IPEの果樹園2005

今週のReview

4/25-4/30

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1 米中相互依存: 日米の時代から米中の時代へ向かうのは、アジアを不安定にする?

2 日中関係の複雑さ: 保守派政治家の復讐劇のため、国民は恐怖を煽られている?

3 自由貿易の時代: 砂糖の保護主義貧しい諸国への援助、国内政治。

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


FT April 14 2005

Putin misses a chance for economic reform

By Neil Buckley

FT April 20 2005

Exhausted gold mine

(コメント) ロシアにしても中国にしても,世界の投資家はビジネス・チャンスと政治的リスクを天秤にかけなければなりません.

1998年に通貨・経済危機を経て,プーチン大統領は経済改革を進めました.しかし,German Grefなど,プーチン政権内部のリベラル派が掲げた自由化計画を進めるより,彼は旧KGBのコネクション(シロビキ)を利用した基幹部門の直接支配を重視するようになりました.ロシアの官僚制は弱く,自由化に頼るだけでは民営化によって強大化したオリガークたちの富の力には対抗できない,と考えたからです.

Yukosをめぐる抗争はプーチンのオリガーク排除を明確にしましたが,プーチン後の大統領選挙に向けて,再びオリガークたちが結集し,グルジア,ウクライナ,キルギスタンに続く,「民主化」革命を目指しているようです.他方,経済利権を握ったシロビキたちは,ロシアの政経分離路線を唱えて,政治混乱への警告を強めています.ロシアが目指すのは,特権層が資源を支配するサウジ・アラビアか? 政治抗争と腐敗を蔓延させるヴェネズエラか? あるいは基幹部門の富を国家主導で工業化に振り向ける韓国・台湾・中国か? シロビキがオリガークたちを排除しても,富裕層の資本逃避と通貨的混乱が待っています.

中国が今まで成長加速に利用してきた外資と技術の流入は,次第に,多国籍企業を通じて世界の投資や企業業績を不安定化するでしょう.FTはフォルクス・ワーゲンが中国の自動車市場で50%を超える高いシェアと企業全体の利益の5分の4を得ていた状態が,むしろ非常に危険であったことを指摘しています.中国市場はまだ余りにも未成熟で,激しい価格競争と類似商品が氾濫しており,瞬く間に市場シェアが変化し,利益が吹き飛びます.政府のマクロ管理は不十分で,インフレや不況が繰り返し襲う可能性があります.金融システムの改革や腐敗,政治リスクも未知数です.

中国の金鉱山に殺到する世界企業は,それが突然,巨大なブラック・ホールであったと気づく日が来る,と.


The Guardian, Thursday April 14, 2005

For a Pax Europeana

Timothy Garton Ash

IHT Friday, April 15, 2005

Europe's unfinished business

Francois Heisbourg

CSM April 15, 2005 edition

Europe's Constitution Skeptics

The Guardian, Wednesday April 20, 2005

Eurosceptics may soon bless the French left

Simon Tisdall

FT April 21 200

Philip Stephens: Curious temptation of a French No

By Philip Stephens

IHT Thursday, April 21, 2005

A worthy constitution

(コメント) バルカンでは,オスマン帝国を解体するための戦争がまだ続いています.いつまでかかるのか? それは新しいEU帝国が不安定な地域を吸収するまで.周辺の多くの国がEUへの加盟を希望し,「植民地化して欲しい」と懇願する中で,むしろEUの中核的な諸国は存在理由を疑い始めています.

一方では,辺境における戦争を放置して戦乱が拡大するのを後から抑えるより,最初から統合化して,地域の諸集団を協調するように促すほうが良い.「国民国家」ではなく,「EUメンバー国家」として安定した秩序を求めているわけです.他方では,ますます拡大する加盟国にEU市民は不安を感じ,阻害されていきます.

