IPEの果樹園2005

今週のReview

9/26-10/1

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE本質論 :イデオロギー,カトリーナ

安全保障 :アジアの勢力均衡,北朝鮮の核兵器開発,イラク内戦

貿易・投資 :貿易自由化交渉,大企業,アジアの雇用

通貨・金融 :石油危機,国際収支不均衡の調整

世界統治 :日本,アメリカ,ドイツ,EU,国連改革,六カ国協議,ジェノサイド

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


FT September 15 2005

Don’t beg Opec cartel for more oil

By Samuel Brittan

FT September 15 2005

Lex: Asian inflation

(コメント) Samuel Brittanは,石油価格の急激な上昇が二つの理由でマクロ経済の問題である,と考えます.1.石油は消費国のさまざまなコストを押し上げ,支出に影響する.2.石油輸出国は,その追加の所得を支出する程度が低い.

最初の石油危機以来,その影響がインフレ的か,デフレ的か,国によって判断と政策が分かれました.しかし今では,消費国のインフレを加速するより,引き締めて支出を減らすことが優先されます.石油と関連製品の価格上昇は許すが,それを一回限りにとどめて,インフレを加速させてはならない,というわけです.

インフレ目標というマクロ経済管理のスタイルが広まっていますから,それは一時的にインフレ率を高め,実質成長率を下げるでしょう.Brittanは,石油価格上昇の理由によって,繰り返された石油危機も異なった意味があった,と指摘します.今回の理由は,中国などの需要増,カトリーナ以前からの精製能力不足,そしてサウジ・アラビアの供給余力が限界に達したこと,などです.

ミクロ経済学の教科書に従えば,石油価格の上昇は,@消費者は節約し,A生産者・精製業者は増産のために設備投資し,B代替財に支出が転換され,C石油利用の効率が改善される,などとなります.

他方,Brittanは,G7がOPECと生産調整を模索するような動きを強く批判します.それはOPECによるカルテル行為を承認・助成することになる,と.

石油危機に最も弱いのは,世界の輸出基地となっているアジアであり,アジア通貨でしょう.しかしOECD諸国のように,インフレを警戒して金利を引き上げる姿勢は,アジアに乏しいようです.石油価格の上昇も,IPEのすべての分野に影響します.


Asia Times Online, Sep 16, 2005

North Korea: When the talking ends ...

By Bruce Klingner

FT September 19 2005

Bush hails North Korea nuclear accord

By Andrew Yeh in Beijing and Anna Fifield in Seoul

FT September 19 2005

Vague statement appeases needs of all sides

By Anna Fifield

(コメント) Bruce Klingnerの整理は良くできていると思います.六カ国協議が進展しないのは,北朝鮮が核兵器開発を放棄しないからです.また,ブッシュ政権は北朝鮮の体制を非難するばかりで,要求された二国間交渉や,攻撃しないという保障を,まったく与えようとしませんでした.

ブッシュ政権やネオコンから見れば,北朝鮮はまさにテロ国家,「悪の枢軸」,であり,話し合う相手ではありません.先制攻撃する条件がそろわないとしても,クリントン政権が犯した過ちを繰り返すことは断じてありえず,北朝鮮の体制を転覆することを期待したわけです.中国や韓国が北朝鮮を支援するから維持できている体制であって,交渉は彼らが行うべきだ,と.

しかし,中国も韓国も北朝鮮に強攻策を取る意志が無く,パキスタンのカーン博士がウラニウムから濃縮ウランを生産できるプラントを提供したことが分かりました.これによって,北朝鮮の核開発計画は,交渉に時間がかかるほど,進展することになるのです.ブッシュ政権は,イラク,イラン,カトリーナ,など,内外の失敗を重ねました.パウエルを追放して,ライスが国務長官となり,ブッシュ氏との関係が緊密になったことで,外交交渉の選択肢が増えることを期待し,六カ国協議の停滞を打開したかったわけです.

