IPEの果樹園2005

今週のReview

5/30-6/4

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 Krugman: アメリカの赤字と人民元による調整.1. 2.

2 経済通貨統合: アジア,1. 2. 3. ヨーロッパ,1. 2. 北米,・・・

3 CAFTA: 中米自由貿易圏をめぐる論争と希望.FTAか? それとEUか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


Asia Times Online, May 19, 2005

'We are a banana republic'

By Pepe Escobar

(コメント) Asia Times Onlineがタイのバンコクで行われたKrugmanの講演内容を伝えています.250ドルのディナー・パーティー? 経済・政治に関する世界的賢者として,まさにミック・ジャガー並みの地位を得たKrugmanが示す中国やアメリカについての刺激的な洞察を紹介します.

まず,2020年から2040年の間に,私たちは間違いなく中国が世界経済の最大部分を占める時代に入ります.ネオコンは信じないとしても世界は多極化し,中国とともに,アメリカ,EU,インドが支配的地位を得るでしょう.日本やロシアではありません.ただし,中国には深刻な環境問題,特に水問題が起きるでしょう.・・・黄河もついに枯れ果て,太平洋まで届かなくなる?

タクシン経済学を信奉するかどうかは別にして,Krugmanにとってアメリカのもたらした世界的不均衡が重要です.イラク戦争は失敗に終わり,ドル暴落の可能性やアメリカ産業の競争力失墜に不安を強めています.では彼が政府に助言できることは何か? ・・・財政赤字を減らせ,です.アメリカは増税して財政黒字にできるはずだ.政府は,GDPの17%ではなく,28%の税収を得ても良いだろう.それを避けて社会保障や公共投資を削り,企業や富裕層に減税し続ける政府の姿を,Krugmanは「アメリカはもはやバナナ共和国だ」と憤慨します.

他方,ドル暴落や石油危機については,ジャーナリズムが騒ぐほど重視していません.アメリカの地位は既に低下し,今後も後退し続けるでしょう.それが,ヨーロッパ諸国やロシアの石油大富豪,マフィアなどの仕組んだ陰謀によって起きた,とは考えません.むしろ,日本をはじめ,アジア諸国が外貨準備をドルから分散させることを重視します.そして,ドルはもっと安くなるべきなのです.

人民元が大きく切上げて世界経済の多くの問題が解決される,などとKrugmanは思いません.むしろ人民元の予測は不可能であり,確実に言えるとしたら,中国が為替レートを調整するより,アメリカの住宅バブルが破綻するときにドルが暴落するだろう,ということです.

パスカル・ラミーがWTOの議長となって貿易自由化交渉を成功させ,グローバリゼーションが救われることを期待します.実際,グローバリゼーションで世界がアメリカ化されると恐れていた人々も,今では,アメリカに多くの美味しいタイ・レストランがあることを発見したわけです.


May 20 (Bloomberg)

Maybe Euro Zone Isn't a Role Model for Asia

William Pesek Jr.

(コメント) アジアがヨーロッパのような通貨統合を実現することに,ドイツ銀行の主任エコノミストは反対します.この発言に,アジア開発銀行(ADB)の新しい総裁となった黒田東彦氏が,イスタンブールの会合で不満を感じただろう,と.

果たして日本は,アジア通貨統合を目指すべきなのでしょうか? 移民による融合が社会的・文化的な統合を意味するように,通貨統合は経済運営や安全保障など,要するに政治統合を意味すると思います.

William Pesek Jr.は,アジアの政治家やビジネスマンに,ヨーロッパへの幻想が支配的だ,と考えます.アジアにもあれが欲しい.アジアの統一通貨と中央銀行,単一市場,貿易と移民における国境の廃止.・・・ しかし,ヨーロッパでは新憲法に対する国民投票で反対派が優勢であり,イタリアは不況を繰り返し,ECBはヨーロッパを停滞させている,と論争されています.

何よりも,アジアには第二次世界大戦後のヨーロッパのような政治的合意や共通認識がなく,逆に,覇権をめぐる争いが強まる方向にあります.アジアにはNATOもOECDもありません.ASEANの中には,民主主義の国もあれば,共産主義の国もあり,専制支配や軍事独裁者の国もあります.彼らが集まって,微妙な経済政策や通貨介入を話し合い,合意を守ると互いを信用できるでしょうか?

ヨーロッパはアメリカほど労働者が移動しないと心配されていました.実際,ユーロはイタリアに不況をもたらしても,イタリアの失業者が大規模に移民して,アイルランドの好況により救われる見込みなどありません.そしてフランスが27日の国民投票で新憲法を拒否すれば,にわかにユーロ不安が起きるでしょう.それは金利を高め,失業をさらに増やして,政治的な支持を失わせる,という悪循環に向かうかもしれません.アジアで同じような事態が起きれば,どうなるでしょうか?

