IPEの果樹園2005

今週のReview

9/12-9/17

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 カタリーナ: 天災は,神が与えたブッシュ氏の試練? アメリカ政治のスウィングが始まる.

2 中国の自民党: 政府はもちろん「民意」を反映しなければなりません.日本でも,中国でも.

3 ブラ戦争: 繊維製品の貿易摩擦が繰り返す中で生まれる,「世界政治の構造化」?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


The Guardian Thursday September 1, 2005

Europe for revolution

Timothy Garton Ash in Gdansk

IHT SATURDAY, SEPTEMBER 3, 2005

How democratic is the new left?

Axel Gelfert

(コメント) 小泉・自民党の大勝を聞いた上で読み直せば,ヨーロッパの政治にも改革の保守化(保守的革命?)という流れがあるように思います.

Timothy Garton Ashは,グダニスクから連帯が始めたヨーロッパ革命の「歴史」を想起します.ここから革命は始まった.「労働者の国家」をかたる者たちに対する「労働者の革命」だ.それはヨーロッパ中に広まった.共産主義を終わらせ,冷戦を終わらせ,東西分断を終わらせた.

確かにポーランドはモデルを示したのです.ジャコバン型の暴力革命でもなく,ブッシュ式の体制転換でもない.アジアにも至るでしょうか? あるいは,「国民の国家」をかたる者たちに対する「国民の革命」がやって来る?

Axel Gelfertは異なった方向を見つめます.左派のラフォンテーヌOskar Lafontaineと右派のシュレーダーGerhard Schroderは,後者がドイツ首相となり,前者は蔵相となったものの辞任し,ついに,社会民主党から離党して,急東ドイツの共産党,現在の民主社会党に参加しました.

ドイツ政治は岐路に立っていますが,それは日本を鏡に映したような世界です.ドイツでは政権を握っているのが社民党で,キリスト教民主同盟(まるで自民党・公明党連立政権です)が次の政権を狙って有利な情勢です.シュレーダーは市場改革のために左派のラフォンテーヌを切りました.しかし,その後も改革の歩みは遅く,失業者を減らすという公約も守れずに,選挙の時期を早めて失敗しました.他方,左派の民主社会党は拡大する勢いです.

ラフォンテーヌの目指す政治運動の統合化(急進左派+反グローバリゼーション+旧共産党)を,Axel Gelfertは「新左翼」(あるいは新・新左翼)と呼びますが,歓迎するより不安を覚えます.彼らのレトリックは過激化し,まるで1933年に崩壊したワイマール共和国のようだ,と.

社民党SPDは,外向きの,国際派政治家,たとえばウィリー・ブラントのような,指導者により,「普通の人」の政党となった.他方,キリスト教民主同盟CDUは,しばしば特権者の利益,極右の歴史見直し論(ナチス復活)と交わった.ラフォンテーヌが極右的なレトリックを加えて左派を形成したことは,SPDとCDUを互いに憎しみ合う中道連立政権に向かわせるかもしれません.それが崩壊するとき,悪夢を招かないでしょうか? 何よりも,この高い失業率が続けば・・・

FT September 5 2005

Why Europe needs a Merkel victory

LAT September 10, 2005

Auf Wiedersehen, we hope

(コメント) FTはメルケルAngela Merkel CDU党首が政権に就くことで,ドイツが変わり(自由主義,労働市場改革),EUが変わり(リスボン宣言,財政安定化のルール),世界が変わる(イラク,反米主義から親米路線へ),と期待します.小泉氏が郵政民営化ですべてが変わると訴えたように.

LATも,メルケルへの不安もありますが,シュレーダーの保護主義,反米主義に終わりを告げることを望んでいます.


Sept. 2 (Bloomberg)

Oil Price Rise Leads to C-Word Use in Asia

William Pesek Jr.

IHT FRIDAY, SEPTEMBER 9, 2005

Asia is in better shape than they say

Philip Bowring

(コメント) William Pesek Jr.は,石油価格の高騰がアジアの成長を侵食していくことを懸念します.特にインドネシアでは,アジア通貨危機でスハルト体制が崩壊した悪夢を,既に人々は予見しています.圧倒的に貧しい国民に安価なガソリンを保証するための補助金で,財政はパンクし,通貨が弱まっています.そんなバカな,天然ガスなど,エネルギーの輸出国なのに!

Philip Bowring は逆に,問題が誇張されている,と考えます.財政赤字はGDPに比べて小さく,石油価格上昇による消費の落ち込みを補えるでしょう.アジア諸国は貿易黒字によって外貨準備を貯えてきました.ですから,高価格が一時的であれば,問題は起きないのです.


