IPEの果樹園2005

今週のReview

6/27-7/2

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 新兵募集: アメリカ軍は世界で新兵を募集できる.兵士を出さない者が戦争を好む.

2 中国の台頭: ラムズフェルドとパウエルは中国の軍備増強をどう考えるか? 小泉首相は?

3 イラク戦争: あれは戦う価値の無い戦争だったのか? 多くの失敗とともに.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


LAT June 16, 2005

Defend America, Become American

Max Boot

NYT June 16, 2005

Uncle Sam Really Wants You

By BOB HERBERT

(コメント) 先月の新兵募集は目標を25%も下回った,と言います.報酬を引き上げ,小さな犯罪歴や高校卒業の資格が無くても,アメリカは兵士として採用します.この傾向が続けば,アメリカはイラクから撤退するか,あるいは徴兵制を敷くか?

保守派の批評家Max Bootは,新兵募集の枠を永住権や合法移民の形でアメリカに滞在する者にも拡大することを提案しました.実際,ユタ州選出のOrrin Hatch 上院議員が昨年提出したThe DREAM Act (The Development, Relief and Education for Alien Minors Act)法案は,アメリカに5年以上居住する未登録(非合法)移民の子供たちを狙ったものです.子供が2年間兵役に就けば,彼らも高卒の場合,国籍を得られるし,2年間のカレッジ教育もしくは軍への採用を受けられます.

Bootはこの法案をさらに発展させて,フランスの外国人部隊やイギリスのグルカ兵,ローマ帝国の考え方も組み合わせた,全世界徴兵制を再提案します.世界中のどこであれ,誰であれ,アメリカの兵役に服した者にはアメリカ国籍を認める,というのです.必要なら一定期間の英語教育を受けた後で採用する,と.

異なる言葉や文化を混ぜこちゃにした軍隊など,イラクの混乱を増すだけだ,という反対意見に,

Bootは,ローマ帝国が優れた忠誠心と民主主義を鍛えたのは多民族による軍隊においてであった,と応えます.だからローマは衰退した,というのに反論して,彼らは帝国を500年間も維持した,と.朴ス・アメリカーナはまだその半分にもなりません.実際には,アメリカ兵が不足する分,イラクで傭兵が増えているのです.

アメリカ人になるために,移民たちは進んで危険な兵役の任務にも就くのでしょうか? もちろんだ.アメリカ人になりたい,と願う多くの移民たちが国境の向こうに待っているではないか? それとも,新兵募集に10万ドルのボーナスをTV宣伝し,国内の重罪犯罪者を解放して戦場に連れて行くか?

アメリカ軍の募集方法を示した"School Recruiting Program Handbook"が問題になっています.どのように軍隊は高校生を募集するべきでしょうか? 新兵募集の担当者たちは,華麗な制服を身に着け,あるいはドーナツやプレゼントを持って,イラクの戦死者が増える中で,裕福な学校の募集に見込みが無いとしても,余り裕福ではない,あるいは貧しい学校の食堂へ,あるいはボーイスカウトへ,何度も通うことになります.

BOB HERBERTは,戦争が子供の遊びではないことを考えれば,新兵募集のやり方に慎重さが求められる,と考えます.


Asia Times Online, Jun 16, 2005

The coming trade war and global depression

By Henry C K Liu

Asia Times Online, Jun 24, 2005

Dollar hegemony against sovereign credit

By Henry C K Liu

(コメント) Henry C K Liuはニューヨークで活躍する投資銀行Liu Investment Groupの会長ということですが,彼の目から見ても世界はこう見えるのか,と新鮮な印象を持ちます.しかし,長い! 部分的に読むのが精一杯です.

大恐慌との比較,冷戦時代との比較,ネオリベラリズムの世界が始まった.拡大する不平等,アメリカの経済政策による世界的不均衡.不確実な世界への依存.クリントン政権の財政健全化,ハイテク・バブルと市場統合.グローバリゼーションが強めるアメリカへの反発.アジア通貨・金融危機.Karl Polanyiへの関心.自由貿易と搾取,帝国主義批判.多様な資本主義を求めるEisuke Sakakibaraへの共感.しかし,ケインズからマネタリズムへ,金融・貨幣の理論に関する論争,アメリカの人工貨幣に依存する現状への不満,結局,誰が信用を供給するのか?


FT June 17 2005

Lunch with the FT: The great leveller

By James Harkin

NYT June 17, 2005

As Toyota Goes ...

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) FTのランチに招待されたのは,ここでもよく取り上げるトーマス・フリードマンです.グローバリゼーション論のごちゃごちゃした論評を突き抜ける目ぼしい教祖様の一人です.その人物に関して,外見の印象や食事の様子を伝える文章を読むのも楽しいです.

記者が切り込んだ質問は,グローバリゼーションの教祖となったフリードマンが9・11以後はアメリカの自我とその苦しみを描いている.グローバリゼーションへの賞賛と世界の必然を説いていたことは,9・11以後のアメリカや世界と矛盾しないのか? です.フリードマンは,両者が同時に進む,と応えているようです.ビン・ラディンが現れたのも,中国の貧困が減少したのも,すべてグローバリゼーションの手の内にあるからだ,と.まるで仏陀の手の平・・・?

フリードマンは前日にゴードン・ブラウン蔵相に会ったようです.ブレア首相とブラウンのどちらが好きか,という問いには答えませんが,アメリカにどちらか一人でも居てくれたら,と答えたようです.日本には,ぜひ二人とも居て欲しいです.他方,アメリカが問題を抱えている,と言うなら,ヨーロッパはトルコ人の看護婦が動かす生命維持装置の世話になっている病人だ,と切り捨てています.