たとえEUやユーロが歴史のくずカゴに捨てられなくても,同じことがアジアで起きたら,楽しい幻想など吹き飛ぶでしょう.


FT May 20 2005

Why renminbi is symbolic battleground

By Richard McGregor

Asia Times Online, May 21, 2005

Part 5: China wary of foreign 'speculators'

NYT May 21, 2005

The Yuan Diversion

FT May 22 2005

Lessons from the yen-dollar talks

By Matthew Goodman and Robert Fauver

NYT May 22, 2005

Mr. Chairman, You Can't Control China. So Just Relax

By BEN STEIN

May 23 (Bloomberg)

Yuan Hype Raises Asian Hot Money Conundrum

William Pesek Jr.

IHT MONDAY, MAY 23, 2005

A dangerous mix of politics and trade

Philip Bowring

(コメント) Richard McGregorは,繊維製品の輸出に課税した中国政府の対応を,欧米の要求に迅速に応えたものだ,と考えます.中国政府は基本的に自主的な判断として要求を柔軟に受け入れてきました.しかし,人民元切上げは問題が異なるだろう,と.

アメリカ政府は自国の繊維産業を守るために,政治的な保護を求めました.同様の論理で,今度は対中貿易赤字や為替レートの調整を求めます.しかし,その根拠は乏しく,小さな調整では効果が期待できません.むしろ,中国政府に服従を強いるような政治的要求を強めた結果,問題を解決不能にしてしまいました.

Asia Times Onlineの記事は,中国のマンション購入に向けた資本流入や融資が増えていることに,漸く,通貨当局が強い関心を示し始めたと伝えています.

NYTも,アメリカ政府が人民元を非難するよりも,これまで進めてきたグローバリゼーションが国内の失業をもたらすことについて,十分対策を採ってこなかったと指摘し,また,巨額の減税などで財政赤字を増やしてきた自国の責任を無視するものだ,と考えます.中国政府を名指しで非難するより,協調的な解決策を正直に話し合うほうが良い,と.

Matthew Goodman and Robert Fauverは,1983年,レーガン政権期の対日貿易不均衡と交渉の教訓を振り返っています.中国政府に切上げを求めることは問題を解決しない.むしろ80年代に財務省がやった「日米円・ドル委員会」の設置を真似るべきだ,と.金融市場の自由化,円の国際化,を日本政府自身が目標として掲げ,アメリカはその結果として,円高・ドル安が実現することを支持したのです.

BEN STEINがグリーンスパン議長宛の手紙として述べていることは,ユーロ圏が悩んでいるのと同じ,米中「通貨同盟」における金融政策の問題です.中国の景気が過熱して,インフレやバブルが心配なことを理由に,アメリカの中小企業が倒産するような金利引き上げを選択するのか? 中国が世界中の資源や石油を買い漁って,世界需要が増大したことを理由に,アメリカは自国の景気を抑制しなければならないのか? 中国は中国.アメリカの金融政策決定について配慮する問題ではないはずだ.どうせ彼らの経済を思い通りに動かせることはないし,アメリカのために彼らが政策変更などしないのだから,と.(・・・そう,ある程度は.)

William Pesek Jr.は,1996年のアジア通貨危機前と同じように,投機的な資本が充満している,と警告します.問題は,この投機を叩き潰せば,アジア市場も壊滅する恐れがあることです.しかし,中国の切上げに絡む投機について,他国ができることは何もありません.まず香港とマレーシアの固定レートが狙われるでしょう.しかし,中国が切上げるにせよ,何もしないにせよ,投機的資本流入は逆転します.そして,もっと市場を自由化して,資本市場を育成しておけばよかった.輸出に頼らず,国内の企業育成や投資によって成長を維持しておけばよかった.・・・と後悔するわけです.

アメリカと中国の不満や対立は,WTOやIMFによって解決されそうにありません.そして,こうした多角主義の軽視は,非常に大きなコストをもたらすでしょう.もっと各国は自国の政策をオープンに議論し合い,他国への影響にも十分に配慮する仕組みを工夫しなければなりません.

FT May 23 2005

Guy de Jonquieres: A slow boat to modern finance

By Guy de Jonquieres

May 25 (Bloomberg)

Bush Wants China to Revalue? Replace Snow

William Pesek Jr.

