IPEの果樹園2005

今週のReview

7/4-7/9

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 世界経済の不均衡: 資本移動住宅バブルも,不均衡の調整に協調政策は取れない?

2 経済学は大丈夫か?: 経済学で説明していることは,本当に,説明できることか?

3 中国によるアメリカ企業の買収: M&Aか,あるいは,新しい帝国主義の時代?

4 EUの未来は?: スウェーデンとアイルランドから学べ!

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


WP Wednesday, June 22, 2005

Time to Toss the Textbooks

By Robert J. Samuelson

(抄訳) 経済学をボートにたとえれば,それは水漏れのするタライである.ポンプで水をくみ出し,船長は必死に転覆を防いでいる.成長,雇用,生活水準を説明するわれわれの言葉,いわゆる「マクロ経済学」は混乱している.だからあなたが混乱を覚えているなら,あなたは正しいのだ.最近も,アラン・グリーンスパン連銀議長が,なぜ連銀が短期金利を上げているときに長期金利やモーゲージ(住宅融資の)金利が低下したのか,分からないと繰り返した.

それは単にわれわれが変化の真っ只中に居るというだけではない.確かに中国やインドが世界経済に参入し,アメリカの貿易赤字は爆発しつつあるというように,なじみのない,ある意味で,前代未聞の事態ではあるが.同様に重要なのは,経済学者がこれまで普通に受け入れ,教えてきた多くの前提が,今では疑わしく,信用できないものになったことだ.三つだけ例を挙げる.

1.われわれはかつて経済の主軸として消費支出を理解していると思った.何十年も,可処分所得と消費支出とは一緒に増加した.アメリカ人は税額を除いた所得の90%を少し超える消費を行い,約8〜10%の貯蓄を行った.1959年,1969年,1979年,1989年.非常に安定した関係であったから,不況の際にも消費支出は安定しており,住宅や工場の建設,設備投資とは対照的であった.

しかし1990年以後,消費支出は変化した.それは一貫して所得の増加を超えていた.2004年に,アメリカ人は可処分所得の99%を消費し,わずか1%しか貯蓄しなかった.その主な理由は「富効果(もしくは資産効果)」である.1990年代の株価高騰がアメリカ人の消費を促し,今は住宅価格の高騰だ(2000年以来55%上昇して,17兆7000億ドルの富を増やした).つまり消費支出は,所得だけでなく,ますます株式や住宅などの「資産市場」に依存するようになる.次の不況で株価や住宅価格が下落すれば,消費支出も減って不況を悪化させるだろう.

2.われわれは世界経済がアメリカにどれほど影響を及ぼすか,また,その逆も理解していない.経済学のテキストはアメリカをほぼ自給経済として教えていた.アメリカ人が互いに売買し,アメリカの貯蓄がアメリカで投資されていた.貿易額は小さい,と.グローバリゼーションがこのモデルを粉砕した.より多くの企業が外国企業と競争し,外国市場で競争する.1960年の経済開放度(輸出入の合計額をGDPで割ったもの)は9.4%であったが,2004年には25%になった.貯蓄と投資も世界化した.IMFによれば,2003年,アメリカの機関投資家たちは3.1兆ドルの外国の株式・債券を購入したが,他方,外国人はアメリカの証券を4.1兆ドル以上も購入した(しかもそれは中国を除いた数字だ).アメリカの金利が低いのは,外国の資金が流入しているからだろう.また,世界中で株式や債券の市場が結びついてきた.ますます多くの同じ投資家が売買しているからだ.投資家たちは資産を分散してより安全になったのか,それとも連鎖反応による危機の拡大にさらされるのか? グローバリゼーションは多くの難問をもたらす.

3.われわれは「完全雇用」を決定できない.経済学者たちは完全雇用を「自然失業率」と呼ぶ.安定したインフレと共存する失業率という意味だ.失業率がもっと低くなると労働市場が逼迫し,賃金と物価のスパイラルが生じる.残念ながら,われわれには完全雇用が何であるかわからないのだ.議会の予算局はそれを5.2%と言う.しかし,これまでの予測も高すぎたり低すぎたりした.「自然」失業率は,自然なものではなく,常に変化している.特に,人口変動や政策に影響される.

変化の方が,われわれの理解よりも早いのだ.それは心配なことか? 多分.混乱が恐れを呼ぶ.しかし皮肉なことに,われわれが経済を理解できないほうが,経済は好調に働くようだ.1960年代,70年代のように,経済学者が自信を持っていると,完全雇用や不況を予測したが,インフレ加速と4度も不況を経験した.むしろそれ以後,インフレが低下し,不況は穏やかで,生産性の上昇も早い.

