IPEの果樹園2006
今週のReview
1/9-1/14
*****************************
世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
*****************************
IPE方法論 :エネルギー帝国主義,自動車文化
安全保障 :大西洋同盟,天然ガスの禁輸,
貿易・投資 :天然ガス・パイプライン
通貨・金融 :世界の不均衡と政策による危機への準備,
世界統治 :移民の擁護と阻止,中国
******************************
ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor
IHT WEDNESDAY, DECEMBER 28, 2005
Behind the smiles, trans-Atlantic bile
Reginald Dale(the Hoover Institution at Stanford University)
(コメント) 大西洋同盟は今後も強固でありうるか? Reginald Daleは,両者の異なった期待と楽観論を退けます.EUの中でも,冷戦終結後から,確かにアメリカや大西洋同盟を重視する人々は,「イコール・パートナーシップ」を目指して,今後の協調関係を重視してきました.しかし,確かに協力は必要ですが,アメリカ政府の側でEUを「対等である」と見なす者は少ないし,「パートナー」としても見ていないのです.
大西洋同盟の役割として,もはやヨーロッパの中ではなく,EUはバルカンやアフガニスタンの治安回復を強調し,アメリカはイラクと中東問題を重視します.国際秩序の維持や再編について,大西洋同盟がどのようにかかわるのか,どのような秩序を目指すのか,両者は意見を対立させたままです.ヨーロッパ人はアメリカと,特にブッシュ政権と協力することを,今も嫌っています.ブッシュはあまりにも野蛮で,危険である,と考えるからです.それは,外交によって国際紛争を解決するしかないヨーロッパが抱く,一方的な軍事力を行使して秩序を押し付けることのできるアメリカへの「ねたみ」でもある,と.
もし新年の抱負がかなえられるなら,アメリカ人がもう少しヨーロッパの意見を尊重し,またヨーロッパ人はもう少し聖人ぶらないで,アメリカの役割を公平に見てほしい,と.
JUDY DEMPSEY Ukraine Vows to Divert Russian Gas Exports NYT December 28, 2005
Neil Buckley in Moscow, Raphael Minder in Brussels and Roman Olearchyk in Lviv, Ukraine Russia prepares to turn off gas to Ukraine FT December 30 2005
Stand-off cuts gas supplies to Europe FT January 2 2006
(コメント) 3月に議会選挙を控えているウクライナのユシチェンコ大統領に対して,ロシアの国営石油会社ガスプロムは,天然ガスの料金を4倍以上(1000立方メートル当り50ドルから230ドル)に値上げする,と主張しました.それは西欧諸国に販売する市場価格を適用するだけですから,いわば,ユシチェンコがロシアではなく西欧との同盟に移ろうとしたことの代償である,と理解されています.ユシチェンコは,2年かけて料金やエネルギー政策をEU水準に一致させるから,まず80ドルにして,それまで待つように求めました.しかしガスプロム,もしくはロシアのプーチン大統領はそれを拒み,天然ガスをただちに止めるぞ,と脅迫したわけです.
ウクライナ政府はロシア寄りの姿勢に戻るか,値上げによって経済が破綻し,政府を批判する親ロシアの政治家が選挙で勝つだろう,と考えたのかもしれません.他の東中欧諸国がEUやNATOに加盟するのと異なり,安全保障や経済関係において,ウクライナはロシアにとってそれほど重要なのです.
この脅迫は,ウクライナ経由で天然ガスを輸入している西欧諸国にとっても深刻な政治問題です.ウクライナ政府は,西欧向けの天然ガスの15%を自国が使用する権利を主張し,ガスプロムが「盗み」であると警告しています.ウクライナには止めて,西欧にだけ送る,ということができない以上,途中で抜き取られるのをロシアが実力で阻止する,という問題になりかねません.もし紛争でパイプラインが破損すれば,結局,天然ガスの25%をロシアに頼っている西欧でも供給が止まってしまうのです.同じ様に,ロシアからの東アジア向けパイプライン敷設を,たとえ距離が遠く,費用がかかっても,ロシア領内だけにするか,中国領内にするか,日本と中国が激しく綱引きをしてきたわけです.
欧州委員会は加盟25カ国のエネルギー担当大臣を集めて緊急会議を開き,ロシアから脅迫を受けた場合,各国の備蓄を共有するなど,対応を協議しました.その後,ウクライナ向けの天然ガスを止める,というガスプロムの決定は,結局,ウクライナだけでなく(ガスの消費を止めることを命じていないから),イタリアが25%,フランスが30%,東欧諸国ではもっと大きな影響が出たと推測されます.ガスプロムは,ウクライナの違法な抜き取りのせいで減った供給を回復させる,と西欧諸国には通知しています.EUはウクライナとロシアの両政府に価格交渉の妥結を促すよう求めました.
