IPEの果樹園2005

今週のReview

11/28-12/2

IPEの種

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

*****************************

IPE方法論 :イギリスの人種統合

安全保障 :APEC2イラク撤退

貿易・投資 :中国バブル,APEC1GM,フランスの保護主義

通貨・金融 :日銀,インフレ・ターゲットアジア通貨の調整,オイルダラー

世界統治 :リベリア,政党政治,カシミール,ポーランド

******************************

ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, JTJapan Times, CSMChristian Science Monitor


FT November 17 2005

Japan's divided policymakers

JT Saturday, November 19, 2005

An emerging picture of growth

(コメント) 日銀のスタッフたちは,毎日,何を議論しているのでしょうか? ゼロ金利で量的緩和政策を取ることには問題がある,と以前から指摘されてきました.これは,金融システムを外科手術するための,緊急輸血ではなかったか? 預金者からは金利を奪って,銀行は公的資金を得た上に,莫大な利益を出してよいのか? 財政再建や郵便貯金の民営化は,今後の金利や国債市場にどう影響するのか? 株価の上昇や円安は金余りの結果ではないか? 金利引き上げや円高,株価下落は景気回復を頓挫させるのか? ・・・

もちろん,分かりやすい関係があります.財務省は財政再建を重視し,国際市場の安定化を求めるでしょう.しかし,日銀は金融緩和の行き過ぎを警戒し,インフレやバブル,円安を心配します.そして政府・自民党は,財政再建や国債価格の暴落,長期金利上昇によって景気が悪化しないように,日銀が金融緩和策を継続するよう圧力をかける,というわけです.

FTは,日銀も財務省も間違っている,と考えます.日本経済はまだ完全にデフレを脱したともいえない状態です.両者が競争して引き締め姿勢を先取りしたがる(そして,相手にその後のより困難な選択を押し付ける)ような態度は,危険なゲームです.景気が回復すれば,財政赤字も抑えられるし,緩やかに金融引き締めを行えるはずだ,と.

他方,JTの概観は平凡すぎます.


FT November 17 2005

Benefits of a target

NYT November 20, 2005

Are the Fed Fights Over?

By ALAN S. BLINDER

FT November 21 2005

Bernanke should rethink his monetary ‘Maginot Line’

By Peter Hartcher

(コメント) 「インフレ・ターゲット」論は,どこか,「マネタリズム」(“ヘリコプター・ベン”)や「貨幣数量説」,「ピール銀行条例」との親近性を連想させます.

「インフレ・ターゲット」論のミソは,それによって期待形成に影響し,市場を安定化する,ということです.これは,ジョン・ウィリアムソンが,「中間的選択肢」に,為替レートの安定化や調整の役割を求めた議論とそっくりです.バーナンキは,アメリカの金融政策が市場で十分に信頼されているけれど,まだ金利の変動が大きすぎる,と考えているようです.インフレ・ターゲットはこれを抑制できるかもしれません.

反対派は,インフレ抑制だけを目標にすることで,Fedが法律によって求められているもう一つの目標である「雇用」を損なうのではないか,と心配します.これに対して,雇用を増やす最善の金融政策とは,インフレを起こさないことだ,とFTの論説は反論します.

ALAN S. BLINDERは,バーナンキに対する上院の公聴会を歴史的に重要なものと考えました.しかし,なぜ1979年(P.ボルカー)や1987年(A.グリーンスパン)よりも関心が低かったのか? @バーナンキは超党派で支持されている.Aインフレは収まっている.B金融政策についての論争がない.もちろん,政治的に利用されることもない.

アメリカの歴史において,中央銀行は厳しい政治論争の焦点(「銀行戦争」)でした.BLINDERは最初のアメリカ合衆国銀行が1991年から20年しか続かず,その後も,中央銀行がないままポピュリズムとの政治論争が続いて,連邦準備制度が始まったのは1914年でした.BLINDERは,モルガン紹介など,金融資本家とポピュリストとの政治論争よりも,漸く,金融政策がケインズの理想とした「歯医者」のような知識と専門家によって決められる時代に,少しずつ,近づいていると考えます.ボルカーのように,第1面ではなく,グリーンスパンのようにビジネス欄の第1面でもなく,バーナンキの公聴会がビジネス欄の第4面で扱われたことは,素晴らしい進歩だ,と.ただしまだ,大統領の歯医者を選ぶことよりも重要ですが.

