IPEの果樹園2005

今週のReview

8/8-8/13

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 ヒロシマと歴史認識: ヒロシマの原爆投下を,戦争を,どのように理解しますか?

2 中東の基層: テロではなく,アメリカが中東をどう変えているのか?

3 移民政策: ヨーロッパのテロと移民社会.アメリカの移民政策.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


FT July 26 2005

Union solidarity broken

AFL−CIO結成から50年を経て,その組織はとげとげしい分裂に向かっている.組合員の40%を代表する7つの組織が年次総会をボイコットしている.サービス労働国際組合は脱退すると述べており,他にも離脱する組織が出てくるだろう.こうした事態は労働組合運動にとって,また民主党にとって,災厄のように見える.しかし実際は,両者にとっても良いことかもしれない.

対立は明らかに指導者の個性によって激化した.しかし,その核心は彼らの戦略の違いである.AFL−CIOの議長スウィーニーJohn Sweeneyは,組合が政治を重視するよう求める.他方,サービス労働者の議長スターンAndy Sternは,ワシントンに投資することを減らして,新組合員の獲得にもっと投資するよう求める.

その対立は,彼らの利害の違いを反映している.衰退する製造業部門の組合は,自由貿易に脅かされ,一層の自由化を阻止するためにワシントンへ目を向ける.他方,サービス部門の組合は貿易によって脅かされておらず.むしろ利益を受けている.彼らは成長部門で組合を組織することにより大きな関心を示すのだ.

組合の再興についても,スターンのほうがスウィーニーよりも賢明である.組合は政治的関心を持つが,組織率が低下すれば影響力も低下する.また,民主党支持を自動的に決めない方が,両政党から大きな譲歩を得られるだろう,とスターンは考える.

アメリカの民間部門では,労働者のわずか8%しか組合に入っていない.しかしサービス労働者は,女性やマイノリティー,短期労働者に絞って,成長するサービス部門で過去9年間に90万人の組合員を獲得した.それは,組織率の改善という彼らの戦略が成果を上げることを示した.

経営者はシャンペンで祝杯を上げているときではない.組合の分裂は,互いに加入者を奪い合って,労働運動を強硬路線に向かわせるかもしれない.GMが給付を再交渉することは非常に困難だ.AFL−CIOの分裂とはいえ,共通利益に関しても彼らが協力することを妨げる理由も無い.

組合活動が分断され,反抗した組合が政治活動により少ない資源しか配分しない,と言う見通しは,民主党員たちを恐れさせる.過去15年間の政治献金リスト上位50において,組合は15を占める.その資金のほとんどが民主党に向かった.組合はまた草の根の運動員を提供し,昨年の選挙では22万5000人の活動家を出した.

しかし,政党を衰退する労働組合と結び付けてしまえば,それは敗北の戦略であり,たとえば,CAFTA反対などに立場を固定して,(組合のために)国益に反することになる.政党は利益集団の連合に頼り過ぎてはならず,それ自身の国民組織を築くべきである.ハワード・ディーンは既に差は集団内のMoveOn.orgでそれを示した.その戦略が政治の中心に据えられるときだ.もし組合の離党がこの過程を加速するのであれば,それは良いことである.

NYT July 27, 2005

Solidarity in Pieces

The American Prospect, 07.28.05

Chopping Unions

By Robert Kuttner

WP Friday, July 29, 2005

Time to Stem Labor's Losses

By E. J. Dionne Jr.

NYT July 30, 2005

Splintered, but Unbowed, Are Unions Still Relevant?

By STEVEN GREENHOUSE

(コメント) 市場経済にとって労働組合なんて無いほうが良いに決まっている,と思う人々にとって,この分裂は当然であり,楽しい変化です.しかし,貧富の格差が拡大し,貧困から脱け出せない労働者が増えているにもかかわらず,労働組合がわずか8%の労働者しか代表していない,というのは,どういう意味があるのでしょうか?

機械化とグローバリゼーションによって,ブルー・カラーによる労働運動は衰退し,サービス分野の不安定で貧しい労働者の声を代表する組織が求められています.グローバリゼーションの阻止に政治的主張や資金を使うよりも,労働者がこの現実に対応するのを助け,不当な報酬や命令に従うしかないと絶望することが無いように,彼らの声を現実に反映させる努力をしなければなりません.

短期的には労働運動が混乱・衰退し,保守派の支配的な時代に,リベラルな党派が分裂し,弱まってしまうことをRobert Kuttnerは心配します.しかし,新しい社会的な反抗が,予想できないところから必ず生じる,と確信します.