北朝鮮は,従来から,交渉条件をまったく譲らず,アメリカ政府の妥協を待ちました.交渉が進展しない責任をアメリカ政府に負わせ,また,韓国政府を米日から引き離して,中国とともに北朝鮮の要求に理解を示す立場に転換させてきました.南北対話と平和統一に政治的な責務を感じている韓国政府は,北朝鮮への人道支援や経済支援を繰り返してきました.また,日本からの拉致問題解決を要求する声にも,植民地支配などを持ち出して,応えませんでした.北朝鮮の要求に支持を与える中国,ロシアも加えて,アメリカの立場を孤立させることに成功したわけです.

実際,韓国政府の立場は問題です.南北統一に耐え切れぬほどの経済的コストを予想し始めた韓国政府は,むしろ交渉の範囲を限定しています.他方,人権問題や核の平和利用に関してアメリカ側の妥協する姿勢は,アメリカ議会を支配する共和党から強い反対を受けています.唯一,北朝鮮の妥協が交渉を進めるわけですが,体制転換につながるという不安から,一切の妥協を拒否します.このまま交渉が決裂して,安保理による武力行使の承認や,禁輸措置と海上封鎖,などに進むことを考える時期に来たわけです.

しかし,いずれの国も軍事的な脅威を高めるような悪循環に陥りたくないと考えています.いずれの措置も中国,ロシア,韓国が反対します.アメリカも,国際的な立場を弱めて,イラクやイランにおける問題解決にも支障をきたすことは避けるでしょう.

そんなとき,北朝鮮が交渉の条件として核開発を放棄することも加えたわけです.交渉を一気に前進させて,合意文書にしてしまおう,という流れに関係諸国が向かいました.北朝鮮は,核保有を宣言することなく,NPTへの復帰と,IAEAによる査察を受け入れる,という方針を決定したのでしょうか? アメリカも日本も,そうなることを願い,この合意を歓迎しました.

Diplomacy at Work NYT September 20, 2005

Asia Times Online, Sep 20, 2005

North Korea agrees to give up nukes

By Gerard Young

Nuclear diplomacy FT September 20 2005

Handle with care The Guardian, Tuesday September 20, 2005

Diplomacy and double talk LAT September 20, 2005

Accord With North Korea WP Tuesday, September 20, 2005

LAT September 20, 2005

This deal is no bargain

Max Boot

(コメント) NYTは,NPT体制の勝利だ,と称えています.あるいは,中国の外交的な成果を誇示し,15万人以上と言われる政治犯を抱えたままの北朝鮮に,経済支援を継続するための口実でしょうか?

結局,六カ国協議による合意は,アメリカにも北朝鮮にも都合よく解釈できる,交渉のシグナルに過ぎなかったようです.アメリカは次第に二国間交渉を受け入れ,攻撃する意図が無いことを合意に含めました.しかし,北朝鮮が先に核兵器を廃棄することを譲りませんでした.この点は,合意文書で曖昧にされたのです.

しかし,北朝鮮は食糧危機を,アメリカはネオコンの外交危機を,この文書により脱け出すはずではなかったのでしょうか? 両国は国際機関と周辺諸国によって朝鮮半島の非核化と地域的な安全保障体制に向けて,関係を正常化できる望みが芽生えたのではなかったか? 合意の問題は,要するに,ピョンヤン(アメリカ)は信用できない,と確信していることです.そして,主要国の強制力は,互いに有利な友好国に甘いものです.

ただし,これは十分に予想されたことです.北朝鮮は言を左右し,約束を守りません.だから,アメリカは二国間ではなく,六カ国協議(多角主義)を優先したのです.北朝鮮が騙せば支援は得られず,その経済状態は悪化し,次の交渉は難しくなります.Max Bootは,特に,韓国政府への態度を変えるべきだ,と主張します.

FT September 21 2005

The real nuclear threat is to US’s bases

By Michael Nacht and Michael May

BG September 21, 2005

Fair deal in North Korea

IHT WEDNESDAY, SEPTEMBER 21, 2005

Still no breakdown

By Ralph A. Cossa International Herald Tribune

Asia Times Online, Sep 23, 2005

Let North Korea have its nukes

By Carl Senna

Asia Times Online, Sep 23, 2005

North Korea 'deal' is only a starting point

By Jim Lobe

(コメント) 安全保障体制を,一片の文書で,確立することなどできません.所詮,言葉は言葉,文書は文書に過ぎない,と実感します.世界には統一政府や警察,裁判所がありませんから,国際条約は,どちらかが望まないなら,その意味を失うのです.

