IPEの果樹園2005
今週のReview
8/22-8/27
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つだけ推奨するとしたら?
1 小泉・ガリレオ選挙? :日本では選挙戦が始まりました.小泉首相は快速球!
2 統治構造 :なぜアメリカ連銀は積極的で,ヨーロッパのECBは保守的か?
3 終戦記念日 :戦後60年.しかし,アメリカは40年で黒人の地位向上に取り組みました.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor
LAT August 11, 2005
The happiest board on Earth
NYT August 12, 2005
Regulating Fantasyland
NYT August 14, 2005
Announcing an Award for Greed
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) ディズニーは中国市場に進出し,大きな利益を上げるだろうと期待されています.しかし,そのMichael Eisner会長は,友人Michael Ovitzを社長に取り立てて大失敗し,たった14ヶ月で辞めさせました.それでも破格の報酬(1億4000万ドル,・・・140億円以上!)を支払ったのです.この処置に憤慨した株主たちからの訴えにも,Eisnerは応えようとしません.重役たちは皆,彼の取り巻きに過ぎません.しかしこのような場合,その他の社会対立もそうですが,アメリカでは裁判所や委員会が問題を指摘し,人々の訴えを聞くのです.
裁判所はこの処置を違法とはしませんでした.しかし,重役を監視する法律は変化し,二度とこのような報酬は支払えないでしょう.それでも,アメリカの企業幹部における過剰な報酬はなくならないようです.そんなことを期待するのは,おとぎ話か?
WP Thursday, August 11, 2005
Wanted: A Famine Fund
(コメント) 他方で,世界では,特に民主主義の確立されない世界では,飢餓が多くの社会的弱者を死に追いやっています.すべての惨劇には政治的理由がある,とWPは書きます.
しかし,現在ナイジェリアで深まっている飢餓は,少なくとも直接には,政治的理由がなく,旱魃によって起きています.しかし,インド洋を襲った大津波ほど世界の関心を集めず,ナイジェリアの飢餓は拡大しています.そして支援の遅れは,死者の増加を意味します.そこで,このような偶発的な事後の募金集めではなく,緊急災害援助のための世界基金も設けておこう,とWPは提案します.
アナン事務総長の当初の募集額は5億ドルです.・・・ディズニーに頼んでみては?
FT August 12 2005
How Koizumi upset the orbit of Japan’s political world
By David Pilling
Lex: Japanese economy
(コメント) 今度の選挙は,「ガリレオ選挙だ!」と,小泉風に宣言します.自分たちは地球が回っていると思うが,空や星の方が回っている,と反対する者も多い.これは政治だから,実験でも宗教裁判でもなく,選挙で決めよう.(もし負けたら,ドン・キホーテ選挙ですが.)
David Pillingは,小泉は自分が自民党の周りを回っているのか,自民党が自分の周りを回っているのか,と問いかけている,と考えます.政権を取って4年半を経た景気回復も,決して「痛みを伴う」小泉改革の成功とは考えられません.
つまり,小泉構造改革とは経済改革ではなく,日本の政治改革なのです.閣僚指名に派閥を無視すること,最重要な財務大臣に学界から竹中氏を引いたこと,靖国神社参拝で中国との関係を悪化させたこと,郵政民営化によって自民党内部から敵対する組織力を排除すること,田中角栄と同じように,政治家たちを自分の派閥に組織すること,などをPillingは指摘します.
もちろん,どれも日本のマスコミで言われています.Pillingは,小泉改革を,小泉自身のための政治改革である,と考えたのです.「自民党を変えて,日本を変える」ではなく,「自民党を変えるために,痛みが伴おうと,日本も変える.」 この二つは,小泉氏にとって同じことなのでしょう.私たちは,それらを区別します.
JT Saturday, August 13, 2005
Toward a two-party system
JT Sunday, August 14, 2005
Reform mantra mesmerizes
By GREGORY CLARK
WP Monday, August 15, 2005
The Stakes in Japan's Vote
(コメント) 日本が二大政党制になって,政治的なダイナミズムを回復することを待望するJTの論説は正しいと思います.
GREGORY CLARKは,小泉改革も,スローガンによる催眠術を解けば,過剰貯蓄問題の解消方法を選択する問題に行き着く,と考えます.なぜなら,郵便局のサービスは国民に支持されており,民営化する理由になりません.その金融資産が政治家や官僚の汚職や浪費につながることは,他の方法でチェックできます.要するに,350兆円の貯蓄を民営化すること,が目的なのです.