記者も言うように,こうした刺激的なイメージを駆使する能力が,フリードマンを世界一の批評家にしたのです.しかし,「フラット・ワールド(平坦な世界)」というイメージに,私は余り感心しません.「容易に解雇できる方が,容易に雇用できる.」・・・ その理由によるでしょうね.

トヨタとGMから何を考えるか? アメリカ人の多くは,トヨタにGMを買収してもらう,という考えを嫌うでしょう.しかしフリードマンは,解雇されるGMの重役たちのためではなく,GMの従業員やアメリカのためを思えば,トヨタの幹部がやって来てGMの自動車生産を再建してくれる方が良い,と考えます.同時に,トヨタのハイ・ブリッド技術で燃費が改善されれば,アメリカの中東石油に対する依存と弱さを抑えることができるのです.その技術はフリードマンがアメリカ政府に要求する「ゲオ・グリーン」戦略の核となるでしょう.

労働者は,環境保護運動,宗教対立,これらを一気に解決して味方につけるのが,フリードマンの選択です.そして,なるほど世界は政治的にもより平坦になるでしょう.


June 17 (Bloomberg)

Don't Let Daewoo's Kim Pull a Kenneth Lay

William Pesek Jr.

(コメント) エンロン,ワールド・コムの汚職事件は忘れられたかもしれませんが,韓国では大宇グループの元会長Kim Woo Choongに関心が集まっています.先日,海外での逃亡生活から帰国して,41兆ウォン(約410億ドル)の詐欺容疑により逮捕されました.

アジア通貨危機に際して,大宇などの企業グループが膨張させた対外債務を支払うために,韓国政府はIMFから570億ドルの救済融資を受けました.もし軽い扱いになれば,韓国政府は企業と組んで債務を膨張させることを容認し,支援しているわけです.

他にも,タイのPCIグループを率いたPrachai Leophairatanaなども大して後悔していないだろう,とPesek Jr.は考えます.


BG June 17, 2005

Facing facts in Iraq

By H.D.S. Greenway

NYT June 20, 2005

Someone Else's Child

By BOB HERBERT

The Guardian, Thursday June 23, 2005

Blinded by the light at the end of the tunnel

Sidney Blumenthal

(コメント) イラク戦争はどうなったのでしょうか? アル・カイーダとのつながりはアメリカ政府の勝手な情報操作でした.イラク国民が歓迎して民主主義を待ち望んでいたわけでもありませんでした.兵力は不足し,占領計画は杜撰で,初期に多くの失敗を重ねました.そして,予測されたような最悪のシナリオを実現しています.イラク選挙の自画自賛や,中東民主化構想はどうなったのでしょうか?

アメリカを失望させた最近のもっとも重大な後退は,選挙を経たイラク政府が部族や宗派の民兵組織を解体しなかったことです.イラクはまだ,民主的な国民政府が軍事力を独占できず,軍閥の寄せ集めでしかないわけです.参加型の民主主義は実現できません.

国民感情と政府の見解はますます離反し,政府見解とイラクの現実とはますます対立しているのです.アメリカが期待するイラク軍やイラク警察は,失業対策にはなっても,実際に戦える軍隊にはならず,治安回復にも役立たない,と思われています.統計だけで論戦する政府やマスコミは,ますますベトナム戦争に似てきた,と.

ブッシュが間違った理由で始めた戦争のために命を落とすのは嫌だ,とますます多くのアメリカ人が思うようになっています.戦場にわが子を送らない連中が,最初から,最も強く戦争を主張してきた,とBOB HERBERTは批判します.さまざまな徴候が,アメリカ人はこの戦争を戦いたくない,という事実を示すのです.

アイゼンハワーが勝利宣言した,アメリカで最も人通りの多いマンハッタン,タイムズ・スクエアの新兵募集事務所にだけは,人が近寄りません.先週のある日,とうとう,誰一人来ない午後がありました.どれほど熱心に説得しても,今は,若者たちの家族が子供に軍隊へ入ることを強く反対します.

ブッシュの支持者は愛国的で好戦的でした.しかし,子供を戦場に送りたくはないのです.どうやって兵士の居ない戦場で勝利するのか? 「アメリカ兵がんばれ」というステッカーを自動車に貼り,ラジオ放送で好戦的な発言を繰り返した人たちも,自分や家族が戦場へ行くつもりは無いのです.

もしアメリカで,イラク戦争前に徴兵制が敷かれていたとしたら,あれほど多くの好戦的な政治宣伝が行われたとは思えない,とBOB HERBERTは指摘します.

クリントン前大統領の政治顧問であったSidney Blumenthalは,ブッシュ氏の「トンネルの終わりを示す明かりが見えた」説を批判します.瞑想から幻想,妄想の世界がますます現実から乖離します.選挙戦を通じて9・11のイメージを悪用し,具体的な政策の説明を拒んできた結果です.その意図さえ「純粋」であれば,グァンタナモのように,何をしても許されるのか?

1967年12月,リンドン・ジョンソンの安全保障担当顧問であったウォルト・ロストウは,ベトコンと北ベトナムに宣言しました.「彼らの死傷者は急増しており,耐えられない・・・ 私にはトンネルの終わりを示す明かりが見えた」,と.サイゴンのアメリカ大使館はクリスマス・イブを祝うパーティーに招待して,「さあ,トンネルが終わる明かりを見に来ないか!」と呼びかけたのです.その1ヵ月後にテト攻撃が失敗し,アメリカ政府の期待は潰れました.