ロシアは次回のG8で議長国となる予定であり,主要国から強く批判されるでしょう.また,国際エネルギー機構も,ロシアの対応はエネルギー供給国としての国際的な評価を大きく損なった,と述べました.各国には十分な備蓄があるとしても,大規模な消費企業などは石油への転換を準備し始めています.西欧諸国がエネルギー供給の多様化を急ぐのは確実です.
最終的に,両者の政治的な面子を守る妥協案で,早期の紛争終結に至りました.すなわち,価格は2倍になる.天然ガスの供給とその支払いは,ガスプロムが海外に設立する「怪しいshady」企業RosUkrEnergoが管理する.なぜ「怪しい」かと言えば,この合弁企業は50%がガスプロムの所有で,残り50%はオーストリアに設立された誰のものともわからない企業だからです.この企業にロシアは230ドルで売り,ウクライナは95ドルで買って,国民は50ドルで消費できる.その差額は,ロシアの天然ガスに,もっと価格の安い中央アジアの天然ガスを混ぜて,埋め合わせる,と.要するに,中央アジアのソ連式旧価格体系と,西欧市場を結び付けて,その価格差から莫大な利益を吸い上げ,ガスプロムと誰かがオーストリア経由で独占します.
ウクライナは,この価格引き上げで,主要な輸出産業である化学・金属分野の破綻を招くでしょう.しかもロシアは,パイプラインにより,ウクライナ市場への独占的なエネルギー供給をこの先も確保します.この合意には旧来の犯罪ネットワークも温存されただろう,とNYTは指摘します.
A Kremlin Cassandra BG January 1, 2006
Neil Buckley Gas pressure: why Putin is risking the West’s ire
SIMON ROMERO A Dispute Underscores the New Power of Gas NYT January 3, 2006
Russia fails a leadership test CSM January 04, 2006 edition
Federico Bordonaro Russia's lethal gas weapon Asia Times Online, Jan 4, 2006
Quentin Peel Putin’s gas logic is in short supply FT January 4 2006
Germans shrink from an old enemy's embrace FT January 4 2006
(コメント) すでに,プーチンの主任経済顧問であったAndrei Illarionovが,ロシアは「民主的」でも「自由」でもなくなるだろう,と2005年末に辞任するとき予言していました.国有資産を売買することで権力側のインナーサークルがどれほど国民を搾取できるか,たとえば,ウクライナの前大統領クチマが義理の息子に国営工場を8億ドルで売却し,その後,ドイツ企業がこれを48億2000万ドルで買う契約をして,その後,ユシチェンコによって無効にされたことが示しています.クレムリンのインサイダーたちは,石油やその他の資源を,ロシアの内外で富と権力を得る武器に利用するだろう,とIllarionovは予言したのです.
Neil Buckleyも,ソビエト時代の軍産複合体による支配と同じことを,プーチンは石油・天然ガスの供給によって行おうとしている,と述べます.1998年にロシアがG7に招かれたのは,その経済改革とNATO拡大を認めた政治姿勢に主要国が応えるためでした.しかし今回の事件は,「信頼できる,責任あるパートナー」として行動する,と期待されたロシアの姿勢を強く疑わせるものでした.特に,ロシアにいっそうのエネルギー供給を依存する予定であるドイツに,好ましくない懸念を残しました.ペテルスブルク市長のころから,プーチンは国営の,しかし民間資本を導入した,エネルギー分野の企業で,西側の多国籍企業と対抗できる,と主張していました.
ロシアがとった解決策は,まさに計画されたものであったようです.過去にも,ベラルーシやグルジアに対して,価格引き上げと合弁企業による解決策を示して,その利益を隠してきたのです.同時に,ロシアの命令に背かないように,周辺諸国の反ロシア的政治家たちを苦しめ,親ロシアの政治家を育てる意図もあったでしょう.そして,冷戦時にもドイツへのエネルギー供給を止めるようなことはなかった,というドイツ政府の常識を覆し,どのように憎まれようと,西欧のエネルギーと安全保障をロシアが握っている事実を示したわけです.
SIMON ROMEROは,天然ガスの国際貿易について考察します.石油よりもクリーンな燃料として,天然ガスの需要は増加しています.ガスの輸入国は,パイプライン(もしくは液化して運ぶタンカー)と一定の国内備蓄を必要とします.この市場に関して,Cambridge Energy Research Associates のDaniel Yergin 所長は,約1700兆立方フィートの推定埋蔵量(世界全体の27%)を持つロシアは,2位と3位のイラン,カタールを合わせた量にほぼ匹敵します.
