IPEの果樹園2005

今週のReview

12/11-12/16

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :チェイニーの悪魔的世界像

安全保障 :ブッシュのイラク,早期撤退論,日本外交

貿易・投資 :アメリカ経済,不均衡,アジア金融市場統合WTO自由化交渉2

通貨・金融 :国際収支に隠されているもの

世界統治 :国連改革中国の社会不安

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, JTJapan Times, CSMChristian Science Monitor


The American Prospect 11.30.05

'TIS The Season To Be Broke

By Robert B. Reich

(コメント) Robert B. Reichは,アメリカ経済のエンジンがストップする,と予言します.アメリカの需要はその4分の3が消費によって支えられています.それは歴史的に観ても高い水準です.しかし,クリスマス・シーズンを前に,既にその財布は空っぽなのです.

雇用は伸びず,賃金は安い.空っぽの財布について,まず考えることは,女性たちが外で働くことです.しかし,これは既に行われており,限界です.次に,より長い時間働くことでしょう.これもやりました.今や,働き過ぎで悪名高い日本人よりも,アメリカ人の労働時間の方が長いのです.三つ目の対応は,自宅を借り替えて現金を得ることでした.ところが,もう住宅価格は上がりません.最後に,借金することです.しかし,既に債務が増えてしまい,返済できません.

今後,ベビーブーム世代が退職に備えて貯蓄を増やし,消費を減らすでしょう.つまり,クリスマスが来ても,アメリカの店には(お金の詰まった財布を持った)お客がいないのです.


FT December 1 2005

Why Asia needs to integrate financial markets

By Andrew Sheng

アジアに金融統合を進める機運が高まっている.日本は金融市場と景気が回復して自信を取り戻し,中国とインドはますます力を強め,中東の石油市場では資金がうなっている.アセアンもオーストラリアも輸出が伸びている.

インフルエンザやテロ,不均衡を世界は心配しつつ,アジアの過剰貯蓄,過少消費,輸出超過を責めている.アジアの人々は政治不安や歴史的な金融危機から立ち直ったのであり,貯蓄を美徳ではなく悪習のように言われるのは心外だろう.今や,アジアは25000億ドルの黒字を,それと対称的な赤字を出しているアメリカに向けて,投資している.アメリカの消費崇拝に感謝しながらも,アジア人は安全のため以外にドル資産に投資しているわけではない.

だから,アメリカ人がわれわれに貯蓄投資バランスを改善し,ひいては国内消費を増やすために,国内金融市場を強化するように促すことに,感謝するべきだ.ただし,われわれの人口転換や産業構造は急激な変化に反対する.グローバリゼーションと国際分業はアジアを世界貿易に統合させた.アジアはまだ効率的な金融システムを持っていないから,その貿易に融資し,公的な貯蓄や,保険や長期貯蓄をアメリカやヨーロッパの資本市場が仲介している.

このことは,いみじくも指摘されるように,すべての関係者を豊かにする包括的な資産交換である.しかし反対論者は,これが持続可能ではない,と言う.では,100年で何が変わったのか? すなわち,第二次世界大戦以前は,アジアの大部分が植民地で,大幅な経常黒字をイギリスに対して出しながら,その資金はスターリング勘定に預け,資金がイギリスの投資としてアジアに戻ってきた.製造業,鉱山,プランテーション,そして,銀行に.

今,われわれはまだアメリカに対して巨額の経常黒字を出し,その金をUSドルとして預け,アメリカからの直接投資を受け取っている.モトローラ,ウォルマート,GMによる直接投資,ゴールドマンサックスやフィデリティー,ヘッジファンドの証券投資として.昔の筋書きはパックス・アメリカーナでもまだ正しい.アメリカがくしゃみをすると,日本は風邪を引き,その他のアジアは肺炎になる.違うのは,今やウィルスが世界的なことだろう.

アジアそれ自体も不均衡を抱えている.製造業の設備投資は過剰である一方,社会インフラへの投資は過少である.1997-98年の金融危機は,政府に市場を是正するよう強いたが,アジアのがたがたのインフラはもうもたない.不平等が拡大し,健康,環境,教育への投資は不十分で,社会を不安定化している.それが疫病の流行やテロにも繋がりかねない.