Francois Heisbourgは,EUの最大の成果は,独裁体制を平和的に終わらせたことだ,と言います.西(スペイン,ポルトガル)においても,東(東欧共産主義諸国)においても,体制転換後の民主化を安定させました.しかし,NATOによる空爆でSlobodan Milosevicの独裁体制を終わらせた後,治安維持を多くの外国の軍隊に依存したまま,ボスニアとコソボは経済が崩壊し,再び不安定化を強めています.それゆえ,段階的な加盟国家の再建を積極的に支持します.

EU憲章の国民投票をめぐるフランス政治の混乱は,EU拡大と,それに伴う意思決定メカニズムの明確化を放棄させて,既に築いてきたすべての制度が機能麻痺に陥る危険を増大させます.それはEUの要塞化を目指すシラク大統領がアングロ・サクソン型のウルトラ・リベラリズムを非難したり,労働組合が組織の代表と反対する組合員の間で意見対立したり,トルコのEU加盟を批判する閣僚が居たことも関係しています.

EU憲章の中身は,さまざまな妥協の産物であり,一定の中央集権化を図りつつも,決して統一国家を目指すものではありません.その複雑な内容を説明するより,各国の政治家たちは国内政治の道具に使って論争を歪めてしまいました.ここで憲章を否決することは,自転車のように前進することで保たれてきたEUの求心力が失われ,トルコ加盟や周辺部の安定化を10年間は不可能にするでしょう.


FT April 14 2005

Imbalances worsen

April 15 (Bloomberg)

Is Argentina a Role Model for Philippines?

William Pesek Jr.

WP Tuesday, April 19, 2005

The Dollar Danger

(コメント) ヨーロッパと日本の景気が回復し,ドル安も進んだことで,アメリカの経常赤字は縮小することが期待されていました.しかし,2月のアメリカの貿易赤字は610億ドルに達し,記録的な規模であることがわかりました.IMFの警告は周知のものです.要するに,これほどの不均衡は持続不可能だ,というわけです.このままでは,いつか外国の投資家がアメリカに投資するのを止めて,ドル安,高金利,アメリカ住宅市場のバブル崩壊,世界不況などが襲うに違いない,と.

IMFが加盟国の政策に注文をつけることは難しく,何らかの危機によって協調が強いられるまで,IMFにできることは少ないでしょう.

今はともかく,将来,フィリピンのアロヨ政権もアルゼンチンの債務組替えに関心を示すようになるでしょう.クルーグマンやスティグリッツがアジア通貨危機以来,明確に資本市場の世界統合やアメリカ型資本主義の普及に疑問を示したことで,債務諸国はグローバリゼーションを批判的に議論しています.

スノー財務長官は中国が人民元をドルに固定している政策を強く批判しました.同時にアメリカは財政赤字を削り,ヨーロッパと日本は成長を促すように求められています.こうしたことを怠れば,ドル暴落が起きることも知っています.しかし,誰も改善策を実行せず,不均衡を積み上げています.


FT April 15 2005

Poison in the Sino-Japanese relationship

By Richard McGregor

BG April 15, 2005

Tensions in East Asia

(コメント) なぜ日中関係は複雑なのか? @ナショナリズム,A教科書,B靖国参拝,C国連安保理改革,D資源,E北朝鮮と台湾,などが重なっているからです.しかも,F日本と中国は政治システムや政治的な目標・価値観が異なっており,それにも関わらず,G経済的な相互依存を急速に深めてしまいました.

日本政府がいくら「謝罪」しても,日本国内の政治論争は抑えられず,中国政府は受け入れる準備がありません.かといって「謝罪しない」ことが,日中関係を好転させる工夫や仕組みも持っていません.日本政府はさらに中国との貿易や企業間の連携を重視し,中国政府はインターネット上の反日サイトや違法デモを事前に押さえ込むことです.

