IPEの果樹園2005

今週のReview

10/17-10/22

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :文化資本,ソフト・パワー,ゲーム理論

安全保障 :IAEA,イラク

貿易・投資 :フェア・トレードドーハ・ラウンド

通貨・金融 :基軸通貨の交代

世界統治 :OSの競争超資産家,メルケル,中国の資本家,移民

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, JTJapan Times, CSMChristian Science Monitor


FT October 6 2005

The rebel alliance

(コメント) 今でも忘れることのできない雑誌記事のキャッチ・コピーがあります.「そろそろ年貢の納めどき?」

マイクロソフト社が,毎年のようにウィンドウズを更新して,あたかも年貢の取立てのように,世界中のコンピューター利用者から更新ソフトのダウンロードで稼ぐシステムを動かし始めたときの記事でした.(そして「マトリックス」のようなSFが栄えました.NYTのトマス・フリードマンが,この世界を”Flat World”と呼ぶなんて,とんでもない話だ,と私は思いました.)

既に,ウィンドウズの支配を打ち破る者はインターネットを使って現れる,と予想されていました(まるで「風の谷のナウシカ」の予言みたいです).マイクロソフトはいち早く,ネットスケープやAOLの計画を破壊したのです.

しかし,今度はどうでしょうか? 新しい敵の名は,Google.サン・マイクロ・システムズと組んで,新しい思想を形にします.すべてのソフトがウィンドウズにぶら下がって,あるいはウィンドウズの領土で立ち上がる世界(だから地主であるビル・ゲイツに地代を支払わねばなりません)を捨てて,誰でもインターネット空間を共有し,どこからでも誰かが作ったソフトを利用できる,すなわち,インターネットがコンピューターそのものだ,という思想です.

もちろん,アメリカ法務省やEU委員会は,ウィンドウズがPCを独占している事態について法的な強制措置を検討しています.FTは,マイクロソフトを分割しなくても,ほかに市場圧力を加える措置はある,と考えているようです.(その方法には,独裁体制を批判されている中国共産党も強い関心を示すのでは?)

Googleがだめでも,中国がLinuxと組んで次の攻撃を準備しているのではないでしょうか? そして,日本のメガ・バンクやインターネット業界から,さらに新聞・テレビ・ケーブルなどのメディア産業を呑み込み,音楽・スポーツ・アニメなどのエンターテイメントまで統合する新しい世界資本が誕生して,OSの新しい同盟をインターネットの世界に登場させるでしょうか? たとえば,携帯電話に共有されたOSを使って?

ようやく,私たちもPCの地代から解放されるでしょうか? しかし,新しいインターネット犯罪とセキュリティー・システムへの地代が始まっています.・・・ワクチン無しには歩けないような,ウィルスだらけの新しい新世界.


IHT THURSDAY, OCTOBER 6, 2005

Ban (your) nukes!

By Charles D. Ferguson and Ray Takeyh

BG October 8, 2005

The road to peace

Chicago Tribune, October 8, 2005

A Nobel in an era of danger

BG October 9, 2005

Bottling the nuclear genie

By Anne Wu

(コメント) 核不拡散条約(NPT)は,核保有国がその軍縮を進めるという理由で,それ以外の国に核兵器の開発や保有を禁じ,そして,核の平和利用を求めました.ところが,特にブッシュ政権は,この合意を無視し,核の開発や実験を正当化し,また,テロとの戦争でパキスタンを見方にするために,核拡散を導いたパキスタン政府や,そのバランスを取るために,インド政府に核保有を認めてしまいました.核保有はアメリカの戦略や偽善によって決められることになったのです.そうであれば,イランや北朝鮮が核保有や核の平和利用を拒まれる合意など無いに等しいでしょう.

IAEAのエルバラダイ委員長は,NPTの合意を生かすために,今後5年間に限り,核開発や実験を中止するように求めました.しかし,この提案に強く反対したのがアメリカ政府です.イラク戦争の大義であった大量破壊兵器WMDの廃棄という訴えを,最も邪悪なWMDである核兵器の拡散に手を貸す形でアメリカ自身が裏切るとしたら,その信用は大きく損なわれます.

