IPEの果樹園2005

今週のReview

5/2-5/7

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 中国について: 中国についての批判は,しかし,日本への賛美ではありません.

2 不均衡について: さまざまな不均衡と金融,そしてバブルへの正しい理解や対応策は?

3 フラット・タックス: 給与明細を見るたびにため息が出るのはどこでも同じでしょう.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


FT April 22 2005

Paygo potential

WP Friday, April 22, 2005

Thinking Small on The Budget

By Robert J. Samuelson

(コメント) アメリカは財政規律を必要としています.過剰消費(貯蓄不足),経常赤字,累積債務,民間資本流入の不安定性,ドル暴落が議論されているからです.しかし,アメリカには緊縮予算案を集約する大蔵省がありません.日本でもその名前は財務省に変ってしまいました.では,どうやって個々の政治家が選挙区で約束した財政支出を抑えるのか?

FTの記事は,議会が財政均衡法を定めることを論じています.たとえば1990年にそのような法案が成立し,2002年の黒字化を定めました.しかし,裁量的支出に上限を設けるだけでは均衡化できないでしょう.社会保障を含めるのか? 一時的に公共やバブルで黒字になった場合はどうするのか? 既存の支出は削らないのか? など,問題があります.1985年の法律は毎年の予算目標を定めましたが,不況の中で追加の削減を求めて失敗しました.景気循環を考慮して均衡化を求める必要があります.

Robert J. Samuelsonは,ブルッキングズ研究所の報告を批判しています.なぜなら,財政を均衡化する手法について,どれが重要な価値判断を必要とし,国民的な合意ができていない,という理由で扱わなかったからです.高齢化する社会はどこでも財政破綻の回避が課題となっています.増税するか,政府支出を削るか,老人への給付を削るしかありません.1960年には連邦政府の予算の52%が軍事支出でした.それが2005年には19%です.

われわれは深刻な選択に直面していますが,ブルッキングズ研究所はその選択肢を示しませんでした.もし研究所の中でも意見が割れているなら,対立する二つの集団に分かれて,二つの報告書を作るべきでした.明確な選択を示す必要がある,と.私も,日本の年金改革や郵政民営化の論議に同じ不満を感じます.

Robert J. Samuelsonは,自分の価値判断を示します.富裕な老人の医療費は国が負担しない.老人医療費の国の負担率を引き下げる(本人負担を増やす).平均寿命が延びたのだから,アメリカ人はもっと長く働く.そして,それでも増税は必要だろう,と.これらを避ければ,アメリカ社会は若者にとって不公正になり,経済停滞に落ち込みやすくなり,その他の社会目標へも支出を削らなければなりません.


The American Prospect, 04.22.05

The Two Faces of Bankruptcy

By Robert B. Reich

(コメント) 今までは破産法があったので,アメリカ人が債務を支払えなくなっても,生活をやり直すことができました.債務の支払いのためにさらに大きな債務を強いられる悪循環は切れたのです.しかし議会が破産法を変えることで,ますます個人は銀行やクレジット・カードの請求から逃れられなくなるでしょう.他方,アメリカ企業は破産法によって営業を続けられます.しかも破産した企業は,裁判所の判断があれば,被雇用者に対する保険や年金の支払いを続けなくても良いのです.

アメリカ人はますます個人として不安定な,破産するしかない,暮らしに依拠して,企業は繁栄を続けられるのでしょうか? もちろんこれはナンセンスです.しかし,議会はその方向を示します.


The Asian Age, 22 April 2005

YaleGlobal Online

Rising Dragon and the American Eagle ・Part I

- By David Shambaugh

IHT SATURDAY, APRIL 23, 2005

Questions about the rising giant

Shintaro Ishihara

WP Saturday, April 23, 2005

A 'Peaceful Rise'?

(コメント) David Shambaughは,中国がさまざまな分野で影響力を強めてきている現実を指摘します.それは特に,アメリカがテロとの戦争に関心を集中し,経済に関しては中国の存在が重要になってきた時期と重なるでしょう.他方,IHTに寄稿した東京都知事の石原慎太郎は,日ごろの右翼言論人体質を抑えて,中国の好戦性と野望が顕著になった以上,世界が反中国で連携する必要があると呼びかけています.アジアでは,より複雑な相互依存を深めた,アメリカ,中国,日本,インド,ASEANなどのモザイク状の権力構造が現れている,とShambaughは考えます.

WPの論説は,胡錦涛政権の「和平演変」a "peaceful rise"がまったく中身のない宣伝であったことを厳しく批判します.中国国民の反日感情やデモは,胡錦涛政権と共産党が自分たちの政治的な正当性を強化するために作り出してきた政治ショーであり,日本に何度でも謝罪させ,国連安保理の常任理事国入りを阻止するために行われた自作自演の舞台である.

このような政治的手法を国際社会に対して示す中国は,まったく何も理解していません.香港で,台湾に対して,そして日本に対して,中国政府が行った好戦的威嚇は,世界の民主的な諸政府を警戒させ,アジアに反中国の連携を強める結果となったでしょう.そして,中国が孤立し,ますますアメリカと対立するようなコースを選ぶことをWPは望んでいません.何よりも,中国政府の方針転換が必要だ,と.

