IPEの果樹園2005

今週のReview

9/19-9/24

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 小泉氏の大勝: 日本に関する記事がこれほど多く載ったのは初めてです.その水準は?

2 カタリーナ: ハリケーンと水害がもたらす政治経済的な考察の広がり.

3 Friedman, Wolfの比較論: ヨーロッパの経済・社会モデルにも4つある.中国とシンガポールも.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


Polly Toynbee The chasm between us The Guardian Friday September 9, 2005

Naomi Klein Power to the victims of New Orleans The Guardian Friday September 9, 2005

Eugene Robinson No Longer Invisible WP Friday, September 9, 2005

Learning From Katrina WP Friday, September 9, 2005

Charles Krauthammer Where to Point the Fingers WP Friday, September 9, 2005

(コメント) アメリカは分裂し,貧しい人々はバラバラの原子に過ぎない,とPolly Toynbeeは考えます.「衝撃と恐怖」を覚えていますか? アメリカはその圧倒的な破壊力でアフガニスタンやイラクを破壊した.もちろんだ.国内でさえ,この有様だから.

イラクでも国内でも,高価な兵器や装備は役に立たない.破壊活動が終わってしまえば.そして,米兵への「衝撃と恐怖」は自転車に乗ってもやって来る.

アメリカ国家の母たるバーバラ・ブッシュは,夫とともに,再生派キリスト教徒の強い確信によって,この災厄にも神の力を感じることでしょう.しかし同時に,彼女はアメリカの富裕層がどれほど被災者から遠く隔たっているかを示します.彼らが感じる不安を共有して,「彼ら(貧しい避難民)が皆,テキサスに残りたいと聞いて,私は恐ろしいことだと思う.」と述べました.

津波に集まった寄付金が貧しい者の声に応えていないように,ニュー・オリンズの再建も誰のために行われるのか? 貧しい漁民たちの村は,援助団体や軍隊,開発業者の「第二の津波」によって制圧される.本当に貧しい犠牲者のための再建を試みた例もあります.しかし,救済が必要なのは,単に預金口座を利用できないだけの裕福な避難民ではありません.

「アメリカで貧しいということは,目に見えないということだ.」と,Eugene Robinsonは書きます.そして,人種や民族も見えません.黒人の犯罪について,ニュースが氾濫しています.20年間無視していたことに,アメリカは取り組むでしょうか?

このまま低地が再開発されるのを許すのか? そして再び洪水が襲う? 開発で儲ける者は洪水で苦しむわけではなく,救済資金をすべて出すわけでもありません.

Charles Krauthammerはブッシュ政権への避難を「魔女狩り」と呼びます.啓蒙以前の社会では,何か災害が起きると「魔女」を探して火あぶりにし,あるいはユダヤ人を襲って虐殺したものだ,と.カタリーナの災害は,本当に「改革派」が非難するように,地球温暖化やイラク戦争,ブッシュの減税によって起きたのか?

この災害は自然によるものだ.さらに罪を問われるとしたら,この順番で責めるべきだ.1.こうなることを予測できたはずのニュー・オリンズ市長,2.予備役を招集しなかった知事,3.対応が遅すぎたし,効果的でなく,鈍かったFEMA局長,4.事態の緊急性・重大性をなかなか理解しなかったブッシュ大統領,5.本土安全保障省への統合を認めた議会,そして,6.政治家たちをさまざまなおろかな目標に導いたアメリカ国民,・・・

TOM PLATE From Kyoto to New Orleans JT Saturday, September 10, 2005

MICHAEL E. CRUTCHER Build Diversity NYT September 10, 2005

BRUCE BABBITT Make It an Island NYT September 10, 2005

GARY RIVLIN New Orleans Executives Plan Revival NYT September 10, 2005

LOUIS UCHITELLE Disasters Waiting to Happen NYT September 11, 2005

Ari Kelman America's underclass exposed CSM September 12, 2005 edition

William Raspberry Our Rules vs. The Poor WP Monday, September 12, 2005

Robert Kuttner Boon Or Burden The American Prospect 09.12.05

(コメント) TOM PLATEは地球温暖化を取り上げます.アメリカ国民も,ブッシュ政権の京都議定書破壊が持つ重要な意味に気付いただろう.母なる自然の前では,超大国アメリカでさえ小さなピーナツの一粒でしかない,と.

