IPEの果樹園2005

今週のReview
10/3-10/8

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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IPE方法論 :アメリカと中国,ニューオリンズ再建,貧困

安全保障 :ポーツマス条約と六カ国協議

貿易・投資 :価格安定化基金,食料,石油

通貨・金融 :為替レート安定化,不均衡の調整

世界統治 :IMF,ドイツ,ブッシュ=カーター=リンドン・ジョンソン

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor
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FT September 22 2005
A vision for the IMF
IHT THURSDAY, SEPTEMBER 22, 2005
The IMF has lost its influence
By Mark Weisbrot
Sept. 23 (Bloomberg)
Some Brazilian Pointers for the Philippines
William Pesek Jr.
FT September 23 2005
US in call for reform of IMF voting
By Andrew Balls in Washington

(コメント) IMFによる最新のthe World Economic Outlookは,世界経済の成長持続を予測し,石油価格も国際収支不均衡も心配していません.なぜか? 市場が安定し,少なくとも今のところは,平穏な調整過程を維持しているからです.
Rodrigo Rato専務理事は,IMFがその機能を分散させずに,本来の目標に限定するべきだ,と主張しました.IMFは新興市場の危機に対して金融市場改革の基準を作り,9・11に対してテロ・ネットワークの資金洗浄を追及し,国連のミレニアム開発目標では開発計画に協力しました.しかし,本来,IMFの設立目的とは,国際収支不均衡に繋がるマクロ経済政策を監視し,為替レートの人為的な操作を排除して,保護主義や通貨危機を回避することでした.まさに,今のような問題です.

Rato氏が訴えたように,IMFは財源不足のせいで救済融資に乗り出せなくなって,技術協力や政策指導を行うしかありません.そして,新興市場が個別に外貨準備を蓄積するのを容認するしかありません.新興市場危機の「火消し役」として救済融資のモラル・ハザードが批判されましたが,その拡充がなければ,システムの安定性は脅かされるかもしれません.特に,アメリカも危機に巻き込まれ,あるいはその中心になったときに,備えはあるでしょうか.
他方,Mark Weisbrotは,IMFがアルゼンチンの通貨危機やその後の交渉において失敗を重ね,アルゼンチンはIMF融資を拒んで,また,対外債務を大幅に切り捨てて,急速に回復した,と主張します.このことがIMFの新興市場諸国に対する影響力を大きく殺いだ,というわけです.たとえば,ブラジルとフィリピンが通貨危機に向かうかどうか,それを決めるのはIMFではなく,中国向け輸出である,とWilliam Pesek Jr.を読んで思います.
IMFにおける投票権の大きさを決める拠出金の割合を修正するべきだ,とアメリカ財務省の高官Tim Adamsが求めました.新興市場経済が成長し,外貨準備を蓄積しているため,その拠出金を引き上げるべきだ,というわけです.その際,決定権の割合が,韓国,メキシコ,トルコなどの新興市場において増大し,その他の諸国で減少します.しかし,アメリカは経済規模から見て29%であるのに17%にとどめているから,この割合を低下させるつもりはない,と主張します.他方,ユーロに統一したヨーロッパ諸国は,今も,IMF理事会で24人中8人を占めています.これは一人でよいはずだ,と.
もちろん,これは国際通貨秩序をめぐる政治論争です.


The American Prospect 09.23.05
Berlin Stall
By Helen Fessenden
The Asian Age, 26 September 2005
The real winner in the German election
- By Jayati Ghosh
FT September 26 2005
Europe in a mess