NYT September 2, 2005

Conservation? It's Such a 70's Idea

市場が示すように,少なくともこの数ヶ月,アメリカで石油製品が不足するだろう.政府は環境規制を緩和して石油開発を許したり,戦略備蓄を放出する対応を取ったりした.しかし,精製施設が足りないこととは関係ない.

もちろん,市場は希少な資源を配分するだろう.ガソリンや暖房用の石油が足りないのであれば,その需要が減るまで価格が上がる.精製業者は儲かり,ガソリン・スタンドも儲かるかもしれない.しかし,消費者は儲ける者を非難する.

しかし,エネルギー需要の性質から,価格変化に対応するのは時間がかかる.短期では,人は自動車に乗らないわけに行かない.もっと長期では,燃費の良い車に乗り換え,職場の近くに住む.しかし,短期の解決には,短期の問題が必要だ.

石油はハリケーンが来るずっと前から不足していた.中国の需要が高まっていたし,アメリカの石油会社は精製施設に十分な投資をしなかった.カタリーナは問題を危機に強めただけだ.

石油の先物はわずか4-5%しか上がっていない.しかし,ガソリン,暖房用の石油,天然ガスの先物価格は上昇した.

当分の間は,ハリケーンの事後処理で景気が上向くだろう.ニュー・オリンズの回収,再建,破壊され,汚されたものを買い換えることに対する支出が利益をもたらす.GDPの計算はそれらを区別しない.

むしろ繁栄する者だっている.石油サービス企業として,ハリバートン社の株価は,2002年初めに8.60ドルで売られていた.石油経済は不況だったから.昨日,その株価は63.44ドルに達した.1997年以来の最高値だ.

ブッシュ大統領は水曜日の演説で節約には何も触れなかった.昨日まで,彼は節約を一般的な意味で話題にしただけだ.

多分,政治家たちは,ジミー・カーターが二つ目の石油危機で,人々にヒーターの温度調節を下げるよう,セーターを着て騙した記憶にさいなまれているのだ.速度制限を時速55マイルに下げたのは,アメリカ人ドライバーの基本的な権利を侵したように見えた.石油価格が上がるからスピードを落とせ? おいおい,いいかげんな冗談は止めろ,と.

カタリーナが経済を損なうもう一つの効果がある.ニュー・オリンズ港がすぐに回復できなければ,中西部の多くの穀物は新しい市場を見つけるのに苦労する.鉄道の能力は限られるし,他の港にも運べない.

しかし,即座に反応するのはエネルギー価格だ.問題は,それが余りに速く上昇して他の物への需要まで引き下げ,再建のための支出がもたらす利益を損なってしまわないか,ということだ.

慎重な政府なら,石油需要を抑えるだろう.ドライバーに速度を落とさせ,警察が取り締まりをきつくする.部屋の温度を冬の間は下げ,価格上昇で応じる部分を少なくしたいだろう.

FT September 6 2005

Martin Wolf: How oil adds to the economy’s fragility

By Martin Wolf

(コメント) なぜ石油価格が上がると世界不況になる心配をするのか?  Martin Wolfは三つのメカニズムを指摘します.1.7000億ドル(OPECだけで4000億ドル)が石油輸入国から輸出国に移転される.その分が支出をへらす効果を持つ.70年代の危機は80年代の債務危機になったが,今回はアメリカに赤字を融資する無限の力(ほとんど)があるし,中国の需要増加があるから,不況にはならない.2.かつてはインフレを引き起こして金融引き締めを強いられた.今は,インフレが起きていないから,政策によって対応できる.3.かつては利潤を減らし,投資が減った.今は企業利潤や投資,生産性上昇に影響していない.

しかし,リスクもあります.インフレに転化し,債務に依存した支出を続けることもできないかもしれません.それは石油価格に限らず,アメリカや世界経済の問題です.


Mary L. Dudziak Hurricane damage BG September 2, 2005

NYT September 2, 2005 The Man-Made Disaster

PAUL KRUGMAN NYT September 2, 2005 A Can't-Do Government

Tested by nature - and found wanting FT September 3 2005

(コメント) Biloxi やNew Orleansで洪水が町を飲み込んだとき,ブッシュ大統領はサン・ディエゴで演説を放送していました.それは9・11を称え,硫黄島の戦いに参加したユダヤ教のラビの言葉を引用して,死が生となり,再生される世界を称えるものでした.