経済学者の自信過剰は経済を弱くする.しかし,他の説明もできる.インフレの低下? ボルカーとグリーンスパンの優れた判断? 経済の自己規律? 新技術? われわれには分からない.


FT June 23 2005

A new Asian invasion

By Dan Roberts, Richard McGregor and Stephanie Kirchgaessner

(コメント) かつてアメリカ議会は「(アメリカが)日本の植民地になる」と警告して,日本からの企業や不動産の買収に反発を強めました.

再び,「異常な買い手」によるM&Aが投資家に不安をもたらし,アメリカの政治家を不快にします.CNOOCは石油,Haierは電機,Lenovoはパソコン分野で,アメリカ企業を買収しました.すべて中国企業です.当然,1980年代の日本によるM&Aと比較されます.たとえば同様に,政府による低利融資や補助金が利用されている,と疑われています.M&Aは,アメリカとの貿易摩擦を緩和するのか,あるいは加速するのか? 輸入に反対していた労働組合はM&Aに反対しません.

中国はFDI受け入れに積極的でしたが,日本の投資家よりも政府による産業育成を世界規模で行うかもしれません.アメリカ企業の買収は,生産コストではなく,そのブランドと市場アクセスを手に入れ,エネルギーと資源を確保するものです.日本の通産省を模倣した政府機関が中国企業の国際M&Aも支援していると言われます.これに対して,アメリカの政治家Dick D’Amatoは,安全保障上の理由で,戦略的に重要な分野で中国企業による買収を阻止するべきだ,と主張しています.

FT June 24 2005

Maverick oil mandarin

By Francesco Guerrera, Joe Leahy, Enid Tsui and Richard McGregor

FT June 24 2005

CNOOC's gamble

LAT June 24, 2005

Oil for China

NYT June 24, 2005

Unocal Deal: A Lot More Than Money Is at Issue

By LESLIE WAYNE and DAVID BARBOZA

FT June 25 2005

Rich and popular: here comes China

NYT June 26, 2005

With Bid for Unocal, U.S. Struggles on China Policies

By RICHARD W. STEVENSON

June 27 (Bloomberg)

Could GM, Microsoft End Up in Chinese Hands?

William Pesek Jr.

(コメント) アメリカとイギリスの間にはM&Aが大規模に起きているでしょう.アメリカとEUとの間にも,またアメリカと日本との間でも,少なくとも,M&Aが通信や金融などの重要分野で起きています.アメリカと中国との間でも起きるでしょうか?

アメリカと中国との関係は確実に膨張しつつあり,アメリカ企業が生産拠点を移したり,外貨準備として財務省証券を累積したりするだけでなく,さまざまな分野に及ぶ重要な関係になっています.安全保障の視点からは中国脅威論が意識され,経済政策の視点からは協調と安定化が重視されます.たとえ民間企業のFDIやM&Aの時代にも,再び,帝国主義的対立が蘇るでしょう.もちろん,米中間で相互に学ぶことが可能であれば,成熟した関係が築けるかもしれません.

William Pesek Jr.は,中国政府が二段階のM&A戦略を持っている,と考えます.第一段階で,中国企業は世界中の資源を確保するために国営企業による海外でのM&Aを推進しました.第二段階として,対米黒字と人民元切上げ圧力に対応しようとしています.

通貨価値の増大と同様に,中国へのFDIが注目される時代から,中国企業によるFDIが注意を集める時代に変わるでしょう.日本の投資家と同じような記念物や美術品の蒐集に向かうのか? アメリカは,近いうちに,中国人が資本市場にも登場する時代を待つわけです.


The American Prospect 06.23.05

Big Labor, Big Choices

By Robert Kuttner

NYT June 30, 2005

A More Perfect Union

By RUTH MILKMAN

(コメント) グローバリゼーションの時代に,「労働組合」は「資本規制」と同じように時代錯誤なのでしょうか? アメリカの全国労組AFL−CIOも分裂の危機に直面しています.アメリカの労働者の半数が労働組合を望んでいますが,組織率はわずか8%と,ニュー・ディール以前の水準に落ち込んでいます.アメリカの製造業は縮小し,職場が不安定になっています.企業は利益を上げても労働者に分配しません.

1935年の労働運動をNYTは描きます.当時,非農業部門の組織率はわずか13%でした.特に,アメリカの労働力を底辺で支える移民たちには,もっとも厳しい条件が強いられました.彼らの組織率はさらに低かったでしょう.その後,CIOが誕生して組織率は改善し,1955年には35%に達しました.