Asia Times Online, May 25, 2005

Yuan revaluation: The view from Oz

May 25 (Bloomberg)

Stronger Yuan Won't Mend U.S. Apparel Industry

Caroline Baum

The Standard Newspaper, May 26, 2005

HKMA in surprise bid to drive down dollar

Lee Yuk-kei

NYT May 26, 2005

U.S. Shifts Strategy on China Currency, From Float to Revaluation

By EDMUND L. ANDREWS

(コメント) Guy de Jonquieresは,中国政府が行政的な介入で投資を抑制し,国内景気を抑えたことを批判します.なぜなら,それは対外不均衡や金融不安を高めるからです.繊維や衣服,おもちゃだけでなく,今や,国内で過剰となった鉄鋼なども輸出します.根本問題を解決しなければなりません.すなわち,非効率な過剰投資を続ける国内金融システムを改革し,社会保障を整備して家計を貯蓄の負担から解放することです.

ブッシュ政権とスノー財務長官は,アジアに対して明確な方針を示してきませんでした.彼らの主張はご都合主義やこじつけであり,まじめに受け取られていません.もし中国に切上げをさせたいなら,スノー財務長官を更迭するべきだ,と.

中国の人民元が安すぎる,と非難するのは,それがオーストラリアやその他の諸国でインフレを抑制し,また,消費者の利益になっていることを忘れていないか? もし為替レートや金利がアメリカやオーストラリアのように変化すれば,中国の銀行や企業は大量に倒産するのではないか?

香港通貨庁は,香港ドルに変動幅を設けて,早くも介入しました.それは金利を下げています.香港にも中央銀行が誕生するわけでしょうか?

Morris Goldsteinは,財務省が中国に変動レートを求めるより,大幅な切上げを求めるように主張しています.それは中国政府が銀行システムの混乱を嫌って,特に,変動レートを避けたいと思っているからであり,アメリカ政府には圧力をかける手段が無いからです.たとえ変動レートになっても,大幅な介入を止めないでしょう.


Asia Times Online, May 21, 2005

Revaluation: A dangerous distraction?

By Sheetal K Chand

中国への切上げ要求は理解できるが,はたして適切なものか? むしろドルに依存した国際通貨システムの根本問題,アメリカ自身が調整したがらないこと,を隠蔽しているだけではないか? 為替レートを変動させて,市場に決定させる? たとえば,ユーロにもそう言えるだろうか?

為替レートは単なる商品と違って,将来の価格を予想して変動する.それは資産価格の性格が強い.その結果,生産や貿易に適当な水準と,資産を保有する視点とが,しばしば衝突する.固定為替レートでは,この矛盾が見えにくいが,変動レートでは資産価格に支配される(貿易部門の悲鳴となって,良く分かる).主要通貨の為替レートが変化することを,生産性やコストの変化では説明できない.

新興経済は,発達した工業経済と異なって,こうした為替レートの大きな変動に耐えられない.発達した市場では為替リスクをヘッジし,企業も異なった通貨建の債務や生産拠点を持って変動のショックを緩和する.経済発展にとって安定した為替レートが重要である.しかし,不動的な資本移動が規制されない世界で,どうすればそれを得ることができるか?

人民元を変動させなくても,切上げれば良いのか? 過度の競争力を持った中国の元が切上げられれば,他国の圧力は緩和されるか? その答は,実効為替レートの調整が,どの程度,貿易パターンを変えるか,に依存する.たとえば,円の実効為替レートが引き上げられ続けたにもかかわらず,日本の貿易黒字は続いている.

為替レートによって生産や消費が調整される,という教科書の説明は現実に当てはまらない.市場は分割されており,価格は各市場の状態に合わせて決められる.貿易額の多くを占める多国籍企業はしばしば戦略的に行動する.元切上げで工場を中国からアメリカへ移すとは思えない.要するに,アメリカやヨーロッパで中国製品と競争している生産者が利益を増やす,というだけだ.そして損失を被るのは消費者である.

アメリカに対しては貿易黒字を増やした中国も,その他の国に対しては赤字を増やしている.だから,アメリカが二国間の不均衡で中国を責めるのは意味がない.中国の外貨準備は増えているが,その多くは(切上げを期待した)資本流入と直接投資である.純粋に重商主義的な理由で為替市場に介入している部分は小さい.要するに,元は過小評価されているのか?

たとえ中国が海中に没したとしても,アメリカの赤字は減らず,単に他の諸国から輸入するだけだろう.問題の根源は中国の消費不足ではなく,アメリカの消費過剰である.アメリカの家計の貯蓄率はGDPの1%にも及ばず,彼らも固定投資することを考えれば,実質的に貯蓄不足である.これに財政赤字が追加される.その結果が経常収支赤字なのだ.唯一まともな政策は家計の貯蓄を促し,財政赤字を大幅に削ることだ.

グリーンスパン議長も人民元の変動レートを求めるが,アメリカ自身に国内の不均衡を解消する必要があることは良く知っている.彼はその責任を政府に求めるが,連銀の低金利にも重大な責任がある.それは歴史的に低い水準にあり,税金やインフレを考慮すれば実質でマイナスになる.これが借入れを増やし,貯蓄を妨げている.

