IPEの果樹園2005

今週のReview

7/11-7/16

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 テロと選挙: ロンドンを襲ったテロ.アル・カイダとハマスとを区別するべきか?

2 アフリカを救え: 音楽祭G8サミットとの組み合わせは,有効な援助を行えるか?

3 アメリカ独立宣言: 9・11,世界戦争イラク占領,そして独立宣言.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


WP Wednesday, June 29, 2005

Greenhouse Hypocrisy

By Robert J. Samuelson

(コメント) 地球温暖化を防ぐとか,アフリカの貧困を防ぐ,というのは政治的な偽善なのでしょうか? ロック歌手やスポーツ選手,俳優,芸能人が「アフリカを救え」,「3秒おきに,アフリカの子供がまた死ぬ」とポーズを決めるのは,政治家にとって唾棄(あるいは利用)すべき茶番でしょう.

Robert J. Samuelsonの不満は,それが欧米の対比として利用されることです.「ヨーロッパは偽善の伝道本部である.」と,Samuelsonは批判します.ヨーロッパが二酸化炭素排出を削減したのは東ドイツの発電所閉鎖やイギリスの天然ガスへの転換があったからであり,今後は続かないでしょう.アメリカの地方政府も温暖化防止キャンペーンには熱心ですが,役に立たないアイデアばかりです.

他方,貧しい諸国は当然,温暖化防止よりも貧困解消と開発促進を優先します.欧米諸国が何をしても,中国やその他の途上諸国の二酸化炭素排出量が増加して,それを打ち消すでしょう.京都議定書に参加する意思もないのです.

多くの政策に関してブッシュ政権には厳しい評価のSamuelsonですが,温暖化防止問題ではその立場を支持します.温暖化は仮定の問題でしかなく,根本的には技術革新を起こすしか解決できないのです.むしろ,安全保障上の危険を高めている石油輸入への依存を減らすために,小型車やハイブリッド車への乗り換え,原子力エネルギーへの転換を進めることだ,と主張します.

その反対に,ますます多くの政治家が温暖化防止の「戦士」として演説し,国際会議や防止計画を論争することには,環境を保護するまじめな意図も効果もないのです.むしろ,経済成長を損ない,国民を犠牲にして,自分の政治的な威信を高める演技にふけっているだけです.彼らを声援してはならない,と.

FT June 30 2005

Priorities beyond climate and Africa

By Richard Haass

FT June 30 2005

Chance to break free from cycle of debt

By Steven Radelet

The Guardian, Thursday June 30, 2005

Agreeing to disagree

(コメント) アフリカへの債務免除や援助増額に対するRichard Haassの二つの警告は正しいと思います.一つは,それが貧困を減らすにはアフリカ社会・経済の改革を進めなければならないことです.そうでなければむしろ逆効果になる恐れもあるのです.もう一つは,ダルフールの虐殺を解決するために行動することです.

Haassは,G8の存在意義にも注意します.温暖化問題では合意がなく,むしろ貿易自由化交渉を促す声明の方が重要でしょう.これまでのサミットにおける約束を実行することも重要です.核兵器の削減,中東和平と民主化の促進,次期サミット開催国であるロシアのプーチン大統領が政治経済の改革方針を再考するように促すこと,さらに,G8ではなく,中国とインドを加えたG10にすることを求めています.

Steven Radeletは,債務免除の問題点や限界を指摘しています.ニュー・マネーという観点からはわずか1%の支援増加でしかなく,債務免除の具体的な条件を各国が整えるのに数年を要し,最貧国でも債務を抑制していた国には免除も行われず,たとえ免除されても,その結果として新規融資に関する条件は厳しくなるでしょう.

さらにRadeletは要求します.@融資を統治のしっかりした貧しい国に集中し,政治的な選別をしない.A融資より譲許にする.B被支援国のパフォーマンスを重視する.C成長促進につなげる.債務を減らし,統治を改善し,市場アクセスを拡大することを前提に,適切な援助だけが貧困を減らせる,と.

The Guardianはブレアが反対にあって,合意できないのではないか,と考えます.温暖化防止にはアメリカが反対し,農業補助金の削減にはフランスが反対し,アフリカ援助には,石油価格など,もっと他の経済問題を重視する諸国が反対するでしょう.


