IPEの果樹園2005

今週のReview

8/15-8/20

IPEの種

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

*****************************

三つ+1だけ推奨するとしたら?

1 衆議院解散と小泉改革 :郵政民営化に賛成か? 靖国参拝と東京裁判

2 ヒロシマ :欧米の論調はヒロシマをどう見ているか? NPTの限界

3 中国は世界を導く :人民元はわずかに切上げた.アメリカではなく中国が世界経済を導く.

4 貿易自由化に反対 :僅差でCAFTA通過.貿易自由化に反対する理由.

******************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


NYT August 5, 2005

Design for Confusion

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 「インテリジェント・デザイン」という言葉を知っていますか? クルーグマンはこの言葉を発明した人物として,特にIrving Kristolを指名します.それはキリスト教の保守派が聖書に基づいて進化論を否定するために唱えたイデオロギーです.ただし,経済に関しての「インテリジェント・デザイン」です

Irving Kristolは,科学が主張することで企業の気に入らないことを,堂々と主張するために知識を乱造するシンク・タンクを繁栄させ,人材と資金を集中することに成功しました.サプライ・サイド経済学は減税によって赤字を減らせると主張し,間違いであるにもかかわらず,政治では優先順位が問題なのだ,と自己を正当化しました.

保守派のシンク・タンクが行ったキャンペーンの代表は,たとえば,地球温暖化問題です.保守派のシンク・タンクはさまざまな懐疑的レポートを発行し,意見の違いを宣伝して,人々にまだ解決できない問題であるという印象を与えました.それらは研究者による調査と批判によってできたように見えますが,実際は,エネルギー業界,特にエクソン・モービル社からの資金で行われています.

なぜこのような偽の研究が横行するのか? それは,科学者でないものには,それが研究なのか,主張なのか,区別がつかないからである.特に,統計やグラフが並べば,それで科学に見えるだろう.

「私はかつてこんな冗談を言った.もしブッシュ氏が地球は平らだと言えば,ニュースはこう書くだろう.『地球の形状については意見が分かれている』,と.「インテリジェント・デザイン」に関する多くの記事は,ほとんど,これに近い.」

アメリカの政治家の中には,ダーウィンの進化論を激しく憎む者がいます.しかし,これを学校で教えるな,学校では聖書の通りだったと教えろ,と主張することは,宗教を持ち込むとして禁じられています.そこで,進化論の科学的な基礎を疑い,「インテリジェント・デザイン」の論争を科学として宣伝し始めたのです.

WP Friday, August 5, 2005

Ignorance Is Bliss; Sometimes It's Policy

By Eugene Robinson

(コメント) クロフォードにあるブッシュ氏の牧場と北京の紫禁城とはまったく似ていない.しかし,ブッシュ氏と明王朝とは,一つの点で似ている.すなわち,国民の野心を抑え,無知な状態にとどめることである.

受精卵の幹細胞研究を禁止する姿勢について,Eugene Robinsonは批判します.同様に,ブッシュ政権の温暖化論争や「インテリジェント・デザイン」の論争を,勝手な確信と科学を同列において議論している,と批判します.

アフリカ沿岸まで軍隊を派遣し,アメリカ「発見」にも及ぼうとしていた明王朝は,その後,王朝の維持だけを優先して,進出の気質を失い,発展しなくなりました.今や,アメリカと中国の地位が将来において逆転するとしても不思議ではないわけです.


WP Friday, August 5, 2005

A Future Beyond a Funeral

By Ed O'Connell

FT August 8 2005

Iraq's slow slide into civil war

NYT August 10, 2005

No End in Sight in Iraq

By BOB HERBERT

(コメント) アメリカ空軍の中佐としてイラクで過ごしたEd O'Connellは,そこでの若者たち,母親たちの様子を思い出します.バクダッドのある若者は,毎日が空っぽだ,と不平を言ったそうです.ディスコも,カフェも無い.異性と交流できる場所が無い.彼の両親は地元のモスクに通うことも禁止しました.過激派に勧誘されるのを恐れたからです.彼は,多くの家族や親類であふれた家に早くから帰宅し,二階の自分のベッドの隅に腰掛けて何時間も壁を見つめて過ごします.

イラクの若者たちは,生きたまま死人に近いと感じており,救済や社会の再生を唱えるイスラム過激派に感化されやすいのです.西側諸国は,彼らの生活に,もっと豊かな機会と生きる尊厳とを与えてやらなければならない,とO'Connellは主張します.さもないと,彼らは過激な説教に心酔して自爆テロを決意し,殉教を称えるビデオでは笑顔を見せ,グループの監視下にあるため決行に際して逃げることもできずに,最後まで自爆を強要されるのです.

自国の経済が荒廃し,家族が失業に悩むのに,西側の企業は復興事業で莫大な利益を得ています.なぜもっとイラクの若者から新しい起業家が育たないのか? かつては美しかった公園を子供たちがごみ集めに歩くことでさえ,立派な社会事業に育てられたはずです.あるいは,若い女性たちや,戦闘の続く中でも家族のために生活を支えている婦人たちこそが,あの選挙で示したように,もっと社会参加し,発言する場を得るべきでしょう.

イスラム過激派たちが若者を使って人々を殺戮する「死の文化」よりも,若者や女性が社会を変えることができる社会,単に無意味に存在しているのではなく,社会再建の力となれる機会を豊富に利用できる「生きることへの文化」が栄えなければ,この戦いに勝つことはできない,と.

