IPEの果樹園2006

今週のReview

1/16-1/21

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :民主主義,アメリカの覇権

安全保障 :シャロン,中東和平

貿易・投資 :FTAベルギー・チョコレート

通貨・金融 :アジア通貨,中国の通貨政策,

世界統治 :G8,新興大国中国国際機関

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, JTJapan Times, CSMChristian Science Monitor


LAT January 4, 2006

Arrivederci, democracy

By Graham Allison

今週,ロシアが世界の指導的な工業民主国家からなる誉れ高いクラブ(G8)の議長国となった.しかし,ロシアが議長国となることが適当でない,それどころかG8のメンバーであることさえも適当ではない,と疑うものは多い.たとえば,中国は購買力平価で観れば世界第2位(ドル換算でも第3位)の経済規模を持つが,G8に招待されてもいない.その理由は,民主主義のテストに合格しないからだ.

ロシアが民主主義を放棄しつつあることについて,ジョン・マッケインとジョン・リーバーマンの二人の上院議員は,プーチン政権が「民主主義と政治的自由の弾圧」を止めるまで,ロシアをG8から締め出すようブッシュ大統領に求める法案を提出した.彼らは,法の支配が欠如し,独立したメディアを弾圧し,政府に対する批判を圧殺する,などの問題点を指摘した.

この提案を受けて,私たちは以下のような問いに答えるべきだ.

l         政府に優遇された民間企業から利益を得ている,その国のもっとも裕福な個人が統治している.

l         その国の指導者が,すべての国営チャンネルを個人的に支配している.

l         その国の指導者が,自分や友人たちを汚職によって告発されないように法律を書き換えている.

l         選挙の直前に,自分の政党が有利になるような変更を,憲法に加えている.

こんな国がG8に参加し,民主主義と称し,法の支配を受け入れていると言えるのか? イギリス,フランス,アメリカと一緒のテーブルについて話し合うべきか? 否,この国とはロシアではない.イタリアだ.

2001年にシルビオ・ベルルスコーニが二期目の首相となってから,彼は1990年代の改革をほとんど逆転させた.それらは安定した民主的政府を目指し,汚職を抑制するための改革であった.ベルルスコーニは,自分の政党が多数派を維持できるように,最近,最も重要な選挙制度改革を逆転させ,過去において政府の異常に頻繁な交代と非効率をもたらしていた比例代表制度を復活させた.

彼は政治汚職を告発する法律を無効にし,組織犯罪を増加させた.彼は自分のビジネス・パートナーが不正経理や贈賄,その他の重罪を免れるようにする法律を,議会に承認させた.さらにベルルスコーニは,国営テレビ局の,事実上,90%を支配している.彼は三つのネットワークを所有しており,公共放送に関しても,その経営者を選択する際に影響力を保持し,間接的に支配している.フリーダム・ハウスは,2003年の報道の自由調査で,イタリアの評価を「自由」から「部分的な自由」に下げた.

マッケインとリーバーマンはロシアにおいてプーチンが行った民主主義弾圧に正しい警鐘となる.しかし,ベルルスコーニの乱暴な介入を容認して,プーチンに口実を与えてはならない.アメリカは,ソビエト・ユニオンの元加盟国を断罪しながら,ヨーロピアン・ユニオンの加盟国を免罪するべきではない.

The Guardian, Thursday January 5, 2006

We must not kowtow to these undemocratic giants

Timothy Garton Ash

2006年はどんな年になるだろうか? 非民主的な,帝国的野心を持ったエネルギー大国が,露骨に,政治的理由で,民主的な近隣諸国を締め上げている.彼らはキーキー文句を言うが,石油と天然ガスを持つロシアには逆らえない.他方,中国は,共産党が支配する新興の大国であり,その経済的・政治的な勢力を拡張し続けている.西側諸国は,次から次へと中国政府にペコペコと頭を下げている.こうした事態は何をもたらすのか?

ヨーロッパ人の多くは,民主的な資本主義が歴史的に勝利した,というフランシス・フクヤマの意見に批判的だった.また,神とアメリカ軍に助けられてこの勝利を急がせる,というブッシュの企てを拒んできた.しかし,冷戦が終わって,われわれの多くが抱いた感情とは,より豊かになり,世界経済により統合された諸国は,ますます民主的になる傾向がある,というものだった.実際,ウクライナにおけるオレンジ革命は,こうしたリベラル派の楽観論を強めた.

The Economistの最新号は,情報を踏まえた予測を要約している.The World in 2006は,冷戦末期を含む過去20年間の予測を振り返って,2026年を予測している.多くの間違いが避けられないだろうが,報告の編集者はグローバリゼーションが維持されることを信じている.では,もし未来がそうならないとしたら,彼は何を理解しそこなったのか?

結局,この20年間は,冷戦の終結とその後の変化を支持する,歴史的に見て異常な条件があった,ということだ.20世紀のどの20年間をとっても,そこにはウィルヘルム王のドイツや,ファシストの枢軸,ソビエト連邦など,非民主的大国による軍事的な圧力が働いていた.より長期的に観ても,われわれはアングロ・サクソン型の民主的大国が単一の覇権を確立した時代の末期に位置している.最初はイギリス,その後はアメリカ.それは過去に無かったことであり,将来も二度と無いだろう.

確かに,現代世界もほとんどの大国が自由な政治体制である.その例外はサウジアラビアとロシアという「不労所得国家」であり,その非民主的なエリートたちは,ブルジョアジーが育たず,市民社会が無くても,生きながらえることができる.ガスプロムのような国営企業を介して天然資源を採取すればよいから.われわれが彼らのエネルギーや一次資源に依存している間は,その政治体制に変更を迫る手段などほとんど無い.

