IPEの果樹園2005

今週のReview

6/6-6/11

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 EU憲法を否決: なぜEU統合嫌われたのか? EUもユーロもどこへ向かうのか?

2 日本中国アメリカ: 国際秩序をめぐる大国の考え方に,日本は姿を消してしまう.

3 ホドルコフスキー: 権力に逆らって牢屋に入り,TVを見てメールを打ち続ける大富豪?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


FT May 26 2005

A stability trap?

By Ralph Atkins

FT May 31 2005

European Comment: The real threat to the euro

By Brian Groom

NYT May 31, 2005

After the Vote, No Signs of Collapse

By FLOYD NORRIS

(コメント) ユーロやECBに対する信頼が試されます.すでにECBはユーロ圏内の経済状態の違いに苦悩してきたわけですが,今度は政治的な混乱や内部対立が生じるでしょう.ECBの政策決定を損なう最悪の条件が揃います.

金利は歴史的な低水順にあり,それでもインフレは起こらず,企業の収益は高いのに,ユーロ圏の景気が心配されるのは,失業と低賃金が続いているからです.ユーロ安が懸念され,今後の政治不安が予想される中で,ECBは金利を引き下げて,不安定化を招くより,安定したフリを続けたいでしょう.金利が高すぎる,ユーロが不安定だ,など,ECBは誰からも不満のはけ口にされる恐れがあります.(アメリカが中国を非難するように!)

ECBはむしろ銀行の融資が急速に伸びていることを将来のインフレにつながると心配し,金利水準を正常化したいと考えています.(日銀が量的緩和策やゼロ金利を廃止したいように!) どの国にも一つの金利を当てはめることは間違っていた,と言われるでしょう.問題はドイツ経済が拡大しないことです.

グローバリゼーションに対応して,経済の弾力性を高め,特に労働市場の弾力化が求められています.しかし,本当にそれで良いのでしょうか? 失業者が増え,賃金水準が下がる中で,企業は利潤をますます東欧への工場移転に使ってしまうのでは,回復が見えません.ECBのインフレ目標は低すぎるのではないか? 財政政策をもっと活用しても良いのではないか?

もしインフレの高進が容認されれば,ドイツは離脱を考えるかもしれない,と言われます.しかし,失業も同じことです.ドイツ残留とECB改革との奇妙な綱引きが始まっています.金融政策をめぐる政治的な合意の中身が問われます.

フランスのEU憲法否決は,ユーロをわずかに(1%?)安くしただけでした.しかし,政治統合を伴わない通貨統合が維持できるのか,疑問は強まります.構造改革と成長の回復が,その疑問の中身です.市場を統合するだけで,構造改革は容易に促進できるでしょうか? 生産性を上げるために失業者を増やす,という矛盾をいつまで我慢できるでしょうか?

確かに成長率や国際競争力を高めるためには,企業も国家も競争して生産性を高めるべきでしょう.しかし,長期の失業や大幅な所得の低下,若者の失業を回避し,衰退地域や衰退産業から退出させ,革新的な技術に投資することも重要です.たとえばイタリアやロシアにはそれができないとしても,ユーロ圏になればできる,と言うのでしょうか?

今はまだ,EUやユーロの崩壊を予想するより,右派と左派の反対派が合流し,EUへの失望感と,特にシラク大統領や,フランスが主導権を失うことへの反発を示したと解釈されています.


IHT FRIDAY, MAY 27, 2005

It's about Germany

William Pfaff

IHT WEDNESDAY, JUNE 1, 2005

German reform matters more

Holger Schmieding

FT June 1 2005

Quentin Peel: Europe must grow to remain credible

By Quentin Peel

FT June 1 2005

The priority is to cut unemployment

(コメント) EU憲法が否決される最大の理由は,経済が停滞していることだ,と誰もが知っていました.特にドイツの衰退です.まるで日本と同じように,ドイツも東西統一やユーロ導入を経て,通貨秩序の病魔に侵されました.

EUは,ドイツの復活が再びヨーロッパに戦争を起こさないための「道徳的な戒め」であった,とWilliam Pfaff は指摘します.ドイツにとっても,その他のヨーロッパ諸国にとっても,衰退したドイツは想像できなかったと思います.

EU憲法は,それ自体の欠陥以上に,EUで進行したいくつかの病気によって拒まれました.移民を拒み,「アメリカ型の自由主義」を拒み,東欧への工場移転やトルコ加盟を拒みました.自分たちを守り,その発言を確保するために,ナショナリズムが再生されたのです.現政権や既存の政策,制度への不満が,反対投票となりました.

「ドイツ問題」を解決するはずであった統合が,いつの間にかロシアに接する地域にまで及び,アフガニスタンに軍隊を送るような現実に対して,EUはどこまで拡大するべきか? という疑問が起きました.一方では,冷戦終結によって再編される国際秩序に対応しなければなりませんでした.しかし他方で,ドイツ問題を解決するために生まれた制度の実体を見極めなければならない,とPfaffは考えます.

Holger Schmiedingも,EU統合の意味が変わったことを指摘します.統合は,そもそも,ヨーロッパのエリートを含む多くの国民が,ドイツとフランスの対抗意識を超えて,ヨーロッパの繁栄を享受するための仕組みでした.東欧にとっては今もそうです.しかし,EUの旧加盟国は,むしろドイツ衰退による損失を分け合っています.