では,どうやってアジアを金融的に統合するのか? 貿易においては,既に起きている.アジア貿易の半分以上が域内で行われている.アジア内の貿易障壁は既に低い.この5年間に,二国間で自由貿易協定が結ばれてきたからだ.しかし,アジアの金融市場はまだ閉鎖されており,アメリカやヨーロッパに対してよりも,相互に対して閉ざされている.アジアにおける統合推進派は世界的規模の銀行や投資銀行であり,アジアのローカルな銀行や保険会社,証券会社ではない.それらは国内市場志向の偏りが強く,相互に規制の障壁を残しているため,ほとんど偏狭な地区の金融機関でしかない.

アジア債券基金は重要だし,必要なものだが,一層の統合化に向かう十分な手段ではない.アジア通貨基金やアジア融資制度は,政府による行動に依存しすぎており,民間部門や産業を取り込んでいない.たとえば,為替取引ファンドは資産の多様化を行う共通の手段であるが,民間銀行によってニューヨークからアジアEDFsを買う方が,地元で買うよりも容易である.アジアの多くの証券市場は,圧倒的に地元の生産物を売るパパ・ママ・ショップのようなものである.他方で,世界的な金融商品を売る世界的ウォルマートが街にやってきた.

長期のインフラ投資を行うには,アジアのすべての市場でベンチマークのイールド・カーブが利用可能でなければならない.制度間の対立でこの発展が妨げられている.その結果,アジアの巨額の貯蓄がアジア市場で利用できない.今や,世界的不均衡を騒ぐのはやめて,われわれ自身の不均衡を見ようではないか.


FT December 2 2005

The amazing shrinking yen

By Steve Johnson

FT December 2 2005

Lex: Japanese stocks

NYT December 6, 2005

Yen at 32-Month Low as Japan's Small Investors Look Abroad

By MARTIN FACKLER

(コメント) なぜ日経株価指数の上昇と円安が一緒に進むのか? なぜなら,円安は輸出企業の業績を改善し,株価を上昇させる.そして,それは投資家たちを強気にし,一層,海外投資に向かわせ,円安を強める,と.また,海外の投資家たちは日本の資産が価値を下げることにヘッジしなければならず,ドルを買っている.日本の機関投資家はヘッジ無しの海外投資も増やしている,と言います.

この1ヶ月で,14000円から15400円を超え,今年に入って34%も上昇した日経225について,FTが論評しています.日本には,ようやく訪れた強気の相場にまだまだ資金が集まる気配です.しかし,重要さを増した海外投資家たちは日本企業の業績見通しや配当に不満を覚えて,これ以上の円安が進めば,むしろ早く売り始めるかもしれません.企業によっては,まだ,再構築が遅れており,他方,通貨供給が減少すると予想されます.

MARTIN FACKLERは,円安による日米の生産コストとその影響を比較しています.そして,デフレ対策のゼロ金利に通貨供給増が加わった状況が,人々の海外投資意欲の回復と結びついて,資本流出に繋がっている,と見ています.


The Guardian, Friday December 2, 2005

A balance of free and fair

Peter Mandelsonthe EU's trade commissioner

IHT SUNDAY, DECEMBER 4, 2005

In defense of 'green power'

Philippe Douste-Blazythe French minister of foreign affairs

NYT December 4, 2005

Group of 7 Is Still Split on Subsidies

By GRAHAM BOWLEY

FT December 6 2005

My advice to Mandelson is hold tight

By Leon Brittan

(コメント) EUのPeter Mandelsonは,アメリカ,オーストラリア,ブラジルなどが求めている急激な自由化に反対します.なぜなら,それは貧しい農業国,特にサブ・サハラ・アフリカの諸国にとって望ましいことではありません.こうした諸国はEUとの特恵的な取決めで貿易を得ましたが,自由化はそれを失わせるでしょう.EUは,むしろ緩やかな改革を求めています.EUの共通農業政策を非難する農産物貿易自由化推進諸国に,開発ラウンドの鍵は自由化目標を引き下げ,むしろ貧しい諸国に自由化に応じるための経済支援をG7諸国が行うことだ,と主張します.

Philippe Douste-Blazyは,自由化に対するさまざまなバランスを強調します.まず,自由な市場で,強者が利益を独占し,弱者が破壊されるままである状態を許すことを批判します.ブラジルやアルゼンチンには大きな利益があるけれど,最貧国の生存は脅かされる,と.また,テロ,伝染病,非合法移民が世界に広がるのを防ぐためにも,貧しい地域の経済発展を促すことが重要です.

