IPEの果樹園2005

今週のReview

8/29-9/3

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 シーハン :息子を亡くした母親は大統領に会えるでしょうか? 戦争のコスト

2 グリーンスパン :アメリカの金融政策を決めた人物とその成果

3 小泉 :The Economistは,そして市場は,日本の選挙に何を見るか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


NYT August 18, 2005

Get Real

By GIDEON ROSE

(コメント) 首相公選制の問題点は,アメリカの大統領選挙で指摘されるいくつかの欠陥,政権が変わるたびに政策が大きく振れる,レイム・ダック,偏った候補者選択,ポピュリズムの誘惑,莫大な選挙資金を提供するビジネスや資産家との癒着,などです.

GIDEON ROSEは,第二期ブッシュ政権の姿勢が転換したことを指摘します.保守派のアイデアリストが多くの苦境を広めた次の局面には,必ず,冷徹なリアリストが現れて事態の収拾に努めます.ブッシュ政権は第一期でホワイト・ハウスを支配したイデオロギー的強硬派(ボルトン,ウォルフォヴィッツなど)を政権から遠ざけ,ペンタゴンは過剰に戦線を拡大して撤退を望む軍隊を抑えきれず,ライス女史の国務省を中心に,その政治的レトリックは変えずに,リアリスト的な秩序回復,要するに撤退と勢力均衡に転換しました.

「テロとの戦争」を掲げるブッシュ・ドクトリンの基本は,1.先制攻撃,2.体制転換,3.敵か味方か(同盟関係の再編),でした.再選キャンペーンは成功しました.しかし実際には,誇大妄想的なアイデアリストの失敗を繰り返すだけでした.GIDEON ROSEは,リアリズムへの転換をアメリカ外交政策の常習的な「二日酔い」と回復策,「単調な(政治)サイクル」の一つと見ています.

たとえば1952年まで,トルーマン政権は地球を半周する土地までも軍事介入に及びましたが,アイゼンハワー政権は損失を食い止め,予算の均衡を図り,朝鮮戦争を終結させました.彼のリアリズムは政策として機能しましたが,国民が喜ぶようなレトリックやイデオロギーに乏しく,副大統領のリチャード・ニクソンは1960年に敗北します.

その後,ジョン・F・ケネディー政権と,続くリンドン・ジョンソン政権は,理想のための代価を惜しまず,その結果,再び歯止めない戦争と財政赤字にさ迷います.こうしてニクソンとキッシンジャーの政治には冷徹なリアリズムの計算が要請されました.アメリカの資源と軍事的関与を世界の現実に合わせて均衡させるため,ベトナム戦争を終結し,ソ連と新しい関係を築き,中国とも和解します.

彼らの政治が示す冷血と不道徳(つまり,リアリズム)は,アメリカの原則や価値を踏みにじっている,と非難されました.その後を引き継いだのは左派の理想主義者,ジミー・カーターと,右派の理想主義者,ロナルド・レーガンです.二人とも外交政策に道徳判断を持ち込み,ニクソン政権以上の失敗を残しました(レーガンはゴルバチョフの選択と冷戦終結に救われただけです).

その後も循環は続きました.ジョージ・H・W・ブッシュ(父)とベント・スコークロフトは,冷戦終結,東西ドイツ再統合,ソビエト連邦解体を平和裏に行い,クウェート占領を阻止する湾岸戦争にも勝利しました.しかし,結局は再選を果たせず,左派のクリントンと右派のブッシュ(息子)という理想主義者の政権に交代します.そして,外交政策におけるモラリズムの代償がどれほど深刻なものか,再び示したわけです.

ブッシュ政権Uはこの循環を学びました.たとえローマ帝国以来の突出した軍事的優位を持つとしても,自分たちの想うがまま,理想の世界を実現できる,と唱えることは間違いです.国際政治の現実にあわせた不本意な選択や好ましくない妥協が避けられません.

ブッシュ政権は今も,アメリカのパワー(軍事力)を信じ,自由で民主的な資本主義を世界に拡大する価値を信じています.しかし,物理的に占領するのではなく,その主張の正当性を広め,イデオロギーのリトマス試験紙で軍事介入するのではなく,その利益と費用を計算するようになるでしょう.意図よりも結果が重視されるのです.

ブッシュ政権Uは新しい戦争を望まず,イラクがたとえ自由で民主的な国家にならなくても治安回復を優先し,リアリスト的な外交政策が機能し始める,とGIDEON ROSEは期待します.


NYT August 18, 2005

The Immigrants' Legacy: A Taste for Opportunity

By JAMES FLANIGAN

The Guardian, Friday August 19, 2005

Free-market buccaneers

Polly Toynbee

LAT August 19, 2005

Migrant dreams, and nightmares

Andres Martinez

(コメント) キューバのチーズ店を子供たちに譲る夢をカストロに奪われた両親がアメリカに移住し,その息子Gilbert de Cardenas Jr.はロサンジェルスでチーズ工場を営んでいました.しかし,各地の店にチーズを納入しながら,ヒスパニックの人々が好むランチョンミートが売ってないことに気付きます.そこで,シカゴ大学のMBAを持つGilbert de Cardenas Jr.は地元の投資家などから資金を集め,ヒスパニック系の精肉卸会社を立ち上げて,この巨大市場を開拓します.

初年度売り上げ計画は2500万ドル(25億円以上),2010年に5000万ドルを目指します.この成功を見て,ヒスパニック人口とその購買力が注目され,もちろん既存の食品会社も直ちに参入します.彼の会社は買収の対象になるかもしれません.それはもちろん,彼にも,投資家たちにも巨大な富をもたらします.しかし,彼は自分の店を,その機会を,子供たちに譲ってやりたい,と思うのです.