フランスに続いて,今度はオランダも! 「バタン,とドアが閉ざされた.ヨーロッパ要塞への出発信号が灯る.」とQuentin Peelは感想を述べています.もはや都合の良い部分だけ統合して,政治家たちが主権を温存できる,という折衷的手法には限界があるようです.課税し,統一したルールを定める正当性を主張するなら,単一の議会を必要とします.他方,だからこそEU拡大に慎重な姿勢が強まります.EUが経済的な繁栄と安定性を取り戻すには,新しい活力も必要だ,という視点から,拡大は支持されてきました.成長が再生しないなら,政治への支持も失われます.

ドイツもフランスも,政治は完全にすべての力を国内の「雇用危機」緩和に向けています.内政も,外交も,それで雇用飢饉を解消できるかどうか,とまず問われます.中国からの輸入急増に反対.東欧諸国の投資優遇策に反対.サービス部門の競争促進に反対.・・・

FTが求めるのは,労働市場の弾力化であり,社会保障制度の改革です.しかし,まさに,これがアメリカ型の自由主義として嫌われているのです.


IHT FRIDAY, MAY 27, 2005

Old and new Russia clash

Samuel Rachlin

WP Wednesday, June 1, 2005

The Soviet Spirit Lives On

By Masha Lipman

The Guardian, Thursday June 2, 2005

Mixed verdict

IHT THURSDAY, JUNE 2, 2005

A sadly Russian show. Author?

Viktor Erofeyev International Herald Tribune

WP Thursday, June 2, 2005

Verdict in Russia

(コメント) モスクワの通りでは,独裁政治への風刺劇が上演されています.評決が下りました.「終身刑」.ホドルコフスキーは判決を聞きます.そして1000ページに及ぶ罪状の説明.オーウェルが描いた「1984年」ではなく,プーチンの「2005年」です.

プーチンの旧いロシア的悪とコドルフスキーの新しいロシア的悪が衝突して,互いに相手を呑み込もうとしています.プーチンは,ソ連解体後に蓄えられた大富豪たちの富を,国家官僚を通じた支配に回収したがっています.もし大富豪が発達した市場システムに至る先駆者であるなら,彼は改革派でもあるわけです.

この5年間で,プーチン式のダブル・スピークは成長を遂げました.シロビキが引き継いだソビエト型思考とプーチンの独裁が融合します.政府部門のすべてに及ぶ汚職,横領,根深い腐敗.ホドルコフスキーもその富によって守られていたはずでした.しかしそれも,プーチンの大いなる慈悲があればこそ.

実際の判決は「禁固9年」です.それはソビエト型の警察国家による支配です.しかし,1930年代のスターリンとは異なる点があります.ホドルフスキーは自白したのではないし,「人民の敵」として糾弾されているのでもありません.むしろそれは,1970年代のKGBによる支配に抵抗し続けた反体制派たちの姿に似ている,とカーネギー財団のMasha Lipmanは言います.

それはプーチンによるブレジネフ時代の復活である,と.秘密警察に個人が挑むことはできません.しかし,虚偽の告発を外国のメディアや人権団体と一緒に監視することが,彼ら自身に勇気を与え,かつてのように,最後の勝利をもたらすと信じることができるでしょう.

左派のThe Guardianはホドルフスキーにも批判的です.この政治ショーを支えているのは,警察国家だけでなく,国民が激しく窮乏化する中で莫大な富を蓄積したオリガークたちへの怒りです.国民の半数が毎月100ポンド以下で暮らしているのに,この囚人は今なお22億ドルの資産を保有しています.・・・この社会には,「正義も無いが,平等も無い」,と.

ホドルコフスキーとは誰なのか? われわれのアイドルか? 余りにスマート過ぎないか? とIHTのViktor Erofeyevも書きます.「1994年以来,税金を支払っている! 彼は本当にすごい.われわれはどうだ.税金を支払う余裕も無い.この男を大統領にしたらどうか? なんと慈善家でもある! こいつは清潔だ.われわれは汚物にまみれている.もし自分がオリガークになれたら,ヨットを何艘も買って青い海を走らせるだろう.独房の中には冷蔵庫もTVもある.でも,われわれの風呂のパイプは10年間も漏れたままだ・・・!」

支配者たちは彼を脅して,明確に国外へ逃れることを示唆しました.しかし彼は拒んで,牢獄に入ったのです.独房から送られてくる,なんとも丁寧な手紙は公開されています.これは彼のPRなのか? ところで,この芝居の脚本は,誰が書いているのか?

WPは,プーチンが大統領選挙から政敵となる人物を追い払ったものの,これによって,経済的な繁栄と民主主義諸国の協力を得る重要な機会を失った,と批判します.


The Guardian, Friday May 27, 2005

America's broken nuclear promises endanger us all

Robin Cook

NYT May 27, 2005

Participants Say Talks Fail on Strengthening Nuclear Treaty

By DAVID E. SANGER

FT May 27 2005

Nuclear non-proliferation talks end in failure

By Mark Turner in New York

IHT MONDAY, MAY 30, 2005

Kofi A. Annan: Break the nuclear deadlock

Kofi A. Annan

IHT MONDAY, MAY 30, 2005

Small, portable, deadly - and absurd

Daryl G. Kimball International Herald Tribune

(コメント) 世界には,まだ3万発の核爆弾があります.

なぜNPTは解体されるのでしょうか? それはアメリカ政府がNPTによる核拡散の防止を効果が無いと考えており,むしろ核実験を行って新型の核兵器を開発することで,圧倒的な抑止力を得るほうが良い,と考えるからではないでしょうか?

5月27日,ニュー・ヨークで開かれていたNPTの会合は完全な失敗に終わりました.SANGERは,ブッシュ政権の基本方針と非核国の考え方がまったく反対であった,と指摘します.イランやエジプトが指導する,核兵器を保有しない諸国のグループは,非核国が核攻撃を受けないという保証を求め,また核実験を禁止するべきだ,と考えました.多分,これはブッシュ政権に北朝鮮の主張を思い出させるのでしょう.しかし,どの国が主張したにせよ,正しいと思いませんか?