他方,Peter Hartcherは,バーナンキがインフレ・ターゲットを導入することを「金融的なマジノ線を引く」と見なして強く批判します.なぜグリーンスパンはインフレ・ターゲットの導入に反対したのか? それは金融政策の弾力性を損なうからでした.既に,インフレが抑制され,Fedの事実上のインフレ目標が市場に浸透しているのに,なぜインフレ・ターゲットによって金融政策を縛る必要があるのか?

消費者物価が安定しているときに,資産市場でバブルが生じたり,それが破綻して日本のようにデフレが生じたりすれば,インフレ・ターゲットはむし政策転換と市場の調整に対する障害となるかもしれません.


BG November 17, 2005

Liberia at a crossroads

By Makau Mutua

LAT November 18, 2005

Liberia gets its 'man'

(コメント) 先週のリベリア大統領選挙で,ハーヴァードで学んだ世界銀行の元エコノミストであるEllen Johnson-Sirleafが当選したことは,リベリア復興の希望となるでしょうか? Makau Mutua は,対立候補であった元リベリア代表のサッカー選手George Weahとその支持者たちが,敗北を受け入れ,内戦に訴えないことを求めます.

リベリアは,1947年に,アメリカの奴隷たちがアフリカに帰還する運動から生まれた国です.その経緯から,アメリカ政府は冷戦終結までリベリアの強権体制を支持していました.しかし,1980年にSamuel Doeが恐怖による支配を行い,Charles TaylorPrince Johnsonが反乱を起こして彼を殺害し,1997年まで内戦が続きました.1997年の選挙ではTaylorが恐怖政治を正当化し,武器と交換に,手足や鼻を切り取ることで悪名高い,シエラレオネの武装集団からダイヤモンドを得て,内戦を周辺国にも拡大しました.

2003年に,国際的な圧力によりTaylorは辞任し,ナイジェリアに政治亡命しました.国連特別法廷が戦争犯罪でTaylorを告発しています.その後,大統領選挙が行われたわけです.Weahの支持者の多くは,特権的なエリートから国際官僚になったJohnson-Sirleaと違って,スラムの無学な若者がサッカー選手として成功し,巨万の富を得たWeahの姿に自分たちの夢を重ねます.それ以外にも,国際介入を嫌うさまざまな地元支配者や武装集団,犯罪者たちが集まります.

Makau Mutuaは,リベリアで民主主義が機能するためには,Weahが無法者たちから関係を絶ち,特に,Taylorの告発を支持し,合法的な反対派として新政府に協力,もしくは参加することが重要である,と訴えています.

LATは,Johnson-SirleaSamuel Doeに反対して投獄されたことや,Taylorの反乱を支持したことを述べています.彼女が女性として差別される状況とも闘ってきた,と.他方,彼女の国際金融界からの信用は,少なくとも資金面で,復興を助けるはずです.


FT November 18 2005

Final round for party politics

By Christopher Caldwell

(コメント) 「西側」諸国でも,政党政治がことごとく崩壊したのはなぜでしょうか? そして,最後尾にいたはずの日本だけが政権党の大勝利を示したのは? アメリカもイギリスもイラク戦争の勝利の幻想から覚め,フランスもドイツも反米主義の宣伝から内政の混乱に落ち込んでいます.そう言えば,日本だけはイラク戦争の勝利の側にも,反米主義にも,深く関与しないまま,景気回復のための時間稼ぎと内政の紛糾に明け暮れていました.

Caldwellは,政党政治が疲弊してエネルギーを失ったのは珍しいことではない,と書きます.たとえば,1970年代後半,カーター政権末期にも,世界は「革命寸前」の混乱状態を示しました.当時,それは「倦怠」と呼ばれました.現状は,当時よりもさらに悪い,とCaldwellは考えます.既存のエリートたちが信用を失い,それに代わる者が誰か分からない.イラク戦争でも,人種暴動でもなく,そもそもベルリンの壁が崩壊し,グローバリゼーションが加速したことで,何かが変わったのです.政治はまだそれを吸収できていない,と.もちろん,日本は最終ランナーです.


FT November 18 2005

Copper’s man of mystery

By Geoff Dyer and Richard McGregor

(コメント) ロンドンの商品先物市場the London Metals Exchange(LME)で,中国のトレーダーが巨額の取引をめぐるスキャンダルにかかわりました.個人として? あるいは,何かの集団? 国家が命じたのか?