当然,近隣諸国はロシアの天然ガスに依存することの脆弱性を心配して,たとえば隣国フィンランドのように原子力発電所を建設し,あるいは,G8のような国際協調の機会に,一方的な禁輸措置を非難し,そのような措置を取れないように牽制するはずです.他方,ガスプロムやロシアにとっても,禁輸措置の発動は,その他の地域,特にアメリカにおける天然ガス販売を難しくしました.ロシアがこの市場で支配的な地位に就くには,まず市場の構造が確立できなければなりません.しかし,液化技術はまだ高価で,確立されていません.かつてイタリアとの紛争で禁輸を行ったリビアは,むしろ,大きな損害を受けた,ということです.
Federico Bordonaroは,プーチンから見れば,互いの「友情」は,その安全と利益が守られているときにだけ成り立つ.ところが,EUやNATOは,ロシアの近隣諸国にまで拡大し,ロシアにとって我慢ならないところにまで手を出した,というわけです.ウクライナは,その宗教,文化,言語を1000年以上もロシアと共有してきた最重要な隣国です.ユシチェンコとティモシェンコとの大統領選挙に介入して以来,プーチンは親西欧政権が成立した後も,これを早期に退陣させるつもりだったと思われます.しかし,結果は彼の期待通りにならないようです.
Quentin Peelも,プーチンが短期的な目標にこだわって,長期的な利益を失った,と考えます.あるいは,彼がそうすることを避けられないほど,ウクライナの利権にかかわるインサイダーたちがプーチンの体制を支えているのでしょう.Peelは,エリツィンが残した混沌状態に秩序をもたらしたプーチンの手法は,明らかに,民主主義や所有権,自由な取引を後退させるような,ソ連時代の秘密警察や言論弾圧,そして資源をめぐる利権の独占に基づくものだった,と指摘します.先進諸国はプーチンがもたらした「安定化」を歓迎し,それ以外の点に甘かったことを,今,痛感しているはずです.
The Guardian Wednesday January 4, 2006
Oil, gas and imperialism
Daniel Litvin
FT January 5 2006
Energy scramble fuels new politics
Philip Stephens
(コメント) ウクライナへの天然ガス供給停止は,世界から帝国主義が消滅し,ソ連も崩壊した,と思っている人々の前に,突然,プーチンがソビエト帝国の介入主義を再現した,ように見えるわけです.しかし,とDaniel Litvinは指摘します,こうしたエネルギー帝国主義は決して例外ではない,と.中東への軍事介入,ラテンアメリカにおける革命や紛争,中央アジアにおける覇権争い,東アジアや東南アジアにおける国境紛争,・・・ すべてエネルギー帝国主義が今も変わりなく続いていることを示しています.
Philip Stephensも,石油やエネルギーの確保という動機が外交政策を決める点で,同様の指摘を行います.そして,市場が問題を解決する,という期待を否定しません.むしろ,暖房の温度を下げるべきだ,と.
Litvinは,その理由として,1.エネルギーの安定的な供給は市場システムが円滑に機能する条件であること.さらに,2.エネルギーの供給を維持するための膨大なインフラ投資と,その長期的・固定的な性格,を指摘します.それゆえ,たとえどれほど市場経済がうまく機能するとしても,国境を越えるパイプライン建設やタンカー輸送を保障する長期の投資と安全保障をめぐって,各国の帝国主義的な動機と国際対立は避けがたいのです.
現代の帝国主義としては,OPECやロシアが示したような,エネルギー供給国側のケースと,アメリカのイラク介入のような消費国側のケースがあるでしょう.そこでLitvinは,消費国が供給国の長期的な利益を重視するように訴えます.軍事的な介入や,供給国の政治的腐敗を助長するより,共同で開発し,長期的な繁栄を分かち合うことが望ましいでしょう.また供給国も,いつかは資源が枯渇し,あるいは代替されてしまうことを知るべきです.エネルギー供給による脅迫や強制は,供給国自身の多面的な利害を損なうでしょう.
Russia Shoots Itself in the Foot NYT January 4, 2006
MARK LANDLER Gas Halt May Produce Big Ripples in European Policy NYT January 4, 2006
Anne Applebaum Playing Politics With Pipelines WP Wednesday, January 4, 2006
Russia's Energy Politics WP Wednesday, January 4, 2006
M K Bhadrakumar The Russian bear trap Asia Times Online, Jan 5, 2006
Marc Grossman Meeting energy supply risks BG January 5, 2006
Celeste A. Wallander How not to convert gas to power IHT THURSDAY, JANUARY 5, 2006
Anatol Lieven The West's Ukraine illusion IHT THURSDAY, JANUARY 5, 2006
Jim Hoagland Putin, Acting in Character WP Thursday, January 5, 2006
Kremlin a la Saud WP Thursday, January 5, 2006
Siddharth Srivastava The politics of natural gas Asia Times Online, Jan 6, 2006
(コメント) NYTは,それでもロシアは中東に比べて安定した供給国である,と認めます.他方,EUやドイツに与えた衝撃は長く残るでしょう.
