IPEの果樹園2005
今週のReview
6/13-6/18
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つだけ推奨するとしたら?
1 ユーロ離脱: 政治統合を欠いた通貨統合の帰結は?
2 EU解体: 憲法案の否決を受けて,EUはどこへ向かうのか?
3 米中関係: 貿易,通貨,安全保障について,アメリカのアジア政策を求める.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor
NYT June 2, 2005
Putting a White House Annual Report to a Test
By HAL R. VARIAN
NYT June 7, 2005
The Bush Economy
(コメント) 毎年2月に,大統領経済諮問委員会が出す報告書(ERP)を,HAL R. VARIANが紹介しています.政府の関心や目標が示されています.執筆者は,現在の委員長,ハーヴァード大学のN. Gregory Mankiw教授です.さらに,最近のThe Journal of Economic Literatureは,「ERPは経済学者が考えていることを正しく表せているか?」と5人のエコノミストに尋ねているそうです.たとえば,所有権に関して,MITのJonathan GruberがERPの「所有権」論を批判しています.所有権が確立すれば,たとえば,犯罪率が下がり,成長も刺激した,というのです.
しかし,その因果関係はどうなっているのか? とGruberは問います.住宅を所有したから犯罪が減ったのか? それとも犯罪の少ない地域で住宅を購入したいと思うだけなのか? 住宅を所有したから所得が上昇したのか? それとも高所得の人だけが住宅を購入しているだけなのか?
また,ERPはブッシュ氏の好きなバウチャー制度を賞賛します.政府に都合の良い結果を示す研究だけが紹介されます.あるいは,社会保障制度を近視眼的な間違いに導くとして批判しながら,他方,ポートフォリオ選択では人々がはるかに複雑な問題を合理的に解決できる,と仮定するのでしょうか? 民営化や所有権は,常に,唯一の正しい答えではありません.
ブッシュ氏の経済において顕著な特徴は,分配に対する自由放任です.すなわち,社会保障制度を民営化するのは,政府が失業や病気によって貧困から脱け出せない人たちに,自分で保険に入りなさい,と薦めるだけで,富裕層から税金を取るより減税したいからです.スーパー・リッチ階層の登場によって,富裕層さえ霞んでいます.
Asia Times Online, Jun 3, 2005
Oil and food: A new security challenge
By Danielle Murray
(コメント) 食糧供給システムがますます安価な石油の供給に依存していくことは,世界の安全保障にも重大な影を落とします.たとえば化学肥料について,長くアメリカが,今では中国が,世界最大の消費国です.それは地球環境や有機物の土壌を破壊しています.あるいは,灌漑システムを建設するより,政府は井戸水を汲み上げるポンプを普及させます.小売におけるスーパーマーケットの拡大も同様です.
まるで,私たちが石油を食べているようです.
FT June 2 2005
Europe’s leaders reflect on ‘the wrong answer’
By George Parker
FT June 3 2005
Where is Plan B for the Dutch Nee?
The Guardian, Friday June 3, 2005
Europe's secure, well-paid leaders have caused the crisis
Robin Cook
The Guardian, Friday June 3, 2005
What do no votes mean for the union?
Larry Elliott
NYT June 3, 2005
A Race to the Top
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) George Parkerのように,EUは平和を維持したがゆえに,その政治目的を失った.いわば成功の逆説に陥ったのだ,と肯定的に受け入れる人は少ないでしょう.むしろ両国で反対票を投じた人たちは,EUが大きくなり過ぎて,民主主義が機能しなくなったと感じている,という見方が正しいでしょう.予定されていた承認手続きは破綻しました.では,どうすればよいのか?
たとえフランスとオランダが否決しても,他の国は国民投票を続けて,EU憲法や民主主義についての意見を表明する機会を生かすべきだ,とFTは主張します.投票は発言であり,EUについて考え,意見を集約する制度としてすべての国民が利用できるはずです.他方,すでに承認される見込みの無い文書の可否を問う投票ではその重要性があらかじめ失われてしまいます.修正案など無いのです.国民投票は中止されるでしょう.そして国民が参加した全面的な討論が始まります.その先に,投票が再開される希望もあるはずだから.
元イギリス外相のRobin Cookは,EUがあるから私たちの理想もグローバリゼーションに生き残ることができる,と訴えます.ジャン・モネの構想を称えるだけでは拒否されたイメージを回復できないでしょう.実際,モネならアメリカを超える単一市場が生まれて,航空券が半額になったヨーロッパを見て喜ぶだろう,と考えます.EUは市場改革を押し付けるために政治的に利用されるものではなく,もっとその成果を誇るべきだ,と.
