IPEの果樹園2005

今週のReview

5/9-5/14

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 原子爆弾の罪: マンハッタン計画を指導した化学者とその孫娘の心情.

2 核拡散防止条約: 核保有国の特権を廃して,完全な核廃絶を求めるべきだ.

3 中国の台頭: 中国をアジアバランス・オブ・パワーによって吸収できるか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


NYT April 28, 2005

Economists Try to Explain Why Bubbles Happen

By ALAN B. KRUEGER

(コメント) もし市場が効率的で,投資家も合理的であれば,債券市場の価格は常に正しく経済の条件を反映しており,この均衡価格を外れるようなことが起きれば,直ちに裁定取引が生じて均衡を回復する,と主張されていました.後から見ればバブルであったものも,その当時は正しい水準であると信じられたわけです.

ITバブルが破綻して株主たちの資産を8兆ドルも吹き飛ばした結果,ようやく,経済学者たちは市場がバブルを生じることもある,という説明を考えています.たとえば,機関投資家などのプロ集団も,その価格が長期的な均衡値を越えていると知っていても,短期的にまだ上昇すると考えて買うことがあるわけです.そうしなければ収益が悪化するでしょう.しかも,素人の投資家が買い続けているのですから,彼らが本格的に売る前に,自分たちが売ることは可能だ,と考えるのは理解できます.それに誰だって,自分が売ることで,この美味しいバブルのパーティーをぶち壊したくないわけです.

もう一つ,よくある話ですが,経済学者たちは市場に対する規制を疑います.規制があるからバブルは膨張し,激しい暴落につながるのではないか? そこで,規制のなかった時代のバブル,チューリップの球根にとんでもない価格をつけた歴史的事例において,プロの投資銀行が実際に何をしたか研究しています.その場合でも,銀行はバブルに乗じて儲けることを選択しています.現代のヘッジ・ファンドはどうか? やはり彼らもバブルに深く関わっています.むしろ一般の投資家よりもITバブルにポートフォリオを大きく傾けていました.バブルを解消するよりも,それを増幅して利用する方が一般的なわけです.

バブルは社会に多大なコストと個人の悲劇をもたらしました.経済学者の対策とは,情報開示,です.もしプロの投資家やヘッジ・ファンドの投資行動に関して多くの情報が開示されていたら,バブルを利用する投資家は儲からなくなるはずだ? ・・・あるいは,もっと公的な介入資金を公益に従って運用させることでしょう.


FT April 29 2005

Rumours on revaluation of renminbi increase

By Richard McGregor in Beijing

NYT April 29, 2005

Hints of Revaluation Emerge as China's Currency Briefly Floats

By KEITH BRADSHER

NYT April 30, 2005

A Currency Afloat (for All of 20 Minutes)

By KEITH BRADSHER

FT April 29 2005

Asian currencies gain on Chinese whispers

By Steve Johnson in London

(コメント) いよいよ人民元は切上げられるのか? 中国の国内金融システムや為替市場の準備は既に終わった,という報道があり,外国為替市場で通貨当局が変動幅を超えるまで市場の需給を一時的に放置した,と言われています.瞬間的な変動制が実施された,と言えるのでしょうか?

しかし,中国の不良債権や貿易部門の企業の競争力がどの程度までの為替レート変動に耐えられるのか,政府が冒険を犯すようには思えません.アジア諸通貨は,当分,人民元への投機的な売買によって不安定化を強められることを心配しているはずです.


WP Friday, April 29, 2005

Bush the Egghead

By E. J. Dionne Jr.

(コメント) ブッシュはエッグヘッドだ・・・!? エッグヘッドとは,知識人を軽蔑する呼び方,あるいは,インテリぶる人のことです.1952年の民主党大統領候補Adlai Stevensonがその呼び名の最初でした.アメリカ人は,特に政治指導者には,高度な知識への賞賛と同時に,インテリを軽蔑する特有のスタイルがあるようです.たとえば,社会保障を民営化する,と,突然,宣言してしまいます.すると,それを正当化する知識人が集まってくるのです.あるいはイラクやテロを解決する,と宣言し,ネオコンを利用しました.

彼とその支持者は,現実を無視するために理論を信奉するだけです.この次々に理想を吹聴する大統領は,知識を軽蔑するわけでも,愚かなだけでもなく,エッグヘッドだ.