カナダの代表が述べたように,特定の国の短期的な利害を超えて,すべての国の長期的な目標を目指すべきでした.どの国の代表も,一部の国がNPTを悪用して,すべての加盟国にとっての重要な目標を損なってきた,と非難したそうです.しかし核拡散は防げないし,むしろ,世界的な核軍拡競争の予感があります.

エジプトがイスラエルの問題を分離して議論することを拒み,イランは核燃料の世界的な監視システムを議論することを拒み,アメリカは非核国への核攻撃禁止や核実験の禁止を拒みました.アメリカは高官が出席することも無く,交渉を失敗させた原因はアメリカの主張ではなく,非核国の間に意見の大きな相違があったことだ,と主張します.

交渉決裂を受けて,直ちにアナン国連事務総長は,主要国が話し合って,NPTの再生に向けた指導的な役割を果たすように求めました.EU同様に,NPTの存在理由も危機に直面しています.すなわち,核兵器を保有する国を増やさず,核兵器の数を減らすことと,核エネルギーの平和利用を可能にすることです.北朝鮮,リビア,イランなど,最近の結果からもNPTの成否は曖昧です.

秋の国連総会に向けて,アナン氏は核燃料の再処理や移動を厳しく国際管理することを優先します.また核実験も一時的に禁止することを求めます.

Daryl G. Kimballによれば,アメリカとロシアは結託して,いずれも核軍縮を進めないことに関心を示さず,ヨーロッパから核を撤去する約束も果たしません.他方,アメリカはバンカー・バスター爆弾を改良して,敵の地下格納庫(や司令部?)を破壊することに夢中であり,新しいタイプの核兵器を開発している,と聞きます.ロシアや中国などが追随するのは確実です.

もちろん,21世紀にそれらを手に入れるテロリストたちは,こうした展開を喜ぶでしょう.


Felix Rohatyn, “It's not about France,” IHT SATURDAY, MAY 28, 2005

“FeedsEurope Votes,” WP, Friday, May 27, 2005

John Palmer “An opportunity to move forward,” The Guardian, Saturday May 28, 2005

Wolfgang Munchau, “Europe reform gap,” FT, May 29 2005

John Plender, “At risk of eurozone stagnation,” FT, May 29 2005

Gary Schmitt, “If It Dies, C'est La Vie,” LAT May 29, 2005

George F. Will, “Europe At the Precipice,” WP, Sunday, May 29, 2005

Pepe Escobar, “The new French revolution,” Asia Times Online, May 28, 2005

Frits Bolkestein, “Verdict tells us that Europe has been oversold,” FT,May 30 2005

(コメント) 前フランス大使としてFelix Rohatynが示したEU憲法への応援は,フランスにとっても,ヨーロッパにとっても,そしてアメリカや世界秩序にとっても,ユーロの誕生は好ましいものだったし,EU憲法もそうである,と説いています.より強いまとまりと活力に満ちた経済圏ができることは,その主要な貿易と投資の相手にとって,歓迎すべきことである,と.WPも同様に考えます.ヨーロッパが政治・経済改革を進めて成長率をアメリカと同じように高めてくれなければ,アメリカの経常収支赤字を減らすことが難しくなる,と.

John Palmerは,EU憲法を否決すれば右派の勢力が強まって,左派が反対しているヨーロッパ型の社会モデルや価値観はますます実現できなくなるだろう,と警告します.右派と左派の奇妙な共闘を批判するわけです.フランスの社会党非主流派や共産党,トロツキストたちは,憲法を否決して「新自由主義」を葬ってやる,と訴えますが,それは逆の結果しかもたらさない,と.特に,左派がその戦略を最も間違えたのは,憲法に反対する主張を移民排斥の極右政治家と一緒くたにしてしまったことです.

たとえフランスとオランダが否決しても,いまさらEUが解体できるわけではなく,むしろ混乱と停滞の時期が続いて,アングロ・サクソン型の改革を主張する者と,ネオコン式の政治手法や外交を重視する者が力を得るでしょう.

改革を指導できなかった現在の政治エリートたちの交代時期が早められる,という予想もあります.実際,新しい世代の政治家たちは「社会モデル」への執着やアメリカへの反感をあらわにしません.そして,もし彼らも改革を指導できなければ,事実上,政治権力が各国家から失われて,EU全体の指導者に求められるのではないか?

国民投票による否決,というショックは,結局,改革を加速させるのか,それとも破綻させるのか? たとえば,ブレトン・ウッズ体制が崩壊した後のように,もしユーロが解体されれば,イタリアなど,財政規律を無視して拡大策をとる国が現れ,通貨秩序が混乱することをECBは懸念します.

Gary Schmittは,EU憲法?の不手際や矛盾に言及します.この文書は一体なんだ? 条文は448にも及び(アメリカ憲法は7条),数百ページに渡ってタイプされた文書が厚さ4インチにもなる.誰がこんなものを読むのか?

そこで市民たちは,これを @EUの既存秩序,AEUの拡大・統合促進,B国民国家主権の終わり,C独仏による社会保障システムの押し付け,Dアングロ・アメリカ版ハイパー・資本主義,などの憲法とみなして反対しました.要するに,読まれることも,愛されることも無い,官僚たちのための文書です.

アメリカにとって重要な,ウクライナやトルコの加盟はいつまで延期されるのか? EUレベルの輪番制や,全会一致による決定(というより拒否権)はいつになったら止めるのか? 要するに,それまでは,アメリカが話し合える責任ある政府をEUに見ることなどできないわけです.政治エリートたちが築いてきたEU統合の現実と,民主的な政治統治の仕組みとを,どこかで一致させる必要があります.

