IPEの果樹園2005

今週のReview

12/25-12/30

ようこそ,グローバリゼーション・・・・ さようなら,グローバリスト・・・

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :文明の崩壊

安全保障 :ブッシュ外交帝国主義

貿易・投資 :グローバリゼーション

通貨・金融 :Jコム株

世界統治 :ボリビア,中国の台頭,移民政策,EU

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, JTJapan Times, CSMChristian Science Monitor


WP Sunday, December 11, 2005

The Promise of Democratic Peace

By Condoleezza Rice

(コメント) ブッシュ大統領の家庭教師?とも言われる才媛,ライス国務長官による,非常に分かりやすいブッシュ式アメリカ外交の解説です.それは,見ようによっては,現代の『リヴァイアサン』,もしくは『共産党宣言』でしょう.《デモクラティック・ピース》は民主化によって平和を主張するはずですが,逆に,世界中でアメリカによる体制転換介入や戦争を正当化する,というオリンピック鉄棒の後方二回宙返り一回ひねり!? ・・・のような議論を冷徹に示します.《ニュー・スピーク》では,前進は後退であり,平和は戦争である・・・

彼女は,「自由で,民主的で,平和な世界についてのわが国の考え方が,将来,一般化する」ことをアメリカ外交の基本と見ています.ただし,それを実現する条件は大きく変わってしまいました.主権に依拠した大国間の平和によって,この目標が達成できると考えた時代は終わったのです.ライス女史は,領土的な大国の平和に代えて,領土を越えて広がる民主主義を,そして,それを実現するために(戦争も含めて)行動するアメリカを,支持します.

国境を越えて,平和や繁栄を築くためには,その政治体制が民主的であることが重要なのです.その例は,破綻国家が撒き散らす疫病やテロリズムであり,9・11であり,具体的には,中東地域です.中東の独裁者や破綻国家を放置することはできません.アジア的な価値も,ラテン文化も,スラブ的専制政治も,アフリカの部族主義も,民主化を拒む口実にしてはなりません.民主的な体制以外に,国際システムが許すべき選択肢は無い,と主張します.

しかし,彼女の《民主主義》の定義は曖昧です.・・・法の支配? 敵にも自由を認める? アメリカが許す限り・・・? アメリカは行動しなければならない,と言います.アメリカという国家は常に革命的です.しかし,同時に慎重でもある,と.中東の現状維持を認めては,国内保守派の不満を抑えられないからです.

かつて,第二次世界大戦後に,冷戦に直面してディーン・アチソン国務長官が国家の基礎を据え,アメリカが国際的に行動したからこそ,現在のヨーロッパでもアジアでも,こうして民主主義が栄えているのだ.だからライス国務長官は断言します.私も信念を持って行動する,と.アメリカが中東を民主化しなければならない!

WP Friday, December 16, 2005

Beyond 'Democratic Peace'

By Susan E. Rice

The Guardian Saturday December 17, 2005

(コメント) Susan E. Riceは,ライス国務長官の論説を批判します.その目標は正しいが,手段はよく言って不十分なものでしかない,と.たとえ民主主義国家が戦争することは好まないとしても,民主主義だけで平和を保障し,テロを取り除けるわけではない.脆弱な民主主義はしばしば破綻国家への入り口である.そもそも世界中で深刻な貧困が広がる地域に,安定した秩序や民主主義を確立することは難しい.関心を中東だけに限定することも正しくない.また,そもそもなぜイラクだけに予算を集中するのか? その結果,旧ソ連圏では民主主義が後退している.エジプトの大規模な不正選挙と暴力による支配を民主主義の勝利と呼ぶのは間違いだ,と.

The US is now rediscovering the pitfalls of aspirational imperialism

Linda Colley

Googleで「イラク」「アフガニスタン」「アメリカ」「帝国」を入れて検索すれば,この4つの言葉に関連するサイトを約350万件も見つけることができる.罵詈雑言だけでなく,真面目な議論も多く行われている.「アメリカは帝国か?」「もしそうであれば,それはどんな帝国か?」「軍事的・経済的に強大な力を持つ国でも,その意志を他国に強いることが難しいのはなぜか?

1939年以前は,世界がさまざまな帝国に支配されていたが,第二次世界大戦後,脱植民地化を終えてからは,人々が帝国について持つイメージは二つの神話によって形成されている.一つは,現地人のために近代化を行う保守派の帝国建設イメージと,圧倒的な軍事力によって(ヨーロッパの)意思を押し付けるイメージである.どちらも「帝国」が歴史的にあった以上に強いものとして意識される.

しかし,中国が大陸規模で展開した帝国のように,征服と移民によって数百年も続いた,強力で持続する帝国ばかりではなく,19世紀のイギリスが運営した帝国の多くは,今日と同様,「非公式な帝国」であった.アメリカは,たとえイラクで問題に巻き込まれているとしても,公式な植民地は持っていない.アメリカは,およそ130カ国に軍事拠点を維持し,介入を行い,影響力を行使しており,また,これまでの帝国がそうであったように,多くの従属国家や傀儡国家のネットワークを広げている.イギリスもその一つである.