FT July 1 2005

Multipolar Asia

(コメント) 中国が平和的に新しいアジアと国際秩序の一部になることこそ,アメリカや日本の外交政策の核心です.アメリカはインドを対中封じ込めの包囲網に引き込むことまでは考えていない,とFTは見ています.アメリカとインドの軍事同盟は,アジアの軍事的バランスにむしろ悪影響を与えるかもしれません.しかも,インドはNPTを承認しておらず,安保理の常任理事国入りを目指している点でも,アメリカの方針と合いません.しかし,少なくとも,アメリカ・日本はインドに接近し,インドと中国も関係を改善して,競争的に友好関係を維持しています.

アジアの多角主義が平和的な秩序の強化に繋がる姿こそ,アメリカ政府の現実的な選択である,というわけです.


July 1 (Bloomberg)

China as World Finance Maverick -- Deal With It

Mark Gilbert

LAT July 3, 2005

The Chinese Invasion

(コメント) 中国政府が通貨政策で国際的な助言を拒み,同時に,資本市場では政府が支援したM&Aを駆使する姿に,むしろ,国際秩序への脅威を指摘する論調が増えています.

それに対して,LATの論説は,反日感情の高まった1980年代や,反グローバリゼーションの反省を踏まえて,中国への反発を克服するように求めています.なぜなら,@アメリカの問題を他国のせいにしてはならない.A自由貿易は,たとえ一方的に行う場合でも,大きな利益をもたらしている.B中国も変えつつあるグローバリゼーションの現実を見るべきだ.

日本や中国の台頭に対する妬みや不公平感を克服すれば,他国が豊かになることは,たとえ狭い経済的な観点だけで評価しても,アメリカにとって良いことである,と.


LAT July 1, 2005

Why Bush Won't Send More Troops

Jonathan Chait

NYT July 1, 2005

Five Ways to Win Back Iraq

By KENNETH M. POLLACK

WP Friday, July 1, 2005

What Bush Left Out

By Michael O'Hanlon

WP Monday, July 4, 2005

No Clarity About Iraq

By William Raspberry

LAT July 5, 2005

Bush Is Serving Up the Cold War Warmed Over

Robert Scheer

(コメント) アメリカ国内,および国際政治において進む,イラクの再評価について.

Jonathan Chaitは,保守派の論調やブッシュ氏が,現場が要請していないことを理由に,イラクに駐留する軍隊の増強は必要ない,と主張していると批判します.実際,現場の軍人たちは勝利するためには兵士が足りないことを知っています.しかし,最初にそう言ったGen. Eric ShinsekiやMaj. Gen. John Riggsの発言に対して,ラムズフェルドが激しく反発し,彼らを譴責したことで,もはや発言しなくなったのです.

他方,かつてスターリンが資本家同士を殺し合わせるためにヒトラーと不可侵条約を結び,西進を促したことに比べて,なぜ殺人狂の独裁者でもないブッシュ氏が少ない兵士で勝ち目のない戦闘を続けさせるのか? と問います.その理由は,ブッシュ政権が兵士の命や国民の利益を無視して,民主党との対抗関係や,幻想に固執しているからです.最初に軍の増強を求めたShinsekiに対して,「この戦争はイラク国民のための解放戦争であった,というイデオロギーが理解できていない,クリントン政権に育てられた弱虫どもめ!」と,激しく非難した保守派の論客は,まさにブッシュ氏自身の意図を表現していたのだ,と.

ブルッキングズ研究所のKENNETH M. POLLACKは,イラクとアフガニスタンは異なる,と考えます.イラクでは,ブッシュ政権が固執するような,テロリズムだけが問題ではないのです.同時に,イラクはベトナムとも違います.多くの批判が考える以上に,石油,中東民主化,アラブ諸国全体との関係に影響するイラクは,ベトナムよりもアメリカの利益に死活的な存在です.

そこでPOLLACKは,武装勢力を抑え込むポイントを指摘します.まず,市民生活の安全を確保し,経済の回復を促すことが重要です.反政府勢力を掃討する作戦だけでは勝利できないでしょう.むしろフランスのグリーン・ベレーや北アイルランドのイギリス軍が行ったように,市街地のパトロールをすることです.原油価格の高騰から,反政府武装勢力に流れるお金が増えていると言います.イラク国民の底辺から再建への支持が示されなければ,改革は進みません.

Michael O'Hanlonも,治安と政治・経済分野の改善がなければ占領は成功しない,と指摘します.