エルバラダイ氏は,ノーベル平和賞を受賞しました.アメリカの政策と矛盾する形でノーベル平和賞が決められることは,良くあると思います.「多角主義を通じて国際的な平和と安全保障を実現することが私の信念だ」と彼は言います.人種や国境を越えて,人々が団結すれば,それは可能である,と.

しかし,IAEAは核の平和利用を促す役割も担っており,それこそ多くの国が秘密裏に核兵器を開発した方法でした.またエルバラダイのIAEAは,カーン博士による核兵器のスーパーマーケットを見逃してしまったのです.NPTは,核兵器の「アパルトヘイト」でしかない,という非難を受けています.

魔法使いのジニーは既に壷から出てしまったのです.ベネズエラでさえ,核の開発を始めると噂されています.


NYT October 6, 2005

Pillars of Cultural Capital

By DAVID BROOKS

(コメント) 日本の大学でも,次第に,奨学金が親の所得を補うものではなく,学生たちの成績を褒賞するものに変わっています.先週の「ホワイトハウス」では,娘の学費に悩む父親の声を聞いて,バートレッドのスタッフたちが学費を全額控除対象にすることを提案しました.

9万ドル以上の所得がある家庭の子供は,二人に一人が24歳までに大学を卒業し,35000ドルから61000ドルの所得水準にある家庭では10人に一人,そして35000ドル以下の所得しかない家庭の子供は17人に一人が,24歳までに大学を卒業できる.」

DAVID BROOKSは,今日の貧富の格差は,金融的な資産の蓄積によるのではなく,親の学歴が子供の学業を支配する,という「文化資本」の独占にある,と主張します.一部のエリート学校は,高額の学費と,さまざまな特権的ネットワークを支配しています.たとえそのような学校に貧しい家庭の子供が入っても,優れた成績を上げる環境に適していない,と感じるでしょう.


FT October 7 2005

Stressed for success

By Stefan Stern

Burning ambition

By Toby Moore

Lenin wouldn’t like it

By Nora FitzGerald

For richer, not poorer

By Edi Smockum

(コメント) FTは,世界の資産家を特集しています.London Metropolitan University Stephen Haseler 教授が書いたThe Super-Rich: The Unjust New World of Global Capitalism (2000)は,世界の超資産家を5年前と比べて,政府に対する独立性を得たことだ,と言います.超資産家たちの行動は,もはや自国の政府に左右されず,世界市場に依拠しているからです.

超資産家たちの心理や目標,経歴を示すように,貧しかった農婦が高級ブランドや宝石を身に着けたいと願うことを,社会が民主化され,富裕も手に入るようになったと祝うべきでしょうか? むしろ「その時代の支配的なイデオロギーは,支配者のイデオロギーだ.」と考えるほうが,私は納得できます.たとえば,ハリウッドでマリリン・モンローが演じたように.


FT October 7 2005

Because they’re worth it

The FT Top 25 Billionaires: 1-25

(コメント) 政治経済的なパワーで評価された世界の上位25人が支配する富は3200億ドル(約36兆円)です.

Bill Gatesが昨年に続いて第一位ですが,Steve JobsiPodの成功でそれを追っています.Googleの二人を含めて,4人もシリコン・バレーの企業資産家が含まれています.昨年よりもヨーロッパからの資産家が増え,政治資産家は減りました.女性と日本人はいません.

このリストから何を読み取りますか?

01: Bill Gates

Chairman and chief executive, Microsoft

世界のPC90%以上をウィンドウズで動かす.そして,社会慈善事業家.

Age: 49

Worth: $51bn

02: Steve Jobs

Chief executive, Apple Computer

コンピューターは複雑ではなく,有益で,美しいものを提供する.iPod

Age: 50 Worth: $3bn

03: Pierre Omidyar

Founder and chairman, eBay

誰でも,何ででも,参加できるネット・オークションを事業に育てる.