The Guardian, Friday April 15, 2005

When the safety valve blows

Isabel Hilton

JT Friday, April 15, 2005

Shedding imposed war guilt

By GREGORY CLARK

The Asian Age, April 16, 2005

Asia battles over war History

- By David McNeill Mark Selden

(コメント) つまり,どちらを恐れているのか? 中国政府は日本からの抗議よりも,反日デモを弾圧することで,彼らの不満が政府へ向かうことを恐れている,といくつかの論説が指摘します.

GREGORY CLARKは,中国側のそのような問題以上に,日本側の「謝罪」や「右翼」「保守派政治家」の姿勢を問題にしています.日本の保守派政治家たちの多くは,中国に対抗するためにアメリカと協力し(原子爆弾を市民に対して使用したことを糾弾するより),国民感情を歪曲させることに熱心です.繰り返し戦争における侵略行為の責任を当時の西側の圧力によって強いられたものと正当化し,虐殺の事実そのものを矮小化して,建前だけの「謝罪」を繰り返しています.

国民の間に中国に対する恐怖心を膨張させて,憲法改正や再軍備を実現することが保守派の本当の目標である,というわけです.つまり,日本の政治を第二次世界大戦後のドイツと比べるのではなく,むしろ第一次大戦後のドイツと比べるべきなのです.敗戦によって押し付けられた条件に不満を募らせたドイツの保守派は,ついに,ヒトラーによって報復することへ向かいました.

中国が反日デモを行ったことより,韓国が同時に強い抗議の行動や発言を示したことに,日本のメディアや政治家はもっと注目するべきでした.日本政府や右翼が,その支持者に対してではなく,各国の反日運動に対して有効な説明や反論をなしているとは思えません.

WP Sunday, April 17, 2005

China, Japan Meet as Protests Continue Around China

By Philip P. Pan

LAT April 18, 2005

Japan's Worst Enemy

WP Monday, April 18, 2005

China's Selective Memory

By Fred Hiatt

The Guardian, Tuesday April 19, 2005

Japan emerges as America's deputy sheriff in the Pacific

Simon Tisdall

(コメント) 日本の右翼政治家たちは,中国と日本で相互にナショナリズムが高まることを歓迎しているでしょう.日本政府は,戦争の歴史や責任者を処罰することに曖昧さを残し,その意味で,中国側が道徳的な主張を繰り返す余地を残しているわけです.「謝罪せよ!」 もちろんです.政治家は,その言動に責任を持つべきですから.多くの政治家は,もっと明確に語る必要があるのです.日本であれ,中国であれ,韓国であれ,問題を真摯に受け止める姿勢があれば,新しい協調関係を築けるでしょう.

たとえば,WPは日本と中国の教科書について,その既述内容や政府の関与を比較しています.開かれた社会であれば,教科書の既述がより正しく見直される機会はあるが,閉鎖的な独裁国家には政治的に利用する姿勢しかない,と.

日本と中国の国際政治における位置関係を正すべきなのでしょう.日本は日米安保を頼りに,アメリカとの同盟関係を世界的規模に拡大することで,中国と対抗しようとしています.それは,朝鮮半島や台湾海峡を挟んでアジアに残る冷戦構造の先頭に位置する姿勢に他なりません.本当に,国民はそれを望んでいるのでしょうか?

中国が対抗しているのはむしろアメリカであり,米中間で新しい冷戦構造が準備されているのかもしれません.

JT Wednesday, April 20, 2005

Put a lid on rising Sino-Japanese tensions

By MIKE MOCHIZUKI and MICHAEL O'HANLON

WP Wednesday, April 20, 2005

The New Nationalism

By David Ignatius

(コメント) もちろん,たとえ一部の軍人や保守派政治家が吹聴するとしても,アジア各国のナショナリズムや米中冷戦構造を歓迎するのは,根本的に間違った計算です.次の軍事的衝突や作戦行動を有利にするとしても,多くの国民が財産と命を失います.

教科書についても,資源開発についても,日本は関係する諸国との共同プロジェクトを呼びかけることができます.それは,無人島の帰属をかたくなに主張するより,はるかに政治的魅力のある提案です.さらに,アメリカは台湾海峡をはさんで軍事的に対峙する米中関係を,日本まで巻き込んで過熱させるべきではなかったのです.