Michael Nacht and Michael Mayは,アメリカに対する核の脅威が,東アジア,特に韓国,の米軍基地に関して言えるだけだ,と主張します.実際,アメリカは世界中の米軍基地を再編整理しています.韓国,そしてアジアからの,本格的な米軍基地撤退が検討されるでしょうか?

それでも北朝鮮は,韓国や日本の大都市を核ミサイルで攻撃できます.アメリカがアジアや世界中の同盟諸国に信頼されるためには,米軍基地の撤退に慎重でなければなりません.しかし,潜水艦の常駐や長距離爆撃機の配備,あるいは同盟諸国の核武装を求めるかもしれない,と思いました.・・・「ラピュタの雷」.

他方で,クリントン政権の軽水炉建設プログラムに対する敵意が,ブッシュ政権の外交姿勢を今でも歪めているかもしれません.

ヨーロッパのように,アジアも核兵器と核エネルギー,安全保障を共有しなければなりません.それが夢想でしかないなら,地域の平和と繁栄は言い訳になって,大国は核軍拡競争と貿易や投資のブロック化を目指すでしょう.


FT September 16 2005

Undermining Doha

(コメント) 貿易自由化交渉は行き詰まったままです.中国からの繊維製品輸入を抑制するために,EUもアメリカも中国との二国間交渉を繰り返しています.EUもアメリカも日本も,WTOのドーハ・ラウンドを無視して,盛んに二国間やFTA締結に向けた交渉を繰り返します.農産物や繊維製品の市場を保護しようとするのです.FTは,たとえ時間はかかっても,多角的な自由化で無ければ利益は少ない,と主張します.


Sept. 16 (Bloomberg)

Japan's Recovery Looking Better to Europeans

William Pesek Jr.

JT Wednesday, September 21, 2005

System's flaws help keep Koizumi on top

By GREGORY CLARK

JT Thursday, September 22, 2005

Japan's 'Thatcher' moment?

By DAVID HOWELL

(コメント) 小泉・自民党の大勝と構造改革推進について,その評価はさまざまでしょう.日本経済の復活に期待するヨーロッパ.Gregory Clarkは,小泉氏が日本経済に深い傷を負わせながら,TV対策や選挙制度を利用して大勝したことを批判します.あるいは,DAVID HOWELLが言うように,日本も漸くサッチャー革命の時点に到達したのでしょうか?


To protect and defend The Guardian, Saturday September 17, 2005

IHT SUNDAY, SEPTEMBER 18, 2005

The world needs a stronger UN

Melita Gabric

NYT September 18, 2005

A Wimp on Genocide

By NICHOLAS D. KRISTOF

A reckless salesman FT September 19 2005

CSM September 21, 2005 edition

US, UN find common ground

John Hughes

(コメント) 国連改革は,アメリカや発展途上諸国,安保理常任理事国参加を目指した日本など,さまざまな国の意図をまとめることができず,挫折しました.世界統治や民主主義を考えることは,必ずしも国連を中心に置くものではないのです.

しかし,ジェノサイドの防止について,伝統的な内政不干渉の原則を超える合意ができたようです.問題は,それを実行することが難しいことです.第二次大戦のユダヤ人虐殺,カンボジア,ルワンダ,コソボ,ダルフールなど.虐殺は繰り返されました.

核拡散や国際紛争であれ,ジェノサイドであれ,ホッブス的な無秩序に対して,絶対的な世界権力を求めることは合理的です.しかし,それが民主的な審査や効率的な運営,合意形成に適当でなければ,さまざまな形に分割されるわけです.特に,小国や不安定な諸国ほど,国連と国際機関の強化を願っています.