The Asian Age, 24 April 2005

Rising Dragon and the American Eagle ・Part II

- By Robert Sutter

IHT, WEDNESDAY, APRIL 27, 2005

U.S. and China on a collision course

Philip Bowring

The American Prospect 04.28.05

The Democrats and the China Card

By Robert B. Reich

(コメント) Robert Sutterは,アジアにおいてアメリカに代わって中国が覇権を握るのではないか,という最近の見方を否定しています.双方における傲慢と近視眼が,アメリカと中国を無自覚に衝突するコースへと向かわせている,とPhilip Bowringは警告します.

中国はその成長の過程で対ドル固定制を維持し過ぎたし,国内の過剰投資や不良債権を累積してしまいました.他方,アメリカもバブル破綻の回避を図ったグリーンスパンとブッシュの過剰消費促進が限界に達しています.たとえ人民元を切上げても,アメリカが貯蓄を増やさなければ国際収支の不均衡は解消しないでしょう.そして中国では過激なナショナリズムが,アメリカでは議会の保護主義が,互いを名指しして非難の応酬を始めようとしています.

では,上院の民主党員たちが中国に人民元の切上げを求め,もし切上げなければそれに匹敵する関税を導入せよ,と主張することは,「チャイナ・カード」の有効な政治的利用でしょうか? 同時に,ホワイトハウスは中国が通貨を「操作」して過小に評価している,という非難を繰り返しています.

しかし,不均衡の主要な理由は中国の通貨が安すぎることではなく,アメリカ人が借金で狂ったように消費し続けていることだ,とRobert B. Reichは指摘します.もちろん中国の商品は安く,それゆえ,中国からの輸出は増えて,工場の雇用は増えてきました.都市の雇用不安を解消し,貨幣価値の変動を解消するために人民元をドルに対して固定したことは,中国のような発展途上国にとって懸命な政策であり,非難されるような「操作」はありません.

われわれは中国の安価な商品を愛している.われわれは中国からの資本流入を必要としている.われわれは中国が平和を維持する姿勢を尊重する国になって欲しい.そうであれば,自国の過剰消費を正すことなく,切上げろ,さもないと関税を支払え,と言って貿易戦争をけしかけることは間違いである,と.


FT April 22 2005

Lex: China's car market

The Guardian, Friday April 22, 2005

Beijing makes friends and riches in Africa

Simon Tisdall

NYT April 22, 2005

China Looms as the World's Next Leading Auto Exporter

By KEITH BRADSHER

FT April 25 2005

Guy de Jonquieres: A test for economic openness

By Guy de Jonquieres

FT April 25 2005

Cooking the books in sweatshop China

NYT April 26, 2005

China Will Fight Efforts to Restore Quotas

By CHRIS BUCKLEY and JAMES KANTER

(コメント) 中国経済は,自動車販売が急速に伸びて,将来は自動車でもコンピューターでも輸出するようになるのでしょうか?

2003年は75%の売り上げ増加がありましたが,昨年は15%でした.世界の主要メーカーが参入し,規模の経済や部品の補給が非効率なまま,激しい価格競争にさらされています.それでも各社は利潤を無視した国有企業と生産増加に合わす形で,過剰な生産設備を投資し続けています.価格はさらに下落し,利益は失われます.国内市場が飽和しているのであれば,世界市場に向かうでしょう.世界のブランドと中国の生産拠点は,自動車でも結びつくでしょうか?

NYTの記事によれば,自動車産業の労働者の賃金や諸手当は,ドイツ$49.60,日本$40.96,アメリカ$36.55,そして中国$1.96です.アメリカの労働組合は,中国が労働組合や通貨の価値を操作して賃金や為替レートを市場で決まるより不当に低く抑えている,と批判します.中国で自動車を作って外国に輸出する計画は,ダイムラー・クライスラーでも,ホンダでも進んでいます.品質や労働者の質,部品供給は着実に改善しています.

裕福な国が保護措置をとらなければ,自動車の輸出も増えるでしょう.さらに,その前に,発展途上諸国の第三市場で,中国製の自動車が市場を制圧するかもしれません.中国政府は,非同盟諸国として,南南貿易の推進者として,アフリカ諸国に従来から政治的な関係を持ってきました.さらに,今では資源の買い付けに走っています.

「商品が国境を越えなければ,軍隊が国境を越える.」と,コーデル・ハルは自由貿易を推進しました.その格言はヨーロッパに良く当てはまります.ヨーロッパ諸国は相互に貿易を増やし,戦争を考えられないものにしました.しかし東アジアは,同じように貿易を増やしながら,ヨーロッパのように相互が協力できる共通のルールやメカニズムを持っていません.

中国と日本が東アジアで伝統的な覇権争いを復活し,互いに第三国と二国間のFTAを結んで,自由貿易とは程遠い姿に向かうのでしょうか? 東アジア経済共同体について,互いに矛盾した勝手な計画を提唱して加盟諸国を奪い合うのでしょうか? 東アジアにおいて,人民元と円の,どちらを選択するか各国は迫られるのでしょうか? タイや韓国など,各国において強まるナショナリズムは,国境を越えた企業の統合や連携を妨げるのでしょうか?

FTは,苦汗工場などを取り締まるように求める輸入諸国の社会団体に対して,その必要はないと考えます.中国の苦汗工場は,貧しい地方などから集まる膨大な労働供給と,それを利用する経営者たちが極端な過剰投資や競争激化を強いられているという事情によって,ほとんど避け得ないものとなっています.中国にも労働法規はありますが,それを守らせることはできず,多くの発展途上諸国と同じように,生産性が上昇して貧困が解消されるにつれて解決されるしかないでしょう.