労働運動を再建するためにAFL−CIOの議長候補に挙がっているAndy Sternは,最大の支部であるサービス部門の労組を代表しており,各部門に一つの労働組合を目指して労組の統合を唱えています.こうすることで,労組同士が敵対し,競争することなく,企業と交渉できるからです.それぞれの既得権を超えて,主要な組合が統合することを認めています.

アメリカのサービス部門労組が中心となって,グローバリゼーションにおける職場の安定と賃金引上げ,年金や医療保険の改善を要求することが重要な課題です.労働組合がなければ,それを要求する力を持つ者はいなくなるでしょう.


BG June 24, 2005

The return of '1984'

By H.D.S. Greenway

(コメント) ジョージ・オーウェルの『1984年』をまだ読んでいない? すぐにハヤカワ文庫で買ってください! H.D.S. Greenwayも,夏休みに浜辺で読むにはこの本を薦めています.最近の出来事は非常に似通っているから,と.

1949年に書かれたこの名作は,オーウェルの死後50年を経ても,「ニュー・スピーク」,「ダブル・シンク(二重思考)」,「過去の改ざん」,など,常に現実を描く新鮮なイメージを与えてくれます.

誰でもよいから,自信たっぷりで権威主義的な政治家が自分の失敗に直面する姿を思い出してください.プーチン? ラムズフェルド? ブッシュ? 金正日? ムガベ? シャロン? ・・・彼らは皆,オーウェルが開発した「現実管理」を担う「真理省」のアイデアに魅せられています.

オーウェルは深く悲観していました.「政治的言語は,・・・嘘を本当らしく見せ,殺人を尊敬すべきことにし,連帯が生じることを吹き消してしまう.」

グァンタナモ収容所の支持者が,この論説の直接の対象です.しかし,日本政府が原水爆廃絶や,靖国神社を扱う姿勢でもよいでしょう.「われわれの持代には,政治的演説や著作の多くが,擁護できないものを擁護するためになされる.」


NYT June 24, 2005

The War President

By PAUL KRUGMAN

(コメント) オーウェルが恐れるような社会は,もし健全な市民が政府の行動を監視しているなら,容易に実現できないはずでした.しかし,アメリカがにわかに変身したように,戦争の恐怖によって市民よりも兵士が望ましい姿になるときは,短期間でも実現します.ブッシュ大統領は,まさに戦争指導者を自称して,この社会変化を推進し続けています.

ここでPAUL KRUGMAN が指摘したのは,2002年7月にイギリス首相に示されたthe Downing Street Memoです.アメリカ大統領がサダム・フセインを軍事力によってでも排除したがっていること.テロや大量破壊兵器との結びつきがなくても,情報や事実がこの目的のために利用されていること.これらのことをイギリス情報部は明確に分析していた,と言います.もちろん,それでもブレア首相は戦争に加わったわけですが.

KRUGMANは,たとえ今でも,この戦争を始めたブッシュ氏とその支持者たちの責任は追及されるべきだ,と考えます.われわれを間違った前提によって戦争に導いた者が,撤退や敗北を議論することに対して愛国主義を説教する資格などないのだ,と.


NYT June 24, 2005

We Are All French Now?

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Friday, June 24, 2005

A Party Without Ideas

By Charles Krauthammer

NYT June 25, 2005

Group of Democrats Back Pact on Central American Trade

By EDUARDO PORTER

(コメント) THOMAS L. FRIEDMANはグローバリゼーションの支持者です.事実としても,競争としても,政治支配としても,グローバリゼーションを避けることはできません.だから,EUを否決したフランス人たちを「反グローバル化のド・ゴール主義者で,保護主義者」と軽蔑します.しかし,と彼は考えました.「メイド・イン・ホンデュラス」も「メイド・イン・中国」も,グローバリゼーションへの反動です.砂糖業界も,AFL−CIOも,民主党員も,彼らを容認しているアメリカ人も,今やすっかりフランス人になってしまった,と.

Charles Krauthammerは,対抗する具体的な政策を議論しない民主党を「反動的リベラル」と呼びます.その主張はたった一つです.「どのようなコストを払っても,現状を維持せよ.」 社会保障,国連大使,グァンタナモ,特に,CAFTAに反対する無責任な姿勢です.第三世界の貧困に対する優れた貢献であるはずのCAFTAに民主党が反対してどうなるのか? レーガンの軍事介入に反対して,自由貿易による支援と希望を与えるはずではなかったのか?