しかし,イラクでもっとも懸念される現状は,自爆テロによる米兵の死者ではなく,シーア派とスンニー派との内戦が始まりつつあることです.ザルカウィなどのスンニー派武装組織は,米兵よりシーア派の民間人を大量に殺戮し続けており,他方,政府治安部隊はシーア派に支配され,スンニー派の討伐を本格化しています.スンニー派の武装勢力はシーア派が支配する政府が機能しないことを願い,シーア派市民はスンニー派による攻撃を防げない政府に失望を深めます.

イラクに希望があるとしたら,スンニー派も参加した,社会的統合を担う正当性のある憲法・制度を確立することしかありません.

アメリカから見れば,・・・この戦争には終わりが無いのです.米兵は最悪のペースで今も殺されているのに,ブッシュ政権には緊急の対応を示す様子が見えません.すでにアメリカ人の死者1800人以上,イラク人の死者は数万人に及ぶ.

ハルバースタムの『ベスト&ブライテスト』がベトナム戦争について示したように,指導者たちは余りにも戦争のコストを軽視しています.政府スタッフは,イラクにいる一部の軍隊が帰国できる可能性を宣伝しますが,戦争に勝利できる見通しには触れません.ワシントンのビジネスマンに尋ねれば,イラク駐留を肯定するさまざまな理由を彼らが挙げるとしても,それでどうなるのかは分からないのです.むしろラムズフェルドが言うように,今後,米兵は増強されるでしょう.

「リンドン・ジョンソンがアメリカ軍をベトナムの破滅の業火に送り込んだとき,彼は何のまともな戦略も,勝利にむけた計画も持っていなかった.その考えは,要するに,われわれの子供たちはよりタフで,はるかに良い装備を持っているから,やつらの子供を簡単にやっつけてしまうだろう,というだけだ.これで説明終わり.その後,5万8000人のアメリカ兵がこの子供じみた幻想の犠牲になったのだ.」

ブッシュ氏はいつもどおり夏の休暇に入り,ワシントンには指導者がおらず,イラクの死者は今も増えている.しかし,学会やジャーナリズムなど,この国のエリートたちは真実を語ろうとはしない,と.


60 years, The Asian Age, 6 August 2005

Living in the shadow of the bomb, FT August 6 2005

(コメント) 原子爆弾投下から60年を経て,Little Boy や Fat Manが,絵本に出でてくる誰かのあだ名ではなく,ヒロシマと長崎に落とされた原子爆弾の愛称であったことを知らない人がほとんどかもしれません.アメリカ人のブラック・ユーモア? 今も,多くの国が核兵器保有国を目指しており,テロリストたちも狙っています.

特に,イランと北朝鮮です.核兵器の開発を禁じた核拡散防止条約(NPT)から両国が正式に離脱し,中東と東アジアで核軍拡競争が展開されるのは既に現実の脅威です.また,NPT自体が説得力や実効性を失いつつあります.NPTはアメリカやロシアの核保有・開発を止められず,インドはNPTの外でアメリカと合意しました.

FTは明確に述べています.NPTに失望したアメリカが,核輸出阻止体制proliferation security initiative (PSI)を指導することは間違いである,と指摘します.阻止できるかどうかは,正確な情報の収集と,この体制が各国を公平に扱えるかどうか,に依存します.良い核拡散と悪い核拡散を区別することも間違いです.アメリカは同盟国への拡散を認めようとしますが,イランもかつてはアメリカの同盟国でした.

アメリカ自身が厳しい核管理体制に従うなら,各国への説得力は増すでしょう.そして,イランのように,国際的な核拡散防止の要求を無視した国に対しては,厳格な制裁を行うべきです.

Marianna Torgovnick, It's Hiroshima day -- don't look away, BG August 6, 2005

Dominick Jenkins, The bomb didn't win it, The Guardian, Saturday August 6, 2005

Paul Oestreicher, The message of Hiroshima, The Guardian, Saturday August 6, 2005

An excuse for nuclear weapons, JT Saturday, August 6, 2005

JOICHI ITO, An Anniversary to Forget, NYT August 7, 2005

LYDIA MILLET, The Humblest of Victims, NYT August 7, 2005

John Hughes, Amid new proliferation threats, heed A-bomb survivors' plea, CSM August 10, 2005

BRAHMA CHELLANEY, No rationalization for Nagasaki attack, JT Wednesday, August 10, 2005

(コメント) アメリカ人は原爆のことを直視したがらない,とBGは認めます.イランや北朝鮮と交渉するときでさえ,原爆の影響については考えない.原爆が勝利を早めた,という説は間違いだ,とThe Guardianは主張します.日本軍は戦争を止めていなかったし,むしろその後,ソ連の原爆と水爆の実験は早められた.論説はトルーマンやアメリカ人を非難することが目的ではありません.核兵器を持つことではなく,政治交渉によって相互の安全保障を合意するしか解決できないことを,政治家たちはヒロシマによって思い出すべきです.

社会(そして国家)を<戦争の論理>にゆだねる限り,人々は破壊と殺戮を競って拡大するでしょう.ドレスデンその他のドイツ諸都市に対する絨毯爆撃によって,イギリス空軍が数万人もの市民を殺戮した後,チャーチルは空軍にメモを送りました.「このテロを,終わらすときではないのか? それとも,これが何か他のものだとでも言うのかね?」

戦争のさなかで,アメリカのキリスト教徒たちはヒロシマを非難しませんでした.Paul Oestreicherは,当時,13歳でニュージーランドに住んでいました.ヒロシマの翌日,彼の中学校で物理を教えていた先生が言ったことを忘れません.「これで戦争が終わる,・・・あるいは,戦争がわれわれを死滅させる.」 戦争を許してはならないのだ,と.