(コメント) The Economistが,時々呼び寄せる宇宙人の言葉によれば,今,投資するなら,アメリカでも中国でもなく,ドイツなのです.選挙の結果は,国民がメルケルの急進的な市場改革ではなく,シュレーダーの社会民主党と緑の党が進めてきた改革の継続を望んだこと,しかし,経済停滞と高失業の現状を許さないこと,を示したわけです.
Jayati Ghoshは,選挙の勝者は緑の党を抜いた「左派党」Links Partei (Left Party)である,と考えます.そして敗者は二大政党です.東ドイツ出身の女性党首メルケルも「新自由主義」をドイツに持ち込もうとして敗退した,というわけです.ちょうど,アメリカでもブッシュ政権がハリケーンで示された社会的亀裂や不平等により新自由主義の後退を強いられています.SPDと緑の党も,この選挙結果を受けて,もっと「左に」傾斜するでしょう.社会的公平,連帯,福祉国家,それらはヨーロッパ社会に深く根付いているわけです.
FTは,もちろん,この選挙結果に不安を感じています.ドイツでの自由主義の敗北は,フランス,イタリアなど,ヨーロッパ各国で市場改革を遅らせるからです.そしてEUが進めてきた市場改革路線も,各国の国内政治によって後退を余儀なくされるでしょう.FTは,テロに対して戦い,貿易自由化を交渉するのと同様に,EUが市場改革を進めることは好ましい,という主張を再確認します.


FT September 27 2005
Germany needs a technical caretaker government
By Tito Boeri and Micael Castanheira
WP Wednesday, September 28, 2005
Capitalism Vs. Democracy
By Robert J. Samuelson

(コメント) 日本も同じですが,OECDが主要国に求めている市場改革は,財政赤字を減らし,社会的給付を削り,労働市場を弾力化して競争を促す,中央政府をスリム化して,地方分権化を進める,など,共通しています.
Boeri and Castanheiraは,ドイツ政府が「大連立」を組んで,政治的な目標はひとまず凍結して,互いに合意できる制度改革だけに集中してほしい,と考えます.そして,ヨーロッパの「大連立」「ねじれ」が生じた国で,テクノクラート型の政府により改革促進が成功した例を指摘します.
他方,Robert J. Samuelsonは,日本とドイツの選挙結果に注目して,資本主義と民主主義が互いに衝突する社会原理になることを指摘します.社会が豊かになるために資本主義を必要とするとき,社会的な不平等に対して民主主義的なチェックが働き,公平な是正策が取られることで政治的な支持を得るはずでした.
しかし,資本主義はしばしば民主主義が是正できない程の社会的亀裂をもたらします.失業,所得格差,移民,人種差別,・・・
日本もドイツも,成長の時期が続いた後,長い停滞から抜け出せません.さまざまな既得権が民主主義の政治を支配し,現実の変化に適応することを拒みます.そして財政赤字だけが膨らむのです.有権者たちが出した答えは,現状維持であった,と.改革は,部分的に,この民主主義的な原理を破壊しなければ進まない?


FT September 23 2005
Double message on China's rising power
FT September 25 2005
Why Europe is getting China so wrong
By Chris Patten

(コメント) アメリカのRobert Zoellick国務次官は,ワシントンにおける中国叩きに警告するために,中国にこれまで進めてきた改革を成功させ,国際的な責任ある地位を占めてほしい,と求めました.アメリカは,現在の共産党政府ではなく,改革が進み,民主化された将来の中国政府を支援し,協力するのだ,と.アメリカの対中政策は,ソ連を封じ込めた政策と,当然,異なっていなければなりません.
Chris Pattenは,EUが統一した外交政策の必要を訴え,中国に対して間違った対応を示したことを批判します.すなわち,シュレーダー政権はプーチンがドイツ語に堪能なことを喜び,その石油や天然ガスに依存して,人権問題や民主化を無視してしまいました.しかし,プーチンは秘密警察のスパイとしてドイツ語を修得したのです.他方,中国に対しては,アメリカや日本以上に,その国際システムへの参加を促し,協力を歓迎する姿勢を従来から示してきたはずですが,武器禁輸措置の撤廃はアメリカの反対で撤回し,繊維製品の輸入には再び規制を始めました.