まさに,こうした問題が未解決なまま,失業や移民流入についての不満は反EU=反政治エリートの感情に変わったわけです.George F. Willは書きます.国家主権は自治の前提である.EU憲法は,代表議会に課税と統治の権限を与える500年の流れに逆行するものだった,と.

Pepe Escobarは,この国民投票をフランス革命のギロチンにたとえます.アジアにとって,地域統合の見本であり,単なる空想ではない根拠となったEUの首が,今はギロチン台に乗っています.ヨーロッパの理想はどのように民主的に実現されるのか? アジアはそれを見たいでしょう.要するにEU統合やユーロは喧伝されすぎて,その成果を期待しすぎたために,深刻な幻滅を招き,修正をも困難にしてしまったかもしれません.


NYT May 27, 2005

Running Out of Bubbles

By PAUL KRUGMAN

NYT May 28, 2005

Is Your House Overvalued?

By DAVID LEONHARDT

NYT May 28, 2005

Billionaires Beware This Bubble

PAUL B. BROWN

FT May 30 2005

Lex: US housing

BG June 1, 2005

How big a bubble?

By Robert Kuttner

(コメント) まるで古代の歴史のように忘れられた株式市場のバブル崩壊が,今になっても支払われていない形で生き残っている,という説も,住宅市場を見ればわかります.アメリカが不況を避けるには,グリーンスパンの巧妙な操縦によって,株価バブルを住宅バブルへ継承させる必要がありました.でも次は,どこが引き継いでくれるのでしょう? ああ,なるほど! 中国だ.

もちろん,必要なくなったバブルが自然に消えてくれるのであれば良いのです.ダウ3万6000ドルが予想された頃,それを妄想として退けたRobert Shillerが,今回の住宅バブルは史上最大の規模になる,と指摘しました.2001年の不況回避でグリーンスパンを称えた人々は,結局,後悔することになるかもしれません.

NYTは,アメリカ内でも特にバブルが進行する土地や富豪たちの様子を伝えています.

住宅価格は大恐慌以来の最高水準に達している,とRobert Kuttnerは警告します.それは巨額の融資で維持されているのです.連銀が少しでも金利を上げれば,モーゲージが急落します.銀行は資産を失って融資を絞り,人々は支払いに窮して他の支出を削るでしょう.その結果,不況によって失業した者や銀行は住宅を手放し,まさに住宅価格が暴落します.

しかし,とKuttnerは考えます.人々は株券の上に住むことはできないが,住宅には必ず需要がある.価格の暴落にも,株より住宅の方が明確な下限があるだろう,と.最近,バブルに呑まれた者は大きく失うけれど,多くの者は住宅を保有したまま次の上げ潮を待つだけです.地域的な差も大きな変動を抑制します.それでも,このバブルと破綻には公共政策が関わっていることを忘れてはいけません.グリーンスパンの低金利とブッシュの減税です.政策が異なれば,住宅価格はもっと安定していたはずです.


NYT May 27, 2005

Hedge Funds Are Stumbling but Manager Salaries Aren't

By RIVA D. ATLAS

(コメント) ヘッジファンドの業績は衰えましたが,マネージャーたちの報酬は増え続けています.どれほど大きいか? この記事に表が載っていました.上位3名の2004年の年俸を記します.

Edward S. Lampert (ESL Investments)   +69% 10億2000万ドル (約1090億円)

James H. Simons (Renasissance Technologies)   +25% 6億7000万ドル (約717億円)

Bruce Kover (Caxton Associates)   +10%  5億5000万ドル (約588億円)


WP Friday, May 27, 2005

China Makes Its Move

By Richard Holbrooke

NYT May 29, 2005

The China Scapegoat

By NICHOLAS D. KRISTOF

BG May 31, 2005

Globalization game

By Clyde Prestowitz

LAT May 31, 2005

Bush's Passive Appeasement

By Steve Andreasen

(コメント) アメリカの国務長官ジョン・ヘイが1899年に中国市場の門戸開放を迫ってから,すでに100年以上経ちました.今また,財務長官のジョン・スノーは違う形で中国に門戸開放を迫っています.つまり,もっと通貨の価値を高めて輸入を受け入れよ,と.

さまざまな意味で,中国は経済改革の成功を対外的な影響力拡大に転化しつつあります.米中関係は非常に重要であるにも関わらず,アメリカ政府は中国の台頭について全体として統合されたアジア政策を持っていません.そして,人権や表現の自由などに関する考え方の違いと,貿易不均衡が,アメリカの対中政策をますます支配して行きます.Richard Holbrookeは,この傾向が続くことを懸念します.

NICHOLAS D. KRISTOFもデマゴギーに支配された米中関係の悪化を予想します.中国の指導者に批判すべき点は多いが,貿易不均衡はそれに含まれません.世界の資本移動をゆがめているのはアメリカの財政赤字であり,中国の生産者が効率的だからといってアメリカが保護主義を唱えるのは世界貿易システムを破壊する行為です.

しかも,最近のアメリカが行ったアジアに対する要求は失敗でした.アメリカの「助言」に従ったせいで,日本はバブルに苦しんだし,アジアは通貨・金融危機を悪化させた,とKRISTOFは言います.だから,中国がアメリカの「助言」に対して自分の財布を押さえるのも当然だ,と.