もちろん,こうした労働者に過酷な条件を裕福な国から企業が生産拠点を移して利用することは好ましくないでしょう.しかし,FTは,企業のイメージやブランドを考えれば,多国籍企業が自ら苦汗工場をかねるような愚かな計算はしないだろう,と言います.そして,裕福な消費者たちに,安い製品を輸入することと,自らの道徳的な健全さを守ることとは,同時に満たせない要求だ,と注意します.

EUやアメリカからの一時的な保護措置を求める動きを受けて,中国政府は割当製に復帰するすべての動きに強く抗議することを表明しました.しかし,繊維製品の中国からの輸出が急増している事態については,より段階的な移行が望ましいことを認めています.また,貧しい発展途上諸国が被害を受けているのを緩和したい,というわけです.しかし,それもかつての割当制度が世界貿易をゆがめた結果である,と.

Asia Times Online, Apr 27, 2005

'Man-eater' mine moguls inflate China real estate

By Florence Chan

Asia Times Online, Apr 28, 2005

China integrates into global supply chain

By Michael Mackey

FT April 28 2005

China's corporate cost advantage is a myth

By Joe Zhang

(コメント) 中国政府の現在の最重要課題は,炭鉱事故の死者を減らすことと,都市部の住宅バブルを冷ますことです.これら二つは関係している,とFlorence Chanは考えます.なぜなら,住宅バブルによってますます上昇する石炭価格が,大きな利益のために危険な採鉱を拡大し,事故による死者を増やしているからです.各地の爆発で数十人から数百人の死者が出ています.その死亡率はアメリカの約100倍と言われます.他方,政府はバブルが破綻することを恐れており,石炭などエネルギー価格の上昇を嫌います.

中国がWTOに加盟し,国内の交通・輸送部門にもサービス貿易の自由化を強いられたことは,非常に遅れていた国内の輸送インフラや輸送サービス部門を外資の参入によって一気に革新する機会となりました.中国政府はそれに不満かもしれませんが,世界標準のアクセスを補償するこうした輸送ビジネスが中国の内陸部まで到達することで,中国内でも多国籍企業による立地選択が可能になったのです.

しかも輸送サービスの発達は,高速道路網などに莫大な固定投資を促すだけでなく,各地の輸送サービスにおける近代的な雇用を増やし,近代的な管理職を現地化し,若い大卒者の雇用を地方でも増やしています.彼らが急速に増えることが,中国経済の近代化だけでなく,その政治面でも近代化を求める力となるでしょう.

中国企業のコストは決して優位ではない,とJoe Zhangは指摘します.オペレーショナル・コスト,規制コスト,外部コストとして,さまざまな中間財の入手困難,関税,付加価値税,知的所有権を無視したコピー商品の氾濫,地方政府の介入,経営者の言うことを聞かない労働者,その他,このままでは中国で物を作るコストは決して安くなくなる,と.


JT Friday, April 22, 2005

CCP smacks of hypocrisy

By DAVID WALL(an associate fellow of Chatham House)

先週,インド訪問の最後に,中国の温家宝首相は日本を政治的に攻撃した.日本が国連安保理の常任理事国で増やそうとしているポストに就きたがっていることに関して,「歴史を直視し,その責任を取り,アジアと世界の人々から尊敬される国のみが,国際社会においてより大きな責任を担える.」と述べた.

この強い表現は,日本軍や警察が1931年から45年まで占領した中国の一部や,1905年から45年までの韓国,第二次大戦中の他のアジア諸国で行った残虐行為を指したものである.彼らは日本政府が十分な謝罪をしておらず,歴史の教科書で正しく教えてもいない,と批判している.戦犯を祀った靖国神社に小泉首相が繰り返し参拝したことにも憤慨している.

しかし,温首相の怒りは偽善に満ちている.彼は中国共産党(CCP)政治局のメンバーだ.CCPは1965年から76年まで文化大革命を指導した.専門家によれば,CCPの政策によって3000万人以上が餓死した.人肉を食った村もあった.数百万,数千万の家族が強制的に移住させられ,数百万人が囚人とされた.多くの者が拷問され,死刑になった.CCPはその歴史をまだ直視したことがない.残虐行為に苦しんだ人々に謝罪したこともない.文化大革命が中国人民に与えた恐怖については,今もほとんど触れることがない.

温首相は1989年にCCP中央委員会にいたし,強力な地位にあった.それゆえ彼は,他の誰よりも,天安門広場に軍を送って,武装していない学生や市民を数百人も殺させたことについて責任がある.しかし彼もCCPもそのことについて中国人民に謝罪していない.そして中国の教科書も,新聞も,このことには一言も触れていない.CCPは今も,文化大革命を引き起こした毛沢東の記憶を美化し,崇拝している.

中国が「歴史に責任を取る国」であるとか,「アジアや広く世界の人々」はおろか,自国民の尊敬を勝ち得ていると主張することも難しいのだ.

温首相は日本の過去を,特に,彼のこだわる過去を責める.日本政府が人権蹂躙を止めなかったこと,たとえば,北海道や沖縄における少数民族の迫害,日本に拉致された朝鮮人,慰安婦などの扱いについては私も批判する.しかし,こうした虐待は,人権団体や市民団体が今日の中国でCCPが行っていると指摘する虐待とは,とても比べられない.たとえば,地下資源が豊富な新疆ウイグル地区で,中国は今も中央アジアを植民地化し,宗教的な弾圧を行っているではないか.