スターンは,新しい経済においても労働組合の必要性を明確に語ります.一つは,グリーンスパンも指摘したアメリカにおける貧富の格差,もう一つは職場を海外に移転させることができない,トラック運転手,警備員,スーパーマーケット,などの労働者が組織率も低く,非常に低い賃金しか得ていないことである.さらに,従来の小規模な店がウォル・マートやホーム・デポのような大企業に入れ替わることで,組織化しやすくなる,と.

それでも組合は,新しいメッセージを若者にも伝えなければなりません.そのためには,最も抑圧された階層に注目して,彼ら自身が生活を改善する手助けをする,という姿勢が重要です.また,実際には,工場労働者から公務員へ,運動の担い手が変化しています.そこには,また,労使関係の日本化と言う問題もあります.地方政府は資本を誘致するために,労働組合に友好的ではなく,日系企業は労働者個人を生産性や勤労意欲の点で直接に参加させ,管理します.


Asia Times Online, Jul 26, 2005

What about the capital account?

By Huw McKay

(コメント) 中国政府は,内外の条件が整えば,資本勘定を自由化し,変動レートに移行する,と公言してきました.その際,以下のような周知の手順が取られるとHuw McKayは指摘します

1.経常勘定取引に関する交換性回復と,内外の為替市場を統一する.

2.インフレ目標のような,通貨政策の方針を示す(為替レートに代わる)アンカーを決める.それが成功するためには,中央銀行の独立性が確保され,通貨政策と為替政策とを統一し,インフレ・ファイターとして市場で信頼されなければならない.

3.オフショアの先物市場を設けて,国内機関が為替リスクをヘッジする手段を提供する.

4.為替レートのペッグとバンドが与えられれば,国内金融機関は一定の保護された条件で為替レートのボラタリティーを扱う訓練ができる.

5.資本勘定におけるあらゆる非対称性を緩和することや,将来における資本勘定の交換性回復に備える.

6.金融機関の能力が改善されるのに応じて,漸進的に,ボラタリティーの許容範囲を拡大する.

7.その許容範囲が本質的に大部分の取引日における余剰(を吸収する)水準に達した場合,市場が決定する自由な変動レート制へ,静かに移行する.

しかし今回の中国の選択は,この手順から外れるものです.その理由は内外の条件が満たされていないからです.一つは銀行システムの問題,もう一つは投機的な資本移動の問題.中国の商業銀行には不良債権問題があり,国内の貯蓄が流出する恐れがあります.同時に,世界の投機的な資本移動はいつでも中国を狙っている,という不安です.

融資を維持したい商業銀行も,成長のために貨幣供給を続ける中央銀行も,改革には反対するでしょう.しかし,資本勘定の自由化は重要だ,とMcKayは主張します.なぜなら,既存の枠組みでは自国もしくは外国の通貨に対する内外の需給が一致しないからです.このバランスを回復することが,国際金融改革の重要な「補助輪」です.企業も銀行も,資本移動に対する為替レートの変化と対処法を学びます.

最適と思われる慎重な移行過程から外れたのは,中国政府の政治的な決定です.しかし,それがもたらす市場圧力は大きく,改革に失敗すれば,他のすべての制度も危なくなるでしょう.

Aug. 1 (Bloomberg)

Asia on Hot Seat as Hot Money Rushes Its Way

William Pesek Jr.

FT August 2 2005

The irrepressible rise of the renminbi

By Fred Hu

Aug. 3 (Bloomberg)

Maybe It Ain't Deja vu All Over Again, Yogi

William Pesek Jr.

(コメント) William Pesek Jr.は,アジアが再びホット・マネーの餌食になることを心配します.その流入と流出に対して,今度こそアジアはゆるぎない経済実績を残せるでしょうか? 1997年の危機後に改革を進めた,と自信を示す各国政府も,経済運営では公共投資から住宅バブルまで個人消費を刺激するばかりです.再び流入する短期資本が,いつまた流出しても,危機は起きないのでしょうか?

2%の人民元切上げに失望するのは間違いだ,とFred Huは指摘します.なぜなら管理フロート制でありながら,その制度の下で積極的に国内改革を進めるからです.@為替レートへの恣意的な介入を控え,今後12ヶ月でたとえば10%〜15%の増価が進んでも受け入れる.A為替市場に民間部門の参加を認め,競争的にする.B金利の自由化,C銀行部門と資本市場を改革・整備する,D改革とともに資本取引も自由化し,10年以内に第4の国際通貨になるだろう,と.