他方,The Guardian でPolly Toynbeeが描く移民たちの姿はまったく違います.ブリティッシュ・エアウェイ(BA)の食事供給を担うThe Gate Gourmet社が労働者を解雇し,新たにBlue Arrowから派遣社員(?)を雇って供給を再開しました.ブリティッシュ・エアウェイの飛行機は空へ戻り,労働者も組合もなすすべがありません.Blue Arrowの社員は東欧やソマリアから新しく来た移民たちです.もとの労働者よりも安い,時給6ポンドで働きます.

The Gate Gourmet社を解雇された労働者たちはヒースロー空港でBAの離陸を妨げ,Sir William Rees-Moggなどは,公衆の利益を守るためにストライキを排除する法律を作れ,と主張しました.BAのスタッフも,解雇された女性たちと同じように荷物の搬送などで協力して働いてきました.山猫ストライキや同情ストを行いましたが,彼らにできることはそれだけです.BAが成功することに他の労働者たちの生活もかかっている以上,組合は乗客にボイコットを呼びかけたり,BAのブランドを貶めたりする行動は取りませんでした.

BAの赤字を減らすためには,ビジネス・スクールで教えているように,何でも下請けに出すことです.さまざまな作業を入札させて,最低価格を示した下請け業者に委ねます.Polly Toynbeeは,その意味を問います.「フレキシビリティー」やアウトソーシング,リベラルな移民政策というのは,しばしば良い意味で使われますが,実際は規制の効かない,低賃金や劣悪な条件を帰結します.イギリス企業やイギリス経済は,ますます両極化して,貧しい移民たちに職を奪われ,失業した人々と,フレキシブルな経営で利益を増やす人々に分かれてしまうでしょう.

労働組合は注意深く外国人排斥を避けてきました.彼らが求めているのは,移民の規制と職場の労働条件・賃金引上げです.サービス部門は国際競争の影響を受けないはずだ,とToynbeeは主張します.移民さえ抑制されたら,イギリスのサービス産業はイギリスの賃金で競争するでしょう.他方,ドイツ企業は高賃金でもR&Dに投資して,輸出を伸ばしているのです.安価なサービスや未熟練労働者を増やしても繁栄できない,と.

また,アメリカ・メキシコ国境の移民抑制がもたらす死者を減らすために,移民規制の緩和と非合法な密入国組織の摘発が主張されています.

イギリス,ヨーロッパ,アメリカ,・・・移民政策に正しいモデルはないようです.


The Standard Newspaper, August 19, 2005

China's economic poverty trap

Alan Wheatley

IHT THURSDAY, AUGUST 25, 2005

Why Beijing's power is less than it seems

By William Pfaff TMSI

(コメント) 北京の通りに乞食が増えるのは地方の貧困を示している,とAlan Wheatleyは書きます.世界経済が均衡を回復するために中国は景気を抑制し,たとえば,交通事故のけが人が輸血に支払う100元の金さえ無く,そのまま死亡しても良いのだろうか?

輝かしい工場や高層ビルが立ち並ぶのは,貧しい中国のわずかな地域であり,この国にはお金を持たない貧しい人々が多くいます.中国にはまだ雇用が足りません.解決策は,貧しい農村から都市へ出て,高賃金の工場やレストランで働くことです.その意味で,先月の人民元切上げは間違いだった,とエコノミストは批判します.むしろ,中国国内の消費が不足していることが問題だ,と.たとえば,減税策を主張するエコノミストもいます.

土地価格の高騰はバブルである,と規制されました.しかしゴールドマン・サックスのLiang Hongは,社会保障が未発達な中国で,土地価格を上昇させた方が資産効果を発揮する,と期待しています.

中国の経済力が飛躍的に増大し,アメリカに挑戦する大国となる,という予想にWilliam Pfaffは疑念を示します.中国経済は巨大な下請工場に過ぎず,高度な技術はすべて外国のものだ.近代化はまだ進行中である,と.さらに,人口変動,出稼ぎ,無秩序な都市開発,環境破壊,などが発展を妨げるでしょう.

増加する抗議活動や社会不安に対して,共産党は破綻したイデオロギーしか持たず,さまざまな反対派や宗教活動が復活すれば,共産党は権力を失う危険があります.


FT August 19 2005

Mother of smoke screens

By Christopher Caldwell

(コメント) イラク戦争に息子を失ったCindy Sheehanが,休暇中のブッシュ大統領に会うため休暇中に押しかけてメディアが注目し,反戦運動家たちの焦点となっています.しかしChristopher Caldwell は,Sheehan女史が単なる息子をなくした母親ではない,と言います.

「ブッシュの牧場の前に座って,なぜ私の息子が死んだのか,その理由が知りたいだけだ.」 これはSheehan女史の願いの一部でしかない,とCaldwell は考えます.以前からSheehan女史が,ブッシュ大統領を弾劾せよ,非合法な戦争において息子は死んだ,9・11はアメリカ政府の陰謀だ,といった主張を繰り返す過激派であったからです.彼女は集まった左派の反戦運動家たちに,この国を,戦争と人殺しをいつでも支持する国ではなく,平和に生きる国にしたい,と挨拶しました.

・・・しかし,この挨拶が過激派でしょうか?

言論の自由は誰にもあるが,息子が死んだことを理由として,道徳的にすべての戦争に反対する「平和主義」を訴えるのは間違いだ,とCaldwell は考えます.