問題は,ジェノサイドであれ,テロであれ,それを定義し,国際的な基準について判断する権限を合意できないことです.NICHOLAS D. KRISTOFは,ブッシュ氏がダルフール介入に関して事実上の拒否権を行使した,と強く非難しています.

もちろん,国連人権委員会が「体制転換」に関わる方が,アメリカ政府が先制攻撃するより,良いことです.アメリカ政府も,外交において,特に,核拡散の防止など,国際協調できる分野で,国連の役割を評価し直している,と.


The Guardian, Friday September 16, 2005

We must not be blackmailed by Merkel's neoliberal gang

Gunter Grass

FT September 17 2005

Germany hesitates

NYT September 17, 2005

A Bright Spot in Germany's Economy Seems to Be Fading

By FLOYD NORRIS

(コメント) Gunter Grassは,アメリカ型の階級社会になることに反対します.テロには反対するが,国際的な軍事介入には慎重でなければならず,国連安保理決議に従うべきだ.メルケルの指名する経済学者がフラット・タックスや福祉国家の解体を進めるのは許されない.「赤と緑の連合」により,反原発と雇用重視の政策を取ることを望む,と.

日本では,小泉自民党の明確さを欠いた「構造改革」に対して,これも明確さを欠いた民主党の「政権交代」が敗北しました.ドイツのような対立軸が示されるべきだったと思います.

FTは,メルケルが勝利して,アメリカよりの外交姿勢と,左派に配慮した緩やかな経済改革を選択するようになると予想し,それも悪いことではない,と考えます.

FLOYD NORRISは,ドイツ経済の回復には輸出の好調が目立っていると言います.ドイツは中国に対しても貿易黒字を伸ばしているのです.これはドイツの競争力回復として評価されていることですが,同時に,中国の設備投資が弱まれば,ドイツ国内の過少消費が再びヨーロッパを支配する不安ともなります.

FT September 19 2005

Wolfgang Munchau: German vote against change

By Wolfgang Munchau

Sept. 19 (Bloomberg)

Germans Opt for Worst Possible Election Result

Matthew Lynn

FT September 20 2005

The price of Germany’s indecision

By Jeffrey Gedmin

BG September 20, 2005

German standoff

(コメント) 拮抗した選挙結果を受けて,ドイツ政治への悲観論が強まっています.ドイツ最初の女性首相や,東ドイツ出身の急進改革派,という見出しは消えました.

Wolfgang Munchauの論説は現状について的確な分析だと思いました.CDUの優位は選挙運動の失敗で消えてしまい,メルケルの党内支持は固まっていません.他方,ドイツ国民が望んだのは急進的な改革ではなく現状維持であり,シュレーダーはSPD内の地位を確立しています.CDUとSPDとの大連立は難しく,他方で,緑の党やFDPは同盟関係を組み替えないでしょう.たとえわずかにCDUの議席数が多くても,国会の首相選挙では,最終段階でCDUの造反が起きたり,急進左派党がSPDを支持したりするかもしれません.

この選挙の教訓とは,改革を唱える党でも,増税や労働組合無視,医療費値上げ,などを主張して選挙に勝つことはできない,ということです.メルケル女史よりもシュレーダー氏が,小泉氏と同じ政治資質に恵まれたことも.

Matthew Lynn の論説も興味深いです.ドイツの有権者は三つの選択肢を示されました.1.SPD:現状維持.2.CDU:断固とした改革.3.左派党:1960年代の再現.そして,彼らに示された選挙結果は,「分からない」です.市場の判断は明確でした.CDUの勝利を予想して流入していた資本が,今後の政治的混乱を嫌って流出しています.

さらに,@シュレーダーの復活と,メルケルへの失望.A左派(8%)と自由市場派(FDP:10%)の登場,が注目されます.ドイツは,緑の党とともに,これら5大政党による連立・再編の時代を迎えました.「分からない」と答えた有権者たちは,今後の改革の推移によって,次の選挙結果を変えるでしょう.

ドイツは,ますますイタリアに似てきた? ・・・EUにとって,好ましくない予想です.EUは成長のエンジンを欠き,EU内の経済改革を推進する指導力を欠き,アメリカとの友好な外交関係を欠き,ドイツ国内の停滞と遅延に付き合うからです.党派を越えてドイツ国民に訴えることのできる,真の指導者が求められます.