IHT SATURDAY, APRIL 30, 2005

China and the power game

Nayan Chanda

IHT SATURDAY, APRIL 30, 2005

Squabbles betray East Asia's lack of cooperation

Michael Auslin

JT Monday, May 2, 2005

Strong apology needs a willing recipient

By RICHARD HALLORAN

Asia Times Online, May 3, 2005

Anti-Japan protests may signal power struggle

By Bennett Richardson

NYT May 3, 2005

Beijing Finds Anti-Japan Propaganda a 2-Edged Sword

By JOSEPH KAHN

IHT THURSDAY, MAY 5, 2005

Japan woos India - and the UN

Sunanda K. Datta-Ray

CSM May 04, 2005 edition

In criticizing Japan's history textbooks, Americans should think twice

By Jonathan Zimmerman

(コメント) 中国の台頭とアジアのバランス・オブ・パワーを考える上で,ベトナムとアメリカの接近が注目されます.ベトナムは中国に対する独立を維持するために,ソ連の支援を得てきましたが,今ではアメリカの支援を重視しなければなりません.アメリカはベトナム戦争の際にも,共産主義のドミノ理論ではなく,バランス・オブ・パワーにもっと注目するべきだった,とNayan Chandaは考えます.

他方,Michael Auslinは,日本,中国,韓国,台湾が,互いにさまざまな問題を持ち出しては対立して,戦後,押さえ込まれていたナショナリズムを復活させることに政府が加担しつつあることに問題の深刻さを見ます.ヨーロッパでは,地域をまたぐ国際機関がそのような瑣末や政治圧力を回避するメカニズムがあります.アジアにはそれがない.つまり,エスカレートすることの危険を知りながら,互いに国内政治を汚染されていくのです.

RICHARD HALLORANは,日本の「謝罪」が受け入れられない理由を,@日本への糾弾が中国や韓国の国内政治において好ましい手段として利用できること,A日本の謝罪や戦後のアジア地域への貢献が広く伝えられていないこと,を指摘しています.「謝罪」というのは双方向のシグナルであって,許すことのない相手に謝罪することは成立しないのです.しかし,天皇が政治的シンボルとして謝罪する,というアイデアには感心しません.

Bennett Richardsonは,日本の専門家,特に国分良成氏の見解を紹介しています.すなわち,反日デモは中国政府内部の権力抗争によるものだった,という解釈です.胡錦涛・温家宝の政治体制はまだ完全に安定しておらず,対日関係をより友好的な,経済を重視した関係に転換するため,日本に対する新しい見方を提唱したことで,江沢民などの権力と衝突し,彼らがインターネットなどを通じて反日デモの圧力を高めた,というわけです.

しかし,中国自身の内にあるさまざまな異なる声を,中国政府は反体制派を弾圧するような手法で押さえつけるわけには行かなくなるでしょう.すべての反日デモは,遅かれ早かれ,反政府デモになる,とJOSEPH KAHNの記事に登場する中産階級は不安を強めます

日本はインドやアメリカと協力して,国連改革の意義を訴えたいところです.しかし,インドはそれを歓迎するでしょうか? アメリカは仲裁できるでしょうか?


Asia Times Online, Apr 30, 2005

June seen as North Korean meltdown point

By Bruce Klingner

CSM May 05, 2005 edition

Bargaining With North Korea

(コメント) 6月に,北朝鮮とアメリカは最後の対立を迎えるだろう,と言われます.北朝鮮の核実験は準備を進めて,ここ数日は,いよいよ実験する,と報道されています.

なぜ韓国や中国は,もっと核開発の放棄を真剣に求めないのでしょうか? 核武装した北朝鮮が,両国の政治目標にとって,それほど重大な障害にはならない,と考えているのでしょうか? あるいは,北朝鮮は核実験する準備などできていない,と知っている? こうした政治目的の違いや情報の不確実さが,誰をも不決断へと向かわせます.

問題は,IAEAから六カ国協議(とくに中国と韓国による説得),そして国連安保理へと,議論と選択の幅を変えることになりそうです.核実験が行われれば,たとえば,在韓米軍は移動する?

アメリカ国内での論争は続いています.イラク戦争とは異なり,民主党は北朝鮮の脅威を強調し,直ちに二国間で対話し,宥和政策も取るべきだ,と考えます.他方,共和党は強攻策を取れず,脅威を無視しています.