EDUARDO PORTERは,The Washington Postに公表された,民主党員たちへのCAFTA支持を促すクリントン,カーター両政権の幹部たちを含む数十名の呼びかけを紹介しています.


Asia Times Online, Jun 25, 2005

Revaluation controversy rages on in Washington

By Emad Mekay

(コメント) 議論の基本的な流れは同じです.アメリカ議会は中国に対する制裁的な関税法案を,国民感情に応えて準備しています.他方,経済学者には人民元切上げを支持する意見と,むしろ中国市場へのアメリカの輸出増に期待する意見があります.グリーンスパンFRB議長とスノー財務長官は関税の効果を否定し,議会に自制を求める一方,中国自身が景気過熱を抑えるために金融引き締めと,その前提となる変動レート制への移行を決断するように求めています.


NYT June 25, 2005

Next Wave From China: Exporting Cars to the West

By KEITH BRADSHER

(コメント) ダイムラー・クライスラーに続いて,ホンダが中国の工場から自動車をヨーロッパに輸出しました.いよいよ世界中の自動車も中国製になるのでしょうか? その場合,工業諸国の自動車労働組合は対応を急がねばなりません.

中国政府は直接投資を合弁方式で歓迎し,完成品に関税を設けて工場移転を促しました.まだ品質に差があるでしょう.しかし自動車についても,関連企業も含めた大規模な生産拠点の移転が進み,品質が急速に改善しています.もう後数年で,主要な輸出国になるかもしれない?

FT June 26 2005

Amity Shlaes: US begins rethink on China

By Amity Shlaes

NYT June 26, 2005

Chinese Strength, U.S. Weakness

NYT June 27, 2005

The Chinese Challenge

By PAUL KRUGMAN

(コメント) かつて,アメリカ議会は論争の末に中国に対して市場を開放しました.貿易が増加し,経済的な富と繁栄を求める人々が,中国政府に民主的な改革や企業活動の自由を求めるようになるだろう,と期待したのです.中国は貿易黒字を増やし,国内経済も成長し,中国の国営企業がアメリカ企業を買収するまでになりましたが,政府は民主化や自由な言論と選挙を拒んでいます.そしてアメリカも,安全保障と保護主義を再び強調し始めました.

Amity Shlaesは,中国が韓国と同じく,輸出向けの大企業を育成することはできても健全な中小企業を育てていない,と注意します.そのためには金融部門や所有権,司法制度の確立,革新の促進など,国内改革が重要です.アメリカが「保護主義」に向かうのは,中国の改革が進まないからである,と.

NYTは伝えます.「もし中国がアメリカの石油企業を買収するなら,遂には,アメリカも自国経済の保護や資源の確保をどうするか,考えなければならなくなる.アメリカが唯一の秩序を決める世界ではなくなるのだから.」・・・「先週,共産主義国による史上最大の資本主義的行動が取られた.中国国営のCNOOCがアメリカ企業Unocalを185億ドルのキャッシュで買収したのだ.」

アメリカ議会に反中国感情が高まります.来年の下院選挙を控え,中国の制で高騰するガソリン価格に憤慨し,輸入品の洪水や人民元について非難を繰り返してきた政治家たちは標的を探しているのです.アメリカが「戦略的思考」を重視するようになるのは確実です.

それはアメリカ自身の弱さを直接に語らず,誰かに不満をぶつけることで済ますからです.中東の自爆テロに巻き込まれ,そこから輸入される石油と非民主的な政府に依存し,巨額の貿易赤字を資本流入に依存し,ドル暴落についてアジア諸国の行動を恐れているからです.

「中国を非難するより」と,NYTは書きます.「工場が海外に移転されて失業した労働者たちに再訓練と雇用を促す支援計画に予算を充てるべきだ.」 「中国を非難するより,分別のある経済政策を実施するべきだ.そして,富裕層へのブッシュ氏の減税は撤回することだろう.」

PAUL KRUGMANは,日本がアメリカ企業を買収する際に,国民がパニックを起こさないよう求めました.しかし,中国による買収は違う,と言います.中国政府が人民元への投機的な攻撃を阻止するためにアメリカの財務省証券を買い続けているとしても,それがいつか終わるはずです.アメリカ人はドル暴落よりも,中国人がアメリカ企業や不動産を買ってくれることを好むでしょう.まさに,日本人がしたように.