LAT August 20, 2005

She's paid for her access in blood

ROSA BROOKS

(コメント) 「なぜあなたは政治資金の寄付者に会う時間があるのに,私に会う時間を作れないのか?」と,シーハンは大統領に手書きのサインを送ります.ROSA BROOKSが注目するのは,シーハンのアメリカ政治に対する批判です.政治家たちは誰の話しを聞くのか? もちろん,高額で寄付する者だけ.しかし,彼らは単に金持ちであるというだけで,シーハンのように息子の命を支払わされたわけではない.

アメリカでは何にでも値段が付く.それなら計算してみよう,とBROOKSは示します.イラクで戦死すれば,まず10万ドルの弔慰金が支払われ,家族に40万ドルまでは保険金が補助される.半分は離婚した夫に行くとして,25万ドルを受け取るけれど,息子が生涯に稼いだであろう200万ドルの半分を失っているから,75万ドルはブッシュ氏への政治献金である,と.もちろん,ブッシュ氏が運転するダンプカーにはねられて死んだわけではないから(よく似ていますが),裁判所に訴えることはできません.しかし,会ってやってもよいのではないか?

あるレポーターがブッシュ氏に尋ねました.「バイクに乗ったり,釣りをしたり,昼寝の時間もあると言うのに,玄関先まで訪ねてきた,戦死した息子の母親に,どうして会ってやれないのか?」 ブッシュ氏は答えました.「私にも生活がある.そうだろ?」 しかし,これはイラクの戦場で死んだ1900名ものアメリカ兵やその母親に対する答えになっていない.こんな大統領を信頼できるか?

NYT August 21, 2005

The Swift Boating of Cindy Sheehan

By FRANK RICH

(コメント) ブッシュが何か批判されると,いつものように,救命艇が飛んでくる.・・・シーハンとはどんな女か? 夫との離婚,共和党支持者の義理の兄弟は憤慨する.彼女は政治的立場をころころ変えた.Fox Newsは彼女を「壊れたポット」と呼ぶ.先導的なスローガンが大好き.マイケル・ムーアの『華氏9・11』を観たときの入場券まで見つけ出す.話は全部でっち上げで,まともじゃない,と.

しかし,彼らが決して触れないことがあります.それはシーハンの息子の話です.シーハンの息子は典型的なイーグル・スカウト(模範的アメリカ男子)でした.教会ではグループのリーダーであり,国に尽くすことを名誉と考え,9・11の前,2000年に入隊しました.彼は2004年4月4日,救出の使命を帯びてサドル・シティーに入り,他の6名の兵士と一緒に戦死しました.24歳でした.それは4人のアメリカ人警備労働者がファルージャで惨殺された後の週でした.彼がイラクに着いて2週間でした.そして,ブッシュ大統領がエイブラハム・リンカーン輸送機の上で,「主要な戦闘」の終結を宣言してから,およそ1年が過ぎていたのです.

しかも,ラムズフェルドは当時も事実を無視したプロパガンダを垂れ流し,イラクの安定やイラク人治安部隊の増強を賛美し続けていました.その頃,シーハンの息子はサドル・シティーで,勝ち目の無い戦いに巻き込まれていたわけです.Times誌の記者は,イラク人の治安部隊や警察は次々に職場を放棄し,サドル派の民兵が町を占拠していた,と伝えていました.

同じように,Celeste Zappalaもクロフォードの牧場を訪ねました.彼女の息子も同じ2004年4月に戦死していますが,大量破壊兵器(WMD)の探索部隊を護衛するのが彼の任務でした.しかし,「ありもしない物を探す任務でした」と,彼女は悔やみます.さらに彼女は憤慨して注意を求めます.息子が戦死してわずか数週間後に,ブッシュ大統領はテレビのコメディー番組に登場し,大統領執務室でWMDを探すふりをする写真を撮っていたのです.「なぜ私の息子を殺した戦争を正当化するために,ユーモアまで示す工夫をしたのか,私は知りたいのです.」

ブッシュ氏は,イラクはともかく,いつもアメリカ国内を平静に保ちたいのです.だからやみくもに減税を急ぎ,だから志願兵の不十分な状態も国民には知らせない.だから死亡した兵士のニュースを禁止し,レーガンやカーターが立ち会ったのに,戦死した兵士の葬儀に立ち会おうとしない.1月に行われた再選記念式典は,4000万ドルで飾り立てたけれど,就任演説からイラクという言葉を消し去った!

BG August 22, 2005

The Cindy Sheehan you don't know

By Cathy Young

The Guardian, Monday August 22, 2005

Leaderless on the left

Gary Younge

(コメント) BGのCathy Youngは,息子を失ったシーハンの悲痛な思いには誰でも無際限に同情を示せるが,彼女が政治を語るときにはそうではない,と書きます.

彼女の最大にして唯一の要求は,イラクのアメリカ兵を直ちに帰還させること,です.しかし,それは余りにも無思慮なばかりか危険であり,戦争に反対した者でも,それには多くが同意しないだろう,と述べます.さらに,ブッシュを世界最大のテロリストと呼び,9・11を見逃したのはネオコンの陰謀であった,と断言します.その他,彼女の「過激な」言動が紹介されています.(しかし,ノーム・チョムスキーもこれくらいはやりそうです.)

Gary Youngeは,アメリカ国民のイラク戦争やブッシュ政権に対する見方が変化しているのに,議会ではその声を正しく反映していない,と指摘します.かつて26歳の無名の牧師,マーチン・ルーサー・キングが示した行動の意義付けと政治プログラムがあったから,白人に席を譲らなかった貧しいお針子の黒人女性Rosa Parksは神話となって広まり,その後,バス・ボイコット運動へ,そしてアメリカ南部諸州に根を張っていたアパルトヘイト社会を変えるまでに至りました.