たとえ直視し,恥ずべき歴史,謝罪すべき歴史があるとしても,日本とそこに住む多くの人々は,今日,自由で民主的な国を営んでいる.中国はそうではない.1949年にCCPが軍事的な独裁を確立して以降,そうではなかった.

日本政府や老人たちは過去の残虐行為を知っているし,学校でもある程度は教えている.そのことについて議論することは違法ではない.しかし,中国のメディアや教科書は厳格に統制されている.中国のほとんどの人はCCPが権力を維持するために何をしてきたか知らない.それについて今も苦しんでいる人が居ても,彼らは話すことさえ禁じられている.

中国は歴史を直視しないどころか,現実さえも見ようとしない.

私は間違っているかもしれない.多分,温首相は,中国が安保理の席を辞任する,と言おうとしたのだろう.あるいは,彼は同じ理由で,他のメンバーの辞任も要求するつもりなのだ.アメリカは辞任せよ(アメリカ原住民とベトナムについて).ロシアは辞任せよ(スターリンの殺戮と大規模移住について).イギリスは辞任せよ(インド,ケニア,アイルランド,・・・リスクが長すぎて書ききれない).フランスは辞任せよ(アルジェリアとその他のアフリカにおけるフランスの統治ついて).

もし安保理の新しい椅子に立候補しているインドやブラジル,ドイツについても,歴史を直視せず,十分な謝罪をしていないことを知りたければ,いつでも私に知らせて欲しい.


Asia Times Online, Apr 23, 2005

Japan Inc in China

By George Zhibin Gu

Asia Times Online, Apr 23, 2005

China, Japan should shuck victim mentality

By Fan Li

FT April 23 2005

Japan says sorry

The Guardian, Saturday April 23, 2005

Japan's failure to own up to its past threatens its future

Martin Jacques(a visiting fellow at the LSE Asia Research Centre)

(コメント) Asia Times Onlineの二つの論説は,一方が日本企業と中国企業の対抗,日本株式会社に代わる,中国株式会社の成長を指摘しています.双方がより対等に企業買収や人材の争奪戦として相互に依存し始めている,と.もう一方は,中国も日本も「和平演変」を目指しているなら,どうして双方がもっと平和的に友好関係を築けないのか? という問題を,それぞれの国の「負け犬根性」に見ています.中国人はかつての帝国を踏みにじられた反発として,日本人は戦争に敗れ,原子爆弾を落とされて,占領軍に作り変えられた秩序への反発として,過剰な反応を引き起こすのです.

FTは,日本大使館や日本料理店に石を投げた中国よりも,率直に謝罪した小泉首相の政治判断を高く評価しています.しかし,Martin Jacquesの評価は複雑です.日本は,まさにその戦後の行動によって,アジアで孤立した大国となったのです.

・・・日本人は移民を受け入れたがらない.世界の大都市で,東京ほど外国人が少ない街はない.日本人は特にアジアからの人の流入を嫌う.日本が最初に戦後成長で大きく成功したことは,その優越した態度を強めた.アジアは日本の元植民地であるか,東南アジアのように未開地でしかなかった.日本人は,ドイツのような根本的な転換と浄化を経験しなかった.罪の意識は抽象的であり,貧しいアジアは賠償金で解決するほうが簡単だった.アメリカは中国や朝鮮,ベトナムと戦うために日本を利用した.要するに,日本人自身が欧米に属すことを望み,アジアを軽視した.

・・・今やアジアは成長を遂げ,日本の貧しい後背地ではなく,尊敬を求めている.日本人が何を言おうと,中国人も,韓国人も,フィリピン人も,アジアは日本を疑いの目で見るだろう.それに対して真剣な謝罪を通じて心を開くよりも,責められた日本人はむしろ逆向きに走る.態度を硬化させ,再軍備を始める.小泉首相個人がその典型だ.東アジアの歴史は凍結されたままだ.中国が成長すれば,日本との覇権争いが強まる.そして,中国に対抗して,アメリカは再軍備した日本を利用する.

JT Saturday, April 23, 2005

China and Japan have their work cut out

By TOM PLATE

April 25 (Bloomberg)

Why Japan's Apology Won't Heal Asia's Wounds

William Pesek Jr.

JT Monday, April 25, 2005

Enough blame to go around

By BRAD GLOSSERMAN and SCOTT SNYDER

IHT, TUESDAY, APRIL 26, 2005

Japan may have to bend its knee

Timothy W. Ryback

JT Thursday, April 28, 2005

Has China learned a lesson?

By MASAMICHI HANABUSA

NYT April 28, 2005

China's Selective Memory

By PU ZHIQIANG

(コメント) TOM PLATE,William Pesek Jr.,BRAD GLOSSERMAN and SCOTT SNYDER,Timothy W. Ryback,はそれぞれに日本の外交や戦後のアジア諸国に対する姿勢を考える材料を与えてくれます.それぞれの政府が,アジアにおける協力に向けた指導力を示すより,自国内の政治的党派に好まれる近視眼的なパフォーマンスを繰り返しています.ドイツの戦後処理との隔たりを考える必要があるでしょう.