問題は,自由化にもかかわらず情報や意思決定が不透明で,中国経済がこうしたスキャンダルに構造的な弱さを深めている,ということです.そして,中国が次第に国際取引の主要プレーヤーとなれば,問題は世界市場に波及します.すなわち,その最初の犠牲者が,中国の需要で動き出した世界の資源・エネルギー市場なのです.


Nov. 18 (Bloomberg)

Ben Stein, Good for Laughs, Shuns China Hype

William Pesek Jr.

LAT November 19, 2005

Seoul Chooses Sides

By Don Oberdorfer

NYT November 20, 2005

Bush, in Beijing, Faces a Partner Now on the Rise

By JOSEPH KAHN and DAVID E. SANGER

(コメント) 投資家たちが中国に殺到するのは,アメリカの「ニュー・エコノミー」がそうであったように,実現しそうにない話です.それは「中国バブル」として,いつか,破裂します.モスクワでロシア人に,中国の台頭,中国が世界を支配する,と話せば,彼らは,ソ連もそう言われたが,今はこんな有様だ,とPesek Jr.言いました.

ブッシュ氏が賞賛して止まない民主化を,韓国は成し遂げて,今,アメリカとの同盟関係を解消したがっています.1998年以後,韓国は左に,アメリカは右に,政治が舵を切ったからです.そして,北朝鮮との協議は米韓で合意された前提が失われ,アメリカ軍が韓国に駐留する理由も失われつつあります.ノ・テウ韓国大統領は,まず中国政府と会談し,それからブッシュに会いました.その逆ではないのです.そしてアメリカは,新しい民主主義国家との共存を模索しています.

ブッシュ氏は北京で,イラク問題があるので,北朝鮮について強い態度を取れず,中国が人民元の為替レートを調整しないことにも,メディアの規制や信仰の自由についても,中国の意見を聞いて柔軟な姿勢を見せることに終始しました.もちろん中国のメディアは,ブッシュ氏が京都で,日本の首相と一緒に,台湾の民主主義を称えた演説を無視しました.貿易摩擦については,アメリカからボーイングを70機購入する,というわけです.


The Guardian, Friday November 18, 2005

We must never concede the politics of aspiration for all

Tony Blair

(コメント) イギリスのように,開放型の経済を維持して,しかも不平等を回避し,社会的な結束を強めたい,と願う中道左派の政府が,何よりも教育を重視し,人的資本の形成に力を入れるのは理解できます.しかし,教育について,何が効果的な政策や投資であるか,は誰にも分からない,と思います.子供を愛する気持ちを金で買うことはできないし,子供の心を金が育てるわけではないのだから.


WP Friday, November 18, 2005

Winter in Kashmir

BG November 19, 2005

Will New Orleans rise again?

By David Dixon

(コメント) ハリケーンの被害を予測するには,高度な気象観測機械とコンピューターを必要とします.しかし,ヒマラヤの冬の寒さが地震の被災者にどれほど深刻な被害を及ぼすか,確実に予測することは簡単です.それでも正しい予測が現実の行動を約束するわけではありません.

地震により,少なくとも74000人が命を奪われ,約300万人が住宅を失いました.今までに配られたテントは34万張に過ぎず,120万人の子供が寒さや栄養不良で生命を脅かされている,と言います.隔離された村に食糧を配るにも,ヘリコプターが足りません.それは,インド洋の津波被害やニューオリンズのハリケーン被害に比べて,余りにも乏しい援助です.

2ヶ月たって,カトリーナによる死者は1000名を超えました.30万人以上が転居を余儀なくされました.David Dixonは,その近隣破壊の有様を嘆くとともに,再建のために市長との会議に集まった400人が示す思いやり,ユーモア,そして希望を賞賛します.彼らは,人種や階層を超えて,ハリケーンによる職場や住宅,コミュニティーの破壊を克服したいと願っています.9・11からニューヨークが蘇ったように,21世紀のアメリカ諸都市も再生を支援されねばなりません.

さまざまなインフラ,住宅,学校,そしてビジネスを再開し,貧困を解消するために,ブッシュ政権(や世界の裕福な諸国)は多くのことができるはずです.カシミールでも,ニューオリンズでも.

ニューオリンズの動物園が再開されたニュースや,「寅さん」映画を観るのは,とても楽しいです.