CSM September 21, 2005 edition

Facing up to Germany's fears

WP Wednesday, September 21, 2005

Germany's Fear of The Future

By Jim Hoagland

The Guardian, Thursday September 22, 2005

Economic confidence trick

(コメント) アメリカ人なら,ドイツの拮抗した選挙結果に,2000年大統領選挙によるブッシュとゴアの勝利宣言と混乱を思い出すわけです.もちろんドイツの場合,首相指名には連立工作が行われるはずです.アメリカから見れば,EUの改革や対米関係の改善を望むでしょうが,この結果からは分かりません.少なくとも,EU経済が停滞し,ユーロが安くなるのは,アメリカにとって望ましくないことです.

シュレーダーは,メルケルの改革方針を「極端に反社会的だ」と非難して,支持を奪い取りました.年金,労働組合,雇用,などに関わる国民の不安を受けて,誰か保障することができるでしょうか? BGは,北欧型の福祉経済,東ドイツ型の賃金圧縮,サッチャー型の労働市場改革,を挙げます.ドイツの政治指導者は,日本と同様に,グローバリゼーションに応じた効率性を,労働市場の弾力化を,社会的給付の削減を,目指すしかないでしょう.

Jim Hoaglandは,シュレーダーの目指したドイツの変身を論じています.ドイツ社会は,日本と同様に,出生率が低下して人口減少と停滞を感じています.経済改革については漸進主義を取ったシュレーダーが,有権者に新しいドイツ像を示すことで,支持を問いました.ドイツは歴史の呪縛から抜け出て,ナチスによる負い目や,冷戦下の対米関係重視から,新しい国際主義や反戦・平和主義,ロシアとの友好関係(エネルギー依存)を築くことに向かいました.他方,重税や社会的コストを嫌い,急進的な市場改革を期待していた財界は,ドイツから抜け出すことを求めています.

The Guardianは,メルケルの増税案を,輸出に依存して回復しているドイツにとって,今後の成長を持続するためにまったく好ましくない,と批判します.


The Guardian, Friday September 16, 2005

Sliding into civil war

Simon Tisdall

(コメント) イラク内の権力闘争はますます内戦に向かって激しくなるだけでなく,イランのシーア派を刺激し,サウジ・アラビアと湾岸諸国のシーア派,スンニー派を刺激して,アル・カイダの望んだアラブ世界の革命をもたらす危険を高めています.アメリカはイラク撤退への国内で強める要求とシリアやイランへの強硬姿勢とが矛盾し,憲法承認に失敗すれば,さらに内戦状態に近づきます.


NYT September 16, 2005

Not the New Deal

By PAUL KRUGMAN

WP Friday, September 16, 2005

Mr. Big Government

By Dan Froomkin

(コメント) ブッシュ氏にとって,イラク占領も,ニューオリンズやメキシコ湾岸の再建も,そのイデオロギーが正しいことを示す実験室である,とPAUL KRUGMANは批判します.ヘリテッジ財団がカール・ローブに用意した再建計画は,被災地域において環境基準を緩和し,キャピタル・ゲイン課税を停止し,公立学校の民間所有を認めて再建する,というわけです.また,カトリーナにより死亡した者の遺族には,ほとんどが貧しい人たちですが,相続税を免除する,と提唱しました.

それでも回復には大規模な財政支出が必要なことは認めています.しかし,F・D・ルーズベルトのニュー・ディールとまったく異なったイデオロギーによって,巨額の財政支出がもたらす汚職や腐敗を無視しています.たとえばニュー・ディールのWPAは,強力な捜査権限を持つ機関によって監視されていました.ブッシュ氏はどうするか? 彼はアンチFDRだ,とKRUGMANは考えます.だから,政府の役割を否定し,汚職の捜査機関も攻撃します.民間企業に任せておけば良いのであって,再びブッシュ政権に親しい仲間企業の楽園となり,汚職がはびこるだろう,と予想しています.

