines are drawn in shades of grey, not black and white The Guardian Saturday February 11, 2006
Richard Chacn, Questionable cartoons BG February 12, 2006
Joel Pett, TOON - OP LAT February 12, 2006
Kishore Mahbubani, The Opportunity of the Cartoon Crisis The Asian Age, 13 February 2006
(コメント) ヒンドゥー教徒は,彼らの聖なる牛をデンマークのスーパーマーケットが売るからと言って憤慨しました.カルカッタ,ボンベイ,デリーで,デンマークの国旗が燃やされました.スリランカではデンマーク人の経営する農場が襲われ,ネパールではデンマークとの戦争が要求されました.これもベルリン危機と同じ,解決にはアメリカによる空輸が必要なのでしょうか? 「われわれは皆,デンマーク市民である.」
今,ムハマドの風刺漫画を自主規制する風潮であるものが,明日は新聞や書籍,放送,集会の検閲に至るでしょう.表現の自由は,積極的に擁護しなければ,容易に失われます.
しかし,イスラム教徒が自分たちの隣人であることを受け入れるなら,ヨーロッパ人は彼らにとってムハマドを描くことが些細なことではない,という事実を知っておくべきでした.他方,イギリス議会はthe Racial and Religious Hatred Billを修正し,他者を威嚇する発言を禁止する内容を追加する政府提案を否決しました.
ここでも明白になったのは,ヨーロッパのエリートたちが,内外のイスラム教徒のコミュニティーにおいて何が信じられ,何が起きているかを,まったく理解していない,ということでした.双方の自制と寛容,そして理解があれば・・・ イスラム教徒にもヨーロッパ社会にも,極端な原理主義者が存在します.イスラモフォービア(イスラム教徒への恐怖心)や原理主義者のテロは,解決をもたらすものではありません.・・・これは「文明の衝突」ではない.
Boston Globeの編集者であったH.D.S. Greenwayは,論評以上に,政治風刺漫画がしばしば激しい反発や抗議を招いた,と回想します.たとえば,中国の人権問題について.特に問題となったのは,ローマ法王について.それは政治的主張ではなく,漫画が法王のイメージ(高貴さや栄光?)を損なうからです.
ヨーロッパ各紙が転載しなければ,イスラム教徒たちはこれほど憤慨しなかったかもしれません.また,ヨーロッパにおけるイスラム教徒や,アメリカによるイラク占領がなければ,イスラム教徒たちは欧米社会の侮辱にここまで激しく反発しなかったかもしれません.
WPにおいて,Anne Applebaumは,アメリカ人が自分たちではなくヨーロッパの国旗が焼かれているのを見て喜ぶ感覚を指摘します.オスロで,高度な教育を受けたノルウェー人が,アメリカは世界でもっとも危険な国だ,と彼女に断言していたことを思い出します.
また,自主的な判断と称して漫画の転載を拒否した文化的左翼の偽善を攻撃します.しかし,1989年に出版された"Piss Christ"が大論争になったとき,小便の壷に沈むキリストの十字架像は,激しい抗議が起きても掲載しました.国内の信仰は無視するのか?
そして,右派の偽善も.ニューズウィークは,グァンタナモでイスラム教徒の囚人に自白させるためコーランを用いた,と紹介し,海外ではコーランを破ってトイレに流すことを強いたという疑惑にまで拡大しました.そして,同様に,抗議と暴動が起きたのです.これに対して政府と保守派はニューズウィークのでたらめを非難し,それによって死者が出た,と報道姿勢を攻撃しました.
Jamil Momandは,信仰を侮辱されるのはイスラム教徒だけではない,と考えます.キリスト教徒やユダヤ教徒も,小説や映画の材料にされて,信仰を傷つけられました.真の預言者であれば,こうした無意味な非難を無視して,もっと重要な問題に信者の関心を向けるべきである,と考えます.すなわち,ホームレスや世界中の飢餓,貧富の格差,そして,自由.
否応なく進む多文化,多信仰の社会統合過程で,私たちは互いに異なる価値を尊重し,平和な暮らしを築く相互の深い理解を必要としています.