シーハンが牧場を訪ねて大統領に問おうとした理由は,単に息子を失った悲しみだけではない,とYoungeは考えます.彼女は,イラクについての感情を分かち合えるアメリカの「その他の」人々を得たかったのだ,と.その声はアメリカ社会から締め出されてきたのです.


FT August 19 2005

Exercise of power

IHT SATURDAY, AUGUST 20, 2005

Russian-Chinese maneuvers send a message

Philip Bowring

Asia Times Online, Aug 20, 2005

Brothers in arms again

By Elizabeth Wishnick

(コメント) 黄海と山東半島で,1万人が参加する中国とロシアの合同軍事演習は,どのような敵が襲ってくることに備えたものでしょうか? 台湾海峡? アメリカ軍? もちろん,日本も?

FTは,これが友好親善のための単なる政治ショーではない,と指摘します.その規模も,参加した兵器も,中国が台湾を「武力解放」する作戦を実行できる覚悟を示したものです.そして,ロシアの石油と兵器産業が,中国の資金(そしてドル)と結びつくパイプを固めていることも.

冷戦期に中国がアメリカと協調してソ連を牽制したように,今は,中国もロシアもアジアにおけるアメリカの影響力を嫌っています.そして,これに対してアメリカがますます警戒感を強めることも確実です.

Philip Bowringは,この合同演習が北東アジアの秩序,近隣諸国(特に日本)に強い影響力を発揮するだろう,と考えます.

もちろん,中露の直接の関心は,9・11以後に中央アジアでアメリカ軍が軍事拠点を拡大したことです.両国はアメリカの一極的な世界支配にも満足していません.しかし,たとえアメリカが中央アジアから手を引いても,中露の北東アジアに関する関心は失われないのです.

他方,アメリカは石油や中東和平への強い関与を将来も示すでしょうが,中央アジアやアフガニスタンに関しては弱いものです.軍事的関与の拡大を見直す政策転換も起きるでしょう.

むしろ,台湾海峡や東シナ海で,米中,日中間の摩擦があります.長い目で見れば,中央アジアにおいて中露が牽制し合い,北東アジアでは協力してアメリカと日本を抑えようとするのかもしれません.

ロシアはどこまで中国に先端的な兵器を供給するのか? 日露間の領土交渉は成功するか? 西太平洋におけるアメリカの影響力低下と,それを支えてきた日本,中国,ロシア,韓国との関係,北東アジアにおける勢力均衡は,ますます流動化するでしょう.

Elizabeth Wishnickは,この戦略的な協調関係には,中露間の異なる長期的目標が並存することも見ています.それは,中央アジアにおいてロシアが覇権を握るCISに重なって,中国がSCOを組織したように.

興味深いことに,中国は軍事演習を台湾海峡の近くで提案し,ロシアは中央アジアで考慮しましたが,両国は遼東半島において行うことで合意した,というのです.また,1万人の兵力のうち,ロシア軍は1800人ほどしかいませんが,黄海では潜水艦なども含むロシア海軍が参加しています.その意味は何か?

中国もロシアも,台湾海峡や武器売却という当面の関心とともに,さまざまな件で日本との交渉を控えています.さらに背後には,民族対立や人口圧力,移民問題などがあるでしょう.


BG August 19, 2005

Pain for all in Gaza

By H.D.S. Greenway

LAT August 19, 2005

Hope and rage in Gaza

FT August 21 2005

Israel’s leaders are now freer to make tough choices

By Henry Siegman

(コメント) 入植と,そこからの政治的撤退というのは,政治的に困難な決断です.パレスチナ難民が強いられた困難に匹敵するとは言わないが,ユダヤ人入植者たちがその土地を離れるのも痛ましい作業でした.それはまた,イギリスやフランスが,植民地の独立により,多くの入植者を帰還させた際に経験した歴史です.そして日本も.

最初,政府は入植者を募り,奨励し,支援します.しかし,それを維持するコストが大きすぎると考えれば,支援を撤回し,縮小し,あるいは全面的に放棄して壊走するに至ります.整然として撤退するほうが人々の痛みは少なく,その後の秩序も交渉できるでしょう.しかし,入植者たちの政府に対する不信感や裏切られたという怨嗟は,根強く残るわけです.

イギリス政府はアフリカへの入植者に撤退を強要することなく,入植者たちが一方的に南ローデシアの独立を宣言して,現地政府との戦争に至るのを軍事介入して阻止しませんでした.結局,現地政府が勝利し,ジンバブエは独立します.満州国が日本から独立することも(考えたようですが)無かったわけです.

イスラエルのガザ撤退は,フランスからアルジェリアが独立したケースに近い,とH.D.S. Greenwayは考えます.フランスはアルジェリアの独立を軍事的に阻止しようとしましたが,それを諦め,独立を認めてから入植者の撤退を促します.しかし入植者たちは激しく抵抗し続けました.フランスはアルジェリアの併合さえ考えましたが,保守派のド・ゴールが権力を握ると,予想とは逆に,その独立を認めます.シャロンと同じく,併合が果てしない戦争と人口比の逆転をもたらすことを知っていたからです.

すべては今後の展開にかかっています.ガザ撤退がヨルダン川西岸への支配を強化するためであれば,紛争は拡大するでしょう.また,パレスチナ過激派の武装闘争が抑えられないときも,和平は持続しません.