Dan Froomkinも,ブッシュ版ニュー・ディールによるハリバートン型企業優遇への警戒を特集しています.しかし,9・11に対しては海外に軍隊を送っても,被災した貧しい黒人たちのために財政赤字を増やして政府部門を拡大するだろうか? ・・・


NYT September 17, 2005

Insuring a Fair Recovery

FT September 18 2005

A post-hurricane action plan should focus on people

By Glenn Hubbard

NYT September 18, 2005

Message: I Care About the Black Folks

By FRANK RICH

NYT September 18, 2005

A Bushian Laboratory

By DAVID BROOKS

WP Monday, September 19, 2005

'Whatever It Costs'

By Sebastian Mallaby

WP Monday, September 19, 2005

Our Lost Community

By William Raspberr

NYT September 19, 2005

Tragedy in Black and White

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 再建過程から誰が利益を受けるのか? 政治は常に分配問題です.ハリケーンで奪われた者と,その再建過程から得る者との対立において,経済的な均衡は成立しないでしょう.

それは,DAVID BROOKSの主張する,「ブッシュの実験室」です.以前よりももっと素晴らしい町にしよう,とブッシュ氏は呼びかけました.メキシコ湾岸はブッシュ氏のTVA(ニュー・ディールのモデルとなったテネシー川流域開発公社)なのです.ブッシュ氏は二つのイデオロギーと戦ってきました.一つは,大きな政府を好むリベラル派.もう一つは,財政均衡を好む保守派,です.ニューオリンズ再建で試されることは,全国に拡大されるでしょう.

たとえば,提案されているan Urban Homestead Actでは,都市の再建を民間企業家に委ねます.あるいは,individual job training accountsでは,労働者の再教育や訓練を個人口座によって行います.破損した住宅は,以前の居住者に修復させます.ハリケーンで被災した子供たちは,その補助金をつけて学校を変われます.貧しい被災者たちを遠方のトレーラーに住ませることは,雇用の機会を失わせて,支援に依存する結果となるでしょう.ブッシュ政権の人々は新しいモデルを模索します.

Sebastian Mallabyは,「いくらかかかっても必ず復興する」というブッシュ演説に憤慨します.災害が来るまでソファーで寝ておきながら,被害者救済には税金を惜しまない,と言うのか? 彼が確信しているのは二つだけです.政府は無駄だ(最小限政府のブッシュ),そして,自分の政治生命はなんとしても守る(大盤振る舞い財政のブッシュ),です.

William Raspberryは,かつてアメリカ人は災害のときに助け合った,と言います.しかし,今やそのような互助的コミュニティーとしての近隣社会を失いました.ハリケーンに苦しむときにも差別がある.運命を共にするわけではない.たとえニューオリンズは再建できても,コミュニティーは戻らない.

アメリカほど人種が政治対立の源泉となる先進国は他にありません.それは,共和党が南部の奴隷制を支持した白人保守派から誕生した政党だからです.彼らにとっては市民権を支持する政府など悪者でした.健康保険危機も政治問題にならない,とPAUL KRUGMANは言います.それは,白人中産階級を脅かしていないからです.その犠牲者は貧しい黒人たちです.彼らは第三世界レベルの幼児死亡率と平均寿命を生きています.

LAT September 20, 2005

A new storm on the right

Robert Scheer

LAT September 22, 2005

Katrina and the Fed

WP Thursday, September 22, 2005

Choose: Guns or Butter

By Richard Cohen

(コメント) ブッシュ氏はアメリカに現れた貧者の群れを,史上まれに見る天災の結果である,として例外とみなします.しかしもちろん,これは公共政策の対象であり,レーガン革命やブッシュ大減税の結果です.移民政策も,金融政策も,・・・


Enough debate: time to act on imbalances FT September 17 2005

FT September 20 2005

Martin Wolf: Do not put off imbalances correction

By Martin Wolf

NYT September 21, 2005

I.M.F. Cites U.S. Debt in Dangerous Global Imbalances

By EDMUND L. ANDREWS

(コメント) 世界経済は国際収支不均衡の調整を求められます.なぜか? 資本市場(民間投資や介入)が拡大し続ける不均衡を融資し続けることはないからです.特に,赤字の集中している国がインフレや政治不安の兆候を示せば.今,国際収支の赤字はアメリカに集中しています.GDPに対する比率は7%に近づき,歴史的な経験が示す危険ラインを超えています.

