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IPEと社会的想像力 9/26/2005

秋学期が始まります.週2回のIPEと,「経済の歴史と思想」を4回x3クラス担当します.

私が考えるIPEの基本テーマとは,「統一政府が無い中で市場統合が進む世界で,望ましい国際秩序はどのようにして実現可能になるか?」 ということです.

もし世界政府や世界警察,世界法と世界裁判所があれば,あるいは,世界議会や世界通貨,世界言語,などがあれば,IPEは経済学や政治学,地域・文化研究,組織論,などに分散するでしょう.あるいは,もし各国が完全な鎖国体制を敷いているとか,物理的に孤立した状態であるなら,IPEは対象も関心も失うでしょう.

戦争は大規模な物資と人の移動をともない,領土の征服や政治体制の転換をもたらします.それが大規模な軍事力の行使や集団的な殺戮であるから,という理由ではなく,新しい国際秩序の誕生を促すという理由で,IPEは戦争や安全保障を重視します.政治的な支配者が,富の生産に関わらず,もっぱらその収奪と再分配にだけ関わっていた時代には,領土や人口をふやすこと,奪い合うこと(もしくはその抑止)こそが国際秩序でした.

しかし,イラク戦争に限らず,支配者が変わることが,秩序の異なる社会システムを意味する場合,軍事的に支配する者がその地域の社会システムを決めるのだ,という問題を生じます.北朝鮮と韓国.中国とアメリカ.日本と中国.アメリカとメキシコ.ドイツとトルコ.イギリスと大陸ヨーロッパ.シンガポールとマレーシア・・・ 彼らが政治的に統一して,共通の秩序の下で生活することに合意するのは,望ましいかもしれませんが,難しいのです.

世界地図には国境のないものと在るものがあります.国境がある世界地図は,当然,その時期が示されているでしょう.政治的支配は時間とともに変化するからです.それが一斉に変化する時期には,国際秩序が転換した,と言われるでしょう.

同時に,世界地図には見えなくても,国境を越えた財貨や情報の交換,人や組織の移動・拡大が常に生じています.場所によって国境線は,銃口を向け合った軍事的境界線,巨大なコンクリートの壁ではなくなり,スポンジや蜃気楼とも言っても良いような,ちっぽけな検問所や,単なる道路標識になります.

その土地の社会システムを決めるのは,そこを軍事的・政治的に支配する者ではなく,その生活水準を維持・改善し,富と秩序をもたらす財貨や情報の流れです.もし人々がその秩序を受け入れて,1000年も平和が保たれたなら,国境だけでなく政治的支配そのものが重要性を失い,警察と裁判所だけに縮小されるかもしれません.

しかし,国境がないからと言って,政治が死滅するでしょうか? たとえ社会システムが互いに収斂したとしても,その社会の内部に何も問題がない,とは言えません.ハリケーン・カトリーナは,社会内部の矛盾や分裂,政治対立を表面化しました.地震,台風,洪水,高齢化,伝染病,人口減少,温暖化,など,同じ問題に直面しても,各国はさまざまに異なった解決策を追求します.こうして,社会内部の問題を解決する仕方が異なるから,政治システムの違いや国際紛争が勃発し,国家間競争のために,共通の国際秩序を維持する困難が増すわけです.

貧困や人種対立・移民(外国資本)排斥,さまざまな政治的介入と規制に関わる既得権を持つ集団,選挙システムや官僚制度と結びついた雇用と分配関係,・・・ それらを示した世界地図もあるでしょう.その世界地図には,もちろん,時期が示されます.この地図を見ながら,急激な変化や社会の安定性について,人々は判断するようになりました.世界の指導的なメディアには,そうした主張があふれています.

こうして,少しずつ多くの人の心に,世界的な社会意識,社会的想像力が誕生します.

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