Larry Elliottは,EUがでたらめな政治的理由で通貨統合を進め,その実体はばらばらで,調整も補償も機能していないことを,結局,認めたのだ,と主張します.政治統合の伴わない通貨統合が維持できないことも分かっていた.イタリアか,ドイツか,オランダ,フランス,もっと大規模に,ユーロの離脱と解体を待つばかりだ?
目先の選挙のために,グローバリゼーションや国際投資家,移民労働者を非難したドイツやフランスの政治家たちは,老人と硬直した組合に占領された自国経済を,ダイナミックな東欧やインド,中国の経済発展から切り離して,今後,何十年も停滞しなければならないだろう,とTHOMAS L. FRIEDMANは批判します.豊かな諸国の労働者は,本気で,ハード・ワークを得るために,インド,中国,ポーランドの労働者と競争したいのか?
FT June 5 2005
Wolfgang Munchau: Europe's misjudged No votes
By Wolfgang Munchau
(コメント) 1998年にフランスがワールド・カップ・サッカーで優勝したときのように,パリの若者たちはEU憲法否決に飛び上がって喜んでいた,とWolfgang Munchauは書きます.もはやEU憲法が問題ではなく,ヨーロッパ型社会モデルか,アングロ・サクソン型資本主義か,が問題です.
しかし,ここで意図しない結果に困惑します.もしアングロ・サクソン型資本主義を拒むつもりであれば,EU憲法を承認し,イギリスの国民投票に大量の否決をゆだねるべきでした.そうなればブレアは辞任したでしょう.逆にフランスが否決したことによって,ブレアはEU内のもっとも有力な指導者として残ったのです.他方,ドイツでは盟友としてのシュレーダーが傷つき,キリスト教民主党の指導者がEU統合やフランスを批判しています.
グローバリゼーションと高齢化が進む中で,ヨーロッパ型社会モデルはそれ自体の改革忌避とEU規模の金融・財政政策が機能不全にあるという弱点をさらに悪化させてしまいました.それが10年に及ぶ停滞です.グローバリゼーションを拒むより,それから利益を受ける経済改革をEUとして実行しなければならない,とMunchauは主張します.ここに否決を指導した政治家たちの誤解がある,と.
The Observer, Sunday June 5, 2005
My problem with Europe
Will Hutton
(コメント) Will Huttonは,あれが世界の分岐点だった,と考えます.第二次世界大戦後の安定した国際秩序を支えたEUが弱体化し,戦間期の国際連盟のように頼りないものに変わるかもしれません.貿易も,平和も,通貨も,その安定した秩序を失う危険が高まりました.
冷戦終結とドイツ再統一によって,東への拡大をドイツは求めました.フランスはドイツをEUにより深く統合することで,すなわち,通貨統合を認めさせることでこれを受け入れたわけです.しかし,20年に及ぶ二桁の失業者はフランスの労働者に憎まれ,都市部は賛成票を投じましたが,衰退した工業地域では80%以上が反対票を入れました.トルコの加盟とイスラム教徒の大規模移民を恐れる人々も反対しました.
Huttonは左派のEU支持者です.彼は,イギリスのニュー・レーバーとブレア政権が行ったことを,EU改革と同様の市場改革であると考えます.EU憲法を否決した人々は市場改革が失敗した理由を誤解しており,またイギリスの左派政権はEUで果たすべき指導的な役割を拒まれてきました.国民投票に頼ったこと自体が各国政治家の弱さを示しており,憲法を否決されて,まさに機能不全となったEU組織がさらに正当性を失うという悪循環を生じています.