William Pesek Jr.が,Stephen Roachのレポートを紹介しています.「国際比較は間違っている」というレポートです.もちろん,IPEでは国際比較や歴史比較が王道ですが.フィリピンの債務危機をアルゼンチンと比べる? アメリカの住宅バブルをイギリスやオーストラリアと比べる? アメリカやドイツがバブル後にデフレを経験するかどうか,日本と比べる? 中国の人民元切上げを日本・円と比べる?

すべての国は異なっており,すべての問題は異なっている.だから,比較はいつも間違うのです.Roachは,日本のバブルは企業に莫大な債務を残したが,アメリカで債務を負っているのは個人だ,と言います.また,日本はプラザ合意で為替レートの調整で摩擦の解消を望んだけれど,中国経済ははるかに貧しく,はるかに貿易に依存しているから,為替レートの大幅な調整を合意することなど考えない,と指摘します.


FT July 28 2005

Who owns your loan?

By Gillian Tett

(コメント) 業績が悪化した企業をどうするのか? かつては主力銀行が融資を継続して,たとえば,経営再建に人を派遣した.イギリスでさえそうだった,と知りました.しかし,今は違います.アメリカのヘッジ・ファンドが劣化した資産を安値で買い取って,企業価値を高めて売却します.BIS規制によって,銀行は不良債権を保有し続けるコストを意識し,融資の流通市場が拡大しています.ここにヘッジ・ファンドが入ってきたわけです.

企業の再建や破たん処理,経営手法に関する対立が,英米間でも議論されていることに注目しました.


NYT July 28, 2005

Reading Between the Lines of Used Book Sales

By HAL R. VARIAN

(コメント) レコードやCD,ゲーム・ソフト,パソコン・ソフト,デジタル・ビデオ,漫画本,その他,コピーや移転が容易で品質が劣化しない商品の二次流通市場が発達すれば,新商品を開発する者から利益の一部が失われるでしょう.マイクロソフトの独占による地代収入がどれほど大きいか,と不平をもらす人も,地下市場や二次市場で手に入るソフトの品質には自信が持てません.

さっさと引退して,田舎で古本屋を開き,小さな家を改造して一階の喫茶店から外に広がる,読書や議論も楽しむことができるデッキを作る,というのが私の夢ですが,・・・こうして,古本屋もきっと最先端の論争テーマや革新的ビジネスになるのでしょう.

しかし,まずは著者の利益を破壊し,それを超える読者の利益を実現する.


Saree Makdisi, Brutality that boomerangs, LAT July 29, 2005

Uwe E. Reinhardt, Who's Paying for Our Patriotism? WP Monday, August 1, 2005

Anthony Cordesman, America has two choices in Iraq: exit or success, FT August 4 2005

Harout H Semerdjian, Roots of terrorism reach into the past, Asia Times Online, Aug 5, 2005

(コメント) 「テロとの戦争」は効果を上げているのか? 9・11や大量破壊兵器,テロ・ネットワークへの正しい解決策なのか? それを支持する強硬派・保守派の論調は,戦場で死ぬ兵士たちの犠牲を十分に考慮しているのか?

ブッシュ政権はイラク再建や中東民主化のサクセス・ストーリーを描いていますが,国民は「脱出戦略」との間で揺れています.


NYT July 29, 2005

All Fall Down

By THOMAS L. FRIEDMAN

緩やかではあるが,深く,非常に重要な変化が,中東地域一帯で起きている.簡潔に言えば,1967年(イスラエル誕生)以来,この地域の政治を形成してきたアラブ世界とイスラエルの政治政党が行き詰まり,あるいは起源の意味を失った.内的なエネルギーと統一性をもつのは,ハマス,ヒズボラ,イスラム同胞団であり,もし世俗の党派が解体すれば,彼らが支配するしかなく,彼らは雇用や下水,電気を供給する政策を持たない,ということを人々は恐れている.

新しい社会契約や政治党派を見出すために同胞と戦い,殺し合っているのはイラクだけではないのだ.レバノン,イスラエル,エジプト,シリア,ヨルダン,ガザにおいて,同じことが起きている.

どうしてこうなったのか? 和平交渉の進展は大規模なユダヤ人移民をイスラエルにもたらし,労働党のエネルギー源となっていた.しかし,和平プロセスの崩壊はその力を殺いだ.他方で,シャロンが一方的にガザ地区から撤退し,すべてのユダヤ人入植地を放棄すると決意したことは,リクード党の重大な使命を裏切り,分裂をもたらした.

「大イスラエルの建設」というリクードのビジョンは,パレスチナ人の増加とテロによって崩壊し,和平という労働党のビジョンはキャンプ・デービッドで破綻した.