Age: 38 Worth: $10bn

04: Sergey Brin and Larry Page

Co-founders, Google

7年前に倉庫で開発した検索ページGoogleを世界最大にまで育てる.

Age: 32 Worth: $11bn each

05: Rupert Murdoch

Chairman and chief executive, News Corporation

世界最大のメディア事業を樹立した.映画,TV番組,出版にも積極的に投資.

Age: 74 Worth: $6.7bn

06: Michael Bloomberg

Mayor of New York and founder of Bloomberg financial news service

ロイターを破って,Bloomberg金融ニュースを広めた.

Age: 63 Worth: $5bn

07: Silvio Berlusconi

Prime minister of Italy and founder of Fininvest

メディアとビジネスとイタリア政治を結びつけて,富と権力を拡大する.

Age: 69 Worth: $12bn

08: George Soros

Hedge fund manager and philanthropist

1969年にQuantum Fundを設立.ヘッジ・ファンドの効率的な営利活動を証明する.

Age: 75 Worth: $7.2bn

09: Carlos Slim Helu

Telecoms tycoon

メキシコの国営電話会社Telmexを買収する.

Age: 65 Worth: $23.8bn

10: Azim Premji

Chairman, Wipro

食用油の家族企業から始め,インドの自国企業保護のためIBMが撤退する際,ハイテク事業を買い取る.ソフトウェアやコール・センターのアウトソーシング.

Age: 60 Worth: $9.3bn

11: Lakshmi Mittal ;Chairman, Mittal Steel Company Age: 55 Worth: $25bn

世界的な製鉄会社を経営.老朽化したインドネシアの製鉄会社を蘇らせる.

12: Warren Buffett ;CEO, Berkshire Hathaway Age: 75 Worth: $44bn

ビジネスを理解した上で,長期の投資だけを行う.

13: Richard Mellon Scaife ;Publisher and philanthropist Age: 73 Worth: $1.2bn

メロン財閥の富を,反共・保守派の政治研究所やメディアの育成に投資する.

14: Thaksin Shinawatra ;Prime minister, Thailand Age: 56 Worth: $1.3bn

タイの警察官,アメリカの大学で修士,ITビジネスと株式市場において成功し,政界に進出,首相となる.

15: Gordon Moore ;Chairman emeritus, Intel Age: 76 Worth: $4.6bn

インテルの創業者.PCの心臓をマイクロソフトと共同支配.

16: Roman Abramovich ;Russian oligarch and Chelsea football club owner Age: 38 Worth: $13.3bn ロシアの共産主義崩壊後,国営企業を買収し,特に石油分野でSibneftを支配した.

17: Ted Turner ;Media magnate and philanthropist Age: 66 Worth: $2bn 世界的なケーブル・テレビ・ネットワークCNNを創業.

18: Bernard Arnault ;Chairman, chief executive and controlling shareholder of LVMH Age: 56 Worth: $17bn パリから世界の高級ブランドを支配する.

19: John de Mol Media mogul Age: 50 Worth: $2bn テレビ番組.

20: Larry Ellison ;Co-founder and chief executive, Oracle Corporation Age: 61 Worth: $17bn ソフトウェアの大企業Oracleを創業.

21: Michael Dell ;Chairman, Dell Age: 40 Worth: $18bn PCの注文販売,Dell創業.

22: Ingvar Kamprad ;Founder, IKEA Age: 79 Worth: $23bn 家具・内装のIKEA創業.

23: Lee Kun-hee ;Chairman, Samsung Group Age: 63 Worth: $4.3bn (family fortune)  韓国家電からハイテクのSamsung Group

24: Hasso Plattner ;Co-founder and chairman, SAP Age: 61 Worth: $5bn IBMから独立したヨーロッパのソフトウェア企業.

25: Li Ka-shing ;Chairman, Hutchison Whampoa Age: 77 Worth: $13bn 香港の海運・不動産から多方面に投資.携帯電話投資に失敗し,順位を下げる.