NYT June 17, 2005

Current Account Trade Deficit Reaches Record $195.1 Billion

By ELIZABETH BECKER

(コメント) 4つのゼミによる合同夏合宿のテーマには,「アメリカ経常収支赤字は持続可能か?」が含まれています.ドル安が進んでいるにもかかわらず貿易赤字は増加し,この調子で行けば,今年のアメリカの経常収支赤字は7800億ドルに達し,昨年の6170億ドルを大きく上回るでしょう.それに見合った資本流入が,現在の為替レートや金利を大きく変えることなく実現できるのか? 市場関係者の不安が再燃しています.

成長率格差が不均衡の主要な原因であり,アジアに調整を求める点で,欧米の担当者の意見は一致しています.それは当然でしょう.自分たちは何も悪くない,彼らに支払わせよう,という合意だからです.保守派の論客は,アメリカの財政赤字や貯蓄不足を問題にしません.他方,批判派もCAFTAへの攻撃を強める程度です.


NYT June 17, 2005

Globalization: It's Not Just Wages

By LOUIS UCHITELLE

NYT June 19, 2005

True or False: Outsourcing Is a Crisis

By EDUARDO PORTER

NYT June 21, 2005

Outsourced All the Way

By MATT RICHTEL

FT June 22 2005

‘China’s century’ is still a long march away

By Arthur Kroeber

(コメント) 洗濯機のWhirlpoolがこれほど世界企業であるとは知りませんでした.時給1ドルの中国人と,時給23ドルのアメリカ人や32ドルのドイツ人が競争することなどできない,というグローバリゼーションへの反対論に,Whirlpoolの経営陣は反論します.

Whirlpoolは,1980年代にアメリカの工場を閉鎖し,ドイツの技術でアメリカに輸出するアメリカの洗濯機会社になりました.なぜなら技術がドイツにあったからです.賃金が高くてもドイツに投資しました.それによってアメリカ市場を獲得できたからです.Whirlpoolは世界ネットワークを駆使することを学びました.電子レンジをスウェーデンで設計し,中国で生産しています.他にも,冷蔵庫をブラジルで生産し,ヨーロッパに輸出したり,食器洗い機をアメリカのオハイオで生産し,アメリカやメキシコで販売したりしています.

世界のどこであれ,誰であれ,それに見合った技術や知識,労働の質があればWhirlpoolは雇用します.しかし,賃金に見合った内容がなければ,その仕事は失われるのです.それはアメリカを失業者の国にし,技術を流出させるのではないか? という疑問に対して,Whirlpoolの幹部は,自分たちがアメリカの雇用を減らさず,アメリカ人家庭の満足も,アメリカ企業の競争力も高めてきた,と主張します.

EDUARDO PORTERは,アウト・ソーシングやホワイト・カラーの世界競争は誇張である,と考えます.少なくとも英語を話すインド人は限られ,時間もかかるでしょう.グローバリゼーションの実態は,決して有名な多国籍企業に限られません.むしろMATT RICHTELは,さまざまな分野で,さまざまな中小企業や起業家がグローバリゼーションを利用し始めている,と伝えています.

コンピューター,インターネット,Eメール,・・・新しいパジャマのデザインを考えた人は,Googleで「オフショア注文」「オフショア生産」などを検索すれば,インドネシア,バリ,スリランカ,など,世界中の生産委託工場が見つかるのです.他方では,注文や納品の際に文化や言語による問題が起きます.しかし,世界中の生産拠点が整理され,利用できる時代は,すぐにも来るでしょう.

経済的にも,政治的にも,個々の主体をつなぐ中間的な組織,いわゆる商社やNGO,インターネット上の非営利的な情報媒体がもっと重視されるのではないか,と思いました.

Arthur Kroeberは,中国企業による欧米企業の買収をあげています.それはいよいよ「中国の世紀」が始まったことを告げるのか? そうでもない,と.欧米の業績悪化や破綻に近い企業を買収するとき,中国企業は台湾企業が買うより高い価格を支払います.それは中国企業が非効率な国内市場で利益を上げた後,国際市場における有名ブランドや流通網をそれほど欲しがっているからです.それは中国企業や中国市場の遅れを示しています.


NYT June 17, 2005

Fed Official Moves Up and Into Politics

By EDMUND L. ANDREWS

(コメント) Ben S. Bernankeがグリーンスパンの後のアメリカ連銀議長になるかどうか,その経済学や政策への判断だけでなく,政治的立場(共和党支持,しかし非政治的で,非イデオロギー)やブッシュ政権との相性を,さまざまな経済学者の証言などから解説しています.政策では,大恐慌に対する金本位制に縛られた政策を批判し,同様の精神で,現代のインフレ・ターゲット論を精力的に布教しています.


IHT SATURDAY, JUNE 18, 2005

Philip Bowring: Toward an 'Asian Union'?

By Philip Bowring

IHT WEDNESDAY, JUNE 22, 2005

Three corners of the world try to find their bearings

Otto Graf Lambsdorff

(コメント)合同夏合宿のテーマには,「日本政府はアジア共同体を推進するべきか?」というのもあります.クアラルンプールで開催された第1回の東アジア・サミット.まず問題になるのが ・・・「アジアとは何か?」 ヨーロッパから見たときと,南アジアから見たときと,東アジアや中国から見たときでは,アジアの意味が変わります.

中国の脅威を意識するようになれば,インドやオーストラリアを含める動きが強まります.アメリカを排除したことは,アメリカがアジアで重要な国であることは当然であるとしても,アジアの問題に政治的な議論を限定できるでしょう.その試みは始まったばかりです.

日米欧の三極委員会Trilateral Commissionというものがあります.世界の主要な民主主義圏が拡大するように,発達した大規模経済圏を管理する民主主義国が協力することは重要でしょう.しかしこの論説は,同じ民主主義でも,アメリカにおいては宗教が復活し,週末に1億2000万人が教会やモスクに通う,と指摘します.また,アジアでは伝統的な国家間の対抗意識がナショナリズムを急速に復活させている,と.他方,ヨーロッパでは精神的な統一が失われ,政治統合を妨げています.