北朝鮮の支配体制が何を求めているのか,それが開放型の経済発展に近ければ近いほど,民主党の交渉姿勢は成功の見込みがあります.しかし,彼らが本気でそれを受け入れるまで待つだけでは,核開発による交渉条件の変更を目指すかもしれません.そして,強攻策が現実味を帯びます.


NYT May 1, 2005

The Outer Limits of National Debt

By ANNA BERNASEK

(コメント) アメリカの赤字を見れば,誰でもアルゼンチンを思い出すでしょう.しかし,赤字なんて問題にならない,という声も聞かれます.いったい,アメリカ政府やアメリカが借り入れる限界というのはどこにあるのでしょうか?

歴史的な経験から見て,GDPの150%を超えるとアルゼンチン型の危機の可能性が高まるでしょう.しかし,第二次世界大戦後のイギリスは一時的に250%に達したようです.アメリカのGDPの150%を債務の上限とすれば,それは18兆ドルになります.

他方,何が債務か? これも難しい問題です.財務省は4.6兆ドルの債務を示します.しかし,他の政府機関や,社会保障,医療保険が文字する基金を考慮すれば,40.6兆ドルの債務を政府は既に抱えていると計算できます.今すぐ債務危機に陥ることを示さないにしても,この状態を放置することが賢明でないのは明白です.


NYT May 1, 2005

The War We Could Have Won

By STEPHEN J. MORRIS

LAT May 3, 2005

Our Loss Was Our Gain in Vietnam

Robert Scheer

(コメント) 日本と中国が対立しても,まさか再び戦争することはないだろう,と思いたいです.しかし,なぜアメリカはベトナムとの戦争に長く関与し,しかも敗北したのか,歴史家や政治学者がまだ論争しているのを知ると,不安になります.

アメリカは勝つはずでした.通説に反して,ベトナムにアメリカが負けたのは,アメリカが反戦運動によって軍事力を制限されたのに比べて,ベトナムはソ連による国際的なイデオロギー戦争の最前線として世界から強い政治的支持を得ていたことにあった,とSTEPHEN J. MORRISは考えます.

北ベトナムの指導者たちが共産主義者というよりナショナリストたちであることは明らかでした.しかも,アメリカ大統領はその戦争を望んでいなかったはずです.「石器時代に戻してやる」はずだったベトナムの地にも,今や,ウォルマートが開店し,中国と直接投資を奪い合っています.そうであれば,300万人のベトナム人と,5万8000人のアメリカ兵が命をなくした戦争など,本当は,必要なかったのに.

小泉首相が靖国神社に行くより,日本の過去の戦争について,戦死した日本兵,日本の兵士として死んだ朝鮮人や中国人に対して,本当は戦争などしなければよかったのだ,と謝罪するほうが良いと,あなたも思いませんか?


FT May 1 2005

The risk of war over Taiwan is real

By Michael O’Hanlon

IHT TUESDAY, MAY 3, 2005

Taiwan rejoining China? Not just yet

Philip Bowring

(コメント) 政治は暴力以外の方法で現実(の秩序)を動かすものですが,現実の可変性や手段の弾力性,選択肢を失っていくことで,それまで考えられなかったような戦争も現実に起きるわけです.

Michael O’Hanlonは,ヨーロッパが中国に対する武器の禁輸を続ける理由として,台湾海峡で中国とアメリカが交戦する可能性は存在することを強調しています.チベットや新彊・ウイグル自治区など,国際政治や資源戦略にかかわる分離独立を刺激しないために,中国政府は台湾独立を阻止することを重視しています.しかし政府が,武力侵攻は必要ない,と考えているとしても,より過激なナショナリストの論調が強まっています.また,アメリカ政府は共和党も民主党も,台湾の民主的な政府が中国によって制圧されることを本気で阻止する意志を持っています.

台湾の独立に反対する野党を中国政府が歓待する背景には,平和統一というより,「一つの中国」政策というレトリックによる牽制が,まだ有効であることを示したい,という中国政府の意図があるようです.アメリカと日本がその安全保障に台湾を含めている限り,それを牽制する政治的な牽制が国際舞台で続くわけです.