アラファトの死とインティファーダは,腐敗したファタハ幹部への若者の反抗であり,イスラエルの反撃によりファタハの「シオニズムに勝利するまで革命を」というビジョンを打ち破った.ファタハが民族解放から市民社会を築けなかったように,イラクのバース党も,シリアのバース党も,レバノンの諸会派も,エジプトの国民民主党も,アラブ世界を近代化し,民主化することに成功しなかった.

ワシントンが,中東地域に安定ではなく,大きな変化として民主化を求める勢力に変わったことが,民衆の期待と重なって,既存の政治秩序を不安定化した.既存政党はそれを実現できずに衰退し,その政治的な真空を,ハマスか,あるいは無秩序が支配した.

これらの社会が直面する重大な挑戦の意味は明白である.古い政党を再建するか,新しい組織を打ち立てるかして,中国,インド,アイルランドなどが彼らの職を奪ってしまわないうちに,自国の民を鼓舞して発展を実現することだ.イスラエルや西側との闘い,ヨルダン川西岸の入植に向けた情熱を,こうした課題に向けることができるか?

今や政治的焦点は,民族解放より,個人の解放を,すなわち,平等,政治腐敗の追放,所得の改善,良い学校,・・・などを政府に求めている.政治家たちはさまざまな答えを示すが,人々は疑っている.もし本当に成果を上げることが示されたなら,誰もがその新しいビジョンを受け入れ,この地域全体に大きな影響を及ぼすだろう,とヨルダンの副首相Marwan Muasharは語った.


The Guardian, Saturday July 30, 2005

What would you have done?

Max Hastings

(コメント) テロと安全保障が重視される世界で,広島・長崎の原爆投下に対する欧米の論調とは? 繰り返し,原爆によって日本は降伏し,連合軍と日本の100万人が戦死を免れた,と正当化されてきました.たとえば,天皇や国体を理由に降伏を拒んで,若者に「特攻」という自爆テロを強いた政治指導者たちは,現代のテロ対策や破綻国家再建からも再考されるでしょう.

他方,当時の日本経済は,戦略物資から日常生活まで全面的に崩壊しており,抵抗を続ける余力は無かった,と思われます.冷戦前でも,それを政治的に誇示する以外,なぜ原子爆弾を使用する必要があったのか? と批判されてきました.しかし,当時のアメリカ人は,トルーマンも含めて,日本経済の状態や原子爆弾の効果を正確に知らなかったのだ,と弁解されます.

日本軍の降伏を早めるために,その侵略や戦争犯罪において指導的な役割を喧伝された天皇に将来の地位を保証することなどできただろうか? と反論します.またヨーロッパの戦争では,敵を憎んだとしても人間としてであったが,アジアの戦争は敵を人間と見ていない,と報道されました.そのような戦場の非人間性も,原子爆弾による戦闘の停止を準備しただろう,と.

原爆投下の決定は,他の戦闘と何も区別されるものではなかった,と言われます.日本軍は中国各地を侵略し,征服して,1500万人を殺害し,強姦,拷問,強制労働を行い,英米兵の捕虜も虐待された,と.日本軍は中国で生物化学兵器を使用し,生体実験を行う特殊部隊を持ち,捕虜となった兵士たちの多くも生きたまま解剖された,とも論説は述べています.

アメリカ軍は捕虜を取ることを嫌い,都市を征服するために空爆でまず焼き払いました.1945年3月に始まった爆撃で50万人を殺したのです.たとえば,3月9日の東京大空襲では,広島の犠牲者を超える10万人以上が一度に死んだのです.原爆が異なるのは,ただ,その「効率」だけであった,と.

軍人たちはこのような冷徹な意思決定に慣らされており,また政治家たちは敵をできるだけ恐れさせ,怯えさせることを望んだ,と言われます.原爆投下後も自分たちの成果を自慢した唯一の人物はLeslie Groves将軍でした.彼は,巨額の開発資金を投じたマンハッタン計画の責任者であり,もし実際に使用できなければ,トルーマン大統領が自分を拘束されただろう,と考えます.

・・・あるいは,原子爆弾によって降伏を早めたから,日本の本土はソ連軍による占領を回避できたのだ.それとも,ドイツや朝鮮半島のように,日本人も分断国家で生きたかったのか・・・!?

BG August 2, 2005

America's 'terrible thing'

By James Carroll

The Guardian, Tuesday August 2, 2005

The treaty wreckers

George Monbiot

LAT August 3, 2005

Why feel guilty about Hiroshima?