FT October 7 2005

Iraqi ‘No’ may not be such a bad thing

By Roula Khalaf

(コメント) 憲法に反対するスンニー派の投票が組織されることも,イラクが民主化される重要な過程です.連邦制に関してシーア派とクルド人が分割に近い案を支持しても,スンニー派の人々はそれを拒めませんでした.しかし,反対派の意見が選挙後の維持されるような組織が育てば,将来の政治過程で憲法を見直せるかもしれない,と期待します.人種や宗派の違いだけが多数を約束するような政治は,民主主義とは言えません.


FT October 7 2005

No panacea for coffee

NYT October 11, 2005

Read the Tea Leaves: China Will Be Top Exporter

By KEITH BRADSHER

(コメント) 17年前に,オランダのthe Max Havelaar Foundationがネッスルとフェア・トレード・コーヒーを始めました.社会が豊かになれば,商品の社会的価値や環境保護に特別な負担をしても良い,と消費者は考えるようになりました.

貧困を無くすためにフェア・トレードを増やすことは,経済援助で環境や社会に負荷をかけるよりもはるかに良いことでしょう.しかし,フェア・トレードは曖昧で不透明な概念です.男女平等や労働基準,環境保護を守った証明書を発行し,価格を保証されるのは,その中身が見えない限り,本当にどの程度役立っているのか分かりません.

そもそもフェア・トレードがどこまで貧困解消に役立つのか,深刻な問題があります.コーヒーのような一次産品は,市場の強い圧力で,フェア・トレードに含まれない商品の価格を下げたり,フェア・トレードに関わる農民の賃金を高く維持できなかったりするでしょう.

FTは,フェア・トレードよりも,貧しい諸国の農業を多様化し,そのためにも豊かな諸国が農産物輸入を自由化することが重要だ,と主張します.

また,中国のお茶が,国内で西洋風の飲み物に若者の消費者を奪われる一方,世界に輸出を伸ばして,貧しい諸国の茶栽培農家を苦しめる,という記事も目にしました.


FT October 7 2005

Airbus tries truce in airline subsidy war

LAT October 8, 2005

Sweet taste of success

FT October 9 2005

The US will kickstart Doha trade talks

By Rob PortmanUS Trade Representative

NYT October 10, 2005

U.S. Steps Up Effort to Persuade China to Shift on Trade

By EDMUND L. ANDREWS

NYT October 10, 2005

U.S. Puts Pressure on Europe to Open Its Farm Markets

By TOM WRIGHT International Herald Tribune

LAT October 13, 2005

The trade game

WP Thursday, October 13, 2005

Waking Up to Trade

(コメント) 産業補助金廃止は,エアバスとボーイングとの関係だけでなく,ドーハ・ラウンドの成否に関わる問題です.しかし,アメリカとヨーロッパの両政府は航空機に対する補助金を解決できません.他方,EUやWTOより,アメリカはNAFTAにおけるメキシコ側の成功例に注目します.NAFTAが貧困や移民の問題を解決する可能性があるからです.

アメリカは先進諸国の農産物市場開放,貧しい諸国に対する支援,貧しい諸国自身の市場開放・自由化,あるいはさまざまなハイテク農業など,WTOが扱う範囲を拡張しようとします.その場合,貿易障壁を減らすことが目的なのか,規制の統一や社会的基準の共有・再強化が目的なのか? 政治主体の意図は,問題によってさまざまでしょう.

アメリカ政府は,通商問題と通貨問題を関連させて,中国側が市場改革と開放を進めるように説得します.そうしなければ,アメリカ議会の敵対的な貿易摩擦に対する攻撃の的となり,両国の貿易・通貨戦争が始まりかねないからです.それは,また,アメリカ金融ビジネスの中国進出に道を開くための勧誘でもあります.

ノーベル賞を受けたゲーム理論が言うように,協調するほうが敵対するよりも双方にとって利益が大きくなるのです.それゆえ,WTOを介して合意を促し,それを守る保証にします.しかし,カナダやブラジルでさえ,WTOを無視して,小型機の開発に補助金を利用しました.