幸い,明日の超大国はいずれも,そのような腐敗を許すほど資源に恵まれていない.Goldman Sachsが有名な報告書でBRICsと呼んだ,ブラジル,ロシア,インド,中国は,この20年間で,現在のG6(カナダを除くG7)と同じ,世界経済の約半分を占めるようになる.The Economistの最新予測では,購買力平価で見たとき,中国が2026年に世界最大の経済規模になっている.第2位はアメリカ,第3位はインド,続いて日本やドイツ,となる.

現在,こうした諸国の多くは民主的である.世界最大の民主主義国であるインドは,経済大国の地位にも就きそうだ.ひどい政治腐敗を伴いながらも,ブラジルはなおフリーダム・ハウスが自由な政治体制に含めている.中国については深刻な問題がある.「レーニン主義的な資本主義」によって,中国は,資源採取型でない資本主義国が,より繁栄するにつれて,より自由になる傾向がある,という法則を打ち破るのだろうか? もしそうであれば,世界最大の経済が非民主的な国家によって支配されるだろう.もちろん,そのときまでにインドが中国と並ぶ,よりダイナミックな大国になるだろう.というのも中国の人口は高齢化するから.

ロシアが,特にヨーロッパにとっての最大の懸念材料だ.われわれはこのユーラシアの隣人に対してEU政策で協力する必要がある.しかし,より大きな問題はインドと中国がこの20年間でどうなるか,ということだ.もしインドが民主主義を維持し,中国も民主化の方向に進めば,The Economistはそのリベラルな楽観論を証明できるだろう.もしそうでなければ,それは1926年に1906年を振り返るホイッグ党員のようなものだ.

およそ,気候変動を除けば,今後の10年において,中国に対するわれわれの姿勢ほど重要なものはない.その完全な失敗例はHSBCのJohn Bond会長だ.彼は,かつてウェッブ夫妻がスターリン主義のロシアを誤って賞賛したように,共産党一党独裁体制が長期にわたって続くことを擁護した.彼はどのような政治体制の下でも仕事をしてきたし,一党支配下でも経済が繁栄するのを見てきた.民主主義も可能だ.人権については,もしここに中国の指導者がいたら,サー・ジョンは,人間の権利の第一に重要なのは,発達した西側の言うような人権ではなく,衣食住を満たすことだと言うだろう,と指摘した.コミュニズムにも有益なHSBCをよろしく!

彼は極端であるとしても,あらゆるところで中国への追従が見られる.レーニンが言ったように,資本家が売るロープは,誰でも縛り首にできるのだ.もしThe Economistの楽観論が実現してほしいなら,もちろん,われわれは中国を市場に取り込む必要があるが,それだけでなく,われわれの価値を捨ててはならない.彼らの価値をオウム返しに賞賛して商売するのではなく.

The American Prospect 01.09.06

The China Path

By Robert B. Reich

(コメント) Reichの論説は,まさに両者の警告を引き継いでいます.中国は,今やもっとも急速に発展する資本主義大国です.アメリカよりも多くの建設用クレーンが稼動し,モダンな自動車が失踪するスーパー・ハイウェーが伸びています.港湾や空港も,研究開発設備も,世界のトップ・クラスです.他方,貧富の格差が,毛沢東も赤面するほど急速に拡大しています.言論・出版の自由はなく,政府を批判する者は過酷な弾圧を受けます.市民的自由も,労働組合もなく,共産党以外に政治的な集まりも許されません.

中国は,共産党が一党支配する非民主主義国家なのです.Reichは,中国の成長により,経済的繁栄が民主化をもたらす,という原則に破綻が生じた,と言います.それゆえ,経済イデオロギーとしての資本主義と社会主義の対立ではなく,政治的な,民主的政治体制と非民主的政治体制の対立が重要になった,と考えます.

ところで,私は,長い目で見れば,独裁国家体制が経済的繁栄を破壊する,と思います.ソ連の計画経済による急成長や,韓国の開発独裁体制が示したように,経済危機は自壊的な社会変化をもたらすでしょう.中国が共産党独裁体制を維持しているのは,ある意味で,サウジアラビアやロシアと同じく,急速な富が大地からあふれ出す状態をエリート層が独占しているからです.ただし,サウジアラビアやロシアと違うのは,それが文字通りの大地ではなく,発言を許されない農民と労働者たちの大群だ,ということです.

むしろ,中国の成長が止まって,その政治的独裁体制を終わらせるのは確実なのです.問題は,それがフランス型の革命的破壊ではなく,イギリス型の段階的な政治改革として実現できるか,ということです.


NYT January 4, 2006

Social Insecurity Crisis

By THOMAS L. FRIEDMAN

石油と天然ガスに関わる世界情勢を見れば,それはすべて好ましくないものだ.たとえば,ドイツの前首相は選挙に敗北して退陣した後,ロシア大統領のために,ロシアが所有するパイプライン企業で働くことになった.石油・食糧交換プログラムの汚職は国連のイメージを汚した.イラン大統領は,1バレル60ドルの石油により流入する数十億ドルの資金で強気になり,ホロコーストが神話に過ぎないという暴言を繰り返している.ウラジミール・プーチンの石油で太ったロシア政府は,国内の市民的自由を着実に切り捨て,その力を海外では,ウクライナへの制裁に使い,あるいはレバノンにおける民主派候補を暗殺したシリアや,また,核兵器を開発しようとしたイラン政府に対する国連の圧力を緩和することに使っている.まだまだある.