再建後のニュー・オリンズを話し合う住民委員会のようなものは,無い.それは,権力者と市場が決める.再開発とは,金儲けと,その隙間に向けての貧困層の流入,である.もしかすると,まったく異なった景観になる.たとえば,湖に浮かぶ島? ビジネス界の希望に沿えばよいのか?

LOUIS UCHITELLEは,ニュー・オリンズの最近の歴史を振り返ります.サンフランシスコ湾から東に1000マイル以上も広がる堤防によって守られた人口集中地帯への安全管理と投資を,政府が怠った理由は何か?

堤防に限らず,老朽化したハイウェイなども,予算が削られて死亡率を高めている,と言います.最近の費用・便益対比方式で決まる公共投資予算では,巨大ハリケーンがめったに来ない以上,利益を主張することは難しいのです.そして,少ない予算で効率を高めるために,多くの計画を削って投資を集中しました.

同じ程度の災害による被災者の状態から,アメリカ社会に下層階級がどの程度存在しているのか,国際比較・歴史比較を用いて推測できるでしょう.

なぜ,アメリカでは略奪が起きるのか? 最低限の社会保障や所得の再分配を行うことが,非常時においても社会の秩序を守るのだ,と多くの人は同意するでしょう.ラテン・アメリカの富裕層はそうではない?

Robert Kuttnerは,カタリーナ後の二つの政治的可能性について危惧します.一つは,もちろん,この災害を増幅したブッシュ政権と共和党の政治思想や政策が国民から非難されることです.しかし,政治は常に関心と展望の奪い合いです.

カール・ローブは問題をこう示すでしょう.「非難合戦をしているときではない.」「被災者の救済と再建策を実施するべきだ.」「問題は,ブッシュ政権ではなく,政府組織が無能であったことだ.」「再建においても民間投資が中心となって進められるだろう.」

われわれが警戒しなければ,ブッシュ氏は公共の分野から何でも奪い去ってしまうだろう.

The Guardian Monday September 12, 2005

How America rides the storms

Larry Elliott

(コメント) 9・11の影響とカタリーナとを比べて,Larry Elliottは考えます.9・11は不安と需要の削減が問題であった.他方,カタリーナは分裂と供給不足である.だから,金融緩和や支出拡大は間違いだろう,と.

グリーンスパンは金融を徐々に引き締めて,住宅バブルをイギリスのように安楽死させる慎重な過程を進めていた.しかし,しばらくそれを遅らせて,その結果,消費者の債務は放置される.救済や再建に政府が動けば景気は良くなる.しかし,株価や債券市場を支えた「グリーンスパン・プット」はもう尽きてしまうだろう.

カタリーナが及ぼす刺激は,当然,一時的である.その後は?

WP Tuesday, September 13, 2005

End of the Bush Era

E. J. Dionne Jr

(コメント) ブッシュの時代は終わった.E. J. Dionne Jr.によれば,それは2001年の9月14日に,ブッシュ氏が9・11の現場でテロリストたちへの報復を宣言したときに始まった.そして,2005年の9月4日に,FEMAの長官が責任を取って辞任した日に終わった.

ブッシュ氏は,アメリカという強大な国が反撃を決意したときに大統領であった幸運によって,指導者でありえた.国民は指導者を必要としていたから,彼を支持した.しかし,国民が団結を必要としているのに,彼は偏ってイデオロギーや個々の政策にまで,その権限を悪用し,分裂をもたらした.

ブッシュ政権が支持された理由は,国民を守ってくれる,という期待からだ.しかし,洪水が国民の命を奪っても,彼らは何もしなかった.すでに再選してからは,ブッシュの時代が終わりに近づいていた.社会保障制度の改革は支持されず,イラク情勢は悪化して帆船気分が強まっていた.ブッシュ氏は,早く忘れられることで,残りの任期をアメリカのために尽くすべきだろう,と.