William Raspberryは,イラクの現状に関する国民の不満について,ブッシュ氏が示す反応(彼らが9・11の恐怖を忘れたからだ)に驚き,憤慨します.国民は,イラクについても,テロについても,ブッシュ政権の方針に満足していないのです.

アメリカ軍は何のためにイラクにいるのか? 彼らの任務は何か? フセインの大量破壊兵器を破壊する? ところが,ブッシュ政権は戦争を拡大し,そのために次々と新しい任務を与えました.イラクのインフラを再建する.イラクの警察や軍隊を訓練する.新しい政府を樹立するために,選挙と憲法制定を保障する.イラクを中東全域の民主化モデルにする.内戦を防ぐために,反政府武装勢力を掃討する.そして? Fort Braggにおけるブッシュ氏の演説は何も示せませんでした.これが国際テロリズムと戦う最前線だ・・・?

Robert Scheerも書いています.「9・11テロの直後から,ブッシュは体系的に,過激な小グループによる,一つの破滅的なテロ攻撃から国民が受けたショックを,「悪の枢軸」と想定された敵との第三次世界大戦の要求に集約しようとした.しかしイラン,イラク,北朝鮮が共有したのはアメリカへの敵対心だけであり,何も現実の同盟ではなかったし,9・11との関係もなかったのだ.」

ブッシュ政権がこうした戦略を取った理由は,かつて冷戦が政府に政治的利益を約束したように,ブッシュ氏が政治資本と軍備拡大契約,そして国民を幻惑する大構想を得るためだった,と.


NYT July 1, 2005

America Held Hostage

By PAUL KRUGMAN

(コメント) ブッシュ氏の演説を聞けば,要するに,今やアメリカ国民は,ブッシュ氏の始めた戦争を戦うしかないから,勝利するまで戦い続けるしかない,とKRUGMANは憤慨します

この戦争はテロリストたちを増やしたし,勝利の可能性は,かつてあったかもしれないが,今では見ることもできず,その期限を定めるのはよろしくない,とブッシュ氏は主張しているのですから,まったく呆れた話です.

予備役を含めて,現在の駐留軍を帰国させるしかないのに,ブッシュ氏はアメリカ軍の駐留期限を示しません.それは関与を弱めるし,反政府勢力に加勢するだけだ,と.しかしKRUGMANは,駐留期限を示した方が,イラク政府に軍の再建や反政府勢力との政治的解決策を真剣に取り組ませるだろう,と主張します.アメリカが攻撃するまで,イラクはテロリストの巣窟ではなかった.アメリカ軍によるイラク占領は,反米勢力の憎しみを増し,テロリストをアメリカ兵やアメリカ自身に放ちました.撤退するべきだ,と.

ところで,KRUGMANらの論説を読んで,なるほど,北朝鮮が協議に復帰した理由が分かる気がします.アメリカの軍事力はイラクで疲弊し,朝鮮半島には関わりたくない.もし何かあれば日本政府がより深く関与しなければならず,要するに,もっと援助がもらえるだろう,と?


FT July 3 2005

Wolfgang Munchau: Europe’s fiscal obsession

By Wolfgang Munchau

(コメント) 1930年代に,Ludwig Erhardが不況をカルテルの責任だと主張したように,今もECBは不況をEUの構造改革が進展しないことで政府の責任にしています.Wolfgang Munchauは,構造改革が必要であることが正しいとしても,不況に対しては政策を調整する理由がある,と考えます.アメリカのFRBやイングランド銀行に比べて,ECBは景気を無視してインフレ抑制を重視しすぎたのです.また,信認や独立性を強調して政策の変更や協力を拒み,財政赤字を非難して政府の行動まで制約しました.


NYT July 3, 2005

Africa at the Summit

NYT July 3, 2005

A Livable Shade of Green

By NICHOLAS D. KRISTOF

NYT July 3, 2005

Tone Deaf on Africa

By WILLIAM EASTERLY

FT July 4 2005

Political will, not just aid, can lift Africa out of despair

By Jagdish Bhagwati and Ibrahim Gambari

(コメント) 「アフリカは施しを待っているのではない.近代的な発展に必要な,人的資本(教育)や物的なインフラ,行政府の機能改善を助けて欲しいのだ.アフリカの貧しさは,裕福な諸国に,自分たちにも近代的な世界への入場を認めて欲しいと願っている.もし身を引けば,アメリカは世界でもっとも豊かな国として,その価値や人間性を裏切ることになるだろう.」

地球温暖化防止についても,ブッシュ氏は「経済を犠牲にできない」と一蹴しました.しかし,そうではない,とNICHOLAS D. KRISTOFは考えます.なぜなら,アメリカにもPortlandという環境保護派の実験都市があるからです.政策によって二酸化炭素排出量を減らし,しかもブッシュ氏の非難とは逆に,成長を遂げました.Portlandは公共交通機関,特に市電や自転車の利用を促し,インフラを整備して補助金も与えました.地球を救うために苦痛を耐え忍ぶのではなく,自分たちの交通渋滞や電力消費を減らしたのです.

