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IPEの種 10/3/2005

阪神が優勝して道頓堀や戎橋筋に群集が押し寄せ,タクシーの上で踊り,大騒ぎする様子は,その日の夜に(教育TVを除く)すべてのテレビ局が阪神優勝の特別番組に切り替わったことと並んで,日本社会の変異や怪奇現象を観るようでした.

しかし同じような情景は,異なる分野やテーマで,世界中に観られます.数週間前,「小泉フィーバー」で自民党が大勝しました.中国では,小泉首相の靖国神社参拝や,日本の国連安保理常任理事国入り要求に,反対するデモが組織されて,日本大使館に激しく投石しました.イギリスでは,北アイルランドの宗教行事が騒乱と化しました.イスラム寺院の指導者を逮捕する際にも,騒乱が起きたかもしれません.もちろん,フットボール・フーリガンがサッカー場周辺やロンドンのパブから発生するときの様子が,何よりも似ています.

民主主義の優れた機能は,その条件として,さまざまな知識人による良質の論争(一種のエリート主義)と,権力に対して独立し,批判的な意見や情報収集を行うメディアの活動(大衆の感覚や直接行動)に依存している,と言われます.しかし,社会的な格差や亀裂が広がり,莫大な資金が動く社会においては,投票の規模が広がるほど,政治はますますポピュリズムやデマゴーグ,大衆に敵を指し示すこと,娯楽やスポーツ,社会・生活保障の約束,華々しい戦果を示すことで決まるのではないか,と不安になります.

NHK・BS海外ドキュメンタリー「マラリアとの闘い」を観ました.ジェフリー・サックスは貧困国に蚊帳を無料で配布せよ,と主張しました.病院に水道を引くべきだ,とも訴えました.しかし,財源がありません.豊かな国の政府や銀行は,このようなアイデアを採用しません.サックスはラテン・アメリカの債務危機や移行経済の問題に取り組み,「ショック・セラピー」を主張して有名になりました.最近は,アフリカの貧困を解消するために,マラリアなどの風土病撲滅やクーラーの普及を唱え,またIMF改革や国際破産法廷など,世界管理の改善を目指している,戦うマクロ経済学者です.経済学における研究とは別に,この行動には賛否が分かれます.

いつものように講義に悩んでいるとき,副島隆彦著『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社+α文庫)を読み,面白かったです.400人もの政治家や知識人が登場し,叙述は非常に短いため,その断定には疑問もありますが,優れた認識地図を描いてくれます.その4分の1ほどに関して興味を持ちました.私は,多分,20分の1くらいの知識人について何か読んだことがあり,この本の描く文脈を楽しみました.サックスはこの本にありませんが,グローバリストでリベラル派のネオコン・・・といった判定になるでしょうか?

クリントンやブレアが高い支持率を誇り,日本でも小泉氏が自民党を大勝させた背景について,「レーガン・デモクラット」と似た政治変動を感じました.「小泉改革」は,農村や地方の土建業界が支持した「体制」ではないのです.政治的な信念や理想,都市の批判派が政策や世界を変える,という姿は,欧米だけでなく,日本でも政治システムを動かしたわけです.

日本で,小泉・革新勢力(そして今回の小泉チルドレン)が誕生したことは,実際に,保守派や自民党を分裂させました.また,かつては野党による革新を支持したけれど,アメリカや中国,北朝鮮の動きに対抗できない既存の政治家に失望し,バブル破綻処理や年金・医療費など,高齢化や高負担をめぐる問題に手をつけない官僚制度にも憤慨して,都市サラリーマン・中産階級,そして知識人層が,革新のイデオロギーを維持したまま小泉・自民党に流れたように思います.他方,民主党の新しい代表と「戦う姿勢」は,野党というより「改革派与党」という印象です.

日本も,グローバルな社会変化の一部として確実に変化している,と私は感じます.それは模倣ではなく,同時変異です.日本におけるフーリガニズム,レーガン・デモクラット,ネオコン,・・・理念を掲げて競争する政治システムが機能するかどうか,ここでも試されるわけです.阪神優勝に騒ぐエネルギーを,もっと他に向けてはどうでしょうか?

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