WP Wednesday, September 14, 2005

Boats Rose in New Orleans, but Not for the Poor

Steven Pearlstein

(コメント) 課とリー名が示した貧困を見ても,アメリカの富裕層は,減税が貧困をもたらしているとは信じていない.減税は成長をもたらし,貧しい者にも雇用や富をもたらすはずだ,と.

しかし,アメリカの成長はますます貧しい者に利益ではなくなっています.十分な成長と生産性の改善があったにもかかわらず,平均的な労働者は1997年と比べて生活状態が良くなっていません.最大の利益を得たのは富裕な人口の20%です.彼らの給与やボーナスは増えました.また株や債券,土地で資産を持っている,ほとんど同じ20%の人口も利益を得たでしょう.

われわれの社会が道徳的に支持されるのかどうか,まだ分かりません.もしこのような社会が受け入れがたいと思えば,もっと低成長でも再分配に政府が介入する社会へと変化が生じるでしょう.層でなければ,時が経つに連れて,不平等は激しくなるでしょう.最上層と最下層において,その社会的移動性は最も低いからです.


NYT September 9, 2005

New Orleans and Baghdad

By THOMAS L. FRIEDMAN

NYT September 14, 2005

Singapore and Katrina

THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) アメリカ軍はイラクが内戦の海に呑み込まれないための堰や堤防です.イラク国民が憲法を認めて,新しい政府によって治安が維持できれば,アメリカ軍は撤退します.しかし,そのためには分裂を回避できるだけの連邦主義,石油資源の共有,スンニー派の参加,が欠かせません.

皮肉なことに,カタリーナによって,アメリカはイラクから撤退することを避けられなくなるでしょう.今や,国内の堤防を補修しなければならないときに,イラクの追加軍事予算を認めることは難しいからです.来年の中間選挙を前に,民主党がそもそも戦争に反対し,保守党もブッシュ政権のイラク占領政策を支持しなくなっています.こうしてイラクでも,よそに逃れることの出来ないほとんどの国民は,内戦の堰が切れる恐怖を感じています.

シンガポールのような都市国家で,カタリーナの水害が起きれば,それは国家の破滅を意味します.だからシンガポール社会は,公務員にも厳しい能力主義を課すとともに,十分な報酬を与えようとしています.たとえば首相は110万ドル,閣僚や最高裁判事には100万ドル近い給与を与えます.

政府は共産主義の脅威に対抗し,国民の福祉に気を配り,汚職・腐敗を取り締まりました.共産党がなくなっても,資源も無いわずか400万人の島で,良い統治を続けなければ,成長は維持できません.経済管理と教育投資がシンガポール社会の原則です.他方,アメリカは冷戦の規律を失ってから,公共社会の原則も崩れてしまったのではないか?

4000万人の国民が医療保険を持たず,互いに訴えるか,住宅を売買し合って,経済活動を支えている.政府は計画もなしに戦争し,その最中に減税して,借金を後の世代に支払わせる.」


FT September 10 2005

Banknote nationalism

(コメント) 「銀行券とコインはナショナリズムの強力なシンボルである.」

スコットランドや北アイルランドの通貨,香港と並んで民間銀行に並行して通貨発行を認める政策,イギリス人のEMU参加を嫌う感情,ECUに対抗したパラレル通貨案,シニョレッジ,国債による資金調達,・・・ 通貨の謎は尽きません.


FT September 10 2005

Japan in transition

FT September 11 2005

PM creates a legacy that will be hard to erase

David Pilling

FT September 11 2005

Result pleases business interests

David Pilling

(コメント) FTが,そしてDavid Pillingが小泉自民党の勝利に見たのは,経済改革よりも,日本の政治システムの変化です.しかし,分析が深いとも,遠くに及んでいる,とも言えないでしょう.派閥の解体,政界の外から閣僚を起用.小泉氏はすぐに引退するが,その影響力を残したまま,自民党の「ゲームのルール」が変わったことを確認するように監視し,圧力をかける立場にある,というジェラルド・カーチスの指摘が優れています.