中国製のタオルが押し寄せるからアメリカの失業者が増えた,というのは間違いではないが,同時に,中国からの資本流入で金利は低く抑えられ,銀行や建設部門で多くの雇用をもたらしたことを忘れてはいけません.また,北朝鮮の核開発を止められなかった,と言って非難するのも間違いです.北朝鮮の指導層は中国を嫌っており,誰の言うことも聞かないのだから.それに比べて,ブッシュ政権は何もしていません.そして,もし北朝鮮の核施設を爆撃したら,たとえ放射能汚染が韓国や日本に集中し,中国には及ばないとしても,米中関係の悪化は深刻である,と.

KRISTOFから見て,最後の悪化要因は中国側のデマゴギーです.中国政府は日本人への憎悪と蔑視を若者たちに教え込みました.要するに,反日デモのスローガンの一つは「日本人は死ね!」でした.その結果として,日中韓の摩擦や衝突が起きれば,日米安保条約によってアメリカが介入を強いられる,と.だから・・・頭を冷やすべきではないか!?

もう一つの論調はClyde Prestowitzです.彼に言わせれば,中国の問題は,既に日本との問題でも分かっていたことです.彼ら(アジアの輸出超過国)が登場したせいで,グローバリゼーションを支持するアメリカの善意は枯れてしまった.つまり,グローバリゼーションは破綻した,と.

人民元をたとえ20%切上げたところで,問題は解消しないことが分かっています.既に日本が1980年代に円高を容認して,今なお,その巨額の黒字を維持しているではないか? 彼らは通貨を操作し,産業政策を駆使して,貿易黒字を維持してきた.他方,アメリカはますます消費に依存し,アルバイトしかしない学生にまでクレジット・カードを配っている.つまり,こんなグローバリゼーションは持続できないのだ,と.

中国が,インドが,旧社会主義圏が,さらに続いて貧しい発展途上諸国が,こうしたグローバリゼーション・ゲームを求めています.破綻する前に,アメリカはゲームから降りるべきだ,と.

Steve Andreasenは,かつてブッシュ大統領が嫌った「宥和政策」によって,彼自身の姿勢を批判されるだろう,と言います.チェンバレンがヒトラーを,またチャ−チルやルーズベルトがスターリンを「宥和」したように,結局,ブッシュも北朝鮮やイランを「宥和」しているではないか? もし「宥和」が成功するとしたら,他国を非難するより,アメリカも支援を約束するべきではないか?


Asia Times Online, May 28, 2005

Dollar, my foot

By Antal E Fekete

(コメント) 1971年以来,アメリカのドル政策はどのように世界の富を破壊してきたか? アメリカ政府は,価値の絶対的基準となるものを捨て去ることで,(対外・国内)債務問題や労働争議や不況を回避できると考えました.しかし,Antal E Feketeは,ガリバーの逸話を持ち出し,またルードヴィッヒ・フォン・ミーゼスの予言を思い出して,それが経済活動を破壊し,正常な取引や投資を妨げて破綻にいたる,と主張します.

貨幣をめぐる政策は,それが安定した価値を保証しなければならない,という意見と,それによって調整過程を促進し,所得や雇用を円滑に拡大できる,という意見に分裂しています.どちらも必要だろう,と私は思います.


NYT May 28, 2005

Japanese Expert Urges Chinese Shift on Currency; Beijing Still Hesitant

By KEITH BRADSHER

FT May 29 2005

Amity Shlaes: US cant devalues renminbi debate

By Amity Shlaes

(コメント) アジア開発銀行(ADB)総裁となった黒田東彦氏の発言を伝えています.アメリカは,即時・大幅切上げを要求し,中国は当面動かさないが長期的には変動制を目指す,という立場です.黒田氏は,早急に・だが徐々に切上げるべきだ,と主張します.

Amity Shlaesは,スノー財務長官の方針に三つの点で反対を述べます.まず,中国の通貨が操作されていると非難して,アメリカがそれを操作するように強いるのは愚かだ.次に,そんなことをしてもアメリカの利益にならず,中国には大きな災厄となる恐れがある.最後に,このような要求によって,中国がアメリカ・ドルに寄せてきた信頼をぶち壊して,政治的な敵対関係をもたらすことが賢明であるとは思えない,と.

要するにShlaesは,ドル・ペッグが輸出市場とドルの獲得に向けて中国の成長を加速したことや,ドルを使うことで中国の銀行システムを一時的に隔離できたことを,通貨システムの詐欺や悪意ある操作ではなく,優れた開発政策として高く評価しています.


FT May 29 2005

We can adapt to an ageing world

By George Magnus

(コメント) 高齢化社会と経済運営に関する考察です.「年齢は重要ではない.あなたがチーズでないなら.」

2050年までには,発達した経済において,国によっては労働者の40〜80%,中国では40%,そしてインドでは25%の労働者が60歳以上になります.そして年金制度や政府財政が破綻し,生活水準は悪化し,貯蓄が減って,資産価格は下落し,市場は氷河期を迎えると懸念されています.本当でしょうか? George Magnusは,これに反論します.


FT May 30 2005

Japan's battle against deflation goes on

By David Pilling

FT May 30 2005

Guy de Jonquieres: Japan's collusion culture

By Guy de Jonquieres

JT Monday, May 30, 2005

A tale of two constitutions

By GLYN FORD

June 1 (Bloomberg)

Why Japan `Boxes' Below Its Weight Globally

William Pesek Jr.

(コメント) David Pillingは,デフレの持続と日銀の金融政策を批判する長い論説を書いています.ゼロ金利や量的緩和政策は効いていません.そして,デフレが解消していないのに,異常な金融緩和を止めたい,と説明する日銀に不安を抱きます.