1バレル60ドルが続けば,事態はさらに悪化するだろう.その最悪の事態を回避する意志と方法を持っている地球上で唯一の国は,アメリカである.

しかしアメリカは,問題をさらに深刻にするようなエネルギー政策を採っている.また,保障の削減,すなわちアメリカの財政を破綻させるような社会保障と医療保険の改革に向けて真剣に取り組まず,世界の安定にとって不可欠なアメリカの統治機能を損ないつつある.Michael Mandelbaumに言わせれば,「世界におけるアメリカの役割に対する最大の脅威は,中国ではなく,アメリカの医療保険制度だ」ということになる.

アメリカの外交政策は完璧とは言えないが,その軍事的な展開力,外交的な関与,世界経済とそのルールを護る死活的な役割を見るとき,この世界を安定化し,穏やかな変化に保つことができる国は,アメリカしかない,とMandelbaumは述べる.世界のほとんどの国がこうした状況を歓迎している.彼らは,アメリカが略奪者ではないと知っている.だから,アメリカが与える秩序を恐れていない.世界の秩序はすべての国に利益となる.ところが,そのコストはアメリカの納税者だけが負担する.その上,彼らはアメリカを批判しつつ,アメリカの与える利益だけは享受し続ける.その証拠に,かつての覇権国に対して形成されたような,アメリカに反対する軍事同盟は形成されていない,と.

「アメリカは国際システムにおけるライオンではない.ライオンは生きるために,弱く小さな者を脅し,食い物にした.アメリカはむしろ象だ.像は他の生き物の多様性を護る.肥料を与え,食事の際に栄養分を与えて,小さな哺乳類や鳥,昆虫などを護っている.他の国はいずれも,このような決定的な安定化の役割を担えない.しかし,それを続けられるかどうかはアメリカの納税者にかかっている.

アメリカのベビーブーマ世代は7700万人もおり,もし医療費の給付を削らなければ,アメリカの国家債務は2010年にかけて3兆ドル以上増えて,112000億ドルになる.・・・その利払いだけで5610億ドルに及び,それは国防総省の予算に等しい!

社会保障費を取るか,国防費を取るか? 増税は考えられない.歴史に従えば,アメリカ人は中国やインド,ロシア,イランのために世界の安定性を維持することよりも,自分たちの社会保障費を優先するだろう.つまり,世界の安定性を脅かす最大の脅威とは,アメリカが強すぎることではなく,弱すぎることである.


WP Wednesday, January 4, 2006

A Gentler Capitalism

By Harold Meyerson

(コメント) アメリカの保守派にとって幸せだった2005年は終わった.Harold Meyersonは,2006年に政府の役割が見直され,その復活が求められる,と予想します.特に,医療保険制度など,社会保障制度は国民に支持されるでしょう.なぜなら,人々はますます,一時的な短期雇用によって,貧しい生活と職場の移動を強いられるようになったからです.中年層だけでなく,若者でさえ,将来に向けたキャリアの形成に不安を感じています.職場や生活の安定性や見通しを奪ったグローバリゼーションやニュー・エコノミーに対する不満が,人々の間に広まっています.

二つの対応が見られます.どちらも効果は乏しいでしょうが,人々の宗教に対する関心が強まり,国境を越えて入ってくる貧しい移民労働者に対する怒りが強まっています.職場や生活に確実性を回復することは,望まれているけれど,解決できない難問だ,とMeyersonは書きます.少なくとも,経済環境は変わっても人間の性質は変わらず,後者に合わせて前者を変えるべきだ,と.


FT January 6 2006

A troubled legacy

(コメント) パレスチナ人にとっては不思議なことに,かつてシャロンのライバルであったPLOのアラファト議長が亡くなったとき,中東和平の行方が懸念されましたが,むしろアラファトの退場を歓迎する記事の方が多かったと思います.今度は逆に,脳溢血によるシャロンの政治的引退を惜しみ,中東和平の悪化を懸念する記事が多いのです.

FTの論説に要点が集約されています.イスラエルのシャロン首相は,かつてパレスチナへの違法な入植運動を指導し,1982年にはレバノン侵攻で有名になりました.ところがこの数年,シャロンは変身して中道穏健派を集め,イスラエル政治を大改造する新党を結成して,総選挙で勝利する寸前でした.

シャロンが唱えたパレスチナ問題の「最終的解決」は受け入れられなかったでしょう.しかし,彼が唱えたガザ地区からの入植者撤退は実現し,国際社会からも支持されました.それはブッシュ政権の強い支援を得る理由となり,また,ヨルダン川西岸を平和的に解決する将来の可能性が議論され始めていたのです.

こうした中東政治の転換は,逆に,シャロンのワンマン・ショーでしかなかったわけです.将軍から首相となった指導者がいたから,占領地の放棄もイスラエル国家の脅威とはならない,と説得できました.もはやシャロンに代わる指導者はいません.シャロンの抜けた新党Kadimaは,突然,リクードよりも魅力を失いました.

イスラエルの政治は,強硬派のリクードと和平推進の労働党が再び激しい対立を繰り返す時代になるでしょう.そして,国民に不安が強まる中では,強硬派のリクードが有利です.他方,アッバスのパレスチナ自治政府は,解放されたガザ地区の治安維持に成功しておらず,イスラム強硬派のハマスによって厳しく批判されています.

FTは,それでも,不確実性と危機が新しい機会にもなる,と示唆します.シャロンの方針に振り回されて発言しなくなっていたアメリカやヨーロッパが,今や中東の安定化に向けて,積極的に関与しなければなりません.公正で,持続的な和平案を作る交渉において,国際社会が創造的な役割を果たすべきだ,と主張します.