David Ignatiusは,グローバリゼーションにおける「新しいナショナリズム」を考察します.フリードマンが言うような平坦な世界は,ビジネスマンのユートピアに過ぎません.現実の世界は亀裂と起伏に満ちています.中国と日本は新しい地政学上の亀裂を深めており,ヨーロッパの連邦主義を目指したEUは新しいナショナリズムに適応するしかないでしょう.イランは自分たちで原子爆弾を作りたがる.

ロシアのプーチンは,旧ソ連圏で連続した「民主化」革命の支援団体Pora(すなわち"It's Time.")に対抗して “Nashi”(すなわち,若者の間に広がるナショナリズムを鼓舞する「われら」)という運動を賞賛しました.このナチズムではない,右翼の集まる「ナシズム」が,各国に広まる世界は,皮肉なことにブッシュ政権を国際主義の熱烈な支持者にするでしょう.

WP Thursday, April 21, 2005

Power Plays in Asia

By Jim Hoagland

Asia Times Online, Apr 22, 2005

Blame enough to go around in Northeast Asia

By Brad Glosserman and Scott Snyder

(コメント) アジアのバランス・オブ・パワーが変化し始めた,とJim Hoaglandは考えます.それゆえ,アメリカも今までと同じように日本の役割強化を支持するだけではいけない,と.アメリカが北朝鮮に対して取った強硬姿勢は,韓国や日本との軋轢を生じました.しかし特に,国連安保理に改革をめぐって日本が常任理事国に参加する提案を,中国政府がナショナリズムを動員して排除しようとした選択は最悪のものでした.

Brad Glosserman and Scott Snyderは,日本,中国,韓国の政府が,アジアの協力関係に向けた指導力を発揮するより,自国の短期的な政治的支持を得ることに制約されて,互いの対立を悪化させている,と批判します.外部の「敵」を強調すればするほど,自分たちの「国益」を守る姿勢は譲れないし,強硬さによって支持が増えるだろう,という計算です.たとえば,日本がもっと積極的に貿易自由化を進めて,「譲歩」ではなく国内改革を促す刺激として市場を開放し,中国や韓国に協力姿勢を示すべきではなかったか?


WP Friday, April 15, 2005

A Broader View of Aid

(コメント) 開発援助を発展途上諸国の行政管理能力に依存する必要はない,と主張します.援助の多くが政治家によって横領されたり,地域住民に環境破壊や移住を強いたり,援助団体の運営費や多国籍企業の利益に消えてしまうよりも,たとえば貧しい人々に優れたワクチンを開発・供給するため,豊かな諸国の製薬会社に開発を支援することも重要な開発援助になる,と.


The Asian Age, April 16, 2005

China can gain from unshackling its currency

- By Rob Trudel

(コメント) 人民元切上げと金融自由化に関する論点の整理です.アメリカ政府は中国に対する貿易赤字が増大することに対して不満を強めており,人民元を切上げるべきだという要求を繰り返しています.

しかし,人民元が切上げられた場合,アメリカの貿易赤字は減るかもしれませんが,同時に,中国とともに為替介入を続けてきたアジア諸国がドル準備を減らし始めるでしょう.つまり,アメリカの金利が上昇して,企業は利子コストが増えるので,最終的に利益をもたらすと断言できない,とRob Trudelは考えます.

他方,切上げで競争力を失う中国企業にとっては苦しい選択ですが,中国政府は金融自由化を目標に掲げており,人民元切り上げは為替レートの市場による決定やインフレ抑制のために金融政策の自由を確保する重要な条件である,と考えます.

金融自由化によって中国人は外国の資産にも投資し,外国投資家が中国への投資を増やすでしょう.金融改革を進めて,発達した資本市場が形成されるでしょう.しかし,市場で決まる為替レートや金利が現実の水準と大きくかけ離れている状態では,自由化による混乱が生じます.