FT June 18 2005

Pointing Europe in a new direction

The Observer, Sunday June 19, 2005

Don't call him Margaret Thatcher

Andrew Rawnsley

IHT MONDAY, JUNE 20, 2005

The EU's leadership vacuum

IHT TUESDAY, JUNE 21, 2005

Grass-roots change for Europe

By Margot Wallstrom

The Guardian, Wednesday June 22, 2005

Capitalism's future on trial

Jeremy Rifkin

(コメント) 4億5000万人のEU市民は,経済の繁栄とグローバリゼーションを制御するEUの役割に期待しています.ブラッセルの官僚たちが互いに何を争っても,彼らにとって重要ではありません.現在の経済危機を脱する以外に,EUがその政治危機を緩和する目先の選択など無いのでしょう.FTはブレア首相がEU大統領に就任することを,イギリスが達成した成果に関して他国を説得するチャンスである,と考えます.ただし,イギリス国内のEUに対する合意が形成されていなければなりません.

ブレアとサッチャーは,非常に対照的で,しかも似たところがあります.サッチャーはEUサミットを叩き潰して(その鋼鉄製のハンドバックで?),それを帰国後に国会で大いに自慢しました.他方,ブレアはサミットの結果を残念だと言うでしょう.新しいEUの政治的合意を見出せなかったからです.しかし,旧いEU政治が叩き潰されて,イギリスに対するEU課税を取り戻すサッチャーの遺志を継いだことは間違いありません.もちろん,サッチャーが自由市場改革でイギリス経済の復活を準備した一方で,ブレアは社会保障や財政健全化で完全雇用を目指したわけですが.

なぜEUは農業補助金に偏っているのか? なぜEUはアメリカのように成長できないのか? このままで,中国やインドの追い上げに対抗できるのか? EU市民たちは,以前よりも,ブレアの声に耳を傾けるでしょう.そしてドイツのAngela MerkelやフランスのNicolas Sarkozyは,独仏枢軸による過去のEU政治を継承しません.ただし,彼らはイギリスに牛耳られることを嫌っているでしょうが.政治を公衆に向けて訴えること.こうした状況をブレアは知っているはずです.彼はニュー・レイバー(労働党)を率いてイギリス政治を変えた人間ですから.

IHTはエリート政治が生んだ真空を指摘し,Margot WallstromはEU憲章に代わる案(Plan B)など無く,Plan Dすなわち,NGOや社会運動を加えて,エリート政治に代わる民主主義を復活させるべきだ,と主張します.

Jeremy Rifkinは,社会主義国家の腐敗を非難する人々は,資本主義の理想的な大企業が,繰り返し,汚職や横領による腐敗にまみれていたことを忘れたのか,と言います.たとえ富を増やせても「勝った者がすべてを得る」システムは社会を安定できません.

「資本主義は,グローバリゼーションが貧富の差を縮める,と約束した.しかし,地球上のもっとも裕福な356家族の富は,人類の全年間所得の40%よりも大きい.世界人口の3分の2は電話をかけたことが無いし,3分の1は電気を利用できない.」

指導者たちは正直に議論を尽くさなければなりません.社会的な富を労働者にも公平に分配する仕組み,そして自然環境を破壊しない仕組みを,ヨーロッパは追求することです.


The Guardian, Saturday June 18, 2005

Cold war, take two

Martin Jacques(愛知大学the International Centre for Chinese Studies)

(抄訳) 9・11以来,アメリカと中国の関係は良好だった.アメリカはテロとの戦争に中国の支持を必要とし,中国は経済成長の条件を維持することに熱中していた.しかし,このハネムーンはいつまで続くのか? ワシントンの最近の声明は,ブッシュ政権がより摩擦をともなう立場を採用しつつあることを示した.

まず,中国からの繊維製品の輸入急増が批判されている.アメリカとEUは輸入割り当てを復活させようとしている.他方,アメリカ財務省はこの6ヶ月以内に人民元を切上げるよう求めている.そして,中国の「高度に歪められた」通貨政策を非難している.しかし,切上げによってもアメリカの収支は改善せず,中国の経常収支はほぼ均衡していることを見れば,この非難は行き過ぎだ.

昨夜,ラムズフェルド国防長官は,中国の軍事費増額が公式の統計よりも大きい,と主張し,その意図を疑うとともに,中国が「より開放された代表による政府」を持つべきだと主張した.既にその前から,ペンタゴンの報告書は,中国がアメリカの戦略的な対向国になる可能性をもっと真剣に検討しておくように政府に要求し,ブッシュ政権内部で物議をかもしていた.

9・11まで,当選した頃のブッシュ氏の政権は中国に敵対的であった.クリントン政権が「戦略的パートナー」と位置づけたのに対して,ブッシュ政権は中国との関係を「戦略的競争」と呼んだ.しかし,その姿勢は9・11により突然変化し,その後の4年間は比較的柔らかであった.しかし,9・11とビン・ラディンはアメリカの外交政策を変える梃子となったが,ビン・ラディンと中国とはまったく違う.

ビン・ラディンは決してアメリカの超大国の地位を揺るがすことはできない.中国は明らかにできるだろう.長期的に観れば,必ず揺るがすだろう.時とともに経済力を増し,政治的,軍事的な野望を膨らませる.それは既に東アジアで顕著に見られる.9・11以後,中国は精力的に,しかし洗練されたやり方で,東アジアと南アジアにおける地位を高めてきた.