フランスが求めるバランスは,多分,新しいバランス・オブ・パワー(勢力均衡)を描くことなのです.それは大国の軍事力だけでなく,世界の分配や貧困であり,環境であり,地域の自律であり,市場と援助,安全保障,などのバランスです.フランスはそれらについて明確なビジョンがあり,EUやマンデルソンはフランスを無視できないはずだし,アメリカもEUを無視できないだろう,と.しかし,G7を見ても,バランスの達成は実に混乱した,長く難しい作業のようです.

EU内部の意見対立を受けて,自由化交渉に参加するPeter Mandelsonの立場は動揺しているかもしれません.Leon Brittanは,EU全体の長期的な利益を支持して,EU内のさまざまな批判に冷静に対処せよ,ということです.それとともに,EUは自由化交渉によって,農業に限定されず,包括的な相互の利益を実現しなければならない,と述べています.EUは既に多くの自由化措置を取ったし,自由化に伴う不満やコストを緩和する財政措置も取っている.自由化を妨げているという非難は当たらないし,個別の偏った要求にも屈してはならない,というわけです.

IHT WEDNESDAY, DECEMBER 7, 2005

Why these trade talks need to fail

Christina Davis

FT December 8 2005

Look further than trade to save Doha

By Fred Bergsten

(コメント) Christina Davisは,自由化交渉を破綻させることによって,漸く先進工業諸国は農業補助金を削るだろう,と考えます.他方,Fred Bergstenは,グローバリゼーションへの反動が強まっていることを心配します.それを解消するには,アメリカ,EU,中国とアジアが,世界経済の不均衡や為替レートの調整を促さなければなりません.


FT December 2 2005

G7 puts pressure on China over currency

By John Authers in New York and Christopher Swann in Washington and FT reporters

Dec. 6 (Bloomberg)

G-7 Falters in Sending Stern Message to China

Andy Mukherjee

(コメント) 世界不均衡を恐れるG7は,石油価格の高騰を懸念し,中国の為替レート調整を願います.ところが,来週に予定されている香港のWTO閣僚会議に向けて力強い自由化の推進役を果たすことはなく,香港で民衆が示した民主化要求に積極的な応答を示すこともありません.退任するグリーンスパンが強気の回復見通しを述べ,皆で彼に賛辞を送る程度です.少なくとも今,アメリカ経済が好調であることは,すべての問題を穏やかにします.

3ヶ月前,G7は,中国の為替レート改革が世界経済にプラスであると期待しました.しかし,より弾力的な,バスケット・ペッグを採用した,という中国政府の発表は,G7への政治的なジェスチャーであった,とAndy Mukherjeeは主張します.それでもスノー財務長官を始め,G7は抑えた不満しか表明していません.中国の金融市場や為替レートの改革には,中国のやり方を追認するしかない,というわけです.市場の人民元高期待もやがては終わるでしょう.


NYT December 2, 2005

Blocking Reform at the U.N.

IHT FRIDAY, DECEMBER 2, 2005

Must the UN stay in Manhattan?

Alexander Casella

WP Sunday, December 4, 2005

A Transformative NATO

By Jim Hoagland

NYT December 5, 2005

Give the United Nations a Little Competition

By RUTH WEDGWOOD

(コメント) 日本の外交政策には,反核運動やアジア外交,国連を重視する,という視点もあったはずです.しかし,日米同盟だけを今まで以上に重視する小泉政権の下では,ボルトン国連大使やライス国務長官と一緒に,麻生外務大臣が,国連への日本の財政負担を引き下げるといった脅しを共有して,親米強硬派として安保理常任理事国になりたい,というのでしょうか?

国連改革は重要です.確かに,総会から理事会に明確な決定権限を委ね,人権委員会には人権問題で優れた歴史を持つ国だけが推薦されるべきでしょう.他方で,アメリカの代表がネオコンの主張と強硬な交渉スタイルを変えないことに,国連が一定の反対意志を示すことも必要です.アメリカの影響力が強すぎるのであれば,国連の機能をアメリカから他所へ移すことも考えられます.最も物価の高い都市に配置するより,自然を守る最貧国の高原に,常設委員会をいくつか移してはどうでしょう? 同時に,財源問題や職員の汚職問題について明確な解決策を示し,組織の透明性や責任,競争を取り入れる仕組みも,それがうまく機能するなら,あったほうが良いと思います.環境保護や保健衛生問題だけでなく,安全保障理事会や平和維持軍にも.