海外に帝国を築いて直接支配することは難しく,また脆弱なものである.イギリス帝国の最盛期においても,たとえばアフガニスタンに支配を確立できず,あるいは,エジプトにおいては薄弱な権力でしかなかった.帝国におけるビクトリア女王の宝石と称えられたインドでさえ,インド人からなる膨大な軍隊と警察によって維持され,しかもインド亜大陸の3分の1は現地の王族たちが支配し続けた.

最も困難な帝国とは,ネオコンが理想としたような,現地社会を作りかえる帝国であった.彼らは,アメリカの国際主義が旧世界の改善に繋がる,と主張した.こうしたアメリカの理想主義は,過去の帝国主義に含まれた冒険的企てとよく似ている.ローマ帝国も,清王朝も,ナポレオンのフランスも,イギリス帝国も,単に経済的な欲望に駆られて征服したのではなかった.より優れた,公正な,進んだ文明をもたらすために,その文化や政治様式を輸出したのである.

このように見れば,ジョージ・ブッシュがアメリカ型の民主主義を中東に移植し,信仰の自由や,女性の権利,法の支配を,必要ならば軍事力を使ってでも広めようと望むことは,かつてのイギリス帝国を思い出させる.今週のイラク選挙も成功と見なされたが,こうした野心的な帝国主義には顕著な問題がある.すなわち,もしあなたが住民たちを銃で脅し,見下ろしながら話すとしたら,彼らがあなたを優れた文明人であると思うだろうか? ということだ.さらに,帝国の理想はしばしば支配の実際的な必要に圧倒されてしまう.合理的で,近代的,人道的な政府を輸出するより,地元の,おぞましい支配者や追従者に支配を委ねることになる.なぜなら,それが最も安価に支配する方法だから.アメリカがイラクでどれほどうまくできるのかは,まだ分からないが.

帝国の理想と地上の帝国との格差は拡大し,現地の人々だけでなく,支配する側の人々にも失望をもたらす.リチャード・コブデンやジョージ・オーウェルのような帝国主義の批判者たちは,海外における冒険主義が国内の良識や自由を損なう,と主張した.また,アメリカでチャーマーズ・ジョンソンのようなジャーナリストたちが批判しているように,海外の軍事介入に多くの財政負担を強いられることで,国内の普通の労働者たちが生活水準を悪化させる,と主張してきた.

他国を作り変えるのは,たとえ侵略者としてでも,非常に困難な,見込みの無い企てである.帝国というものを信用しなかったアダム・スミスは,世界の他の部分が「相互の恐怖」を強めることで国境を尊重するようになった,と書いた.かつて,西側諸国は支配される側から攻撃される恐怖を持たずに帝国を維持できた.しかしアル・カイダが劇的に示したように,そのような時代は過去のものとなったのだ.

WP Tuesday, December 20, 2005

Imperial Assumptions

By Eugene Robinson

(コメント) ジョージ・ブッシュは,ニクソン以来,縮小してきた大統領の権限を「帝王的な水準」にまで拡大した人物となりました.勝利か敗北しかない,と,それらを定義することもなく,彼は断言します.だから,アメリカは勝利するまで戦う.撤退に関する質問など受け入れる余地はない.私が必要なことはすべてやる.それだけだ.

憲法第二条は電話にもインターネットにも言及していない.だから私は盗聴する.そして,私は厳密に憲法に従っている.・・・アメリカは法律によって拷問を禁止している.だから私は,海外のCIAに拷問させる.・・・9・11によって,私や閣僚たちが感じたように,アメリカ国民は感じたはずだ.イスラム原理主義を打ち負かすためには,アメリカ的な価値を無視する必要がある.・・・ まだ質問する気か? 国賊め!


Dec. 14 (Bloomberg)

Roach, Friedman Disagree About World's Shape

William Pesek Jr.

トーマス・フリードマンは新著『平坦な世界』で,グローバリゼーションと技術革新がもたらした世界を魅力的に描いている.私にとって,それはたとえばスリランカだ.

彼の本を読んでから,コロンボの町を歩けば,インターネット,グローバリゼーション,ベルリンの壁崩壊,によって国境が失われた世界で,姿を変えた企業と市民の姿を見出す.彼の考えでは,中国,インド,旧ソ連圏という,三つの経済圏から膨大な労働力が一つの平らな土俵に追加された.

しかし,スリランカは世界がまだ多くの場所において平らではないことを教えている.この島には2000万人が住み,フリードマンによれば,グローバリゼーションが貧困や戦争,独裁から解放してくれるはずであった.

しかし,グローバリゼーションを受け入れようと努力したにもかかわらず,スリランカの一人当たり年間所得は2004年でも1000ドルをわずかに超えるだけだ.1960年代にはタイよりも高かったが,今では半分以下である.だから先月,新大統領は外国投資家への国有資産売却を停止し,企業への課税を強めた.

「平坦な世界,というのはグローバリゼーションの最終局面で言えるかもしれないが,それはたとえ起きるとしても,何十年も先の話だ.」 モルガン・スタンレーのS・ローチは最近のレポートに書いた.まだ当分,世界経済はさまざまに分割されており,その結果生じる不均衡が金融市場に噴き出すだろう.