アメリカ人は階級について語ることを嫌いますが,災害において階級と生死は結びつきました.そして生き残った中産階級は,前にも増して,現実を生き残ることが難しくなったでしょう.

洪水の町に「発見」されるのは,黒人,貧困,略奪,兵士,イラク,です.救済に当たるべき予備役の兵士たちはイラクにいます.

「誰も堤防を越えてあんなに水が来るとは予想していなかった」とブッシュ氏は言う.この政府は無能だ,国民が死んでも,そんな言い訳をしている,とPAUL KRUGMANは国民に訴えます.

Twice victimized BG September 3, 2005

Blaming Bush The Guardian Saturday September 3, 2005

America humbled LAT September 4, 2005

Joel Kotkin A NEW New Orleans LAT September 4, 2005

FRANK RICH Falluja Floods the Superdome NYT September 4, 2005

DAVID BROOKS The Bursting Point NYT September 4, 2005

Disaster Economics WP Sunday, September 4, 2005

(コメント) まるで災害パニック映画のように,多くの人々が非難するために大騒ぎするのをTVが中継した後で,それまで誰も見ようとしなかった貧しい被災者たちが這い出してきた.市長は,全国レベルの2倍に達する貧困層が非難できないかもしれないと知っていた.しかし,教会や慈善団体に手助けを呼びかけただけで,何もしなかった.

「この国はジョンソン大統領が唱えた『貧困との戦い』に決して完全には勝てなかった.今や,その戦いを再開すべきだ.最も貧しいカタリーナの犠牲者たちは,経済の階段を登る手助けも受けるだろう.教育,職場,低利の住宅融資だ.崩れ落ちた若者たちには,犯罪,麻薬,妊娠ではない,もっと他の道を見出せるように.」

ブッシュ氏への非難は殺到する.中でも,イラク戦争にはあれほど予算を惜しまないのに,なぜ堤防を増築しなかったのか,と.そして,過去よりも今の対応のまずさです.カタリーナで避難しなければならない「難民」の数は,皮肉なことに,スーダン政府を非人道的と非難してきた理由,ダルフールの難民にも匹敵します.第三世界の天災には支援を送りながら,国内の惨状には打つ手が無いのか? 救援物資の備蓄や輸送はどうなっているのか?

ブッシュ氏は「新しいニュー・オリンズ」への夢を賞賛したが,誰が,何のために再建するのか? 再生された都市が,観光業者を喜ばせる,過去の記憶のキメラ(多頭の怪物),フランス系移民のディズニーランドになってはいけない.彼らこそがカタリーナの犠牲者を増やした.

都市とは何か? 都市とは「都市の文化」=「アーバニズム」である,と多くの社会学者は考えます.Joel Kotkinは,さまざまな都市を築いたアーバニズムを比較します.

NYT September 4, 2005

Falluja Floods the Superdome

FRANK RICH

カタリーナはアンチ9・11だった.

9月11日,ジュリアーニ市長は支配を確立していた.政府の対応は迅速で,決定的であった.裕福な者も,貧しい者も,同じ犠牲者だった.アメリカ国民は衝撃を受け,団結し,強くなった.人々が制度に向ける信頼は強まった.

先週,ニュー・オリンズでは逆に,誰も指揮を取らなかった.責任者は混乱し,行動は効果的でなかった.貧しい者が見捨てられる一方で,裕福な者は逃げてしまった.指導者はきりきり舞いし,略奪が横行した.自国民を殺す遊撃兵がすすり泣き,国民は恥じた.

貧しい者を置き去りにするのは,戦場で負傷者を見捨てるのと同じだ.公的な制度に対する信頼が地に落ちても当然だろう.

先週の国民的屈辱は動揺した制度への信頼を喪失させ,国民の自意識を変化させる累積的な効果を呼ぶだろう.

WMDの探索,エンロンの崩壊,アブ・グレイブ収容所,など.ホッブス時代の再来だ.文明の薄皮ははがれてしまった.

その結果,いくらか1970年代に似ている,と感じ始めている.それは,制度や未来に対する信頼を失った時代だ.「西側のドブネズミども,都市部のナンキンムシ / なんてひどい状態だ! この町は汚れきっている.俺は粉々にされた」と,ミック・ジャガーが1978年に歌った.

レーガン的な保守主義は1970年代の悲観主義と弱さに対する反動だった.今度は,多分,革新派の台頭が生じるだろう.