大幅に低い金利で将来の収益を割り引けば,資産価格は急激な上昇に潤う.その顕著な受益者は株式取引や土地取引であり,住宅価格は5年で倍になった.投資も住宅建設に偏ってしまう.従来は固定的な住宅資産が流動化され,さらに貯蓄を遅らせる.老後のための貯蓄もしていない.実質金利を明確にプラスにすることでシグナルとするべきだが,それは行われてこなかった.グリーンスパンは,急激な変化を避けて,少しずつ金利を引き上げようとしている.一層の調整が必要であるが,それは苦痛を伴う.それゆえできる限り調整負担を他国に転嫁しようとするのだ.

アメリカの当局者は,大幅な赤字はアメリカの成長率が高いからだ,と主張する.もし他の世界がより高い成長を実現し,同時に,為替レートをドルに対して増価させるなら,問題は解消する,と.アメリカの輸出が伸びて,輸入は減るから利潤も増える.それゆえ金利の上昇も問題ない.財政赤字削減も進むだろう.

しかし,それは無いものねだりだ.EUの通貨が増価すれば,財政刺激策を制約されているから,景気は悪化する.中国は既に急速に成長し,輸入を増やしている.人民元切上げは成長を損ない,輸入を減らす恐れがある.それでも,ドルに対して他通貨の価値を引き上げることには,アメリカが苦しい国内調整を回避できるという利点がある.国内の好況は何のコストもなしにドルを追加供給することで引き伸ばせる.世界がドルを持ち続け,最後にドルが減価すれば,そのコストは切り捨ててしまえるのだ.ドル資産を蓄える中国などを犠牲にして,アメリカはフリー・ランチを食べ続ける.

その利益を確保するために,議会は中国からの輸入品に課税すると脅して,人民元切上げを要求しようとした.輸入は行われるだろうが,中国は利益や収入を失う.中国はそれに対して,予防的に,輸出品に課税した.もっと良い解決策は,中国の生産力が急速に増えるのに応じて,それに伴う環境問題や外部性を内部化し,企業に負担させることだ.企業は輸出価格を引き上げ,同時に,国内の収入を確保し,人民元を自由化することで生じる資本損失を避けるだろう.

中国がIMF協定の何に違反して,その輸出にどのような罰則的関税が科されるか,疑問が残る.中国の固定レートはIMFに何も背いていない.操作されているのは,世界に黒字を継続している現在のドルに依拠した国際通貨「ノン・システム」である.もはや根幹を改革するべきときだ.


NYT May 20, 2005

The Chinese Connection

By PAUL KRUGMAN

(コメント) アメリカは中国と相互に依存し,今の好景気を享受しているのに,どうして制裁的な関税で脅してまで切上げを迫るのか? もちろん,アメリカの政治家が,現実を理解せずに,自分たちの目的を達成しようとしているだけです.そして,その結果は一層事態を悪化させ,経済・金融危機の引き金にも触れるでしょう.

アメリカは国内のバブルや財政赤字を放置していることを問題にせず,中国を標的にして関心を逸らせます.金融市場が正常に働けば,黒字を累積する中国に流入した資本が国内景気を刺激し,また通貨価値を高めるでしょう.中国では輸入が増え,輸出は減って,資本流入に見合った経常赤字を出すはずです.しかし,中国政府はインフレの危険を無視したまま外貨準備としてアメリカに投資し,アメリカ政府の赤字や消費の膨張を助けています.両国は互いを無視したまま不均衡を累積し,その責任や調整コストは相手に押し付けたいのです.

The Guardian, Friday May 20, 2005

East is east - get used to it

Martin Jacques

JT Sunday, May 22, 2005

Betting on World War III

By DAVID WALL

JT Monday, May 23, 2005

Don't rely solely on America

By ROBYN LIM

(コメント) Martin Jacquesは,日本が間違いなく発達した資本主義世界の一部でありながら,欧米社会との差異を決して解消することは無かった,と指摘します.同様に,アジアの資本主義モデルも多様であり続け,貿易摩擦やグローバリゼーションの将来がアメリカや従来の資本主義によって要求されるような姿にはならないだろう,と考えます.

JTは,当然,多くの論説を日本と中国の対抗関係に割いています.David Wallは米中間の戦争が避けられないとしたら,そして,ネオコンはそう信じていますが,アメリカは何を準備するだろうか? と考えます.一つは,中国に対する技術的な優位を維持し,常に,技術的に中国を従属させておくこと.もう一つは,中国の周辺に軍事的な包囲網を築くこと.中央アジアに軍事基地を確保し,日本を「普通の国」にする.