小泉氏は,その経済顧問である竹中氏と一緒に,民営化で経済が回復する,と主張します.しかしCLARKは,デフレの解消にはならない,と批判します.ゼロ金利で,日銀が資金供給を潤沢に行っても投資が伸びない.過剰貯蓄(過少投資)が問題なのに,郵便貯金を民間市場に委ねることで何か解決できるのか?
結局,銀行だって金融緩和が進みすぎるとバブルで貯蓄を浪費した.ゴルフ場や買い手のないマンションなどを建て続ける方が,道路やトンネルを残すことよりも,国民にとって無駄ではないか? 他方で,公務員の削減や財政支出削減など,小泉改革も民主党もデフレを再発させるスローガンを平気で唱えます.
CLARKは明確なケインジアンで,小泉・竹中構造改革=サプライ・サイダーを批判する論争点が良く分かりました.デフレを解消するには,いずれにせよ今も日銀がやっているように,もっと貨幣を握らせて支出を促すしかない,と考えます.それが民間であれ,政府であれ.国債を,一時的に,日銀が引き受けてもよい,と言うわけです.もっと政治家にも,経済改革の中身を論争してほしいです.
WPは書きます.「われわれは小泉氏がその政治的賭けに勝って,9月11日の選挙後も議会の多数を得ることを希望する.」 なぜか? 「小泉氏が郵政改革の権限を確立したら,その他の改革も政治的にやりやすくなって,現在の景気回復(たとえ2%程度の成長でも)が維持されるチャンスも増えるだろう.」 日本がもっと成長すれば,日本そしてアジアに対してアメリカは対外不均衡を調整し安くなり,また,たとえアメリカの成長率が低下しても世界経済の拡大を維持できるからです.
他方,WPは民主党が政権を担うことを嫌っています.なぜなら民主党の経済政策は不明確であり,さらに,アメリカとの協力を後退させ,イラクから自衛隊を引き揚げるかもしれないから,と.アメリカのイラク政策に日本が協力しないというのは,アメリカにとって9・11という投票日とともに,不吉な予想なのです.
Aug. 12 (Bloomberg)
N.Z. Is Test Case for China Trade
William Pesek Jr.
巨大な力を持つアメリカでさえ,中国については爪を噛んでいるのに,970億ドルの規模しかないニュージーランドが1兆6000億ドルの中国経済に飲み込まれるのを心配するのは無理もない.要するに,ニュージーランドは中国経済の拡大に飲み込まれるのか?
ニュージーランドは,この世界でもっともダイナミックな経済と自由貿易協定を結ぶ最初の国になった.それ以来,一つの問題について多くの文書が書かれた.すなわち,ニュージーランドの生き方,その生活水準は,中国との自由貿易によっても失われないか? つまり,ニュージーランドは中国の経済ブームについてのリトマス試験紙になった.ニュージーランド人にとって,中国は興奮と恐怖の混合物なのだ.
しかし,ニュージーランドが恐れることは何も無い.なぜなら,ニュージーランド経済は好調だし,中国との貿易ほどニュージーランドにとって利益をもたらすものは無いからだ.中国はもちろんアジアを根底から揺るがすだろう.そして企業も政府も,何を自分たちは提供できるのか,再考しなければならない.ニュージーランドは,テレビ,衣服,自動車などで国内生産を終わらせ,製造業では1985-91年に6万人が失業した.
ニュージーランドは進むしかなかった.利益が出るまで階段を上って,そこに焦点を絞ることだ.そして,その他の商品はもっと安く作れるところから輸入する.それによって消費者が利益を受けるだろう.しかし,アジアの多くの国はまだこの論理に逆らっている.時間の問題だ.ただし,ニュージーランドが正しくカードを切らなければならない.中国は本物の市場を提供するが,強く要求しなければ市場を開かない.またニュージーランドは,中国政府による低利の融資や,アメリカなどによる農業補助金も止めるべきだ.
NYT August 12, 2005
U.S. to Seek Textile Pact With China
By BLOOMBERG NEWS
FT August 17 2005
Quotas on China textiles backfire
By Karien van Gennip, Bendt Bendtsen, Thomas Ostros and Paula Lehtomaki
(コメント) アメリカの繊維産業を守るために,アメリカは中国との間で,セーフガードや輸出自主規制について合意しました.