IHT SUNDAY, NOVEMBER 20, 2005

Beyond that distraction in Pusan

Philip Bowring

The Asian Age, 22 November 2005

Asia Polite Reception To Bush Masks Declining US Influence

- By Daniel Sneider

FT November 21 2005

The rise and decline

JT Thursday, November 24, 2005

Time for U.S. to leave Korea

By ROBYN LIM

(コメント) APECもまた,政治的な高位の権力者を集めた,何の意味もない写真撮影会なのでしょうか? 他方,南アジア地域協力機構や,ロシアとASEANの協力関係は関心を集めません.APECでも,真に重要なWTO香港合意に向けて,日本や韓国の農業保護問題が話し合われませんでした.APECを基盤にアジアがEUに変わって主導権を示す,という時代が,いつか来るのでしょうか?

ブッシュ氏は,ラテンアメリカでチャベス大統領に人気を奪われ,APECでも(日本を除けば)影響力を失いました.アジアでもEUをまねた,アメリカを排除し,中国が主導する政治=経済圏を建設する動きが活発です.アメリカは,シンガポールやオースたらリアなど,少数の国で9・11に対応しました.APECに加盟するチリ,メキシコ,ロシア,中国,東南アジアに共通する課題として,市場開放以外に焦点となる課題を見つけるのは難しいでしょう.たとえば,鳥インフルエンザの予防策.結局,中国市場とその輸出競争力が,ブッシュ氏の嫌う,東アジア・サミットにおいて焦点となるわけです.

要するに,韓国の大統領は,アメリカの大統領にこう言ったわけです.「あなたの任務は完了した.帰国して欲しい.」 アメリカは韓国を冷戦において守り,その民主化が平和裏に完成することを見守り,そして民主的に選ばれた大統領から,もうアメリカ軍の駐留は必要ない,と告げられました.アメリカ政府が望んでいたように? できれば,もう少し親米的な政権であって欲しかったでしょうが.それでも良いでしょう.中国は資本主義に転換したのですから.

民主主義は解決策ではないし,米軍が朝鮮半島から撤退すれば,日本には一層の軍事的負担が集中します.あるいは,グアム島の緊急展開部隊の輸送能力が高まれば,日本の基地も必要なくなる? 他方,米中関係は,石油供給など,ますます多くの経済的利益を共有するようになりました.すべての同盟関係は,時間とともに見直しが必要です.


The Guardian, Saturday November 19, 2005

Owning ideas

Andrew Brown

(コメント) 知的所有権を法律によって保護することは,誰にとっても良いことでしょうか? インターネットによる情報伝達法やビジネス・モデル,人間のDNA解析情報が「所有」される,とはどういうことなのか? 科学知識は,無料で,人類が共有してきたはずです.

さまざまな研究にますます費用がかかり,さまざまな知識がますます利益をもたらすようになれば,そのような領域が民間資本によって営利活動の対象とされるのは「当然」です.所有権さえ確立できれば.医薬品の知識を独占してきた大資本では,必要な知識を交換することに問題を生じます.また,ソフトウェアの開発費が膨張し,同時にコピー費用が安くなると,旧来の著作権では対応できなくなりました.マイクロソフトに情報を公開させ,ソフトウェアの競争を進めるには,所有権を確立したほうが良い,というわけです.

iPodに蓄えた音楽情報を交換するだけで,私たちも犯罪者になるのでしょうか? 情報のコンテンツを多く所有する者が,インターネット世界の情報大陸で,地主(知主)として富の流れを支配できるでしょう.他方,保護された情報の自由な移転や改変は許されません.

先週,紹介したThe Economistの特集は,知的所有権によって情報がビジネスと結びつき,ますます活発な革新と平等な機会,そして,多分,富の公平な配分をもたらす,と主張していました.環境を所有することと同様に,知的所有権の制度的枠組みには,将来の世界システムがかかっています.


NYT November 19, 2005

For a G.M. Family, the American Dream Vanishes

By DANNY HAKIM

(コメント) 四世代にわたってGMと生きた家族もあります.GMの繁栄によって家を買い,自家用車を持ち,かつては想像もできなかった暮らしを実現しました.引退後の医療費や年金も会社が支給しました.しかし,今では工場閉鎖が続き,倒産を免れるために労働者の賃金を引き下げます.Roy一家の歴史とともに,GMの時代が終わったことを描いています.

2004年の購買力で示せば,GMの時間当たり賃金は,19297.62ドル194013.09ドル196019.53ドル198030.58ドル200436.00ドル,と推移しました.他方,U.A.W.組合員数は,1970年の1619000人をピークに,2004年には623000人まで減少しました.