JTは,核兵器保有国こそが,核廃絶に向けた行動を起こしてNPT体制を機能させ,疑わしい国を強く説得できる,と主張します.NYTは,戦後生まれの日本人と,ヒロシマを訪れたアメリカ人の声に,ヒロシマ後の関係を展望します.


BG August 7, 2005

The A-Bomb as lifesaver

By Jeff Jacoby, Globe Columnist

広島,長崎への原爆投下を記念する60年目の日が来た.10年前は大騒ぎだった.スミソニアン博物館が,アメリカの核兵器使用は人種差別によるもので,正当な軍事的目的が無かった,と示唆する展示を計画していたからだ.

復元されたエノラ・ゲイの解説では,アメリカ人の野蛮さと日本の犠牲を語ろうとしていた.「ほとんどのアメリカ人にとって,この戦争はドイツやイタリアに対する戦争と異なっていた.これは報復戦争だった.ほとんどの日本人にとって,戦争は西側の帝国主義に対して自分たちの固有の文化を守るものだった.」そんなリビジョニズムがあふれていた.ワシントン・ポストが正しく要約したように,それは「信じがたいほどの政治的プロパガンダと,知的な欠陥」を示していた.

たとえば太平洋の映像では,博物館職員は103枚の写真を選んだ.96枚の日本人犠牲者と,7枚のアメリカ人犠牲者である.対照的に,70枚の映像は武装兵士を映すが,65枚はアメリカ人,5枚が日本人であった.たった1つの日本人証言がアメリカに対する敵意を示すが,10を超えるアメリカ人の表現は日本への敵意を示した.双方の本土として,アメリカの高賃金,フランク・シナトラ,人種差別の蔓延,他方,日本では子供たちが飢え,高貴な神風特攻隊を映し,「労働力の極端な不足」によって必要になった強制連行と強制労働が紹介された.

当然,退役軍人,軍事史家,議会は激しく抗議し,数ヶ月の論争を経て,スミソニアンはその偏った説明を取り下げた.エノラ・ゲイの展示に寄せられた最終的な解説は,歴史を正しく見ている.広島,長崎に投下された爆弾は,「二つの都市を破壊し,数万人に死をもたらした.」「しかしながら,爆弾を使用したことで日本は速やかに降伏し,日本本土に対する侵攻計画は不要になった.もし本州を制圧する上陸作戦が実行されていたら,アメリカ軍,連合軍,日本軍,そして日本の民間人に膨大な死者が出ただろう.」

10年後の今でも,リビジョニストは衰えていない.広島,長崎への攻撃は「史上最悪のテロ攻撃であった」し,その本当の目的はソ連を威嚇することだった,と彼らは主張する.

第二次世界大戦を生きた多くの者は,そのような評価をばかげていると思うだろう.歴史家のPaul Fussellは,当時,日本侵攻に派遣される予定であった多くの若者と同じように,その声を代表して太平洋戦争終結に関するエッセー「神さま,原子爆弾をありがとう」を書いた.彼は生き残れるとは思っていなかった.沖縄や硫黄島での戦闘は,すでに恐るべき流血の惨事を展開し,それでも日本上陸に比べれば一握りに過ぎなかっただろう.

「ヒロシマに先立つ数週間で,沖縄では12万3000人の日本人とアメリカ人が殺された」とFussellは書いた.既にヨーロッパで二度の負傷を経験し,更なる戦闘を思えば,息が止まった.だから原子爆弾が投下されたとき,「われわれは安堵と喜びに泣いた.われわれは生きられる.」

日本軍は負けることなど考えられずに,連合軍の本土進攻に備えていた.原子爆弾のショックがあったから,日本の指導者たちは戦闘を停止し,降伏することができた.「和平派が原子爆弾によって助けられた」「戦争を終える絶好の機会だ」という当時の天皇顧問や内閣秘書の証言は,まさに正しく事態を見ていた.

トルーマン大統領による新兵器の使用決断は,野蛮な戦争を終わらせ,日本を残虐な征服者から平和的な民主国家に転換させたのだ.60年を経て,あの原子爆弾が世界を改善したことは明白だ.


A deal for Iran, BG August 6, 2005

A Glimmer of Hope, NYT August 6, 2005

Won Joon Choe and Jack Kim, The logic behind South Korea's big embrace of North Korea nukes, CSM August 10, 2005

Kaveh L Afrasiabi, Miscues set up nuclear crisis, Asia Times Online, Aug 10, 2005

Michael Schwartz, The Iranian nightmare, Asia Times Online, Aug 11, 2005

Pirouz Mojtahedzadeh and Kaveh L. Afrasiabi, Iran's nuclear program: A crisis of choice, not necessity, IHT FRIDAY, AUGUST 12, 2005

(コメント) イラン,北朝鮮,そして,インド,パキスタン,イスラエル,など,核兵器の開発によって安全保障や国際政治上の優位を得ようとする国は再び増える傾向を示しています.韓国や台湾が核兵器を保有すれば,日本政府も(自衛のための)核武装に向けた国民投票を行うのでしょうか?