WILLIAM EASTERLYは,余りに多くの大規模な援助計画が成功する可能性に悲観的です.「これほど多くの人("make poverty history"キャンペーン参加者)がアフリカの悲劇に気付いたことはすばらしい.しかし悲しいことに,歴史的に観て,大規模な援助計画は解決に繋がらない.1960年から2003年までに,アフリカの貧困を終わらせるため5680億ドル(現在の価値で換算)の援助が行われた.」 しかしアフリカは悲惨さと停滞から抜け出せなかった.」

むしろ彼が支持するのは小さな援助計画です.市場も政府も機能しない土地で,援助が正しく行われた,と誰が責任を持って言えるのか? 援助を成功させるためには,フィードバックとアカウンタビリティーが重要だ,と主張します.むしろ貧しい人々の問題に直結した個々の小さな援助を行うことです.援助は,計画を作る国際機関や政府ではなく,問題を具体的に解決できる人々の手に権力を移すことで,最も効果的になるのです.

Jagdish Bhagwati and Ibrahim Gambariも,国連の報告書“Our Common Interest”を批判します.裕福な諸国の「啓発された利己心」に訴える,というアプローチは,1960年代にも多用されたものです.ただし,当時は,テロリズムではなく,共産主義の脅威が取り上げられました.しかし,アダム・スミスが既に書いていたように,人間性や同情だけでは,限りがあります(中国で何百万人が破滅しても,自分の指先の傷が痛む方が気になる).

アフリカ自身がやり方を変えることです.Bhagwati and Gambariはアフリカ機構AUに注目します.アフリカにも市民社会が育ち始め,統治の改善を目指しています.そのうえで,援助に次のような改善を要求します.@貧しい国のすべてに債務免除を行う.A新規の援助は生産的でなければならない.B必要なら,アフリカで行う支出を海外で管理できる.C豊かな国の貿易自由化を求めるだけでなく,自ら貿易障壁を撤廃する.D民間部門を開発の中心に据えるために,マイクロ・ファイナンスなどを整備する.


NYT July 3, 2005

The Two Wars of the Worlds

By FRANK RICH

The Guardian, Monday July 4, 2005

Popcorn from the 9/11 rubble

Peter Preston

(コメント) ブッシュ大統領が9・11に15回も言及して演説した翌日から,スピルバーグの"War of the Worlds"「世界戦争」が公開されました.それは,ブッシュ大統領とは違う方法で,つまり大衆娯楽の世界で9・11の恐怖を再生し,記念したものです.そしてFRANK RICHは,ブッシュとスピルバーグの手際を皮肉な対比で描きます.たとえば,ブッシュ氏はイラク戦争に送る兵士を募集するのに苦労しているが,もちろん,スピルバーグはペンタゴンの協力やエキストラの募集に大成功しました.多くのテーマは既知のものですが.

Peter Prestonは,イギリスの観客の視点から書きます.要するに,これはクズだ,と.血に飢えたエイリアンやその侵略計画,病原菌の蔓延,Live 8 コンサートのように,パニックを起こさず危機に立ち向かうアメリカ軍,死者の山,・・・くだらない内容でも,アメリカ人はこういった話が大好きなのです.そしてH. G. WellsのSFやOrson Wellesのラジオ劇と比較します.そして,われわれは映画館に向かって自動車を走らせ,母なる地球をロースト(温暖化)している,と.


BG July 4, 2005

The Declaration of Independence

LAT July 4, 2005

Founding Document

(コメント) まるで宇宙人!が書いたみたいに,すばらしい政治の原点です.もちろん,それは地球人の仲間が作ったグループですが.‘He’とは誰のことか? イギリス国王であり,イラク人にとってはブッシュ氏でしょう.