Helen Schary Motro A samurai's last stand BG January 6, 2006

Sharon's last battle The Guardian Friday January 6, 2006

Jonathan Spyer The biGGest shoes to fill The Guardian Friday January 6, 2006

Jonathan Freedland Israel braced for loss of its grandfather The Guardian Friday January 6, 2006

William Pfaff A flawed vision IHT FRIDAY, JANUARY 6, 2006

Jerrold Kessel and Pierre Klochendler The 'Sharon way' without Sharon IHT FRIDAY, JANUARY 6, 2006

How Sharon won Israel's trust LAT January 6, 2006

BENNY MORRIS In the Shadow of Sharon NYT January 6, 2006

Gershom Gorenberg The Bulldozer WP Friday, January 6, 2006

New era for Mideast peace process CSM January 06, 2006 edition

(コメント) ヨムキッパー戦争,レバノン侵攻とPLO追放,インティファーダ,オスロ和平交渉,・・・ Helen Schary MotroJonathan FreedlandGershom Gorenbergの興味深い記事は,イスラエル国民や国際社会にとってシャロンがどのような存在であったか,を教えてくれます.野蛮で,血塗られた,ラディカルな右派の戦争指導者として,シャロンを激しく憎むとともに,その政治家としての能力(しかも日本との通商条約締結に際して示した能力が紹介されています)を賞賛し,あるいは国父の一人と認めています.さらに,イスラエル政治の改革者,「民主的な専制君主」,ブルドーザー,平和的な入植地撤退のシンボル.

複数の論者が,オスロ和平プロセスを脅かしたラビン首相暗殺と比較しています.シャロンが体現していた「大イスラエル構想」について,幸いにも,それが実現することなく終わったことを祝福する記事もあります.イスラエルの安全と占領地の拡大.それがシャロンの宿命でした.ガザ地区撤退も,首相として,シャロンが計算した植民地への実質的支配継続であった,とWilliam Pfaffは指摘します.

合意に達することのない交渉や,終わりのない武力衝突を嫌って,それらを回避しつつイスラエルの安全を確保する道が,シャロンの築いた分離壁でした.一方的な入植地の放棄と壁の建設.シャロンが消えても,この壁は残ります.シャロンとその国民は,イスラエルとパレスチナが分離して生きる道を選んだのであり,政治家たちはその道をさらにたどるでしょう.

イスラエルとパレスチナの強硬派がシャロンの引退を誰よりも祝福しているだろう,というのは恐るべき事実です.彼らはシャロンの死を,一緒に祈ってきたのです.土地を交換するより,血であがなうことを譲らない人々.内外の強硬派に対して,シャロンだけが穏健な多数派の人々に発言の自由を保障できたわけです.もちろん,彼の政治的野心や使命感に照らして.

シャロンは軍事指導者,強硬派として,軍事力の限界を知っていたのかもしれません.その教訓を十分に生かすことなく,力を失いました.このことはまた,中東政治の主役が急速に入れ替わっていることを示します.

WP Friday, January 6, 2006

A Calamity for Israel

Charles Krauthammer

LAT January 7, 2006

The whitewashing of Ariel Sharon

Saree Makdisi

(コメント) Charles Krauthammerは,シャロンが唱えたイスラエル政治の改革を解説します.左派は和平交渉を主張してきました.それは1993年のオスロ合意において成功のチャンスをつかみ,PLOの武闘派がこれを利用し,ガザ地区やヨルダン川西岸に拠点を設けて,ユダヤ人を襲撃したのです.2000年の夏に,極端なまでに寛大な条件がキャンプ・デーヴィッド会談で示され,テロ(第二次インティファーダ)を抑えるよう求めました.その犠牲者は数千人に達し,アメリカの人口規模になおせば,約5万人のユダヤ人が殺害されたのだ,とKrauthammerは主張します.

こうして左派は信用を失い,2001年にシャロンが首相に選ばれました.右派は,パレスチナ人が平和など望んでいない,彼らはイスラエルの滅亡を望んでいる,と主張し,交渉するのではなく,入植地の拡大とイスラエルへの併合,を求めてきました.しかし,入植地ではパレスチナ人の人口増加が上回っているため,政治的にも財政的にも,永久に支配し続けることはできないと分かっていました.

シャロンが示した第三の道は,交渉することなく,一方的に国境を決めて壁(セキュリティー・フェンス)を築き,その外にいる入植者と兵士を引き上げることでした.結果的に,壁の外側はパレスチナ国家になります.それはガザ地区のすべてとヨルダン川西岸の93%になります(そしてユダヤ人の多い7%の土地はイスラエルに併合する).この政策は成功した.その証拠に,パレスチナのテロ攻撃は90%も減少し,イスラエル経済も回復した,とKrauthammerは指摘します.

その考え方は国民からも支持されており,左右の政治家を集めた新党Kadimaが次の選挙で勝利すれば確立されるはずでした.しかしシャロンには時間が足りませんでした.Kadimaは新しい理念が必要なときが来たことを告げています.しかし,指導者を失った党にそれを実行する力はないでしょう.

他方,Saree Makdisiが記すように,パレスチナ人とアラブ世界はシャロンの暴虐を忘れません.「シャロンの経歴は,1953年にQibya村での殺戮を指揮したことに始まり,そのすべてが流血に染まっている.そこで彼の兵士たちは,占領した人々と住宅を,まだ住民が隠れていたが,破壊した.1982年の破滅的なレバノン侵攻では,彼の軍隊がベイルートを制圧したのだが,水道,電気,食糧を断って,哀れな住民たちを数週間も陸海空からの無差別な爆撃にさらした.