われわれに共通した弱点を直視し,改革の方向や方法をめぐって,国民との真摯な議論を再開することである,と.そして,
もし事態がばら色に推移すれば,・・・@EUサミットで承認手続きを一時停止し,AイギリスのEU還付金問題や共通農業政策を解決し,B2005年秋,ドイツの景気が回復し始める.Cそれがブレアの威信回復につながり,Dシラクが失脚して,フランスもドイツの市場改革に続き,E2006年7月,ヨーロッパ経済の成長率が3%に達し,ECBは金融緩和に踏み切り,F2007年,政治権力を抑制した民主的EUの新しい協定を提案し,G政府が協定を合意する.2009年,失業率が低下する中で承認手続きを始める.Hイギリスではブラウン首相,フランスではサルコジ大統領の下で,国民投票が協定を支持する.I2010年,ヨーロッパ経済は好況に沸き,消費も投資も加速する中,トルコ加盟が審議に付される.・・・
もし事態が悪化し続ければ,・・・@EUサミット決裂.EU予算,憲法承認,今後の方針は決まらない.Aイタリアのベルルスコーニ首相がユーロ離脱を2006年春に国民投票にかけると宣言する.国民は離脱を支持.Bフランスとドイツが国民通貨に復帰する緊急計画を検討し始める.ユーロ暴落とECBの金利引き上げ.C2006年7月,高金利によりフランス・ドイツ経済が深刻な不況になる.急進的な左派と右派が支持を急拡大.D2007年夏,フランスのファビウス大統領の下で,政府がユーロから離脱し,WTOに反して関税を引き上げる.E2008年春,ドイツのキリスト教民主同盟マルケル首相がEUの死を宣言する.ドイツはEU法を認めず,共同市場と変動レート制のヨーロッパを目指す.F2009年,イギリスの失業者が200万人を超え,住宅バブルが破裂.2010年の総選挙で極右のイギリス国民党(BNP)が50以上の議席を取ると予測される.・・・
The Guardian, Monday June 6, 2005
The week the monster turned on its creators
Larry Elliott
(コメント) 「夢は終わった.」とLarry Elliottは書きます.1988年にTUC(イギリス労働組合会議)に参加したドロールは,サッチャー主義に辟易して,仲間たちに呼びかけました.「大量失業と労働者への攻撃に対するオルターナティブ(対案)を持とうじゃないか? 私のヨーロッパ構想がそれだ.」しかし,それはブレジネフの社会主義体制が生き残れなかったように,21世紀にふさわしいものではなかった,と批判します.
今から思えば,ゴードン・ブラウン蔵相が経済テストを示して,イギリスのユーロ参加を断念させてきたことは優れた選択でした.イギリス左派が模範としていたオランダの多元社会において,EUへの反対がこれほど強かったことは,今までの反対派の主張が正しかったことを印象的に示しました.ケインズ派は,各国がマクロ政策によって完全雇用を実現するべきであると批判し,緑の党は,EUに関わる多くの権力集中や官僚支配を嫌い,反グローバリゼーション運動は,ネオ・リベラルな改革と大企業の価値を強いられることに反対してきました.
デンマークやスウェーデン,最近までのオランダが示したように,マクロ政策による拡大と積極的な労働市場政策によって,失業を抑えることは可能なのです.すべての国が同じEUモデルやEUマクロ政策を採用することは正しくない,とElliottは考えます.
FT June 2 2005
Sathnam Sanghera: Advertising on body parts
By Sathnam Sanghera
(コメント) 今年の2月から,ネブラスカのAndrew FischerがeBay上で,人体のパーツを利用した広告に関するオークションを始めました.eBayでは,すでに,ナチスの鍵十字や人種差別,666のような呪い? などのオークションを禁じていました.しかし,さまざまな身体パーツを広告のために売ることはできるはずだ,と.
額,女性の胸の谷間,妊婦のおなか,・・・全身の刺青,・・・を広告媒体に買う企業があるのか?
FT May 25 2005
Renminbi Q&A
FT June 7 2005
China’s bank chief defends stance on renminbi
By Andrew Yeh and Richard McGregor in Beijing
NYT June 8, 2005
Will It Take a Tariff to Free the Yuan?
By CHARLES E. SCHUMER and LINDSEY O. GRAHAM
(コメント) 人民元切上げの根拠と,それに反対する根拠は何か?
まず支持論は? 基礎収支の黒字がGDPの6%に達する.過去6年間も黒字が続いている.それは輸出の好調さと,直接投資の流入によるものであり,人民元が安すぎることの結果である.日本の黒字に対して行われた「プラザ合意」との類推.為替レートを人為的な過小評価しているのはIMF協定に違反する.介入の結果として外貨準備が膨張している.それは他国に貿易赤字と失業をもたらし,世界のデフレを促している.アジアその他に投資した場合に比べて,準備の利回りが低すぎる.インフレや資本流入が加速している.
では,反対論は? 人民元切上げによっても,開発工業諸国の問題は解決できない.賃金格差は大きく,中国市場に参入する外国企業は減らないだろう.もちろん,アメリカの失業も減らない.人民元が切上げられても,アジア諸国の通貨は同様に過小評価であるから,同時に増価することを強いられる.切上げは中国企業や銀行を苦しませ,不良債権問題が悪化する.外貨準備の多くは投機的な資本流入に過ぎない.
中国は,為替レートの安定性と競争力を維持する水準を求めています.また,資本や技術を導入するための資本自由化と為替リスクに耐える金融システムを求めています.こうした目標に沿って,人民元の切上げは選択されます.
IMFは,中国が人民元のレートを弾力化する際に資本規制を残せるし,そうであれば金融システムの改革に制約されるわけではない,と主張しています.他方,中国は世界経済の不均衡がもっと重要な他の諸国,要するにアメリカと日本,の責任であることを指摘します.