FT September 26 2005
Guy de Jonquires: China’s?‘new economy’
By Guy de Jonquires
FT September 27 2005
Barbarians lobbying at the gate
By Scott Kennedy
IHT THURSDAY, SEPTEMBER 29, 2005
Michael Vatikiotis: China on the march
Michael Vatikiotis

(コメント) 中国においても「ニュー・エコノミー」神話は起こるようです.さまざまな制約に苦しんできた民間部門が開放され,基幹産業でも国営企業が解体され,競争を促しています.アメリカからの注文もいっぱいです.すなわち,もう景気循環など重要ではない,と企業は次々に設備投資して,注文をこなすことに夢中です.
Scott Kennedyは,中国が民主化する前に,すでに諸外国の企業と中国企業によるロビー活動で国内政策やルールを改正していることを指摘します.中国の市場開放は,中国企業の要望と外国企業の要望とが協力して政府規制を撤廃させる方向に働くから進むのです.ただし,政治家や官僚の汚職が深刻になります.
中国の二大オートバイ企業がタイに進出しました.中国企業の多国籍化が進みつつあります.それは1980年代の日本企業と違って,現地の華僑社会を通じて,アジア全体の政治・社会システムに大きな影響を及ぼすでしょう.そして,中国自身の資本主義がまだ余りにも異質で,曖昧な,不透明な性質である以上,現地社会だけでなく,アメリカや日本が中国の拡大策とアジアで敵対する危険も高まります.

NYT September 23, 2005
China Currency Move Signals Cautious Policy
By KEITH BRADSHER
Asia Times Online, Sep 28, 2005
China, inflation and the yuan
By Axel Merk

(コメント) ドルに対しては変動幅を厳しく抑制したまま,その他の通貨に対して変動させる,というのは,どういう意味があるのか? むしろ,世界の為替市場はドルを中心に成立していますから,人民元への需要の変動が,ドルに対してではなく,他通貨によって表現させることになります.これは,中国通貨当局が他の通貨に圧力を分散させ,あるいは危機やコストを分散する仕組みでしょうか? 中国政府は,周到に,自国企業の競争力を失わないよう,関係諸国の増価を促しながら,人民元の増価を管理したい?
Axel Merkは,中国経済の変貌を描きます.中国企業が国際ブランドを確立できないのはなぜか? それほど競争が激しいから,と.膨大な労働者,投資機会.デフレとインフレ.アメリカの消費者が貯蓄回復に向かっても,中国とアジア経済は必ずしも不況に苦しまない,と考えます.


FT September 23 2005
Lex: Asian state intervention
FT September 29 2005
Lex: Market stabilisation funds

(コメント) アメリカが求めるほど,アジア諸国は価格変動を信用しません.価格補助や国営化,などが広く行われています.しかし,将来の財政破綻を回避できるのか? とFTは批判します.さまざまな安定化基金もそうです.為替レート,株価,金融システム,石油価格,・・・ 安定化基金には経済的な役割があります.しかし,巨額の基金は政治的な手段に転用される恐れがあります.投機に対して改革を挑むより,それを無視します.


IHT FRIDAY, SEPTEMBER 23, 2005
H.D.S. Greenway: Hamas on the ballot
By H.D.S. Greenway The Boston Globe

(コメント) シャロン首相もハマスの指導者たちも,かつては互いに殲滅し,その政治体制を破壊することを目標としていました.しかしシャロンがパレスチナの占領地域においても選挙の実施を支援するなら,双方が,二国共存案に近づけるだろう,と考えます.


NYT September 23, 2005
The Big Uneasy
By PAUL KRUGMAN
WP Wednesday, September 28, 2005
A Jimmy Carter Moment
FT September 28 2005
A quiet telephone call with George W. Bush
By Arthur Schlesinger