切上げせずに金融自由化が行われれば,おそらく資本が流入して国内のインフレや住宅バブルなどが強められ,金利を引き上げるために,結局,投機的な圧力の下で過度の切上げを強いられるでしょう.それは競争力を失う中国企業にとってさらに多大なコストになります.

もちろん,切上げも悪いことばかりではありません.加熱した経済を冷まして,インフレを抑制できるでしょう.すなわち,適度な切上げによって,円滑な金融自由化を可能にすることが中国の利益になる,とTrudelは主張します.それは中国にとってもアメリカにとっても単純な利益や損失を意味するのではないが,資本流入が続き,切上げを期待される時期に,アメリカ政府の要求に先行して実施することが望ましいだろう,と.


LAT April 16, 2005

Scapegoat, Made in China

FT April 17 2005

China put on notice over its currency

By Andrew Balls and Scheherazade Daneshkhu in Washington

FT April 18 2005

The west must face the facts on trade with China

By Guy de Jonquieres

FT April 19 2005

US deficits aren’t just China's problem

By Martin Wolf

(コメント) アメリカと中国の関係は,飽くことを知らない買い物好きの客と,たまった支払いを請求せずに融資してくれるデパートとの関係に似ています.中国製品は安いから買っているのであり,彼らが通貨を不当に安くしているわけではありません.賃金が10倍も20倍もするアメリカ市場で売る商品の価格が,為替レートを10%や30%変更しても変るはずがない,とLATは認めます.むしろ,中国の黒字や為替レートはアメリカの政治家たちにスケープ・ゴートとして利用されているのです.安価な商品をクレジットで買わせてくれる中国が居るから,世界経済の成長は維持されているのです.

しかし,G7の声明では,一致して中国政府に通貨制度を変動レート制に改めるよう要求しています.それが世界の不均衡解消にとって重要だ,というわけです.そして,中国を名指しすることに抵抗した日本政府に対して,アメリカのスノー財務長官が強く中国に今すぐ行動を求めるべきだ,と主張しました.もちろん,両国の国内政治が姿勢の違いに表されています.

Guy de Jonquieresは,以前から続く貿易赤字の責任を中国製品に負わすのではなく,中国には効率的な資本市場により過剰生産を防ぎ,価格引き下げ競争を止めさせるべきである,と主張します.しかし,時間のかかる,効果のはっきりしない,まじめな提案より,即座に国内業者が利益を得られるような,保護主義を正当化するために,政治家たちは情熱を傾けます.

アメリカ議会が始めた「日本叩き」に続く「中国叩き」の合唱に,Martin Wolfも反対します.Nouriel Roubiniも,アメリカが財政赤字の4分の3,経常収支赤字の80%を外国の投資家に頼っている事実を挙げて,飼い主に噛み付く,危険な火遊びだ,と批判しました.

しかし,同時に,こうした不均衡を続けていくことがアメリカの長期的な利益にならないのも当然です.Wolfは,アメリカが財政赤字を削り,ドル安を進めることを求めます.その場合,中国は他のアジア諸国とともに,通貨危機後の外貨準備積み増しに終止符を打って,直接投資の流入に見合う経常収支の黒字を目指すべきだ,と.

NYT April 21, 2005

Blame China?

(コメント) アメリカの「強いドル」製作が終わったと思えば,今度は「弱すぎる人民元の切上げ」政策に転換しました.決して,「ドル安政策」とは言いません.NYTは,関税を引き上げてでも切上げを迫るべきだ,という新保護主義の支持者に反論します.

@人民元を切上げてもアメリカの赤字はなくならない.A国内の金融システムが不安定で,金融市場が発達していないような新興市場では,ドルに固定する政策が正しい選択だ.Bしかし,国内景気が過熱し,経常黒字も累積している中で,金融を引き締めることとドルとの固定制を維持する方針とが投機的な資本流入を招いている点が問題だ.