フリードマンの本は,経済を開放し,資本や職場をある国から他の国へ移すことが,いかに安定性を脅かすかを良く示している.しかし,ローチのレポートは,フリードマンの本を正しく論駁する.「グローバリゼーションは長期的にはウィン・ウィンであるだろう.しかし,今,ここにおいては,深刻な非対称性をもたらしている.」

それは,フリードマンが間違っていることを意味しない.ローチも「グローバリゼーションを大衆にもたらす」ことを賞賛する.フリードマンは平坦な世界の利益を説き過ぎるのだ.ローチの考えは今について正しく,フリードマンも将来に実現するかもしれない,ということを,今週,香港に集まったWTO代表たちと反対派の活動家たちが示した.

農業補助金削減,工業製品の関税引き下げ,外国投資について,ブラジルやその他の発展途上諸国,アメリカ,EU,インド,などがまったく異なる提案を行った.グローバリゼーションに関するその他の広範なテーマは,一層,手に負えない.

ローチは,世界がITで繋がることにより一気に縮小するが,その連結可能性のために激しく闘っている,と指摘した.グローバリゼーションは中国やインドを国際経済に組み入れ,安価な財やサービスを提供する一方で,彼らも繁栄し,裕福な諸国から製品を買う消費者になる.しかし,供給面で新規参入する多くの人々に比べて,需要面では少ししか消費者が増えていない.インドを例外として,アジアはまだ大幅に外部の需要に頼っている.とローチは指摘した.行過ぎた消費をアメリカの消費者が行うことで,アジアの急速に増大する生産力は供給を続けられるのだ.

われわれが香港で見ているのは,グローバリゼーションの不均衡が裕福な諸国の労働者にもたらす深刻な結果である.その証拠に,最も豊かな諸国が農業補助金を削ることに抵抗するだけでなく,さらに,中国の通貨を強くするように求めている.

これまで,発展途上国の経済はグローバリゼーションから取り残されていた.1980年代,90年代に,アジアは急速かつ情熱的に世界に開放され,マクドナルドやウォルマートが増えたが,安定した成長と外国投資は確実ではない.アメリカの称える開かれた市場,国境なき貿易がアジアを魅了し,企業も市民もその利益に酔っている.

そんなとき,グローバリゼーションの暗黒面が現れてきた.発展途上諸国は以前から知っていたが,それとも違う形で,裕福な諸国では反動が起きている.フリードマンが最後に正しいと言えるためには,ローチらが指摘する問題を解決しなければならない.


NYT December 15, 2005

Who Will Bring Water to the Bolivian Poor?

JUAN FORERO

CSM December 16, 2005 edition

Bolivia's charge to the left

Mark Engler and Nadia Martinez

(コメント) 帝国主義も多国籍企業も,貧しい小国の選挙に勝てません.ラテンアメリカでは,街頭で抗議する群集の圧力により,多国籍企業やIMF,ネオ・リベラリズムが後退し始めています.アルゼンチン,エクアドル,ベネズエラ,ボリビアで,急進的な左派が権力を握るでしょう.穏健な左派政権は,ブラジル,ウルグアイ,チリにも成立します.その政策や成果はさまざまですが.

JUAN FOREROは,アメリカのBechtel,ボリビアのSemapa,反対運動を組織したカリスマ指導者Evo Morales,と地方の貧しい農民たちの関係を描きます.農民たちは水道を建設してほしい.しかし,Semapaには金が無い.組織は腐敗し,水道にはコストがかかる.しかし,値段を上げることができず,その負担は財政赤字になる.世界銀行やIMFの指導で財政健全化や市場自由化,外資導入を決めました.しかし,Stiglitzが批判するように,自由化だけで問題は解決しないのです.民営化された鉄道は破綻しました.Bechtelは水道の供給地域を拡大し,料金の値上げを要求しました.そのとき,政府がそれを拒めないとしても,Evo Moralesなど,議会の指導的政治家たちが群衆を煽動し,街頭に出て抗議活動を繰り返した,というわけです.結局Bechtelは追放され,Semapaの事業として残されるけれど,資金不足で水道工事はできず,財政赤字が増えるでしょう.民衆の外資攻撃やナショナリズムに支持された政府は,安価な輸入品を攻撃し,外資への増税,採掘量の引上げを求め,左派の経済大臣が協同組合を支援するでしょう.けれど,そうした政策の結果,地方の貧しい農民が水道を利用できる日は決して来ないのです.

日曜日の大統領選挙で,左派のEvo Moralesが当選し,アメリカはラテンアメリカへの支配力をさらに弱めるかもしれません.しかしMark Engler and Nadia Martinezは,もしブッシュ政権が民主化を望むなら,この変化を歓迎するべきだ,と主張します.ボリビアではワシントンの好む経済政策が民主主義と対立しています.すなわち,石油・天然ガスの会社が民営化されたが,外資によって買収され,大きな利益を上げながらボリビアには還元されていない.その資源を渇望するアメリカ経済に輸出するという政府の決定に,ボリビア国民が激しく抗議し,二人の大統領を倒したのです.指導者となったEvo Moralesは,確かに極貧のコカ採取労働者で,労働組合の指導者でしたが,麻薬の密売業者ではないし,チャベスやカストロの仲間でもない,と主張します.ボリビアの貧しい大衆に利益をもたらす政策を求めることが,民主主義に反するはずがないし,保守派が拒むような,危険なものでもない,と.