BG February 4, 2006
A more democratic world rejects Bush's globalism
By Robert Kuttner
(コメント) アメリカはその技術や大衆文化を世界中で求められ,同時に,その経済支配と軍事介入を世界中で恐れられました.アメリカの大統領は,この対立した性格を効果的に使い分けたのです.
しかし,ブッシュの信奉する大企業版グローバリズムは違います.彼とネオコンの外交顧問たちは,帝国の拡大を賞賛し,民主主義とアメリカ的な市民社会,親米政権を世界中に輸出できると信じています.民主的な選挙によって反米政権が成立しているにもかかわらず.実際は,人々の間にアメリカへの怨嗟が渦巻いています.こうした怨嗟は,確かにブッシュが輸出したわけではありませんが,少なくとも彼は火に油を注いだ,(あるいは,石油地帯に火を放った)わけです.
FT February 6 2006
Time to tear down the EU's eastern barriers
FT February 8 2006
Enlargement an unsung success
By Quentin Peel
(コメント) もし薬を飲むのであれば,後回しにするよりも,早く飲むほうが良い.EU拡大の効果を発揮するためには,移民労働者に国境を開放して調整コストを恐れるよりも,今すぐに開放するべきだ,とFTは主張します.
既存の15カ国は,東欧からEUに加わった10カ国に対して,7年間,移民を規制する権利を認められています.その後の自由化についても合意されていません.しかし,EUの報告書は,移民を規制している12カ国が,自由化したイギリスやスウェーデンに比べて,移民流入を抑制できなかった,と主張しています.
移民自由化論が繰り返し主張するように,移民の流入は既存の職場を奪うわけではなく,むしろ雇用のミスマッチを埋めて成長を促す効果が示された,と考えます.イギリスには17ヶ月で29万3000人の移民労働者による雇用登録があったが,そのすべてが地域住民と問題を起こすことなく吸収された,ということです.
Quentin Peelも,アイルランドにおいて移民労働者への反発が表れたことなどを指摘し,EU拡大の利益を示すために,もっと投資を増やすべきだ,と考えます.EU拡大は,単に,安価な移民労働者が利用できる,という意味に限定されてはなりません.
WP Wednesday, February 8, 2006
By Harold Meyerson
(コメント) メキシコから低賃金労働者が押し寄せ,工場は中国へ逃避する.グローバリゼーションはアメリカの労働者や政治家に管理不能の怪物です.しかし,国境にフェンスを築いたり,非合法移民を犯罪者にする法律を唱えたりする政治家たちは,彼らが1994年に成立させたNAFTAこす移民が増えた理由である,ということを認めなければなりません.1995年に250万人であった移民は,その後,800万人も増えたのです.
NAFTAが,カナダ,アメリカ,メキシコを結ぶ共通の市民権と統一された経済的繁栄をもたらす,という祝福を実現する約束で成立してからも,メキシコからの移民流入は減少することなく,増加しました. Harold Meyersonの考えでは,その理由はメキシコ農業が競争によって解体し,また,メキシコの工業も厳しい競争でますます労働者を貧しくしているからです.リベラル派の経済学者,Jeff Fauxは,それを"The Global Class War"と呼びます.
1993年から2002年の間に,少なくとも200万人のメキシコ農民が土地を失いました.NAFTAはマキラドーラによる工場の建設によって労働者を吸収するはずでした.しかし,それは低賃金によって輸出するだけの工場でした.メキシコ政府も労働組合を禁止して,好況が労働者を豊かにすることを妨げました.メキシコ労働者の賃金は,アメリカの賃金に比べて,その後も下がり続け,さらに中国との競争が下落を強いています.
企業の利益だけに従う市場の秩序を強めるだけでは,メキシコでもアメリカでも,労働者は貧しく,無力になって,さらに不満を持つだけでしょう.
Feb. 8 (Bloomberg)
First Enron, Then WorldCom; Now Japan's Livedoor
William Pesek Jr.