しかし,記事も言うように,小泉氏の後継者が示す個性,日本のビジネス界と消費者の反応,が重要であるのは当然です.郵政民営化によって銀行や証券業界が活気付き,外資の参入やM&Aが活発になるでしょうか?

Sept. 12 (Bloomberg)

A Letter and To-Do List for Japan's Koizumi

William Pesek Jr.

(コメント) 小泉改革が目指すべき(英米メディアが「改革」の中身に期待する)10項目として.はっきりいって,小泉氏には出来そうにないものばかりだが・・・

1.郵政民営化法案の書き直し.持ち株会社の便法は必要なくなったし,2017年では遅すぎる.

2.年金制度改革もやり直し.郵政民営化は改革の一部に過ぎない.たとえば,真っ先に年金制度を信用できなければ,人々の消費は回復しないから.

3.靖国参拝,A級戦犯,経済摩擦などを解消し,アジアの協力関係を再建せよ.中国と韓国だ.

4.女性の地位を向上し,能力を生かすこと.社会進出,出産・子育ての支援で,人口問題を解決せよ.

5.国債の累積を解消し,ボツワナ並みの格付けを改善せよ.民間投資のクラウド・アウトを避けて,新製品や技術革新に投資できる.

6.輸出超過ではなく,世界で最も裕福な市場を開放せよ.企業ではなく消費者に減税することで景気は急速に回復する.

7.都市の有権者に依拠して国債を減らせ.地方の支持者に頼れば,公共投資と国債発行が増える.

8.高齢化の過程で生活水準を時事したいなら,もっと移民を受け入れよ.同質性だけでは解決できない.

9.観光は成長産業だ.

10.企業家を育てよ.雇用の維持より,新規雇用を開拓せよ.

小泉政権は,改革の機会に窓を開けたのだ.これを掴んで,飛び出せ,と誰もが願っています.

The Guardian Monday September 12, 2005

Latter-day samurai could transform politics

Simon Tisdall

FT September 12 2005

Now Japan can test Koizumi’s appetite for surgery

Anil Kashyap

FT September 12 2005

Koizumi vindicated

David Pilling

(コメント) 「一匹狼」「与党内野党」「偏屈・頑固」などの理由によって,国民は小泉氏を好んで指導者に支持した.これほど都市の「浮動票」を取れる自民党の指導者はいませんでした.これほど「改革」を主張して,矛盾や欺瞞を感じさせない指導者もいませんでした.

「大統領的な首相」としてトニー・ブレアに比較されます.しかし,本当に国民は「外科手術」を望んだのでしょうか? これほど大雑把な説明で?

Anil Kashyapは,小泉誌の勝利を10年前のアルゼンチン,カルロス・メネムの勝利にたとえます.彼は憲法が禁じている3度目の大統領を狙って,テキーラ危機後の預金引き出しが招いた経済・金融危機を立て直そうとします.

当時の当選したメネム大統領と,今の小泉首相は,同じような手術のために,まだベッドに寝ています.しかし,選挙戦を通じて彼は,一切,その他の改革に熱意を示しませんでした.再選されたメネムは改革を怠り,アルゼンチンを破綻させました.日本はどうか?

David Pilling は,「小泉は自民党をぶっ壊すのではなく,それを生き延びさせた」と書いています.しかし,市場の反応は鈍いものです.勝利を歓迎はしても,「改革」を名目にして何をするのか,明らかではないからです.

さらにPilling は書きます.2001年のキャッチフレーズは「改革なくして成長なし」だった.けれど,本当は「中国無くして成長なし」だった,と.銀行改革も政府の役割は小さかった.小泉政権が経済に貢献したのは,財政に上限を設けたことぐらいだ.これもデフレの不安と関わり微妙だった.

今回のスローガンは,「改革を止めさせない.」 これで人気を得たが,郵政民営化以外に何をするのか? 実際は,政府が何もしないほうが良い,というエコノミストの意見も紹介します.バブル破綻後,漸く過剰設備が解消され,市場のバランスが回復したからです.政府の言う「改革」には,失敗のリスクがある,と.

小泉氏の前に自民党を通じて日本を支配した田中角栄は,貧しい地方への公共投資を増やして票を得た.バブル破綻で処理されるべきだったのは,この失敗続きの政治的分配システムだった,というわけです.