1950年代,60年代の黄金期には,3交代制で自動車を作り続けた,と懐かしがります.同時に,自動車産業の労使契約は新しいアメリカの社会モデルとして賞賛されました.政府ではなく,デトロイト周辺の自動車産業が労働者の社会保障まで提供したのです.自動車部門の労働者は,安定した,良い報酬の職場で,エリートたちでした.彼らが上昇する中産階級を代表したのです.

しかし,今では厳しい世界競争にさらされて,工場閉鎖を繰り返しています.報酬は減り,条件は悪化し,不安定な,嫌われた職場になりました.もし医療費を負担しなければならないとすれば,息子を大学にやることもできない,と労働者は嘆きます.それでも労働者家族の多くはGMとの長い友好関係を守り,会社を訴えたいとは考えない,と.経営者と組合に,長期的な見通しが欠けていた,と専門家は批判します.


FT November 20 2005

Poland’s nationalists may prove to be awkward

By Stefan Wagstyl and Jan Cienski

(コメント) ポーランドの新しい首相,Kazimierz Marcinkiewiczが直面する問題とは何か? まず,実際の権力は,彼にではなく,「法と正義党」(PiS)の指導者,双子のKaczynski兄弟にある,と書かれています.選挙で勝利したこの政党は,EUに対する批判を繰り返してきました.政府は,左右のポピュリスト集団からの支持に依存しています.政権が短命に終わって政治的混乱が生じれば,EU新加盟国の中で最大の国として,またアメリカの最大の友好国,直接投資の受入国として,EUに重大な影響を及ぼします.

ポーランド国民は第一党として,リベラルな市民行動党POを支持していました.ところがPiSは,極端な左右のポピュリスト勢力とともに,激しく左派系の政府の腐敗を批判しました.そしてPiSの指導者の一人Lech Kaczynskiが大統領に当選し,ついにPiSが第一党となったのです.

Kaczynski兄弟は,第二次大戦時のレジスタンスの闘士として有名な父親を持ち,テレビ・スターでした.その主張は,自主労組「連帯」による反共産主義活動,キリスト教の信仰(ゲイや妊娠中絶に反対),歴史的なドイツ嫌い,ロシア嫌い,などを示しています.選挙では国内問題を中心に,ポーランドが共産党の生き残りやビジネス・エリート,犯罪者に損なわれている,と訴えました.ドイツのキリスト教民主党に,フランスのゴーリズムを加え,それをポーランドのカソリック風に変えたような主張だ,と言われます.

ポーランドの政治腐敗について,ロシアの秘密警察による陰謀を強調していますが,そのような姿勢は政治を分断し,他の党派を弾圧することに繋がる,と危険視されています.Marcinkiewicz新首相はより穏健ですが,兄弟の支持がなければ動けません.新しくできた腐敗防止庁が,かつての秘密警察のような権力を振るうのではないか,と懸念されています.

今のところ,ビジネス界は経済活動にまでその影響が及ぶとは考えていませんが,民営化などは見直されるでしょう.政治不敗を追求する以外には,まとまった経済政策がありません.また,インフレ抑制やユーロ加盟を強く主張してきた中央銀行の現総裁Leszek Balcerowiczを再指名しない,と表明しています.民間投資を歓迎するとしながらも,政府の介入は強め,ポーランド企業の育成,ポーランド型資本主義を目指すでしょう.社会福祉関係を中心に,予算案がどうなるかに投資家たちは注目します.それがEUからの補助金を得る条件に関わるからです.ただし,幸いなことに,輸出は好調であり,国際収支の制約を受けません.

特に,ドイツとの歴史的な清算問題が,ポーランド政府の姿勢を試すことになりそうです.194546年にドイツが引き上げた際の補償を要求されれば,ポーランド人の怨恨が再現するでしょう.反目は,ポーランドと逆に,ドイツがロシアのパイプライン計画を支持することで高まっています.


FT November 20 2005

Big cuts in farm tariffs are no solution to poverty

By Christine Lagarde (France’s trade minister)

FT November 22 2005

Trade justice fighters are misguided

By Martin Wolf

(コメント) フランスの通商大臣Christine Lagarde,農民の利益のために保護を主張している,とは考えません.また,貧しい諸国が豊かになるためには,自由貿易だけで十分だ,とも考えません.フランスが求めているのは,1,ヨーロッパにおける雇用と成長を実現する,2.ヨーロッパ固有の基本的価値を守る,ということです.