(コメント) ブッシュ政権やアメリカ国民は,1979年のアメリカに次第に似てきた,とPAUL KRUGMANは考えます.政府やアメリカのシステムに対する不信が高まっているのです.
しかし,WPはカーター政権と違って,ブッシュ氏にガソリン課税を求めます.
87歳の歴史家Arthur Schlesingerに,突然,ブッシュ大統領から電話がかかって来ます.「やあ,アーティー,どうしてるのかな?」 というわけです.この歳になるまで,誰も自分のことを「アーティー」などと呼んだことはないが,ブッシュ大統領はそういう男らしい.
「私が何をするべきだと君は思うか? 君の意見を聞いてみたかったのだ.」 そこで私は言った.「適当な時機を見て,勝利宣言し,さっさと逃げ出すべきですね.」
「しかし私の顧問たちは,それでは混乱と悲惨な事態を招く,と言うのだ.外国の政府を転覆しておいて,混乱だけ国民に押し付けるわけには行かんだろう.それではアメリカの言葉を,将来,誰も信用しないぞ.」
「確かに逃げ出すことはアメリカの評判を落とすでしょう.しかし,南ベトナムでアメリカはやりましたよ.当時,アイゼンハワー大統領はドミノ理論を信じて,ベトナムが共産化すれば東南アジア中に共産主義が広がる,と恐れていた.そしてニクソン大統領も,この大国の競争を続けたのです.」
「ニクソンはその後,事実,大急ぎで逃げ出しました.サイゴンのアメリカ大使館から逃げ出すヘリコプターにしがみついたベトナム人たちを振り落とす光景は,アメリカの敗北と自暴自棄を強く示しました.それでも,アメリカの信用失墜は起きませんでした.」
「外国の反応は,アメリカが正気に戻った,重大な国益に関わらない無意味な戦争を止めて,むしろアメリカはデタントや封じ込めという重要な目的に兵力を向けることができる,というわけです.ベトナムからの撤退は,実際,われわれの信用を高めたのです.」
「イラクの将来は不透明です.・・・アメリカ軍が撤退すれば,イラク国民が団結して反政府軍に立ち向かうかもしれない.」 「もしイラク軍を強化して国を守らせても,その武器がわれわれに向かわないとも限りません.」 「イラクで殺された多くのアメリカ兵がいるから,このままでは撤退できない,という同じ理由で,ベトナムのときにも拡大が繰り返されました.」
「大統領.われわれの本当の国益はこの無意味な戦争を止めることにあるのです.」・・・ そのとき,私は目が覚めた.


FT September 25 2005
US suffers as Bush’s gamble fails
By Philip Verleger (IIE)
1964年の大統領選挙で大勝して,リンドン・ジョンソン大統領はアメリカ経済がベトナム戦争と偉大な社会を実現できるという賭けに出た.そして,負けた.支出が経済の供給能力を超えたのだ.物資が不足し,価格が上昇した.15年に及ぶインフレ・スパイラルが始まった.2年以内に,連銀は金利を引き上げ,経済成長は止まった.経済情勢は悪化し,ジョンソンの夢に終止符を打った.
40年後,テキサス出身のもう一人の大統領が賭けに出た.アメリカは戦争しながら,減税し,エネルギーを節約しない,という賭けだ.彼も負けた.2年経って,ジョージ・W・ブッシュ大統領はインフレが復活するのを見る.そして連銀が彼のガソリンの浪費と財政赤字を相殺する行動に出る.
ジョンソンはアメリカ経済がベトナム戦争を行っても拡大し続けると信じた.しかしアメリカ産業は両方の需要に対応できなかった.ネジが届かないので未完成の飛行機が倉庫に放置され,建設作業員は来ても材木が無いから未完成の住宅が放置されていた.物価が上昇した.議会が財政赤字を始末できないから,連銀が事態を収拾した.1969年,彼らはニクソン新大統領に代わった.ジョンソンの経済顧問たちは残念そうに言った.「時期にかなった緊縮財政を行えず,金融政策に過大な負担をかけた.」
今,ブッシュ政権も同じ状況にある.