ニュー・ヨーク選出の民主党上院議員であるSCHUMERとサウス・カロライナ選出の共和党上院議員GRAHAMは,現状を維持しようとする人々は,真の保護主義者であり,中国の擁護論に過ぎない,と主張します.
June 3 (Bloomberg)
You Wanna Be a Central Banker? Think Again
William Pesek Jr.
FT June 7 2005
Now is not the time to tighten belts
(コメント) 1997年のタイ・バーツ危機に際して,巨額の損失を出した罪で,当時の中央銀行総裁Rerngchai Marakanondが有罪の判決を受けました.イングランド銀行のEddie George総裁は1992年のポンド危機でGeorge Sorosに10億ドル以上儲けさせました.またスカンジナビア諸国は投機を抑えるために500%の金利を強制しました.彼らも弁護士と相談しているのでしょう.
日銀の福井総裁はさらに桁外れです.2003年に32兆8000億円,2004年前半には14兆8000億円を為替介入に注ぎました.外貨準備における含み損は11兆4000億円に達しています.訴えられるのが怖くないのでしょうか? インドネシアの中央銀行総裁Sjahril Sabirinは国庫の違法な財源移転で有罪となり,ドイツ連銀総裁Ernst Weltekeは辞任を強いられました.
Paul Volckerは高金利で,Al Greenspanは住宅バブルで,訴えられるでしょう.
FTは,デフレが解消しないまま,最近の日銀(そして財務省)が予告する引き締め政策への転換に疑問を示しています.裁判所ではなくても,誰かを訴えることはできませんか?
IHT FRIDAY, JUNE 3, 2005
Eileen McNamara: Deep Throat is no hero
By Eileen McNamara The Boston Globe
The Observer, Saturday, June 4, 2005; Page A17
Secrets and lies
David Aaronovitch
WP Sunday June 5, 2005
Deep Throat's Other Legacy
By Colbert I. King
NYT June 5, 2005
Life Lessons From Watergate
By DAVID BROOKS
The Guardian, Thursday June 9, 2005
Nixon's empire strikes back
Sidney Blumenthal
(コメント) 逆賊から英雄まで,さまざまな感想があると分かりました.スター・ウォーズの始まりの台詞「はるか昔,遠く銀河の果てで」起きた事件だ,と言う者もあれば,現政権の情報管理・操作を「帝国の逆襲」と批判する者もあります.
IHT SATURDAY, JUNE 4, 2005
Talk with Beijing now, or fight later
Jeffrey E. Garten
FT June 4 2005
China's dark side
The Guardian, Saturday June 4, 2005
Reaching beyond the myth of Mao
Isabel Hilton
FT June 6 2005
Victor Mallet: China will embrace democracy
By Victor Mallet
(コメント) Jeffrey E. Gartenは,中国に対する主要国の対応が,支援と宥和から,敵対もしくは封じ込めに変わっていることを指摘します.しかし,既に成長を加速した中国経済が世界市場に影響を及ぼし,大国となることは阻止できないのです.貿易摩擦に加えて,アメリカが人民元を非難し,日本が中国のデモ隊や国連改革で衝突しても,中国が保有するドル資産や中国で生産する日系企業は問題を複雑にしています.
Gartenは,主要国が緊密に話し合うしかない,と考えます.中国が参加した世界経済について,相互の理解を深めることです.そして政治的な緊張があるときでも,それを制御できるようにしなければなりません.すべての参加者の利益になる,金融・貿易の枠組みに合意し,エネルギー競争についても新しいルールを理解することが重要です.
中国は市場を開放し,資本主義やグローバリゼーションを受け入れたかもしれない.しかし,その政治は秘密の共産党独裁だ,とFTは注意します.6月4日は天安門事件の記念日であり,共産党は言論の自由を批判するキャンペーンを始めた,と警告します.銀行や企業の汚職・腐敗を正すキャンペーンを進めながら,政治の不正には目をつぶれ,と言うのか? 自由な資本主義とスターリニスト国家.この二つは対立し,前者ではなく,後者が滅びる.
Isabel Hiltonは,共産党が担ってきた民衆の声と革命の歴史を思えば,天安門が中国の平和的な変革を始める最初の一歩になるべきだ,と主張します.
FT June 5 2005
John Plender: The perverse sport of China bashing
By John Plender
NYT June 5, 2005
Another Drink? Sure. China Is Paying.
By EDUARDO PORTER
WP Monday, June 6, 2005
China's (Petty) Fiscal Crimes
By Sebastian Mallaby
Asia Times Online, Jun 7, 2005
America's China problem
By Jing-dong Yuan
(コメント) アメリカの対外赤字を担う中国の為替介入を思えば,人民元切上げを強要できるかのように主張するアメリカ議会は愚か者です.アメリカ政府はドル暴落を恐れ,中国政府は人民元の不安定化を恐れるから,介入はまだ続くだろう,とJohn Plenderは考えます.問題は,将来,それが一層の危機をもたらすことです.EUと同じように,共通通貨とグローバリゼーションを受け入れることは,よほど経済が柔軟で,好況を続けるときを除けば,政治的な対立を激しくします.