しかし,中国人は日本人ほど愚かではないし,日本人よりも本物の競争相手である,と考えます.つまらない威信のために大金を注ぐことはないし,世界のパワー・ゲームに参加するため国営企業を駆使しています.だから KRUGMANはUnocal買収を認めないほうがよい,と考えます.それ以前に,財政赤字や貿易赤字,イラク戦争で,アメリカが中国に対抗する力を失っている現状を変えておくべきだったのだ,と.

NYT June 27, 2005

China's Economic Brawn Unsettles Japanese

By JAMES BROOKE

NYT June 27, 2005

China's Costly Quest for Energy Control

By JOSEPH KAHN

WP Monday, June 27, 2005

China's Latest 'Threat'

By Sebastian Mallaby

FT June 28 2005

Asia's oil equation

(コメント) 当然,反日デモは日本企業の中国と牛に深刻な心理的抑圧を与えました.日本企業は生産拠点を中国だけに集中することを既に強く警戒しているでしょう.確かに,今では,中国がアジアや世界の成長のエンジンとなっています.しかし同時に,政治的な地殻変動の震源地でもあります.日中関係に不安を覚えるとき,日本は日米関係を重視するわけです.そして,ベトナムやフィリピンにも投資し,インドネシアの政治的安定化と資源開発を積極的に支援します.また,将来はインドが成長のエンジンになって欲しい,と願うわけです.しかし真の問題は,それ以前に中米関係が悪化して,日中関係を大きく動揺させることかもしれません.

特に,石油の供給をめぐる米中の対抗関係は深まるでしょう.この点で,JOSEPH KAHNの記事は興味深いです.もし台湾海峡で米中が交戦するとしたら,アメリカは中国への石油供給を止めるでしょう.中国は世界的な供給ネットワークを求め,アメリカが反対しても中国に供給する産油諸国との契約を求めます.

そのためには,中国に友好的なスーダン政府がダルフールの虐殺で国連安保理から軍事介入を受けないように,中国政府が決議に反対します.また,経済的には見合わないロシアからのパイプライン敷設計画も復活させます.日本との領海争いを加熱させても,東シナ海の大陸棚で油田を開発します.

経済学者は,石油も単なる商品なのだから,市場で買えば良い,と主張する.しかし,彼らは自国の石油企業が国際市場で主要な地位を得ているからそんなことが言えるのだ,と中国人は考えます.Unocal買収は経済的にも,政治的にも,中国の政治体制を守るために必要なのです.

Sebastian Mallabyは,Unocalがアメリカにとっての脅威になる可能性はない,と考えます.議会がその話題に熱中する理由はあるとしても.またFTは,むしろ需要の抑制を求めます.アジアの石油輸入・油田開発が競合することは予想されるから,中国のエネルギー供給の3分の2を占める石炭による発電所の効率化を図り,石油利用の節約を図る上で,日本が技術的な協力を行えるだろう,と指摘します.

The Standard, June 27, 2005

China's widening wealth gap is a major source of social unrest

NYT June 28, 2005

China Economy Rising at Pace to Rival U.S.

By KEITH BRADSHER

FT June 30 2005

Philip Stephens: West blind to China’s problems

By Philip Stephens

LAT June 29, 2005

The Great Malls of China

By William S. Kowinski

(コメント) The Standardは,経済成長が続く中で拡大する所得格差を描いています.大学に合格しても学費が支払えずに自殺する.1年間100ドル以下で生活する人々が6000万人.ジニ係数が0.35から0.5に上昇した.・・・地方政府に土地を取り上げられ,すずめの涙しか保証金を受け取れなかった農民たちは,中国の伝統に従い,武器を持って庁舎を占拠し始めています.

KEITH BRADSHERも,中国企業によるM&Aを日本や韓国と比較します.Philip Stephensは,中国の目覚しい躍進や世界市場への台頭を説く多くの精緻な統計分析,豪華な講演会,最新記事などが溢れる毎日を,もういい加減にしてくれ,と言います.本当に中国が世界にとって何を意味するのか,まだ誰も理解していないのだから.

William S. Kowinskiは,中国がアメリカのショッピング・モールをさらに大規模に模倣していることに注目します.多くの中国人が新しい巨大モールに集まって,アメリカ企業のブランドを付けたメイド・イン・チャイナの製品を購入して行きます.他方で,安価な中国製品を並べたウォル・マートなどに追いやられて,アメリカの中産階級が没落し,巨大なショッピング・モールは分解されつつあります.

所得格差,高速道路,ショッピング・モール.・・・その社会的な亀裂においても,中国はアメリカを超えるかもしれません.