難民キャンプでも殺戮を繰り返し,レバノン侵攻は何の罪もない2万人のパレスチナ人を殺す結果となりました.「シャロンの近年における和平アプローチも,その戦争アプローチと大差ない.超法規的な暗殺,大規模な住居破壊,醜悪なフェンスと壁の建設,住民の移転,そして違法な領土併合.これらが「勇気ある平和の人」という名目で彼がやっていることだ.」

彼は確かに多くの占領地を返したかもしれないが,それは元からパレスチナ人の土地だ.彼が残したガザ地区には何もなく,世界最大の収容所として残された.その他の世界からは途絶し,イスラエルが力によって実質的に支配している.この奴隷状態を平和と思うなら,あなたは狂っている.

Amos Oz From muscle to mystery The Guardian Saturday January 7, 2006

Bob Zelnick After Sharon's farewell BG January 8, 2006

Mark A. Heller Yes, Israel's center will hold IHT SUNDAY, JANUARY 8, 2006

Harvey Morris Sharon leaves Israel with both security and hope FT January 9 2006

James Carroll The arc of Ariel BG January 9, 2006

Max Hastings The Israel-Palestine conflict might be resolved by thinking globally The Guardian Monday January 9, 2006

Niall Ferguson After Sharon, which deluge? LAT January 9, 2006

Lally Weymouth For Sharon, A Fearless Crossing WP Monday, January 9, 2006

(コメント) ガザからの入植地撤退さえも,まだ何も成し遂げたことになりません.このままでは難民たちが生活できず,武闘派だけが支持を伸ばし,結局,武力衝突を生じて,イスラエルが軍事介入するでしょう.

ヒトラーがユダヤ人をすべて始末しなかったために,ヨーロッパ人たちは彼らをイスラエルと呼ばれる収容所に集めて始末することにした.しかもユダヤ人がイスラム教徒の聖地を占拠することで,彼らを互いに殺し合うように仕向けたわけだ.・・・ ようこそ,イラン大統領,アフマドネジャドの世界へ! そしてイランは核兵器の開発に励んでいます.究極の自爆テロも辞さない?

他方,解決不能に見えるイスラエルとパレスチナの紛争を,Max Hastingsは,世界中の領土問題と共通する側面で考えます.確かに,国境線は武力によって決まるものです.また,多くの主権国家が,その領土内に少数民族を抱えています.インドとパキスタン,ロシアとウクライナ,中国と台湾,日本とロシア,・・・南米,カナダ,バルカン半島,キプロス,ジブラルタル,・・・ドイツとポーランドの国境も書き換えられ,多くの住民を立ち退かせました.

再び,イギリスがアイルランドを併合したり,スコットランドが独立したり,(つまり日本が韓国や満州を併合したり,沖縄が独立する)ということは,起こりえないでしょうか? 条件や環境が変われば,それも起こりうる,と考えることです.しかし,隣接する土地を除いて,帝国は自主的に解体されました.国境は,主権の一部として固執することで紛争を長引かせます.他方,多くの新しい国境は住民に従った分割によって再定義されました.

イスラエルの主張は,この意味で,異常です.イスラエルは植民地を併合する,もしくは誰も住んでいない土地だから入植し,併合する,と主張します.国境線確定の重要な条件は,その後の社会的安定です.イスラエルが戦略道路を占領し,入植者を兵士が護り,壁に囲まれたパレスチナ・コミュニティーと並んで暮らすことは,常に,紛争や衝突を生じます.

また領土問題は,多くの場合,双方の合理的な妥協によって解決されることはなく,大国の介入によって決められました.あるいは,戦争や大量虐殺によって力の不均衡が生じるのです.1967年のパレスチナの敗北は,それ以前の国境線を変える理由になるでしょう.それを受け入れないパレスチナ人も,軍事的な優位によるイスラエルの驕りも,ともに安全を回復する障害となっています.シャロンの退場によって,この基本的条件が変わるわけではありません.

Niall Fergusonは,人口変化はイスラエルに不利に働き,アメリカの関与はイスラエルに有利に働く,と指摘し,このバランスがどう変化するか,に注目します.パレスチナ人を「国境」の外に追い出し,アメリカの支持を得たシャロンの選択は,まさにイスラエルの力を強めました.同様に難しい内外のバランス問題(ワイマール共和国とヨーロッパの平和か,それともドイツ・ナショナリズムの鼓舞か)を,1929年に心臓病で斃れたドイツの外相,Gustav Stresemannにたとえます.

Richard Cohen Following the Sharon Way WP Tuesday, January 10, 2006

Gershom Gorenberg Ariel’s Exit The American Prospect 01.10.06

Jonathan Freedland The next phase of Sharonism might have defeated Sharon himself The Guardian Wednesday January 11, 2006

Max Boot Ariel Sharon's unending legacy LAT January 11, 2006

THOMAS L. FRIEDMAN Wanted: An Arab Sharon NYT January 11, 2006

David Ignatius Can the 'Prince' Lead Israel? WP Wednesday, January 11, 2006

Jim Hoagland Is the Road Map's Moment Gone? WP Thursday, January 12, 2006

(コメント) 兵士の頃から,シャロンは命令に従わないことで有名でした.しかし今後,シャロン以外の者は,すべてシャロンに従うだろう,とRichard Cohenは述べます.「現実を直視せよ.優れた指導者は可能性を支配する.」 それがシャロンのイデオロギーでした.