NYT August 19, 2005

Tony Blair's Antiterrorism Package

(コメント) ブッシュ氏が「テロとの戦争」を安保理や国連総会で認めさせることに失敗したように,ブレア首相も反テロ法規を整備することに苦しんでいます.

テロに関連する疑いがある者から権利を奪って,「二流の市民」を作り出すことは,民主主義を破壊してしまう,と批判されるからです.

特にブレア氏の次のような考えです.すなわち,テロを擁護し,賛美するような発言を,世界のどこででも行うことについて,政府は犯罪とみなせる.政府が「過激」とみなす見解を表明すれば,国外退去させることもできる.イギリス生まれでない,帰化したイギリス人を,強制退去させることもある.これらはまったく曖昧で,どのようにも政府が犯罪者を選別できる表現です.

ブッシュ氏が犯した多くの過ちから,ブレアはもっと学んだはずではないか?


IHT SATURDAY, AUGUST 20, 2005

Iraq: The federalist solution

By Robert A. Levine

The Guardian, Wednesday August 24, 2005

Beacon of hope fades

LAT August 25, 2005

A united Iraq -- what's the point?

By John Yoo

BG August 25, 2005

Iraq is no Vietnam

By Jeff Jacoby

(コメント) 憲法草案をめぐって,シーア派の内戦まで伝えられています.誰もが新しい政府や政治システムで少数派になりたくないからです.スンニー派は多数ではないにもかかわらず政治的な支配層を独占していました.それを失うのが怖いのです.また,石油資源は北部と南部にあり,スンニー派は重要な油田を持ちません.

なぜ共通の利益を示して連邦主義を拡大し,あるいは,分離独立も認めないのか? 異なる三つの文化が民主的に共存するスイスをモデルにすることは難しいとしても,ベルギーやカナダはどうか?

来年予定されている英米軍のイラク撤退に際して,たとえ一部でも,民主化の成果を誇るためには,現在の「憲法」制定がブッシュ氏の重大な関心事となるわけです.逆に,ブッシュ氏が最も嫌うのは,イランをモデルとしたイラクの「イスラム化」です.

イラクを中東民主化のモデルとし,中東を照らす灯台にしたい,というブッシュ氏の抱負は実現しそうにありません.治安の悪化と市民生活の困窮が日増しに増大しています.反政府活動や内戦の危機が高まり,イラクの分裂やイランの影響力が拡大する中で,英米軍は撤退することになりそうです.

John Yooも,イラクの分割を検討せよ,と提言しています.アメリカの外交政策はそれを拒んでいるけれど,ソ連が解体することにも反対した.それは冷戦時代の発想だ.むしろ,ユーゴスラビアのように,国際的な監視の下で分裂させたほうが戦禍を抑制できるだろう,と.

つまり,国家(統治)の最適規模,を問うわけです.第二次世界大戦が終わってから,脱植民地化が進み,独立国家は74から193カ国に増加しました.その間,むしろ経済は成長し,民主主義も広まりました.防衛や法律,治安などを確保するには,国家がある程度大きくなければなりません.しかし,戦争の脅威が減り,貿易協定が結ばれるなら,国家の規模は小さくても良いのです.異なる文化や価値観を持ち,互いに統合したがっていない諸民族を一つの国家に維持するには,多くの戦死者と戦費,経済破壊が示すように,耐え難いコストを要します.

アメリカは,単に建国の父たちが憲法を起草したから誕生したのではなく,南北戦争を経て,漸く統一国家になったのだ,と.

他方,Jeff Jacobyは,イラクとベトナムはまったく異なる,と主張します.ベトナムのアメリカ兵たちは何よりも帰還を願っていました.しかし,イラクのアメリカ兵は士気が高く,悪者をやっつけたい,と述べます.テロリストを倒す使命を帯びていることに,満足している,と.


LAT August 20, 2005

Apology accepted

NYT August 20, 2005

Intelligent Design and the Smithsonian

JT Thursday, August 25, 2005

Know when not to apologize

By DAVID HOWELL

(コメント) LATは,日本が戦争の際の行為について謝罪するのは既に十分だ,と言います.

中国が日本の行為をいつまでも非難するのは,国民の目を国内問題からそらせるためだ.日本政府は,中国からの批判を受けて教科書を書き直し,首相は靖国参拝を取りやめた.他方,中国政府は独立後も多くの市民を抑圧し,間違った政策によって死に至らせたことを,公式に認めないし,国民に教えることも無い.それどころか,アジア最強の国を安保理常任理事国にさせないためにデモを行い,拒否権で牽制した.懐柔できない相手を懐柔しようとせず,日本政府はもっと正直になって,自国のために行動せよ,と.

日本の謝罪とも関連して,歴史を認識し,歴史を描くというのは,能動的な政治的行為の一部なのだ,とスミソニアン博物館の記事で思います.博物館への寄付を通じて,進化論を「インテリジェンス・デザイン」として描く映画を紹介するか? が紛糾したようです.すでに,以前のエノラ・ゲイ展示に関する記事も紹介しました.

DAVID HOWELLも,日本は謝罪ではなく,国際政治におけるリアリズムを重視するべきだ,と言います.すなわち,日本が安保理常任理事国になるのは,国連の予算の約20%を支払っている国である,と言う事実だけで十分に首肯できることだ.日本が一緒に候補として提案した,インド,ブラジル,ドイツ,には重要な反対理由があるけれど,日本が反対される理由は無い.日本の謝罪が不十分だ,とは言えない.日本の援助額がGDP比で少ない,という批判も適当でない.日本は援助をばら撒いて謝罪することではなく,貧しい国の貿易・統治・技術改善を支援すること,環境破壊や地球温暖化の対策に集中して,国際秩序に貢献していることを訴えるべきだ,と.