その意義は大きい.第一に,個々は中国の後背地であり,世界的な大国を目指すにはここで中枢を占める必要がある.第二に,冷戦期にヨーロッパがそうであったように,東アジアは世界事情の中心を占めるだろう.第三に,アメリカはこの地域で安全保障の主要なプレーヤーであり続ける.しかし既に起きているように,中国の役割が強まれば,相対的にアメリカの地位は低下する.9・11以後,アメリカも日本との関係を強化するなど,中国に対抗して積極的に動いてきた.しかし,アメリカの関心はむしろほか(中東・イラク)にあった.

自ら進んで権力を譲った世界的大国は無い(ソ連は解体された).アメリカも例外ではないだろう.逆に,ソ連と違って,アメリカはその地位を守ると強く決意している.アメリカと中国が対立を加熱させれば,世界政治は重大な失敗に至るだろう.莫大な軍事予算を既に得ているペンタゴンは,報告書をウォール街にリークし,中国の軍事予算に注意を促している.

しかし悲観論が正しいとしても,直ちに第二の冷戦が始まるわけではない.そこには類似点もあるが,相違点も重要だ.第一に,中国経済はかつてのソ連経済に比べて計り知れないほど強力で,しかも,その高速成長を維持している.経済的な強さこそ世界的大国の条件だ.第二に,対決と自給を選んだソ連と違って,中国は世界的な統合化と独自の資本主義を選択した.その結果,中国は既に深く世界経済にリンクしている.アメリカへの最大の輸出国であり,直接投資の最大の受入国でもある.アメリカがその莫大な赤字予算と住宅バブルを楽しめるのも,中国のおかげだ.米中関係は,かつてのソ連には考えられないほど,共棲的である.

おそらくこうしたことが対立への抑制要因となる.ニクソンと毛沢東が接近して以来,米中間の過熱と冷却は繰り返している.しかし常に,中国を孤立させ,その経済的復興を妨げることはしなかった.中国の側でも,ケ小平が示したように,経済成長を何よりも優先した.しかし,多くの分野で米中は衝突しつつある.貿易・金融の不均衡,石油や天然資源をめぐるアフリカ,ラテンアメリカ,中東での対立,台湾や日本との対立は言うまでもなく,東アジアの地域協力をめぐって.それらが悪化すれば,対立を避けがたくなる.中国の台頭が,グローバリゼーションの利益に関するアメリカの認識を変えることも考えられる.Clyde Prestowitzが最近示したように,グローバリゼーションは終わって,保護主義が支配的になる.

将来の政治対立を避けるには,アメリカ,中国,EU,日本が政治的な意志を傾ける必要がある.中国の政治システムや文化的差異は激しく非難されるだろう.近代世界市場で初めて,非白人の,非ヨーロッパ的社会が,世界的な超大国になるのだ.西側は非難詩,服従させることよりも,共存することを学ぶ必要がある.そしてアメリカは,ネイティブ・アメリカン,ソ連,ビン・ラディン,中国,と敵を探し求める性向を抑制するべきだ.

JT Tuesday, June 21, 2005

Career soldier sees China for what it is

By TOM PLATE

CSM June 22, 2005 edition

Playing the Vietnam Card

(コメント) TOM PLATEは,ラムズフェルドと前国務長官のパウエルとを対比します.パウエルは中国の軍備拡張をアメリカへの脅威とは考えません.PLATEは軍備拡張に突き進むのは中国ではなく台湾であり,香港を侵略したのは中国ではなくイギリスであり,国連安保理に他国を攻撃するよう求めたのは中国ではなくアメリカであり,アメリカは国連が反対しても世界中で戦争できると主張したのです.

パウエルなら,13億人の中国人と戦争することは考えないほうが良い,と言うでしょう.それほどの人口を養っている国が順調な経済成長を続けてくれる方が,西側にとって大きな利益である,と.日中関係は,中国政府が抱える愛憎に満ちた対日観の微妙な扱いと,小泉首相の大胆で愚かな姿勢により,悪化しています.小泉氏はパウエルに電話して助言を求めてはどうか? と.

もちろん,ベトナムはアメリカへの輸出を必要としています.しかし,中国を意識していたベトナムは,統一後にアメリカを必要としていたから,サイゴン陥落後にもアメリカ大使館を蹂躙しなかった,とCSMは書きます.平和を維持することは,それほど難しいのです.


NYT June 18, 2005

Who We Are

WP Saturday, June 18, 2005

No American 'Gulag'

By Pavel Litvinov

NYT June 21, 2005

Guantamo's Long Shadow

By ANTHONY LEWIS

WP Tuesday, June 21, 2005

The Heat Is On In Guantanamo

By Eugene Robinson

(コメント) アメリカ憲法や捕虜に関する国際条約に違反する形でグァンタナモに収容所を築いたまま,情報公開も説明もしないラムズフェルドを,「見えないこと」と「透明なこと」とを混同している,とNYTは批判します.グァンタナモは,アメリカのイメージを損ない,アメリカ軍人への憎悪を高めている,と.

アムネスティー・インターナショナルは,グァンタナモを現代アメリカの強制収容所(ソ連時代のグラーク)である,と批判します.しかし,かつて収容所に居たPavel Litvinovは,その違いを無視してはいけないと主張します.ソルジェニーツィンの『収容所列島』で有名になり,人権問題によるソ連政府への国際監視と政治犯たちとの連携を実現した収容所問題として,今のアメリカ政府を非難するには不適当である,と.