Feb. 13 (Bloomberg)
Why the Bank of Japan Should Just Shut Up
William Pesek Jr.
Feb. 15 (Bloomberg)
Meet the Man Who Is Bringing Asia Together
William Pesek Jr.
BG February 8, 2006
Japan's history lesson
NYT February 13, 2006
Japan's Offensive Foreign Minister
(コメント) 欧米から見たとき,日本は何を期待(そして失望)させる国なのでしょうか? William Pesek Jr.が示した最近の日本に対する関心は,ライブドア,日銀,アジア通貨,でした.
日本にとってのエンロンが爆発しました.ライブドアによって示されたミクロの破綻は,日本経済のマクロの成果も否定するものだろうか? ここで,中国や民間企業の業績改善だけでなく,政府や規制・監督局が,日本の市場を正しく機能する条件を整備しなければならない,と考えます.
東京証券取引所,国債管理,少子化対策,女性の社会的進出,年金制度改革,・・・ こうしたことが解決できなければ,日本の景気回復は短命に終わるでしょう.そして企業経営の透明性と効率を改善することです.
同時に注目されるのは,金融政策の転換と政府・財務省の反対です.グリーンスパンが重視したような金融政策の《透明性》を,日銀は確立できていません.デフレや異常な金融緩和,政府との確執が続いているからです.日銀の福井総裁は,デフレ終結に焦って喋り過ぎであるが,他方,アジア開発銀行の黒田総裁は,日本の景気回復が長期的なアジアの発展と結びつく条件を模索している,とPesek Jr.は評価します.
アジア債券市場を望む黒田総裁の協力姿勢が支持される一方で,不必要な衝突を招く麻生外務大臣の発言は,ついに欧米の黙殺だけでなく,批判と軽蔑を招く混沌状態に向かいました.BGやNYTが,わざわざ麻生氏の植民地や戦争を正当化する言動や,中国政府に虚勢を張る無神経な攻撃的発言を,強く批判しています.欧米から見て,アジアで日本と中国が反目することほど好ましくない事態はありません.このような形で麻生氏が売名行為に走ることも,小泉改革の帰結でしょうか?
残念ながら,台湾海峡だけでなく,日本海沿岸にもミサイル基地を並べ,在日米軍を人質に使うことが,日本政府の新しい外交方針なのかもしれません.
FT February 9 2006
Selection of the central bank board is a fait accompli
By Francesco Giavazzi and Charles Wyplosz
(コメント) この論説は,EUの財務閣僚会議がECBの理事を指名する仕組みに,中央銀行の運営が妨げられる,と懸念を表明しています.
ECBの理事は,その出身国の代表ではない,と設立に当って主張されていました.しかし,実際は大国(フランス,ドイツ,イタリア,スペイン)の出身者に割り当てている状態です.また,中央銀行や財務省からの人選だけでは不十分だ,とも論説は指摘します.
FT February 10 2006
Tension over migrants puts walls around US
By Adam Thomson in Tijuana
WP Saturday, February 11, 2006
Two Immigrants, Two Standards
By Stacy Caplow and Lauren Kosseff
(コメント) アメリカでは,メキシコとの3200キロの国境にフェンスを築き,非合法移民を一掃して短期雇用計画を新しく機能させる,という提案が議論されています.また,アイス・ダンサーとしてカナダのオリンピック選手である者と,シエラレオネからの難民とでは,受け入れるアメリカの姿勢に違いがあることも議論されています.
同じ人間として生まれても,私たちは大きく異なった扱いを受けるのです.
NYT February 10, 2006
Driving Toward Middle East Nukes in Our S.U.V.'s
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) イランの核兵器開発.1バレル60ドルの石油.中国,インド,ロシアによるイランへの経済制裁.豊かな諸国のエネルギー問題.非アラブ産油諸国とスンニー派アラブ諸国の「ただ乗り」.・・・ フリードマンがアメリカの正しい外交政策,そして,望ましい国際秩序を,組み立てるための材料です.