つまり,中国政府が金融システムの準備を急ぎ,それまで固定レートにどの程度耐えられるか,判断を任せるべきだ,と.


LAT April 16, 2005

Sugar-Coated Nonsense

WP Saturday, April 16, 2005

Big Sugar

(コメント) アメリカ議会・政府は,国内砂糖生産者の強力な政治同盟から圧力を受けて,厳格な割当制によってフロリダのサトウキビ生産者(年間10億ドルの利益を得る)と中西部の甜菜生産者を保護してきました.ドミニカ共和国とのCAFTA締結は,この制度に漸く小さな穴を開けたようです.アメリカが国内で消費される砂糖を国内で生産しなければならない理由はなく,さらに砂糖の価格を高くして,アメリカのキャンディー生産者が廃業するか,国外に工場を移転してしまうのを促したのです.アメリカが自由貿易を唱えるのであれば,真っ先にこの偽善を破棄しなければならない,とLATは主張します.

日本と同じように,保護を求める強い政治的な要求を抑えるは,むしろ多角的な交渉において自国が開放して欲しい輸出市場を得るために,国内市場を開放することを受け入れさせるしかないように思います.二国間のFTA交渉に多くを期待することはできません.

年間10億ドルの利益を得るサトウキビ生産者は,政治献金を92万5000ドルもしています.そして,消費者は余分な価格を支払い,もっと効率が良いのに生産できない貧しい諸国の農民が苦しみ,環境が破壊され,砂糖を使用するお菓子業界が衰退しました.何よりもアメリカの自由貿易交渉が砂糖保護の犠牲にされたのです.


April 18 (Bloomberg)

Free Money in Japan? Not So Free After All

William Pesek Jr.

FT April 19 2005

Japan's post office sell-off could prove hard to deliver

By David Pilling

(コメント) 日本のゼロ金利政策も,郵政民営化も,英米の専門家には何に見えるのでしょうか? ゼロ金利でも景気が回復しない? 消費者が物を買わないから? 赤字を出しても国営部門として永続させたい? 雇用や年金の不安を解消するために,さらに財政破綻の不安も加えるわけです.

郵政省は,預金量350兆円,世界最大の銀行です.しかし,政治家たちが気にするのは地方における雇用やサービスです.これはバブル破綻後の最初のイデオロギー論争だ,と記事は研究者の意見を紹介しています.本当にそうであれば良いのですが.不透明で,不正直な国です.


BG April 17, 2005

Humanitarian intervention in Darfur?

By Eric Reeves

NYT April 17, 2005

Mr. Bush, Take a Look at MTV

By NICHOLAS D. KRISTOF

(コメント) ダルフールで続く住民の虐殺を,国際社会が人道的な介入を行って止めるべきだ,という論説です.

1915年,トルコにおけるアルメニア人の虐殺に抗議すらせず.1943年,アウシュビッツへの空爆を拒否.1970年代,カンボジアの虐殺.その後も,ボスニア,ルワンダで大量虐殺が起きたが,アメリカは介入を拒んだ.今は,スーダンで続いています.


NYT April 18, 2005

A Whiff of Stagflation

By PAUL KRUGMAN

BG April 20, 2005

An economy going nowhere

By Robert Kuttner

(コメント) PAUL KRUGMANは,金融政策が1970年代のスタグフレーションで陥ったように,金利を上げれば失業が増え,下げればインフレになってしまう,という事態が再現されつつあることを考察しています.

労働市場のデータはクリントン政権時と同じ程度に改善されています.しかし,実態は,求人が減っただけであり,しかも賃金は切り詰められています.その意味では,金利を下げてもいいはずです.ところが連銀はインフレの兆候に注意して,むしろ金利を上げようとしています.インフレの主要な原因は,石油価格の高騰ではなく,アジアの需要増加とドル安です.