MASAMICHI HANABUSAは,ナショナリズムに訴える中国の外交を,ひとまず勝たせてやった日本が,正しく中国政府にその教訓を伝えたか心配しています.中国人の弁護士であるPu Zhiqiangは,日本がやってきたことを憎むとともに,中国がやってきたことも同様に憎むべき残虐行為であった,と言います.そして,日本政府や企業はそのことで訴えられ,抗議デモを繰り返されるが,中国政府は一切を許そうとしない.もし中国人が日本を責めるなら,その前にこうしたダブル・スタンダードを改めておくべきだ,と主張します.


David Ignatius, “Bolton's Biggest Problem,” WP Friday, April 22, 2005

Max Boot, “Nastiness is not the issue in Bolton's battle,” FT April 27 2005

Thomas M. Boyd, “The right bull for UN china shop,” BG April 27, 2005

THOMAS L. FRIEDMAN, “The Best Man for the U.N.,” NYT April 27, 2005

“The good soldier's revenge,” The Guardian, Thursday April 28, 2005

“The Bolton Logic,” LAT April 28, 2005

Max Boot, “Bolton's Not Nice. But He's Good.” LAT April 28, 2005

(コメント) 共和党議員でも,賛成投票することに良心が痛む,と言わせたジョン・ボルトンのユニークな言動とは何でしょうか? しかし,アメリカ人の多くが国連を嫌い,軽蔑しているのだから,ボストンは代表にふさわしい?


H.D.S. Greenway, “Vietnam and Iraq,” BG April 22, 2005

Jonathan Steele & Dahr Jamail, “This is our Guernica,” The Guardian, Wednesday April 27, 2005

 “Losing Ground in Iraq,” NYT April 27, 2005

George F. Will, “In Iraq, an Echo of Algiers,” WP Thursday, April 28, 2005

(コメント) サイゴン陥落に立ちあった人々は,30年経っても,その光景を決して忘れていない,と言います.イラク戦争も,トンキン湾と同じような虚偽の報告で始まりました.サイゴンのアメリカ大使であったHenry Cabot Lodgeは問います.

「アメリカは軍事介入の決定に際して間違いを犯さなかったか? アメリカは本土からはるか遠くに離れた土地で帝国主義的な冒険にかかわらなかったか? あるいは,われわれは小国の民主的な政府を守ったのか? 迅速で明確な勝利を得ることだけに軍事力の使用を限定したか? 最新最強の武器を用いても勝利できないような戦争にかかわったのか? ベトコンとは自国を解放する者たちなのか,それとも,単なるテロリストか?」


NYT April 22, 2005

Sizzle, Yes, but Beef, Too

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) NYTはコラムニストが個人で選挙に加担してはいけないと定めているけれど,外国の選挙ならいいだろう,とTHOMAS L. FRIEDMANはイギリスのトニー・ブレアを支持します.ブレアは労働党内でも,左派の有権者にも,議会でも,支持を失っていますが,それでも優れた政治家であるから,と.

ブレアが居なければ,ブッシュの戦争を支持し,グローバリゼーションを支持する,そんな労働党を想像することは難しいでしょう.ブレアは,保守党ではなく,労働党が繁栄と秩序を同時にもたらせることを示しました.ブレアにとって社会主義,あるいは,アメリカ人の言うリベラリズムとは,グローバリゼーションを管理し,そのショックを緩和するものであり,自由を拡大するものです.彼はそれを厳格な外交方針をして,必要なら軍事力を行使して,示しました.しかも財政規律を失わなかったのです.


NYT April 22, 2005

Private Accounts, Public Accountability

By MARTIN MAYER

(コメント) もし労働者たちが自分たちの年金をFRBの金融政策で減らされることを知ったら,FOMCはどうするでしょうか? MARTIN MAYERは,政府の勝手な政策で,連銀が年金制度の責任まで押し付けられることに警告を発します.


LAT April 24, 2005

Clouds in a 'Healthy' Economy

WP Monday, April 25, 2005

The Shrimp Game

FT April 26 2005

Property could fall like a house of cards

By Edward Chancellor

FT April 27 2005

Protectionist piffle

April 28 (Bloomberg)

1970s Stagflation? Not a Reality

Kathleen M. Camilli

(コメント) インフレが高まりつつあり,賃金は上昇していないけれど,何もかも赤字が膨らんでいるとき,ゆっくり眠ることなどできるか? アメリカの赤字に対して,世界がドル安で高金利を要求したらどうするのか? 金利は歴史的な低水準にあり,住宅市場ではバブルの危険がある.

石油価格の高騰? スタグフレーション? しかし,市場開放,規制緩和,ウォルマート,インターネット,・・・現代では1970年代のようなインフレーションが起こりえない?

アメリカに強まる保護主義? アメリカ政府は,インドの貧しい漁民からエビを輸出する機会を奪う.それがインドのグローバリゼーションやアメリカに反発する人々を増やし,アジアで台頭する中国に対応した戦略をとることが難しくなるのを知らないのか? 中国とアメリカやEUが貿易摩擦を生じて保護主義が高まれば,それに最も苦しむのは貧しい第三国です.

不況を金融政策で回避しても,その後,住宅市場や土地のバブルを生じて,日本のように,最後には長期のデフレや金融システムの危機を生じます.日本が例外ではなく,今や世界中でそれが再現しつつあるのではないか?


BG April 23, 2005

What should US do about North Korea?

By Jason T. Shaplen and James Laney

(コメント) 北朝鮮は再びロケットを発射してアメリカの制裁や安保理へ移す発言,6カ国協議の圧力,などに不満を示しました.