Michael Lind Tragic costs of Bush’s Iraq obsession FT September 5 2005

Edward Alden Katrina leaves no external enemy to blame FT September 5 2005

James Carroll Katrina's truths BG September 5, 2005

Eugene Robinson Third World Scenes WP Monday, September 5, 2005

Guy Dinmore Military occupation turns New Orleans into war zone FT September 6 2005

Brad Delong Katrina reveals the presidential flaws FT September 6 2005

NICHOLAS D. KRISTOF The Larger Shame NYT September 6, 2005

SIMON ROMERO Houston Finds Business Boon After Katrina NYT September 6, 2005

(コメント) サミュエル・ハンチントンは「リップマン・ギャップ」と呼び,ポール・ケネディーは「帝国の過剰拡大」と呼んだ.海外の問題に財源を過剰に振り向け,国内の社会問題を放置する.なぜなら,政治的な意味で,重要ではないから.これがアメリカだ.

イラク戦争の支持者たちは,中東における民主化のドミノを主張した.しかし,これからアメリカ国内でドミノが生じるだろう.

豊かな者に課税し,貧しい者を助ける.そんな公共の社会はどこに行ったのか?

誰もいなくなったスーパー・ドームに来れば,そこがアメリカではなく,ハイチやアンゴラであると分かっただろう.空港へ行けば,避難する何千もの人々が待っている.数人の白人がいる.後は膨大な数の黒人だ.第三世界のように.

あるいは,秩序を回復するために展開し,市民たちにも銃口を向ける軍隊.個々は戒厳令の都市? 軍事占領されたイラクか?

NICHOLAS D. KRISTOFは,同じ光景を1991年のバングラデシュでも見た,と言います.そこには13万人の難民がいたが,ブッシュと違って,政府は何とかして彼らを助けようとしていた,と.1995年に神戸でも見た.5500人が死亡した.しかし,ブッシュのアメリカと違って,誰も略奪に走らなかった.日本のシステムは再分配を組織し,個人を社会に組み込んでいるから.

毎日,77人の赤ん坊が死ぬ.そのうち50人が死ぬのは,貧しいからだ.こんなアメリカという国を,KRISTOFは恥じる.

Philip Bowring Katrina's world IHT WEDNESDAY, SEPTEMBER 7, 2005

Jonathan Freedland The levee will break The Guardian Wednesday September 7, 2005

Rosa Brooks Our homegrown Third World LAT September 7, 2005

It's Not a 'Blame Game' NYT September 7, 2005

Anne Applebaum Planning for Next Time WP Wednesday, September 7, 2005

Jim Hoagland Katrina's Global Lessons WP Wednesday, September 7, 2005

Timothy Garton Ash It always lies below The Guardian Thursday September 8, 2005

DAVID BROOKS Katrina's Silver Lining NYT September 8, 2005

(コメント) カタリーナが引き起こした混乱は,世界にとってどんな意味があるのか? 市場システムは,特に発達した金融システムは,このような自然災害に強いことが分かっています.しかし,心理的な影響は重要です.たとえば,阪神大震災がバブル破綻後の日本経済の回復を遅らせたように.

アメリカの住宅市場や石油価格は影響を受けるか? アメリカの金利引き上げは少し遅れるかも知れません.しかし,アメリカ経済は上昇し続けるなら,大きな問題はないでしょう.消費者心理が影響を受ければ重大です.たとえば,アメリカ市場に輸出しているアジア経済にとっても.

アメリカが消費を減らし,対外不均衡を減らすのは,長期的に好ましいことです.アジア経済がアメリカ市場に頼りすぎていることが問題です.さらに,アメリカが石油依存を減らし,二酸化炭素の排出規制に積極的になることも正しいでしょう.

ブッシュ大統領の指導力が方針転換され,アメリカ政府が傲慢な単独行動を控えるかもしれません.しかし,アメリカが国内問題に資源を振り替えると,国際的な関与は低下します.そのことは他の諸国に一定の負担や不安定化を意味するかもしれません.・・・カタリーナの後では.

主要なTV局やメディアがアメリカ国内に突如として現れた「第三世界」を衝撃的に扱っています.人々は通りを「遊牧民」のようにさまよい,町には「不健康な汚水」がたまり,悪臭が漂う.

「何が正しく,何が間違っていたか,われわれは知らねばならない」と,大統領は語りました.そんなバカな! アブ・グレイブでもやったことだ.報告書を作って,おしまい.

Timothy Garton Ashは,文明化と,非文明化について,考えています.どのような条件で,人々は助け合えず,互いにとっての危険となるのか? 世界中で起きた問題です.

あるいは,災害においてこそ助け合い,再建において平等な社会を目指す希望とチャンスがあるのか?