KRUGMANは,消費の落ち込みが予想以上であった場合や,サウジの製油所が破壊された場合,アジア諸国の中央銀行がドルを売り,あるいは,住宅価格のバブルが崩壊した場合,金融政策がこのスタグフレーション的なジレンマをさらに強めるだろう,と言います.こうした問題は金融政策だけで解決できません.なぜなら,ブッシュ政権の今までの失敗が積み重なった結果だからです.

Robert Kuttnerは,このスタグフレーションの背景を,世界市場に中国とインドが参加したことだ,と考えます.石油などの国際商品市場で需要が強まり,他方,労働市場では供給が強まった.しかし,もしインフレの原因が海外にあるとしたら,連銀が金利を上げても,失業が増えるだけでインフレは解消しません.Robert Kuttnerは,財政赤字を減らして外部の資本供給に頼るな,石油政策を見直して中東の石油供給に頼るな,と主張します.


WP Monday, April 18, 2005

More Than Free Trade

By Sebastian Mallaby

5年前,自由貿易論者は暇を持て余していた.反グローバリゼーションの活動家たちは粗雑な連中で,その主張は容易に否定された.しかし今,もっと困難な論争が始まっている.貿易に関する難しい問題が,グローバリゼーションの支持者から提起された.そして危険なことに,政治家たちはこれらの問題に間違った答えを与えてしまうだろう.

最初の問題は,貿易自由化によって損失を被る貧しい諸国もあることだ.その可能性は今年始まった繊維・アパレル製品の世界的な割当廃止によって示された.1980年代と90年代の前半,発展途上諸国は,豊かな諸国への輸出が増えると期待して,これらの割当を廃止するように求めた.しかし改革の進む15年間に,中国が超大国となって登場し,この見通しを大きく変えてしまった.多くの貧しい国は,中国の参加した世界市場で割当制なしに競うより,たとえ貧弱でも割当があったほうが良くなった.

この現象は繊維に限らない.多くの貧しい国が二国間や地域間の特恵的取り決めで豊かな国の市場を得ていた.世界貿易を自由化することは特恵を失うことになる.たとえば,もしアメリカが砂糖の割当を廃止すれば,効率的な生産者である,ブラジル,タイ,カンボジアが輸出を増やすだろう.しかし,割当のおかげでアメリカに再輸出していた国は市場を失う.

このことは輸出補助金についても言える.豊かな諸国が農産物補助金を止めれば,ヨーロッパやアメリカの生産が減り,世界価格を上昇させる.それは食糧を輸出するブラジルやアルゼンチンには大きな利益だ.しかし,多くの最貧諸国は食料の純輸入国であるから,世界の食料価格が上昇することは彼らを苦しませる.

第二の問題は,自由貿易が貧しい諸国に与える影響である.たとえ国全体では利益を受けても,国内の貧しいグループや貧しい地域はそうではないかもしれない.

豊かな諸国の政治家は,国内の保護主義勢力を喜ばせるために,これらの問題を取り上げて強情さを増している.これはまったく間違った反応だ.貿易の利益はその損失よりも大きく,二つの問題も貿易を悪だと示すわけではない.それは補完的な政策を必要としている.

こうした政策は,喜んで,自由貿易の哲学を拡張する.自由貿易が最もうまくいくのは,労働移動が容易な国である.たとえば,インドは1990年代に劇的な貿易自由化を行い,貧困を減らした.しかし,インドの労働者は驚くほど産業間・地域間の移動性が低かったために,関税をなくした結果,縮小する部門で働く人々は苦しんだ.労働移動を制限する規制を入れることで貿易自由化を「緩和」しようとするリベラル派はその戦略を改めるべきだ.

自由貿易を補完する他の政策は,右派の考え方に修正を求める.なぜなら,より多くの援助を求めるものだから.たとえば,ブラジルやアルゼンチンの輸出を抑える豊かな諸国の農産物補助金を廃止して,それを食糧輸入国への援助にまわせばよい.3500億ドルの補助金の半分を援助にまわすだけで,今の援助額を3倍にする.アフリカの農業技術の改良に充てれば,アフリカの農民も,ブラジルやアルゼンチンも,アメリカの納税者も,利益を得る.