国連本部の最初の予定地はボストンでした.しかし,ロックフェラーが寄付したニューヨークの用地があったので,今の位置に建っています.Alexander Casellaは,モントリオールを薦めています.論説に示されたモントリオールの条件は,なるほど,魅力的です.

RUTH WEDGWOODが主張するのは,国連の機能と競争する国際機関がある,という点です.それを「競争的多角主義」と呼んでいます.国連改革はさまざまな地域的分裂,総会内部の多数派集団工作によって頓挫してきた,と言います.それゆえ,本当に制度や組織を改革するには,それが競争しなければならない条件を作ることだ,と主張されるわけです.実際,ヨーロッパや南北アメリカ,アフリカには,安全保障や人権を守る国際機構や民間組織があります.

安保理が拒むなら,アメリカはNATOを動かす.そうやって,各国は国際政治において一定の柔軟性や制度改革を要求できます.改革できなければ,ほかの国際機関を重視する.それが,かつてアルバート・O・ハーシュマンの示した,「発言」もしくは「退出」である,と.そして,アメリカの一方主義・単独行動を抑えるためにも.


NYT December 3, 2005

Iraq Fixer, No Exp. Needed, $1B-up

NYT December 4, 2005

What Would J.F.K. Have Done?

By THEODORE C. SORENSEN and ARTHUR SCHLESINGER Jr.

WP Sunday, December 4, 2005

All Over but the Pullback

By Jonathan Rauch

WP Tuesday, December 6, 2005

Let Rumsfeld Go

By Richard Cohen

(コメント) ブッシュ大統領は,イラクの反政府武装勢力に対して,10の「戦略都市"Strategic Cities"」を安定化する計画を示しました.そのために10億ドルを追加支出します.これが彼の「勝利の計画」です.

私もそう思いました.ずっと以前ですが.なぜ今頃,このような計画を発表するのか? そして,今までの計画が問われるでしょう.戦略都市であれ,何であれ,イラク人との連携や協力,信頼関係を築いきたのでしょうか?

SORENSEN and SCHLESINGER Jr.はケネディー大統領がベトナムから軍を引き上げる計画を立てていたと書いています.ケネディーは第二次世界大戦を経験した世代が戦争を嫌がり,恐れていることを知っていました.また,キューバなど,海外の経験から,外国の軍隊が占領する戦いが勝利できないことも知っていました.

196968日から,嫌がるニクソン大統領に25000名のアメリカ兵をベトナムから帰還させたのは,アメリカの国内政治だった,とJohn Muellerは言います.世論はこの戦争を続ける価値がない,と判断したのです.アメリカ軍の支援無しには南ベトナム政府は持続できないと彼は知っていました.そしてこの敗北はベトナムに混乱をもたらし,アメリカ外交にも手に負えないコストをもたらす,と信じていました.ブッシュ大統領にとっては,イラクの選挙が同じ結果をもたらすでしょう.

ブッシュ氏はまず,勝利を唱え続けるより,むしろ,失政と混乱の責任者を,すなわちラムズフェルドを解任したほうが良いのではないか?


FT December 4 2005

It is time the world saw Japan as a normal country

By Gary Scmitt

BG December 5, 2005

The China-Japan challenge

(コメント) Gary Scmittは,小泉政権と自民党の憲法改正案を取り上げます.日本は,軍隊を持つ「普通の」国家になる.戦後の不戦主義を破棄する.国粋主義的な理念を盛り込む.アジアにおける非常時に備える.アメリカの最大の同盟国として,地域の安全保障に責任を果たす.たとえば,台湾海峡や朝鮮半島の戦争にも参加する.安全保障理事会の常任理事国となる.こうして,敗戦後の特殊な国家認識を改める.・・・それが,日本の将来の平和と繁栄を導くと自民党が信じるビジョンです.

BGは,むしろアメリカが中国と日本の間で,両国の関係を悪化させる憎悪や嫌悪の深みを解消するためにセラピストの役割を演じるしかない,と考えます.この複雑な対立は歴史や心理に由来し,また,市場や資源にも由来します.アメリカ政府は,日中関係が悪化することは,アジアのためにも,世界のためにもならない,頭を冷やすべきだ,と説得するわけです.