首都圏の横須賀に生まれた小泉氏は,都市の有権者を良く知っており,政治的再分配では自民党が生き延びることは出来ない,と考えたのでしょう.郵政民営化は旧来の政治システムと地方との接合部でした.田中型から小泉型へと,自民党が変わったのです.

バブルとその破綻によって日本の社会は変わった.ところが政治システムは旧態依然として,その機能が麻痺していた.小泉氏はその社会変化に乗って,彼らに声を与えることに(少なくとも気分として)成功した.

イデオロギーではなく,農村と都市の分配でもない,官僚制度や既得権の保護でもない,自民党と民主党の対立が始まったのであれば,日本の政治システムは安定した政権交代も実現できるでしょう.そうなれば,彼自身の思惑を超えて,小泉氏の政治改革は成功したと言えるでしょう.

IHT MONDAY, SEPTEMBER 12, 2005

Koizumi's next challenge

Philip Bowring

CSM September 13, 2005 edition

Japan's leap to be a 'normal' nation

(コメント) 他方,アジア諸国から見て,小泉改革の意味は明確ではありません.外交政策に変化があるでしょうか? 北朝鮮の拉致問題と靖国参拝問題で,アジア外交は低調です.中国に攻撃的ナショナリズムの抑制を訴えるためにも,靖国問題で両国が合意できる提案をしなければなりません.ロシアとの北方領土問題やアジア通貨の安定化についても,今なら,日本から具体的な動きを示せるはずです.

与えられた政治的信認と国会における大きな権限を,小泉氏が何に使うのか,その方針を内外に示すときです.「村意識」? 「普通の国」? 「国際貢献」=「安保理改革」? 「小さな政府と積極的外交」

NYT September 13, 2005

One Good Thing About Japan's Election

WP Tuesday, September 13, 2005

Japan's New Politics

IHT THURSDAY, SEPTEMBER 15, 2005

Koizumi's magic

Jeff Kingsto

JT Thursday, September 15, 2005

Betting on a bolder Japan

STEVEN C. CLEMONS and ANDREW L. OROS

(コメント) NYTは,日本に必要なものは,@郵政民営化,A二大政党制,B近隣諸国や貿易相手国との建設的関係,であると考えます.まだ一つしか実現できそうにない,と.

WPは,小泉のガッツで勝利できた,と言います.では小泉後はどうなるのか? サッチャー後の保守党や,ブレア後の労働党が先例です.アメリカから見て,日本が軍事的にも貢献するのは,イラクがそうであるように,歓迎できます.しかし,中国との対立に巻き込まれるのは最悪です.

日本の改革には,長い目で見て,二つの基本的制約条件があります.一つは内外の戦後秩序.もう一つは高齢化・人口減少です.もし前者に縛られたままであれば,後者の制約条件は日本を長期の衰退へと引きずり込むでしょう.小泉氏の残したものが,政治的スタイルだけで,改革の中身もスピードも同じだった,ということがないように.

郵政民営化だけに焦点を絞る,小泉氏の政治的なトリックで勝利した,という評価にCLEMONS and OROSは反対します.むしろ国民は,小泉氏が示した「大胆さ,ビジョン,決断力」に支持したのです.そして,同じだけのものを民主党に求めています.


FT September 11 2005

Keep United Nations reform on track

By David Hannay

BG September 11, 2005

Reforming the UN

By Newt Gingrich

WP Monday, September 12, 2005

Bush's Missed U.N. Opportunity

By Sebastian Mallaby

(コメント) 国連は多角主義に欠かせません.しかし,統治構造は複雑で,目標も成果・評価も曖昧です.

アメリカはどう考えているのでしょうか? アメリカは国連の拡大を望みません(組織・予算・権限を限定する).アメリカは,もっと正直で(汚職や制度の硬直化を避けて),もっと効率的な(アメリカの利益と自由な世界を守る点で)国連を支持します.そのような国連なら,イスラム原理主義や国際テロリズムと対決するアメリカにとっても利益がある,とNewt Gingrichは考えます

なぜ限定すべきか,と言えば,国連は民主的な国家の代表によって民主的に運営されているわけではないからです.主権国家が互いに戦争を回避する制度として利用することを期待しただけです.国連の組織は「世界市民」に対する責任と,彼らから民主的に付託された権限を持たないのです.