もし本当に平和統一を望むなら,中国共産党は再び国共合作により,中国本土と台湾の政治システムを統合する話し合いを始めてはどうでしょうか? 国民党は中国で候補を立て,共産党は台湾で候補を立てる.


FT May 1 2005

The Fed must be open about applying the brakes

By Edwin Truman

(コメント) アメリカの対外赤字は持続可能ではない.しかし,それが連銀の金融政策にとっては何を意味するのか? とEdwin Trumanは問います.調整過程においては,生産が消費よりも増えなければなりません.消費を抑制するだけで目標を達成することはアメリカの家族に大きな苦痛を強います.もちろん金融引き締めをする必要があります.しかし,アメリカ政府が財政政策をどうするのか,中国政府が人民元をどうするのか,対外不均衡を減らすのに適当な金融政策を決めるには,連銀が決めることのできないこうした政策を考慮しなければなりません.


Jimmy Carter, “Erosion of the Nonproliferation Treaty,” IHT MONDAY, MAY 2, 2005

Celso Amorim, Ahmed Aboul Gheit, Dermot Ahern, Luis Ernesto Derbez Bautista, Phil Goff, Nkosazana Dlamini Zuma and Laila Freivalds, “What does not exist cannot proliferate,” IHT MONDAY, MAY 2, 2005

“It ain't broke, but needs fixing,” FT May 2 2005

John J. Hamre, “Toward a Nuclear Strategy,” WP Monday, May 2, 2005

Kenneth C. Brill, “Get tougher on nukes,” IHT WEDNESDAY, MAY 4, 2005

Simon Tisdall, “Nuclear double standards,” The Guardian, Wednesday May 4, 2005

 “The Proliferation Crisis” WP Wednesday, May 4, 2005

(コメント) 核拡散防止条約(NPT)による核の国際管理体制は崩壊するかもしれません.アメリカとそれ以外の核保有国に違いはあるか? 自国は核兵器を保有しながら,イランや北朝鮮が核兵器を保有することを拒む理由とは何か?

カーターはアメリカ政府こそがNPT解体の首謀者であると認めます.そして,NPTがなくなれば,ブッシュ政権が望むような核の脅威を取り望む防衛システムができる見込みもなく,核兵器が世界中で増産・配備されるでしょう.

ブラジル,エジプト,アイルランド,メキシコ,ニュージーランド,南アフリカ,スウェーデンの外相たちがNPTの存続より核廃絶を訴えます.NPT体制とは,核の軍事利用と明確に区別して,平和利用を許すため,それを国際的に監視することと,5つの核保有国がその開発や使用を抑制し,最終的に廃棄すること,が主要な内容の国際取引でした.しかし,新しい核保有国への疑惑以上に,核保有を認められた5カ国が核廃絶に向けた取り組みをしていないどころか,それに反対しています.

7カ国の外相たちはthe New Agenda Coalitionを形成して,失敗したNPTに代わって,核兵器が国際政治で利用できないような体制,生産されることも使用されることもなく,すべてが廃棄される体制を求めます.どうして日本の外相が参加していないのでしょうか? 安保理常任理事国になるためにはアメリカの支持を失いたくない,というのであれば,その姿勢が問われるでしょう.

北朝鮮やイラン以上に,アメリカやロシアが冷戦を理由に貯め込んだ核の在庫を廃棄せず,他の政治目的のために利用しようとする姿勢を許さないためには,核保有を政治的な効果から遮断する監視と廃棄作業が明確に示される必要があります.

しかし,アメリカ以外の国が核兵器を保有している以上,アメリカは核の最新技術を保持しなければならない,と考えます.John J. Hamreは,アメリカが新型核兵器の最小限の核実験を行うことで,それが達成できるだろう,と考えます.


IHT MONDAY, MAY 2, 2005

Kick-starting global trade talks

Robert J. Portman

FT May 2 2005

Towards a new map for world trade

By Peter Mandelson

(コメント) NPTと同様,WTOの貿易自由化交渉も進展が危ぶまれています.アメリカ通商代表のRobert J. PortmanとEU通商代表のPeter Mandelsonとが,新しい主役として,交渉を促す論説を同時に発表しました.