EUの主要国(フランス・ドイツ・イギリス)はイランに核兵器開発を断念するためのすべての好条件をそろえました.西側の技術を供与し,貿易・投資に関する優遇措置を約束し,イランの安全保障を認めています.これが最終提案です.他にはありません.もしイラン政府がこれを拒むのであれば,それは核兵器を開発して,自国の安全保障以外の目的に使用することを示唆するものだ,とBGは考えます.

北朝鮮についても,同様の条件をめぐって,6カ国協議が進んでいます.しかしNYTは,この協議で,北朝鮮が核エネルギーの平和利用を要求することは間違っている,と考えます.なぜなら北朝鮮政府はNPTに違反し,離脱した国であり,国際社会への復帰の条件を交渉しているからです.

しかし,興味深いことに,北朝鮮が主張する朝鮮半島の非核化に米軍の核兵器撤去を含める議論は,広島や長崎が求める世界の非核化に沿う内容です.協議に参加している日本政府の代表が,拉致問題解決にわずかな言質を求める現状は,非核化に臨む姿勢を疑わせます.

他方,アメリカ一国でも軍事的対決を主張する姿勢を転換したことは,イランや北朝鮮に対する多角的な外交に重要な舞台を与えた,として歓迎する評価をNYTは示します.問題は,交渉が成果を上げなかったときです.一致した制裁や具体的な行動を取れるでしょうか?

なお,韓国の一部の政治家が北朝鮮の核兵器開発をむしろ歓迎する世論を意識している事情とは,1994年に出版されて500万部を売り上げた人気小説が,統一後に朝鮮が日本を核兵器で威嚇する,という内容であったというのが印象的です.日本でも,中国でも,韓国でも,大衆小説やテレビの批評家などが,他国を敵として核武装する話によって人気を得る状況です.

イランや北朝鮮が合意を拒んだ場合,国連安保理や経済制裁,IAEAによる査察,などは機能するでしょうか? もちろん,さまざまな条件次第でしょう.Kaveh L Afrasiabiは,EUとの交渉が,テロ支援,WTO加盟,麻薬取引,など,核問題を余りにも他の条件と結びつけて,イランの望まない条件に従わせようとしたから失敗した,と指摘します.


FT August 7 2005

Why Federal Reserve must raise interest rates

By Stephen Cecchetti

FT August 7 2005

Wolfgang Munchau: How to rescue the eurozone

By Wolfgang Munchau

(コメント) 日本人は良く知っているはずです.金融緩和を続けて土地や住宅の価格が上がれば,何も富が増えたわけではないのに,誰もが豊かになったように思い込んで高級車に乗り,高価な買い物を楽しみます.しかし,それは誰もが喜ぶ結果をもたらしません.特に,金融政策の担当者には.

上昇した住宅価格は,引っ越すたびに大きな家を,そして追加の所得をもたらします.追加の消費や追加の借り入れが可能になります.Cecchettiは,これに対して住宅バブルの判断を避けた連銀の姿勢を批判します.

他方,ECBはどうでしょうか? ECBが政府に緊縮財政を求めるのは間違いだ.IMFが政府にリスボン合意と構造改革を急がせるのも間違いだ.EU市民が安心するような長期の成長戦略を示し,マクロ政策を景気刺激に向けて調整する必要がある,とMunchauは主張します.


LAT August 7, 2005

We only burned ourselves, baby

By Joe R. Hicks

LAT August 9, 2005

What we forget about Watts

By Walter Mosley

(コメント) 40年前のこの週に,ロサンジェルスの南で「ワッツ暴動」が起きました.Joe R. Hicksは,コミュニティーが再生の指導力を発揮できなかったことを率直に反省します.

南ロサンジェルスは放火や盗難が発生して,住民たちを脅かされていました.職を差別され,学校はぼろく,警官たちは彼らを軽蔑していました.暴動は事態を悪化させたのです.特に,黒人コミュニティーのエリートたちは,自分たちで未来を切り開くより,大きな政府の介入を求めました.

ネーション・オブ・イスラムは,黒人の自治を求めた数少ないグループでした.しかし,武闘派は革命や「ブラック・パワー」を主張しながら,さまざまな「貧困救済計画」に列を作りました.黒人の指導者たちは,第二次世界大戦後のマーシャル援助のようなものを期待していたのです.しかし,暴徒がスーパーマーケットや電器店,靴屋,薬・雑貨屋,衣装店を焼き討ちしているときに,雇用が増えるはずは無いのです.投資は回復せず,再び1992年に暴動が起きました.

黒人の指導者たちが,コミュニティーの外の良い学校にバスで強制通学させるよりも,南ロサンジェルスの学校教育を改善することに集中して取り組んでいたら,事態はどれほど変わっていたことか? いい加減な公共支出にリベラルが何でも賛成するのを止めて,黒人の失敗を率直に認め,批判していたら.

もし住民たちが,逮捕されるたびに警察官を責めるより,ギャングや犯罪を無くすために協力していたら,南ロサンジェルスはどれほど住みよい場所になったことか? また指導者たちが隣人を励まし,企業を起こさせたり,外からの投資にもっと友好的になっていたりしたら.しかし実際は,彼らは犯罪に囲まれ,銀行へ行くにも近隣地区でサービスを提供する者はいない.