Jason T. Shaplen and James Laneyは,孤立した独裁国家の指導者が何を考えるか,簡潔に表します.・・・彼の通常兵器の効果は疑わしいし,経済危機が深まっている.支援は失われつつあり,世界の主要な見解は軽蔑している.プルトニウムもしくはウラニウムによる核兵器を作る計画は禁じられているが,アメリカが取る行動次第では何かをしなければならない,と感じている.

そんな時ブッシュ政権は,1.お前は「悪の枢軸」だ,と名指しで非難する.2.自国の安全のためなら脅威を先制攻撃する,と宣言する.3.実際に,核兵器を持っていないイラクを攻撃し,独裁者を追放する.4.「悪の枢軸」に含まれるイランの,もっと不明確な核開発を阻止するEUの試みは支援しない.

今や,北朝鮮の独裁者が権力を維持するには,核兵器を増産し続けるしかない.では,われわれはどうすればよいのか?

「われわれは彼を軍事攻撃できない.核兵器の場所は特定できていない.在韓米軍や周辺諸国の被害を抑えられない.2001年と違って既に核兵器を保有しているのであるから,その他の強攻策も同じように困難だ.そうであれば,エンゲイジメント政策,北朝鮮を国際社会のルールに従わせるための関与を深めるしかない.世界銀行やアジア開発銀行が加わって開発特区を設けることだ.北朝鮮は中国やベトナムが成功したことを知っている.しかし,韓国や日本,アメリカが協力しなければ,成功することはできない.

それが失敗すれば,北朝鮮は唯一の特産品である核兵器(あるいは麻薬や偽札)を輸出するだろう.それを阻止しなければならない.北朝鮮の開発特区に協力する条件は明確でなければならない.1.核実験を行わない.2.核兵器(とその技術)を輸出しない.それらを破った場合,中国は安保理の制裁決議に拒否権を行使しない,と約束する.」

状況をこのまま放置していることは,一層の困難を招く,と主張します.

NYT April 26, 2005

N. Korea, 6, and Bush, 0

By NICHOLAS D. KRISTOF

IHT, WEDNESDAY, APRIL 27, 2005

No choice but to deal with Kim Jong Il

Jason T. Shaplen and James Laney

(コメント) ブッシュ政権の最大の外交における失敗が北朝鮮です.ブッシュ氏は唯一の方針を示しました.それはABC政策です.すなわち,Anything But Clinton policy クリントンがやったこと以外なら何でもやれ,です.結局,その間に北朝鮮は核兵器を増やしました.そしてアジアでは核武装の競争と対立が迫っており,グランド・セントラル駅で欠くテロが起きる日も近いでしょう.


FT April 24 2005

China's alternative to revaluation

By Lawrence Lau and Joseph Stiglitz

FT April 25 2005

Lex: Renminbi

April 26 (Bloomberg)

Greenspan Misses the Point About Yuan -- Again

Andy Mukherjee

FT April 28 2005

Lex: Asian currencies

April 29 (Bloomberg)

Korea Can Avoid Losses in U.S. Treasuries

William Pesek Jr.

(コメント) Lawrence Lau and Joseph Stiglitzは,人民元を切上げる理由はない,と言います.中国の黒字はアメリカとの二国間では大きくても,世界に対しては突出していないし,石油価格や世界経済の景気が不安定なことを考えれば減少し,赤字になるかもしれません.人民元を切上げてもアメリカの赤字は減らず,投機家たちを喜ばせて為替市場を不安定にするだけです.

切上げなくても,同じ効果をもっとうまく実現する方法がある,と主張します.それは中国が輸出税を導入することです.確かに,WTOのルールは特定国を狙った輸入関税を禁じていますが,輸出税は禁じていないのでしょう.しかし,為替レートよりも関税の方が,本当に,優れているのでしょうか? 中国政府が税収を得て,しかもアメリカに政治的な貸しを作るので,歓迎するかもしれませんが.

Andy Mukherjeeは,グリーンスパンが中国の人民元を変動レートに移行させるしかないという楽観論を間違った前提で繰り返している,と批判します.中国は為替介入でインフレを起こし,あるいは,生産性上昇を吸収するために,為替レートを変動させるでしょうか? そんなはずはない,と.

なぜなら,中国の4大商業銀行は国営と変わらず,金利を無視して国債を購入し続けているからです.中国が「不胎化」に困難を感じることはないだろう,とMukherjeeは考えます.また,中国の輸出部門で急速に労働生産性が高まっているのは真実でも,それが増価を必要としているとは考えません.輸出競争力がさらに強まって,ますます雇用が増え,貿易黒字が増えても,不胎化介入が増えるだけで中国なら問題ないのです.しかし,グリーンスパン発言によって投機的な資本流入はさらに増大します.

もし素直に考えれば(私の印象ですが),資本流入に課税し,短期の取引(特に不動産)を規制して,国内金利を引き上げ,為替レートを貿易額に比例した主要通貨のバスケットに対して切上げる,といった政策を取るのではないでしょうか?

Lex: Asian currenciesは,興味深い指摘をしています.日本市場が連休に入って閉じられれば,アジアの取引が減る.だから,人民元とそれに連動してドルに対して過小評価されているアジア諸通貨を投機的に買うことで,人民元切上げからアジア諸通貨のドミノ的増価によって儲かるだろう,と市場は考えている.しかし,人民元と円は連動するのか? と問います.日本企業がこぞって中国に生産拠点を移している以上,人民元の切上げは日本企業の利益を減らし,円は真っ先に円高から円安に反転するだろう,と.