しかし,中国に勝利する可能性は無い,ということも知っています.イラクでさえ占拠できないのに,中国を海上封鎖しても,地上軍を送っても,核攻撃しても,勝てません.逆に,北朝鮮でさえアメリカに深刻な報復を行う方法があると言うのに,中国による致命的な報復を防ぐこともできません.

アメリカが日本の防衛を負担する約束だけで,日本は何もしなくて良い,と考えるのは無理です.ニクソン・ショックを思い出すべきだ,とROBYN LIMは指摘します.それはドルの金交換停止ではなく,ニクソンの中国訪問・国交回復です.日本がアジア通貨基金の要求をアメリカの意向に反して行ったとき,あるいは,日本が沖縄の米軍基地を移設する交渉を長引かせたとき,アメリカ軍は日本の防衛を喜んでいたはずなどないのです.アメリカは世界国家であり,東アジアの安定や日本をその一部としてしか見ていません.

Asia Times Online, May 24, 2005

The price of Asian conflict

By Chietigj Bajpaee

Asia Times Online, May 24, 2005

Aftershocks in Southeast Asia

By Eric Teo Chu Cheow

FT May 24 2005

Asia needs a trilateral dialogue

By Kurt Campbell

FT May 24 2005

Report on China warns of emerging rival

By Demetri Sevastopulo in Washington

NYT May 24, 2005

Death by a Thousand Blogs

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) Chietigj BajpaeeやCheowの論説には,この地域の問題が満載だ.経済的な相互依存や文化的な交流は増えているが,領土やナショナリズム,大衆デモ,安全保障の衝突は相互に刺激し合って過熱しています.日中韓の対立に,東南アジアやアメリカがどのように関与するのか? この地域には,交渉や和解を制度化する恒常的な作業が欠けています.大日本帝国が残した「大東亜共栄圏」の幻想や怨嗟が現実の対立を強化し,あるいは緩和し,日本に明確な説明を求めます.

Kurt Campbellは,中国が国際的な影響力を強めるのは間違いない,と考えます.問題は,それにアメリカや日本がどう関係するか,です.開放型の経済発展をともに持続し,平和と繁栄を得たいのであれば,日本はアメリカや中国と二国間で話し合うだけでなく,三国委員会を常設するべきかもしれません.そして情報を交換し,互いの政策目的を理解して,それらが矛盾しないように,対立をできるだけ回避し,円滑に調整できるように,積極的な関与を継続する保証とするべきでしょう.

他方,Demetri Sevastopuloは,アメリカ国防総省が中国の軍備拡大に警戒を強めていることを指摘します.

国民党を本土から追い落とし,アメリカ軍を朝鮮半島で押し返し,天安門では民主化運動を撃破した中国も,いよいよ最強の宿敵に面している.それはインターネットだ,とNICHOLAS D. KRISTOFは書きます.薬の販売で資産を得て,インターネット上に世論調査のホーム・ページを開設したLi Xindeを取り上げます.それはまさに,体当たりの調査報道です.ラップ・トップ・コンピューターと,ビデオ・カメラを持って,地方政府の悪行や若い農婦を虐待した官吏,ビジネスマンの謎の死,などを暴き,つかまる前にインターネットに公表して,自分も脱出してしまう,というわけです.

政府によるイデオロギー統制が再強化されても,インターネットを手にした国民はいたるところでゲリラ取材し,逆に,政府を監視し,チャットで世論を転換できる,と.

Asia Times Online, May 25, 2005

China turns its back on Japan

By J Sean Curtin

The Guardian, Wednesday May 25, 2005

The lure of Beijing

Charles Grant in Beijing

FT May 26 2005

Political perils

(コメント) アメリカは人民元切上げを要求しますが,同様に? 中国は靖国参拝の中止を要求しています.日本の要求は,安保理常任理事国入りと憲法改正(再軍備)でしょうか? 今年の政治家による靖国参拝は深刻な日中対立となり,結局,郵政民営化よりも小泉政権の寿命(あるいは英米人が政治的資本と呼ぶもの)を使い果たすでしょう.

新しい黄金卿(エル・ドラド)のように中国市場を欲しがったEU諸国の武器禁輸解除を批判して,アジアにおけるEUの戦略的な利益を明確にするべきだ,とCharles Grantは主張します.たとえ禁輸措置を続けても,中国はアメリカに対抗するためEUとの同盟を模索し,ドルに対抗してユーロを活用したい,と考えているはずです.

アジアで最も重要な経済関係を損なう政治対立が進行し続けています.FTは,日中両国の繁栄が依拠している経済活動を忘れず,政治家たちが大人の対応を試みるように促します.中国政府が人民元切上げを拒むのと同様に,小泉首相は靖国参拝を止めたりしないでしょう.それでも,両国がアジアの経済を安定的に維持する必要は変わりません.