他方,ヨーロッパでは早くも輸入規制の弊害が現れています.セーターの供給が足りず,小売店は困っています.消費者はその種類の少なさにも不満です.貿易業者が倒産し,あるいは,大きな損失を被っています.
問題は,輸入を規制できるという時代遅れの政治家・官僚たちの考えです.今や国内生産でも,その多くが海外生産と結びつき,依存しています.アウトソーシングや輸入された原料などに依存することで,国内生産者の競争力も維持されているのです.その輸入やアウトソーシングを規制するのは,国内生産にとっても自殺行為です.
ヨーロッパの繊維産業は,既に,ほとんどの生産工程を海外で行い,国内ではデザインや流通・小売の組織だけに絞って利益や雇用を増やし,成功しています.もちろん,国によっても,業界や企業によっても,違いがあります.だから,保護がたとえ行われるとしても,ビジネス環境を不確実なものにいせず,予測可能な措置でなければならない,と主張します.
The Guardian, Friday August 12, 2005
It is not only Iraq that is occupied. America is too
Howard Zinn
WP Monday, August 15, 2005
America's Muslim Ghettos
FT August 18 2005
Coherence is the first need for state-building
By Mark Etherington
(コメント) アメリカはイラクを占領しただけではない.アメリカ国内にも占領政策は及んでいる.そして,イスラム教徒たちはますますアメリカ国内のゲットーに集められている,と.
Howard Zinnは,アメリカが解放者ではなく,征服者になったことを嘆きます.しかもその征服がどれほど失敗し,住民から敵視され,自分たちも堕落させているかを嘆きます.アメリカはとんでもない過ちを犯している.戦争そのものが甚大なテロ行為である.
「私は目覚めて,考える.アメリカ大統領は暗殺者に囲まれているのだ.スーツを着た暗殺者たち.彼らは国の内外で失われる人命を無視している.人々の自由も,地球環境や水,大気への悪影響も,子供や孫たちのことも考えない.」「私たちには確信がある.人類はだまされているから暴力やテロを支持するだけだ.われわれが真実を学ぶとき,ベトナム戦争でも起きたように,人々は政府に背を向けるだろう.」
Salam Al-Marayatiは,イスラム教徒が社会的,政治的,精神的に社会から隔離させ,その国に帰属する意識を持てないこと(ゲットー化)が,イスラム過激派やテロ組織に勧誘される土壌を与えている,と指摘します.イスラム教の聖職者やモスクは,その土地の法と秩序を尊重し,信徒たちが過激派に流れないように,地元政府と協力する姿勢を明確にしています.
イラクでも,アメリカでも,人々は社会的な統合を尊重し,政治家や社会制度が一体感を持つようにしなければなりません.互いを分離し,排除しようとすれば,人々は境界をめぐって争い,強固な信念や武器によって,これを死守するようになります.逆に,雇用や市場の拡大は人々の境界線を溶解し,繁栄を分かち合うように促します.その中でだけ,民主主義国家は育つのです.
WP Friday, August 12, 2005
Lessons for an Exit Strategy
By Henry A. Kissinger
(コメント) Henry A. Kissingerの意見によれば,アメリカ兵のイラク撤退は,1.アメリカ国内政治が強い支持を表明し,2.新生イラクが安定した地位を得る国際的枠組みがあるときだけ,成功となります.なぜなら,ベトナム戦争の始まりから,その拡大,終結を経験した者なら知っているように,軍隊を引き上げることは逆転することが非常に難しいからです.
ベトナムがそうであったように,占領下の政治や社会が安定化に向かっているかどうかは容易に判断できないのです.もし紛争が再発したら,アメリカ軍は引き上げを中止し,再配置されねばなりません.しかし,それは強い反対にあって,政治的に実現不可能でしょう.
アメリカ軍を次第に自国の警察や軍隊に入れ替えること,すなわち「ベトナム化」も,当時は成功したと考えられていました.しかし,彼らが新しい秩序をどこまで守るかは,その国内政治における統合・合意の強さ,正当性にかかっています.イラクのように内戦と分裂の危険が常に潜伏し,政治システムの安定した運営が保証できていない国では,アメリカ軍撤退後の秩序をイラク軍だけに頼ることは危険です.
アメリカ軍が早期に撤退して,もしイラクのたとえ一部にでも,タリバン型の国家やイスラム過激派の政権が成立するようなことになれば,その影響はある意味でベトナムを放棄したよりも深刻である,とKissingerは主張します.確かにイラクはベトナムのような冷戦構造を背景に持ちません.しかし,それは世界の文化や信仰,イデオロギーに深く関わっています.それゆえ衝撃は周辺諸国どころか,主要諸国にも及ぶでしょう.