ところが,民主党の前原代表がアメリカで,憲法改正やシーレーン防衛を主張しました.なぜ今,しかもアメリカで,そのような発言をしたのか,大いに疑問です.小泉政権との「改革競争」とは,このような意味なのですか? 民主党はその存在理由や有権者からの信頼を急速に失い,分裂し,主要な野党でもなくなるでしょう.そして小泉自民党も,多分.日本の政治が保守的な中道派に寄り添った政策論議に収斂する,という幻想も.

JT Monday, December 5, 2005

Soft power matters in Asia

By JOSEPH S. NYE

IHT THURSDAY, DECEMBER 8, 2005

The struggle to be 'normal'

Michael Judge

IHT THURSDAY, DECEMBER 8, 2005

Time for a deal on the Yasukuni Shrine

Ralph A. Cossa

JT Thursday, December 8, 2005

Opportunities seized, missed

By RALPH COSSA

(コメント) 日本は,輸出や経済力,軍備増強で中国の台頭を恐れ,軍事力(ハード・パワー)で競争するよりも,その優れたソフト・パワーにおける現在の優位をさらに伸ばして,中国やアジアとの関係を平和的に転換するべきだ,と考えることは,もちろん,正解だと思います.しかし,日本は人口が減少し,移民を拒み,世界における日本語の利用は少なく,英語の能力もきわめて低い.資本をひきつける力を失ってしまう,とナイは指摘します.他方,インドや中国は,将来,飛躍的にソフト・パワーも強めるでしょう.インドや中国のソフト・パワーがそれを実現できないとしたら,それは国内の政治や社会が制約となるからです.

日中韓の外交関係は靖国問題でまったく凍結されました.中国も韓国も,小泉首相の靖国参拝やアジア政策を受け入れがたいものと考えているようです.そして,小泉内閣の閣僚はまた,それを当然のように無視し続けています.

Michael JudgeRalph A. CossaRALPH COSSA,はそれぞれに小泉政権の失敗を考察しています.すなわち,Judgeは靖国神社を"Peaceful Nation Shrine"と呼び,日本帝国軍の侵略を大東亜戦争"the Greater East Asian War"と呼ぶことに,驚嘆しています.そこにある博物館を訪ねて,説明された戦争認識を疑います.そして韓国大統領が,小泉首相の歴史認識を正したい,と願うことに賛同します.またRalph A. Cossaは,もっとバランスの取れた歴史認識を共有することで,靖国問題を解決し,東アジアの友好関係を築くべきだ,と提言します.たとえば,3カ国が歴史教科書を授業で相互の教室に配り,解説してはどうか?


FT December 5 2005

Trade rounds a harder sell

By Guy de Jonquieres

シアトルとカンクンで交渉が失敗してから,WTOの閣僚会議は危険な仕事になった.しかし,来週の香港会議は破綻しないだろうし,いずれの参加者も成功したと主張するだろう.

閣僚たちは失敗を重ねることだけは回避しようと決めている.それは世界化する経済のルール作りに重要な役割を担う機関として,WTOが機能しなくなることを意味するからだ.ドーハ交渉の歴史が示すのは,その失敗が単にいくつかの行き詰まりにあるのではなく,システムの失敗を意味するということだ.

この8回目の自由化交渉を「開発アジェンダ」と呼ぶことがそもそも失敗だった.それはWTO加盟国の5分の4を占める発展途上国の懐疑的な態度を変えるために採用された.しかし,そうすることで交渉が,すべての貧しい国を豊かにする,という期待を高めてしまった.

だが,自由化交渉にそんなことはできない.自由化は,WTOの使命の中心であるが,その他の責任と時期により他の目標を組合せながら追求されているが,経済的成果を保証するわけではない.単にその機会を創り出すだけだ.それを利用するのは国や生産者しだいである.さらにこの命名により,豊かな諸国が貧しい諸国が嫌うことを阻止する手軽な擁護論を並べるとしても,彼らの利益について顕著な寛大さを示すというわけではない.

最大の問題は,より深い,地政学的な変化である.WTOはGATTから誕生したが,GATTは1947年に,1930年代の破滅的な保護主義に対する反応として創設された.冷戦がアメリカをGATTの主要な構築物の一部としたし,多角的な自由貿易を促進し,世界中で民主主義を強化する強い動機を与えていた.