Anne Applebaumは,ロシアのパイプライン政治を批判します.なぜオランダ,メキシコ,ブラジルよりも経済規模の小さなロシアがG8に参加しているのか? 一人当たり所得では,マルタ,ブルネイ,チリ,ウルグアイより低いのです.かつては核兵器の流出を恐れられましたが,チェチェンの軍事介入に深入りして軍隊を消耗しています.今度は,国有化した石油会社やパイプラインを流れる天然ガスの封鎖により「超大国」であることを示したわけです.
ドイツのシュレーダー元首相は,ガスプロムがドイツに送るパイプラインの管理会社に,先月,会長職を得ました.ウクライナの次にドイツが,この脅迫に遭うかもしれないのに.そして,この脅迫から抜け出すには,パイプラインを断つか,ロシアを完全な民主国家として仲間にすることです.すなわちG8は,ロシアの人権抑圧や民主主義の否定,大統領選挙への政治介入,メディア統制,チェチェン介入,をやめさせるべきなのです.
M K Bhadrakumarは,アメリカの外交政策が旧ソ連圏のCIS諸国に対して不十分・曖昧で,各国政府がロシアの影響力回復・介入により葛藤を深めていることを指摘します.
Jim Hoaglandは,たとえグローバリゼーションや経済統合をいずれの国も避けられないと主張してみても,結局,国の違いはなくならないし,その性格が重要である,と考えます.つまり,ロシアはやはりロシアなのだ.少なくとも,その政治指導者の性格は大きく異なっている.ジョージ・W・ブッシュ,胡錦涛,ヒューゴー・チャベス,・・・ 彼らが物事を同じように理解するはずがありません.また,ロシア,ウクライナ,ドイツ,フランス,その他のヨーロッパ諸国,・・・ いずれにしても,彼らはその戦争体験や歴史,文化において,国際関係を解釈し,選択します.
あるいは,WPが期待するように,石油戦略で苦しめられた末に,サウジアラビアが石油市場を安定させて信頼できるエネルギーを維持したように,天然ガスの国際市場を安定させる役割を,将来,ロシアが担えるのでしょうか?
WP Thursday, December 29, 2005
Searching for Labor's Role
By George F. Will
The American Prospect 12.31.05
War on Immigrants
By Harold Meyerson
CSM January 03, 2006 edition
Westward ho! in Europe
(コメント) サービス部門の移民労働者も積極的に組織するSEIU(the Service Employees International Union)と,その委員長,Andy Sternの考え方を取り上げています.
アメリカ経済は好調でも,労働者たちは苦しんでいる.労働者のために分配を改善するべきだ.それは政府ではなく,労働組合の仕事だ.労働者の組織率を上げるべきだ.そして国際的にも連携できる.もし私が中国でも労働組合を組織できれば,アメリカとの貿易摩擦も緩和するだろう.アメリカ大統領選挙は民主党の候補者を並べた「クイズ・ショー」ではない.共和党だからと言って非難するわけではない.われわれの主張が重要なのだ・・・
Harold Meyersonは,移民自由化やグローバリゼーションの恩恵を説く経済学者も,移民排斥と人種攻撃,労働組合潰し,国境警備の自警団による強化,などを支持・喧伝する共和党の政治的主張にも反対します.
共和党が移民政策の転換を主張しているのは,当然,選挙対策です.ブッシュ政権がイラク政策や外交において驚くべき無能さを示し,その支持率急落を受けて,共和党議員たちが目をつけたのは移民労働者への国民的な不満でした.雇用者の指示を受ける共和党が,非合法移民を完全に阻止するつもりはなく,ただ有権者の関心を集め,自らの政治的な行動主義(男性権力崇拝・マチスモmachismo)を誇示し,有権者の人種偏見を正当化して,再選を目指しているに過ぎません.