ガザ地区から入植者を撤退させた後,同じことを,西岸については行えませんでした.そこにはあまりに多くのイスラエルやユダヤ教にとって重要なものがあったからです.また,そこにはあまりにも多くのアラブ人がいたのです.シャロンはアッバスを支援し,壁を建設しました.しかし,アッバスの力は弱く,武装した強硬派を野放しにしました.リアリストのシャロンは,パレスチナ人の最大の敵はイスラエルではなく,強硬派のイデオロギーとPLOの腐敗した指導者たちだ,と考えました.だから,かつては反対した壁の建設も,自爆テロに対して有効な対策が他にない,という理由で推進するようになりました.

この一方的な国境の分割に,パレスチナの誰も従わず,イスラエルの誰も逆らえません.これこそ,シャロン・プランです.THOMAS L. FRIEDMANも,同様に,アラブの側のシャロンが登場するのを待っています.


Lex: Asian reserves FT January 6 2006

Lex: Asian currencies FT January 9 2006

FT January 6 2006

Questions grow over China’s forex strategy

By Geoff Dyer in Shanghai and Andrew Balls in Washington

FT January 9 2006

China is set to remain the dollar's best friend

(コメント) 通貨危機を経験したアジア諸国はドルの外貨準備を累積していますが,それは利回りが低く,為替リスクを分散できません.もし中国や韓国がドル資産からの分散を進めれば,各国は争ってドルから逃避するでしょう.彼らが最も恐れるドル暴落とアジア諸通貨の暴騰を,結局,引き起こすわけです.

その不安は,中国政府の発表によって刺激されました.しかし,中国はまだ外貨準備の多くをドルで買い続けていますし,日本や韓国との連携もありません.むしろ外国企業の買収などで,外貨準備を減らす気配です.また,中国が売るドル建債券は市場の一部でしかありません.ドルに外貨準備(もしくは国際流動性)を依存している状態,そして各国がドル準備を一斉に分散もしくは売却しようとする状態が起きるかどうか,それをIMFや世界銀行は注意しているわけです.

FTの論説は,中国政府のドル準備抑制策が,実際には,ほとんど行えないことを指摘し,それが可能となるには一層の改革が必要である,と主張します.まず,ドル準備を財務省証券から,もっと利回りの期待できる債券や株式に移すことはできます.ただし,それにはリスクを伴い,流動性を犠牲にしなければなりません.中央銀行の資産に変化が生じ,長期の証券保有を増やす,という金融政策の変更に繋がるでしょう.

他方,ドル建て以外の資産に移す,というのは難しい,と言います.なぜなら,ドル建て資産市場に代わるような他の市場は見つからず,もしドル資産を売却すれば,それはドル安を招いて,現在の中国の為替レートをドルと一緒に減価させるか,もしくは人民元の減価を防ぐために(ほとんど固定したままの)ドルを買い支えることになるからです.人民元の為替レートをもっと弾力化しない限り,外貨準備の分散化は難しい,と考えます.

もしドル準備をこれ以上増やさない,と決めても,その場合,経常収支の黒字は続くので,流入するドルを外国の財・サービスの購入に充てるか,資産の購入(資本輸出)に充てるか,どちらかです.そのためには,人民元の増価を受け入れ,国内支出を刺激し,輸入をもっと自由化する,あるいは,企業や投資家の海外資産購入を許さなければなりません.それらは中国にとって必要な改革ですが,まだ時間がかかりそうです.

Jan. 10 (Bloomberg)

Asian Currencies Surge as Fed Looks Almost Done

Andy Mukherjee

IHT WEDNESDAY, JANUARY 11, 2006

Give the Chinese credit where it's due

Steven Dunaway and Eswar Prasad

NYT January 11, 2006

China's Trade Surplus Tripled in 2005

By DAVID BARBOZA

(コメント) アジア通貨は一斉に増価し始めています.アメリカではインフレ懸念が後退しつつあり,金利上昇が終わりに近づいた,と予想されているからです.アジア通貨が増価することは,石油価格の高騰に対処し,経常収支不均衡の調整を促し,アジア株式市場の回復を促す点で,歓迎されます.しかし,あまりに急速な,そして過度な増価は,特に輸出業者を苦しめるでしょう.中央銀行が極端な介入を試みれば,中国のようにドル準備が累積して,国内に過剰な流動性が供給されます.

韓国,タイ,マレーシア,中国,日本が,増価にどのような対策をとるか,Andy Mukherjeeは検討しています.これは,為替レートとインフレのどちらを重視するか,という問題を提起します.常に正しい,と言えるような決まった答えはないでしょう.

Steven Dunaway and Eswar Prasadは,中国が経常黒字を続けている理由を,人民元レートではなく,国営企業の膨大な利潤が再投資される国内の事情に求めています.中国では融資を受けることが難しく,企業は余剰の資金を保有する強い動機があります.国営企業は配当せず,国家にも利潤を吸い上げられません.だから,非効率な過剰投資を繰り返します.一人っ子政策のせいで高齢化が進み,教育費を蓄える傾向も貯蓄を増やしています.それゆえ改革によって,金融市場が必要な資本を,しかも効率的な用途に限って,自由に・円滑に供給できるようになれば,中国の経常黒字(すなわち国内の過剰貯蓄)は解消し,非効率な投資も減るだろう,と.