ドル安や人民元高を誘導するような為替レートの変更だけでは調整できません.それを予想した大幅な資本移動が世界不況を招きます.他方,アメリカが成長率を落とし,他の地域で成長率が高まれば,世界不況を招くことなく調整を行えます.FTは,アメリカの成長率が高すぎると言うより,世界の過剰貯蓄が問題だ,新興市場は投資を増やして成長率を高め,調整に貢献するべきだ,と指摘します.それゆえ,関係諸国が増えて大規模になることの困難を指摘しつつ,それでもプラザ合意の再現を期待しています.

Martin Wolfは,この過剰貯蓄論を地域ごとの観察によって展開し,世界の相互調整過程を支持します.しかし,不均衡の原因と調整には,赤字国責任論と黒字国責任論があります.アメリカの放漫財政と金融緩和が悪いのか? あるいは,アジア新興市場の過少消費・過剰貯蓄,為替レートの操作が悪いのか?

Wolfは後者です.アメリカよりもアジアに不均衡の原因を見ます.なぜなら,世界全体としては金利が低下し,インフレも抑制されているからです.しかし,アジアの貯蓄増加が通貨危機以後に発生したことを考えれば,むしろそれは国際通貨制度の弱さ,通貨危機への個々の対応であると思います.つまり,Wolfはアジア諸国の過渡的な対応策に乗じたアメリカの赤字拡大を,不均衡の調整問題にしてしまうのです.

アジアの新興市場が,いったん,十分なドルを蓄えれば,投資し始めるかもしれません.その場合,ドル安やアメリカの金利上昇,アジア通貨の増価が自然に生じるでしょう.市場がそれを過度に調整しないように,主要国間でプラザ合意Uを協議することも有益かもしれません.その過程で,ドル準備への依存とアメリカの成長のエンジンは,次第に,重要でなくなるわけです.

特に,EUや日本が,十分に成長する開放された市場を維持できれば,いつか,アメリカの放漫財政や金融緩和,通貨危機は,アメリカ自身の問題に過ぎなくなります.


IHT SATURDAY, SEPTEMBER 17, 2005

Changing Asia

William Pfaff

FT September 19 2005

Capitalist-roaders flourish in China

FT September 20 2005

West must heed China’s rise in the global patent race

By Ian Harvey

The Guardian, Wednesday September 21, 2005

The Sino-US pincer

Simon Tisdall

(コメント) William Pfaff は,アジアの地政学が変化しつつある中で,小泉・自民党が大勝したことの意味を考えます.一方では,東アジアの地政学を安定させてきたアメリカの役割,その日本との同盟関係が重要です.しかし,中国の台頭と国際的な地位向上により,アメリカの地位は相対的に低下するでしょう.アメリカ自身が今後,どのようにアジアに関わるのか,日本は中国とアメリカの動きに翻弄されるでしょう.小泉氏の外交姿勢は明確にアメリカを支持していますが,同時に,国内で強めるナショナリズムにも配慮したものです.この三カ国の関係は,ますます,予測できない困難な時期に入りそうです.

しかし,他方で,中国の経済システムが急速に世界の資本主義システムに追いつきつつある,という記事も読みます.国有企業の解体や資本市場の整備,資本や鳥の所有権を確立し,知的財産権についても法律や制度を完成する勢いです.

アメリカと中国が協力すれば,東アジアの平和と繁栄への道は大いに進展するでしょう.たとえば北朝鮮の核放棄と体制転換です.イランに対しても,国連安保理改革やIAEA,石油価格や為替レートに関しても,両国が協力すれば多くの望ましいことが可能です.しかし,それらが結びつき,累積的に悪化することも考えられます.

アメリカの大統領制と,中国の共産党「独裁」が,協調を好む時期や条件もあれば,対決を目指す時期や条件もあるはずです.