世界の農産物市場は,もっぱら,アメリカ,ニュージーランド,オーストラリア,ブラジルなど,裕福な発展した諸国の企業によって支配されています.農産物市場の自由化で最も大きな利益を得るのは彼らであって,貧しい農民ではない,と主張します.貧困解消のためには,自由化だけでなく,医療などの援助が重要です.

他方,フランスは発展した諸国や新興経済の関税引き下げを主張しています.それはヨーロッパに雇用と成長をもたらすでしょう.同時に,CAP(共通農業政策)は,国連の教育・科学・文化機構も認めたような,多様な文化的価値を守るために重要です.

他方,Martin Wolf は,Trade justiceの要求を退けています.いくら自由貿易に反対する声明に多くの団体が署名しても,それが間違いであるかどうかと関係無い,と.貧困解消,労働者の権利,環境保護,を願うから,自由簿駅には反対する,という主張について,Wolf は以下のように反駁します.

たとえばChristian Aidはアフリカの奴隷制に強く反対します.自由化が貧困を,それゆえ奴隷制をもたらした,と.しかし,それは間違いです.貿易赤字は彼らが奴隷となる理由を示しません.赤字は融資され,生産の調整を促します.長期の均衡を考えるべきだ,と.

多くの例が示すように,輸出は成長を促します.ところが,輸入に関税を課すことは輸出を妨げているのです.それはまた,輸出に必要な技術や資本財,経営ノウハウを持った多国籍企業の直接投資も妨げます.援助によって購入する外国からの財も高価にします.それでも,すべての国は主権を維持しなければならない? Wolf は,発展した諸国もさまざまな国際的制約にしたがっている,と指摘します.すべての主権が好ましいものではないわけです.


NYT November 20, 2005

The Importance of Staying With Iraq

By DAVID BROOKS

NYT November 21, 2005

Time to Leave

By PAUL KRUGMAN

WP Monday, November 21, 2005

The Bosnian Example for Iraq

By Jackson Diehl

BG November 22, 2005

Why it's time to bring American troops home

By H.D.S. Greenway

(コメント) DAVID BROOKSは,イラクに駐留するアメリカ軍の存在がテロを生んでいるわけではない,と考えます.暴力は,スンニー派とシーア派との間で起きている.スンニー派が自分たちの支配を正しいと考え,シーア派を人間以下と見なしていることによる.もしアメリカ軍が引き上げたら,イラクを内戦に引き込まない唯一の安定化勢力が失われる.そして,イラクが内戦になれば,イランはシーア派を支持して介入し,トルコはクルド人の独立を恐れて介入する.中東世界における第一次世界大戦が始まるわけだ,と.

Jackson Diehlは,イラクに比べて,ボスニアにははるかに多くの兵力と外交交渉による努力,そして復興資金がつぎ込まれた,と指摘します.イラクよりもずっと小さな土地と人口に対して,欧米は,一層,重大な脅威を認めたわけです.

PAUL KRUGMANは,開戦をめぐるブッシュ氏の間違った指導,アブグレイブでアメリカが帯びた過ちと恥辱,を許しません.さらに,イラク撤退を内戦に至る暴挙と非難する意見に対して,アメリカ軍がいつまでイラク駐留を維持できるのか,と問います.それがこの1年か2年で限界であるとすれば,いつ撤退するのが適当か? と.内戦やイラクの破滅を永久に防ぐわけには行かないとしたら,アメリカ兵の犠牲を減らすべきではないか? むしろ,撤退によって事態が好転する見込みもある,と.H.D.S. Greenwayも,撤退による治安回復の可能性を重視します.

米軍が撤退して反政府武装勢力と戦うイラク政府は,韓国ほど民主的ではないとしても,韓国ほど反米的ではないかもしれません.


LAT November 21, 2005

Can it happen in Britain too?

Niall Ferguson

ストライキ,熱波,ナチズム.こうした災難はイギリスで起きそうもない.しかし,フランスで起きた最近の暴動は,ここでも4年前に起きた.イングランド北部の三つの町で,移民コミュニティーの若者たちが大規模な暴動を起こした.

白人と非白人のイギリス人との間で,爆発しかねない緊張は今でもある.非白人のイギリス人は8人に1人となっている.そしてAnthony Walker殺害は,「人種的なヘイト・クライム」と考えられている.そのような犯罪が急速に増えているようだ.