もちろん,アジアはすでに危機を経て,ドル・ペッグと輸出に依存した成長パターンを捨てて,通貨の増価と国内投資や資本流入によって成長を実現する方針転換を検討したはずです.少なくとも中国以外では.


WP Monday, April 25, 2005

The Democracy Trap

By Sebastian Mallaby

CSM April 28, 2005 edition

The new imperialism

By David R. Francis

(コメント) Paul Collier and Anke Hoefflerの研究に依拠して,産油諸国の民主化は十分な情報の開示やメディアの自由を保障しなければ,民主化が成長を妨げるだろう,とSebastian Mallabyは指摘します.民主化が経済発展をもたらすのは,政治的な支持を得るために成長政策を競い合う諸国においてであって,もし最初から富が石油によって与えられているなら,民主化は有権者を買収し,政治的な汚職がはびこる結果になる.だからアメリカは,イラクの選挙だけでなく,その財政収入や政府支出の情報を透明にさせ,民主的なメディアが活発にそれをチェックできるようにしておくべきだ,と考えます.

それをアメリカが占領政策として主張すれば,石油収入を監視し,メディアを擁立する点で,アメリカの介入とみなされるかもしれません.

もし経済発展に民主的な政治制度が必要であれば,かつてキップリングがイギリス帝国主義の支配を「白人の使命」と呼んで称えたように,民主的な諸国が貧しい地域へ積極的に介入して政治制度を整備するほうが良いのではないか? David R. Francisの論説は,それを支持する経済学者としてIIEのGary Hufbauerを挙げています.


FT April 26 2005

Martin Wolf: Imbalances will require global solutions

By Martin Wolf

NYT April 27, 2005

When the Dollar Bill Comes Due

By CATHERINE L. MANN and KATHARINA PLUCK

WP Wednesday, April 27, 2005

The Global Savings Glut

By Robert J. Samuelson

April 28 (Bloomberg)

U.S. Shows Some Parallels With Argentina of '90s

John M. Berry

IHT, THURSDAY, APRIL 28, 2005

A dangerous imbalance

Mark Weisbrot

(コメント) 国際収支の不均衡が拡大する中で,Martin Wolfは国際協調による調整過程を進める政治合意を主張します.赤字国と黒字国・地域は何をするべきか,既に十分合意されているはずではないか? しかし,アメリカも中国も危機が起きる前に協調を呼びかけるより,互いを非難しあって危機を誘発するのはなぜでしょうか?

主要通貨に対して25%ものドル安にもかかわらず,なぜアメリカの貿易赤字は減らないのか? つまり,為替レートによる調整は効果がないのか? とCATHERINE L. MANN and KATHARINA PLUCKは問います.一つの理由は,アメリカの主要輸入先がドルに対して通貨価値を実質的に固定しているか,基本的にはドル圏であること.もう一つは,アメリカ市場におけるシェアを失いたくないために,為替レートの変化を市場価格に反映させない,すなわち,パススルー係数が低下したこと,です.もしそうであれば,アメリカは不均衡を調整するためにより大きな為替レートの調整を必要とするでしょう.

Ben Bernankeの世界貯蓄過剰説に関する批判です.他の地域における貯蓄過剰がアメリカの対外赤字をもたらしているのであれば,アメリカの赤字は非常に大きく,しかも,ドル安にもかかわらず容易に調整されない,と主張できます.不均衡の拡大に対して,アメリカ政府は何もできないのでしょうか?

貯蓄が好ましく,金利や株価によって国内の投資と均衡するのであれば,貯蓄が大きいことは歓迎できます.しかし,国債資本移動を考えた場合,各国の貯蓄・投資バランスは変わります.それゆえ,一地域の過剰貯蓄が世界不況にもいたるのです.しかし同時に,アメリカの財政赤字が国際金融不安を広めていることも深刻です.

John M. Berryが指摘するまでもなく,アルゼンチンに言えることはすべてアメリカにも言えます.唯一の違いは,アメリカの債務が同じドルでも自国通貨建であることです.アルゼンチンはドルが外国の通貨でした.だから切り下げを恐れて通貨危機になったのでしょうか? いいえ,同じことです.ドル暴落を恐れて資本逃避が始まれば,アメリカ政府はデフォルトしないけれども,高金利で消費者や企業が破綻します.あるいは,それを嫌って世界にインフレを輸出するか,資本規制を行うのでしょうか?

ドルが暴落し,ヨーロッパや日本,そして発展途上諸国の開発が加速するか,それ以上にアメリカが不況になり,保護主義とともに世界不況が深まることで不均衡は解消されます.そうした調整過程を経た後に再建された世界の経済秩序は,今とかなり異なっているでしょう.


FT April 26 2005

Europe is in danger of becoming hollow at the core

George Parker

EUROPE ON THE EDGE: 10 possible consequences if France rejects the constitution

Gillian Tett

(コメント) フランスが5月29日に行うヨーロッパ憲章の国民投票において,その承認を否決した場合,EUやユーロは解体へ向かうのでしょうか? George Parkerの論説は混乱した状況を的確に要約しています.

市民たちはヨーロッパ憲章を自分たちに関係ないと考えています.そして最近のEU論争に失望を示します.しかし,ヨーロッパ憲章は2001年に「より民主的で,より透明で,より効率的な」EUを目指して政治指導者たちが話し合い,まとめました.市民の多くの権利を保障するとともに,EUは大統領と外相を持ち,EUの経済的な重要性を,世界政治における発言にも反映させるでしょう.