Bolivian bridges FT December 20 2005

Richard Gott The challenge in the south The Guardian Tuesday December 20, 2005

Sue Branford and Hilary Wainwright The lesson from Lula The Guardian Wednesday December 21, 2005

Don't do Chavez a favor in Bolivia CSM December 22, 2005 edition

(コメント) FTはアメリカ政府に,Evo Moralesを慎重に扱うよう求めます.何よりも,ボリビア国民の多数が彼を支持したからです.その政策はせいぜい未熟なものであり,実現できるかどうか,疑問です.しかし,アメリカ政府は過激なレトリックに過剰反応するべきではない,と.

Richard Gottは,Evo Moralesがチャベスをまねた政策を採用する可能性を示唆し,しかし,ボリビアの歴史と,それが示す分離・国境再編など,深刻な国内問題を指摘します.

Sue Branford and Hilary Wainwright は,ブラジルのLuis Inacio Lula da Silvaによる左派政権と比較しています.ルーラは政権に就くと過激なレトリックを控え,IMFと協調して堅実な政策運営を採用しました.しかしその後,大規模な政治汚職が露見して,政府与党の威信を弱めました.貧しい者を支持基盤として,既得権と戦うことが正しい道だった,と主張します.

市場開放によって豊かになれなかった大衆がいる限り,反米のレトリックによって左派の政権がラテンアメリカに成立することは,これからも続くでしょう.


Asia Times Online, Dec 15, 2005

China's version of the American dream

By Richard S Ehrlich

(コメント) ラオスやミャンマーに近い中国深南部,メコン川沿いの辺境都市JINGHONGから,Richard S Ehrlichが中国版アメリカン・ドリームを伝えています.パンク・ファッション,ショッピング・モール,北京語のラップ・ミュージック,・・・

TVを点ければ,たとえ検閲されても,過激でダイナミックなアメリカ式の広告,娯楽,メロドラマ,報道番組で満ちています.ゴールデン・タイムにはスポーツ,タレント,そしてビキニ姿のセクシーな女性が刺激を強めます.アインシュタインの格好でトニックを薦め,超高層ビルを背景に猛烈社員たちがインスタント・ラーメンを食べまくる,・・・

ブッシュ大統領の訪中は,突如として,CCTVのアメリカに関する批判的報道を増やしました.本土防衛,愛国者法,盗聴,拷問,アブグレイブ.被告に対して何の法的保護も無い中国がアメリカを非難することに皮肉を感じることもなく.

ハリウッド映画も輸入されます.しかしハリー・ポッターの新作,炎のゴブレットを,30元も支払って,二階建て複合映画・ショッピング・モールで観る人は少ないでしょう.貧困層の多くが,まだ,あばら家,もしくは,じめじめした場所に集まって生活しています.彼らの通う工場,商店,農場のトラクターは旧式で,ボロボロです.

それでも,少女たちは中国版MTVで観たぶかぶかのズボンやスキー・キャップでスタイルを競い合い,ミニー・マウスの付いたブラジャーや,ベティー・ブ−プのハイソックスを買い求めます.次第にアメリカの商用シンボルがすたれ,コーカサスの生活スタイルが宣伝されるとしても.

ナイキやリーボックなどの海外ブランドをまねた製品が氾濫し,マクドナルドはまだ無いとしても,地元のレストランが中華風のハンバーガーやフライド・チキンを売っています.アメリカでもヨーロッパでも,都会の壁に並ぶ風俗店の広告や宣伝写真が,ここでは12桁の電話番号としてだけ壁に書かれています.

地方政府は観光地としての知名度を上げようと競い合い,景勝地を囲い込んで入場料を取ります.また若くて美しい女性たちを集めて,観光客に踊りを披露させます.書店では毛沢東の勇姿で飾られた2006年のカレンダーが,「人的肉体芸術」などと銘打ったポルノ写真集と一緒に並べて売られています.

FT December 17 2005

Understanding China

BG December 19, 2005

China's role in North Korea

By Jason Qian and Anne Wu

FT December 20 2005

A vicious Sino-Japanese cycle of rhetoric

By Minxin Pei and Danielle Cohen

Dec. 21 (Bloomberg)

Size Matters and China Just Got Much Bigger

William Pesek Jr.

(コメント) 巨大化した越前くらげに驚くよりも,中国経済の規模が修正されたことにFTが驚くのは当然です.新しい統計によれば,中国のGDPは以前の規模を約3000億ドルも上回り,一気に,イギリスもフランスも抜いて,おそらく過小評価されている為替レートによる換算でも,ドルで計った世界第4位の経済大国になりました.それは以前から予想されていたことですが,中国の台頭は既に世界を動かしているわけです.