The Guardian Saturday February 11, 2006
Risky business
(コメント) Ulrich Beckは,政治も科学もグローバリゼーションによって増大するリスクを管理できなくなった,と主張します.私たちは,個人で,管理不能になった多様なリスクに向き合います.近代化に成功することは,優れた技術や優れた市場に依拠して,ますます多くのリスクを引き受け,集団でそれを管理する事態になりました.最初の近代的なリスクに対しては,国家が,民主主義・経済成長・安全保障=治安,を提供しました.
グローバリゼーションがもたらすリスクを管理できるのは《コスモポリタニズム》だと考えます.近代社会は宗教から解放される,と考えられてきました.しかし,Beckは,無神論も価値体系の一つでしかない,と認めます.さまざまな異なった価値体系を含みつつ,リスクを管理する世界社会システムが誕生します.
LAT February 11, 2006
By Anthony Kuhn
FT February 14 2006
What India must do to outpace China
By Martin Wolf
(コメント) 中国では農民の抗議活動が頻発し(昨年,一日あたり238件),政府は地方に公共投資を増やすことや,農民に対して多くの権利を認めることで,不満を解消したいと考えています.今では,農民が都市に移住できるようになり,組合を結成して利益を守るようになり,地方政府の代表を選挙で交代させることもできるはずです.しかし,同時に,農民の抗議活動に対しては暴動鎮圧警察が出動します.
世界経済フォーラムでは,中国異常にインドの存在が注目を集めていた,と言います.しかし,賞賛はあくまで可能性に対してであり,成長の実績では中国を抜くことはできません.Martin Wolfは,インドが労働力や制度,投資の効率改善で,大きな可能性を持つことを認めつつも,それを引き出す条件は既に示されており,実現は容易でない,と考えます.すなわち,1.労働市場の規制緩和,2.零細企業への市場保護撤廃,3.農業の成長,4.インフラ投資,5.予算赤字解消,6.民営化,7.貿易自由化,です.
もちろん,因果関係は逆かもしれません.中国は急速に成長しているから国内の不満を緩和でき,インドは人口や財政に比べて成長が不足していたから改革が進まなかった,と.それは輸出や直接投資,ハイテク・ブーム,などによって逆転するわけです.
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The Economist, January 28th 2005
Health care: America’s headache
America’s health-care crisis: Desperate measures
Portfolio investment in China: Cooling down
(コメント) アメリカの医療保険制度や年金制度は,国民全体を包括しておらず,企業や保険会社がばらばらに顧客を集めています.それは欠点ではなく,競争を促し,さまざまな医療技術の革新を可能にしている,と記事は指摘します.
日本で病院に行っても分かるように,保険制度の問題は明白です.受益者と負担者が分離しており,しかも医療機関には高額で長期の医療を利益とみなす,という間違った誘因が示されていることです.アメリカの分散した民間の医療保険制度は,政府が方針を示せば,こうした点を速やかに解決できる,と記事は評価します.他方で,既得権に浸るアメリカの政治家たちも,決して根本問題には手をつけないだろう,と予想します.
中国に流れ込む資本も,人民元切上げによる投機的利益を狙う部分が,アメリカと中国との金利較差により一掃された,と紹介されています.為替レート調整のグラデュアリズムを支持する,言わば,もう一つの根拠なのです.
The Economist, February 4th 2005
Saving Japan from the shadows
Japan after Livedoor: From hero to zero
Political Islam: Forty shades of green
Trade in eastern Europe: Exporting success
(コメント) 先週の表紙を飾ったのは覆面をかぶったハマスの戦士たちでしたが,今週は日本のサラリーマンの漫画です.ライブドア事件が,どの程度,日本の経済改革を逆転,もしくは前進させるのか,まだ予測は分かれています.むしろ,イスラム原理主義にもさまざまな分派が存在しており,より世俗的な,イスラム社会の改革をめざす勢力もいることを紹介する記事が優れています.なお,旧ソ連圏の解体を,貿易や投資の自由化による世界市場統合の新しい根拠,とみなす議論が起きるのは当然でしょう.しかし,自由化の条件は,もっと具体的かつ詳細に吟味するべきではないか,と思いました.