Plenderは,高齢化と資本市場とを懸念します.国際収支の不均衡が拡大しても,うまくいけば,資本市場を自由化すれば世界の貯蓄が埋めてくれます.中国は,いずれにせよ,どこかに投資しなければなりません.月や火星ではなく.しかし,アジアははるかに貧しい水準から高齢化を急速に進めています.そうであれば,赤字を埋める側は逆転するでしょう.あるいは貯蓄を奪い合うことになります.他の惑星から移民を受け入れるわけにも行きません.
アメリカ人がクレジット・カードでたらふく飲み食いするお金が,ますます貧しい発展途上諸国からの資本流入によってまかなわれていることを知っているか? とNYTは問います.1996年から2004年までに,アメリカの経常収支赤字は1200億ドルから6660億ドルに増加し,5460億ドルを外国からの資本流入に頼っています.
連銀のBen S. Bernanke理事はこう説明します.アメリカの赤字は,新興市場や発展途上諸国が黒字国(貯蓄過剰)になったからである,と.その結果,アメリカでは株価上昇や住宅建設ブームが起き,さらに消費を増やしました.アメリカが資金を盗んだわけではない.貧しい諸国が進んで差し出すからだ,と.
しかし,資本が豊富なアメリカから,貧しいけれど雇用を求める労働力が豊富な国へ,貯蓄は向かうべきではないのか? 長期的に見れば,とBernankeも認めます.しかし現実には,通貨危機によって苦しい支出削減を経験し,あるいは危機の波及を恐れる発展途上諸国は,こうした伝統的な資本移動に反しても,通貨市場に介入し,外貨準備を増やすことを決意した,というわけです.
Guillermo Calvoが指摘するように,次の危機を恐れる貧しい諸国にできることは,軍資金を蓄えることしかありません.だから,アメリカ人はそれを理由に消費し続けてやるしかないのです.
Sebastian MallabyやJing-dong Yuanは,アメリカ議会の振る舞いが如何に愚かで,反アメリカ主義を広める理由にもなるパターンか,示しています.どの国や地域も不均衡を生む原因を持っていますが,中国だけを取り上げて非難する理由はありません.
FT June 7 2005
US needs coherent east Asia policy
By Morton Abramowitz and Stephen Bosworth
FT June 8 2005
Brussels needs to engage with south-east Asia
By George Yeo
June 8 (Bloomberg)
Are China Tariffs Smoot-Hawley of Our Day?
William Pesek Jr.
(コメント) Morton Abramowitz and Stephen Bosworthは,アメリカが包括的なアジア政策を持つべきだ,と主張します.在韓米軍を部分的に撤収することで,6者協議への圧力を掛けようとしましたが,うまくいきません.中東地域に関心やスタッフが集中して,北朝鮮や台湾,日中対立について,アメリカは十分な貢献を行っていません.他方,EUとASEANの関係強化を重視し,あるいは,中国に対する関税再導入をアメリカの新しいスムート=ホーレー関税,大恐慌への道として警告する論説も出ています.
FT June 5 2005
Japan must now face up to its place in history
By Kak-Soo Shin
(コメント) 第二次世界大戦の終わった60周年であるとともに,日露戦争の100周年である今年,アジアの安全保障は転機を迎えています.
日本の戦後処理が,ドイツと違って,アジア諸国との全面的な和解に至らなかった理由は,戦後の自民党政権が戦争指導者たちと繋がっていたからだ,という指摘は,私も同感です.さらに,バブル破綻後の経済停滞と中国の繁栄による焦りが,ナショナリズムに依拠した国威高揚を日本政治の主流としたのです.日本が国家主義に流れることは,アメリカやEUの利益にもなりません.韓国の国連副代表は,日本が歴史への反省と平和的な姿勢を明確にして,アジアの最も優れた工業国として指導的役割を果たすように,国際的圧力を期待します.
NYT June 5, 2005
A Policy of Rape
By NICHOLAS D. KRISTOF
NYT June 7, 2005
Uncover Your Eyes
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) スーダンのNYALA, Labadoから,KRISTOFは読者に訴えます.この虐殺と民族殲滅は,2年以上も前に始まりました.民兵も,政府軍兵士も,この土地から黒人を追放したがっています.集落を焼かれて11万人の難民が集まるキャンプの住民たちは,今も危険を冒して,キャンプの外で枝を拾います.