本当にこの規模があれば,過去の不良債権は吸収できるし,設備投資はバブルではなく,東南アジアなど,周辺地域の景気浮揚にも十分な影響を及ぼすでしょう.外国企業を引き寄せ,アメリカ市場の影響を分散し,新しく財・サービスの需要をもたらすでしょう.既存の技術革新を吸収し,世界の交易条件を変え,豊かな国の賃金や雇用に影響を及ぼし,資源や一次産品の国際価格を上昇させます.

中国が朝鮮半島の非核化を交渉によって指導できるかもしれません.しかし,日本とアメリカの政府と大衆は,互いを軽蔑するレトリックのエスカレートにより支持を得る悪循環を止められません.そこでMinxin Pei and Danielle Cohenは主張します.まず,日本政府は,中国と韓国を誹謗する,人種差別的な漫画を禁止すること.中国政府は,インターネット上の反日表現を検閲し,削除すること.

CSM December 20, 2005 edition

A year without 'Made in China'

By Sara Bongiorni

Asia Times Online, Dec 23, 2005

Santa's Chinese elves

By Pallavi Ayar

(コメント) 中国製品で満ちた「クリスマス」に憤慨するアメリカ人が,世界中のクリスマス・ショッピングに生産拡大を託す中国の工場労働者に対して,隔離と差別を呼びかけるとしたら,破局を呼ぶのか,あるいは理性的に扱えるのか?

クリスマス・プレゼントを,中国製とそうでないものに分けた結果,2514で,中国が非中国世界を圧倒したことにショックを受けて,ボストンのBongiorni一家は,アメリカではなく一つの家庭として,中国製品に対する禁輸措置を決定します.中国製品は何一つ自宅の境界線を越えることを許さない,と.

子供のために靴を買うにも,10ドルの中国製ではなく60ドルのイタリア製を買い,退廃した気分になります.テレビが故障したら修理さえできず,旧式のテレビを持ち出しました.クリスマス・プレゼントを買うのも諦め,子供たちに自分で編んだ寝袋を用意しました.幼い息子はお風呂の中で,一日でも早くクリスマス・シーズンならぬ「チャイナ・シーズン」が来るように,と祈ります.

他方,世界で売られているクリスマス商品の70%を生産し,驚くほど安い値段で,英語とスペイン語のホーム・ページに載せ,注文を受けます.しかし工場で働く貧しい労働者たちの多くは,クリスマスが何であるか,も知りません.


Lex: Tokyo Stock Exchange FT December 15 2005

David Ibison in Tokyo Japan brokers refuse to repay J-Com profits FT December 19 2005

Fat finger fall-out FT December 22 2005

(コメント) FTのLexは,Jコム株式のご発注に関して,自主的な返還や基金の設立ではなく,緊急時の特例として注文を即座に取り消す規則を定めるべきだ,と主張します.私もまったく同感です.誰が,何のために,このような手の込んだ詐欺行為を正当化する仕組みを考えたのでしょうか? 機関投資家から返還させて,個人投資家は放置する? 基金で何をするのか? 国産のコンピューター・システムを擁護するためだけなのか?

FT December 16 2005

Sense of shame is not enough

By David Pilling

Dec. 23 (Bloomberg)

Mizuho Fiasco Pushes Japan Inc. to Grow Up

William Pesek Jr.

(コメント) 仲間型の恥を避ける社会から,ルールを重視した良識による社会に変化するしかない,とDavid Pillingは考えます.William Pesek Jr.は,法外な利益を得た外資に対する日本の主要メディアが示す反応に,日本型社会主義の熱狂を見ます.社会契約や社会的責任について,日本政府や市場監督者はもっと大人の議論を展開しなければならない.外資系の投資銀行を道徳的に責めるのは,子供の言い訳でしかない,と.


Frances Williams Package sought for world’s poorest nations FT December 16 2005

KEITH BRADSHER Farm Goods Impasse Stalls Trade Talks in Hong Kong NYT December 16, 2005

Guy de Jonquieres and Frances Williams WTO ministers head for compromise agreement FT December 17 2005

Alexandra Harney WTO protesters and police in violent confrontation FT December 17 2005

KEITH BRADSHER Trade Officials Haggle on Issues From Lower Tariffs to Cotton Subsidies NYT December 17, 2005

Guy de Jonquieres and Frances Williams WTO deal fails to heal rifts FT December 17 2005

Alexandra Harney How it all ended in teargas for host Hong Kong FT December 18 2005

Guy de Jonquieres Tentative steps forward seen as better than none at all FT December 18 2005

Doha trade round is left on life support FT December 19 2005

KEITH BRADSHER Trade Officials Agree to End Subsidies for Agricultural Exports NYT December 19, 2005

Philip Bowring: Silver lining in WTO talks IHT MONDAY, DECEMBER 19, 2005

Andrew Balls in Washington, John Reed in Johannesburg, Hugh Williamson in Berlin and Tom Braithwaite in Paris Resigned response to limited WTO deal FT December 19 2005

FT reporters At a glance: the Doha challenge FT December 19 2005

KEITH BRADSHER Orthodoxies on Trade Worn Down in Marathon NYT December 20, 2005

Doha's poor yield LAT December 21, 2005

(コメント) 交渉経過を伝え,その成果を伝える記事や論説のほとんどが「失望」を表明しています.あるいは,破綻するよりは良かった,と書くだけです.