FT January 7 2006

Balancing Gazprom

FT January 8 2006

EU must grasp the nuclear nettle

By Wolfgang Munchau

LAT January 8, 2006

Russia's thuGGery backfires

By Rajan Menon and Oles M. Smolansky

FT January 9 2006

Partnership is the energy security key

By Jan Kalicki and David Goldwyn

FT January 12 2006

China and India forge alliance on oil supplies

By Richard McGregor in Beijing, Jo Johnson in New Delhi and Carola Hoyos in London

(コメント) FTは,EUがロシアの石油y・天然ガスに依存することに反対したレーガンが正しかった,とは考えません.その理由は,EUとロシアは一方的ではなく,相互依存であるからです.もしEUが利用しなければ,ロシアの石油や天然ガスは市場を失います.それは容易にドルと交換できません.

天然ガスの停止問題は,EU諸国のエネルギー政策に統一した対応を求めています.安定的な供給を目指して,特に,ロシアや中東の政治不安から逃れるために,原子力発電所を積極的に建設する国もあれば,安全性や環境保護の基準からそれを抑制している国もあるからです.たとえ政治家たちが罵り合っていても,ヨーロッパの単一市場が解決を迫るでしょう.

たとえばEUは,バイヤーズ・カルテルを結成し,さまざまなエネルギーを混ぜて利用し,各国がEU全体のエネルギー安全保障を高めるために,供給を多様化しなければなりません.今回の危機で,相互依存関係の深まりと,共同行動の必要性を,EU25カ国が再確認しました.他方,ウクライナには,今回の危機をソ連時代のエネルギー依存や産業構造のままでは生き残れない,という自覚を促し,経済改革に向けて政府が加速する必要を教えました.

OECDであれ,OPECであれ,中国とインドであれ,エネルギー危機に対する正しい,しかも効果的な対応とは,市場を通じた国際協力の拡大です.誰かを締め出すことは,破局的な選択を招くでしょう.


JT Saturday, January 7, 2006

No rest for 'China threat' lobby

By GREGORY CLARK

IHT THURSDAY, JANUARY 12, 2006

The myth of rising Japanese nationalism

Mitsuru Kitano

(コメント) Gregory Clarkは,最近の麻生外務大臣など,何人かの日本の政治家が「中国の脅威」について発言したことを,「中国脅威」派(ロビー)と称して批判します.それは,軍事・産業・インテリ(軍産知)複合体が,事実に拠らず,幻想や誇張によって国民を刺激し,党派的な利益を得るためのビジネスなのです.しかし彼らは,何十億ドルも無駄に支出し,何百万人もが命を落とす前に,もっと他の目標に向けて競争するべきでしょう.

Mitsuru Kitanoは,中国,韓国,アメリカなどで起きる,根拠の乏しい日本批判を退けています.


FT January 8 2006

Trade deal with Korea should be a priority for the US

By William Rhodes

CSM January 09, 2006 edition

For global progress, focus on fair trade

By Michelle Bachelet

FT January 9 2006

All at sea for the world trade talks

By Guy de Jonquieres

(コメント) アメリカと韓国がFTAを結ぶ理由とは何でしょうか? 日本もアメリカとのFTAを模索し,あるいはNAFTAに加盟するべきでしょうか? William Rhodesは,アメリカと韓国のFTAは,韓国が中国や日本とのFTAも協議していることから,アメリカが参加する東アジア自由貿易圏の一部になるかもしれない,と期待します.

もしWTOによる多角的貿易自由化が交渉によって進まないのであれば,各国は地域市場や主要貿易相手国とのFTAを模索するでしょう.そして貧しい国は,より公平な貿易を求めて国際会議に集まります.また,Guy de Jonquieresは,149カ国の合意を求めるのではなく,主要な世界貿易の参加者である50カ国が互いの利益を損なうような駆け引きをやめて,自由化交渉を主導するべきだ,と主張します.


WP Sunday, January 8, 2006

The Real Choice in Iraq

By Zbigniew Brzezinski

LAT January 9, 2006

Just a coup away

By Aaron Belkin

NYT January 9, 2006

The Nixon Syndrome

By BOB HERBERT

WP Tuesday, January 10, 2006

'Hearts and Minds' in Iraq

By Reuel Marc Gerecht

(コメント) イラクについて何を考えるべきか? ブッシュ氏は繰り返し,勝利することだけ,と演説しました.Zbigniew Brzezinskiは,勝利でも敗北でもない,選択可能な未来について,大統領も議会も真剣に検討するべきだ,と主張します.Aaron Belkinは,アメリカ軍が撤退した後のイラクがクーデタにより独裁体制に変わる危険を指摘します.BOB HERBERTは,ブッシュ氏が9・11テロに対して取った選択がアメリカの民主的原則や理想を破壊してしまった,と批判します.そして,プロパガンダよりも文化や社会・政治的価値の普及,について.


WP Monday, January 9, 2006

Globalization's Deficit

15年前は,国民国家の失墜を騒ぐのが流行だった.グローバル化した世界では,権力が超国家機関に移るだろう.すなわち,NAFTAやETO,欧州委員会,国連だって冷戦の麻痺状態から解放される,と.しかし今日,こうした傾向は消滅した.超国家的な制度は完全に消え去ってはいないが,前進する力を失っている.

経済的な制度から見てみよう.WTOが準備した最近の貿易自由化交渉は,各国が貿易に反対したからではなく,多角的な交渉で譲歩することに失敗したせいで,行き詰った.WTOのパワーを高めて,貿易摩擦だけでなく,労働や環境についても,国際紛争を解決しよう,という望みは潰えた.他方,EUの食糧規制やアメリカの綿花補助金といった,保護主義に反対するWTOの主張は,残念ながら,そのような政策を迅速に改善できなかった.同様に,1990年代,NAFTAの紛争処理メカニズムを労働や環境についての紛争でも利用する,という声が強かったが,それは実現していない.