なぜ日銀はインフレを促す政策(リフレ政策)を,今まで積極的に採らなかったのか? たとえ金融システム不安は解消したように見えても,デフレを放置すれば同じことを繰り返します.銀行が不良債権を減らす過程で融資を減らし,企業のリストラも加速して,失業の不安から家計は支出を削りました.このままではデフレが解消しません.銀行に過剰な残高を与えても問題は解消しませんでした.しかし,だからと言って金融緩和を逆転させるのは正しい選択でしょうか?

Lehman Brothers のPaul Sheard は,日銀がもっとデフレ解消に非正統的な手法も採るべきだ,と考えます.たとえば,通貨を増発して,株価を買い支えても良い,と.なるほど,香港通貨庁は通貨危機に際してそうしました.B・ブラウンは「金融ニヒリズム」について書きました.

日本では金融政策に政治がしばしば介入した結果,今でも日銀はそれを過度に警戒している,と言われます.実際,財務省が日銀の決定に関心を持つ理由は4つあります.@金融緩和を後退させることで,企業利潤や税収に悪影響が出る.Aどちらが先に引き締めに転換するのか,我慢比べになっている.B歳出の22%を国債に頼っているので,金利を上げてほしくない.C日銀が国債の売りオペによって通貨供給を減らす際に,債券市場が暴落しかねない.

だから? デフレ容認を続けるより,日銀と財務省がもっと積極的にデフレ解消策で協調しなければなりません.

Guy de Jonquieresは,日本市場の談合体質を批判します.公正取引委員会が政府の橋梁工事に関する談合組織を告発しました.日本政府・官僚と自民党,建設業界・企業の談合体質は変わるのでしょうか? これによって安定した価格や雇用が維持できている,という正当化は今も成り立つのでしょうか? 消費者から利益を広く薄く奪って,政治家と業者が分け合う関税と同じように,情報を開示して市民団体やメディアに監視させるか,日本がもっと厳しい競争を外から強いられなければ是正できないでしょう.

GLYN FORDは,EUと日本が新しい憲法を承認して,国際政治におけるアメリカの交渉相手として登場するべきだ,と考えます.William Pesek Jr.は,中国やインドが関心を集める中で,アジアの将来から日本の姿が消えてしまった,と指摘します.常に内向的で,雇用や貯蓄,組織の秩序を維持することにこだわり,国際秩序や将来に向けたビジョンを日本は何も示せない,と.


“France's No is not all bad,” FT May 30 2005

“Can't reform, won't reform,” FT May 30 2005

Matthew Lynn, “German Vote Won't Produce Thatcherism,” May 30 (Bloomberg)

Peter Preston, “Now let's pick up the pieces,” The Guardian, Monday May 30, 2005

Timothy Garton Ash, “The heart says no to the body,” The Guardian, Monday May 30, 2005

ELAINE SCIOLINO “French Voters Soundly Reject European Union Constitution,” NYT May 30, 2005

David Ignatius “Chirac's Failure To Lead,” WP Monday, May 30, 2005

(コメント) EU憲法(あるいは憲章)否決に関して,メディアには多くの論説があふれました.いくつか読みましたが,一部しか紹介できません.参考までに列挙しておきます.

フランスとオランダが否決しても,EU憲法の承認手続きは続きそうです.既に,ドイツとスペインを含む9カ国が承認しています.あるいは,この機会にイギリスが修正に加われば,EU統合の性格を変える現代の「バランス・オブ・パワー」が働くのかもしれません.いつでも,何が起きても,政治は終わりません.危機は同時に機会でもある,と多くの論説が指摘します.

一体,何が拒否されたのか? 反対派の雑多で矛盾した主張には,今後の修正を決める手がかりが求めにくいでしょう.もし統合が成功するとしたら,それは政治的な理想である以上に,それを支える経済的繁栄であると思います.EUの指導者たちは経済改革を進める道筋や,成長を高める実績を示してから,国民に問う必要があったのです.

結局,ドイツ人は改革を望んでいない.もし改革を進めるなら,ドイツにもサッチャーが必要だ,と主張する論説があります.

そもそも,このような承認過程を求めたことが,政治的に実現不可能な夢であり,ドードーのような絶滅種でした.そして,否決の衝撃は現実的でも致命的でもなく,情緒的で象徴的なものであろう,と言います.むしろ,この投票では何も重要な争点が示せなかったことが問題だ,と.

EUはその基本原則,存在理由,正当性を確認することから始めるでしょう.ベルリンの壁が崩壊し,ドイツが再統一し,ポーランド,ハンガリー,そして,ルーマニア,クロアチア,ウクライナ,トルコも加盟することなど,かつてはまったく想像もできなかったのです.

フランス人がEUにノンと言うのは,イギリス人が牛肉を拒み,ロシア人がウォッカを拒みたくなるようなものだ,とTimothy Garton Ashは書きます.

Dan O'Brien “The EU constitution: The silver linings of defeat,” IHT TUESDAY, MAY 31, 2005

 “When 'Non' Means So Much More,” CSM May 31, 2005

Martin Wolf “Forget the hymns and fix the economy,” FT May 31 2005

“From Sunday's Non to economic reform,” FT May 31 2005

“Blair's moment of destiny on Europe,” FT May 31 2005

Martin Kettle, France refuses to grow up - it is the politics of Peter Pan,” The Guardian, Monday May 31, 2005

Jonathan Steele, The no vote was a shout of defiance,” The Guardian, Monday May 31, 2005

Dan O'Brien, “The silver linings of defeat,” IHT TUESDAY, MAY 31, 2005

“The French Rejection,” WP Tuesday, May 31, 2005

(コメント) 「ロシアでは,良い行いをすることは資産をもたらさない.」 政治的合意なしには,いかなる経済的改革も成功しません.しかし,経済的な基盤なしには,政治が決めたことも持続できないのです.