WP Friday, September 23, 2005
Go-Go Reconstruction
BG September 24, 2005
Hurricane-omics
By Robert Kuttner
LAT September 24, 2005
It all adds up to something
ROSA BROOKS
NYT September 24, 2005
L.B.J.'s Political Hurricane
By BRIAN WILLIAMS
(コメント) ブッシュ大統領による再建計画は,この地域の企業が雇用すると免税によって補助金を与える,というthe "GO Zone"(Gulf Opportunity Zone)計画です.しかし,経済学者は,こうした企業誘致地区Enterprise zonesの考え方に反対します.なぜなら,立地の判断は労働者や顧客,インフラなど,税金以外で決めるべきだからです.しかし,ブッシュ氏はどのような投資も区別しません.この計画の前からメキシコ湾岸でカジノ群を構想していた企業は,むしろ戸惑っています.ギャンブルは人々のポケットを空にするだけで,その利益には課税されるのが普通でした.カジノを増やし,その立地を促すことで,社会に何がもたらせると言うのか?
確かにルイジアナは貧しい州だが,アメリカのどの大都市がハリケーンに襲われても,ニューオリンズと同様に貧しい人々が姿を現すだろう,とRobert Kuttnerはブッシュ政権の似非「貧困対策」を批判します.もっと社会的な平等や貧しい人々の教育・雇用を重視する政策を行っていれば,アメリカの都市貧困は減ったはずです.ハリケーンが吹き飛ばしたのは,ブッシュ政権のこれまでの政策で隠されていた人々です.
ハリケーンで強制退去を命じることを「エスニック・クレンジング(民族浄化)」と呼ぶこともなくなり,彼らをイラク戦争で雇えば,雇用や住居を得られて,財政赤字に対する影響も抑制できるじゃないか,とROSA BROOKS は指摘します.たとえ,ブッシュ政権外としてやったのではなくても,こうした政策はどこかで結びつきます.
BRIAN WILLIAMSは,40年前のリンドン・ジョンソン大統領もハリケーン被災地を訪問したことを指摘します.1965年9月9日,カテゴリー4のハリケーン・ベッツィーがルイジアナに上陸しました.大統領選挙のために訪問,避難する貧しい黒人たち,連邦政府の援助,堤防の建造計画.

WP Friday, September 23, 2005
China's Moment
By Charles Krauthammer
(コメント) 100年前のポーツマス条約は,日露戦争後のアジアの国際秩序を確定する重要な条約でした.それは,アメリカが国際秩序の重要なアクターとして登場したことも示していました.
北京における六カ国協議において,北朝鮮が核兵器を廃棄し,NPT体制に復帰すると約束したことは,クリントン政権が米朝二国間でなしえなかったことを,中国が主催する多国間協議で合意したことを意味します.すなわち,中国が太平洋の国際秩序に関して,アメリカに対抗する権力として登場したわけです.
しかし,中国が北朝鮮に食料の30%,エネルギーの70%を供給しているのであれば,この問題に関しては中国こそが交渉力を持っていたわけです.むしろ,なぜ今,中国は従来の方針を転換したのか?
Krauthammerは三つの理由を考えます.1.北朝鮮が核保有を宣言すれば,日本が核武装する危険があり,中国としては受け入れがたい.2.多くの不安要因がある中で,アメリカ政府の懸念材料として北朝鮮問題が利用できる可能性は低下した.3.最も重要な理由として,中国自身が東南アジア諸国などと貿易や投資の協力関係を拡大しており,北朝鮮が東アジアの不安定要因となるリスクを嫌うようになった.
むしろ,中国は新しい国際秩序の後見人として,アジアの将来を担う姿勢を示すときが来た,と考えたのです.少なくとも,この北朝鮮の非核化が成功すれば.

The Guardian Saturday September 24, 2005
Integrating a divided Britain
(コメント) イギリスには人種平等委員会the Commission for Racial Equalityがあり,多文化主義による統合を推進してきました.しか最近の報告はイギリスがますます軍団された社会になっていることを示しました.差別を非難するだけでは十分でありません.
CREのTrevor Phillips委員長は,多文化主義が分割を促してしまう傾向を批判しました.社会には,より多くの「壁」ではなく,「橋」が要るのです.CREは社会的統合化のためのインフラに投資することを望んでいます.恐怖を煽るタブロイド紙を批判し,若者がスポーツやキャンプで多文化に親しむことを望みます.教育機関やコミュニティーの奉仕活動などにも,統合のための財源を与えます.