Max Boot

The Guardian, Friday August 5, 2005

The responsibility we share for Islamist shock and awe

Peter Wilby

LAT August 5, 2005

The myths of Hiroshima

By Kai Bird and Martin J. Sherwin

IHT SATURDAY, AUGUST 6, 2005

Atomic weapons: To what end?

By Bennett Ramberg

(コメント) 広島・長崎は,原子爆弾の投下を責める記念碑ではなく,その惨状を通して以後の核兵器使用を禁じ,その後も核兵器を開発・生産し続ける核保有大国の姿勢を問う,世界政治の監視塔なのです.オッペンハイマーは,すぐに,核兵器が人類の生存を脅かすものだと意識します.そして今では,スーツケースに入れた小型核爆弾がニューヨークを消失させる悪夢に,大統領も怯えるのです.


LAT July 30, 2005

Walk softly and carry less debt

By Michael O'Hanlon

NYT July 31, 2005

Don't Worry About China. Learn From It.

By BEN STEIN

LAT August 4, 2005

ANDRES MARTINEZ

Re-branding Beijing

NYT August 4, 2005

No Way to Treat a Dragon

(コメント) 米中関係の限界とは何か? どのように見直すべきか? 拡大する一方であった米中貿易・投資について,中国企業CNOOCによるUnocal買収案について論争が起きた結果,一定の制約が求められています.中国との経済取引を制限する場合として,Michael O'Hanlonは,@それが中国の軍事力を急速に強化・近代化する場合,Aそれが戦略的に重要な物資について中国側に主導権を与え,アメリカに混乱をもたらす梃子となる場合,Bそれが中国の相対的な地位を高め,アメリカの相対的な地位を低めて,国際的な序列を脅かす場合,と整理します.

さらに,現時点でアメリカが懸念すべきは,@やAではなく,最後のケースだけである,と考えます.特に,もしアメリカ政府が財政規律を失って中国からの資本供給に経済運営を頼るのであれば,アメリカはその危険を冒すでしょう.それゆえ,アメリカは中国との貿易や投資を制限するのではなく,自国の財政政策を改めるべきです.

中国がアメリカを支配する? 中国が世界を征服する? BEN STEINは,将来,中国がアメリカよりも豊かになって,われわれから多くの財を購入してくれるのは良いことだ,と考えます.もしそうなるとしても,私たちは爆撃したり,妬んだりするより,彼らから学ぶことを考えればよい,と.それまでには多くの時間をかけて中国社会自身が変わらなければならないだろうから.


WP Saturday, July 30, 2005

The Right Immigration Reform

By Marcela Sanchez

(コメント) Marcela Sanchezは,移民の脅威を吹聴する保守派の移民政策を批判します.かつてメキシコからの移民たちは,夏場の出稼ぎ仕事を終えれば,冬が来る前には帰郷した.しかし,1993年,クリントン政権がアメリカ・メキシコ国境を越える非合法移民を減らすために対策を強化し,移民たちは帰郷せずにアメリカ国内で過ごすようになった.現在,1100万人と推定される移民の内,その3分の1は非合法移民であり,既に10年を超えて滞在している.移民政策失敗のコストを,アメリカで暮らす非合法移民の家族に押し付ける政策は成果を上げないだろう,と.

保守派の移民政策は,非合法移民たちに届出と罰金の支払い,強制退去を受け入れ,その後,一時雇用許可を申請して受け取れ,という内容です.許可の期限になれば帰国しなければなりません.しかし,彼らは既に住宅を持ち,家族と一緒にアメリカで暮らしているのです.だからこそ保守派の論調は,ヨーロッパ系移民にとって「大恐慌以来の争議」,アフリカ系移民にとっては「1960年代の北部諸都市における人種暴動」,を再現するという恐怖心を醸成します.

LAT July 31, 2005

A 'free market' includes labor

By Douglas S. Massey

非合法移民を犯罪と見なし,彼らを取り締まるアメリカの政策は,役に立たず,間違っている.アメリカとメキシコは経済統合を進め,1986年以来,貿易額は8倍に増えている.資本,財,サービス,情報が国境を越えるのを促していながら,労働者だけは拒むのか? それは両国関係を蝕み,アメリカの労働者に不利益をもたらし,メキシコ人の人権を損なっている.

最近の国境線における軍事化は,非合法移民を減らすのではなく,より辺鄙な地域での越境を強いている.その結果として,死の危険は増大し,毎年300人から400人が国境を越えようとして死亡している.

非合法移民の経済活動を犯罪と見なすことは,アメリカ人労働者のコストとなる.なぜなら,企業は移民たちを直接雇用せずに下請けに出し,下請け業者は非合法移民を酷使して賃金からさらに搾取する.こうして移民たちの賃金はますます低下し,それはアメリカ市民や合法移民たちの交渉条件も悪化させる.