LAT September 6, 2005

The real costs of a culture of greed

Robert Scheer:

ニュー・オリンズの洪水地域を「レイク・ジョージ」として,ブッシュ大統領の失政記念湖にするEPA職員たち.

豊かな者はより豊かに,貧しい者はさらに貧しくなる,とニュー・オリンズが生んだポピュリスト政治家,ヒューイ・ロングは断言しました.

ブッシュ政権は,政治献金をするか,ロビイストを雇えるほど裕福な個人や企業にしか関心がない.「上げ潮はすべての船を持ち上げる.」とは言っても,こうして貧しい者は水に漂うばかりです.

NYT September 7, 2005

Osama and Katrina

THOMAS L. FRIEDMAN

9・11の翌日,私はエルサレムにいて,イスラエル放送のインタビューを受けた.「ブッシュ政権はこの攻撃に反撃すると思いますか?」と,レポーターは尋ねた.私は答えたよ.「もちろんだ.私があの連中について確実に言えるのは,引き金の引き方は知っている,ということだ.」

ブッシュとチェイニーは反撃するガッツを持った奴らであり,オサマは良い敵を選んだ.結局,ブッシュ氏は,開戦の権限を得たし,小切手帳も得た.それは彼が一度も選挙で国民に問うことの無かった9・11の報酬だ.不幸にして,彼はこの権限をテロリストと戦うだけでなく,あらゆる保守派のプログラムにも適用した.減税,遺伝子操作,環境問題,外交関係・・・ 9・11には知らなかったことが,9・11後の世界を支配した.その意味で,9・11は政治と社会をぶち壊した.

まあ,9・11がブッシュ政権の片側のブックエンドだとすれば,カタリーナはその反対側だ.9・11はブッシュ大統領の追い風であり,カタリーナは向かい風だ.ブッシュ=チェイニーがオサマにぴったりな敵役であったとすれば,カタリーナにはまさに似合わない.ここでは,すべての腐敗と失敗が国内にある.

大統領の好んだ表現とは,「それは政府の金じゃない.あなた方のお金だ.(減税するのは当然だ.)」 そして,「この経済に絶対する必要がないこととは,あなたのポケットから金を取って,政府を太らせることだ.」 多分,今なら,ブッシュ氏はこう言うのだろう.「これは政府のハリケーンじゃない.お前たちのハリケーンだ.(救援なんかしてやらないぞ.)」

ブッシュ政権は9・11以後も減税を続けた.雨は二度と降らない,と仮定したのだろう.政府は金を使うだけだ.しかし,誰でもいつか雨が降ることを知っている.カール・ローブはブッシュの時計しか見ないのだ.その後,誰かが始末するだろう,と.ところが,起きてしまった.

ニュー・オリンズの屋根が飛んだだけでなく,カタリーナはブッシュ政権の主張を全部吹き飛ばした.・・・減税できる.子供たちには立派な教育を.インドや中国と競争しても負けない.イラクの成功.アメリカのインフラは改善しつつある.破局にも備えている.中国政府からの借金に頼らない.・・・

オサマと戦うから無視され,歪められてきた多くのことが,カタリーナによって白日の下にさらされた.ブッシュ政権の哲学とは,9・11以後,こう言えば足りる.「今は戦争中だ.(反対派は口を慎め.) さあ,パーティーを楽しもう.(資産家の皆さん.)」

そして,パーティーが終わった.カタリーナの教訓を学ぶべきだ.そうすれば,カタリーナは町を破壊したがアメリカを救うことになる.もしブッシュの政治が今までどおりなら,カタリーナは町を破壊するとともに,大統領を破壊する.


WP Saturday, September 3, 2005

Preserving Iraq

WP Sunday, September 4, 2005

Why We Must Stay in Iraq

By Victor Davis Hanson

(コメント) イラクを分割しないでほしい,という願い.なぜアメリカ軍はイラクにとどまるべきか,という説得.選択肢.実現可能性.持続性.国際環境.コスト.望ましさの,さまざまな基準.


NYT September 3, 2005

The Bra Wars

NYT September 4, 2005

If You Can Make It Here ...

By LOUIS UCHITELLE

FT September 6 2005

Textiles scramble is a circus disguised as a crisis

By Joseph Francois and Dean Spinanger

(コメント) 中国製のブラジャーを輸入できないと,アメリカやヨーロッパの下着市場は崩壊するか? 再び,ブラジャーもアメリカやヨーロッパで作れば良い?