Robert J. Portmanは,EUと多くの目標を共有しており,協力しなければ解決できない重要な問題が多い,と指摘します.また交渉に当たって,@切迫している認識を持つこと,A各国の代表が交渉のための権限を持つこと,B各国の利益を実現できるバランスを取ること,CWTOの新執行部が交渉の枠組みを示すこと,に成功の条件を見ています.

Peter Mandelsonの論説と比べれば,Portmanは,まずブッシュ大統領の政治目的のために通商交渉も役立たねばならない,と断言し,WTOの多角交渉だけでなく,地域や二国間の交渉を同列に重視しています.

Peter Mandelsonは,貿易自由化からグローバル・ガバナンスを目指す最先端の成果をEUが示している,という自信を持っています.各国は交渉に参加し,合意を形成するために,その国内の個別利害や交渉上の優位を求めて時間を浪費しないように,より根本的な問題に答えなければなりません.すなわち自国の市場を開放することで,工業や農業,サービスにおける新しい機会を得たいのか,それとも国内の弱い分野や調整のスピードを交渉することも諦め,市場から離脱したいのか?

もちろん主要国は,グローバリゼーションの辺境に追いやられた人々を助ける政治的な指導力を示さなければなりません.しかし,多角的な自由化によってこそ,貧しい諸国にも市場が開放され,南南貿易が刺激される,とMandelsonは強調します.そして,貿易の機会を利用できるように,彼らのインフラ整備や産業再編などに支援を与えることが重要だ,と.EUはそれをヨーロッパで行ってきたし,世界にも拡大できることを示そうとしています.


LAT May 2, 2005

My Grandfather and the Bomb

By Jennet Conant

国家の罪が世代を超えて引き継がれるように,家族の中でも罪の意識が引き継がれる.この国が広島に原子爆弾を投下して60年経つが,194586日の死と破壊に手を貸した人々にとって,罪の意識が終わることはない.

それが自分の尊敬し,愛する人であれば,さらに困難と苦痛は増す.私の祖父,James B. Conantは,誇り高い,厳格なアメリカ人であった.彼はハーヴァード大学の学長も務めたが,年齢とともに親しみやすくなり,瞳を輝かせていた.彼が,第二次世界大戦の優れた科学者として,マンハッタン計画を統括していた.それは途方もない破壊力を持つ原子爆弾を生み出し,広島に投下された.三日後には長崎にも投下された.戦闘は速やかに業火の中で終わった.私はそれを知っていた.

ロス・アラモスは私の子供時代の道徳原理だった.他の子供たちにとってマザー・グースの恐ろしい話がそうであるように,本能的に,規範や恐怖を与えるものだった.私は幼い頃をマサチューセッツのケンブリッジで過ごし,当時のアメリカに尽くした優秀な物理学者や化学者に囲まれていた.長じて,私はRobert Oppenheimerがその大胆不敵な指導者であり,Cyril Smithが原子爆弾の金属容器を作り,George Kistiakowskyは起爆装置を担当していたと分かった.私の祖父は原子爆弾をめぐる四人の天才の一人だったのだ.

どんな話にも異なった面がある.しかし1970年の夏,私が10歳のときに,両親が日本に引っ越すまでは,物語の他の側面を知っても,信じられなかった.私は自分が,祖父の木っ端微塵に爆破しようとした国に住んでいるということを,いやおうなく意識した.そのときまで,私は家族の緊張した食事の間に,1945年の報復の夏,日本で起きたことを疑わせる多くの手がかりを拾い集めていた.子供の意識にも,何か不都合なものを感じた.

1960年代後半,私のリベラルな両親は祖父とベトナム戦争をめぐってしばしば言い争っていたし,イデオロギー上の敵に対して祖父がアメリカ軍と組んだ過ちを糾弾していた.

私の父は祖父の罪を数え上げるだろう.祖父は化学兵器と核兵器の開発に関わり,それを日本に対して使用するよう進言した.両親にとってそんなことには意味がなく,特に,日本が天皇の地位を保証すれば降伏するつもりだったという報告書が出ていた.歴史は祖父に特別な地位を与えた.彼は531日の大統領の臨時委員会で重大な発言を行った.「もっとも有望な目標は,多くの労働者を雇い,近くに労働者の住宅が集まっている,重要な軍需工場であろう.」

私が12歳のとき,両親は私を広島に,その犯罪の現場へ連れて行った.そこで起きた大量殺戮の記念として残された建物の残骸を,私たちは見て回った.