現在の移民政策は,効果が無く,死者を増やし,国境警備も機能せず,非業移民の帰国を妨げて国内に滞留させ,国内労働者の賃金や労働条件を悪化させ,結局,莫大な税金を無駄にしている.それゆえ,以下の改革が必要だ.

1.居住と帰国を認める一時入国許可証(テンポラリー・ビザ)を発行する.

2.メキシコからの合法移民受け入れ枠を拡大する.

3.非合法移民の子供たちにアメリカ国籍を与える.

4.非合法に入国した大人たちの経済活動を合法化する.

攻した行動は,アメリカの利益を最大化し,移民たちのコストを最小化する.そしてメキシコ経済をより急速に発展させ,メキシコ政府は大規模な移民流出にも対応できるようになる.

NYT August 1, 2005

Making Immigration Work

NYT August 4, 2005

Mexicans at Home Abroad

By EDUARDO PORTER and ELISABETH MALKIN


FT July 31 2005

There can be no moderate solutions to extremism

By Donald Rumsfeld

(コメント) 原理主義者は対話を望んでいない.征服するか,されるかだ.十字軍にもさかのぼる1000年の抗争がそれを示している,と断言するラムズフェルドの論説は,キリスト教右派と保守派を結ぶ信仰告白なのでしょうか? 彼の眼には,余りにも多くの陰謀が,世界や歴史をまたいで繋がって見えるようです.

しかし,たとえ9・11とロンドンのテロが同じレトリックを用いて正当化された犯行や凶行であったとしても,別の事件として解明するべきだと思います.

Amity Shlaes, Bush should recalibrate war on terror, FT July 31 2005

Binding community ties, The Guardian, Monday August 1, 2005

Reframing the global war on terror, FT August 2 2005

Quentin Peel, Proof that terror is doomed to fail, FT August 3 2005

Simon Tisdall, A new credo for the hyperpower, The Guardian, Thursday August 4, 2005

(コメント) Amity Shlaesが考えるほど,ブレアがブッシュとの協力関係を変えるとは思えません.しかし,7・7のテロ以後に両国民が互いを重視したのは事実ですし,ブレアは以前のテロ対策と異なる次元に国民を導いたことも重要です.

しかし,イギリスの移民政策や多文化主義は反イスラムや移民・政治犯の選別と拒否には向かわないと思います.むしろ,相互の文化理解と社会的統合を対話によって深める努力を,以前にも増して続けるでしょう.なぜなら彼らは既に知っていたからです.2001年に中部イングランドで深刻な人種暴動が起きた際に,イギリス社会が分断され,隔離や多極化が進んでいたことが社会対立を収集できなくした,と理解していました.

イギリスは,アメリカのようなイスラム原理主義者への戦争でも,フランスのような同化の強制でもなく,相互理解としての社会的統合を選択したのです.


Aug. 1 (Bloomberg)

Volatility in GDP Growth Gets Outsourced Abroad

Caroline Baum

CSM August 02, 2005 edition

Don't get into a lather over sweatshops

By Benjamin Powell and David Skarbek

(コメント) アメリカは,今や,景気の不安定さも雇用の不安定さも,外国や地下経済に押し付けてしまうことができるのか? ドル高やドル安,国際収支不均衡,原油高,・・・弾力的な市場によってアメリカ経済は調整コストを緩和されます.

たとえそうであっても,貧しい国のためには,それを阻止すべきだろうか? アメリカからの成長の波及や,苦汗工場における雇用機会を減らすことが,貧しい諸国の成長を助けることになるのだろうか?


FT August 2 2005

Europe must again confront the forces of illiberalism

By Adam Posen

(コメント) 「結局,ヒトラーが1933年に政権に就いたのは,ドイツ人の有権者の多数がナチズムのイデオロギーを受け入れたからではなく,「普通の経済的理由による投票行動(不況が深刻なときは与党や既成政党に反対する)」の結果であった.現代のヨーロッパにも,顕著な成果をもたらさない経済変化への不満が蓄積されている.」と,Adam Posenは警告します.

ECBへの批判,産業政策への期待,公共投資への圧力,人民元への切上げ要求,対策を持たないままのIMFにおける権力再分割,・・・ヨーロッパの自由主義は再び危機にあるのか?