左右の批評家がグァンタナモの囚人の扱いを描く場合,まったく異なった印象を受けます.「グァンタナモの日差しに捨てられた魚のように,猛烈にくさい.」


NYT June 19, 2005

Trade and Aid to Poorest Seen as Crucial on Agenda for Richest Nations

By CELIA W. DUGGER

FT June 20 2005

More hot air

June 20 (Bloomberg)

The G-8 -- Send 104 Million Friends to School

Gene Sperling

LAT June 20, 2005

Rule Britannia

WP Monday, June 20, 2005

Pills for The Poor

By Sebastian Mallaby

FT June 23 2005

Africa needs aid for security

By Nancy Soderberg

(コメント) 7月6日にスコットランドのGleneaglesで開催されるブレア首相が主催するG8は,貧しい者にとって七夕前の福音となるでしょうか? アフリカへの援助を倍増しよう,というブレアの呼びかけに,イラク戦争の盟友,ブッシュ氏は賛同していません.世界の最貧国18カ国に対する債務免除を支持しても,それは援助額を年間10億ドル増やす程度です.他方で,援助が開発を促すことにアメリカ議会は否定的であり,開発を唱えた自由貿易交渉も行き詰まっています.

地球温暖化についても,ブッシュ政権は証拠が不十分だと言い,京都議定書の合意は間違っている,と実施に反対しています.それに代わる提案は示していません.FTは,科学論争に代わる明確な政治的合意を宣言すること,2012年の温暖化ガス排出削減目標の次のステップを示す議論を始めること,を求めます.アフリカの援助で取引してはいけない,と.

他にも,教育:学校を建てる,人口抑制:貧しい者に避妊薬を配る,安全保障,などが援助や開発と結びつけて議論されます.

いずれにせよ,アメリカとヨーロッパとをつなぐ特殊な役割をイギリス(特にブレア)が果たしてきたことは,G8の成果となるでしょう.世界の中で,日本はどこに居るのか?


NYT June 19, 2005

Kicking the Euro When Europe Is Down

By ROGER COHEN

(コメント) イタリアの閣僚Roberto Maroniはユーロを蹴って喜んでいます.リラに戻りたい? あのゼロばかり並んだリラ? ついこの間,ユーロに参加できたことをあんなに喜んだばかりではないか?

散々非難されても,Roberto Maroniは引き下がりません.中国からの繊維製品輸入が急増する中で,通貨を切下げて輸出を伸ばしたい,財政赤字によって失業者を救済したい,と政治家たちは思うわけです.その結果,かつて激しいインフレと通貨危機を繰り返したことは忘れて.

しかし,現職閣僚がユーロを非難することはEUの政治的な不統一・不安定を市場の関心にしました.政治統合なしに通貨統合したことの将来像が,独=仏・伊による連邦化と,イギリス=東北欧諸国による自由貿易圏との間で,対立を深めるでしょう.

確かに,1990年にEMS参加を果たしたイギリスが似たような状況から1992年にはEMSを早くも離脱し,今ではポンドのまま成長と雇用を実現しています.イタリアも同じことをするでしょうか? 製造業を削って,革新的なサービス産業に依拠した経済に転換することで生まれ変わったのです.イタリアも同じことを,むしろユーロに支援されて,その制約を受け入れたことで可能になった通貨的な安定性と低金利の下に,実行すればよいのです.

他方,政治家たちの考えは,次の選挙でリラ復活を唱えて,苦しい産業転換を回避できるような魔法を宣伝することでしょう.


WP Sunday, June 19, 2005

Whether This War Was Worth It

By Robert Kagan

(コメント) アメリカでも多くの戦争の意味や必然性・選択可能性は,繰り返し,研究者たちの間で論争となっています.南北戦争,第一次世界大戦,米西戦争,朝鮮戦争,ベトナム戦争,コソボ空爆,湾岸戦争,など.孤立主義者に言わせれば,第二次世界大戦でさえ,参加するべきではなかったのです.

Robert Kaganは,戦争には論争がつきものであって,完全な必要に迫られた戦争だけを戦うのではなかったし,戦争の結果は常に両義的であった,と主張します.戦争について一つの単純な答えは,絶対に戦争しないこと,完全平和主義(つまり,アメリカ人にとって,まったく非現実的で,ナンセンス)です.Kaganは,戦争を評価しにくいのは,戦争によって起きたことは評価できるとしても,戦争しなかった場合に何が起きたか正確に知ることはできないからだ,と言います.それが今回のイラク戦争でも論争を深めている,と.

ブッシュが戦争に踏み切らなかったとしたら,何が起きたか? サダム・フセインがどれほど醜い独裁者であったかについては,論争の余地が無い.むしろ,1930年代のように,もし2003年に戦争をしなかった場合,イラクとの戦争はいつまで回避できたのか? と問います.もっと他の方法で封じ込めることができた,という反対派も,ブッシュ政権が主張した大量破壊兵器を隠しているという疑いに反論できなかった,と.

フセインの周辺地域への侵略意図は硬く,封じ込めは長期的に効果が無い,という判断によって,ブッシュ政権はイラク戦争を決意した.より危険な中東世界にサダム・フセインを将来の敵として戦うよりも,今,軍事力によって彼を権力から排除するべきだ,と.

「愛する者を戦争によって奪われた人たちには,このような説明も慰めにはならないだろう.そして確かに,ブッシュ政権は戦争の前や後に犯した多くの過ちと,今も続いている失敗の責任を負わねばならない.しかし,イラクの戦争が『戦うに値したかどうか』を論争するのであれば,こうした考察が必ず含まれていなければならない.」


FT June 20 2005

A Gaza pull-out does not reward terror

By Dennis Roth(a former US Middle East envoy) and David Makovsky

The Guardian, Wednesday June 22, 2005

Withdrawal is a prelude to annexation

Avi Shlaim(a British Academy research professor at St Antony's College, Oxford)

(コメント) 中東問題は,イラク戦争だけでなく,イスラエルとパレスチナの和平プロセスが重要です.最近はどうなっているのか? と質問されて,アッバスがワシントンを訪問し,シャロンは撤退を進めている,としか答えられませんでした.では,その評価は・・・? アッバスの選挙による正当性確保,ガザ地区からのイスラエル軍撤退,ハマスへの指示と選挙参加,などが焦点となっています.せめて,二つの論説を読んでみました.