Dec. 16 (Bloomberg)

WTO and Its Protesters Failing Stiglitz Test

William Pesek Jr.

Dec. 19 (Bloomberg)

Ayn Rand vs Korean Rice Farmers in Hong Kong

William Pesek Jr.

NYT December 16, 2005

Yes, We Have Bananas. We Just Can't Ship Them.

By TIM HARFORD

The Guardian Saturday December 17, 2005

The Hong Kong paradox

Pietra Rivoli

FT December 19 2005

Comment: A recipe for mass unemployment

By Guy Ryder, ICFTU general-secretary

(コメント) William Pesek Jr.の「失望」は,むしろWTOの貿易自由化交渉に抗議する人々が正しく理解していないことについて向けられます.世界の貧しい人々を救いたい,発展途上諸国で儲ける企業の重役たちが所得格差を拡大することに憤慨する.そのような意図が,自由化交渉を妨げる形でしか発揮されず,大国の保護主義と小国の不利益をもたらすのです.彼らはグローバリゼーションが不足していることに抗議するべきだ,と.韓国の農民たちが香港まで来て,激しい暴力的な抗議活動を展開しました.しかし,彼らは知りません.経常収支不均衡や円安を放置することが自由化を制限し,グローバリゼーションの利益を貧しい者から奪い去っています.

TIM HARFORDは,たとえ裕福な諸国が農産物市場を自由化しても,発展途上諸国の貧しい農民が輸出できる条件を持たないことに「失望」します.Pietra Rivoliは,問題を「開発」から裕福な諸国の「農業補助金削減」に矮小化してしまったことに「失望」し,国際労働組合の委員長としてGuy Ryderは雇用の破壊を進める自由化について検討していないことに「失望」します.

FT December 19 2005

Strong blend puts trade talks back together

By Jagdish Bhagwati

(コメント) Jagdish Bhagwatiだけは,香港においてドーハ・ラウンドの成功を確信します.NGOsは分裂しました.香港に集まった閣僚たちは,農業補助金削減にも,発展途上諸国の関税引き下げにも,そのための援助にも,前向きの合意を示しました.


NYT December 17, 2005

Australia's Dangerous Fantasy

By EVA SALLIS

LAT December 19, 20, 21, 2005

Caught in the overlap of two societies

The quiet assimilation of the undocumented

Rebuilding the nation of immigrants

By Lydia Chaveza professor of journalism at UC Berkeley

(コメント) 先週の日曜日,オーストラリアのシドニー郊外Cronulla Beachで起きた白人の若者によるアラブ人への襲撃事件は,反移民感情を公然と示して暴力行為に及んだものです.何千台もの携帯電話に,レバノン人たち(‘Lebs’)を「襲撃する日だ」というメッセージが送られました.「われわれはここで生まれた.お前たちは出て行け!」とか,「エスニック・クレンジング(人種抹殺)部隊」と書かれたTシャツを着た若者たちが襲撃に加わっていました.

白人だけの国というのはまったくの幻想です.しかしオーストラリア政府の,公式には人種差別など存在しないと言いながら,移民・難民を差別的に強制排除する政策や「テロとの戦い」,国境・外国人への管理強化が,こうした極端な反移民感情を広める条件として指摘できます.移民やアラブ系のエスニック集団に対する理解を促すよりも,排斥と偏見,暴力行為を放置する姿勢が悪循環を生んでいます.

Lydia Chavezによる一連の論説は,270万人に市民権を与えたレーガンの1986年移民法改正から,その後も1100万人の非合法移民を加えた末に,現在のブッシュ政権が新提案を示すまで,を考察しています.それは非合法移民の雇用主に罰金を科さなかったからです.ブッシュ氏は,移民受入国としての伝統を重視し,国境警備に追加の投資を行い,非合法移民を地下経済から救い出し,段階的に合法化する,と主張しています.まず一時雇用許可書を与え,その後,帰国してから再発行することを検討する,と.

ここには,アメリカが移民なしには生きられず,移民とともにも生きられない,というジレンマが示されています.メキシコ北部には多くの失業者が集まっており.アメリカの工場や農場は,仕事を中国やインドに取られたくなければ,彼らを雇うしかないのです.アウトソーシングが嫌なら,メキシコ人をインソーシングする.しかし,彼らを一時的に雇用する,というのは幻想です.彼らがいなければ故郷の田畑は荒廃し,帰国することなど望めないからです.彼らは非合法移民となって永住します.

地方政府はどうか? 彼らは決して非合法移民を排除しません.彼らがいなければ経済は機能しないからです.むしろ市民と同じように扱い,歓迎します.国籍に関わらず,住民たちの自治が重んじられます.彼らを問題なく統合することが重視されているのです.同時に,彼らは納税し,社会保障費を支払うように促されます.そして銀行口座を持ち,子供たちを学校へやり,運転免許を得るのです.「合法であれ,非合法であれ,住民たちは一緒に暮らさなければならないのだから.」 彼らが国境をどのように越えたかによって,その基本的な権利を損なったり,生活水準を悪化させたりするべきではないのです.