暴力だけでなく,フランスと同じように,長年にわたる非白人コミュニティーの形成,非公式な居住区の隔離,労働市場の差別,警察による嫌がらせ,が存在する.しかし,同じ人種対立の種が撒かれながら,イギリスでは人種統合がうまく進んでいる,という.

イギリスでは移民コミュニティーや飛び地が世代を経て分散・解消し,専門的な職業や経営者に育っている.それはもちろん良いことだが,住居の混在や社会的上昇が人種偏見を減らすとは限らない.むしろ,人種統合の成功は,まったく逆の効果をもたらす.

1世紀前に,ロシアがポーランドやウクライナを支配したとき,ユダヤ人たちは迫害や虐殺を恐れて西へ逃れた.そして,多くのユダヤ人が西欧に住み着いた.20世紀初めに,移民の息子や娘は経営者や専門職,大学で活躍していた.ユダヤ人と非ユダヤ人との結婚も増えた.

しかし,それから10年も経たずに,ユダヤ人種の消滅・溶解は「最終的解決策」に変わった.その議論は,最初,ドイツで示されたが,その後,大陸ヨーロッパ全域に広まり,驚くべき反セム族差別主義が席捲した.ホロコーストはもちろん得意な歴史的犯罪であったが,そこに潜む動機は特別なものではなかった.すなわちマイノリティーの目覚しい成功を暴力的に破壊したい,という気持ちだ.

イギリスでナチズムが広まるとは思わない.しかし,人種統合への反動に向かう危険がある.マイノリティーのすべての成功には,二人以上の白人の敗北が存在するから.

教育が足りない,熟練を欠いた,失業しがちな白人のイギリス人は,自分の失敗について自分自身(や選挙で選ばれた指導者,無頓着な両親)を責めるべきだ.しかし,必死で働く移民の子孫たちを責める方が,もっとずっと快適に違いない.そしてその怒りは非白人の男性が白人の女性と一緒にいることで刺激される.すなわち,人種統合の危機をもたらす点で悪しき効果を発揮する性的な嫉妬である.

人種的なヘイト・クライムや,マイノリティーの警察官が示す差別的行動,など,フランスが示す問題はイギリスにもあり,人種統合の成功ゆえに,問題を秘めている.


FT November 22 2005

Revaluation is not the answer inAsia

By Avinash Persaud

(コメント) Avinash Persaudは,アジア通貨を増価させてもアメリカの赤字は解決しない,と主張します.国際通貨システムは,強い国と弱い国,赤字国と黒字国に,均等な政治的圧力をかけません.アメリカ政府は,中国に対して人民元の増価を強いるため,輸入に関税を化す法案を用意しているときに,カトリーナ被害やイラク戦争のために自国の財政赤字が膨張するのは気にしません.

通貨の増価はアジア諸国にとって利益になる,とスノー財務長官は繰り返します.しかし,Persaudは日本の例に言及し,大幅な通貨高はデフレをもたらす,と指摘します.その間,日本の黒字やアメリカの赤字は減りませんでした.中国のせいでアメリカの赤字が増えているというより,むしろロシアや中東からの石油輸入で赤字が増えているのです.二国間の不均衡を責めることは無意味です.

Persaudは,たとえ純粋な変動レート制を採用しても,アジアの黒字はなくならない,と主張します.黒字は貯蓄率よりも国内投資率が低いから生じるのです.それゆえ,日本がそうであったように,アジアも金融市場が健全に機能する方が良い,と考えます.もし黒自国の過剰貯蓄が健全に投資されるのであれば,それは総ての者の利益である,と.


Michael Ableman Thanksgiving, from the ground up LAT November 23, 2005

Joan Vennochi A day for thanks, and for wishes BG November 24, 2005

DAVID BROOKS The Real Thanksgiving NYT November 24, 2005

This One Meal NYT November 24, 2005

Richard Cohen Thanks, but No Card WP Thursday, November 24, 2005

Thanksgiving WP Thursday, November 24, 2005

(コメント) 感謝祭.南北戦争の最中にリンカーンが提唱した11月最後の木曜日に行う感謝祭.七面鳥.世界の治安維持のためにアメリカは税金を使う.肥沃な土壌,安全な水.新鮮な食糧を得たことへの感謝祭.

悲しむべきことも多いけれど,と,BGは感謝するものを並べます.教育の機会.土地.公共の図書館.水,空気.愛する家族や恋人.戦争や社会保障制度など,多くの不満もあるが,われわれには異なった意見を示す自由がある,と.