Dennis Roth and David Makovskyは前向きの総括.他方,Avi Shlaimは,もっと厳しい評価です.すなわち,「コンドリーザ・ライス国務長官は,イスラエルとパレスチナ自治政府とがガザ地区の8000のユダヤ人入植地を破壊する必要について理解したことを,平和に向けた歴史的な一歩である,と絶賛しました.これは,戦後のもっとも空っぽなvacuous国務長官が示した,愚鈍なfatuous声明であった.」と冒頭に述べています.

アメリカ政府はバクダッドで,たったの3週間で体制転換を行い,パレスチナではユダヤ人の占領地を38年かけて,ただの一つも武装解除できなかった.ブッシュ氏が友人であり,「平和の人」と賞賛するシャロンを,Shlaimはパレスチナにおける破壊屋で,暗殺者であると非難します.


FT June 20 2005

Guy de Jonquieres: China’s stock market Catch-22

By Guy de Jonquieres

June 20 (Bloomberg)

Fewer Corporate Zombies Is Progress in Japan

William Pesek Jr.

FT June 23 2005

Japan's birth deficit

(コメント) 中国の株式市場はときにカジノと呼ばれるが,それではカジノがかわいそうだ,とGuy de Jonquieresは書きます.カジノでは,少なくともオッズが分かっており,ゲームで誰が何をしているかも理解されている.しかし,中国の株式市場では何も分からない・・・!? 北京の市場に上場しているのは,優れた企業ではなく,政治的なコネのある失敗した企業ばかりである.

不思議なことに,中国は経済成長の成果を失わないために,アメリカとの貿易摩擦や通貨の切上げだけでなく,もっと多くのことを日本から学べるようです.失敗した企業や銀行をいつまでも処理しないとどうなるか? 人口を減らせばどうなるか? そして,見方によりますが,労働市場を改革できず,金融緩和も中途半端であれば,バブル崩壊後のデフレは止められない,とPesek Jr.は主張します.日本はまだ「ゾンビ(ゼロ金利と補助金で生き続ける破綻企業)の楽園」か?


IHT TUESDAY, JUNE 21, 2005

Enlarge the North Korean problem

James Goodby

WP Wednesday, June 22, 2005

A Moment to Seize With North Korea

By Donald Gregg and Don Oberdorfer

(コメント) 解決できなければ,問題を拡大せよ,という「ラムズフェルドのルール」.イラク戦争よりも独裁者を国際システムに復帰させた飴とムチによる「リビアのケース」.

北朝鮮についても,アメリカは6カ国協議を呼びかけ,北朝鮮を東北アジアの安全保障メカニズムに組み込むことで,国際ルールへの復帰を監視し,支援することを選択しました.北東アジアの安全保障メカニズムは,たとえ北朝鮮の指導者がだまし続けても,この地域の安定のために必要なものです.だから北朝鮮の思惑とは別に強化されるでしょうし,だまし続けることができなくなるでしょう.


WP Monday, June 20, 2005

'Oil Tax' Greases Wheels of Rich

By Michael Kinsley

FT June 21 2005

Martin Wolf: Living with higher oil prices

By Martin Wolf

(コメント) 原油価格が60ドルを超える? しかも石油危機は起こらない? 3年前は1バレルが27ドルで,先週は57ドルに上昇した.アメリカは1日に1200万バレル輸入するから,その支払額は1日あたり3億6000万ドル,年間1310億ドルも増加する,と.なるほど経常収支赤字も増えるわけです.

Michael Kinsleyは,優れた分配論=政治学を展開します.石油価格の上昇はアメリカ政府にもどうしようもないから,課税されたようなものだ,と思うべきか? それは違う,と.

1.これはアメリカ政府の税収にならない.だからアメリカ国内で再分配されず,産油諸国の超リッチな王子たちが裕福な暮らしに使う.2.アメリカの石油消費量は1200万ではなく2000万バレルだ.その差,800万バレルは国内で採取されており,価格上昇による利益を一握りの石油利権グループが得ている.すなわちブッシュの支持者だ.消費者は彼らにも「納税」した.3.必要なのは,石油価格にあわせて補助金を増やすことではない.少なくとも,国内の再分配は課税して回収することができる.4.他方,ガソリンに課税して石油消費を減らすことだ.そうすれば国際的な再分配を減らし,脆弱性も抑えられる.

これらは市場価格の問題ではない.共和党・ブッシュ政権が支配するアメリカ政治の問題だ.

Martin Wolfは,石油価格の経済学です.IMFによれば,1バレル60ドルの水準でも,それは実質的に(それがマクロ経済運営にとっては重要ですから)第二次石油ショックの頃の半分でしかない,ということです.石油の需給を予想し,高価格が維持されそうであると結論して,そうであれば技術革新やそれを支援する政策を求めています.


BG June 21, 2005

The value of immigrants

By Joan Vennochi, Globe Columnist

IHT FRIDAY, JUNE 24, 2005

Migration is here to stay, so get used to it

Brunson McKinley(the director general of the International Organization for Migration

(コメント) Joan Vennochiはマサチューセッツにとっての移民の重要性を説き,他方Brunson McKinleyは世界を考えます.世界で2004年末に1億8500万人,約35人に1人が移民でした.