暴動は叛乱であり,そこに住む人々が何世代も無視されてきたことへの,無意識の表現でした.Walter Mosleyは,当時,12歳でした.家族は既に西部に引っ越していたそうです.彼は暴動の地区を回りました.若者たちはビール瓶にガソリンを詰めていました.何世代も前から奴隷たちがつぶやいたように.暴動は叛乱であり,そこに住む人々が何世代も無視されてきたことへの無意識の表現でした.指揮するものがいない団結,理解することのない同意.世界中で人々は苦しんでいる・・・


NYT August 7, 2005

A Rising Yuan Won't Lift All Boats

By EDUARDO PORTER

FT August 10 2005

Lex: Renminbi

Renminbi linked to basket of four major currencies

By Richard McGregor in Beijing

NYT August 11, 2005

China's Trade Surplus Surged to $10.4 Billion in July

By KEITH BRADSHER

IHT FRIDAY, AUGUST 12, 2005

The yuan drifts in a fine mist

Philip Bowring

(コメント) B. Eichengreen, N. Lardy, J. Frankelなども意見を参考に,ともかく大騒ぎの末に2%の切下げを実施した人民元について,EDUARDO PORTERは考えます.中国だけでなく,すべてのアメリカ向け輸出国が為替レートを調整しないとアメリカの赤字は減らないだろう.これだけで製造業が復活する見込みも無い.日本が円高を受け入れたときも,アメリカに輸出する国が韓国などに広がっただけで,アメリカ国内の生産が増えたわけではなかった.むしろ金利が上昇するから,それに敏感な住宅建設や住宅取引が減少するだろう,と.

中国政府は,その変動為替レートの管理基準となる通貨バスケットに,ドルや円,ユーロだけでなく,韓国・ウォンやマレーシア・リンギ,オーストラリア・ドル,ロシア・ルーブルが含まれていることを公表しました.これは人民元がドルに対して急速に増価しないように,あらかじめブレーキをかける意図があるでしょう.しかも,どの程度まで変動を認めるのか,まったく分かりません.アメリカ政府が求めるような10%程度の切上げに達するまでの時間は,中国政府の判断によります.


FT August 8 2005

Closing the piggy bank

Lex: Japanese post office

Koizumi calls snap poll over reform vote

By David Pilling in Tokyo

PM's dream of meaningful reform shattered

By David Ibison in Tokyo

Aug. 8 (Bloomberg)

Japan Goes Postal. Good for Investors?

William Pesek

(コメント) 「郵政改革にかける小泉の執念は,その髪型のように,手に負えない.」とFTは伝えます.350兆円の国営貯蓄機関を民営化して,政治家による資源配分を,それゆえ金権政治を終わらせるチャンスです.その法案は不十分で,小泉氏の説明はなっておらず,衆院解散で脅す戦術は失敗でした.しかし,民営化は重要です.

(小泉氏もしくは構造改革を求める財界?にとって)最悪の場合,自民党は分裂した選挙戦で大敗するでしょう.郵政民営化は失敗し,インドのような?連立内閣の交代する,混乱した民主主義に向かうかもしれません.税制,社会保障制度など,その他の重要改革は停滞し,イタリアのような?財政破綻が迫ります.逆に,これで勝利すれば,金融部門を外資への売却で一気に改革することも考えられる,と株価は上昇します.

この選挙は,もし小泉改革派と反対勢力の対立になれば小泉氏が勝利し,反小泉の野党が優れた対案を示せば政権交代になるでしょう.今の流れは前者です.「旧い自民党を叩き壊す」という小泉氏の情念が,野党の呟きを圧倒しているからです.そして,余りにその主張が単純であれば,次第に,小泉独裁や市場原理主義という批判を招くでしょう.結局,竹中氏が懸念するように,小泉氏の敗北が意味することを予想すれば,将来の経済破綻を金融市場が選挙後ただちに実現するかもしれません.

小泉氏の財政政策は失敗であったし,金融部門の改革も形だけで何も成果を上げていない,と欧米のアナリストは批判します.自民党の政治家たちは,本気で経済改革に取り組む政治的意志を持ってはいません.それでも,これが日本の改革であり,その一層の継続に対して政治的な決断を国民に迫った首相は,明確に,改革の分岐点を作りました.

William Pesekは,日本の経済改革と政治状況をエッシャーの絵に喩えます.つまり,一見,ありそうなのだが,よく見ると,現実には決してありえない矛盾した姿が描かれている.

たとえば,「郵政民営化」です.小泉氏と近い財務省の元幹部で,アジア開発銀行総裁の黒田東彦氏は,郵便局が国家に支援を受けて民間銀行を圧迫している状態を特に不適当と指摘します.しかし,まさにエッシャー式の日本政治は,「民営化」や「分割」を水で薄めて,まったく民営化とは関係ないレベルにしてしまい,それでもまだ争っています.

日本の景気回復には二つの障害がある,とPesekは考えます.一つは,年金改革です.これが完成しなければ人々は老後の不安から貯蓄を減らせません.もう一つは,郵便貯金改革です.国民の金融資産を政治家たちから解放しなければなりません.その意味で,小泉氏の政治感覚は正しい方向を示しています.ただし,エッシャーの絵ではいけない.

FT August 9 2005

Koizumi's contemporary dilemma is haunted by history

By Ronald Dore

(コメント) ドーアの小泉批判は,日本の政治的保守派が経済改革と保守的立場を併せ持つ意味に注目しています.

地元中心の保守主義(反対勢力)が,反官僚,民営化万能の保守主義(小泉)にひとまず勝利を収めて,日本は選挙戦に突入しました.しかし,とドーアは考えます.次の選挙を決めるのは民営化ではなく,8月15日の靖国神社参拝と中国や韓国からの批判であろう,と.民主党はこの問題を争点として,明確な方針を示せば選挙に勝てる.

