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IPEの種 8/22/2005

8月15日の終戦記念日と靖国神社参拝を,小泉氏や中国・韓国政府は争点にしませんでした.

私は末っ子が描いた絵を観るため市立美術館に行きました.彼が描いたのは「海底世界」です.中央に,カブトガニの王様がいます.そして,外では泥棒のサメが中をうかがい,病院にイカの看護婦さんがいます.・・・なるほど,仕事が忙しくても,手足が多いよな〜! しかし,王様の部屋の下は暗くて,召使か,奴隷たちの部屋だ,と言うのです.

もし海底にも世界があるとしたら,多分,国があって,王様がいるだろう.だから世界なんだ.(多くの人間・生物がいっしょに生活しており,バラバラではなく,全体に及ぶ秩序がある.) しかし,王様がいるということは,多くの召使や奴隷,兵士たちもいて,王冠や宝石,だから,泥棒もいる.どんな国にも病院や学校があるだろう・・・ 彼はきっと,大好きなドラえもんの映画や,さまざまなロボット,マジレンジャー,仮面ライダーのTV番組から,「海底世界」についての想像力を得たと思います.

子供たちにとっても,世界には王様がいなければならないのか? 私は,一瞬ですが,暗澹とした気分になりました.

その夜,末っ子が寝るのに付き合って,子供部屋で本を読んでいました.

「王様がいない世界もあるぞ.」 私は昼間の彼の絵を思い出して話しかけました.「共和国だ.」 共和国には王様がいない.「共和国って何? 日本は何? 天皇は何?・・・」 王様や天皇は,血のつながりで決まる.しかも,天皇を継ぐのは男子だけだ(不公平!).・・・でも,最初の天皇はどうして決めたのか? と,彼は正しく尋ねました.

多分,戦って決めたのだろう.あるいは戦いが少なければ,相談して決めたかもしれない.王様は戦争だけでなく,いろいろなことをしたはずだから.占いをしたり,死者を葬ったり.彼,あるいは彼女が,農耕の時期も決めただろう.大きな建設工事も指揮したはずだ.だから最初の王様は非常に勇敢な指導者で,しかも知識があって,聡明でなければならなかった.そうでなければ他の国との戦いに負けて殺されるか,支配されたのではないか.・・・と話し合いました.

しかし,大統領や首相は王様ではない.なぜなら,市民の中から投票で選ばれるから.大統領も首相も市民の一人でしかない.しかし・・・ と,私は考えました.フランスのように王様を処刑して共和国になった国と,イギリスのように王室を維持した国との違いは何か? アメリカが共和国として独立を勝ち取ったのは,そのイギリスからだった.いずれが優れているとも言えないな.そして,日本はどうか?

難しいことは説明できずに,「もっと歴史を勉強して,そんな話を一杯学ぶことだ.」 そう言ったときには,フーン,そうか,と言う前に,すでにまぶたが重そうでした.彼は,自分で作ったダンボールとガムテープの剣を握ったまま,もう眠りかけていました.

夏休みになって,漸く小説を一冊読みました.ラリー・ボンドの『怒りの日』(文春文庫).1998年のテロ小説です.サウジ・アラビア王族の実業家は,同時に,国際テロ活動の支援者でした.ロシアでは法や秩序が崩壊し,さまざまな社会制度も財政難と腐敗によって機能せず,貧富の格差が拡大しています.そんなロシアから,石油や組織犯罪と並んで,数少ない国際商品である武器,特に,核兵器を購入し,彼はアメリカに持ち込みます.そしてGPSで自動操縦できる小型飛行機を使い,アメリカの政府・軍事施設と主要都市に,20個もの核爆弾を落とす計画を進めます.

9・11の前から,小説において,アメリカ人はその事件を知っていたわけです.よくできた話ですが,核爆発による死者はゼロ.アメリカは放射能にもまるで汚染されません.そんなアメリカの,清潔で,都合の良い核爆弾のイメージと,政治家やロビイストより規律ある軍人を理想とする社会像を,私は素直に楽しめませんでした.

これは核武装した哲人友愛軍国主義の世界です.ハードボイルドのアメリカで,頼れるのは同質集団だけ.中でも最も規律あるのが軍隊と宗教なのです.

NHK・BS「地球・街角アングル:ハドソン川夏景色」は,すばらしいボランティア組織を紹介していました.ハドソン川でカヤック(小さな手漕ぎボート)を教える団体です.ニュー・ヨーク市は無料でカヤックの保管場所と練習場を用意しました.

カヤックで川に漕ぎ出せば,川のパワーを感じることができる,と参加者の一人は言います.コンクリートの摩天楼に閉ざされたマンハッタンでも,地上から川に出るとまったく違う世界が感じられる,というのです.そして実際,70センチ以上ありそうな大きなスズキが泳いでいるのを,川からひょいと手でつかんで持ち上げました.

かつてハドソン川も工場や住宅からの排水で汚され,ひどい悪臭を放って誰も近寄らなかったそうです.しかし20年前に下水処理システムが整備され,川の環境改善に取り組むNGO団体が水質をチェックし,生き物の回復状態を調べて市民に知らせ始めました.数年前,カヤックのボランティア活動が成功したことからヒントを得て,ウォーター・フロントの再開発が,公的にも,民間でも,急速に広まったというのです.「都会を流れる川にも多くの命があることを知ってほしい」と,生き物の観察を続ける団体のスタッフは言います.

テレビを点ければ,どれも同じような選挙特集の番組を見ます.国民新党の立ち上げ,誰が刺客か,小泉氏の経歴,野党の反応,・・・ しかし誰も,本当は何がしたいのか,何がしたくて政治家になったのか,具体的なイメージをつかめません.40年前,アメリカ南部の人種差別は本当にひどい状態でした.20年前には,ハドソン川も見捨てられていたのです.しかし,アメリカ人はそれを変えました.「終戦」から60年目の記念日を迎えて,日本はどうでしょうか?

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