人権委員会でリビアが議長国になれたように,国連組織は機能していません.

Sebastian Mallabyは,ブッシュ政権に批判的です.なぜなら,国連か強化されるべきだからです.第一に,グローバリゼーションが進めば,国際機関の必要性は強まります.第二に,アメリカが世界通貨や国債航路の安全を確保しているとしても,将来,国際公共財をアメリカ以外の国も参加して供給するメカニズムが必要です.第三に,アメリカにとっても,イラク占領に見られるように,効果的な国際機関との協力があると有利です.

しかし,ブッシュ政権は国連改革を支援しませんでした.改革の失敗は,アメリカにとっても大きな損失です.

NYT September 13, 2005

Necessary Measures

By AMIR ATTARAN

(コメント) 人類は,今も,貧困を解決できず,マラリアを撲滅できない.科学者たちの提言は無視されている.ミレニアム目標は達成されないでしょう.国連総会では,加盟諸国が政治的に受け入れることのできる,明確な改革指標を議論するべきです.たとえば,世界の最も貧しい地域に人口観測所を設けて,出生,死亡,病気,社会サービスを記録するのです.

NYT September 13, 2005

The Good Fight

By VANCE SERCHUK

FT September 13 2005

The United Nations’ missed opportunity

By Nancy Soderberg

IHT WEDNESDAY, SEPTEMBER 14, 2005

Why the millennium goals won't work

By Bunker Roy

IHT WEDNESDAY, SEPTEMBER 14, 2005

Why the millennium goals matter

By Kemal Dervis

The Asian Age, 15 September 2005

Kofi Annan痴 swan song

- By S. Nihal Singh

FT September 15 2005

Summit fails to grasp historic opportunity

(コメント) ブッシュ政権が安保理改革に最初から蓋をしてしまったことで,権力の分散を嫌う保守派は喜び,国際協調を重視するリベラル派は非難している.どちらも正しくない,とAEIのVANCE SERCHUKは考えます.むしろ,安保理改革は容易に国際権力政治の焦点と化し,中国は拒否権を示唆しています.4カ国提案と中国をぶつけてアメリカが利益を得るだろう,というメッテルニヒ的な国際外交を回避するほう賢明だ,と判断したわけです.

アナン事務総長が求めた21世紀の国連は誕生しませんでした.それに関して,さまざまに議論されています.ミレニアム開発目標(MDG)の多くも,実際には,机上の空論です.

1978年,インドのTiloniaにおいて,当時の世銀総裁,ロバート・マクナマラと,フォード財団会長のマクジョージ・バンディは,裸足の大学(the Barefoot College)で一晩泊まったときのことです.マクナマラは,一日1ドル以下で生活している家族の男性に尋ねました.『生活に何を望むか?』 すると彼は笑って,即座に答えました.『一日2回のまともな食事を.』


The post-9/11 world BG September 11, 2005

9/11 and 8/29 LAT September 11, 2005

Revising 9/11 NYT September 11, 2005

The war of unintended consequences The Guardian Monday September 12, 2005

(コメント) 9・11は,もちろん,アメリカにとって今も重要です.しかし,世界にとってはどうでしょうか? アメリカ国内でも,グランド・ゼロで反ブッシュ政権の声をあげる人がいます.世界は,9・11において人々が考えたような姿にはなりませんでした.

カタリーナが上陸した8・29以後に迎えた9・11は,国民すべてが政府を支持する世界ではもうないことを示しました.

WP Sunday, September 11, 2005

9/11 -- and Counting

By Michael Hirsh

(コメント) Michael Hirshは,ブッシュ政権の失敗を,計画性の無さに見ます.1941年12月に炉弁談話を示したF・D・ルーズベルトの言葉を,2001年9月にブッシュ大統領は繰り返しました.しかし,4年後の結果がこれほど大きく違うのはなぜでしょうか? ルーズベルトが立てたさまざまな計画は,戦争や産業,戦後秩序や国際関係について,周到に用意されたものでした.ブッシュ政権にはありません.