爆心地に建つ広島の平和記念博物館で,私たちは爆発後に撮られた記録映像を座って観た.黒く焼けた町,爆発を生き延びたが話すこともできない苦痛を味わう人々,ぼろクズのように骨から皮膚が垂れ下がり,放射能は彼らを内側から蝕んで,ゆっくりと痛めつけて殺した.母は胃がむかついて席を立ち,博物館から出て行った.厳粛なナレーションを聞きながら,戦争の英雄として尊敬してきた祖父が,ここでは大量殺戮の責任者で,人類史上最悪の悪魔の兵器を開発する手助けをした人間であることに,私はショックを受けた.

当時,私たちは東京に住んでいたから,長距離列車で帰った.私たちを見る日本人の顔を見て,彼らがもし本当のことを知ったらどう思うだろうか,といぶかった.

次に私が祖父と再開したのは,数ヵ月後の,1973年のハワイで,それは彼の80歳の誕生日であった.私の両親は招待されておらず,それは家族の間に癒えることのない深い亀裂があることを示していた.

私たちは,すべての殺戮が始まった空襲の現場である真珠湾に近いホテルに泊まっていた.祖父は白髪で,少し猫背になっていた.私は初めて,彼が担う個人的な責任の大きさを理解した.

祖父は決して広島を爆撃したことについて後悔を示さなかった.戦争を早く終わらせるために必要な決断であり,連合諸国や日本の多くの兵士を救うために必要だった,と.私も決して彼を責める気になれなかった.特に,硫黄島や沖縄における激しい戦闘について知り,50万人に及ぶ死者が出ると予想された本土侵攻作戦について知ったから.こうした数字は誇張されていたという批判もあるが,私の祖父やマンハッタン計画の他の指導者たちは,誰にも決断できないような恐るべき決断を,その渦中において強いられたのだ.

後知恵を用いて,リビジョニストたちは彼のやったことを簡単に非難する,しかし,彼は二人の息子を海外の戦地に出し,戦闘を完全に終わらせる勝利をもたらす新兵器を確信していた.

結局は,祖父にとってもロス・アラモスの科学者たちにとっても,それは悲劇であった.彼らが創り出した恐るべき力が,何千,何万もの罪のない市民たちを殺すために使用された.彼らが放射能の汚染を意図したわけではなかった.核兵器が世界中に広まり,核軍拡競争や,核兵器のボタンを独裁者やテロリストが押せることも,彼らが望んだわけではない.その結果として,祖父は戦時の誇りを失った.一度だけ,ニューズウィークに答えたことがある.「私はもはや核兵器にいかなる関わりも持たない.私のしたことは無意味だった.」

1978年に亡くなるまで,彼は晩年,核兵器の国際管理を確立しようとした.破壊者という役割を認めたくなかったのだ.しかし最後の日まで彼を苦しめた歴史の審判は,戦争を行った政治家たちにもっぱら甘く,その最終兵器を開発した科学者たちには過酷だった.

科学には前進するほか選択の余地はない.それを後退や過誤のように見せるのは,常に,社会なのだ.


NYT May 2, 2005

China Trade Surplus With West Still Rising

By DAVID BARBOZA

WP Wednesday, May 4, 2005

A Trade Tightrope With China

By Robert J. Samuelson

Asia Times Online, May 4, 2005

Yuan not the cause of US trade gap: China

FT May 4 2005

How Japanese industry beat off low-cost competition

By David Pilling and Peter Marsh

Asia Times Online, May 5, 2005

China's sweatshops running out of workers

By Florence Chan

May 6 (Bloomberg)

World Should Shake the `Hot Potato Syndrome'

William Pesek Jr.

The Asian Age, 6May 2005

Tangled Threads of Protectionism Part I

- By Pietra Rivoli

(コメント) 中国からの輸入増加にアメリカやヨーロッパの政治家は憤慨しています.為替政策の変更が要求されていますが,Andy Xieはそんなことをしてもアメリカの赤字は減らず,中国から輸出しているアメリカ企業が困るだけだ,と言います.

IIEのFred Bergstenは,中国が25%以上の切上げをしなければ,50%の関税を課すべきだ,と主張しているようです.それはニクソンが行い,1980年代の日本叩きでも行った,アメリカの一貫した対外経済政策です.貿易不均衡が国内の失業と関連付けられれば,アメリカは必ず選択を迫ります.保護主義か切上げか,と.