中国製の8000万着の衣類がヨーロッパの港に滞留しています.中国と同じほど安価な下着はもう作れない.それでも,雇用を守るためという理由で,貧しいものの消費に犠牲を強いることが必要なのか?

製造業はどこに行くのか? 1982年から2004年にかけて,世界の製品貿易に占める割合は,韓国が3.0%,中国は7.5%,増加した.他方,ドイツ3.5%,日本2.7%,しかしアメリカは1.1%で減少した.アメリカは20年前ほど製造業の中心ではないが,グローバリゼーションによって脱工業化が進んだ,というわけでもないのです.

20人以上を雇用する工場が,アメリカには,まだ10万社もある.いくつかは外国企業であるが,アメリカ人の中小企業も多い.彼らには経験やアメリカ工業に対する誇りがあります.解雇するよりも機械化を望みます.しかし,雇用は抑えます.政府が雇用増を望んでも難しいでしょう.

輸入割り当て制度は彼らの市場を確保しましたが,WTOにより難しくなっています.と国多国籍企業は中国に生産拠点を設けて,アメリカに逆輸入します.また,グローバリゼーションは原料や中間財をますます輸入に頼るという形で進んでいます.それは国内の中小企業に利益ももたらします.

そして,アメリカ製のオートバイを中国市場に売るハーレー社のように,外国市場を拡大します.また,標準化されない製品を国内で製造する工場に機械を販売するHaas社もあります.「アメリカで生産が成功する秘訣は,多くの選択肢を利用できることだ.もし何かのコストが高すぎると思えば,いつでも他のものが使える.もし賃金が高くなれば,機械化すればよい.」

多国籍企業が各地に進出して関連会社を誘致しても,それを望まない企業もあります.たとえメキシコや中国の労働コストが安くても,自分たちのアメリカ工場で効率を維持するためには,移りたくないからです.むしろ世界中から注文が来てほしい,と.

FTは,EUと中国との繊維貿易摩擦を扱っています.EUは繰り返し割当制度で紛糾してきました.日本や韓国もそうでした.だから,中国との摩擦も次第に分散していく,と楽観します.

確かに,保護の分野も対象国も分散します.しかしEUの保護主義は,政府が輸入を阻止して雇用を維持する代わりに,それを消費者に負担させるわけです.


FT September 4 2005

Wolfgang Munchau: A ‘club within a club’

By Wolfgang Munchau

FT September 7 2005

Euro area decisions lack synchronisation

By Lorenzo Bini Smaghi

(コメント) Olsenの「集合行為問題」によってユーロ圏の将来を考えます.Mancur Olsenは指摘しました.1.集団のメンバーは,通常,集団全体の利益のために行動しない.2.集団は,それが社会の大部分を占めていない限り,社会の利益のためには行動しない.

もしユーロ圏が,それぞれ主権を保持した国家のグループでしかないなら,Olsenはその崩壊を予想するでしょう.Wolfgang Munchauは,ユーロ圏内の統一した意思決定を制度化するように求めています.税制(タックス・ベース)の統一,共通の改革方針,EU国境を統一するSchengen合意と国境警備隊・諜報網・移民政策,などです.しかしMunchauは,EUの完全な政治統合も求めません.そうなれば,また,集合行為問題が起きる,と.

Lorenzo Bini Smaghiは,ECBに匹敵する,EU内財政を協調する会議を考えます.たとえ一気に統一できなくても,@欧州委員会で統一したマクロ・モデルにより予算を示す.AEUで合意したルールやイニシアチブに合致するか,共同で検討する.B予算案の作成時期を一致させる.

EUのこうした試みと経験は,アジアの,そして世界中のモデルになるでしょう.


Sept. 5 (Bloomberg)

China's Dueling Risks -- Oil and Americans

William Pesek Jr.

IHT TUESDAY, SEPTEMBER 6, 2005

Diverging paths hurt U.S. and Europe

Bates Gill and Robin Niblett

FT September 7 2005

Mutual dependence

(コメント) 「グローバリゼーションの時代に起きた最初の石油ショックで,中国ほど脆弱な立場にある国はほとんどない」とWilliam Pesek Jr.は書きます.

中国が石油価格の高騰に弱いのは,アメリカの消費者がガソリン価格の上昇で打撃を受けるからです.Stephen Roachは,石油価格が消費を脅かす理由を三つ指摘します.1.かつてと違って,貯蓄がまったく無い.2.消費水準が過剰に煽られている.3.石油価格上昇が住宅価格を脅かす.