Lawrence J. Korb and Peter Ogden, A Bad Deal With India, WP Wednesday, August 3, 2005

Kaushik Kapisthalam, US salvoes across South Asia, Asia Times Online , Aug 4, 2005

Ghayoor Ahmed, Recognise India, Pak as nuclear powers, The Asian Age, 4 August 2005

Dr P.C. Alexander, A word of caution about India-US nuclear deal, The Asian Age, 4 August 2005

(コメント) 核拡散防止体制(NPT)が,中国を意識したアメリカとインドの関係改善によって,無効にされました.その結果,北朝鮮との6カ国協議でもNPTを無視して核兵器を開発し,査察を拒んで脱退した北朝鮮に,NPT体制が懲罰を行うことも主張できなくなったのです.インドとの同盟関係はNPT体制よりも重要だ,というブッシュ政権の間違った判断をレーガン政権の外交スタッフLawrence J. Korb and Peter Ogdenは強く批判します.


WP Wednesday, August 3, 2005

A Big Story, Missed

By Robert J. Samuelson

(コメント) なぜグリーンスパンの時代は経済パフォーマンスが良かったのか? シャーロックホームズ風に考えれば,それはインフレが話題にならなかったからです.人々がインフレを予想しないときには,金融政策の効果が信頼されるでしょう.


FT August 4 2005

Samuel Brittan: Myth of national savings drives

By Samuel Brittan

(コメント) ケインズが発見したように,マクロ経済の問題とは,貯蓄に見合った投資が必ずしも自動的に行われないことに由来します.イギリスの場合,貯蓄が足りなければ対外赤字を生じ,通貨危機を生じて急激な金融引き締めと不況に苦しんだわけです.あるいは,戦時中に激しいインフレを恐れたように.他方,平和時に貯蓄過剰と失業を恐れたように.

しかし,ある国の貯蓄不足や過剰が,他の国の貯蓄で補える時代に,中央銀行や財務長官ではなく個人が,国民的な貯蓄と国民的な投資とを一致させる必要は無い,とSamuel Brittanは主張します.個人に対する貯蓄奨励策など,止めたほうがよい.


The Guardian, Thursday August 4, 2005

Globalisation is an anomaly and its time is running out

James Howard Kunstler

(コメント) Thomas Friedmanの The World Is Flatが示すような<グローバリゼーション>は,石油価格を低く抑え,世界を相対的に平和に維持してきた短い期間の幻想に過ぎない,とKunstlerは批判します.最初のグローバリゼーションが,石炭と蒸気機関,ナポレオン戦争後のヨーロッパの平和,という二つの条件で可能になったように,現代のグローバリゼーションも永遠に続くものではない.安価な石油だけでなく,アメリカの過剰消費と軍備拡大の終わる日は,確実に,近づいている,と.


The Guardian, Thursday August 4, 2005

A new credo for the hyperpower

Simon Tisdall

BG August 5, 2005

World War II and the fog of history

By H.D.S. Greenway

(コメント) Richard Haass(ブッシュ,クリントン,両政権で元外交顧問),Peter Galbraith(元アメリカ大使),Brian Urquhart(元国連副事務総長)の意見を紹介しています.ブッシュ政権は先制攻撃や一方主義,体制転換,環境破壊軽視などを転換し,20世紀の「封じ込め」から,21世紀の「統合化」という原則に従って世界秩序を指導しなければならないのか? そもそも現在の混乱はアメリカによる自殺点ではないのか? アメリカの政策が企業のロビー活動に毒されているのに,急速に変化する世界で,誰がアメリカに従うだろうか?

H.D.S. Greenwayの論説は,短いにもかかわらず,歴史認識,特に戦争の解釈について,国際的に合意することが如何に難しいか,を教えてくれます.

l         中国人は日本における歴史教育に激しく抗議する.日本は戦争犯罪について何度も謝罪したが,それでも第二次大戦時の記憶を洗い流してはもらえない.

l         東南アジア諸国は,日本の攻撃に乗じて,イギリス,フランス,オランダなどの支配から解放された.インド空軍は日本軍と戦ったが,インド陸軍はイギリスと戦うために協力した.

l         ベトナム,ラオス,カンボジアのフランス人は,ヴィシー政権成立後,日本に協力した.タイの駐米大使は,日本に指示されたが,賢明(狡猾?)にもアメリカに宣戦布告せず,戦後は枢軸諸国による犠牲者として認められた.

l         ロシアはヒトラーを倒した「大愛国戦争」を記念しますが,バルチック諸国では1945年に,ナチスからロシアへと,独裁の主が代わっただけでした.

l         欧州委員会は,ナチスの敗退ではなく,1989年の「ベルリンの壁」崩壊をヨーロッパにおける独裁の真の終焉と呼びました.またフィナンシャル・タイムズは,ソ連が東欧を占領するためにヒトラーと協力し,1945年にはその支配を押し付けたことをロシアも認めるべきだ,と主張しました.