FT June 26 2005

Martin Wolf: Capital flow must change course

By Martin Wolf

FT June 28 2005

Martin Wolf: Multilateral leadership can right the ship

By Martin Wolf

FT June 29 2005

A world economy, living dangerously

(コメント) 貧しい諸国からたっぷりとアメリカに資本が流れ込む仕掛けについて,まともな神経を持つ人ならば誰でも説明を求めたいでしょう.たとえば,IMFのWorld Economic OutlookやMartin Wolfなら,何か説明しているでしょうか?

私の印象では,人口爆発のイメージが逆立ちして復活したように思います.人口爆発は持続する貧困の理由でした.医療技術や社会変化によって死亡率が下がった貧しい国で,出生率はなかなか下がらない.すると人口が爆発して貯蓄や援助を食ってしまう.貧困が繰り返される,というわけです.

ところが,裕福な国に比べて,貧しいアジア諸国の貯蓄率はむしろ非常に高かったのです.彼らは余りにも貧しくて貯蓄できなかっただけです.新興市場として輸出を中心とした成長を遂げるに連れて,所得は増えたのに貯蓄率は減らない.さらに世界から直接投資まで吸収するようになります.同時に,通貨危機が襲い,石油価格が高騰した.その結果,アジアの新興市場はせっせと貯蓄する一方で,国内消費や投資を削り,過剰貯蓄を加速しています.・・・だから? 世界の富裕諸国はせっせと消費に励み,世界景気と世界雇用を支えなければなりません.

要するに,だから,アメリカは悪くない,と分かったか? 世界の貯蓄・投資バランスがずれるほど,国際収支不均衡が拡大して世界の雇用を維持しているのである,と書いてあるような・・・私は印象を持ちました.

アジア諸国が蓄積した外貨準備という過剰貯蓄は,支出されねばなりません.他方,アジア諸国はそのドル・ペッグと重商主義的な政策を転換しない限り,世界を危機に向かわせます.アジア諸国,特に中国は,世界の主要諸国と協調することで解決できるでしょう.

成長を目指した国際協調か? あるいは,各国が単独で安定化と調整を追及するのか? 後者の場合,ドル暴落の危険性を高め,通貨介入を拡大するシナリオに逆らう国が現れ,世界景気も維持できないと懸念されます.もちろん,逆立ちした世界を正せば,アメリカが増税して過剰消費をやめ,国際通貨システムが通貨危機を防いで,赤字国・黒字国の調整政策に関する合意を形成して,問題は最初から回避される方が良いのです.・・・本当に?

再びWolfは,BISの年報を持ち出して,1960年代との比較を考えています.多くの類似点があるからです.実質金利の低さ,信用供与の膨張,ドル安,為替レートの調整を拒む諸国における過度の金融緩和,財政赤字,商品価格の高騰,特に石油! ・・・その末に,1970年代は国際通貨秩序が混乱し,インフレが世界に波及しました.

何をなすべきか? 三つの説を検討します.1.何もしないほうが良い.1980年代がそうであったように,各国が自国に必要な経済運営を行えば市場はそれを調整するのであり,国際政策協調などまやかしです.しかし,今の方が1980年代よりも不均衡は深刻です.このままではアメリカや,さらに今回はEUが保護主義的な措置に訴えるでしょう.巨額の債務を解消する期間は長く,生活水準の悪化も避けられません.

では,2.アメリカが調整政策を決めて他国に強制する.つまり,中国に為替レートやマクロ政策を指図するわけです.これは中国以外の諸国と調整する必要がある上,中国国民に植民地主義を思わせるでしょう.そして事態をむしろ悪化させるかもしれません.

つまり,Wolfは,3.アジア諸国を加えた国際協調の制度改革,を行うよう求めます.IMFやG8も,現代の国際不均衡を調整するのにふさわしいメンバーと合議制を重視するべきだ,と.


NYT June 26, 2005

How Home Prices Can Be Hot but Inflation Cool

By DANIEL GROSS

(コメント) 住宅価格のバブルとインフレ目標とは矛盾しないのか? あるいは資産市場や住宅市場にも安定化策が必要か? 要するに,債券市場はバブルなのか? もっと長期的な上昇傾向を示すのか? 資産市場でインフレが続いている限り,その違いは見えません.


FT June 27 2005

Europe’s urgent need for imagination

By Anatol Lieven

June 27 (Bloomberg)

The Swedish Model Offers Europe a Luminary Path

Matthew Lynn

NYT June 29, 2005

The End of the Rainbow

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) フランスとオランダが,EUの多元的民主主義には限界があることを示しました.EUは,要するに「ヨーロッパ不戦同盟」へ戻るのでしょうか?