そしてアジアは,特に石油の利用効率が悪く,また,補助金によって価格上昇が需要を抑制する効果を取り除いてしまっているのです.

中国との貿易不均衡は,為替レートではなく,輸入増加によって解消したい,と中国政府は言います.EUもアメリカも,もちろん,中国への輸出を望むでしょう.しかし,先端秘術や兵器に関しては,アメリカがEUを牽制します.朝鮮半島や台湾に米軍がいるからです.石油(そして石油関連企業)に関しては競合します.

EUとアメリカ(もちろん,日本)は,中国に対する共通の姿勢を取るべきです.すなわち,中国を国際貿易・安全保障体制に参加させること,中国国内の社会・経済発展を支え,安定した開放的な,繁栄する経済を築くように求めることです.


FT September 7 2005

Hu at pains to keep China from peasants’ revolt

By Richard McGregor

(コメント) 中国政府は,巨大な自民党だな,と私は思いました.グローバリゼーションと急速な成長を遂げても,権力の維持には国民の3分の2,8億人の農民と都市商店主の満足と生活安定が決定的な力を持っているからです.

胡錦涛の強さは世界を知っていることではない.彼は「真の中国」を,つまり農村を知っているから強いのだ,と,上海生まれのニューヨークで教えるLi教授は語ります.

胡錦涛と温家宝は,以前の権力者と違って,農村や炭鉱,エイズの地域を何度も回って民衆の反応を調べました.中国の歴史を見れば,繁栄の数年は,民衆の不満と反抗,政治暴動で終わってきたからです.

多くの武力弾圧も行いましたが,この記事は中国政府が平和的なデモを広く容認し,直接の反対派以外には手厚い懐柔策と,さらには政治的意思決定への関与を受け入れ始めた,と指摘します.共産党の決定は概ね正しい方向を目指しているが,地方政府には無視するものがいる,と問題を指摘し,そのような場合,民衆の抗議を区別します.

独立した地方政府の弊害は,ブームにおいて成長率を嵩上げするために,政府が競って巨額のインフラ投資に頼ることです.職場を確保するために,この中国式成長モデルは,コストのかからない農地を潰し,汚染企業でも誘致します.さらに,過剰な生産設備は海外に輸出となってあふれ出し,資源(特に石油)需要を高めます.

こうした発展モデル自体に,民衆の不満は向かうでしょう.しかし,その声を代表する政治システムは発達していません.もっと消費を重視した,環境にやさしい,平等な分配を実現する,発展モデルが必要です.

胡錦涛政権はしたからの声を聞こうとしている,と北京大学の講師は指摘します.問題は,聞くべき声が余りにも多いことです.


FT September 7 2005

Quentin Peel: Hubris blocks UN reform

By Quentin Peel

WP Thursday, September 8, 2005

Reforming the U.N.

(コメント) 国連改革は進みません.ボルカーの調査報告書が指摘したように,国連スタッフも政治家たちも,政治目的と行政組織の効率が衝突するとき,国連は問題を避けようとします.目標を失った砂漠のキャラバン隊が延々と続くのです.

アナン事務総長はアメリカを国連改革にしっかり取り込むことで,改革を実現しようとしました.多くの目標はアメリカの利益になります.しかし,アメリカは交渉に関わることを嫌うのです.ボルトンがアメリカの国連代表として,世界中にニュー・オリンズを作るのでしょうか?

WPは,国連こそが機能しない点でニュー・オリンズだ,と考えます.それは「怠慢の文化」なのです.アナン氏は組織を掌握しておらず,職員たちは責任を取らず,失敗の説明はありません.それはもはや国連のDNAに組み込まれてしまい,アナン氏がいくら不要な職員や無能なスタッフを職場から取り除こうとしても阻止されてしまう,と.


FT September 7 2005

Wrong focus on China’s exchange rate

By Mohamed-El Erian

(コメント) 工業諸国が今後も安定した成長を遂げるには二つの条件が重要である,と主張します.1.アジアを取り込むこと.2.バブルを避けること.もちろん,これらは関係します.

中国の為替レートだけに短期的な関心が集まるのは間違っている,と言います.世界経済を包括的に見る視点と,協調を促す指導力が必要です.


William Pesek Jr., Three Reasons for Japanese Election Optimism, Sept. 7 (Bloomberg)

J Sean Curtin, Koizumi could yet rain on China's parade, Asia Times Online , Sep 8, 2005

Robert Dunn, A small proposal for an ageing Japan, FT September 8 2005

David Pilling, The enigma of Koizumi’s power, FT September 9 2005

David Pilling, Koizumi's postal reform gamble looks like paying off, FT September 9 2005

(コメント) 日本の政治分析は,さすがに,海外の英字紙にとって情報不足・理解不足なようです.小泉政治を歌舞伎に見立てるのは(ウォルフレン以来?),外国人にとって興味深いのかもしれませんが,表面的で,説得的ではないと思います.