要するに,憲法制定と国民投票,議会選挙によって,イラクの政治的統合と社会機能は回復するでしょうか? 本来の国家が誕生し,友好国がイラクの国際関係を安定するために協力することを確認できるまでは,アメリカ軍が撤退を表明するべきではない,とKissingerは考えます.
The American Prospect 08.15.05
How to Get Out of Iraq
By Robert Dreyfuss
LAT August 16, 2005
An exit strategy for Iraq now
By Tom Hayden
(コメント) 兵士たちをイラクから帰国させることはできないのか?
Robert Dreyfussも,同じくベトナム戦争の終結を実現した,1970年代のパリ和平交渉を想起します.アメリカ軍を撤退させるためにも,イラク和平に関する国際会議を招集することです.ヨルダンの首都アンマンで,国連が主催し,ロシアや中国も支援して,アメリカ軍とイラクの暫定政府,そしてイラクで武装闘争を続ける主要なグループも一つの交渉の席に就き,停戦から和平,政治参加に向けたプロセスを合意させるのです.
そのためにもアメリカは,信頼醸成の一方的な手段を積極的に取ること,武装勢力に対する一方的な戦闘停止を宣言し,正当な要請を受けたもの以外は,兵士たちを基地に撤収させること,が重要です.しかし,その前にブッシュ政権が正しい情勢判断を行い,このままの占領政策を続けてもアメリカは勝てないことを認めることだ,と.また,新しい国家機構が機能するためには,スンニー派を全面的に選挙に参加させ,シーア派の穏健派を支援し,クルド人の過大な要求を牽制することだ,とも指摘します.
反戦派は,Cindy Sheehanの道義的な戦争終結の訴えだけでなく,実際に戦闘を終わらせてイラクを再建するプロセスについて提案しなければならない,とTom Haydenは求めます.「即時撤退」だけでは解決できないのです.ところがブッシュ政権も,2006年の中間選挙まで,現在の占領政策は成功しており,事態は好転している,と主張するつもりのようです.
米軍撤退の政治交渉を進めるには,@武装勢力も含めた交渉のための信頼醸成,A戦闘停止や武装解除,復興に向けた交渉とその監視を国連が担う,B占領軍と区別された,大統領の認める和平交渉の権限を持った代表団を組織する.実際,大統領もメディアも無視していますが,イラク議会からも米軍撤退を求める声は出ています.
イラクの平和と経済的繁栄を実現することが目標なのです.
IHT SATURDAY, AUGUST 13, 2005
It's time China and Japan started to get along
By Jing-dong Yuan International Herald Tribune
JT Monday, August 15, 2005
Soul-searching for peace in Asia
Asia Times Online, Aug 16, 2005
The anniversary elegy
By Yu Bin
FT August 16 2005
Asian reconciliation
(コメント) 「終戦記念日」,もしくは日本による軍事的侵略・占領からの解放を祝うアジア諸国の戦争記念祭が続きます.
Jing-dong Yuanは,冷静に,日中関係の歴史と現在の問題点を指摘しています.日本と中国が互いの貿易他投資を拡大しながら,政治的な対立や疑心暗鬼,攻撃的な姿勢を強めてきたことに鑑みて,次のことを求めています.@両国が互いに共存する道を学ぶこと.A政府高官が毎年定期的に訪問し,情報交換できる機会を制度化すること,Bメディアは互いに相手国の理解と協力を促すよう,報道内容に注意すること,C草の根的な民間交流を拡大すること.
JTの論説は,憲法9条の不戦原理を強調しています.しかし,Yu Binは,原爆投下と無条件降伏後,60年を経ても,なぜ「平和主義」の日本を近隣諸国はこれほど心配しなければならないのか? と問います.それは,政府も含めて,極右の歴史的な戦争責任を否定する姿勢が繰り返し世論に影響を及ぼし,政策にも示されてきた,と感じるからです.そして日本を支配し,日本に政治的な変更を迫ったのは,アジア諸国ではなく,アメリカでした.
日本政府も中国政府も,アメリカの求める民主主義を含めて,よりバランスの取れた理解を形成するべきだ,と.