アメリカとは違う意味で,つまり第二の経済力を背景とした役割分担として,これも国際的に見たリアリズムです.


NYT August 20, 2005

The Trillion-Dollar War

By LINDA BILMES

(コメント) 政治家たちは,戦争のコストを,まじめに考えたことがあるでしょうか? LINDA BILMESは推計します.アフガニスタンとイラクで2000名以上が死亡し,1万4500人以上が負傷したことは明白です.既に戦闘と再建のために2500億ドル以上が支出され,高額の民間契約の結果,毎月60億ドル以上の支出が続いています.兵士の募集や駐留延長への割り増し,周辺諸国への援助増額,装備の給付と更新,など.

しかし,最も長期に及び,最も重い負担となるのは,障害を負った帰還兵たちの生活保障です.1991年の湾岸戦争に関して言えば,15万9000名の退役軍人の障害に対して毎年20億ドル以上を支払っています.湾岸戦争のとき,戦闘は5週間で終わり,148名が戦死し,467名が負傷しました.たとえば同じ比率で,現時点までの兵士たちが障害に対する支払いを必要とするなら,それは毎年70億ドルを支払って,今後45年間に及ぶのです.

それは政府の債務となって,利子負担が総額2000億ドル以上になります.中東の戦闘で石油価格が2倍に高騰したコストは,石油価格が5ドル上昇する毎に国民所得を年間約170億ドルを失う,という比率で続いています.そして,こうした単純な推計を用いて,アメリカ軍の駐留がこの先5年続くとすると,その経費は1兆3000億ドル,アメリカの1家族あたり1万1300ドルとなります.


FT August 21 2005

The activist unafraid to depart from the rules

By Andrew Balls

(コメント) 来年1月で引退するアラン・グリーンスパンに関するAndrew Ballsの長い論説です.79歳のアメリカ連銀議長は,1987年にボルカーを継いで以来,18年間,金利の決定を通してアメリカ経済を操縦してきました.

つまり,就任後,2週間足らずで「ブラック・マンデー」を経験したわけです.アメリカ株式市場で史上最大の下げ幅に直面し,グリーンスパンは直ちに対応しました.貨幣を注ぎ込んで金融システムの安定化を図ったのです.

同時に,グリーンスパンはインフレ抑制の強い姿勢を引き継ぎ,市場の信頼を得ています.グリーンスパンは,このタカ派のイメージと弾力性とを両立させてきました.金融政策の姿勢を思慮深く,しかも柔軟に捉え,そのことを市場に説明し,市場と対話する技術に長けている,と賞賛されました.

こうして1970年代の高インフレを10%の失業率という犠牲を払って抑制したボルカーに代わって,インフレを抑えたまま,失業率も4%に低下させる成果を残したのです.この三つ(リスク・マネージメント,インフレ抑制,雇用拡大)と,1990年代に生産性上昇を重視して金利引締めを遅らせた姿勢から考えて,グリーンスパンを単なるタカ派ではなく,「行動主義activist」と呼ぶべきだ,と論説は指摘します.

グリーンスパンは,余りにも複雑な経済モデルには懐疑的で,常にさまざまな統計類を集めて経済変化の兆候を探し続けた統計マニアでした.高度に不確実な経済環境の中で意思決定することについて,グリーンスパンは述べています.連銀は,最も起きそうな経済経路を考えるだけでなく,成長やインフレに対するさまざまなリスクを考慮する,と.すなわち,「リスク・マネージメント」が重要なのだ.

ほとんどの時期に,「テイラー・ルール」は良く当てはまった,と述べられています.しかし,危機に際しては「行動主義」を採用しました.特徴的なのは,1990年代に株式市場がバブルを示したときです.グリーンスパンは1996年12月に“irrational exuberance”と呼んで警告しましたが,金利を上げてバブルを早期に挫くことはしませんでした.そしてロシア危機に絡んでLTCMが破綻に瀕したときに,また最終的にITバブルが破綻してから,日本型のデフレが懸念されたときに,市場に貨幣を供給して不況を回避(もしくは緩和)しました.

インフレ目標も,中央銀行内部で討議し,市場と対話するための手段であって,その達成だけが目標なのではありません.市場の信頼を得た上で裁量的に行動しました.そして,資産価格を目標として金融政策を決めることは拒み続けました.バブルを挫くこともできただろうが,それは不況ももたらした.株価が高騰し,暴落しても,インフレを抑制し雇用を生み出せるアメリカ経済は,それを吸収できるのです.それは「事後処理戦略“mopping up” strategy」とも呼ばれます.グリーンスパンは市場を信頼し続けた,というわけです.

しかし,今度は住宅市場がバブルを示しています.グリーンスパンの次の議長は,その問題に答えを見出せるでしょうか?

FT August 23 2005

Greenspan will leave a less activist Fed

By Kenneth Rogoff

(コメント) Kenneth Rogoffの評価は,極端な「行動主義」への賛美を否定し,むしろ金融政策が重要でなくなったことを強調しています.

グリーンスパンは中央銀行のMichael Jordan/Lance Armstrong/Garry Kasparovだ,という賛美は,良く分かりません.最近のノーベル経済学賞も,金融政策は効果が無い,という学界の方向を示しています.生産性上昇を実現した市場がグリーンスパンを導いたのであって,その逆ではありません.グリーンスパンは,ブラック・マンデーやLTCM危機の火消しに役立っただけです.