NYT September 24, 2005
For Wolfowitz, Poverty Is the Newest War to Fight
By EDMUND L. ANDREWS
LAT September 27, 2005
Banking on Wolfowitz
(コメント)国防総省から世界銀行総裁となったネオコンの指導的人物が,貧困との戦いをどのように指導するのでしょうか? それはブッシュ政権が,テロとの戦争,イラク占領・再建と並んで,国内で進めざるを得なくなった課題と同じです.
もちろん,世界の貧困と戦うのは,アメリカのイデオロギーを広めるためでもあります.援助団体はWolfowitzをまだ信用していません.他方,援助を通じて民主主義(など,特定のイデオロギー)を拡大するという姿勢には,世界銀行を破綻させる危険がある,と心配する専門家もいます.すなわち,イラク再建を世界銀行のモデルにしようと意図しているからです.あるいは,新技術やビジネスとも連携して,アフリカの貧困を「緑の革命」で救いたい,とWolfowitzは考えます.
最大の問題は組織内部の旧来型の援助を変えることです.そして,援助機関となった世界銀行に対して不信の目を向けるアメリカ政府や議会に対して,Wolfowitzは監視の目と信頼を与えるために必要だった,というわけです.

FT September 25 2005
We must stand by the CAP
By Bertie Ahern
(コメント) 食料の供給を確保し,農民に十分な生活水準を保障する,というのは,日本もヨーロッパも同じです.ヨーロッパは共通農業政策CAPとしてそれを実現しようとしました.改革の目標も同じです.補助金を減らし,国際的な基準で見ても生産できるような規模の農家を育て,市場を開放してWTOの自由化交渉に参加することです.安全保障や生活保障だけを重視すると,価格変化を拒み,国際競争を拒み,財政赤字に苦しむことになります.

Philip Bowring Modeling Korean unification IHT MONDAY, SEPTEMBER 26, 2005
An Alliance on Iran WP Tuesday, September 27, 2005
EU can do more to block an Iranian bomb CSM September 28, 2005 edition
Jephraim P Gundzik Controlling North Korea and Iran Asia Times Online, Sep 28, 2005
ROBYN LIM Toward a nuclear Japan? JT Thursday, September 29, 2005
(コメント)Philip Bowringは朝鮮半島統合化の楽観的シナリオを描き,北朝鮮についてもイランについても,国際協調と多角的交渉の可能性が追求されています.あるいは,北朝鮮にもイランにも,国際社会の正当な国家主権を認めて,強化されたIAEAの監視による平和的利用を認めるべきだ,とJephraim P Gundzikは主張します.
そして,核の均衡を確保するために,日本も核武装する? 中国の外交姿勢やアメリカの安全保障政策に関わることです.そして,イギリスが核兵器を保有しているように,このままでは日本も核武装するだろう,とROBYN LIMは考えます.

BG September 26, 2005
Sharing the oil price windfall
By Joseph P. Kennedy II
(コメント) 石油価格の上昇は,石油関連産業に莫大な利益をもたらしています.これに課税するべきだ,とJoseph P. Kennedy IIは主張します.アメリカでは老人や貧しい人々も車に乗って高いガソリンを買います.その一方で,石油価格上昇によって政府や石油関連ビジネスが潤うのは,社会的な公正さを損なうわけです.彼らの利益を,貧困対策や堤防の建設に充てるためには課税するべきだ,と.
他方,石油精製や資源探査,需要抑制,代替など,価格上昇によって決まるべき資源配分を歪めると批判されるでしょう.また,そもそも富裕層に課税して貧困対策やインフラ投資を行うべきで,ガソリン価格をさらに引き上げるのは財源として間違っているという批判もあるはずです.アジア諸国などで政府がガソリンに補助金を出して低価格に抑えている方が,理にかなっています.