「なぜ難民キャンプの女性たちは,民兵たちがうろつくにもかかわらず,燃料にする木の枝を集めるのか?」 その答えは簡単でした.「男たちは殺される.しかし女であれば,強姦されるだけで,生き残れるかもしれないから.」
ブッシュ政権がダルフールに関与したがらないのは,ソマリアやイラクのような泥沼になることを心配するからでしょうか? 多くの虐殺を止めることに失敗し,ナチスの強制収容所も阻止できなかったから? 完璧な答えは分からない.躊躇するのは当然です.しかし,そうではない,とKRISTOFは考えます.
国際社会からのわずかな支援でも,Labado村はよみがえりました.KRISTOFはアメリカ政府に軍隊を送れと求めているのではなく,目をそらすな,と訴えます.アメリカ政府の警告と,具体的な支援策があれば,スーダン政府は「強姦政策」を修正する,と.
June 6 (Bloomberg)
An Asian `Economic 9/11' for U.S.?
William Pesek Jr.
(コメント) かつて日本バッシングで有名になったClyde Prestowitzは,新しい本で「経済的9・11」を予言しています.中国とインドが協力して,アメリカ経済を破綻させるために,ドル資産を投売りすることのようです.世界中で「脆弱性」や「不安定性」が高まれば,さまざまな陰謀説が流れます.
NYT June 6, 2005
The Mobility Myth
By BOB HERBERT
NYT June 7, 2005
Crushing Upward Mobility
(コメント) アメリカン・ドリームは終わりました.所得格差は拡大し,中産階級は没落し,底辺からトップに上昇する者はいなくなります.税制や奨学金制度も助けてくれません.
FT June 7 2005
Martin Wolf: Crushing reality of eurozone
By Martin Wolf
FT June 7 2005
Is the euro forever?
By Wolfgang Munchau
June 7 (Bloomberg)
EU's Referendum Failure Leaves ECB as Scapegoat
Mark Gilbert
FT June 9 2005
A test of credibility
NYT June 9, 2005
Europe's Latest Economic Scapegoat: The Euro
By FLOYD NORRIS
(コメント) ユーロは今後も生存できるでしょうか? Martin Wolfは考えます.単一の通貨が機能する上で有利な条件は,多くの経済学者が合意しています.@共通した(もしくは同時・同類の)ショック.A財・サービス,資本,労働力の市場が弾力的,Bダイナミックな成長,Cアイデンティティーの共有(共通の政治的シンボルに対する共感),共通の政治制度(交渉・合意による調整)に組み込まれている,ということ.それらは必要条件でも十分条件でもないですが,市場の働きを助けるでしょう.逆にそれが失われるほど,貨幣として機能しなくなります.そして,今のユーロには,すべての条件が欠けています.
何が起きるのか? 何をなすべきか? @ユーロに参加した政治指導者たちは,単一通貨を採用した場合の,市場による調整過程を受け入れる必要を国民に説明しなければならない.また,A市場改革をEUに強いられたかのように言い訳することを止めなければならない.BECBが金融緩和に踏み切れるほど,指導者たちが改革を実行することをECBに確信させねばならない.Cコア諸国の政治・経済システムが機能麻痺に陥る中では,EU拡大を中止しなければならない.Dイギリスのような,EU内のユーロ非加盟国が市場改革を要求する側には立たないし,EUが彼らに余分な規制を押し付けることも適当ではない.E一層の政治統合を目指すのはユーロ加盟諸国の問題であり,彼らが財政に関する統合化に進むなら,それは本物である.そうでなければ,計画は未完のままだろう.
Wolfgang Munchauは,政治統合を伴わない通貨統合について考察します.ECBの主任エコノミストOtmar IssingやBob Mundell,Paul de Grauwe,欧州委員会は,政治統合が無くてもユーロは持続できる,と主張します.すなわち,マーストリヒト条約の条件に従えば,@財政規律,AECBの独立性,B財市場・労働市場の弾力性,が実現されるはずでした.
しかし歴史的には,政治同盟まで進んだドイツ関税同盟に比べて,ラテン通貨同盟や北欧諸国の通貨同盟は解体しました.ユーロについても,ドイツやフランスが合意された財政規律を拒み,国内の硬直性を維持して保護主義的な対応を取ったことで,通貨統合が疑われていました.そして,今や,フランスとオランダが政治統合への流れを止めたのです.
イタリアは,競争力を失って対外赤字や財政赤字が増えると,切下げることで回復を図ってきました.ユーロはその可能性を放棄したことであるにもかかわらず,政治家たちはいつでも切下げたり離脱したりできるかのように振舞います.実際,イタリアの賃金はEU全体やドイツよりも大きく上昇しています.しかし,イタリアは離脱しません.Daniel Grosも言うように,イタリアにはいくらでも言い訳やEU内の問題を指摘できるのであって,離脱をほのめかしても制裁を回避して,ユーロの低金利を利用し続けます.