しかしFTも指摘するように,たとえ小泉首相が過去の戦争を反省し,アジアの平和を祈念するとともに,不戦を誓う演説をしても,アジア諸国は和解できません.なぜなら,同時に多くの日本の政治家が,小泉氏も含めて,靖国神社や戦争責任を矛盾した形で示すからです.むしろ日本は,靖国神社や神道,昭和天皇に結びつける形で,戦没者や戦争を記念する行事を行うべきではない,と明確に主張します.
他方,中国については,政府間の交流を拡大して,政治指導者が互いの和解を促す談話や握手を示し,国民感情を導くべきだ,と考えます.
Aug. 15 (Bloomberg)
China's Internet Boom Looks Very Familiar
William Pesek Jr.
FT August 16 2005
Oil, the Middle East and the Middle Kingdom
By Jeffrey Bader and Flynt Leverett
(コメント) 中国でもIT投資は爆発するでしょう.中国市場の可能性は高く評価されています.しかし,その経済運営への不安とともに,世界中で繰り返されたITバブルへの危険も伴います.
また,中国でも石油危機は起きるでしょうか? 石油確保に奔走し始めた中国を,アメリカは締め出したり孤立させたりすること無く,国際市場において石油が入手できるように協力するべきである,とJeffrey Bader and Flynt Leverettは主張します.
アメリカの市場を介した外交政策,中東地域の安定化と石油をめぐるバランス・オブ・パワーに中国を公式に参加させることで,むしろ秩序を維持しようとする基本的発想が明確に示されます.
The Asian Age, 15 August 2005
Why Iran will lead to World War 3
- By Mike Whitney
The Guardian, Monday August 15, 2005
How Bush would gain from war with Iran
Dan Plesch
LAT August 15, 2005
Iran's revolution isn't going away
NIALL FERGUSON
(コメント) イランが第三次世界大戦の開始を告げる? 確かに,ロシアの冬に負けたヒトラーのように,米欧日の連合軍も中東地域で長期にわたる戦争に深入りした場合,長い兵站経路や厳しい気候条件などから,最後に勝利できるとは限らない・・・ などと思いました.
Mike Whitneyは,チェイニー副大統領への報告からリークされた内容を紹介しています.すなわち,非常時における戦術核を利用した対イラン戦争の可能なシナリオ,です.核や石油に関して,原理主義のイラン政府と正常な交渉は期待できない,と考えるからです.アメリカ大統領には,常に,世界最終戦争の選択肢が託されています.
イラン政府は,イスラエルが核武装し,パキスタンやイラクに米軍が駐留していることを,自国にとっての著しい脅威と感じるでしょう.核の平和利用は,いつでも軍事転用する選択肢を持つために,もしくはそれを隠すために必要なのです.それゆえ,イラクやパレスチナにおいて,反イスラエル・反米の武装集団を支援している,と思われます.
EUによる外交的な解決が退けられた今,アメリカとイランが戦争する場合,イギリスがこれに巻き込まれてはならない,とDan Pleschは考えます.ブッシュ大統領は,イスラエルのTVに向けて,(核武装を企てるイランに対して)アメリカにはすべての選択肢がある,と明言しました.中間選挙を控えたブッシュ政権は,イラクにおける米兵の死者や石油価格を介して,イランの妨害に脆弱な立場にあります.アフガニスタンやイラクに侵攻したときも,国内政治が重要でした.
イラクよりも確かな証拠のそろったイランと戦争する場合,ブレア政権がブッシュと行動を分かつことは難しいだろう,とPleschは考えます.しかし,大量破壊兵器に対して国際的な行動が足りないことを指摘します.その他の国の核疑惑も以前から議論されてきました.戦争する以外に,もっと外交的な,多角的な選択肢があるはずだ,と.
NIALL FERGUSONは,フランス革命やロシア,中国の革命を見ても,イランの革命はまださらに国際的な影響を与えるだろう,と考えます.イランにおけるイスラム革命は今も続いており,パーレビの抑圧体制を支持したアメリカに復讐するときを待っているわけです.ヨーロッパの宥和策も,国連の制裁も失敗に終わった今,アメリカによる空爆と,それに対するイランの報復が始まります.
FT August 15 2005
World is heading for oil price shock
By George Magnus
NYT August 17, 2005
Economy Shows Signs of Strain From Oil Prices
By JAD MOUAWAD and DAVID LEONHARDT
(コメント) 石油価格はますます高騰し,石油危機が再び起きて,世界の市場メカニズムを破綻させるのでしょうか? あるいは,中国やインドはともかく,世界経済の石油依存は低下しており,石油危機は再現しない?