農業補助金の大幅削減を唱えて,ドーハ・ラウンドの再生を図ったブッシュ政権に対して,日本やEUは積極的に反応していません.そもそもの提案が,曖昧な点を含んでおり,農業の政治的な保護について管理貿易の傾向を抑えられるとは限りません.しかし,補助金削減は財政再建に有効ですし,世界の貿易自由化に貢献します.

「国内的に見て,その資源(補助金)の70%が裕福な10%の農民に分配される制度は無意味である.国際的に見て,裕福な諸国が毎年3500億ドルも農民に補助金を与え,世界の国産物価格を引き下げて貧しい世界の農民を苦しめる制度は不正義である.」


BG October 7, 2005

Bush bravado

The Guardian, Tuesday October 11, 2005

My heroes are driven by God, but I'm glad my society isn't

George Monbiot

(コメント) もしその聴衆がアメリカ国民やヨーロッパ,イラクの市民であれば,アメリカを分断し,世界を憤慨させるために演説したのか? という疑問を残します.しかし,政治的支持を急速に失ったブッシュ氏は退路を確保したいのです.冷戦まで持ち出して,再び911に抗したアメリカを称え,神の国を唱えるブッシュ氏は,保守派の団結を維持し,引き締めを図ったのでしょう.

マドリード,ロンドン,バリ,イスタンブール,各地で行われた爆弾テロ,イラクで続く自爆テロなど,その後の経過は,ブッシュ氏の「テロとの戦い」が効果的でなかったことを示しています.ブッシュ氏の間違いは,その神秘的な,大げさな解釈で,具体的な行動(そして,行動計画の欠如)を正当化することです.

信仰の篤い社会が,犯罪や自殺,人工中絶など,さまざまな指標で,信仰の薄い社会よりも優れている,というのは間違いかもしれません.むしろ自分自身の考えを疑い,批判を受け入れることが無い社会のほうが,深刻な過ちを犯すでしょう.だからGeorge Monbiotは考えます.もし社会が神の望むような状態に近づきたいなら,神などいないと思うことだ,と.


NYT October 7, 2005

What Were They Thinking?

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント)THOMAS L. FRIEDMANは考えます.未来の歴史家がサダムとブッシュに質問するとしたら,何を聞くだろうか? 「サダムさん.一体,何を考えていたのですか? 大量破壊兵器WMDなんて無い,と言えばよかったでしょう?」 「ブッシュさん.なぜイラクで勝利できる十分な兵力を,ラムズフェルドに与えなかったのですか? イラクの治安も回復できないなんて.なぜそれほど簡単に勝利できると思ったのですか?」

その答えを,FRIEDMANは米軍と英軍の作戦本部で知った.彼らはイラクに余りにも何も無いことに驚いていた.一体,どうやってイランと何年も戦ったのか? と.しかし,これが現実です.だからサダムはWMDの幻想に頼ったのだ,とFRIEDMANは主張します.WMDへの疑念がイラクを周辺の侵略や国際的な地位の失墜から守ったのです.それを否定することは,イラクの体制を放棄するに等しかった.

そして,また,だからブッシュ氏は戦後再建を唱えたりせず,治安回復だけでも軍備をもっと集中しなければならないはずだった.イラクの社会,経済,制度は,湾岸戦争やイランとの戦争,そして国連の制裁で,完全に破壊されてしまっていた.ブッシュ氏が戦後ドイツを再建したように,イラクで民主国家を再建できる,と考えたのは間違いでした.ドイツはドイツでも時代が違う.それは近代国家が成立する前の,中世ドイツ,部族と封建領主が支配するドイツでした.

だからFRIEDMANは憤慨します.ブッシュ氏が唱える理想は素晴らしいが,その実現に何の負担も必要ないという幻想を振りまき,増税することも,軍を補充することもしなかった.今に至るも,占領の失敗を改めることさえない,と.


FT October 9 2005

Germany against reform

By Wolfgang Munchau

LAT October 12, 2005

Merkel's moment

FT October 12 2005

Why it is make or break for European social reform

By Gordon Brown

(コメント) 漸く「大連立政権」でメルケルが指導することになったドイツ政府ですが,当然,その予想は厳しいものです.