なぜワシントン(連邦政府)もそうしないのか? まず,移民法改正の主要な動機である「非合法移民の処罰」はやめるべきだ.むしろ新しい労働者たちが経済に円滑に吸収され,彼らを社会に統合する新しい方法を見出すべきだ,Lydia Chavezは考えます.非合法移民を全ていったん帰国させてから労働許可書を発行する,という共和党の案も,彼らが許可された機関を終えてから帰国しない場合は,永住から帰化へ向けて11年間準備する,というジョン・マッケインとエドワード・ケネディーの案も,Chavezは現状に対して不十分だと批判します.

非合法移民への処罰が望ましくないのは,それが社会の弱者を罰するものであり,また,われわれが望めば移民の多くは止めることができたからだ,とChavezは指摘します.彼らを雇用せず,彼らの免許書を認めなければ,彼らの多くはアメリカに来なかったでしょう.その代わりに,企業もアメリカの労働者を高い賃金で雇用できたはずです.アメリカの労働者が,同様に,安い賃金で,畑の厳しい労働に従事すれば良いのです.

この国に住む者が,公平かつ迅速にアメリカ社会に統合されることこそ,正しい移民政策である,とLydia Chavezは考えます.


FT December 18 2005

US housing binge will have inflation hangover

By Stephen Cecchetti

Asia Times Online, Dec 21, 2005

Bernanke and the hyperinflation fear

By Axel Merk

(コメント) たとえ日本のバブルや不良債権処理ほどではないにしても,バーナンキは問題に直面しているようです.アメリカの住宅市場は金融緩和の行き過ぎでバブルを長引かせた末に,連銀の金融引き締めによって漸く抑制されたものの,過大な債務が残りました.インフレの懸念もある中で,このまま金利を引き上げるべきかどうか? いずれにしても債務のレベルを下げるためには,貯蓄を増やして不況を招くか,インフレを促して名目所得を増やすしかない,というわけです.新議長の判断は? 結果的に,2003年のインフレ率は急落し,デフレに近づいていたわけです.あるいは,統計数値を入れ替えて見れば,問題はデフレではなかった?

インフレの高進は心配しなくても良いのでしょうか? Axel Merkは,リチャード・クーの「バランスシート不況」や,バーナンキによる大恐慌と日本のデフレに対する研究を取り上げています.そしてデフレばかりに関心を向けた金融政策では,アメリカにハイパー・インフレーションを起こす危険がある,と考えます.


WP Sunday, December 18, 2005

How to Exit Iraq

By Henry A. Kissinger

(コメント) キッシンジャーは,アメリカの軍事的な関与を維持しなければならない,と強調します.それは,国際安全保障システムを守るため? 石油の安定的供給を守るため? ロシアや中国の介入を抑えるため?・・・ たとえ,イラク軍が整備されても,アメリカの軍隊は駐留し続けるべきだ,と主張します.在韓米軍のように?


Philip Stephens Tough work begins for Europe FT December 19 2005

A tale of two summits perilously intertwined FT December 20 2005

Giles Merritt EU: We've got a budget. Now let's build on it. IHT TUESDAY, DECEMBER 20, 2005

Rescuing European unity IHT WEDNESDAY, DECEMBER 21, 2005

S. Nihal Singh Winter sun over EU The Asian Age, 22 December 2005

(コメント) EUは,ときに,共通農業政策を改革できず,それゆえEU予算の近代化が遅れ,主要諸国は財政規模の縮小だけで合意した.他方,WTOの自由化交渉も,EU内の農業補助金が削減できないことや,発展途上諸国の調整援助を増やすこともできなかったために,消極的な提案しかできなかった,と批判されます.制度構築やハーモニゼーションでは間に合わない?


The Guardian, Monday December 19, 2005

'Goodbye and good riddance'

Oliver Balch

Asia Times Online, Dec 21, 2005

The yuan, six months later

By Huw McKay

(コメント) 国際収支不均衡やアメリカに続いてユーロ圏も金利引上げに転じたことに並んで,国際通貨制度を規定する重要な事件として,アルゼンチンの景気回復と債務組替え,中国人民元の切上げと管理フロオート,を指摘できるでしょう.

アルゼンチンは年末までに98億ドルのIMF融資をすべて返済します.好調な輸出と,ベネズエラからの投資にも助けられ,国民はIMFや外資からの独立を歓迎しています.しかし,インフレ率は11%と注意を求められており,海外投資家や企業の評価はそれほど改善されていません.

他方,人民元の為替レート調整も,外国為替市場の需給や均衡為替レートの推計よりも,@金融システムの安定性,A地方における社会不安,Bインフレーション,という政府の関心によって決まるのです.