JAD MOUAWAD and DAVID LEONHARDTは,石油価格の上昇が人々の消費を抑制させる例を紹介します.しかし,石油危機の高値に比べれば,インフレを調整した場合,今の価格はまだ安いのです.その他の商品が安くなったこともあって,消費はまだ抑制されていません.ただし,石油価格の上昇は緩やかに影響する,と言います.
石油危機においては供給の制約がありました.今回の危機は世界の成長加速と需要増加です.それゆえ,もし石油価格の上昇が成長を止めるなら,需要も減って価格が低下します.国や部門,企業によって影響は異なりますが,大きな危機にはならない,と言うわけです.
Herbert C. Kelman, Beyond the Gaza disengagement, BG August 15, 2005
Aluf Benn, Why Sharon? LAT August 15, 2005
Only the Beginning, NYT August 15, 2005
Daphna Baram, Disengagement and ethnic cleansing, The Guardian, Tuesday August 16, 2005
Richard Cohen, Gaza: Tomorrow's Iraq, WP Tuesday, August 16, 2005
Max Boot, Hamastan? Gaza pullout is worth the risk, LAT August 17, 2005
A marker for the future, The Guardian, Thursday August 18, 2005
(コメント) ガザ地区からイスラエル入植地を撤去するニュースが関心を集めています.イスラエル政府が,入植地拡大とイスラエルの膨張を転換したのか? ヨルダン川西岸地区で入植地を増やし,領土として併呑するつもりか? 飛び地としてのパレスチナ自治政府は機能するのか? ハマスは武装闘争をやめて政府に参加するのか?
NYT August 15, 2005
Social Security Lessons
By PAUL KRUGMAN
(コメント) 70年目を迎えた社会保障制度を,PAUL KRUGMANはアメリカで非常に成功している制度だ,と賞賛します.ブッシュ政権は,それにもかかわらず将来の赤字を予測し,それを解決する魔法として民営化を主張し,政治的に分離された国民の資産を簒奪しようとしている,というわけです.日本の郵政民営化論と比較してみたい問題です.
Asia Times Online, Aug 16, 2005
Unwinding global imbalances
By Huw McKay
(コメント) 貯蓄不足の慢性的な赤字国と,貯蓄過剰な慢性的黒字国との不均衡は,構造的なものであり,為替レートの調整によって解消できる循環的な不均衡ではない,とHuw McKayは主張します.アジアやラテン・アメリカが通貨危機に対応した貯蓄過剰に移行した結果として,アメリカの巨額の赤字は発生し,それを縮小する過程で世界不況を招かないためには,黒字国が内需主導の成長を刺激することである.為替レートでは解決しない,と.
FT August 16 2005
Eurozone faces governance conundrum
Paul de Grauwe
過去5年間に,アメリカとヨーロッパのマクロ経済運営はその対照性をますます顕著にした.ECBは金利を動かすことに慎重なままであったが,アメリカの連銀は極端なまでに行動した.同様に,ユーロ圏の総財政赤字は不況の始まった2001年以降もほとんど変わらなかったが,アメリカの財政は黒字から赤字へ変化し,その程度はGDPの5%を超えた.
この違いはどこから来るのか? 明らかに一部は,ユーロ圏は非常に異なった経済状態の諸国を集めた多様な集団であるという事実から来る.このことがユーロ圏の金融・財政当局に政策合意を形成しにくくしているし,経済状態の変化に迅速な行動も取れない.
しかし,これは説明の一部でしかない.同様に重要なことは,アイデアの力である.ジョン・メイナード・ケインズが述べたように,「実際に働く人々は,常に,死せる経済学者の奴隷である.」
フランクフルトの実務家たちは,経済の循環が技術(もしくは生産性)のショック,そして嗜好の変化から発生する,という理論の奴隷となっている.こうした動きに対して中央銀行にできることは何も無い.もし中央銀行が経済を余りにも「微調整」し過ぎると,その結果,インフレを高めてしまうだろう.だから,中央銀行にできる最善のことは,物価水準を安定化することである.それはこうしたショックの影響を最小化するだけでなく,成長を促す点でも,なしうる最善のことである.それ以外のことはすべて政府の責任だ.もし彼らがもっと成長を高めたいなら,構造改革を行うことだ.こうした考えによれば,経済を安定化するために積極的な財政政策は必要ない.ブラッセルの実務家たちにとって,政府がなしうる最善のこととは,予算を均衡させることだ.