Wolfgang Munchauの診断は,ヨーロッパでは,改革の時代が始まるより先に終わってしまった,というものです.改革はもう十分だ,と有権者は示しました.しかし,子供たちは1時に学校を終え,母親たちは働きに出ず,午後8時に店が閉まり,労働者は週に35時間しか働かない.賃金決定は組合が握っており,企業は解雇もできない.・・・これが改革を終えた経済の姿とは決して思えない,と.

シュレーダーは改革の作業工程を間違いました.中途半端な自由化と社会的給付を削減しただけです.ドイツに市場のダイナミックな拡大や投資,雇用は戻ってきませんでした.有権者たちが拒むのは,こうした改革の成り行きです.改革を行うには,いつ,どのような経路で,改革がその利益をもたらすのか,示す必要があるでしょう.

シュレーダーは首相の座を降り,引退することと引き換えに,14の閣僚ポストのうち,外相と財務相を含む,八つのポストを要求しました.それでもドイツ首相としてメルケルが登場したことは画期的です.LATは,アメリカから見て,その意義を強調します.

他方,イギリスのGordon Brown蔵相は,新しいヨーロッパの社会モデルを要求し,雇用と開放型の経済システムを求めます.そのためには,ヨーロッパが閉鎖的であってはならず,公平性と弾力性がともに必要だ,と.


FT October 9 2005

How soft power is winning hearts and minds

By John Quelch

FT October 12 2005

How to counter terrorism’s online generation

By Joseph Nye

(コメント) ソフト・パワーに関する議論は,その性格上,いつも曖昧です.Joseph Nyeによれば,それは「強制ではなく,魅力によって,欲しいものを手に入れることができる力」と定義しています.しかし,実際にはどうか? John Quelchは企業の世界で検討します.

多国籍企業のいくつかは,次第に,市場を奪い合うだけでなく,顧客との関係を重視し,利益を増やす以外の社会的活動や市場イメージの改善に投資するようになっている.特に,CEOたちは,その所得から社会慈善活動に寄付したり,基金を設けたりもしている.また,株式保有を多国籍化させて,アメリカ企業というより,コスモポリタン企業のイメージを強調する.

この記事には,その例として,BP,e-Bay,マクドナルド,IBM,シティ・グループ,ビル・ゲイツ,などが紹介されている.短期的には株主の利益を最大化するというハードの戦いで勝ち残るとしても,長期的に生き残るには,ソフト・パワー戦略が支配的であろう,と.

Joseph Nyeは,イスラム過激派のテロが新しいのではなく,情報通信手段がテロの組織化や活動を容易にしたことが新しい,と言います.しかし,政府にできることは限られています.彼が薦めるのは,テロリストたちの示す物語に対抗すること,です.ジハードを唱えて外国人の首を切り落とす映像が世界中でダウンロードされました.このような振る舞いを,どう解釈して,どのような将来につなぐのか?


BG October 9, 2005

Foreign policy realism

LAT October 9, 2005

American debacle

By Zbigniew Brzezinski

FT October 13 2005

Foreign policy realism at a price

By Philip Stephens

(コメント) BGの論説も,Zbigniew Brzezinskiも,アメリカが政策を転換し,ネオコン的な一国による拡大や体制転換を止めて,多角主義的な外交交渉と,軍事介入に慎重な姿勢に戻ること,特にイラクからは早期に撤退するべきだ,と考えます.

しかし,リアリズムに復帰するには,プーチンのロシアと手を組んで国内の改革要求を無視する,という代価が伴うでしょう.


FT October 10 2005

Asia’s missing investment

By Guy de Jonquieres

The Guardian, Tuesday October 11, 2005

Victims of the convulsions now transforming China

Martin Jacques

NYT October 12, 2005

China Hopes Economy Plan Will Bridge Income Gap

By JOSEPH KAHN

FT October 12 2005

Lex: China’s wealthy

Oct. 14 (Bloomberg)

China Is Neither Japan Nor the Soviet Union

William Pesek Jr.