イタリアだけでなく,ポルトガルやギリシャも同じ傾向を示しています.しかし,ユーロ解体の危機は,こうした金融緩和策への圧力にECBが屈して,本格的にインフレやユーロ安が生じたときに,購買力の低下や債務の実質負担を通じて,その痛みを強く感じる小国や,ドイツのような低インフレ国が離脱することで生じます.しかし,不況が長引くほど,ECBへの金融緩和要求は政治的に強められます.ECBは,これに対して,たとえ金利を1%に下げても,成長は大きく改善するわけではないだろう,と反論しています.
Munchauは,ユーロ圏が機能麻痺に落ち込んだことを認めます.通貨政策は機能しない,財政政策は持続できない,各国の経済はグローバリゼーションやEU拡大のショックを調整できないのです.EUの制度,各国の政治,ユーロ圏,この三つが互いに矛盾しています.何かが変わるしかない,と.
WP Tuesday, June 7, 2005
The Payoff From Globalization
By Gary Clyde Hufbauer and Paul L.E. Grieco
NYT June 8, 2005
Bangalore: Hot and Hotter
By THOMAS L. FRIEDMAN
Asia Times Online, Jun 9, 2005
Outsourcing industry at crossroads
(コメント) グローバリゼーションをめぐる考察は,自由貿易,雇用,社会的規範,などを扱います.Gary Clyde Hufbauer and Paul L.E. Griecoは,19世紀の自由貿易論と同様に,議会は特殊利益と国民全体の利益を区別して,良く考えなければならない,と主張します.自由貿易は成長を加速し,生産性を高めます.富の増大にもかかわらず,分配問題は起きるでしょう.しかし,
「自由貿易によって失業した労働者のほとんどは6ヶ月以内に次の職を見つける.多くの者はもっと早い.もちろん,一部で失業したままの労働者も出る.再就職できても賃金は下がるだろう.しかし,それらを考慮しても,自由貿易で失われる雇用とその生涯コストは,推定で540億ドル,影響を受けた労働者一人当たり24万ドルに過ぎない.それは個人にとって莫大な損失であるとしても,自由化の年間利益の約5%でしかない.」
中国とインドは,互いに異なった高速道路を持っていますが,世界市場に関わる点では,共通のシステムを築きつつあるのかもしれません.
The Guardian, Wednesday June 8, 2005
The only alternative is gridlock
Larry Elliott
(コメント) ガソリンに課税するより,自動車の走行距離に応じて税金を支払う方が合理的だと思いませんか? それは貧困層に差別的ではないし,渋滞解消にも繋がるでしょう.しかし,ビッグ・ブラザーの警察国家でしかない?
イギリスの国土は自動車で埋まり,四六時中,渋滞に呑まれています.それでも貧困層は3分の2が自動車を保有しておらず,たとえ所有していても,彼らは週末の渋滞時にM25を走るだけです.新しい料金体系は価格メカニズムを介して再分配や資源の効率的利用を促します.
アメリカもイギリスも,日本と比べて,無料で走れる自動車道に感心しました.いつの間にか,それも渋滞によって変わったようです.
WP Wednesday, June 8, 2005
Candor on Immigration
By Robert J. Samuelson
Asia Times Online, Jun 9, 2005
Male migrant workers in Japan have it tough
By Suvendrini Kakuchi
FT June 9 2005
Migrant policy could fracture America
By William Frey
(コメント) アメリカの労働研究者はメキシコ系移民の質が悪化していると心配し,日本のNGOやILO事務所は非合法移民に関する日本国内の偏った関心と無関心を心配しています.移民問題を軽視する政府は,それが人口問題や政治問題を人種化し,社会の中でアパルトヘイトやバルカン化をもたらすことを知るべきです.
FT June 9 2005
It’s economic sense to open borders
By Tito Boeri, Herbert Bruecker and Richard Portes
(コメント) Tito Boeri, Herbert Bruecker and Richard Portesは,政府が政策に失敗した結果を,移民に責任転嫁している,と批判します.「固定した職場を移民と奪い合う」イメージが間違った判断を正当化しています.