LAT July 4, 2005

Common Sense That Changed the World

By David L. Ulin

NYT July 3, 2005

Hearing the Declaration Anew

(コメント) その基礎はトマス・ペインの『コモン・センス』によって与えられたようであり,アメリカで直ちにベスト・セラーとなった,とDavid L. Ulinは書いています.当時のアメリカで15万冊が売れ,今の人口規模に換算すれば1200万冊である,と.もちろん,ジェファーソンはこれを下敷きに独立宣言を書きました.そしてペイン自身は,その民主的なスタイルを独立後の地主たちによって恐れられ,嫌われて,あたかも難民のようにヨーロッパへ逃げます.そして1802年までアメリカに帰りませんでした.いわば,現代のマイケル・ムーアのような異端だったわけです.

NYTは「民主主義」と「自由」について考察します.人間は自由を追求します.しかし,自由の意味を勝手に定義し,政府やイデオローグが行為を正当化するために使うこともある,と指摘します.アメリカだけが自由の意味を知っており,アメリカが世界に自由を拡大する使命を託されたかのように.まず,彼らはこの宣言を読むべきだ,と.

NYT July 3, 2005

Girth of a Nation

By PAUL KRUGMAN

NYT July 3, 2005

The Founding Sachems

By CHARLES C. MANN

WP Monday, July 4, 2005

Guns Over Democracy

(コメント) コカ・コーラ,ウェンディーズ,タイソン・フーズ・・・肥満に及ぶ「消費の自由」こそがアメリカの目指す自由なのか? つまり世界で肥満を解放する?

PAUL KRUGMANによれば,アメリカ人の肥満も党派政治の結果です.肥満同盟と反肥満同盟の対立? ・・・肥満反対運動に反対するのは(環境保護に反対するのと似ています),都市や郊外の住民よりも地方の住民,沿岸部より南部や中西部の住民,つまり多くは共和党の支持者です.また,そこにはもちろん食品産業の政治献金が関わっています.ここでも,問題はアメリカ人の自由ではなく,子供たちが知らぬ間にその健康を破壊する過食の習慣に染まるのを許している食品業界であり,その献金システムに寄生する政治家たちです.

CHARLES C. MANNによれば,ヨーロッパと異なる自由の考え方を,「アメリカ人」はインディオもしくはアメリカ原住民から学んだのだろう,と指摘します.

または,アメリカの「自由」とは,誰でも銃の所有が保障されていることでしょうか?


NYT July 3, 2005

'Three Billion New Capitalists': Consider the Outsource

By HENRY BLODGET

NYT July 3, 2005

O.K., Japan Isn't Taking Over the World. But China...

By EDUARDO PORTER

FT July 5 2005

Chinese quotas kill the pain but not the problem

By Elliot Schrage

FT July 6 2005

Time to stop dumping on China

July 7 (Bloomberg)

Forget Unocal. Real China Risk Is Treasuries

William Pesek Jr.

(コメント) 中国の市場拡大に関する論争が過熱します.たとえば,Clyde Prestowitzの新著 ''Three Billion New Capitalists: The Great Shift of Wealth and Power to the East.''です.自由貿易を批判し,政府と民間企業が協力すること,教育に投資することを求めています.そして通貨に関しても,ドルを中心とした調整メカニズムを緩和して,各国政府に赤字の分担を強いる「新ブレトン・ウッズ会議」を呼びかけます.

あるいはNYTが,Chalmers Johnson,Clyde V. Prestowitz,Robert B. Reich,Susan J. Tolchinの意見を紹介しています.1980年代,日本人によるアメリカ企業や不動産の買収と比較し,日本と中国の政治システムや軍事的戦略の違い,人民元の為替介入によるアメリカ財務省証券の保有姿勢,を重視します.その結論は,ジョンソンが米中同盟の構築であり,プレストウィッツは切断とアメリカ優位の確立です.

Elliot Schrageは,市場割当の復活にも賛成します.そして,中国の台頭する世界市場に,WTOが単純な自由貿易の原則を当てはめることに反対します.むしろ法の遵守,社会制度の共有,などが重要である,と.それが保障されない中国との貿易摩擦解消には,たとえば,通貨介入を透明にして,「ジャスト・イン・タイム」の割当制度も必要になるだろう,と考えます.

FTは,輸出の半分以上を外資系の合弁企業が行っている中国に対して,アメリカやEUが反ダンピング規制を行うのは正しくない,と批判します.それは中国にWTOルールを軽視させ,ロシアに対する扱いとも矛盾します.