ドーアは,日本の保守派が,戦争の英雄を祭る靖国神社の性格や,戦争犯罪に向き合おうとしない姿勢を捉えて,民主党がその問題を解決するべきだ,と指摘します.その一つの可能な選択肢は,戦後の極東軍事裁判を根本的に見直すことです.世論が首相の靖国参拝に曖昧な支持を示す背景には,「勝者の裁判」を非難する日本の右翼批評家・漫画家の宣伝があります.主流派たちもサンフランシスコ講和条約ですべて終わった,と繰り返すだけです.こうした解釈で済まそうとすれば,日本の政治はこれからも戦後処理ができないでしょう.

ドーアの打開策は明確です.たとえば国連が実施主体となって,国際的に尊敬された歴史家を招き,中国人,韓国人,そして日本人を各一名ずつアドバイザーとして,極東軍事裁判を再評価してもらうのです.この再評価は,軍事的な正当性を持たない行為に関わり,多くが死刑となったB級・C級戦犯に関わらないでしょう.また虐殺そのものを否定したり,正当化したりする極右の主張は,ここで取り上げません.再評価されるのは戦争遂行の意思決定と,特にそれに関わったA級戦犯についてです.中国が問題にしているのもこれです.

ドーアは,善良な,何も知らない日本人が,一部の軍人によって戦争に巻き込まれた,という主張を退けます.当時を知る日本人なら,戦争は避けられないという論調,真珠湾攻撃の成功や初期の戦果に喜んだ国民感情を知っています.

しかし,重要な問題とは,それが日本の指導者たちを処刑しなければならないほど度を過ぎた行為であったのか,ということだ,とドーアは考えます.東条英機やその仲間は,もちろん,人種差別主義者でしたが,日本の人種平等という主張を拒んだ西側帝国主義者たちもまたそうであり,いわばその反発でもあったでしょう.中国やロシアが,ヨーロッパに負けない帝国を築こうとしたときも,同様に自民族の優位を主張したわけです.それは確かに人種戦争でしたが,日本政府は,ナチスのように組織的なユダヤ人やジプシーの殲滅計画を,決して立てませんでした.

ドーアはイギリス人として歴史ゲームを楽しみます.日本の指導者たちを19世紀のイギリスに見つけるゲームです.松岡洋介はパーマーストン(ただしウィットに欠ける),笹川良一はセシル・ローズ(ともに戦後の教育制度に関わった),そして東条はゴードン将軍にそっくりだ.ただしゴードンは,東条とその部下たちが南京を略奪する40年前に,北京を略奪した.

イギリスと日本との差は,日本の帝国主義が現れたのは遅く,しかも敗北したことです.勝者は,自ら帝国の時代を終わらせ,植民地の独立を承認し,そこに自由と民主主義を築いた,と自慢できました.日本の政治家たちも,世界的にもっと公平な視点を,中国や韓国,そして欧米諸国に対して要求できるはずです.

CSM the August 09, 2005 edition

The Blot on Japan Inc.

Asia Times Online, Aug 9, 2005

Koizumi commits political suicide

By J Sean Curtin

FT August 9 2005

Koizumi makes Japan decide

By David Pilling

JT Tuesday, August 9, 2005

Mr. Koizumi raises the stakes

(コメント) CSMは,郵政民営化が「日本株式会社」と自民党の長期政権を終わらせることを小泉氏は知っている,と書きます.それでも日本経済がその停滞を脱するのに,国民の貯蓄と雇用を解放するべきだ,と主張する勇気を示したのです.日本の有権者はこの指導者を支持するべきだ,と.

J Sean Curtinの論説は,日本の新聞を要約したような内容で退屈です.他方,David Pillingも日本の識者に意見を求めていますが,もう少し良い内容です.しかし,これが戦後初の,そして自民党にとっても初めての,イデオロギー選挙になる,というのは大げさだと思います.小泉自民党が勝つなら,改革が加速すると期待できるでしょう.他方,民主党や,多数による連立の将来は現状維持に過ぎません.8月15日の靖国参拝が争点となれば,政治がまったく異なる様相に変わります.

むしろ,隣組に依拠した縁故政治から,政策公約に依拠した論争による二大政党政治に向かう,というJTの評価に,たとえ希望としてであっても,分があると思います.

FT August 11 2005

Koizumi's gamble

Japanese opposition pledges cut in spending

By David Ibison in Tokyo

Asia Times Online, Aug 12, 2005 

Koizumi: Crazy like a fox

By Darrel Whitten

(コメント) FTは,民主党が郵政民営化に反対し,改革に消極的な姿勢を示したことを,小泉氏が勝利するチャンスである,と解釈しています.そして,自民党も民主党も勝利できない状態より,小泉氏が明確に勝利して改革推進の権限を得ることを望みます.

公共工事を半分に減らし,公務員の給与を20%カットすることによって,15兆円の歳出削減を実現する,という民主党の公約は,選挙に勝てるでしょうか? 日本の政治・経済改革にとって望ましいものでしょうか? そもそも実現可能性があるでしょうか? 私は疑問です.政官財の「鉄の三角形」を打破する,というのは,70年代のスローガンではないでしょうか? 野党としての格好良さを,時代遅れの「対決姿勢」に求めるだけだとしたら,その後の世界や経済の変化を,民主党は読むことができないのだ,と思います.多分,David Ibisonも.