ワシントンの実務家たちはまったく異なったアイデアによって影響されている.それらはケインズ派の考え方に深く由来する.この考えによれば,生産性ショックだけでなく,需要ショックが存在する.「アニマル・スピリッツ」,すなわち楽観と悲観の波,が消費者と投資家を襲うのだ.これらは自己実現的予言の要素が強い.悲観が蔓延すると,消費者も投資家も支出を控え,それゆえ生産や所得が減って,その批判主義が現実になる.楽観が支配的になれば,消費者も投資家も大いに支出し,それゆえ生産も所得も増えて,その楽観主義が現実になる.
こうしたケインズ派の考えによれば,中央銀行の責任は物価の安定化を超えて及ぶ.インフレ率を目標とするだけでは安定化することのできない需要の変化が存在するのだ.さらにこの見解では,消費者や投資家のムードが変化したことに対して,たとえヨーロッパの政策担当者たちが神秘的な3%という制限に魅了されているとしても,それ以上の赤字予算を立てる責任が政府にはある.
ヨーロッパの政策担当者たちに強い影響を及ぼしている理論が,少なくとも学界では,今,支配的である.さまざまな呼び方があるけれど,ここではそれを新古典派理論と呼んでおこう.その理論はアメリカの経済学者が開発したのに,アメリカの当局によって無視され,ヨーロッパで非常に重視されているのが面白い.また同様に,ケインズ主義は学界で完全に信用されなくなったのに,この10年間アメリカの当局を動かし,しかも機能しているようだ,というのも不思議である.
成長と安定性を実現するのはどちらの理論なのか,多分,まだ決めるには早すぎる.これらの理論を評価するよりも,私は新古典派理論がどのようにユーロ圏のガバナンス(統治構造)を正当化するために利用されてきたか,を考えたい.
金融政策を考えてみよう.ECBは,許可を得ることなく,失業に関するどのような責任も取らない.その責任は各国政府にあり,そうすることが新古典派理論の教えでもある.すなわち,中央銀行は政治家たちの言うことを聞かず,物価の安定化に集中せよ.新古典派理論の見方では,ECBを攻した政治家たちから孤立させ,ユーロ・タワーの中にしまいこむ統治構造こそ最善である.
しかし,失業の責任を各国政府に負わすことで,ECBは政治問題を生じる.も資本等に,各国の政治家だけが失業に責任を持つなら,つまり,失業が増えれば落選するというのであれば,彼らは当然,利用できる手段は何でも使って,通貨的手段も用いて,これと戦うだろう.
ユーロ圏の財政政策にも同じ問題が生じる.均衡財政を称える理論に従い,欧州委員会は各国政府の歳出を削り,増税させるための手続きを開始している.しかし彼らはこの決定に何の政治責任も負っていない.それは各国政府の責任だ.委員会の決めた歳出カットと増税の手順に従えば,彼らは次の選挙で政権を失ってしまう.これに反して,委員会は選挙で地位を失う心配がまったく無い.
ユーロ圏の統治構造を新古典派理論によって正当化することは,ただ,その弱点を隠しているだけである.すなわち,ユーロ圏の経済を管理する権力はヨーロッパの諸機関に与えられているに,彼らはその行動に政治的責任を負っていない,ということだ.他方,各国政府は,マクロ経済手段を失ったにもかかわらず,有権者にヨーロッパ・レベルで経済運営の失敗を説明しなければならない.
こうしたお粗末な統治構造は持続可能ではない.ここから抜け出すたった一つの道がある(通貨同盟を維持したい者にとってであるが).それはヨーロッパ・レベルの機関を設けて,すなわち政治責任を担うヨーロッパ政府と,正当な権力を帯びたヨーロッパ議会であるが,それらがマクロ経済政策を決め,その行動に対する政治責任と,独立した中央銀行の行動にも責任を負うのである.こうしたことには強い政治同盟が必要だ.ただし,今日のヨーロッパがそのような解決を好まないだろう,というのは認めるしかない.
FT August 16 2005
Australia seeks 20,000 skilled immigrants
By Tim Johnston in Sydney
(コメント) 中国の成長によって,アジアからオーストラリアまでブームが広がり,オーストラリア政府は不足した熟練労働者や技術者,2万人を移民によって補おうとしています.ただし,解雇が困難であるという事情が,それを抑制しているようです.