LAT May 20, 2005

The American Dream ... in Mexico

By Steven Hill

カリフォルニアのシュワルツネッガー知事はアメリカ・メキシコ国境を防衛する自警団を称え,1990年代の移民戦争という亡霊をよみがえらせた.政治的なデマはあふれている.しかし,自動車のバンパーに貼ったステッカーは,国境の複雑な現実を無視している.

2050年までに,国勢調査によれば,ラテン系とアジア系のアメリカ人が3倍に増え,白人は国民の半数になる.アメリカはますますカリフォルニアのようになり,カリフォルニアはメキシコに近づく.多くの人はそれを警鐘とみなす.しかし大きな経済格差は,合法であれ,非合法であれ,貧しいメキシコ人を北へ向かわせる.どうせ彼らを締め出すことなどできないのであれば,いっそ国境を開放してはどうか?

国境を封鎖するか,開放する以外に,第三の道がある.二つの経済を徐々に統合することだ.それは既に始まっているが,労働組合と右派の反対で,NAFTAの制度は削られた.むしろEUを見るべきだ.2004年5月に,15カ国が新たに10カ国を加え,世界の主要貿易ブロックとなった.

ヨーロッパは15カ国から新加盟諸国に職場や雇用が移るのを予想していた.そこで新興経済において豊かな中産階級を広め,貧しい労働者の大量流出を防ごうとした.大規模な補助金を与えて学校,道路,通信設備,住宅を建設し,新加盟諸国のビジネスを促した.先進地域を引き下げるのではなく,新興地域を引き上げることを目指したのだ.それは費用がかかるけれど,すべての船を浮かべる上げ潮である.そして新加盟諸国は,EUの求める環境,労働法,健康,安全基準に合意した.つまり,単なるマキラドーラにはしなかった.

もしアメリカ・メキシコ国境もEUを目指すならば,何が起きるか? 巨額の補助金がアメリカからメキシコに流れ,テキサス・メキシコ間マーシャル援助となる.経済格差はメキシコ川を豊かにすることで縮小し,投資が増える.メキシコには雇用が増え,中産階級が増え,住宅や学校,道路,医療が改善される.アメリカに移民するメキシコ人は減り,むしろ自国にとどまってアメリカ製品を消費するだろう.

もっと興味深い可能性として,アメリカ人がメキシコ側に移住するだろう.都市の生活費は高騰し続けており,多くのアメリカ人が,暖かくてヤシの木が茂る,生活費の安い南部に関心を持っている.それはメキシコの安全弁となり,アメリカの労働者が職場や住宅を求め,ビジネスを起こすため南に向かうだろう.言い換えれば,彼らはメキシコでアメリカン・ドリームを実現するのだ.

EUは単なる経済統合ではなく,大陸規模の政治組織である.アメリカ・メキシコ間の経済統合も政治構造を必要とする.たとえば,アメリカ・メキシコ議会だ.もちろん,アメリカの政治家たちは統合など議論しない.彼らは現実を無視し,ステッカーを配る.しかし,現実は変わる.


FT May 21 2005

Time for the people to speak

IHT THURSDAY, MAY 26, 2005

A dangerous game in France

Daniel Cohn-Bendit

(コメント) フランスとオランダが国民投票で,EUの新しい憲法(私は憲章と思いますが)を否決する可能性があります.その結果として,政権が交代し,金融市場が混乱し,EUの拡大や移民問題は行き詰まるでしょう.

フランス人は景気の低迷と失業によって,市場改革を強いるEUに失望しています.他方,革新的なEU連邦支持者であったオランダ国民は,イスラム教徒の大規模流入を恐れ,トルコの加盟に反対しています.

FTは,新憲法を支持する理由がこうした不安に直接答えることなく,そのメリットを繰り返すことに問題を感じています.新憲法は大国と小国,アングロ・サクソン方市場改革とヨーロッパの産業・社会政策,旧加盟国と新加盟国との,さまざまな妥協を合意したものです.それが,少なくとも,問題を解決する前提となるから支持するべきだ,と.

Daniel Cohn-Benditは,フランスの「ポストモダンなナポレオン思想」を批判します.フランス人はEUを自分たちの防壁,自分たちの社会モデルの拡張・縄張り,と考えています.しかし,1960年代にド・ゴール派と左派が共闘した図式は,グローバリゼーションに代わる社会モデルを持っていません.反グローバル化であれば何でも支持しています.そのこと自体がヨーロッパの不況を長引かせるとも知らず.