FT August 21 2005

China’s rise threatens to divide Asia, not unite it

By Daniel Twining

FT August 22 2005

Victor Mallet: US is starting to lose its grip on Asia

By Victor Mallet

(コメント) 中国の貿易や成長は,日本の台頭以来,欧米の世界秩序にこれほど大きな影響を与える事件は無かったほどだ,とDaniel Twiningは書きます.そのうち,ヨーロッパも上海の郊外住宅地程度になってしまう,と欧州委員会の元委員長Mario Montiは嘆きました.同時に,その影響力は近隣のアジア諸国を呑み込むでしょう.中華帝国への貢納を欠かさぬ属領になる,というわけです.

しかしTwiningは,中国がアジア諸国を引き付けるより,分断するだろう,と考えます.台湾だけでなく,日本もインドも,中国の覇権を受け入れないでしょう.ASEANは中国になびきますが,勢力均衡を利用します.中国の政治システムは,周辺の民主主義諸国との協調を困難にします.

他方,Victor Malletは,韓国政府の姿勢に代表されるような,アジア諸国のアメリカから中国への重心移動を重視します.日本でさえ,小泉政権以後は重心を移動させるでしょう.アメリカの問題とは,イラク戦争に深く関わることで,アジア外交に対応できていない点です.


Aug. 22 (Bloomberg)

How China Delays a Plunge in U.S. Treasuries

William Pesek Jr.

(コメント) 中国が人民元の対ドル価値を抑える必要が無くなれば,ドルの購入を減らすはずだ.ドルの価値は暴落する? しかし,それは起きていません.William Pesek Jr.は,アジア諸国がドル債購入を続ける三つの理由を示します.

1.ドルの投売りと外貨準備の資産価値急減を恐れる.2.各国政府は通貨の増価を受け入れる決心がつかない.3.中国自身が今後の人民元急騰は無いと断言した.

ドル暴落は起きないのか? そうでもない.アメリカの貿易収支,予算,石油価格,何かが引き金となって起きるかもしれません.このまま債務を増やし続けることはできない,と皆が知っているからです.また,アジア諸国が金融危機によって通貨を過小評価し,輸出を促進して景気回復と外貨準備の拡充を図る戦略も,既に転換するべき時期に来ています.

アメリカにとって重要なのは資本流入が続くことです.そのためにはドル価値も安定しなければなりません.そして,資本流入の株式市場や金利への影響こそが重要です.債券の買い手はアジア諸国の通貨当局だけに限りません.たとえば,日本の政変が改革を進めれば,また,中国が国内の金融改革を進めれば,アメリカの対外赤字が減って,資本流入も増えると期待されます.

うまく行けば,ドルが安くなっても,ドル暴落を恐れる理由はなくなるわけです.


NYT August 21, 2005

Be Warned: Mr. Bubble's Worried Again

By DAVID LEONHARDT

Aug. 25 (Bloomberg)

Asset Bubbles or Bust -- What's the Fed to Do?

Gene Sperling

(コメント) NYTは,住宅バブルについて,Mr.バブル,すなわちRobert J. Shillerに意見を求めました.1996年,彼がグリーンスパンに質問した3日後に,グリーンスパンは有名な警告を発しました.そのニュースを聞いて,世界の株価が暴落することを予感したわけです.住宅価格についてもShillerは同様の懸念を示し,歴史的な資料を集めています.


WP Monday, August 22, 2005

The Plight of Squatters

By Robert Neuwirth

(コメント) 貧しい諸国の都市に広がっているスラム街について,Robert Neuwirthはその生活改善に投資することを提唱します.かつてベイシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)が開発戦略として強調されました.しかし,急激な都市化が生んだスラムはBHN戦略の対極として非難されていたように思います.Neuwirthは,むしろここから始めよ,と言うのです.

スラムの住民がどれほどのエネルギーを費やしてごみから壁や屋根を作り,水や電気を得ようとするか,Neuwirthはスラムに住んで理解しました.もし国際機関の援助やNGOがスラムに水源を引けば,住民たちは何とかしてそれを自分の家まで引き込むでしょう.下水や電気も,もし利用できるチャンスがあれば,彼らは自分たちの生活を改善するために動くのです.

強制的にスラムを排除し,都市への流入を禁じて非合法な住民を処罰するより,彼ら自身の手で都市を拡大するほうが良い,と.


WP Tuesday, August 23, 2005

Mile by Mile, Into the Oil Trap

By Fareed Zakaria

輸入石油への依存を減らせば,アメリカの外交政策を一気に改善する.石油を欲しがるほど,アメリカ世界中で問題に巻き込まれる.テロ資金,中東民主化,イランの核兵器開発,ロシアの独裁とチェチェン紛争,ヴェネズエラのチャベスが進めるラテン・アメリカの反米化,・・・など.

そのために,新しいマンハッタン計画は必要ない.石油を浪費するSUV車をやめて,もっと効率の良い車に乗り換えることだ.その技術はある.欠けていつのは,アメリカ政府の明確なビジョンと指導力だ.


Aug. 24 (Bloomberg)

Japan Says Sayonara to Bond Market Stability

William Pesek Jr.

(コメント) 日本の債券利回りが上昇し始めました.景気が回復するのであれば,それは当然です.しかし,Pesek Jr.はもう一つの理由を指摘します.政治不安です.

今度の選挙で,もしかすると戦後の大部分について政権を担当した自民党が敗北するかもしれません.バブルが破綻したときの自民党の政策は最悪でした.無駄な公共工事に支出して不況を回避し,ボツワナ並みの評価まで下がった巨額の国債を残したからです.自民党政権は,あらゆる方法で国債利回りを抑えてきました.日銀にも圧力をかけて金融緩和したのです.