他方,グローバリゼーションを擁護する経済学者や民主党の移民擁護派も批判します.なぜなら,彼らの主張は間違いだからです.明らかに,移民労働者は国内の未熟練労働者,特に黒人から職を奪っており,労働組合員を職場から追い出し,組織率や賃金を下げているのです.それらは,たとえ劣悪な労働条件や低賃金で国内労働者にとっても嫌われていたとしても,労働組合が条件を改善し,安定した雇用やよりよい賃金を獲得してきた職場でした.ハリケーン後のニューオリンズ復興でも明らかなように,建設会社はそこへ,半分以下の賃金で,組合に加入していない移民労働者を大量に雇い入れているのです.
Meyersonの求めるのは,労働組合の復活と労働法の強化です.そして移民を人種的に排斥したり,攻撃したりするのではなく,彼らの人権を擁護し,帰化・市民権を支持します.すなわち,労働組合や学校,地域社会に統合し,同じ条件で働き,生活できるようにすることです.さらに,メキシコへの経済援助を増やし,移民たちが故郷でもっと雇用されることを促し,アメリカに流入する移民たちの条件を改善するべきだ,と考えます.そして,世界の経済秩序が,より進んだ労働組合や労働基準・法に関する国際合意に従って再編されることを求めます.それを目指さない限り,グローバリゼーションによる労働・生活条件の悪化を阻止する方法は無く,共和党の政治的なデマゴギーに翻弄され続ける,と.
CSMが伝えるように,ヨーロッパでも同じように問題が起きています.アイリッシュ・フェリー会社が半分以下の賃金で,アイルランド労働者に代えて,ラトビアの労働者を雇う計画を発表した,というわけです.海運業やトラック運転手,漁業,その他,国境を越える職場には,規制さえなくなれば,外国人労働者が即座に進出できるでしょう.EUは,むしろこうした競争を促そうとしているのです.この数十年で数百万人のイスラム教圏からの移民を吸収した上に,所得の低い東中欧から新規加盟した10カ国の移民労働者もやって来るのです.
記事は,日本と同じく,ヨーロッパが移民労働者を必要としている,とも書きます.高齢化する社会のコストを分担することや,国際競争におけるメリットを期待するからです.たとえ労働組合が同じ賃金を要求しても,移民労働者は労働供給の逼迫した好況地域に流れて行く,と.むしろ送出国の側で「頭脳流出」が問題として指摘されます.
FT December 29 2005
Lex: Mexican peso
NYT January 3, 2006
Dwindling Debt Boosts Argentine Leader
By LARRY ROHTER
FT January 4 2006
Why Brazil and friends want the world to listen
By Mohamed El-Erian
(コメント) メキシコ,アルゼンチン,ブラジル,・・・ラテンアメリカは今後どうなるのか?
メキシコ・ペソは,昨年ドルに対して7%も増加したということです.それには直接投資や証券投資,海外からの送金など,健全な資本流入が続いた,と考えられますが,メキシコ経済が経常赤字を出し,中国への工場移転などが投資家の心理を逆転させるリスクは常にあるようです.NAFTAによってますます緊密にアメリカ経済と統合された結果,外部からのショックに弱くなっています.当然,政府は財政均衡などに細心の注意を払います.
他方,アルゼンチン政府は強気です.IMFからの融資をすべて返済して,国際的な圧力を無視できるようになったからです.IMFやブッシュ政権は,キルチンネル大統領の政治スタイルにとって敵であり,ベネズエラのチャベス大統領と「カラカス=ブエノスアイレス枢軸」を誇示することさえしました.しかし,インフレの兆候を無視し,それを警告する経済大臣を解任し,価格統制に及びました.後任の経済大臣は彼の「兵隊」に過ぎない,と言われます.
逆に,ブラジル政府はIMFとパリ・クラブからの融資を返済し,それによって自国の経済改革を進めてきたことと,その成果を,IMFやG7諸国に宣伝します.それはブラジルを含む,進行市場経済に広がる自信の表れだ,とMohamed El-Erianは考えます.各国は外からのショックに備えて「自衛」することを学びました.すなわち,外貨準備を積み上げ,不動的な債務を抑制するのです.対外債務を減らす動きは,IMFによる新興市場向け融資を減らし,IMFの財政状態を脅かします.IMFは一層の資本を必要とするようになり,そのことが各国の分担金見直しにも及ぶでしょう.
Dec. 30 (Bloomberg)
An Award-Winning 2005 for Asia's Economies
William Pesek Jr.
Jan. 4 (Bloomberg)
Six Asian Themes to Keep an Eye on in 2006
William Pesek Jr.