BG May 22, 2005

Avoiding a nuclear North Korea

By Anne Wu

NYT May 26, 2005

Day After Nuclear Deal, Iran Is Cleared to Start W.T.O. Process

By ELAINE SCIOLINO

(コメント) Anne Wuは,アメリカ政府が先に行動を起こすべきだ,と考えます.アメリカ政府が北朝鮮を激しく非難し,直接交渉を拒む限り,交渉は進みません.もし中国やアメリカ,安保理などが制裁を科せば,北朝鮮は完全な孤立により敗北を認めるより,失うものが無いと考えて核実験の最後の段階を超えるでしょう.アメリカ政府は北朝鮮の面子を立て,地域の安定化と経済援助を行う決定的な力を保持しています.

他方,イランに対しては,アメリカが積極的に核開発を放棄すればWTO加盟交渉を始める,と約束しています.


LAT May 22, 2005

A Teen's Cultural Revolution

By Xiaoye Wu

LAT May 22, 2005

In Beijing, All Roads Lead to Gridlock

By Sam Crane

(コメント) Xiaoye Wuは,経済的な自由がありながら,政治的・文化的自由の無い中国社会を紹介します.それは,物質的な快楽を各自が追求することに関心を集中し,社会を金銭欲が支配するような,一種の(逆立ちした)文化大革命となって現れます.なぜなら,政治的な発言や代表の選択機会を持たない彼らは,自分の物質的な満足と社会の制度や政治システムとを結びつける動機が無いからです.その結果,たとえば幼い少女を使役し,明らかな違法行為や殺人を犯しても,利益を追求します.

指摘利益が公共の秩序や利益と矛盾することはどの資本主義国にもあるが,少なくともそれらを意識的に調和させるよう求めます.新中国の,特に若い世代にはそれが欠けている,とWuは懸念します.中国の伝統的な社会的規範や価値観を継承してきたエリートや教育システム,病院でさえ利益追求に向かい,儒教や道教を破棄してしまったことにもあるでしょう.

その変貌ぶりをSam Craneは,都市における自動車の洪水や渋滞として伝えています.


FT May 24 2005

Martin Wolf: Italy's predicament exposes eurozone

By Martin Wolf

The Guardian, Tuesday May 24, 2005

Germany and France are struggling with a new world

Martin Kettle

FT May 26 2005

Philip Stephens: We must be careful about nostalgia

By Philip Stephens

(コメント) ユーロ圏の解体や離脱は起こりうる,とMartin Wolfは書きます.もちろん,イタリアのことです.インフレも金利も低くなって,為替レートへの不安も無く,イタリア政府は財政赤字に対する規律を無視しています.苦しい経済改革によって成長をもたらすより,財政赤字で一時的に景気や雇用を浮揚させる政治家たちが,アルゼンチン型の債務累積と破綻か,あるいは財政規律の強制を嫌って,ユーロ圏を離脱する(と脅す)かもしれません.

世界経済がアメリカと中国との関係に重心を移動させている時期に,その構造変化を国内経済の調整に結びつけたのは,ユーロ圏に守られたドイツやフランスではなく,むしろイギリスであった,とMartin Kettleは主張します.ドイツ再統一やベルリンの壁だけでなく,特に中国やインドも含めて,(親)社会主義圏が急速に障壁を崩して世界市場に参入したことで,それまでの西側の特権や社会福祉国家の合意は維持できなくなった,と.

Philip Stephensは,EUを時代遅れにしてしまう要因,すなわちグローバリゼーション,アメリカ,中国,不確実さ,などを考察しています.EU再生をノスタルジアに依存してはいけない,と.


JT Tuesday, May 24, 2005

Power politics ensnare reform

By BRAHMA CHELLANEY

(コメント) 国連安保理の改革は合意してほしいし,できると思います.インドの研究者は,その必要と正当性を訴えます.

1945年以来,大きく変化した国際情勢を反映しなければ,国連は現実との関係を失った無意味な機関になってしまいます.ブラジル,ドイツ,インド,日本が団結して常任理事国となるのは,国連に現実のバランスを回復させる重要な過程です.

しかし,既得権を持った常任理事国は国際政治のバランスを時刻に有利に維持したいと考えます.アジアの支配的地位を独占したい中国は日本やインドを加えることに強く反対し,アメリカは逆に日本を加えることにしか賛成しません.それぞれの国が近隣に強く反対する国を持っています.4カ国が分断されれば,改革は実現しないでしょう.

もし改革が拒まれたら? 国連の性格は変わり,その交渉や介入に対する信頼感は失われるでしょう.そして,改革を主張した日本,ドイツ,インド,ブラジルは,常任理事国に対抗する委員会を設置し,常任理事国の決定や行動を批判的に監視する,あるいは国連総会を機能するように組織する,安保理に関わる財政負担を拒む,など,国連内部の変化が促されるのではないか,と思います.


WP Tuesday, May 24, 2005

CAFTA Is a Win-Win

By Robert B. Zoellick

The American Prospect 05.25.05

Minimum Commitments

By Robert B. Reich

(コメント) CAFTAを支持するように求めた国務次官(そして前通商代表部代表)のRobert B. Zoellickは,それがアメリカの進めてきた貧しい中米諸国における民主主義と社会・経済再建の一環である,と訴えます.