BG September 27, 2005
Empowering the poor
By David T. Ellwood(dean and the Scott M. Black Professor of Political Economy at Harvard University's John F. Kennedy School of Government)
WP Tuesday, September 27, 2005
New Deal, Raw Deal
By Ira Katznelson(professor of political science and history at Columbia University)
(コメント) David T. Ellwoodは,ニューオリンズ再建において,アメリカが貧困対策に再出発することを希望します.貧困の原因を深く探れば,それは貧しい者が社会のメインストリームから隔離されて,働く機会も,教育や再訓練の機会も持たないことにある,とEllwoodは考えます.
だから救済や再建に多くの財源が費やされても,それが外から来た企業や技術者の利益にもっぱら流れてしまうのではなく,地域内で貧しい者の生活改善に繋がる形で,支出されなければなりません.地元の労働者を雇うこと,彼らのために学校やコミュニティー・センターを建てること,が優先されるべきです.もし民間に委ねるなら,貧しい者は新しいニューオリンズに戻るとき,安い住宅地区にばかり集まるでしょう.さまざまな所得階層が混ざった統合コミュニティーを形成する機会を助けるべきだ,とEllwoodは指摘します.
Ira Katznelsonは,歴史的に見ると,貧者のための積極的な是正策が白人のための社会保障になってきた,と批判します.


FT September 28 2005
Risk of rebuilding New Orleans in deluge of debt
By Clyde Prestowitz
BG September 28, 2005
Big government deja vu
By Jeff Jacoby
WP Wednesday, September 28, 2005
Don't Let Industry Win With Disaster Bailouts
By Steven Pearlstein
The American Prospect 09.29.05
Shared Sacrifice?
By Robert B. Reich

(コメント) Clyde Prestowitzは,「いくらかかっても湾岸地域を再建する」とブッシュ大統領が言う意味を考えます.一体,誰がそれを支払うのか? 要するに,中国人に聞いてみるべきことだな,と.なぜなら,アメリカ政府は増税せず,財務省証券の発行を増やすつもりです.しかしアメリカ国民は貯蓄せず,その借金を建て替えてくれるのは中国や日本の中央銀行ではないか,と考えます.だからブッシュ氏は,彼らが本当にそれほどメキシコ湾岸地域の復興や,ジャズを好きなのか,よく聞いておくべきなのです.
Jeff Jacobyは,タイム・マシンを使って,他の時代を観察します.1965年の民主党候補リンドン・ジョンソンは財政支出を増やし,その対立候補であった共和党のバリー・ゴールドウォーターは財政均衡を唱えました.しかしレーガンは,冷戦を理由に,大幅な支出拡大を実現したのです.保守派は財政赤字(そして増税やインフレ)を嫌いますが,歳出削減を歓迎する政治家はいません.Jeff Jacobyが見た違いとは,企業への補助金です.ブッシュは財政赤字を拡大しても,企業の優遇策を止めません.ゴールドウォーターのように話し,リンドン・ジョンソンのように政府を肥大化する.
災害が起きると,政治家たちは避難民への国民の同情を,企業救済の口実にします.カトリーナで救済する資金は,避難民よりも,不動産業界や金融ビジネスを助けるでしょう.発展途上国の債務危機について示された議論がここにありました.債務者を救済するためであれば,大幅に割り引かれた被災地の不動産を再建公社が市場で買い取り,避難している持ち主に土地だけ返してやればよい.そして住宅再建の低利融資も行うことだ,と.失われた住宅の資産価値は,それに融資した銀行や保証した機関が,プロとしてハリケーンの被害を予測するべき立場にあったから,自分たちの利益から補填しなければなりません.
政治とは,いつも負担を争う場所です.カトリーナの被害を支払うのは誰か? Robert B. Reichはこう考えます.もし増税せずに救済できる,というだけなら,いつもと違って,救済や再建のための政府支出は景気を回復させないだろう.既にガソリン価格の高騰に苦しみ,インフレや金利上昇を消費者は恐れているから.そして,さらに石油価格が上昇し,景気が悪化すれば,そのコストは貧しい労働者たちが負うことになる.ブッシュ政権は,食料スタンプや医療保険,低所得者向け住宅を削るより,富裕層への減税を取り消すべきだ,と.