Aug. 16 (Bloomberg)
India Discovers $3-a-Day Back-Office Workers
Andy Mukherjee
IHT WEDNESDAY, AUGUST 17, 2005
An open economy, a closed society
By Bruce Bueno de Mesquita and George W. Downs
The Guardian, Thursday August 18, 2005
Edwardian summer
Larry Elliott
(コメント) グローバリゼーションと,富,民主主義,平等,などの関係を考えています.
Larry Elliottが,グローバリゼーションUの行く末を案じる理由は,次の三つです.@かつてと同じように,国境を越えた資本移動,自由貿易,市場メカニズムが政治システムを破壊するかもしれない,Aグローバリゼーションは,中国やインドの台頭に示されるような,世界のバランス・オブ・パワーを激変させる,B石油価格の上昇が,もっと根本的な資源の不足から大国間の領土拡張や戦争をもたらすかもしれない.
The American Prospect, 08.16.05
"Megachurch" Madness
By Rob Garver
(コメント) イギリスやヨーロッパではイスラム教徒やテロを是認するような説教が論争となっています.他方,アメリカのメガ・チャーチはさまざまなハイテク通信手段を駆使して,キリスト教右派や保守派の説教を全世界に流します.アジアでもレイシズム,歴史論争,・・・
BG August 17, 2005
Talk to Cindy
WP Thursday, August 18, 2005
When the War Won't Stay at Bay
By Peter Beinart
WP Thursday, August 18, 2005
Politics as Theater
By Jim Hoagland
(コメント) 最高裁判事に指名されたロバーツや,夏休み中のブッシュ大統領に会うため牧場に来たシーハンは,アメリカが個人の行動や発案で,潜在的に,大きく変わる社会であることを示しています.
Aug. 18 (Bloomberg)
Hong Kong Is Real Beneficiary of Yuan Move
William Pesek Jr.
「香港がドル・ペッグを維持するのは,経済学というより,政治学の問題だ.1983年以来,ペッグはこの小さな,開放経済に,アジアでは珍しいほどの予測可能性を与えてきた.通貨の安定性と,世界一流の銀行,透明な法システムが,今も香港を中国のゲートウェイ都市として繁栄させている.」
しかし,ドルの変動に従うには,香港の地価や物価が大幅に変動して競争力を維持する,という驚異的な弾力性を要求されています.それを維持できるかどうかも,政治的な問題です.
今回の人民元切上げは香港にとってプラスです.中国向けの輸出が伸び,中国からの観光客や投資が増えます.しかし,人民元がドルを離れて独自に動き始めたことが,今後も,香港通貨のドル・ペッグに有利に働くとは思えません.ここでも,香港の生活水準は次第に(アメリカではなく)中国に引き寄せられるのか? という疑問が論じられています.
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The Economist, August 6th 2005
Race in America: The black hole
Blacks in America: Free to succeed or fail
British politics: The parable of the supermarkets
Brazil and China: Falling out of love
(コメント) 日本にいれば「60年目の終戦記念日」という文句を何度も聞きました.しかし,アメリカでは南部における黒人差別撤廃に大きな力となった投票権法の40周年です.
南部では,奴隷解放後も,奴隷の子孫である多くの黒人が同じ綿花畑で働き,プランテーション内の店でしか使えない紙幣で賃金をもらい,年々,債務だけが残りました.マーチン・ルーサー・キングは,アメリカの貨幣を見たことが無い農夫に出会ってショックを受けた,といいます.黒人は日常的に暴力や脅迫を受け,選挙で投票することもありませんでした.40年前までは! ・・・私は驚きました.
公民権運動と新しい法律がアメリカを変えました.黒人たちはその権利を使って政治的な影響力を得,社会進出に成功しました.しかし,ヒスパニックやアジア系のアメリカ人に比べて,自由な黒人は今も多くが貧しく,犯罪や麻薬,低学歴,家族の崩壊に苦しんでいます.アメリカの黒人は政治的特権や優遇制度に頼らず,自ら変わる必要を主張し始めました.
イギリス保守党の再起を,テスコに負けたSainsbury’sに比べて分析したり,ブラジルと中国との熱烈恋愛関係が冷却して,もっと大人の競争と補完の貿易関係を深める展望につなげたり,相変わらず論説は多彩で,刺激的です.
日本にいれば,次の衆議院選挙投票日は9・11です.アメリカ人にとっての9・11テロは60年経っても必ず議論されるでしょう.日本にとっての2005年9・11選挙もそうなるでしょうか・・・?