エリートたちはユーロについて十分に国民に教えなかったし,分かりやすい言葉でEUが人々の生活に役立っていることを説明できませんでした.支持者は,極端な主張やさまざまな陰謀説を細かく反証できませんでしたし,デマが繰り返されるうちに真実や神話となって,人々の偏ったイメージを造形してしまいました.それは,群衆を集める乱闘のように,注目を集めたものの,それだけで正しい判断にはつながりません.直接民主主義には多くの欠陥もあるのです.

統合過程は逆転しないけれど,それに関する疑問には答えられなければなりません.それまで統合は次へ進めないでしょう.少なくとも,フランスの政治エリートたちは失敗したのです.

Martin Wolfから見れば,通貨統合を進めれば,EUはもっと全体として弾力性を高め,域内の競争を促進しなければならないことが分かっていました.独自な通貨政策が取れないからです.しかし,政治家たちはそれを十分に理解しておらず,説明していません.

Jonathan Steeleは,EU憲法を否決して,それを「民衆の声」とみなして歓喜躍如するパリの群集を描いています.それは確かに知的な「ごった煮」ですが,決して過激な運動が集合しただけではありません.まさに政治的な中核から離反の流れが起きました.フランス社会党の多数が,アタックなどの反グローバリゼーションに合流したのです.

「それはヨーロッパの社会民主主義が危機にあることを示した.グローバリゼーション,資本逃避,アウトソーシングに直面し,いたるところで左派や中道左派の動揺が広がっている.屈服するしかないのか? それとも,成長だけでなく社会的な正義を実現するために市場を規制するのか? ギャングに頼り,移民労働者を搾取して生きるのか?」

WPは,フランスが地政学上の優位を得られると考えていたEUが東欧への拡大で変質したこと,また,イギリスが1980年代にサッチャーによって改革を進めたように,市場改革を実現しなければ成長を維持できないこと,これらを受け入れる前に,ナショナリズムの形でともかく不満を表したかったのだ,と考えます.

“Continental divide,” BG June 1, 2005

“France votes 'non',” IHT WEDNESDAY, JUNE 1, 2005

DAVID HOWELL, “French lessons for the European Union,” JT Wednesday, June 1, 2005

“The American Shrug,” LAT June 1, 2005

ANDRES MARTINEZ, “The Borders Are Closing,” LAT June 1, 2005

“The French Non,” NYT June 1, 2005

Anne Applebaum, “Just Say 'Non',” WP Wednesday, June 1, 2005

(コメント) アジアはEU統合から何を学ぶべきか? 否,逆かもしれません.DAVID HOWELLは,ヨーロッパの統治システムや産業革命が世界のモデルとなった時代はこの600年間で終わり,すでにヨーロッパがアメリカやアジアから学ぶ時代になった,ということを考えます.

LATやNYTは,アメリカの反応を伝えます.ブッシュ政権は沈黙しています.大西洋間の難しい問題と冷たい外交関係を考えれば,複雑な計算をしても仕方ないからでしょうか.しかし,ヨーロッパが将来どうなるのか,その展望はアメリカにとっても最大の外交課題であり,適切に意見を述べるべきだ,とLATは指摘します.

ANDRES MARTINEZは,移民排除に動いたオランダが,グローバリゼーションの政治経済拠点として繁栄してきた過程を逆転して,国境を閉鎖できるのだろうか? と考えます.冷戦が終わり,インターネットで個人や企業が結びつく世界で?

しかし,グローバリゼーションの失速と国民国家の復活は,意外なほど急激に進みました.官僚支配に対する反発は長く蓄積されていましたし,中国やインドがグローバリゼーションの主要な受益者となることで「相互依存」の意味が変わりました.クリントン元大統領はグローバリゼーションを「脅威ではなく機会に満ちている」と訴え続けましたが,9・11以後,ブッシュ氏もアナン氏も,世界がいかに危険で満たされているかを話し続けています.クリントンの楽観を支えていたアメリカの繁栄も,その一部はバブルだったのです.

Shada Islam, “A retreat from Great Europe? Part I,” The Asian Age, 2June 2005

George Parker, “Europe’s leaders reflect on ‘the wrong answer’,” FT June 2 2005

Martin Wolf, “New era for UK in Europe,” FT June 2 2005

Philip Stephens, “Bring back the ideals of Messina,” FT June 2 2005

“Vive la difference,” FT June 2 2005

“Lex: Europe,” FT June 2 2005

Matthew Lynn, “Dutch, French Votes Spell End of EU Integration,” June 2 (Bloomberg)

Timothy Garton Ash, “What is to be done?” The Guardian, Thursday June 2, 2005

Simon Tisdall, “A lesson from the voters that must be heeded,” The Guardian, Thursday June 2, 2005

Serge Halimi, “Thwarted by a surge of democracy,” The Guardian, Thursday June 2, 2005

“Dead and buried,” The Guardian, Thursday June 2, 2005

Max Boot “Why Europeans Are as Mad as Hell at the New Europe,” LAT June 2, 2005

DAVID BROOKS, “Fear and Rejection,” NYT June 2, 2005

Jim Hoagland, “Opportunity in Defeat,” WP Thursday, June 2, 2005

Pepe Escobar, “Europe's disaster movie,” Asia Times Online, Jun 3, 2005

(コメント) George Parkerは,ヨーロッパの主要政治家が示す反応を伝えています.またPhilip Stephensは,EUに関するイメージを.