ピルグリムたちの最初の冬.飢餓.大恐慌.第二次世界大戦.「私が若かった頃は,・・・」という老人たちから聞いた話.


NYT November 23, 2005

George Bush's Third Term

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) ブッシュ政権は第三局面に入った,とFRIEDMANは考えます.第一は2001年の9・11によって再選されるまで.第二は,再選されてから社会保障制度改革などに失敗し,カトリーナで完全に支持を失うまで.もし議員内閣制であれば,これでブッシュ政権は終わりでした.

しかし,まだ3年あります.第三局面として,FRIEDMANは二つの選択肢を示します.一つはアメリカ分割を強化し,キリスト教右派と50.1%の国民に依拠して改革を断行する.もう一つは,アメリカの将来の課題を見据えて,より中道の路線を取り,中国からの挑戦に対抗する.前者を取った場合,アメリカ史上最悪の大統領として記録されます.

******************************

The Economist, November 12th 2005

France’s failure

France’s riots: An underclass rebellion

Charlemagne: Minority reports

(コメント) 炎に包まれた自動車の列に,担ぎ上げたホースから放水する消防士のシルエットが火炎に呑み込まれそうです.人種暴動について,フランスやヨーロッパの社会モデルが反省を強いられています.特に,人種間の同化や融和を妨げてきた社会システムを改善する努力が,その政治におけるエリート支配によって無視されてきたのではないか? 若者の失業者にあふれる,隔離されたゲットーの厳しい現実を,多くの白人は無視してきました.しかも,労働市場の硬直性が雇用を二層分化させて,正規雇用を失った白人層は低賃金の不定期労働者を恨みます.治安維持やテロ対策として警察力が「人種暴動」にも多用されました.


Japan: Meet the new salaryman

Israel and Palestine: The Hamas conundrum

Oil producers surpluses: Recycling the petrodollars

(コメント) 日本の「サラリーマン」が,新しい絶滅危惧種に指定されつつあります.終身雇用の男性労働者が支える理想的家族は,日本企業でも少なくなりました.高齢化が進み,労働力が枯渇する過程で,女性と高齢者の雇用を促す必要があります.同時に,若者の失業を解消しなければなりません.どうやって? 女性の起業家を増やし,若者の参加意識を高める・・・?

ハマスがファタハに代わってパレスチナ自治政府を組織するのでしょうか? 選挙は武装組織を政党に脱皮させる? 自爆テロと内戦によってイスラエルの消滅を願うより,平和的に支持を訴えて人々の生活を改善し,そのためにイスラエルとも交渉して成長を実現する政府になってほしい,と人々は期待します.

アメリカ議会やスノー財務長官は,今も,中国政府に為替レートの調整を求めているかもしれません.しかし,実際に世界の不均衡を拡大しているのは石油価格の高騰によって黒字を増やしている産油諸国です.中国の黒字はGDPの6%ですが,サウジアラビアは32%,ロシア13%,ノルウェー18%に達します.それゆえ,オイルダラーのリサイクリングと産油諸国の為替レート調整が議論されるわけです.

黒字国は,国内消費や投資を増やして赤字国から輸入を増やすか,黒字分を貯蓄して,国内で投資されない部分を海外に預金もしくは投資しなればなりません.過去の石油価格高騰の教訓により,産油諸国は消費するより貯蓄を増やすと予想されます.経済構造を多様化し,雇用をもたらす事業や教育に投資します.また,アメリカ政府やテロ対策を嫌って,ますます多くの資金が銀行ではなく投資機関に委ねられそうです.その影響は,オフショアからのドル建資産への投資,ヨーロッパからの輸入増加,逃げ足の速い資金がドルからユーロにシフトする,などと予想されています.

為替レートは調整に役立つでしょうか? 石油はドル建の国際商品であり,産油国の為替レート変更による需要や供給の調整は期待できません.しかし産油諸国は,その他の国際商品を輸出する国と同様に,為替レートをドルに固定するべきではない,と主張されます.輸出による収入が国民所得を変動させることを緩和するために,為替レートの弾力性が必要です.そして,アメリカの金融政策をそのまま輸入してしまうことも間違いです.

アメリカの赤字は,結局,アメリカ自身が国内貯蓄を増やすべきなのです.それが,ドル安やアジア諸国と産油諸国が,結果的に,もっと支出することと一致して,世界の不均衡を調整できます.