しかし,市民たちはヨーロッパ憲章を最近の拡大に対する正当化でしかない,と冷淡です.再び戦争が起きないように,という訴えにも支持はありません.統一された市場が繁栄をもたらしていない以上,むしろ社会保障や生活の安定を脅かす市場統合やグローバリゼーションへの反感が強まっています.シラク大統領は国民の反発をむしろ受け入れており,コアEUとして独仏連合と有志の集まりを再生します.

もちろん,EUの市場統合と開放により経済改革を加速することを指示する指導者たちは,それを後退とみなして反対するでしょう.その核心であるユーロ圏を動揺させるような議論は一切拒否します.しかし,すでに安定協定による財政規律は弱められ,ユーロ建の各国債券市場は一部で異なった取引を生じています.いつまでも貧しい諸国の粗末な債券をドイツ国債に交換し続けるでしょうか?

Gillian Tettはフランスの否決によってEUに起きる変化を予測します.

@ 拡大されたEUの近代化計画は終わる.

A 半年以上の政治的麻痺が続く.

B シラク大統領らはサービス取引を手始めに市場開放を拒む.

C トルコの加盟交渉は延期され,EU拡大は終わる.

D EU予算が成立せず,貧困地域への援助が止まる.

E 銀行がユーロ解体の危機を警告し始める.

F 市場の不安定化に対してECBは金利を引上げる.

G EU内の政治対立で,その外交的な立場が弱まる.

H 独仏をコアとした社会・財政統合を重視するグループとそれ以外に,EUが二分される.

I フランスの拒否を収集できなければ,EU解体の危機が深まる.


WP Tuesday, April 26, 2005

The Key to Our Energy Future

By John Ritch

(コメント) 世界的な原子力エネルギー開発への流れが復活していることに関する論説です.インドや中国,新興諸国はエネルギーの自立を目指します.イタリアやドイツでさえ,方針を転換する? しかし原子力発電は核兵器への利用や放射能汚染につながらないのでしょうか?


The Guardian, Wednesday April 27, 2005

Democratic deficit powers street protests

Simon Tisdall

(コメント) ロシアは次の大統領選挙に向けて政治的対立と直接行動が広範な社会不安を再現しています.中国であれ,ロシアであれ,政府が民衆の街頭における抗議を受け入れず,制度として吸収するより弾圧することを選択すれば,それは体制が崩壊するか,あるいは,権威主義的な抑圧を強めるか,衝突するしかないのです.


Asia Times Online, Apr 27, 2005

Obituary for an ATol contributor: Andre Gunder Frank (1929-2005)

By Jeff Sommers

(コメント) 従属理論,といっても,今では忘れられ,愚かさや軽蔑を含んだ意味でしか使われないかもしれません.その代表的な理論家であるA.G.フランクが,先週末,癌で亡くなったという訃報を読みました.

既存の体制を批判する学生たちの不満に強く影響を与えた思想家として,この記事はN.チョムスキーとともにフランクを挙げています.その晩年の協力者として,フランクのさまざまな側面を追憶しています.従属学派というより,世界歴史の理論を求めたようです.

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The Economist, April 16th 2005

The flat-tax revolution

Simplifying tax systems: The case for flat taxes

(コメント) フラット・タックス(単一税率制度)に関する支持を展開しています.複雑な制度によって権力を得た官僚たちに税金を納めなければ生きていけない現代国家の住民として,誰もがフラット・タックスを支持したい,と思うのは当然です.でも,それって保守派のシンボルや信仰告白ではなかったですか? たとえばフォーブズのような.

The Economistは,@フラット・タックスが現実的でない,A逆進的で富者に有利だ,B現代の福祉国家と両立できない,という反対意見を論駁しています.

フラット・タックスが現実味を帯びたのは,1994年に,エストニアが導入して成功したからです.もはや現実離れした議論ではなくなりました.その後,ラトビア,リトアニアが続き,2001年にはロシアも導入しました.その後も,スロヴァニア,ポーランドが実現しています.

フラット・タックスは,設計次第で逆進性を是正し,福祉国家とも両立できます.それは課税対象となる最低所得を決めて,貧しい人々を免税できますし,免税品目を決めることもできます.基本的に再分配は,課税ではなく政府支出によって行われます.複雑な税制による徴税費用や脱税の誘惑を取り去ることで,また,投資に対して二十二課税するゆがみを除去することで,フラット・タックスは成長を促進するとも言われています.

私は簡素な課税や透明な政府支出による再分配に賛成です.フラット・タックスのように面白いアイデアがあれば,日本の国家や官僚制度のイメージを大きく変える触媒になるかもしれません.


World economy: A call to action

The world economy: Running out of puff?

China, Japan and the UN: A collision in East Asia

(コメント) 石油価格は上昇してドル準備を増やし,世界の不均衡は中国とアメリカにおける高成長が日本とヨーロッパにおける低成長とによって拡大しています.しかし,石油価格は上昇し続けるわけではなく,中国とアメリカも成長し続けるわけではありません.不均衡が拡大し続けることは不可能だからです.

そのきっかけは人民元の対ドル固定性離脱かもしれませんし,東アジアにおける政治対立や北朝鮮かもしれません.アジア各地のナショナリズムや愛国主義,好戦的な言辞は,「魔法の壷から呼び出したジニーを壷に戻せなくなる」というわけです.