William Pesek Jr.は,かつて日本が脅したことを思い出して,財務省証券の大量保有こそ対中関係の最大のリスクになる,と警告します.結局,日本はアメリカの債券を戦略的に売却しなかったが,中国ならやるだろう,と.中国製品のダンピングより,アメリカ債券のダンピングの方がはるかに恐ろしい.


WP Monday, July 4, 2005

Aid From the Home Front

By Sebastian Mallaby

FT July 5 2005

Helping Africa to help itself

By Michael Holman and Andrew Rugasira

FT July 5 2005

Martin Wolf: Aid is well worth trying

By Martin Wolf

(コメント) アフリカの貧困を減らすのに,果たして援助が有効なのか? IMFの専門家たちは疑問を示しています.Sebastian Mallabyは,援助の税低となる国内改革について注意します.裕福な諸国の恋人たちはアフリカから輸出されたダイヤモンドを買うが,その資金が内戦や貧困の原因となっていることを知らない,と.

Michael Holman and Andrew Rugasiraは,アフリカが自律できるために,私たちにできることを考えています.たとえば,アフリカでココアをチョコレートに加工し,アフリカの音楽を商品として流通させ,アフリカが輸入するコンピューターを免税し,その他,大した費用もかけずに,彼らの改革を支援できます.

援助しても効果はないのか? それとも援助が足りないのか? 右派は援助に依存した政府の腐敗と無駄な支出を非難します.左派は金持ちを非難します.Martin Wolfは右派に近い,と言います.しかし,過度の単純化を廃して,持続的な発展の経路に乗せるためであれば,援助は望ましいだろう,と.

援助の増額が,油田開発による政治腐敗や内戦と異なるための条件とは,@ビッグ・プッシュ論は良い政府にだけ適用できる.A支援国は透明性と説明責任を要求するべきだ.B貿易自由化と輸入依存の解消を継続する.C農業と衛生における技術指導や開発に資金を投入する.Dできるだけ民間の手に直接資金を与え,E民間部門の成長に好ましい環境を作る.


FT July 5 2005

Sky-high: Arab economies are booming

By Roula Khalaf, William Wallis and Gillian Tett

NYT July 5, 2005

Hole in the Housing Bubble

By RAYMOND BONNER

(コメント) アメリカなどの住宅バブルと石油価格高騰によるアラブ世界のバブル.どちらがより危険でしょうか? 1970年代との大きな違いは,9・11以後,オイル・ダラーが外部に投資されず,アラブ世界の金融システムに滞留し,民間消費と投機的な圧力を強め,システムの脆弱性を高めていることです.他方,政府支出はより慎重になっています.他方,政府による市場の改革や開放は遅れるでしょう.それでも金融部門の国際化は,欧米からの銀行買収や直接投資として始まっています.

RAYMOND BONNERは,オーストラリアの住宅バブル終焉について紹介しています.それが深刻な不況を招くかどうかは,金融システムの健全さと,消費や投資が人々の心理に依存する程度で決まるようです.


The Guardian, Tuesday July 5, 2005

Reckoning on wreckage

William Keegan

Asia Times Online, Jul 6, 2005

Pop music won't change this world

By Pepe Escobar

FT July 6 2005

Between the lines

(コメント) サミット,G8に関する論説です.William Keeganは,BISの年報を基に,地球温暖化やアフリカの貧困よりも,G8は席亜経済の不均衡に関して議論するべきだ,と主張しています.BISは,第一次大戦後のドイツの賠償金支払に関して設立された機関です.国際収支不均衡とドル暴落,長期化する主要国のゼロ金利,中国やインドの石油依存を介して発生する新しい石油危機,インフレ抑制の成功とグローバリゼーションの持続性,BISは政策担当者たちの近視眼を戒めます.経済活動を犠牲にするような京都議定書には調印できない,というブッシュ氏は,同じ理由でこうした不均衡を解決するべきではないか?

Pepe EscobarはLive8を批判します.イギリスのメディアが「史上最大の音楽イベント」とはやし立てたLive8は,「世界の半分が観た」と言われます.イギリスの評論家たちは,落ち目のロック・スタート組織運営の責任者,そして狡猾な政治家であるトニー・ブレアという「理想主義者の連合」を天国にまで持ち上げた.しかし,G8では主要国の政治家たちが温暖化対策やイラク戦争,EU予算,貿易自由化,農業補助金削減,などで衝突し,激しく憎み合っている.ドイツや日本がアフリカ支援を安保理常任理事国入りへの梃子に利用したがっているのも明らかだ,と.