The Guardian, Tuesday September 20, 2005

It would seem that I was wrong about big business

George Monbiot

(コメント) 環境問題は,市場システムや国民国家,民主主義にとって,非常に扱いにくいテーマです.地球温暖化によって発生するコストと,温暖化防止の対策によって発生する個別の問題やコストとが,誰によって,どこで,いつ,どのように比較されるのでしょうか?


IHT WEDNESDAY, SEPTEMBER 21, 2005

Europe must open up to the globalized world

By Jose Manuel Barroso

(コメント) 「新しい世界の世紀に,息もできないほどの速さで変化が生じる.私たちはこの変化を制御するのであって,抵抗してはならない.自由と安全,繁栄をもたらすために,私たちはグローバリゼーションの利益を拒むのではなく,取り込む必要がある.ヨーロッパは変化する世界に開放され,私たちの価値や原則に沿う形で,それと結び付かねばならない.

EUは,この挑戦に応じる人々や諸国にとって,最善のメカニズムを代表する.加盟諸国の中で最大の国でも,自分で成し遂げるには小さすぎる.私たちはバラバラでやるより,一緒にやった方がうまくできる.4億5000万人の規模と手段をEUは持っている.私たちは自信とエネルギーと行動への決意を持たねばならない.なぜなら,世界がヨーロッパのために待ってくれはしないから.」

「委員会は成長と雇用を生み出す魔法の答えを示すわけではない.そんな答えは存在しないし,必要も無い.繁栄した,ダイナミックな経済をもたらすさまざまな方法がある.どの社会・経済モデルが最良か,いつまでも議論するのは無駄だ.」

では,EUとは何か? 統一した法体系と,予算に関する合意,そして近隣諸地域の安定化など,世界的な貢献を果たすこと,です.

Sept. 21 (Bloomberg)

What Europe Could Learn From Japan's Koizumi

William Pesek Jr.

FT September 22 2005

Poland’s need for stronger institutions

By Stefan Wagstyl

FT September 22 2005

It is time to get serious about reform in Europe

By Catherine Colonna

FT September 22 2005

Philip Stephens: Blair and Chirac can keep EU afloat

By Philip Stephens

The Guardian, Thursday September 22, 2005

Germany and France are the new sick men of Europe

Timothy Garton Ash

(コメント) ドイツには,残念ながら,小泉もサッチャーもいない.また,ポスト共産主義の東欧諸国では,選挙によって政権が交代しています.それは民主主義の勝利であるとしても,政治への失望や制度の不十分さを示しているようです.

ドイツの選挙結果によって,ブレアとシラク,イギリスとフランスが協力して,ヨーロッパの社会・政治モデルを前進させる力となるべきでしょうか? あるいはTimothy Garton Ashのように,改革を拒むフランスやドイツに,インドの民主主義と成長率を示し,むしろヨーロッパの病人であると診断すべきでしょうか?


FT September 21 2005

Asia must find ways to prioritise job growth

By Ifzal Ali

(コメント) アジア開発銀行のIfzal Aliは,アジア諸国が成長ではなく,雇用そのものを目標とした改革を進めるべきだ,と主張します.たとえば労働法や投資規制は,もっと経済の必要に応じて雇用を増やす形に変えるべきです.また,破産法や土地所有権の未整備が投資を妨げています.インフラの整備,教育,金融サービスなど,政府のすべきことが多くあります.

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The Economist, September 10th 2005

The shaming of America

Trade: Storm in a D-cup

The United Nations: Can its credibility be repaired?

Farm labour: The grapes of wrath, again

Segregation: Ghettos of the mind

(コメント) ハリケーンに対する予防でも,再建でも,予算をめぐる政治家たちの奪い合いが批判されます.保護貿易をめぐる政治システムの介入が批判されます.国連をめぐる多くの欠陥が指摘され,『怒りの葡萄』とちっとも変わっていないカリフォルニアの農場が批判され,イギリスで進む移民コミュニティーのゲットー化や隔離が指摘されます.

政治システムがうまく機能する条件は,これほど,多様な謎に満ちているわけです.