The Guardian Wednesday December 21, 2005

A risk of total collapse

Dylan Evans

(コメント) Dylan Evansは,グローバリゼーションと現代文明が崩壊する危険があるか? と問う人々が増えたと指摘します.かつてはカルト集団の終末信仰でしかなかった不安が,今では多くの真面目な考察を生んでいます.異常気象,資源枯渇,人口の不均衡,など.それらが相互にリンクしており,一つが悪化すれば他も悪化し始める.一つだけ解決することは難しい,と今では議論されます.なぜか? 同じことが過去にも起きたから,と.たとえば,あのJared Diamondが発表した新著Collapseでは,マヤ文明や,イースター島のポリネシア人社会の崩壊が,現代的視点で理解されている,と.

こうした死滅した社会と異なって,われわれの文明はグローバルであり,世界的にリンクしています.それは,うまくいけば,一箇所で発生した不均衡が他からの影響で衝撃を緩和される,ということです.しかし逆に,下手をすると,問題は容易に輸出され,世界中で感染します.われわれは一瞬にして共倒れする危険を抱えています.

ある地域で起きた異常気象は,その土地で扶養できる人口を減らし,移住を促します.しかし,移民の流れは既に人口過剰な地域で問題を悪化させ,社会不安や難民を増加させるドミノ現象を招くでしょう.膨大な移民と資本の移動は国際金融システムに緊張を生み,金融不安をもたらすかもしれません.

マヤ文明が滅んでも一部はジャングルで生き延びたように,グローバリゼーションの終末に世界の文明が滅んでも,人類は少数ながら前産業化社会に戻って生き延びるでしょう.そんなことは起きるはずがない,と思うでしょう.しかし,マヤ人の多くも,そう信じていたはずです.

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The Economist, December 10th 2005

The European Union budget: When the CAP doesn’t fit

The EU’s agricultural policy: Europe’s farm follies

European migration: The brain-drain cycle

(コメント) 共通農業政策(CAP)と移民問題.EUを生じさせた問題であり,EUを拡大と改革,もしくは政治的分裂へと駆り立てる問題です.

EU予算470億ドルの約40%が,EUの全労働力のわずか2%以下でしかない農民に与えられます.これでも改革によって大幅に削られたのです.20年前には70%でした.市場を歪めないように,農産物価格ではなく所得を補助する形に変えました.しかし,その補助金の80%が最も裕福な20%の農民に与えられている,という問題があります.EUの農業を維持することに熱心なエコロジストや文化的価値や地域生活・景観支持派も,こうした補助金の配分に反対しています.

フランスは確かに特別です.《農業・農民》は,フランス政治に埋め込まれた強烈なイデオロギーとなっています.今日,フランス農民の課税前所得の90%がCAPの補助金によるものだ,と知れば,EU統合の幻滅を実感します.他方で,フランス農業は変化しています.補助金に頼らない分野や効率的な農民がいる一方で,補助金にもかかわらず,フランス農民は引退し,減少し続けています.裕福な大農家に補助金の上限を課し,観光や文化など,農業以外の目的で農村を維持したいのであれば,各国の社会政策で決めるべきだ,とThe Economistは指摘します.

議長国となったブレアは,国内の財政再建に苦しむ各国の要求に応じて,EU予算を削り,イギリスが得ていたCAPの払戻金を譲歩して,サミットの合意を得ました.ここでもEUは萎縮し続けたわけです.EUの分裂を回避するためだけに,新規加盟諸国や発展途上諸国との関係,統合への積極的な支援は断念されました.

貧しい新加盟諸国の人々にできることは何か? ・・・「頭脳流出‘brain drain’」です.

たとえば,イギリスのホテルがどれほど優れたポーランド人の労働者によって維持されているか,記事は紹介しています.移民を送り出す諸国は,余りにも多くの優秀な労働者が国を伊達しまうことに不安を感じています.しかし経済学者は,楽観するべきだ,と主張します.旧ソ連圏の移民は,政治的な難民ではなく,経済的理由で生じた自由移民です.携帯電話や航空券は安くなり,移民たちはより自由に労働供給を選択できるようになりました.それゆえ,市場の導くような形で,労働者の優れた配分や所得の増加をもたらすでしょう.受入国も,彼らも,送出国も得をするのです.送出国は新しい雇用やビジネスさえ得るでしょう.もし経済が回復し始めるなら,たとえ所得格差があるとしても,移民たちは母国の再建に参加します.


Trade: Do despair

Global trade: Weighed in the balance

Steel Industry: Forging a new shape

Economics focus: Matchmakers and trustbusters

(コメント) 貿易,鉄鋼,そして二面(複合)市場‘two-sided markets’の価格決定.これらが新しい経済学への挑戦です.自由貿易論は成立せず,鉄鋼は重要でありながら世界的寡占と中国市場の変動に翻弄され,カード・ビジネス,コンピューター,ゲーム機など,多くの新興分野で「価格決定」は謎に包まれています.

シングルズ・バーは男性客だけからお金を取り,女性客は入場無料で,さらにドリンクをサービスします.当たり前? 19502月にダイナーズ・クラブが無料でクレジット・カードを配り始めたそうです.マイクロソフトがソフトを製作して普及させ,ゲーム機の新規参入でコストを無視してソニーのプレーステーションを追い詰めるのも,すべて当たり前ですか?

これは価格メカニズムではなく,市場の支配をめぐる戦争ではないでしょうか?