FT September 8 2005

Martin Wolf: The case for a flat tax is overblown

By Martin Wolf

FT September 8 2005

Flatter is better when it comes to taxation

(コメント) 保守党が唱える単一税率に関する考察です.Martin Wolfは,考え方としてシンプルであり,魅力的だが,メリットが誇張されている,と言います.東欧などにおける「成功例」も慎重に評価するべきでしょう.


Sept. 9 (Bloomberg)

China's Rise. Blessing or Curse for Russia?

William Pesek Jr.

(コメント) 多くの国にとって,中国の成長はジレンマを伴います.それは雇用を損なわないか? 生活水準を下げないか? 不況や混乱が輸出されないか?

しかし,ロシアはそんな心配をしません.中国に石油を売ることで,ロシアの財政赤字や債務はなくなります.両国は貿易において補完的であり,競合する分野も少ないでしょう.要するに,ロシアは石油や武器を売るのです.

石油ブームはモスクワなどの都市周辺と産油地域に,まず,熱狂的な建設ラッシュを起こします.そして,それはさまざまな分野に波及します.ロシアの株式市場も活況です.政治家もビジネス界も,その関心をヨーロッパから東アジアに転換して成功しました.

問題は,中国が減速すること,ブームによって改革が妨げられることです.プーチン政権が市場や所有への関心を薄れさせたことで,石油の富は国内民間投資に向かいません.オイル・ダラーについて繰り返された質問です.ロシア政府はこの富を何に使うのか?

海外から投資を呼び込むために,デフォルトを経験したロシアで,安定化基金を用意しておくのは良い考えです.他方,政府はアジア投資と中露関係の緊密化をさらに模索するでしょう.たとえ,中露合同軍事演習にアメリカや日本が強い警戒感を抱くとしても.


The Guardian Friday September 9, 2005

The remaking of the left

Hilary Wainwright

The Asian Age, 10 September 2005

Europe's Political Parties Buffeted by Globalization

- By Jonathan Fenby

(コメント) ベルリンの壁が崩壊して以後,ヨーロッパの左翼には何があるのか? そして,グローバリゼーションが進む中で,ヨーロッパの政治党派には何が必要か?

ソ連崩壊後15年を経て,ヨーロッパでは左派に対する政治的指示が回復しつつある,と言います.しかし,政治文化,政治組織が,新しい要求に応えて再編できるかどうかは分かりません.

それは,ヨーロッパ全体で政治党派が両極化しつつあるだけかもしれません.

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The Economist, August 27th 2005

The oiloholics

Oil and the global economy: Counting the cost

(コメント) かつて,石油を含めて一次産品価格の高騰が世界の景気循環を形成してきました.暴落の前にはブームがあり,その減となったのは過度な金融緩和でした.アメリカと中国がやってしまったように.

市場はこの動きを矯正できなかったのです.株式市場も,債券市場も,アメリカや中国が膨張するのを支持しました.世界経済は不均衡を拡大し,過熱し続けています.それを解消するには貨幣を取り除くことですが,必ず不況を伴います.世界的な不況です.

もう一方でThe Economistは,調整を促すように市場を機能させるべきだ,と考えます.アジアにおける石油価格への統制や補助金を攻撃します.アメリカも世界最大の石油消費国であり,消費の抑制(燃費改善)に,もっと価格メカニズムを利用しなければなりません.


North America: The importance of being good neighbours

Mexico and the United States: Cross-border, cross-purposes

Iraq’s constitution: The peril of defeat and the danger of victory

Race in Malaysia: Failing to spread the wealth

German politics: Liberals in the wilderness

(コメント) 北米(カナダ・アメリカ・メキシコ),イラク,マレーシア,ドイツ.30年後に最も優れている国はどこか? そして,100年後は?

アメリカとカナダとメキシコは,以前に比べて,互いを疑い,嫌うようになりました.ブッシュ誌の外交政策の結果です.The Economistは,イラク侵攻が民主化と安定化を遂げるチャンスはある,と考えます.

マレーシアの自民族優先政策,ドイツの政治的な貴族先を失ったリベラル派,日本のポスト小泉改革,いずれも政治同盟の再編を必要とするようです.