(コメント) 2005年のアジア重大ニュースをWilliam Pesek Jr.が表彰しました.1.起死回生大賞:日本(東証株価),2.データ修正部門:中国(GDP),3.SF部門:韓国(人ES細胞),4.テフロン復活部門:フィリピン(アロヨ大統領),5.悲劇の中の幸運・特別賞:インドネシア(地震と津波への救済援助),6.アメリカ議会びっくり大賞:アメリカの石油企業を買収しようとしたCNOOC(中国国営石油企業),7.最悪トレード大賞:みずほ証券(405億円の損失),・・・
2006年に関する注目点として,6つを指名しています.ただし,アメリカの株価予測も,円の減価も,中国経済の加速や人民元の微小な調整も,津波の後遺症も,正しく予測できませんでした.予測とはその程度のものです.とはいえ,1.人民元切上げ圧力の低下,2.アジアの短期金利上昇,3.債券価格の上昇とキャピタル・ゲイン,4.地政学的な危機が市場を動かすリスク,5.円高,6.中国の過剰設備とデフレ.
LAT December 30, 2005
A high-stakes nuclear gamble
By Leonard Weiss(the chief architect of the Nuclear Nonproliferation Act of 1978)
NYT January 3, 2006
Diplomacy's Fleeting Moment in Korea
IHT THURSDAY, JANUARY 5, 2006
Why North Korea will not give up the bomb
Bennett Ramberg
(コメント) イランと北朝鮮の核兵器開発はどこまで進むのか? 核兵器の拡散を防止する国際条約(NPT)は,すでにアメリカ政府により放棄されたのか? Leonard Weissは,ブッシュ政権がインドに対して核拡散防止条約の違反を容認し,原子力の利用に関する情報の提供を行う条約を結ぼうとしている,と批判します.この条約は,NPTを破棄するに等しく,並行して行われている北朝鮮やイランに対する核開発計画の放棄を求める交渉の意義を損なうでしょう.アメリカは,中国と敵対させるためにインドの核武装を助け,アル・カイダを捕まえるためにパキスタン政府の核技術輸出違反を放免しました.このようなダブル・スタンダードが,世界の核拡散やテロリストへの核物質の流出を助長するに違いない,と警告します.
ブッシュ政権は北朝鮮を強く非難し,罵倒することで,まるでクリントン政権よりも優れているかのように振舞いますが,核兵器や開発計画の破棄をめぐる交渉は進展していません.むしろ,後退です.彼らは今も核兵器を作り続けているのです.
Bennett Rambergは,解決に向けた二つの前例を示します.1991年の南アフリカ(実際に6個の核弾頭を保有),2003年のリビア(さまざまな密輸を行ったが,核兵器は未完成)が,ともに核兵器の開発を放棄し,査察を受け入れました.しかし,両国が核兵器という選択肢を手放したのは,国際的な孤立や軍事的圧力,エネルギー問題,経済危機に対して,もっと良い選択肢を取れると確信したからです.ところが,北朝鮮の支配層は,今の政治システムを手放すことができません.核を保有するしか現体制を維持できない,という理由で,その他の選択肢を拒み続けるのです.
JT Saturday, December 31, 2005
Testing times for Japan, China
By BRAD GLOSSERMAN
Jan. 2 (Bloomberg)
U.S.'s Rival in 2006 Isn't China, But Japan
William Pesek Jr.
JT Tuesday, January 3, 2006
Divisions, rivalries threaten new Cold War in East Asia
By KANG SANG JUNG
JT Thursday, January 5, 2006
U.S.-China ideological rivalry heats up
By ERIC TEO CHU CHEOW
(コメント) 日本と中国に加えて,韓国,アメリカ,ロシア,東南アジアなど,東アジアの新しい冷戦が始まることについて,さまざまな考察が可能です.日本は小泉政権とその後継者が中国政府との和解を望まない限り,外交的な孤立を選択する時期が長引きそうです.
世界第二の規模の日本経済が復活することは,企業や株式市場,国債,資本移動,通貨,国際政治に影響を及ぼします.
IHT SUNDAY, JANUARY 1, 2006
In rural China, a time bomb is ticking
Joshua Muldavin International Herald Tribune
Asia Times Online, Jan 5, 2006
Risky business in China's west
By David Nguyen
Asia Times Online, Jan 5, 2006
China battles rich-poor gap
FT January 5 2006
China hints at shift away from dollar
By Geoff Dyer in Shanghai and Andrew Balls in Washington
(コメント) 毛沢東が革命に成功する条件となった水準にも似てきたと言われるほどの,土地を失った農民の強い不満と土地収用をめぐる争乱が各地に起きています.西部大開発により,辺境のイスラム教徒たちへも中央アジアから国際的な影響が及んでいます.中国経済は高い成長率を達成している一方で,急速に拡大する貧富の格差が社会不安を高めるでしょう.従来の諸国が経験した都市化のスピードを,中国の諸都市は何倍も越えています.もっとも裕福な10%の国民は富の45%を支配し,最も貧しい10%の国民はわずか1.4%しか利用できません.