IMFの役割は一層劇的に縮小した.1980年代,90年代と,そこには債務危機に陥った発展途上諸国の経済改革を指導し,1997年から2001年,東アジアからロシア,ラテンアメリカに及んだ金融危機を処理する,最高会議が置かれていた.しかし,今や東アジアは外貨準備を積み増し,ある意味で,IMFの支援なしに将来の危機を回避できる.ロシアにはオイル・ダラーが流入し,ブラジルとアルゼンチンは独立の姿勢を示すために,最近,IMF融資を返済した.アメリカの膨大な赤字,中国の通貨操作など,世界はまだ国際金融問題を抱えているが,IMFはそれらから逃げることに決めた.他方,世界銀行は民間融資があふれる世界において,その役割を再定義しかねている.新しい総裁はウォルフォヴィッツとなったが,ブッシュ政権にいたときと違って,彼もパワーの使い方を模索中だ.

政治制度も決して上手く行ってない.中国の台頭とその他の中心諸国が成長したために,毎年開かれるG8サミットも世界のキー・プレーヤーの集まりと言えなくなった.しかも,今回はロシアが議長国であり,さらに信用を失った.冷戦終結でよみがえるより,国連は危機に陥った.ダルフールの虐殺のような道義的責任を果たす行動さえも取れず,石油・食糧交換プログラムでは汚職にまみれた.制度や原則を近代化する試みは,昨年,立ち消えになった.EUは有権者により憲法を拒まれ,NATOもイラク問題では役立たず,統一性を失い,アフガニスタンで迷っている.ブッシュ政権の外交政策は,国際機関を通じて国際的な支持を得るのではなく,むしろ事後的に,有志の国と連合を組む,と明言する.

疑いなく,再び,振り子は反対に振れるだろう.いつか別の世界的貿易自由化交渉が成功し,アルゼンチンの指導者はポピュリズムを捨てて,IMFに資金を請いに来る.しかし当面,国際制度の挫折は衝撃的で,しかも深刻だ.確かに,国内的に見て,国民国家は国際機構より正統性を得ており,能力も高い.確かに,それらは国際関係の重要な単位であり続ける.しかし,近代的な移動とコミュニケーションによって緊密に編み上げられた世界において,国境を越える多くの政策課題がある以上,国民国家間の制度化された協力が,結局,成長するに違いない.金融危機,破綻国家,地球温暖化,鳥インフルエンザ,テロ.こうした問題が絶え間なく起きる中で,ついに,事後的な協調以上のものが現れるのだ.


FT January 12 2006

The Belgian chocolate theory of the dollar

By Paul de Grauwe

(コメント) 巨額の赤字を抱えたドルは減価するしかない,と誰もが予想しているのに,ドルが増価する! これを説明するために,Paul de Grauweは「ベルギー・チョコレートの理論」を提出しました.

「ブリュッセルのフード・フェアで売られていたベルギー・チョコレートの詰め合わせが,初日は9ユーロでよく売れていたので,二日目には15ユーロに値上げされた.そこで需要は減るはずだったが,減るどころか,二倍になった.最終日,2ユーロにまで値下げされたが,チョコレート・ボックスはちっとも売れなかった.」

その理由は,需要が価格を決めているのではなく,逆に,価格が需要を決めているからです.消費者はチョコレートの本当の価値が分からないから,価格の高いものが良いのだ,と思ってしまうのです.同じように,ドルの本当の価値も分かりません.およその範囲は推定できますが,厳密にどこで決まるとは言えないのです.それでも分からないことを認めたくないので,売買する際にアナリストの説明を利用します.アナリストたちは,現在の価値を正当化するような話を作って,それを売っているのです.こうした売買が大きいほど,ドルの価値は本当の価値を無視して動くようになります.

正しくは,ドルの価値をある程度の範囲で推定し,さらに経常赤字が累積するなら,大幅な減価が起きるだろう,と理解することです.しかし,いつドル安が始まるのか,も答えられません.

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The Economist, December 24th 2005

The proper study of mankind: A survey of human evolution

French anti-Americanism: Spot the difference

America’s most-hated companies: The very bottom line

(コメント) 人間の進化の歴史について,遺伝子レベルの追跡,心理学や社会学における進化の要因分析,レイシズムやレイプの《合理的》説明,脳の肥大化とより複雑な思考をもたらしたのは,人間の《恋愛》と《政治》であった,という実に奇想天外な話です.進化の末には何が生まれるのか・・・?

フランスにおける反アメリカ主義の蔓延,もしくは周期的な熱狂と憎悪は,両国に共通する,普遍主義的な人間主義,啓蒙期の世界革命思想,に由来するようです.自由や民主主義,世界の文明化を使命と感じるブッシュとドゴールは,まるで,政治的な双子なのです.

ビジネスが宗教と融合してしまうほど尊敬されるかと思えば,非難と悪罵を浴びながら権力により分割される,アメリカの大企業に関する考察も面白いです.スタンダード・オイル,銀行,タバコ会社,エンロン,ワールドコム,ウォルマート,マクドナルド,マイクロソフト,石油会社,・・・?

アメリカ人は大企業の製品やサービスから利益を得ています.アメリカ人は極端な富裕さもねたまず,むしろ賞賛します.しかし,アメリカ人が大企業を憎悪し始めるのは,彼らが消費者や市民に奉仕するのではなく,権力を集中(あるいは買収)して自分たちを支配するのではないか,と疑うときです.市場を独占し,コミュニティーを破壊し,法を破った,と知れば,大企業も政治家たちの扇動の餌食となって,分割されるのです.