(コメント) アジアにおける過剰貯蓄もしくは投資不足の状態は,世界経済の不均衡をもたらしています.しかも,中国だけで続く投資ブームは生産設備の過剰投資を,アジア諸国の企業を巻き込んで,破壊し始めるかもしれません.

中国で進む所得格差の拡大は,同時に,共産党員や地方政府の腐敗・汚職という問題を,現在の政治システムがどのように解決できるか,という重大な挑戦を意味しています.公的なメディアも腐敗・汚職問題を取り上げ,農民たちの抗議活動を伝えるようになりました.それは,共産党の指導体制を賭けても,この問題を解決しようとする姿勢を示すかもしれません.農民たちが都市への移住や土地価格の値上がりから十分な利益を受けられないのは,その所有権が曖昧なことを利用して,こうした地方政府のエリートが利権を閉鎖的に支配しているからです.

農民たちの抗議が共産党に改革を促すでしょうか? むしろ,その富裕層の増大は,ますます中国が資本主義的なシステムを受け入れたことを示すのではないでしょうか? 一人当たり平均所得が年1300ドルに過ぎない中国ですが,それは年率8-9%で増大しています.しかも,所得上位100人の資産は,平均で年44000万ドルに達し,1年で48%も増やしました.富裕者リストはゴルフ・クラブが集めますが,その上位10人は30万人を雇用し,昨年だけで,75000万ドルを納税しました.

William Pesek Jr.は,中国とアジアの台頭が,かつてのヨーロッパ帝国主義や,日本,ソ連の登場とはまったく異なる,と考えます.決定的な理由とは,その人口規模と開放性です.アメリカは覇権を守るために,それを妨害しようとしてはなりません.既に中国は世界的な開放システムに深く組み込まれており,金融システムだけ見ても,これを阻むことはできないからです.プラザ合意型の調整も難しいでしょう.なぜなら中国は日本よりもはるかに貧しく,輸出に依存しているからです.

結局,アメリカはいやいやながら覇権を譲ることでしょう.そして,中国とアジアを中心とした世界システムに自分たちの位置を見出す準備をすることです.


IHT TUESDAY, OCTOBER 11, 2005

Facing the facts on migration

Philip Bowring

The Guardian, Tuesday October 11, 2005

Of course the wealthy want an immigration free-for-all

Polly Toynbee

(コメント) 移民を促す国際合意と国際的な資金援助が行われることは,貧しい国にとって貧困から抜け出す大きな助けとなるはずです.しかし,人口や労働力が減少するにもかかわらず,裕福な国は受け入れる姿勢を見せません.それは結局,地下経済が拡大する危険を高めるだけかもしれません.

Polly Toynbeeは,移民労働者の流入を制限するべきだ,と考えます.なぜなら,それは労働組合の交渉力を失わせて,イギリス全体に低賃金労働者を増やすからです.オリンピック開催のための建設工事は,ロンドンの低所得者を雇用するよりも,東ヨーロッパからの移民を引き寄せています.何かの仕組みが無ければなりません.アダム・スミスの見えざる手は,ここでは格差の拡大に向かうのです.


NYT October 10, 2005

Game Theorists Win Nobel Prize for Economics

By THE ASSOCIATED PRESS

FT October 11 2005

How an economic theory beat the atomic bomb

By Tim Harford

(コメント) 核戦争からカルテル,労働組合,人種差別まで,囚人のジレンマを解決するより,その合理的なモデルを作った人たちにノーベル経済学賞が授与されました.ゲーム理論が明晰に示したから,核戦争は回避できた,と信じる人はいないでしょう.しかし,たとえ相手が北朝鮮でも,国際合意に必要な条件は明確になったわけです.今では,エージェントごとに大規模な行動の分析を行って,均衡を探すようです.犯罪組織の送金も,クリスマス・カードのリストも,見知らぬ町で新しいたびの仲間を見つけるのも,ゲーム理論の対象です.