l         ロシア人にとって,ヒトラーを倒したことはソ連の行った最大の貢献でした.レーガンはソ連を「悪の帝国」と呼びましたが,プーチンはソ連崩壊を20世紀最大の地政学上の悲劇と考えます.

l         アメリカ人は『プライヴェート・ライアン』のようにしてヒトラーに勝ったと思っています.イギリス人はたった一人でヒトラーに立ち向かったと思うでしょう.しかし,連合軍の他の犠牲者を合計したよりも多い,2700万人の戦死者を出したロシア人はスターリンの判断に共鳴します.すなわち,イギリスは時間を稼ぎ,アメリカ人は金を出し渋った.その分,ロシア人がその血で支払ったのだ,と.

l         枢軸諸国の中でも,ドイツは最もナチスの過去に対して償ってきました.「われわれには責任がある.すべての苦しみとその原因を記憶し続けねばならない」と,ドイツのケーラー大統領は述べました.そしてドイツ人は,自分たちも犠牲者だった,と言うのです.

l         フィンランドはかつて枢軸国に属し,ソ連と戦いました.1945年の4月,ヒトラーのベルリンを守って戦ったのは,フランス,バルチック諸国,スカンジナビア諸国の部隊を含むドイツ国防軍でした.「ナチスに抵抗したよりも,協力したフランス人のほうが多かった.」

l         ハンブルグ,ドレスデン,東京などへの空爆は,もし連合軍が敗北していたら,当然,戦争犯罪に問われたはずです.今も,多くの人が原爆投下の道徳性を問題にします.男,女,子供,最後の一人まで戦え,と本土決戦を準備していた日本軍に対して,それもやむをえなかった,とGreenwayは認めます.つまり,多くの日本人が救われたのだ,と.

・・・いえ,私は同意しません.歴史には,それ以外の選択肢もあったはずです.


FT August 5 2005

Lex: Japanese post office

Aug. 5 (Bloomberg)

U.S. Long Bond Returns to Haunt Japan's Debt

William Pesek Jr.

(コメント) 「郵政民営化は不可欠だ.郵便局とは,郵便事業と金融サービスとを統合して,世界最大の資産300兆円を擁している.預金者は水増しされた金利を受け取り,資金は政治家の奪い合いによって配分が決まる.郵便局は自民党の非常に有能な集票マシーンであるが,それ以外の点では絶望的に非効率だ.25万人のスタッフは公務員である.」

私もそう思います.こうしたことが重要であると思うから,異なった機能を分割して,民営化することに賛成します.小泉氏が国会を解散しても.しかし,誰に投票したらよいのか?

日本の改革はまだまだ遠い目標です.The Economistは,郵政民営化,財政再建,消費税引き上げ,社会保障制度改革,競争促進,などを挙げています.なぜ,これほど遅いのか?

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The Economist, July 16th 2005

In Europe’s midst

Muslim extremism in Europe: The enemy within

The European Central Bank: Haughty indifference, or masterly inactivity?

(コメント) ヨーロッパにおける移民社会の隔離と,テロ・ネットワークへのインターネットによる個人的な接近,不況や失業にもかかわらず,ECBが手をこまねいていれば,社会不安はインフレ以上に深刻な影響を及ぼすかもしれません.


America’s great sorting out: The missing rungs in the ladder

Degrees of separation: A survey of America

(コメント) アメリカ社会のダイナミズムは,その開放性・移動性と,自発的なアソシエーションの活力です.何一つ持たずにアメリカへ渡った移民たちが,苦しい労働の末に,社会のトップに立つことができる,というアメリカン・ドリームを多くの人が信じています.

かつて都市で人種暴動が頻発した頃,アメリカのエリートたちはそのダイナミズムが失われないように,政治や教育のシステムを改革しました.しかし,大学に集まる学生は次第に社会の上層部に偏り,アメリカ社会を階級に分断するのではないか? と懸念されています.また,アメリカ社会の基礎が製造業からハイテク・情報産業へ,グローバリゼーションへと移るに連れて,人々の移住や転職は頻繁になり,伝統的なアソシエーションが形成されなくなるのではないか? とも言われます.

政治も大学も,自分たちの仲間を増やして,ますます激しく競争する情報経済の富裕層を固定し,再生産しつつあります.大企業と大政党,大宗教団体がアメリカの富と権力とを支配し,動かすとしたら,かつてトクヴィルが見たアメリカはインターネットに集まる無数の同好会だけになるのでしょう.