もちろんBergstenは保護主義による混乱を恐れるから,先制攻撃によって中国に切上げを求めて,議会の保護主義を封じ込めたいのだ,とRobert J. Samuelsonは説明します.問題はアジアにある.輸出指向工業化は成功したが,誰が輸入するのか? アメリカの消費者は安価なアジア製品を好んで輸入し続けたが,それは永遠に続くわけではない.アジア諸国は通貨価値の切上げによって調整を受け入れ,もっと国内市場向けの生産を拡大しなければならない.そのためには,このまま何もしないより,関税によって切上げを要求することも仕方ない,と.

Asia Times Onlineの記事は,こうした中国(アジア)非難を明確に反駁しています.中国の対米輸出は多くない.アメリカからの輸入が少ないだけだ.中国は為替レートを操作していない.たとえ100%の切上げをしても労働コストの差は縮まらない.中国の輸出における生産性を高めたのは直接投資だ.周辺のアジア諸国から生産拠点が移転され,アメリカ向けの輸出も「メイド・イン・チャイナ」になった.アジア企業は部品などを企業グループ内部から調達する傾向が強い.アメリカは高度な技術分野で輸出競争力があるのに中国向けを規制している.・・・など.

米中の貿易摩擦に関して,Robert J. Samuelson とAsia Times Onlineの論説はどちらも非常に面白い,お勧めの内容です.他方,David Pilling and Peter Marshの論説は,日本企業が中国とどのような分業関係を築くか,その復活を検証しています.

William Pesek Jr.は,世界のさまざまな不確実性が互いに影響しあって,アジアの不安定さを増幅する恐れを指摘します.誰も問題を自分で解決しようとは思わない.いわば,「ホット・ポテト・シンドローム」だ,と.結果的には,ブッシュ政権が中国への圧力を強めることになって,危機への助走が始まります.


FT May 3 2005

Culture is not the culprit in Arab poverty

By Moises Naim

(コメント) アメリカの国勢調査は,アラブ系のアメリカ人が非アラブ系のアメリカ人よりも教育水準が高く,所得も多いことを示しました.それは,アラブ諸国が貧しいことに対して,また,ヨーロッパにおけるアラブ系移民が貧しいことに対して,文化的要因を主張する通説を否定します.

それに対して,元から裕福なアラブ系移民が多いのではないか,あるいは,アメリカの制度や機会がアラブ系移民に有利に働いたのではないか,と説明されます.前者は,ヨーロッパにおけるアラブ系移民がヨーロッパの平均よりも教育水準が低く,所得も少ないことと矛盾します.

要するに,アラブ諸国の指導者たちは,その貧しさを文化や信仰によって弁解できないし,ヨーロッパ諸国の指導者たちも,倍の出生率を示すアラブ系移民たちが時限爆弾として社会の底辺に滞留することを弁解できないし,アメリカも9・11以後のアラブ系移民に対する制度的な抑圧を放置できないはずだ,とMoises Naimは考えます.


IHT WEDNESDAY, MAY 4, 2005

A single referendum across Europe

Christoph Meyer

FT May 5 2005

Philip Stephens: Europe must change

By Philip Stephens

(コメント) フランスによってヨーロッパ憲章が否決される危機が意味するのは,ヨーロッパが経済統合を認めて40年も経つのに,その政治統合を指導者たちが妨げてきたことの限界である,とChristoph Meyerは考えます.そして,ヨーロッパ市民が政治的な意思決定を示すには,憲法制定議会と,ヨーロッパ規模の統一住民投票を行うべきだ,と主張します.住民の3分の2以上,加盟国の3分の2以上という,二重の多数決で正当性を示すことです.

Philip Stephensは,ヨーロッパの置かれた国際政治構造が根本的に変化したことを強調します.ヨーロッパ統合を放棄するのではなく,新しい条件に見合った根本的な改革を再開するように求めています.