世界には何人の移民がいれば良いのか? どうすれば移民を阻止できるのか? そんな論争が盛んに行われていますが,IMOの総局長であるBrunson McKinleyは,移民がグローバリゼーションの一部として増大する以上,それを阻止できないだろうし,むしろどうすれば移民によってすべての人が利益を得られるかを議論するべきだ,と主張します.移民のコストと利益は,その受け入れ状況や政策によって異なっています.すべての国が,すべての状況で,同じ結論を出すことは無いでしょう.移民そのものの是非を議論しても無駄です.移民を積極的に支援して,誰にとっても利益になる政策モデルを示せた国が,最大の相互利益をもたらすのです.


June 22 (Bloomberg)

Japanese Yen Has Lessons for Chinese Yuan

William Pesek Jr.

FT June 23 2005

Samuel Brittan: China’s currency is its business

By Samuel Brittan

NYT June 23, 2005

U.S. Unlikely to Gain From China Currency Shift, Greenspan Says

By THE ASSOCIATED PRESS

(コメント) 合同夏合宿のテーマは,欲張りすぎですが,もう一つあります.それは,「人民元を切上げるべきか?」です.

「二桁の成長率,大胆な工業化,農村から都市への大規模な人口移動,一人当たり所得が1300ドルに近づいたアジアで最も刺激的な経済で,もうすぐオリンピックが開催される.それこそが発展途上国から卒業する証である.」

「もしこれを中国の話であると思っているなら,間違いだ.これは日本である.1964年の東京オリンピックが開催される前の日本で,多くのことが今の中国と重なっている.アジアで第一位の国は,第二位の国にまだ多く教えることがあるわけだ.」

William Pesek Jr.はこんな風にゴールドマン・サックスのTetsufumi Yamakawaの分析を紹介しています.成長を輸出に依存したこと,円安を維持したこと,切上げと変動制を強いられたこと,その後のインフレ加速,財政・金融政策の失敗,為替レートの大きな変動を被り,自国の景気変動を増幅され,いまだにその後遺症を払拭できないこと,・・・

Samuel Brittanに言わせれば,人民元をどうするかは中国政府に任せておけば良いのです.むしろ,ヒトラーやスターリンと並ぶ毛沢東の政治弾圧に加えて,主要国は中国の現体制が行った人権蹂躙や天安門事件の際の虐殺を追及するほうが重要であろう,と.

調整可能な釘付け制度としてのブレトン・ウッズ体制が「ニクソン・ショック」で崩壊して以後,ドルが高すぎるとか,低すぎるとか,散々論争を繰り返してきました.しかしBrittanは,そうやってドルの変動が世界の不均衡を吸収してきたのだ,と指摘します.今後も,政府が通貨の適当な水準を決めることはできないでしょう.世界の過少貯蓄地帯であるアメリカやイギリスが,過剰貯蓄地帯であるアジアと関係なく,勝手に為替レートを固定して,さらに間違って国内貯蓄をまじめに増やしたりしたら,世界経済はどうなるだろうか?

中国には,自分たちが変動レートに移る自信ができるまで放っておけばよいのだ.たとえ切上げを強いても,もしもっと切上げるべきだという話になれば,為替レートの固定化は不安定化する.固定レートの周りに余りにも大きな変動幅を設ければ,それは無意味な喜劇である.だから,世界の不均衡を主要国が変動レート制によって互いに吸収することに円滑な対応を示すしかない,と.


FT June 22 2005

Time to dismantle the cold war’s nuclear legacy

By Robin Cook and Robert McNamara

(コメント) アメリカやロシアが保有する核兵器を破壊するべきだ,という圧力をG8などで主要諸国が示し続けなければなりません.アフリカの貧困解消や,地球温暖化の抑制,アマゾンの破壊阻止,などに負けないくらい.豊かで成熟した民主主義国であるほど,G8は忙しい!

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The Economist, June 11th 2005

The European Union in crisis: And now, the euro

(コメント) The Economistは主張します.フランスとオランダが否決したからユーロも崩壊する,というのは間違いです.政治統合しない通貨統合も機能します.他方,東西ドイツの再統合のように,政治統合が通貨統合を損なう場合もあります.イタリアとアルゼンチンはまったく異なります.イタリアの経済困難はユーロと関係なく,アルゼンチンは間違った通貨政策・制度によって破綻しました.

ユーロ圏の問題は,ECBが保守的過ぎることです.各国の為替レートや金利が失われ,財政政策にも制約を課すのであれば,ECBはもっと積極的にユーロ圏の経済運営を担うべきです.他方,政府も積極的な財政政策を行えます.イタリアのように累積赤字が限度を超えている国だけが,制約を強いられるのです.

何よりも,国内の市場改革を進めない政府が,不況の原因をユーロに求めることが間違っています.ユーロ圏は明らかに最適通貨圏ではありません.そうであれば,ユーロを維持するために最適通貨圏を実現するのは参加した政府の責任です.市場統合を進め,労働市場などの弾力化が必要です.


Road pricing: Jam yesterday

Road pricing: Driven to radicalism

(コメント) 道路の利用を有料化する試みを,The Economistは歓迎します.指摘された理由の一つは,社会的な資源を効率的に配分して道路を建設できる,ということでした.なるほど,日本も道路公団を廃止しましょう.


The Economist’s Big Mac index: Fast food and strong currencies

(コメント) ビッグ・マック・カレンシーは,人民元の過小評価(−59%)やユーロ高(+17%)を支持します.世界でもっとも過大評価された通貨はスイス・フラン(+65%)です.

だからと言って,イタリア政府がユーロ高を非難したり,韓国政府が為替市場に介入したりするのを正当化する根拠にはなりませんが.