FT September 27 2005
Martin Wolf: US must worry about its own actions
By Martin Wolf
(コメント) アメリカと中国の関係は,今後とも,大きく動揺し続けるのではないでしょうか? それはアメリカと中国のそれぞれの国内政治システムに由来する問題です.
米中両国は,ともにダイナミックな経済成長を政治的正当性の必要条件として重視します.アメリカは政治党派の交代と,それゆえ振幅の大きな政策展開,外部へのコスト転嫁,国際システムの変更や単独介入によって,自国の政治目標を達成するスタイルを取ります.他方,中国は政治的な権威の維持と成長条件の安定化を重視し,アメリカと対抗して,アジアにおける覇権確立,エネルギー・資源の確保を単独でも行おうとしています.
Martin Wolfは,ワシントンで中国脅威論が再現したことに注意します.ゼーリック国務次官は,世界市場に依拠した中国の台頭を,アメリカの戦略が成功した,と見なします.しかし,多くのアメリカ人は「脅威」を見ます.そこでゼーリックは,中国政府にも,アメリカの中国脅威論にも,修正を求めるわけです.中国は,この開放型の世界システムに対する共同の責任を果たすべきだ,と.
他方,中国脅威論については,中国はソ連と異なり,また19世紀のヨーロッパにおける勢力均衡とも異なる,と主張します.ソ連と違って,中国は民主主義や資本主義,国際システムを攻撃しない.反米のイデオロギーを唱えているわけでもない,と.また,中国を牽制するためにアジアの他国を支援したり,中国の成長をくじこうとすることは,アメリカや世界にとって破滅的である,と.
これらを支持した上で,Wolfは,さらにアメリカの姿勢を問題にします.アメリカがその一方主義・単独行動主義を改め,国際システムや原理,国際介入におけるダブル・スタンダードを抑制できなければ,それらすべてが中国の同様の行動を誘発し,正当化させてしまう,と.ラムズフェルドが,アジア各国が軍備を拡大しているわけでもないのに,なぜ中国だけ軍事費が急増するのか? と批判するなら,アメリカはどうか? もしアメリカが世界中で国際システムのために介入する義務がある,と主張するなら,世界の誰がアメリカにそれを委ねたのか? アメリカ大統領や国務長官,アメリカ軍は,同様に,(ビン・ラディンだけでなく)中国政府がそのような主張をすることをそそのかしています.
こうして,アメリカ自身に,国際的に合意された原理に服する姿勢へ,明確な回帰を求めます.

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The Economist, September 17th 2005
A very Japanese revolution
Japan’s election: Koizumi gets his way
Poverty in Latin America: New thinking about an old problem
Germany’s election: Time for a change
The OECD on China’s economy: A model of reform
Economics focus: Asian squirrels

(コメント) 「一匹狼」や「ライオン・ハート」であったはずの小泉首相が,勇敢な解散と見事の戦術,大衆へのアピールにより,改革推進政権に対する政治的な正当性を確立したことを,当然,The Economistは賞賛します.自民党を再生させてしまい,改革は失敗するという声もあります.そこで曖昧な保守主義の改革路線の行方に注意し,郵政民営化後の課題として,1.景気回復を増税でくじくな,2.政府系金融機関を解体せよ,3.規制緩和と競争促進に取り組め,4.将来の財政負担を減らすために,医療・年金制度を改革せよ,と主張します.
The Economistは,デフレの解消を重視しており,その点で,日銀の金融政策と,不良債権をごまかし続けた経営者・官僚・政治家を厳しく批判しています.むしろ,中国の経済改革を賞賛し,OECDに加盟して他国に模範を示してもらうべきだ,とまで書きます.
ラテン・アメリカの改革において重要な問題は,常に,その極端な不平等でした.今,各国では新しい貧困対策が導入されています.それは,「条件付現金支給制度(CCTS)」と呼ばれます.この制度では,貧困層に対して,子供が学校へ休まずに行き,あるいは予防注射などを施されたという証明を示すことが条件となって,それを満たす母親だけに,一定の現金を支給します.この制度の財政規模はつつましいものであり,貧困解消への効果は大きいと期待されています.
また,通貨危機が不安で外貨準備を蓄積し続けるアジア諸国に対しては,その外貨準備を分割し,一部をより高い収益の民間で運用する計画も紹介されています.