しかし1980年代半ばまでに,アメリカの関与は揺らぎ始めた.数年遅れてベルリンの壁が崩壊し,地政学的な戦略的動機も失われた.最大の主な市場では既に関税率が最低水準にまで下がっており,一層の経済的利益を求めて交渉するより,既に得たものを失わないようにすることが政治的に重要になっていた.

1986年にウルグアイ・ラウンドを動かした本当の背景とはそれだった.アメリカで保護主義が強まり,ラテンアメリカの債務危機,1979年の石油危機の後遺症が,世界の経済秩序を支える決定的な共同行動を起こさなければそれが破綻するかもしれない,という不安を強めていた.それはちょうど,9・11のショックが,最初の何度か躓いた自由化交渉を4年前にドーハで開始させた事情でもあったのだ.

しかしながら,世界が正常化したとたん,その効果が失われてしまった.実際,貿易の回復も世界経済も,この10年間に期待を超える成果を示してきた.1997年のアジア危機も,日本のデフレも,ドットコム・バブルの破綻も,資産市場の乱高下や石油価格の高騰も,市場が受け流したわけだ.

政府の政治的関与がドーハの交渉について限定的であったことは当然であった.多くの国は,農業分野の交渉停滞をサービスや製造業製品の自由化が進まない言い訳にしてきた.東アジア経済は,自由貿易から大きな利益を得ていたのに,自由化に非常に慎重であった.

ある意味で,貿易自由化交渉は政治的に不合理な活動である.それが成功するためには,多くの人々にとって認識できないような長期の利益のために,政府が強力な国内の既得権から熱を奪うことを求められる.しかも利益が実現するまでに,その政治家たちは職を退任している.もし世界経済が修復を必要とはせず,ほかにもっと問題があるなら,なぜ自由化に煩うのか?

現在,世界貿易システムの最大の脅威は,フランスの農民はなく,むしろ自由化の成功がもたらした無関心である.加盟諸国はWTOを当然とみなし,自由化の面倒をWTOが見るものと信じている.ドーハ・ラウンドが失敗すれば,その自己満足が冷笑的な不安に変わるだろう.その結果,少なくともWTOは弱まり,無限に漂流し,惰性に繋がる.

それは重要なことなのか? 短期的に見て,それが必ずしも貿易自由化を止めるわけではない.チリ,香港,シンガポールは,一方的な市場開放が,しばしば大きな自由化交渉よりも,重要な利益をもたらすことを示した.中国やインドは,WTOが求めるよりも早く自由化しつつある.

しかし長期的に見ると,より深刻な結果に繋がる.まず,世界中で二国間の貿易協定に殺到する国が増える.1999年にWTOのシアトル会議が失敗したときにもそうだった.日本やシンガポールのような,何が何でも自由で公平な貿易の推進を掲げていた諸国(多角交渉システムのダイ・ハード的な信奉者たち)が二国間協定への遁走を先導した.

第二に,WTOは無力化し,貿易紛争の処理作業や,その権威が損なわれる.紛争処理の効果は,加盟諸国が進んでWTOのルールに協力するかどうかにかかっている.もし政府がWTOを合法的な交渉の場と見なさないなら,その効果も続かない.

紛争処理への敬意を失うことで,保護主義に転落する歯止めが緩んでしまうだろう.世界化した経済では,めまぐるしい勢いで,膨大な量の財,サービス,資本,情報が国境を越えて動いているために,そのような脅威を感じないかもしれない.しかし20世紀の歴史は,その流れが逆転しうることを示している.

この悲観的な見通しを,われわれは回避できないわけではない.政府は,歴史の教訓を正しく学ぶか,あるいは,再び同じ失敗を犯すことにより,まず多角的なルールに基づくシステムを築くべきだ,と学び直すことだろう.


FT December 5 2005

Politics on the streets

FT December 6 2005

Unease in the Pearl River Delta

By Alexandra Harney in Shenzhen

FT December 6 2005

Book review: Lessons from tough China challenges

By John Ridding

(コメント) 香港に世界のメディアが関心を向けるとき,住民たちは街頭に出て,完全な民主主義を中国政府に求めます.それはイギリスからの返還に際して約束されたことでした.香港の行政長官も北京政府も,街頭における抗議デモという形の政治が繰り返されるより,彼らの民主的案選挙を認める方が統治しやすい,ということを認めるようになるはずだ,とFTは考えます.