「1960年から2000年にかけて,西ドイツは850万人の移民を受け入れた.西ドイツ生まれの労働者も,女性の職場進出で130万人増えた.総労働人口は600万人増えた.確かに,失業者は270万人増えている.しかし,失業が増えたのは移民流入が減速した時期であった.そしてより多くの人々が退職していた.西ドイツで失業が増えた時期に,労働供給を減らす政策が取られていた.他方,1990年代を除いて,ドイツ再統合は東側に深刻な失業をもたらし,同時に,西側への移民を生じさせた.」
彼らは,たとえ硬直的な労働市場の下でも,大規模な移民流入は失業を増やさずに吸収される,と言います.賃金の調整を妨げる場合に,一時的な失業が生じるだけである,と.逆に,賃金交渉を全国的に組織したような最も硬直的な経済では,生産性の高い部門で賃金が決まります.それゆえ,生産性の低い部門は衰退してしまうのです.移民が賃金の高い繁栄した部門に入ることで,衰退した部門の失業は緩和される,と筆者たちは予想します.
また,新加盟国からの移民禁止は,最も同化しやすい優れた労働者をも拒むことで,経済成長が衰えるでしょう.それゆえ移民は減るでしょう.移民たちは社会福祉を求めて来るのではなく,雇用を求めて来るからです.結局,移民によるサービスは送り出し国で行われて輸出されるでしょう.しかし,移民たちが来れば,彼らの消費も受入国の成長に貢献します.彼らの社会福祉を拒むより,社会福祉で働いてもらう方が良いでしょう.それは高齢化し,労働人口が減少する国にとって重要なことです.
国際移民は受入国にも送り出し国にも多大な利益をもたらします.もしEUが東西の国境を開放すれば,GDPの約1%,500億ユーロの富が増えるでしょう.
IHT THURSDAY, JUNE 9, 2005
Henry A. Kissinger: Conflict is not an option
Henry A. Kissinger
Asia Times Online, Jun 9, 2005
The US and that 'other' axis
By Jephraim P Gundzik
BG June 9, 2005
Rumsfeld vs. China
WP Thursday, June 9, 2005
Whose Asian Century?
By Jim Hoagland
(コメント) アジアと中国の台頭は,アメリカにとって重要な安全保障と経済的利益に関わります.個々で言及されていない価値は,ブッシュ政権の中東政策とは対照的に,民主主義と自由です.中国は決して消滅しないのだから,平和と繁栄を共有しておくのが良い,とキッシンジャーは主張します.そのためには,ヒトラーのように宥和したり,スターリンのように封じ込めたりするのではなく,できる限りアジア地域を開放的なシステムによって発展させることだ,と考えます.アメリカとアメリカの参加した地域制度は,そのために各国ナショナリズムを抑制する装置になるわけです.そして,日本の役割にはまったく言及しません.
だから,アメリカは北朝鮮に無関心であり,台湾問題にも触れないのでしょう.しかし,それは米中関係の現時点での均衡を示すだけであり,日本がそれを前提する恒常的な条件とは思えません.他方,中国は開放型の成長を遂げつつ政治改革を延期してきたことで,むしろ多くの脆弱性を抱え込んでしまっているでしょう.誰よりも中国の指導者たちが,アジアの安定化を願っているはずではないか・・・?
中国が築いているのは,北京政府にも決めることのできない,アジアの生産システムの組み立て拠点であり,貿易摩擦を解決するにはアメリカとアジアを結ぶ地域的な通貨メカニズムを必要とするでしょう.他方,インドが築いているのは世界的な情報産業の知的サービス・センターです.中国人の技術者は,短距離では中国の方が早くても,マラソンに勝つのはインドだ,と考えます.
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The Economist, June 4th 2005
Lexington: The frog and the ox
The referendum in the Netherlands
Charlemagne: The triumph of perfidious Albion
(コメント) 他の論説にも面白いものはありますが,その中でもThe Economistは優れています.イギリスという立地と歴史から生じた,アメリカとヨーロッパに対する知的なセンスを評価するべきでしょうか? イソップの童話.ヨーロッパともアジアとも対話できない.更なる拡大と分裂.
EUが失われても,ヨーロッパの単一市場は残るでしょう.EU連邦の権力集中などは誰も喜ばないし,市場改革の厳しさを言い逃れる手段も尽きたわけです.政治権力はそれにふさわしいレベルに返して(補完性原理),それぞれが改革について市場で競争せよ,と要求します.
Cars in China: Dream machines
Traffic: America’s great headache
(コメント) 自動車による成長加速と社会改造は,中国をアメリカに近づけます.アメリカは自動車文化にどっぷり漬かり,渋滞から抜け出す道はありません.
Follow the money: What Deep Throat did
Paul Wolfowitz at the World Bank: A regime changes
Textile-trade politics: A knotty problem
(コメント) 権力への道も,貧困の解消も,貿易摩擦も,政治と金の関数です.軍事介入による体制転換を唱えるより,開発融資や民間投資を条件に政府の腐敗撲滅を唱える方が,同じことでも国際社会の支援を得られるでしょう.貧しい国や紛争地域にダムやパイプラインを建設することは,政府を再建する基礎工事そのものです.