WP May 4, 200

Lessons for Iraq From Gettysburg

By David Ignatius

(コメント) 南北戦争の後も,北軍の占領政策は失敗し,アメリカ南部は貧困と人種差別を強めた地域となりました.南軍は戦争に負けたとしても,その平和を築く過程で北軍の支配を排除することに成功します.それゆえ,イラクへの教訓: 戦闘終了後に行うことが決定的に重要だ.その際の失敗は取り返せない.十分な意志と軍隊がないなら,異なる社会をすべて作り変えることなどできない.宗教的・人種的な憎悪は戦後の政治システムを大きく損なう.再建を諦めれば,100年にわたる社会的・経済的な荒廃を招く,と.それは誰にとっても繰り返したくない歴史です.


FT May 5 2005

Memories and meaning

By Neil Buckley, Guy Dinmore and Daniel Dombey

(コメント) プーチン大統領が指導者たちを招待したナチスに対する戦勝記念は,さまざまな戦後の秩序に対する不満をも再燃させました.一つの戦争と,それがもたらした秩序は,その後の歴史によって繰り返し評価を変えるようです.

EUは出席しました.彼らはロシアとの平和的な関係が拡大することを望んでいます.そして,何よりもロシアの改革が前進することを期待しているのです.ブッシュ氏はラトビアへ立ち寄りました.ラトビアの大統領は,ロシアに占領された歴史を記念する「戦勝記念」に欠席しました.

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The Economist, April 23rd 2005

Rescuing environmentalism

Spain and its region: Clarity needed

(コメント) 環境保護運動は,すでに勢いを失って,単なる特殊利益団体に過ぎなくなったのでしょうか? アメリカでも環境問題は政治の優先課題から外れてしまいました.運動を再生させるために,さらに過激な終末論とユートピアを説くべきか? The Economistはそれに反対して,もっと現実的で,市場を重視した政策を掲げるべきだ,と主張します.

たとえば京都議定書の最も重要な革新は排出権取引の枠組みを示したことです.規制や管理によって環境を保護するのではなく,市場に従って環境に優しい選択を促すことができます.たとえば漁獲量の所有権を認めて,その割当られた権利を売買させることで,過剰な漁を抑えました.たとえ価値のつけられないほど貴重なものがあるとしても,他方で,公的な資金を効率的に配分する問題があります.さまざまな自然を評価する方法は急速に改善されているのです.

もう一つの見出し記事は,スペインの分離独立運動を明確に扱う政治基準が必要だ,と主張しています.バスクやカタルーニャの独立運動は激しい政治テロをもたらし,スペイン政治を混乱させてきました.しかし,カナダのケベック独立運動は,政府との明確な合意によって,分離独立の基準を示すことで冷静に議論されています.まず,単純で明確な国民投票を行う.明確な多数の支持を得る.その後,分離の条件いついてオタワ政府と交渉する.

各国は,特に戦争によって,分離することもありました.今後は,コソボやモンテネグロの帰属問題を扱う必要があります.分離問題を激しい政治論争と戦闘に結び付けることなく,明確に扱う合意が可能であれば,多くの戦争は避けられるでしょう.


History, riots and trade rows: The China question

(コメント) 国際社会において,民主的で,平和を尊重する日本は危険ではない.危険なのは中国だ.軍事的威嚇やナショナリズムを利用して,国内の情報や論争を許さず,国際政治の地位向上を誰にも断る必要はない,と考える中国の政治こそが,国際社会にとって危険である.そのことを中国政府は理解しなければならない.

もし中国政府が国際世論における悪化を心配して反日デモを止めさせたとしたら,それはThe Economistのこの記事にもっとも明確に示されています.


China-bashing and trade: Putting up the barricades

North Carolina: The human cost of cheaper towels

(コメント) アメリカのFred BergstenRobert J. Samuelsonの主張と異なって,The Economistは1980年代の日本叩きをプラザ合意でうまく政治的に処理した議会の手法が,再び,中国に対して効果的だという思い込みを批判します.単に,日本と中国の条件や姿勢の違いだけでなく,アメリカ自身の不均衡が拡大してしまっているからです.保護関税で脅迫することはWTOに違反しますし,中米諸国を助けるCAFTAに関する反対運動が議会の政治を支配しています.あるいは保護を訴える砂糖ロービーの政治献金です.アメリカ国内政治の事情で,中国叩きはその限度を超えてしまうかもしれません.

また,タオル企業がノース・カロライナに築いたカンパニー・タウンの衰退は,自由貿易や政治的な補償メカニズムの重要性と難しさを十分に伝えています.