中国最大の輸出拠点となっている香港周辺の工業地帯で,労働争議が増えている,と言います.賃金や労働条件をめぐって,労働者の声が高まっています.それは生活条件の改善を実現する当然の調整過程であるかもしれませんが,問題は,その声を誰が聞くか,ということです.

ある書評が目に留まりました.James McGregor, One Billion Customers: Lessons from the front lines of doing business in China, Wall St Journal Books, Simon & Schuster. 中国への投資は本当に利益をもたらすのか? とゼミ生が卒業研究で取り上げていたからです.日本企業は投資を止めるべきだ,と考える意見に,どうやらかなり近い内容のようです.10億人の消費者,という幻想が招く外国投資家たちの混乱,幻滅は,将来の中国に何をもたらすのか? それも時間をかけた学習過程,発展過程だ,と言えるのか?

FT November 6 2005

China pays price of rising social unrest

By Minxin Pei

中国の指導者は急速な成長を自慢するが,その反面,社会不安が高まっていることには触れない.幸い,社会不安が全国的な危機に向かうことはなかった.争議に参加した者たちは地域に限定され,十分に組織されていない.大衆に反政府活動を呼びかけるものではなかった.多くの事件は特殊な窮状(賃金未払い,増税,恣意的な土地収用)から生じている.政府は時に抗議に対して地方政府を罰することで宥和し,それらの窮状を救済することもある.それに失敗すれば,当局はいつも中武装した暴動鎮圧警察を呼ぶ.

実際に,中国の社会不安を起こしているのは,中国の庶民がその個人の利益を傷つけたと認識するような政府の政策であり,社会的不正義である.事実,個々の社会不安をさかのぼれば,特定の政策や政府の行動に至るのだ.1994年に財政を中央政府に集中したとき,地方政府は貧しい農民たちに対して耐え切れないほどの課税を行った.それが地方における反税暴動を引き起こした.1990年代後半,国有企業(SOEs)が大量に倒産したとき,レイオフされた膨大な数の労働者たちが,支払われない年金や,SOEの資産を着服した役人たちの汚職に抗議して,都市に暴動が起きた.2002年以来,中国経済はブームに沸いているが,恣意的な土地収用によって数百万の農民が土地を失い,十分な補償もないまま都市に移住させられた.予想通り,土地利用は最も激しい論争を引き起こしている.

もっと根本的な問題として,中国の採用する投資主導の成長戦略は,過度に物的な資本を膨張させ,それ以外のものを何も改革しないまま,社会的な緊張を高めている.すなわち,環境破壊,医療制度の破壊,貧困層の無視.その結果として起きる社会不安は,何のガス抜き装置も無いような,要求を聞き入れない権威的政治システムによって増幅される.普通の中国市民には窮状を訴える手段も無いのだ.より高位の政府機関による介入を求めるために庶民が苦情を申告するシステムは崩壊している.わずか1000件に2件が何らかの解決策を示されるに過ぎない.裁判所も機能しない.地方政府に対する年9万件の訴状しか受け入れなかったし,政府が敗訴するのは25%以下である.非常に稀なケースでは,中国のメディアが特に顕著な公権力の濫用を取り上げ,公衆の怒りを買って,中央政府の行動が求められる.

政治家は皆,社会不安が高まるとポピュリスト的なイメージを煽る.中国の新指導部もそうだ.しかし,そのようなレトリックは民衆を,ある程度まで,新しい抗議活動に向かわすことになる.

社会不安が現状のままであれば,共産党政権にとって大きな脅威にはならない.しかし,中国の安定性を脅かす二つの傾向が見える.一つは,中国の不均衡成長が社会的コストを増しており,それは将来の繁栄を左右する政治的な安定性を損なうだろう.第二に,政府はジレンマに陥る.社会の不満がその正当性を蝕む一方で,それに応えるにはより開放的な,寛容な政府になる必要がある.それはいっそうの社会的な怒りを解放し,少なくとも短期的には,社会不安を強める.結局,われわれは,中国の「リスク・プレミアム」を,その潜在的な不安定性と危険に見合った水準まで,引き上げるべきだ.


The Guardian, Monday December 5, 2005

Consumer capitalism is making us ill - we need a therapy state

Madeleine Bunting

(コメント) 市場は社会を望ましいものにするのか? 精神的抑うつや犯罪,病気,老後,アルコール中毒などで見れば,市場改革がしばしば社会の荒廃を意味する場合もあるのです.旧社会主義圏の「自由化」がそうであったように.それをいつまで,共産主義体制の負の遺産,として説明できるでしょうか?