アフリカのGDPは世界の1%であり,貿易に占める割合はさらに少ないのです.ラジオを持っていることが,欧米では高級車を持つこと以上に,贅沢を意味する大陸です.この絶望的な状態を,マドンナやボノと手を振ることで解決できるなどと思うな!

あるいは,G8の声明を先取りして解説したFTの世界政治的寓意を楽しむことです.G8の美しい外観にもかかわらず,世界政治は醜く,矛盾だらけです.

LAT July 6, 2005

What Dickens Knew That Geldof Doesn't

By Niall Ferguson

IHT THURSDAY, JULY 7, 2005

If a tree falls, is the G-8 listening?

John O. Niles International Herald Tribune

FT July 7 2005

Samuel Brittan: A cool look at the climate question

By Samuel Brittan

The Guardian, Thursday July 7, 2005

From G8 to G9: Brazil and India in - and Russia out

Timothy Garton Ash

(コメント) ディッケンズの小説にでてくるMrs. Jellybyや,探険家となったリビングストンと比べて,Bob Geldof のLive8は意味があるのか? 残念ながら,とNiall Fergusonは指摘します.アフリカが貧しい主要な理由は,援助の不足でも,債務の過剰でも,先進諸国の保護主義でもない.その理由は,アフリカの慢性的な政治腐敗,内戦,エイズなどの病気である,と.もはやイギリスは世界の向上や銀行ではなく,G8諸国が人類の成長を担っているわけでもないのです.むしろ2025年に北京でLive8を開催し,中国人のMrs. Jellybyを感激させることです.

熱帯雨林の伐採や地球温暖化,G8の構成国についても,資本主義を非難し,世界の終末を説く以外に,論説はさまざまな観点を示します.


NYT July 6, 2005

Investing in Gaza

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 平和と繁栄を約束してくれる道へと人々は向かいます.だから,イスラエル軍のガザ地区撤退,パレスチナ人とイスラエル人の投資家によるガザ投資の活況,住民たちがハマスを支持して立てる緑の旗,戦闘は終わらせることができると信じています.シャロンとライスは決断するときだ,と.


WP Wednesday, July 6, 2005

Nuclear Dinosaur

By Peter Asmus

(コメント) 環境保護運動を原子力エネルギーに結びつけることを,Peter Asmusは批判します.原子力発電所は「グリーンでもクリーンでもない」.濃縮ウランを生産する際の多大な電力は化石燃料を燃やして作っている.核廃棄物の処理方針はできていない.放射能ガスが排出され,原発事故の危険が常に伴う,と.

それにもかかわらず,市場による解決策が原子力発電所を環境保護のために選択する,などと主張すれば,アダム・スミスが墓場でもだえ苦しんでいるだろう,と.


WP Thursday, July 7, 2005

Congratulations, London

(コメント) 2012年のオリンピック開催地がロンドンに決まったことをWPは歓迎します.なぜなら,ロンドンは都市の衰退を反転し,再活性化を成し遂げたから.1948年のロンドン・オリンピックは,まだ市内に爆撃のクレーターが残る中で行われ,人々は配給切符で暮らしていた,と書いています.その後も,イギリスは通貨危機を繰り返し,IMFに救済されたことがあります.ロンドンはストライキと停電,粗末な暖房,まずい食事で有名でした.

しかしサッチャーとブレアという優れた政治指導者を得て,ロンドンは蘇り,ヨーロッパの金融中心地になって,世界中から優れた人材を集めています.その再生の力こそ,ロンドンが国際オリンピック委員会に認められた開催地としての優位です.


FT July 7 2005

London bomb toll: 37 dead

By FT Reporters

Lionel Barber: No let-up in war on terror

By Lionel Barber, US Managing Editor, in New York

Blair vows G8 summit will continue

By Fiona Harvey in Gleneagles

Bush sends ‘heartfelt condolences’ to London

By Caroline Daniel in Gleneagles

(コメント) 開催地決定の翌朝,ロンドン各地がテロリストに襲われました.