労働者は,アメリカと同じ賃金を支払え,と要求します.他方,自由貿易論者は政府が引っ込んで,貧しい地域とアメリカが分業すればよい,と主張します.企業家は,同じ賃金を支払うことなどできないし,それは形を変えた保護主義だ,と批判します.

クリントン政権に参加したRobert B. Reichは,一つの提案をします.CAFTAに賃金に関する合意を入れてはどうか? 各国は,賃金の中央値(メディアン)を基準として,その半分を最低賃金として保障すること.それゆえ,格好の賃金格差はなくならず,しかし,国内の所得格差を減らして,中間層の増大に役立つでしょう.それは結果的に,国内市場や民主主義,労働組合などを育成する条件となります.

ちなみに,アメリカもこの原則を大いに損なっているので,低賃金労働者に対する緊急支援策が必要になります!


FT May 25 2005

Central Asian turmoil could ignite 'another Balkans war'

By Isabel Gorst and Neil Buckley

Asia Times Online, May 26, 2005

Pipelineistan's biggest game begins

By Pepe Escobar

Asia Times Online, May 27, 2005

Remaking Central Asia

By Ramtanu Maitra

(コメント)国家主権,環境保護,労働規制,世界銀行,2700メートルの高度差,1500もの河川を超えて,10年の歳月と40億ドルの費用を費やす,The Baku-Tbilisi-Ceyhan pipeline (BTC)の建設計画が合意されました.中央アジアをめぐる,新しいバルカン,世界の火薬庫,資源争奪,新しいグレート・ゲーム,に関する記事です.それを「パイプライニスタン(パイプラインによって建国した土地)」と呼んでいます.・・・「BTCは単なるパイプラインではない.それは主権国家だ.」

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The Economist, May 14th 2005

Return of the axis of evil

Latin America and the United States: Venezuela’s oil rich troublemaker

Hugo Chavez’s Venezuela: Oil, missions and a chat show

(コメント) イランの核開発にも,北朝鮮と同じように,決定的な強制力が欠けています.軍事攻撃は選択できません.そしてアメリカだけでなく,ロシアや中国,EU,日本などが統一して圧力を加えれば,しかも,核開発に代わる安全保障と経済開発への支援が保障されれば,イランは合意するかもしれません.それは難しい条件です.

ヴェネズエラのチャベスは,次第に石油とカストロを結びつけ,労働組合と共同組合とを中心とした新しい社会モデルを唱えるようになりました.The Economistは,それを石油に依存したポピュリズムでしかない,と批判します.チャベスに関わる必要は無く,カストロは高齢で,ポピュリズムの崩壊も繰り返された先例に従う.結局,貧者の救済(というメッセージ)によって権力を得た民主主義の独裁者は,石油の富を権力維持と夢想に消尽し,国民を貧しくするだけだ,と考えます.


Central American integration: Together again, after all these years?

(コメント) たとえCAFTAがアメリカ議会で承認されなくても,中央アメリカは独自にEU型の地域統合を進めることができる,と各国の政治家たちは意欲的です.

同じような試みは歴史的に何度か現れ,すべて失敗しました.しかし,今回は違う,と言います.地域統合の流れが下から起こっている,と.中米諸国は1990年代半ばに相次いで内戦を終結し,民主的な政府と民間企業を主体とした自由経済への合意が形成されました.中米全域に及ぶブランド商品も販売され,地域的な銀行業,スーパーマーケットも営まれています.

特に,観光業は国境を取り払い,コスタリカで成功したエコ・ツーリズムを拡大しようとしています.多くのインフラ投資が必要ですし,移民問題や麻薬・治安問題を解決するには協力が重要です.そして将来は,統一議会も,統一通貨も,統一の旗も作るつもりです.もちろん,今は懐疑派が根強いにしても.


Face value: China’s patient crusader

(コメント) かつて文革期に,15歳でゴビ砂漠に追放されたWeijian Shan氏が紹介されています.氏は12歳までしか学校に行けず,それでも流刑先で苦労して諸学全般と英語を習得し,ついに機会を得て北京へ,さらにアメリカへ渡ります.12年を過ごし,MBAを得て,世銀に勤め,ペンシルヴァニア大学ウォートン・スクールでも教え,中国経済に関するジャーナルを発刊して,J.P.モルガンの重役になりました.彼のおかげで,アメリカの民間投資機関Newbridge CapitalはShenzhen Development Bankの筆頭株主となり,中国の銀行業に参入できました.アジア地域の金融部門改革に,彼はその忍耐力と直接的な発言によって大きく貢献している,と.