こうして通貨統合の経済学は国民国家の政治学に敗れたのであり,Matthew Lynnはユーロの将来を悲観します.EU大統領,EU統一税制,EU統一軍,・・・単一政府を目指す話は,ブラッセルの官僚を除けば,誰も話題にしていません.もしEU憲法を拒めるのであれば,ユーロも離脱できるはずです.市場改革も延期されるでしょう.それでもユーロを維持できるのか?

憲法承認に代わるEU統合の将来を動かす政治力学について,まだ誰も予想できません.


FT May 31 2005

Next for the west are cars ‘Made in China’

By Geoff Dyer and James Mackintosh

FT June 2 2005

Bulls in the China shop

(コメント) 中国は世界の工場として自動車も生産するだけでなく,世界一の輸出国になるでしょう.日本が,あるいはトヨタが世界の自動車産業に占める役割は,いつごろ急激に変化するのでしょうか? まずは発展途上国の市場を目指して,中国製の自動車がシリアに輸出されました.

他方,世界の主要金融グループは中国の金融サービス市場の開放にどのように対応するのでしょうか? 中国の主要銀行を買収したり,資本参加したりするでしょうか? どの銀行を買えばよいのか? ・・・彼らは悩みます.


WP Tuesday, May 31, 2005

An Unbalanced Trade Policy

By Sherrod Brown

FT June 1 2005

Cafta failure would harm all free trade

By William Rhodes

FT June 1 2005

Trade disputes call for cool heads

(コメント) オハイオ州の民主党議員Sherrod BrownはCAFTAに反対する意見を展開しています.要するに,アメリカでも中米諸国でも,アメリカ企業が工場を移転して弱小企業を倒産させ,法によって守られていない貧しい労働者を搾取することで,両国の労働者は生活水準が悪化する,と.他方,支持派は戦後のアジア諸国が成功したように,内戦を終えた中米諸国が民主主義と成長を実現する機会を与えるのはアメリカ市場への輸出である,と主張します.

アメリカとEUの間では,エアバスをめぐるWTOの紛争処理が続いています.


LAT June 1, 2005

We're All Living on Borrowed Time

By William G. Gale and Peter R. Orszag

June 2 (Bloomberg)

U.S. Fed Worries About Global Risks

John M. Berry

WP Thursday, June 2, 2005

The Curse of Cheap Credit?

By Robert J. Samuelson

The American Prospect, 06.02.05

Take it to the Banks

By Robert B. Reich

(コメント) アメリカの金融と財政をめぐる議論です.

「アメリカ経済は好調だ.その他の世界も好調なら,安価な融資に心配することも無い.何か弱点があっても,アメリカへの輸出で回復する.しかし,世界の多くが不安と戦っている.もしアメリカ経済に何かが起これば,それは世界に広まるだろう.何もかもが結びついている.ヘッジファンドはモーゲージを持ち,ジャンク債を持ち,新興市場債券を持つ.一つの市場で損をすれば,それが他の市場にも損をもたらす.もちろん,それは当然だ.しかし,普通の事が起きても,何かもっと深刻な事態を招くとしたら? 安価な融資は賞賛されるときもあるが,呪詛に変わる.」


“Introducing Deep Throat,” NYT June 1, 2005

“Deep Throat Speaks,” WP Wednesday, June 1, 2005

Richard Cohen, “A Brave Friend,” WP Wednesday, June 1, 2005

“Deep Thoughts” LAT June 2, 2005

BOB HERBERT, “Truth and Deceit,” NYT June 2, 2005

Bob Woodward, “How Mark Felt Became 'Deep Throat',” WP Wednesday, June 2, 2005

“Deep Throat speaks,” BG June 2, 2005

Joan Vennochi, Marketing Deep Throat,” BG June 2, 2005

(コメント) ウォーター・ゲート事件がワシントン・ポストでスクープされ,ニクソン大統領が告発されて辞任するまでには,「ディープ・スロート」という,かなり異常な名前をつけられた内通者がいたわけです.

ショークロスの『キッシンジャーの犯罪』や,秘密情報によるFBIの支配に関する『フーバー長官のファイル』,などが読んでみたいです.

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The Economist, May 21st 2005

Time to let go

Revaluing China’s currency: What’s it worth?

(コメント) 1995年以来,1ドル=8.28人民元で固定されてきた中国の為替レートを切上げる日が近づいています.その日を予想して,市場では盛んに投機的な資本流入が続いています.

The Economistは,この問題に関して特別な議論をしていません.インフレやバブルが起きているから金融政策を独自に決めるべきであり,変動レートにすればよい,と指摘しつつ,資本規制や為替レートの水準を適切に維持できないという不安を認めて,管理された変動レートにより,徐々に増価を容認するようになる,と考えていると思います.最初の切上げ幅やバスケット・ペッグ,管理の仕方について,いくつもの選択肢があることを考慮しておく必要を指摘します.むしろ,ワシントンの稚拙な政治論争を危険な性向として注意しています.

小幅な切り上げと漸進主義的な管理変動レートでは,アメリカの対外赤字が顕著に減ることは望めず,債券市場にどのような影響が及ぶかは予想できません.しかし,中国政府もアメリカの金利急騰など望んでおらず,債券の購入を続けるだろう,と予想します.・・・まるで日銀と財務省(あるいは郵政民営化)のようです.


The Khodorkovsky case: The tycoon and the president

Charlemagne: Putting the clog in

Open wider: A survey of international banking

(コメント) ロシアの大富豪をめぐって見えるプーチン体制の性質に関して.EU統合の模範国オランダがEU憲法を否決したことの意味に関して.その特殊さゆえに政府によって厳しく規制され,また保護されてきた銀行業の,技術革新・消費者重視と競争・自由化に関して.