ブレア首相は語ります.「ここサミットでは,世界の指導者たちが貧困と戦い,人々の暮らしを救い,改善するために模索している.今日の攻撃を行った破壊者たちは,人々の暮らしを破壊することしか考えていない.」 ロンドンに帰った後,彼は発言しました.「このような者たちがイスラムの名において行動することは知っているが,多くの,圧倒的に多数のイスラム教徒たちが,ロンドンでも世界でも,礼儀正しい,法律を守る人々であることを私たちは知っている.彼らは私たちと同様にこのようなテロを強く憎むだろう.

リビングストン市長も言いました.「このテロは強い者,権力を持つ者に向けられたのではない.大統領や首相を狙ったのではない.彼らは普通の労働者たちを,ロンドン市民を狙ったのだ.」

しかし,このテロ攻撃がもたらす指導者たちの団結を何に向かわせるのか,ブレア(貧困・環境)とブッシュ(イラク・核拡散)の政治的な綱引きはテロ以後も続きます.

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The Economist, June 25th 2005

Democracy in the Middle East: Mainstreaming terrorists

(コメント) 自由と民主主義を称えつつも,本当に自由な選挙を行えば,レバノンやパレスチナ自治区では過激派が当選してしまう,とイスラエルやアメリカは恐れています.The Economistは,ハマスにも政治参加の機会を与えて制度に組み込むべきだ,と主張します.

過激派として掃討するべきか,あるいは彼らを政治集団として政党に育てるべきか,アイルランドの和平実現を見ても,両方の可能性があります.アル・カイダはユダヤ人と十字軍に対する世界的な戦いを主張していますが,ハマスやヒズボラは地域社会の防衛を担っています.彼らの中には過激な宗教的主張と,地域社会の治安や経済的繁栄を担う勢力とが混在しています.

パレスチナ民衆が暴力的な抗議活動と内戦を嫌っている今なら,和平と新しい秩序のために,彼らにも参加する機会を与えるべきである,と.


America’s religious right: You ain’t seen nothing yet

Meet the neighbours: A survey of the EU’s eastern borders

Economics focus: Precisely wrong

(コメント) アメリカの政治を揺るがすキリスト教右派の組織力,ヨーロッパ政治を左右する東欧諸国の政治経済改革,そしてアジアに次のショックをもたらす人民元の改革.

キリスト教右派が政治組織を固めたのは,アメリカのリベラル派が法と裁判所を通じて改革を押し付けたことに対抗する意味があった,と言います.彼らは社会的価値を実現するのに,信仰だけでなく,政治を動かす必要を知ったのです.右派の組織は高度な知的水準と最新技術を駆使しており,政治的な交渉においても巧妙かつダイナミックです.しかし,ブッシュ政権が彼らの意図を実現することだけを目指している,と考えるのは間違っていると主張しています.

The Economistは,EU拡大と「ア・ラ・カルト」化を支持しています.もはやEUが独仏不戦同盟ではなくなったことは明白であり,成長モデルの模索と,トルコやロシア,アフリカの近隣諸国にまで及ぶ政治・経済改革の促進が重要な使命となっています.それゆえ,社会的な規範や「財政安定化」を押し付けるためにではなく,自由な経済制度を機能させる世辞的な枠組みを普及させ,競争的に成長モデルを模索する自由を認めるべきなのです.

アメリカ議会が中国に27.5%の関税を課す法案を提出したのは,人民元は安すぎる,切上げるべきだ,と考えるからです.しかし,なぜ27.5%なのか? 議員たちの予測(15-40%)を平均しただけのようです.実際,人民元は安すぎる,という根拠もそれほど確立されていません.中国はアメリカに対して黒字を累積していますが,他の諸国には赤字であり,全体としては大幅な黒字国ではありません.また,貿易額によって調整した実効為替レートは,特に1994-98年にかけて,むしろ増価しました.さらに外貨準備が急増したのも,切り上げを期待して投機的な資本流入が起きたからです.

正しい為替レートを決めることは困難です.記事は三つの方法を示しています.@購買力平価(ビッグ・マック・インデックス),AFEER(基礎的均衡為替レート),B為替レートの過去の動きを用いて将来の変動を予測するBEER.

なぜFEERが問題か,と言えば,4億人が失業もしくは低雇用の中国に完全雇用をもたらす条件は人民元を過小評価に導くからです.また,資本取引が自由化された場合,資本移動も流入ではなく流出に転じ,貿易黒字を増やす為替レートを正当化してしまいます.適切な為替レートを予測することは難しいので,アメリカ財務省も弾力性を高めることを要求しています.