「新しい戦争だ.」と言い,明確な敵の姿もないし,勝利も無いだろう,と言います.何年も続く,と.しかし,封じ込め政策を実現したアイゼンハワーにも周到なイデオロギーと計画がありました.ライスとブッシュにはありません.


FT September 12 2005

Guy de Jonquieres: Why Seoul is in a lather

By Guy de Jonquieres

(コメント) 韓国製品は世界でブームになっています.しかし,韓国民の気持ちは世界に向かわず,厳重に武装した独裁国家との和解を信じて,世界資本主義をともに非難しています.1997年の「IMF危機」によって市場開放を強いられ,銀行や企業を買収されたという恨みが残っています.メディアはヘッジ・ファンドを非難し,政府もこれに同調します.金大中が行った厳しい改革を経て,韓国経済は再生され,高い評価を得ました.しかし韓国政府は,(外国)資本家のいない資本主義を夢想します.世界資本から見放されるまで?


FT September 13 2005

Martin Wolf: Europeans can look to each other

By Martin Wolf

FT September 14 2005

China’s rise need not bring conflict

By Martin Wolf

(コメント) ヨーロッパと中国に関するMartin Wolfの論説です.

ヨーロッパについて,ベルギーの経済学者Andre Sapirに従い,4つのモデルがあると主張します.@ノルディック・モデル(デンマーク,フィンランド,スウェーデン,オランダ):社会保障への大きな政府支出,労働市場は規制緩和され,「積極的」労働市場政策,強力な労働組合が賃金の平等性を維持.

Aアングロ・サクソン・モデル(アイルランド,イギリス):社会保障は最後の手段.労働人口への財政支援あり.労働組合は弱い.労働市場の規制も少ない.

Bラインラント・モデル(オーストリア,ベルギー,フランス,ドイツ,ルクセンブルグ):失業保険と年金制度.雇用を守り(そして雇用を減らす)厳しい労働者保護.組合も強く,集団交渉の結果を労働者に拡大できる.

C地中海モデル(ギリシャ,イタリア,ポルトガル,スペイン):高齢者への年金に財政負担が集中する.雇用の保護と(若年雇用を促すための)早期退職を支援.

ノルディック・モデルは雇用をもたらし,貧困を緩和している.他方,地中海モデルは成長できないから,持続可能でない.アングロ・サクソン・モデルは雇用をもたらすが貧困も増え,ラインラント・モデルはその逆である.

こうした違いを認めた上で,EUに何が出来るか? 異なるモデルを単に混ぜ合わせても,両者のメリットは活かせない.・・・Andre Sapir,もしくはWolfの結論は,ノルディック・モデルか,あるいは,アングロ・サクソン・モデルになるしかない,というわけです.ノルディック・モデルは高い教育投資に基づいています.そして,効率の税負担を受け入れた小さな人口の国家です.従って,地中海モデルの国が採用するのは難しいでしょう.そして,アングロ・サクソン・モデルの不平等拡大も嫌っています

中国については,大国間の平和と繁栄を予測するアダム・スミスとイマニュエル・カントの議論を援用します.中国はグローバリゼーションにおいて市場を取り込み,平和にも従う,と.中国自身の「和平演変」です.

自由な市場は帝国を不要にして,シンガポールのような小国にも富をもたらします.重要なことは,人的・物的資本形成と,貿易・直接投資に開放することだ,とWolfは主張します.

中国についても,裕福な市民が増えれば,彼らは市場が断絶されたり混乱したりすることを嫌うでしょう.そして民主化されれば,戦争する前に,戦争の負担を考えるはずです.近隣諸国とのパワー・ゲームを強めたり,台湾に侵攻してアメリカと争うより,エネルギー分野でも市場を開放して平和的に繁栄を分かち合うほうが良い,と気付くのではないか,と.