中国政府は,国内の経済安定化や成長の維持に,ますます政治的な権威をゆだねることになります.そして当然,資源やエネルギーの確保を目指して外交を駆使し,市場への影響力拡大を目指すでしょう.それが政治的,さらに軍事的な衝突のリスクを,内外で高めるかもしれません.すなわち,《帝国主義》の条件が現れるのです.あるいは,中国政府が約束するように,民衆の苦しみを緩和し,社会保障や医療制度を整備するために,企業や富裕層に増税する《福祉国家》を目指すのでしょうか?
中国政府は,その外貨準備や対外資産をUSドルから分散させていく,と発表しました.中国企業や通貨市場においても,次第にドル以外の資産が好まれるのでしょうか? スノー財務長官の要求は,いつまで人民元を切り上げよ,なのか・・・?
Wishes for a new world BG January 2, 2006
Jackson Diehl Our Latin Conundrum WP Monday, January 2, 2006
Eugene Robinson Top 10 Stories Of 2006 WP Tuesday, January 3, 2006
(コメント) アメリカ外交における2006年の抱負は何か? BGは,イラクや聖戦の鎮圧だけでなく,スーダンのダルフールにおける虐殺,エネルギーをめぐる争奪,グリーンなエネルギーを得る技術革新,超大国や経常赤字,エイズ,北朝鮮,イラン,そして,イスラエルとパレスチナが国家として平和に共存し,ビルマの軍事政権がアウン・サン・スーチーを解放して民主化を受け入れ,インドとパキスタンが和解する,・・・ 今はまだ,平和を願うことが,決してかなわぬほど高い望みではないはずです.
ラテンアメリカでは,長期的には成功する見込みの無い,左派のポピュリスト政治家が各地の選挙で勝利する可能性が高まっている,とJackson Diehlは認めます.
2006年の予言をコラムニストがしても,CIAがイラク戦争を「スラムダンクだ!」と請け負ったよりは罪が無い,とEugene Robinsonは大胆予測に取り組みます.@ジョージ・ブッシュは,その記録的な責任転嫁をなし続ける.Aイラクの新政権は「進歩」を成し遂げる.たとえば,・・・イランとの友好条約を結ぶとか.B議会は中国が融資する金を次から次へと使いまくる.Cライス国務長官は,大統領選に出馬することなど考えたことも無い,と答える.けれど記者たちに,しかし出馬を望んだことは無いというのは,出馬しないというわけではない,と説明する.Dヒラリー・クリントンは,上院で再選されるまでは大統領選挙に出馬しない,と言いながら,しかし批判に応えて・・・
FT January 2 2006
In the best of times, it’s wise to ponder the worst
By Kenneth Rogoff
FT January 3 2006
Readiness should be all in this new year
By Martin Wolf
(コメント) 経済学者というのは憂鬱な人たちのようですが,中央銀行家はとても心配性な人たちだと思います.その両方であるKenneth Rogoffは,2006年が順調に拡大傾向をたどりそうであるからこそ,さまざまな政策課題を着実にこなしておくべきだ,と警告しています.世界には,さまざまなリスクと,調整を待っている不均衡がいっぱいあるからです.もし基礎的な条件が健全であれば,危機は限定されます.そして,多分,正しい政策によって不況を回避できるわけです.
何が重大なリスクか? たとえば世界の安全保障上のリスクです.麻薬が運び込まれるのと同じように,ニューヨークに着くコンテナ船で核物質が密輸されるかもしれません.他にも,住宅価格のバブル,中国の景気,石油・エネルギーの供給,そして世界の金融システム,特にドル暴落のリスクがあります.
それにもかかわらず,各国の政治システムは機能麻痺を起こし,アメリカは財政赤字を削れず,ヨーロッパでは改革が進まず,アジアは為替レートの弾力性が足りません.彼は憂鬱で,さらに心配を重ねます.Martin Wolfの論説は,過去の傾向を延長して考える結果として,市場がリスクを楽観しすぎていることを警戒します.
NYT January 2, 2006
No Bubble Trouble?
By PAUL KRUGMAN
WP Wednesday, January 4, 2006
Waiting for a Soft Landing
By Robert J. Samuelson
(コメント) KRUGMANは,全国平均値ではなく,ゾーン規制された住宅地にはバブルが生じており,これが破裂すれば深刻なデフレ効果をもたらす,と主張します.
Robert J. Samuelsonは,楽観的な世界経済の予測が並ぶ中で,それを裏切る5つのリスクを予想します.1.住宅価格の暴落,2.ドル暴落,3.GM倒産,4.石油価格暴騰,5.金融引き締め,です.