小泉という政治家は,単に民営化法案を否決されて反撃する情熱家,自民党を解体して大敗することも気にしない狂人ではありません.彼は,その基盤に,旧来の郵政族に敵対する銀行族の勢力を率いているだけでなく,社会的なブームとなった国民的支持率の高さや,景気回復が本格化し,総裁任期の切れる直前に,選挙の勝利によって自民党の派閥解体・再編と経済改革の突破口を開こうとした,周到な計略を練った「キツネ」なのです.


FT August 8 2005

Blair survives clash of ideologies

By Philip Stephens

The Guardian, Tuesday August 9, 2005

The many myths of Robin Cook

David Clark

(コメント) イギリスの元外相ロビン・クックが突然亡くなりました.アメリカの対イラク戦争に反対して外相を辞任したように,トニー・ブレアと比べて,その政治姿勢や弁舌,政治家としての生き方は多くの関心を集めました.


CSM August 08, 2005

Beyond the season of death on the US-Mexico border

By Joseph Nevins

(コメント) 非合法な労働者がアメリカ・メキシコ国境を越えるために,そこでは多くの死者が残されます.国境を越えて経済活動が広がり,しかも不安定化する世界で,労働者たちは雇用や,より良い収入を求めて移動します.この現実を認めない結果が<国境の死者>なのです.世界の政治秩序は不公正で,社会システムは破綻している,と.


NYT August 8, 2005

That Hissing Sound

By PAUL KRUGMAN

WP Sunday, August 7, 2005

A Sharecropper's Society?

(コメント) PAUL KRUGMANは,アメリカの住宅バブルが終わりつつあることを示します.特に,アメリカの住宅市場を平均で見るのではなく,二つの市場に分けてみれば,それが良く分かる,と.すなわち,Flatland と the Zoned Zoneです.前者の住宅価格は基本的に建設費に過ぎませんが,後者では,急速な人口増加と土地利用制限によって,住宅価格が上昇しています.既存の住宅も含めて,価格が上昇する期待で売買されています.そして,バブルは価格上昇への熱意が冷めて,実際に稼げるものと比べるときに破綻します.しかも,その過程ではすべての人が苦しむのです.

アメリカ全体で見れば,それは貯蓄率が下がり,ますます多くの海外からの借り入れで暮らしている,という状態です.この状態を逆転させるとき,もはやアメリカ人は,アメリカの富や富を生み出す力の源の所有者ではなく,その小作人に過ぎないことを知る,とWarren E. Buffettは警告します


WP Monday, August 8, 2005

The Next Chinese Threat

By Sebastian Mallaby

(コメント) 中国国営企業によるエネルギー分野のアメリカ企業買収を阻止したことは,国際的な開発支援を後退させるかもしれない,とSebastian Mallabyは懸念します.

一方で,中国は成長を維持するために安定した資源・エネルギーの供給源を確保したいと考えています.もし市場からの供給を信頼し,自由にアメリカ企業を買収できるなら,中国は世界のエネルギー開発に追加の投資をもたらすでしょう.しかし,もしアメリカ企業の買収が次々と阻止され,市場による供給を信用できないなら,中国はアンゴラ,スーダン,イランなど,西側企業が忌避し,あるいは制裁によって市場から排除している腐敗した独裁国家とエネルギー契約や武器供与を進んで行うでしょう.

開発論の関心は,かつて貿易と援助でした.しかし,現代ではガバナンスの改善,情報の透明性や政府の責任が問われています.Mallabyは,特にガバナンス改善に貢献したNGOの活躍を取り上げ,Global Witnessを紹介しています.彼らは発展途上諸国の政府に開発問題の解決策を提示し,政府の腐敗を監視し,援助を提供している関係諸国に圧力をかけて,ガバナンスの改善に国際協調を図ります.

しかし,もし中国がエネルギー不安への対応として前者ではなく後者,すなわち腐敗した政府との関係強化を選択するなら,Global Witnessの提案は効果を失うでしょう.

Robert B. Reich, Will China Burst the Bubble? The American Prospect 08.08.05

Chuck Hagel, America must show wisdom in relations with China, FT August 9 2005

A punch bowl made in China, LAT August 10, 2005

Lawrence Lindsey, Confronting China’s bureaucracy on its own terms, FT August 11 2005

America's Summer of Discontent, NYT August 11, 2005

(コメント) アメリカ政府は,中国からの投資や企業買収,貿易不均衡,通貨摩擦,軍事的脅威について関心を強めています.


FT August 9 2005

Chance for Democrats to denounce protectionism

By Jagdish Bhagwati

FT August 10 2005

Why free trade has costs for developing countries

By Robert Hunter-Wade

(コメント) Jagdish Bhagwatiは,労働組合と民主党に,国内政治では労働者の権利を守り,国際政治では自由貿易を支持する道を選択するように求めます.国内政治で,労働組合が労働者の権利を無視することは,国内政治で,自由貿易を否定することと同じように,市場の機能を歪める,と考えるからです.

Bhagwatiは,どちらについても,労働者の地位向上を国民生活の改善として捉えるからです.「公正貿易(フェア・トレード)」や「国際的な労働基準」の要求は,国際政治の現状から,裕福な諸国が貧しい諸国の労働者を犠牲にして保護主義を主張することを意味します.

他方,Robert Hunter-Wadeは,余りにも単純化した「貿易自由化」を批判します.まず,自由化によって発展途上諸国が大きな利益を得られる,と言うのは間違いです.貿易自由化の利益は偏っており,必ずしも大きくはないし,それを実現する国内過程は容易でもありません.国内では完全雇用が維持され,いつでも他に効率的な職場があふれているという前提は,まったく現実を無視しています.他方,自由化によって確実に,関税収入と幼稚産業保護は失われます.