Madeleine Buntingは,それが理由となって国家介入を膨張させる政治過程に反対します.「医療国家」「セラピー国家」「ナニー(乳母・子守り)国家」などが,市民の自由と財産を奪うからです.いずれも,Richard Layard, Happiness: Lessons From a New Science. という研究が刺激した議論です.20世紀の社会では宗教意識が弱まり,それに代わる「幸福の基準」が示されることはなかった,と.消費を煽る怪しい現代宗教以外は.

世界的規模のラット・レース(ねずみ競争)ではなく,国家は本当に「良い生活」を築く助けとなっているでしょうか?


FT December 7 2005

‘Dark matter’ makes the US deficit disappear

By Ricardo Hausmann and Federico Sturzenegger

(コメント) アメリカの経常収支赤字や累積債務を見れば,世界経済が均衡を維持していることは理解できない,とHausmann and Sturzeneggerは考えます.なぜ金融市場は危機を正しく予想できないのか? ・・・ それは,市場が国際収支に勘定されていない資産を見ているからです.彼らはそれを「ブラック・マター」と呼びます.たとえば,アメリカ企業の直接投資には多くの資本評価されていない部分があるわけです.だから,経常収支の不均衡は見えている部分よりもはるかに小さく,非常に安定しているのである,と.

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The Economist, November 26th 2005

Why America must stay

The home front: Not whether, but how, to withdraw

Lexington: Out of the bunker

(コメント) The Economistは,ブッシュ氏のイラク攻撃を支持しました.その後,イラク占領における不手際を厳しく批判したものの,イラクとの戦争と占領の維持を決断したブッシュ政権を賞賛しています.だから,今アメリカ国内で早期撤退論が強まっても,アメリカ軍の維持(さらには一時的な増強)を支持する意見を表明しています.

アメリカのイラク攻撃が正しかったかどうか,それにはもちろん議論の余地があります.しかし,The Economistは,アメリカ軍のイラク駐留には十分な理由がある,と考えます.イラクの秩序を維持しているのはアメリカ軍だけであり,イラクを無秩序に陥らせるなら,そのコストは非常に大きい,と確信しているからです.早期撤退論者は,まったく逆の判断です.

戦争であれ,撤退であれ,それは政治的な選択であり,その条件を争うことに尽きます.私はむしろ,より好ましい条件をもたらす実行可能なアイデアを賞賛します.たとえば,バイデン上院議員は提案しました.アメリカの同盟諸国に参加を求め,イラク周辺の諸国との外交交渉を重ねて政治的合意を得ること.また,再建のための公共工事にもっとイラクの民間企業を参加させ,駐留アメリカ軍の構成を変えて,職業訓練や市民サービスのスタッフを増やすこと.・・・

しかし,アメリカ軍の駐留を維持しつつも,多くの失敗を認めることさえ拒み,こうした柔軟な発想を拒むものこそ,9・11のショックを受けて,チェイニー副大統領の精神改造と,ネオコンがブッシュ氏をめぐる権力構造内に築き上げた「悪の枢軸」幻想なのです.テロリストに満ちた世界に執着した心が,彼らの正常な判断を麻痺させてしまいました.


The Balkans, ten years on: Europe’s banlieue

East Asian diplomacy: The case against summits

Latin America: Redrawing the political map

East European economies: East, west and the gap between

Executive pay: Too many turkeys

Way beyond the PC

Economics focus: Making the dealer’s cards

(コメント) EUがコソボやバルカン諸国の治安維持と再建に関わる姿勢は,完全な復興に向かうには不十分です.しかし,パリ郊外の暴動によって気づいた問題を,EUの郊外であるバルカン諸国の窮状にも見るべきなのです.政治紛争を無視したままで,アジア・サミットは決して成果を上げません.ラテンアメリカには民主主義が根付き,チャベス式の反グローバリゼーションではなく,「ポスト・ワシントン・コンセンサス」に向かっている,とThe Economistは予想します.移行経済の大きく異なった経過を説明するのは,教育システムにおける改革ではないか?

経営者たちの報酬を抑制する方法の模索,・・・マイクロソフトはゲーム機や携帯電話,テレビなど,パーソナル・コンピューター以外の分野に進出,・・・為替レートを説明する理論にトレーダーの注文行動が反映される.