BG January 3, 2006
Four-wheel nation
(コメント) アメリカは自動車文化=社会である,と誰しも確信しています.連邦の高速道路網が50周年を迎えたことを記念して,BGはシリーズを始めました.自動車と高速道路網は,アメリカの社会・政治システムそのものであり,さまざまな文化的・芸術的なメタファーとして,人々のアイデアを支配しています.イラクや中東世界を民主化する,という宣言は空虚ですが,具体的にイメージするものは中東世界を結ぶ高速道路の建設や,世界の情報に個人が直接リンクするインターネットの普及です.
自動車に乗ることは,自由であり,独立であり,冒険であり,(気に食わない両親や家庭,退屈な学校,田舎町,無意味な労働,現実のさまざまな問題からの)脱出を意味します.自動車の向かう先は全国に伸びる高速道路網であり,「フリーウェイ」と象徴的に呼ばれています.アメリカの公共圏は,環境的,社会的,政治的.経済的に,自動車によって作り変えられてきたのです.
1960年には7400万台の自動車,8700万人のドライバーが居ました.2003年には,それぞれ,2億3100万台と1億9600万人に増えました.アメリカ人が自動車で過ごす時間は,一日当り,1977年に58.35分でしたが,2001年には1時間21分に増えました.アメリカの民主主義,アメリカの一体性とは,自動車によって実現されている,と言います.
若者は不安と怒りを表現し,移民,都市の変化,カリフォルニアの新生活,行き先と魂を探します.自動車は,グラマーであり,ハリウッドであり,アカデミー賞の授賞式にスターたちが真っ白なリムジンから降り,赤いカーペットに進みます.輝くようなオープンカーに乗ったマリリン・モンロー.自動車は,ロック,ラップ,交差点で響く低音,パッシング,初恋,セックス・・・
他方で,自動車は急激な技術革新のタンクとなり,さまざまな電子機器が装備されます.BMWの新車には800もの機能が解説されています.自動車事故はますます飛行機事故に似てきました.すなわち,操縦かんの周りに氾濫する機器を人間が制御しきれないのです.しかし,これがアメリカです.
ガソリンの価格が1ガロン3.50ドルに上昇すれば,マッチョなドライバーたちもアメリカの旧式自動車を捨てるでしょうか? もしそれを立法化しようとすれば,彼らは激昂して叫ぶはずです.「俺はアメリカ人なんだ.何であれ好きなものに乗る権利がある.」 それがアメリカ人の常識です.
矛盾し,複雑な意味を持った機械.アメリカだけで毎年4万3000人を殺す.環境を汚し,地域間の政治対立をもたらし,静かな夜を奪う.しかし他方で,それは美しく,文明と同じくらい精巧で,欠くことのできないもの.それが自動車です.
******************************
The Economist, December 24th 2005
The IMF and Argentina: Nestor unbound
Entrepreneurship: Geronto-capitalism
The poor: The mountain man and the surgeon
Japan’s humanoid robots: Better than people
Churches as businesses: Jesus, CEO
The curse of oil: The paradox of plenty: One day soon poor countries may actually benefit from their natural resources
(コメント) クリスマスと新年特別号から,こんな問題について読みました.アルゼンチンはIMFの融資を返済して大丈夫か? 老人は早く引退するべきか? あるいは,老人たちに支配された資本主義? 同じ月600ドルほどの収入でも,コンゴの医師と,アメリカ・アパラチア地方にトレーラーで暮らす失業者の,どちらが幸せか? 日本人はなぜ人間の形をしたロボットを作りたがるのか? ビジネスとしてメガ・チャーチを経営することは正しいか? 「石油の呪い」を解いて貧しい者に役立てるにはどうすれば良いか?
その答えを要約すれば,・・・ キルチンネルは失敗するでしょう.インフレ,価格統制,選挙後に金融崩壊.・・・引退したくなければ,人に雇われていてはいけない.たとえば老人投資家は,皆,元気です.引退せずに金を儲け続けることが若さの秘訣.・・・日本人は機械や技術を憎みません.むしろ鉄腕アトムのように,人間のようなロボットとの交流を願っています.それほど人間同士の交流を嫌うから.・・・メガ・チャーチ(2000人以上が通う巨大教会)はすべてを顧客本位に作り変えました.信者を増やし,利益も増える.それでも宗教と言えるのか? もちろん,宗教だ.ただし,あまりにもアメリカ的な.・・・「石油の呪い」を解く呪文は,トランスパレンシー(透明性),あるいは「開け,ゴマ」.