Wadeは,自由化論者がその他の改革による利益を軽視している,と批判します.特に,WTOは知的所有権に関する取り決めを発展途上国に適用すべきではないし,EUやアメリカが多角主義を破壊したことを容認するGATTの規定を見直すべきだし,国際通貨制度が不安定な金融市場に対する貿易のために発展途上諸国に莫大な外貨準備を維持させている(他の投資に向かうはずの資源を奪っている)ことを改めるべきだ,と主張します.こうした重要な問題,発展途上諸国にとって重要な利益を軽視して,貿易自由化の利益を誇張することは間違いである,と.


The Asian Age, 11 August 2005

CAFTA's close call a warning to US policy makers

- By Edward Gresser

(コメント) なぜCAFTA承認はこれほど難しかったのか? その理由を,@アメリカ経済の少数の分野は極度に保護されている.すなわち,繊維産業と砂糖.Aワシントンが,二大政党間で激しく対立している.貿易はその焦点となった.Bアメリカ国民が,貿易やグローバリゼーションと,アメリカ経済の利益について,疑い始めた.

政府は,グローバリゼーションに対する明確な対応策を示すべきだ,とEdward Gresserは考えます.すなわち,政府融資の明確な方針,国内貯蓄の増大,世界的な為替レートの調整,です.そしてアメリカ自身が,世界経済の示す機会に対応して変化し続けるように,研究開発や労働者の再訓練,再配置を迅速に行う条件を常に再生することです.

******************************

The Economist, July 23rd 2005

How to save Myanmar

Teenage behaviour: Pretend money

(コメント) ミャンマーの軍事政権も,イギリスの若者も,さまざまな説得と賞罰によって,正しい行動へと引き戻すことができるでしょうか? The Economistは,前者に“Yes”,後者に“No”,と答えます.

北朝鮮,イラン,イラク,パキスタン,アフリカ諸国,コロンビア,など,破綻国家や悪漢国家をめぐる国際社会の対応は明確な指針を示すまでに至っていません.しかし,支配者が自国に閉じこもって,国民の生活を疲弊させても省みない場合,制裁や支援をばらばらに約束しても時間の無駄であり,貧しい者を苦しめるだけです.The Economistは,主要諸国の協調と,制裁のエスカレートではなく,段階的な関係改善に導く基準と支援を示すべきだ,と考えます.

他方,イギリス政府が社会的な逸脱や暴力・違法行為に走る若者に対して,明確な賞罰があれば善行へと導ける,と考えるのは間違いです.これはブレア主義の,積極的に介入せよ,ただし市場メカニズムを利用して,という原則を,何でも当てはめるのは間違いだ,という批判です.

子供たちは,行為の社会的な善悪ではなく,賞与の基準を満たすトリックだけに習熟するでしょう.それはコミュニティーの監視や矯正能力をさらに退化させ,若者は教育の価値や社会的評価をますます軽蔑するようになるでしょう.学校で学ぶことは自分自身のためであるし,もし教育にそれほど魅力が無いとしたら,彼らの気持ちを賞与システムで解決することはできません.

警察官や教師にチップを支払わねばならない社会など,考えるのも嫌な姿である,と.


The Economist, July 23rd 2005

The revaluation: How far will it go?

The Economist, July 30th 2005

How China runs the world economy

AIDA in China: Anatomy of an epidemic

China and the world economy: From T-shirts to T-bonds

(コメント) 人民元の切下げと,通貨バスケットを基準として管理フロート制への移行は,今後,中国政府がどの程度まで変動を許すのか,見てみないと分かりません.

The Economistの論説は,むしろ中国政府が国内経済の運営(ソフト・ランディング)に成功するかどうか,に注目します.以前に比べて,政府はマクロ経済の変化に早くから注意し,行政的にも,市場介入的にも,過熱を抑えてきました.また,輸出や投資ブームだけでなく,消費の拡大や地方への波及など,国内バランスを改善した,と評価しています.それでもまだ国内の過剰生産設備や,対外的な貿易摩擦が問題になりますし,切下げがアメリカの圧力を回避する見込みも乏しいでしょう.

The Economistはまた,より長期の,世界経済が吸収しなければならない構造変化を考察しています.中国やインド,ブラジル,旧ソ連圏など,新しく世界市場に加わった労働力は,それまでの資本主義諸国の労働供給を倍増しました.すなわち,労働報酬(賃金)は低下し,利潤は増加するでしょう.中国が輸出する財(衣服から携帯電話まで)の価格は下落し,輸入する財(石油や資源)の価格は上昇します.そうした効果の全体としては,インフレが抑制され,以前の目標に従った金融政策は過度の緩和を示すでしょう.それゆえ世界中で,資産市場や土地・住宅市場のバブルが発生します.

これほどの利潤増大,資産価値の増大(そしてバブルや所得格差の拡大)をもたらしてくれたことに対して,資本家たちが世界最大の共産党国家に感謝するというのは,なんとも皮肉なことである,とThe Economistは指摘しています.

人民元はアメリカ・ドルから独立しただけでなく,今後ますます,世界の物価や金利を決める中心となるのです.このことを脅威としてアメリカや日本が保護政策や敵対姿勢を取っても,両者にとって得るところはありません.中国のことわざが言うように,「どうしても避けられない相手なら,歓待せよ.」