Sept. 13 (Bloomberg)

China Is Under Pressure to Revalue Yuan Again

Andy Mukherjee

(コメント) 韓国で開かれたAPECを舞台に,プラザ=ルーブル体制のような,政策の相互監視が合意され,その一部として,中国政府は一層の為替レートの弾力化,人民元切上げを容認したかもしれません.ドルが主要通貨に対して減価する中で,人民元が人為的に為替レートを固定されれば,日増しに中国は通貨操作やダンピングの非難を浴びるでしょう.


FT September 13 2005

IMF must redefine to stay relevant

By Rodrigo De Rato

(コメント) 国連改革は失敗に終わりましたが,IMF改革は確実に組織を動かしている,という印象です.IMF(の権力)は多分,アメリカ=資本市場=国際通貨システムの守護神.この三角形の中間に位置するのです.


FT September 13 2005

US looks for means to ease farmers’ worries

By Alan Beattie

(コメント) 国際通貨システムがアメリカの決定なしに変わらないように,WTOの貿易自由化交渉もアメリカ農業分野の決定なしには進まない,という記事です.

ハリケーンの被害と言うことで,南部の農業地帯は短期的な保護策を得やすくなりました.アメリカ農業は世界最高の生産性を示し,自由化の受益者になるはずです.しかし,同時に,政治的な補助金を残そうとして,EUとの非難合戦を止めません.


FT September 14 2005

Quentin Peel: Radical reform alarms Germans

By Quentin Peel

FT September 14 2005

Anything but grand

FT September 15 2005

Germany prepares to vote

By Bertrand Benoit in Berlin

IHT THURSDAY, SEPTEMBER 15, 2005

The German elections: Enough is enough, again

By Sven Hillenkamp

(コメント) ドイツの選挙も今までに無く関心を集めています.左派政党の誕生で,CDUが絶対多数を取れなくなり,SPDとの連立政権になるかもしれません.フラット・タックスなどの過激な改革は合意されないでしょう.

Bertrand Benoitの記事を読む必要があります.フォルクス・ワーゲンでさえ,高コストのドイツでは生産できない,と言って,賃金引下げや工場閉鎖,海外生産拠点の拡大を進めているのですから.ドイツの労働者たちは,何重にも脅かされ,怯え,絶望しています.たとえSPDの政府を支持したとしても,それが大きく変わることは無いのです.

選択は明白です.「もう十分に苦しい改革を行った.収穫のときだ.」と思えばシュレーダー.「SPDでは中途半端な改革しかできない.根本的な改革を.」と思えばメルケル.あるいは,Sven Hillenkampが指摘するように,これは失望の競争でしょうか?


FT September 14 2005

The nuclear option

JT Wednesday, September 14, 2005

Major hurdle remains in six-party talks

By RALPH COSSA

BG September 14, 2005

Time to talk to Al Qaeda?

MOHAMMAD-MAHMOUD OULD MOHAMEDOU

(コメント) 北朝鮮とも,アル・カイダとも,対話による解決を求めるときでしょうか? 軍事力の行使は,いずれにしても,望めない選択肢です.

アル・カイダでさえ,暴力の行使を正当化しなければ,そしてテロへの関与を公式に放棄すれば,そのイデオロギーを認めても,なお交渉の相手にできるはずです.

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The Economist, August 26th 2005

America and China: The dragon comes calling

Japan’s election: The woodpecker and the lumberjack

Beslan one year on: Parental grief

(コメント) The Economistは,中国が経済だけでなく,政治システムについても,成長によって変わることを期待します.また,一人っ子政策で急速に高齢化する中国は.無限に成長するわけではなく,それゆえ,他の工業諸国は調整を強いられることに見通しをつけるでしょう.かつて,1991年に出た『やがて日本との戦争が始まる』はベストセラーになりました.実際はどうだったか? 中国脅威論も過ぎ去るだろう,と.

ベスランでは,多くの子供たちが人質となって,チェチェンのテロリストに殺されました.衝撃的な映像を覚えています.しかし,その後,プーチン大統領はこれを利用して,イスラム原理主義の国際テロと戦う姿勢を示してブッシュ氏と共闘を組みました.しかし記事は,チェチェンのテロはロシアの治安部隊がもたらした殺戮と混沌の当然の帰結である,と語っています.