新しい政権は歓迎されますが,民主党の方針はまだ曖昧です.歳出を削減するのは良いけれど,郵便貯金の限度額を半分にすると,当然,国債の購入が減ります.投資家たちは債券価格が暴落するのを恐れています.

日本はデフレではなく,インフレと景気回復を必要としています.しかし,それは資金を債券から株式に移し,国債利回りや金利を上昇させます.利回りが低すぎる国債やゼロ金利というのは,日本にとって好ましくないでしょう.しかし,この状態を安定的に正常化することができるか,その過程で,市場は不安を抱えるわけです.


CSM August 24, 2005 edition

Is Mexico still a nation?

(コメント) 「Pew Hispanic Centerの調査によれば,メキシコ人の10人に4人がメキシコを出てアメリカで住みたい,と答える.5人に1人がたとえ危険でも非合法に国境を越えることを辞さない.特に驚くべきは,大学卒業者の3人に1人が出国を望んでいることだ.アメリカ政府は,移民政策を考える前に,このメキシコ側の深刻な幻滅に注意するべきだろう.

「既にメキシコで生まれた8人に1人がアメリカに住んでいる.メキシコ経済は,アメリカに住む移民や親類から送られてくる推定160億ドルで維持されている.」

問題は,メキシコの政治家たちがそれを認めないことです.たとえ50万人の一時雇用を合法化しても,アメリカに向かう非合法移民の波は止まりません.アメリカ政府は,中東やアフリカに対して要求しているように,その統治の改善や政策転換を要求するべきだ,と記事は主張します.それは自国の政治と経済停滞に失望しているメキシコ国民自身から歓迎されるだろう,と.


FT August 24 2005

Beijing's Great Game

FT August 24 2005

A clash of the titans could hurt us all

By Fred Bergsten

FT August 25 2005

Perils of a trade round’s collapse

By David Eldon

(コメント) アメリカの石油会社を買収できなかった中国企業は,カザフスタンで企業を買収しました.中国がヴェネズエラやイラン,スーダンなど,反米的な諸国で石油を買いあさることに,アメリカ政府は警戒感を強めています.ただし,FTの主張は,アメリカは中国を非難できない,アメリカも同様に独裁国家から石油を購入している,というものです.

IIEのFred Bergstenは,米中間の貿易戦争を懸念します.中国政府は人民元を2%ではなく,20〜25%は切上げ,同時に財政政策で国内需要を刺激することです.アメリカ側は国内貯蓄を増やし,特に予算を均衡させるべきです.米中間にはその他にもさまざまな摩擦要因があり,このまま放置するのは非常に危険です.アメリカとヨーロッパは次々に保護措置を準備しています.

Bergstenは,米中両国政府が協力して,こうした保護主義勢力に先制攻撃しなければならない,と主張します.すなわち,中国がさらに市場を開放し,アメリカと一緒にドーハ・ラウンドの促進に貢献することが望ましい,と.

ラウンドが失敗しても重要な変化は起きない? David Eldonは,そうではない,と考えます.WTOこそが国際取引の公平なルールを促し,国際ビジネスと,富裕諸国に有利な二国間交渉や産業補助金を削減する推進力のコアを与えるのだ,と訴えます.

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The Economist, August 13th 2005

The bravery of Junichiro Koizumi

Japan: The lion’s roar?

(コメント) The Economistは小泉首相の決断を称えます.まず,小泉自民党と民主党の論争は,既に改革すべきかどうか,ではなく,どうやって改革するか,に移ったからです.選挙結果に関わらず,小泉政権は日本政治に確実に「改革」の血を流し始めました.

しかし,2001年以後も,改革は欲求不満の連続でした.自民党内部に根を張る特権集団が変化を拒む強い力を保持しているからです.重要な問題を手につけず,ひたすら公共工事を増やして致命的な不況を避ける代わりに,デフレと国債残高の累積を許してきたわけです.

だから,こんな政治は続けられない,と小泉氏が叫んだのは正しい決断です.世界最大の金融機関が政府によって優遇された金利で貯蓄を集めてしまう限り,民間の銀行や保険は不良債権を処理する利益も出せません.また,その貯蓄をどんどん国際に投げ込む限り,必要ない橋でも道路でも,政治家たちは公共投資の奪い合いを止めようとはしません.

The Economistは,小泉政権の他の成果も認めます.金融庁の強化と独立性,公共投資の削減です.しかし,景気回復は改革の成果ではなく,中国向け輸出と民間部門の経営努力です.

選挙の行方は分かりません.それでも,すでに自民党を割って改革派の政権を競わせた小泉氏の英断を,The Economistは大いに歓迎しています.


Monetary policy: All at sea?

The yuan: Chinese puzzles

Economics focus: A working model

(コメント) 金融政策は,グリーンスパンへの多くの賛辞にもかかわらず,その重要性を失っています.アメリカ連銀(Fed)が短期金利を引き上げても,長期金利は上昇しません.為替レートも,株価,経済活動の水準を決める重要な数値ですが,Fedが決めるわけではありません.

アジアの,特に中国の過剰貯蓄を批判するより,Fedが過剰流動性を放置している,と批判されています.IS/LM分析を使って,どちらの説明が正しいか,検討しています.他方,中国の人民元は,予想外のバスケットを基準に管理されている,と発表されました.ドル,ユーロ,円だけでなく,その他の通貨が加えられ,貿易だけでなく直接投資を加え,しかも変動については政府の裁量で決められるのです.

住宅価格が下落する過程や人民元が増価する課程で,どんな要因が重視されるのか,注目しようと思います.