WP Monday, October 10, 2005

Iraqis' Broken Dreams

By Jackson Diehl

NYT October 12, 2005

Silence and Suicide

By THOMAS L. FRIEDMAN

CSM October 13, 2005 edition

In Iraq, a rush toward democracy could trigger civil wa

By Helena Cobban

(コメント) ブッシュ政権にイラク侵攻を訴え続けた二人のイラク人亡命知識人は,リベラル派の情熱を理想にささげましたが,現実の暴力によって理想のイラク実現を阻まれました.THOMAS L. FRIEDMANは,これはイスラム社会内部の争いだ,と言います.民主主義を持ち込んだからといって,解決できる問題ではない?


After the earthquake: the politics of aid FT October 11 2005

Alison Maitland The struggle against the injustice of hunger FT October 12 2005

Kashmir's double tragedy BG October 12, 2005

ROBERT D. KAPLAN Next: A War Against Nature NYT October 12, 2005

(コメント) パキスタンとインド国境沿いの貧しい山岳地帯を巨大な地震が襲い,死者数万人におよぶ惨状をニュースは伝えています.被災地の子供が雨にぬれて,食べ物も無く,寒さに震える姿が,強い印象を残します.

パキスタンとインドは,核開発競争やカシミールの帰属をめぐって軍事衝突するより,貧しい地域の生活を支援し,道路の整備や友好的な交流を行うべきでした.被災者のための救援基金や物資の備蓄,緊急部隊の召集に,私たちは協力する意志があるはずです.しかし,中国が有人ロケットを打ち上げる費用を,日本は援助として供与していることに不満を覚えるでしょう.あるいは,中国はチベット支配の恒久化に向けて,世界で最も高い土地を走る鉄道を引きました.世界中で,政治家たちは予算を奪い合っています.

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The Economist, October 1st 2005

Economics: The great jobs switch

Manufacturing employment: Industrial metamorphosis

(コメント) 製造業部門の労働者が減少することは,経済の衰退を意味するわけではなく,むしろ豊かさを示している,とThe Economistは主張します.製造業の生産額は今でもアメリカが世界第一位であり,日本が二位です.中国はずっと離れた3位です.

裕福な国では,製造業の労働集約的な部分をますます中国などの海外へ移転し,自国内では研究開発やデザインなどを行います.もちろん中国も優れた技術者や化学者を育て,最先端の製品を生産できるでしょうが,市場においては比較優位の原理に従い,安価な労働者を大量に雇用する分野を優先するはずです.

アメリカや日本は生産拠点が中国に移転されてしまうことを悲観したり,反感を強めたりすることなく,むしろより高度な労働と国内のサービス雇用に向かうでしょう.空前の産業移転にもかかわらず,あるいはそれゆえに,アメリカの失業率は低いままです.職場を守るより,新規雇用を開拓せよ,とThe Economistは主張します.

ほとんどすべての製造業はサービス部門だけを分離することで海外に移転できます.そして,いかなるハードウェアも最新のソフトが無ければ価値は無いのです.その国の雇用が製造業とサービス業のどちらであるかは重要ではなく,常に革新し,新しい環境に自ら調整し続ける国だけが,さらに成長できるのです.


Protests in China: The cauldron boils

The conservative movement: A Hammer blow

Economics focus: Currency competition

(コメント) 中国では農民が,アメリカでは保守派が,政府の足元を揺り動かしています.それらは,単に地方の貧しい農民や,一部の保守派知識人ではなく,不況や増税などが都市の中産階級に与える不満を吸収して,政府の基盤を破壊するに至るのです.

こうしてドルも人民元も深刻な政治的リスクを含んでいるとしたら,今回のドイツ選挙と政権交代に見られた混乱にもかかわらず,ユーロの時代は緩やかに近づいてくるでしょう.ドル安のたびに繰り返されてきた,ドル暴落と基軸通貨の交代論争が,再び騒がれる時期になりました.

EichengreenやFrankelが,ここでも,重要な発言を行っています.唯一の先行事例であるポンドの経過を見ても,二度の大規模な戦争と二度の大幅切下げを行って,漸くドルの地位が確立されました.ユーロであれ,人民元であれ,ドルが基軸通貨の交代を果たすには,なお長い時間と政治的な多くの決断を要するでしょう.