EUは一種のソフトな帝国として,準ローマ的な理念を発展させてきた.それがヨーロッパ全体を包み込み,さらには世界にまで及ぶだろう,と考える野心家もいた.こうした夢想は潰えたのだ.EUは,その多くの関心を満たす限られた手段しかなく,辺境の安定化も図らねばならない,というビザンチン的な言葉で考えなければならない.しかし,もちろんブリュッセルで働いたことがある者なら,ビザンチン帝国の思考は当然であろうが」と,Anatol Lievenは書きます.

スウェーデンの中央銀行the Riksbankが金利を下げたことで,ヨーロッパの金利が下がる前兆かもしれない,と期待されています.人口わずか900万人のスウェーデンが,EU再生のモデルを示していると言われます.すべての改革は,あの1992年の通貨危機,金利を500%まで引き上げて自国通貨クローナへの投機を抑えたことから始まりました.

スウェーデンが金利を下げられるのは,市場を積極的に規制緩和し,政府部門を民営化して,生産性を上昇させ,国際競争に耐えられる企業を育ててきたからです.それはまた,厳しい改革にも耐えられるようにユーロには参加せず,金融政策を積極的に利用できたからです.スウェーデンは福祉国家の理想を堅持したまま,アングル・サクソン型の自由市場を受け入れました.

THOMAS L. FRIEDMANは,EUの理想として,むしろアイルランドを取り上げます.アイルランドと言えば移民流出,悲劇的詩人,飢饉,内戦,妖精くらいしか思いつかない国でした.しかし今は違います.一人当たり所得は,ドイツ,フランス,イギリスよりも高いのです.何が起きたのか?

まず1960年代後半に,アイルランドは高等教育を無料にして,労働者階級の子供たちをすべて高卒かエンジニアにします.その結果,1973年にEUに加盟したときには,多くの教育ある若い労働者がいました.しかし,1980年代半ばまでにEUの補助金を得てインフラ整備に費やしたにもかかわらず,長年に及ぶ保護主義や財源の配分失敗でアイルランド経済が破綻し,労働者を海外に流出させます.

しかしその後,国民は協力して改革を進める勇気を示しました.財政を引き締め,法人税を大きく削り,賃金や物価を抑えて,外国資本を積極的に誘致しました.1996年には大学教育も基本的に無料にし,一層の高度労働力育成を図りました.世界の指導的な製薬会社,ソフト会社が,次々とアイルランドに投資し,アメリカから多くの直接投資を受けています.

デルのMichael DellやインテルのJames Jarrettは,なぜアイルランドの投資したのか,語っています.教育のある労働者,優れた大学,企業への低い課税や優遇策,ビジネスの変動に対して政治的に独立した友好的姿勢(企業関係の非政治化),競争心と上昇意欲に富む国民性,優れた輸送インフラ,アイルランドの位置(EU市場に隣接),など.

FRIEDMANは,常に辺境から革新が起きる,と予言し,正しい国内政策を取って,グローバリゼーションの豊かさを享受せよ,と主張します.アイルランドの成功は例外的な条件も含んでいると思います.しかし少なくとも,他国にグローバリゼーションの教訓を与えているでしょう.


The Guardian, Monday June 27, 2005

The black stuff has world order over a barrel

Larry Elliott

(コメント) 石油が枯渇し,その前から世界資本主義の過熱が価格高騰をもたらすのは,反グローバリゼーションの支持者にとって歓迎されます.しかし,それで政治的なバランスが変わるとしても,本来の政治選択を石油市場に委ねることは間違った楽観論だと思います.


Asia Times Online,Jun 29, 2005

Hobbesian hell in the making

By Gaurang Bhatt

LAT June 29, 2005

Only Death Will Win

By Jack Miles

(コメント) 世界最大の油田地帯に安定した供給を保証する政治体制を維持するため,アメリカはイランのシャーやサウド家を軍事的に強化し,政治的に利用してきた,というのは納得できる話です.そして,それが両方ともイスラム過激派や原理主義の温床となり,いよいよサダム・フセインを武力で排除して,親米民主政権をイラク(そして中東全域)に樹立するという大きな賭けに出て,致命的な失敗を犯した,という評価も日に日に説得力を増しています.その背景には,他国の歴史や複雑な文化的・社会的背景を理解しようとしない,アメリカ政府の知的な欠落,傲慢,無能さがあります.

政治的に意図された戦争を道徳的・宗教的に正当化する,キリスト教vsイスラム教の対立図式.冷静な議論を拒む終末論の世界観.ここではアメリカが,イスラム教徒を支配するビザンチン帝国にたとえられている(そのたとえでEUを批判するときもある)ことに興味を持ちました.

「世界は全体としてジャングルの法則へ,無慈悲で非道徳的な,生き残るための戦いへと戻りつつある.この進化(=退化)は個人や種族にとって永遠のものであり,すべての人間らしさはホッブス的な地獄に呑み込まれる.そこにおいては人の一生など汚く,野蛮で,短いだろう.比較的文明化された人類史の部分が束の間の歴史を終えて,われわれはみんな進化のジャングルに復帰する運命にある.すべて銃だけが頼りの世界へ.」

Jack Milesは考えます.イラクの現状を理解するために,「起こりえないことだと思うが,あるときアメリカが独裁者の手に落ちて,アメリカのスターリンが権力を維持するために数百万人を殺したとしよう.このとき,招待したわけでもない外国の軍隊が1000人に一人の犠牲でわれわれを解放したと仮定しよう.アメリカ人の犠牲者はたったの40万人で,独裁者が殺した数に比べたらずっと少ない.さて,われわれはこの解放を祝福するだろうか?」 と.

イラク市民は今も数カ月毎に,9・11の犠牲者に匹敵する死者を生み出し,人口比で換算すれば毎月9・11の数倍の市民が犠牲となっています.それでもラムズフェルドやブッシュが言うように,兵士たちは「完全な勝利の日」まで,何年でも待つのでしょうか?

FT June 30 2005

Bush’s hollow fiction of Iraq war

By Zbigniew Brzezinski

The Guardian, Thursday June 30, 2005

The sobering of America

Timothy Garton Ash

WP Thursday, June 30, 2005

Echoes of Vietnam

By Richard Cohen

(コメント) ブッシュ氏の演説は,それはそれで立派なものでしたが,イラクの現実とかけ離れており,聞く者の不満と不信,憤慨を煽ったようです.ブッシュ氏はこの戦争がテロを抑え,テロリストたちを権力から追放する,と主張します.

Timothy Garton Ashは,アメリカが現実に目覚めることを期待しています.アメリカ国内の債務,失業,中国の台頭,何よりイラクの現状について.その証拠に, Fort Braggにおけるブッシュ氏の演説はたった一度だけ兵士たちの歓声を呼んだに過ぎないのです.

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The Economist, June 18th 2005

After the fall

The global housing boom: In come the waves

(コメント) 住宅市場のバブルは,史上空前の水準に達しており,裕福な諸国から発する世界恐慌をもたらすと予想されています.どれほど優れた金融政策を用いても,住宅価格がこのまま安定して,時間をかけてガス抜きされることはないでしょう.

The Economistは,バブルが長引き,山が高いほど,その後の破綻は確実であり,激しいだろうし,金融引き締めがなくても,既にイギリスやオーストラリアではバブルが破裂した,と指摘します.株式と違って住宅は価格が下落しにくい,という楽観も否定します.すでに住宅も信用を介して投機的に売買されているからです.むしろ,住宅・土地価格が下落すれば,その影響は株価よりも深刻です.人々は消費を減らして貯蓄するしかないし,銀行はもはや融資できません.

日本が顕著に示したように,インフレ低下を成し遂げた時代の,バブル破綻後に襲うデフレは,その富が幻想であったと分かるまで,長い不況をもたらすのです.日本の不動産価格は14年間も下がり続けて,その価値の40%を失いました.


Economics focus: To give or forgive

(コメント) G8が検討しているような債務削減は開発に有効でしょうか? 貧しい国から債務を取り立てることは,高利貸しのように憎むべきことでしょうか? 非常に貧しく,腐敗していない政府に対してであれば,債務削減は裕福な諸国の責務に思えます.

しかしThe Economistは,そのコストが国際機関によって他の融資を削減したり,貧しい諸国に転嫁されたりするだろう,と指摘します.もし国際機関の損失を裕福な諸国が財源移転で埋めるなら,彼らは増税するはずがなく,既存の援助の予算から振り替えるのであり,要するに個別の援助を多角的な援助に変えるだけでしょう.

それでも債務削減は貧しい国の債務依存度を低下させ,もしかすると民間投資を増やすのかもしれません.しかし,援助が民間投資に振り替えられるには,債務依存度のほかにも,投資を妨げている多くの問題を解決しなければなりません.役人の腐敗.所有権の不完全さ.市場の分割.インフラの不備.・・・