同様に,援助は特恵制度のジレンマを解決する.友好国を特恵によって支援することは自己破壊的である.すぐに多くの国が「特恵」を得て,誰も有利でなくなるから.しかも,特恵は国によって有害な規制をもたらす.たとえば,アフリカ製の衣服は免税であるが,その一部に中国製のものが加われば,弁護士たちが大騒ぎする.むしろ,誰に対しても規制を行わず,特定の地域に援助を与えるほうが良い.

5年前,貿易は貧しい諸国にとって不利益だと政治的に主張された.ありがたいことに,こうした非難は消え去った.しかし,われわれは反対の失敗にも注意しなければならない.たとえ望ましいとしても,自由貿易は万能薬ではない.


Asia Times Online, Apr 19, 2005

Chorus for change in IMF and World Bank

Emad Mekay

(コメント) 24カ国委員会(G24)がIMF・世銀の「民主主義の赤字」を強く批判しています.総裁をヨーロッパとアメリカが独占するだけでなく,一人一票でも,一国一票でもなく,アメリカだけで拒否権を持ち,G7諸国では全体の60%を抑えて,重要な決議を独占するやり方は間違っている.購買力平価による国民所得に従い,分担金の配分を改めて,もっと発展途上諸国に発言権を与えるべきだ.そうすれば,もっと一次産品価格の変動や,不安定な国際資本移動,その他の外的なショックを緩和することにIMF・世銀が関心を向けるだろう,と.


The Guardian, Tuesday April 19, 2005

No free lunches for pensioners

Joseph Stiglitz

(コメント) 年金制度を民営化することでその赤字が解消できる,というブッシュ政権の主張を否定しています.民営化にできることは,さまざまな取引費用を増やし,財政赤字を膨張させ,株式市場のリスクを個人に負わせることです.ブッシュ政権の提案は,大幅に給付を減らすから赤字が解消できるのであり,それは民営化と関係ありません.そして彼らが民営化を好むのは,取引費用の増大は金融市場の利益になるからであり,社会保障がもたらすささやかな所得再分配も嫌うからです.


FT April 20 2005

The case for setting a limit on foreign workers

By Peter Lilley

(コメント) 移民の数はもっと少なくてよい,と保守党のPeter Lilley議員は考えます.移民がもたらす利益は,その数が増えれば,急速に増大するコストによって圧倒される,と.マルサス風の移民論です.

以下の分類に属さない移民は「過剰」なのです.@多国籍企業の労働者,A各界のスター・パフォーマー,B企業家,C国内労働者が不足している分野では,市場をゆがめないように,一時的な雇用を認める,Dシティーのような世界的規模のビジネス.


BG April 20, 2005

Careless on North Korea

(コメント) ブッシュ政権の北朝鮮に対する威嚇政策は,核問題を解決しないどころか,アジア諸国をアメリカから離反させています.安保理の制裁によって北朝鮮を降参させる発想で,アメリカは日本の再軍備や国際展開,安保理常任理事国入りを主張してきました.しかし,韓国は制裁を嫌って,中国とアメリカの中間に立場をとり,中国はアメリカによる封じ込めを嫌って,日本に対する抗議を加熱しています.アメリカ政府は,北朝鮮との取引に応じ,アジア諸国の関係を安定化するべきだ,と.


FT April 21 200

How the Fed is doing China a favour

By Stephen Roach

The Guardian, Thursday April 21, 2005

From bad to worse

(コメント) 中国の輸出指向型工業化は,すでにドル・ペッグによる加熱,インフレ,投機を生じています.アメリカと同じ為替レート,アメリカと同じ金利で,中国が国営企業・銀行システムの改革と雇用を確保する成長率を安定的に維持するには,もっと微妙な政策によるバランスが必要になっています.開放による成長加速の時期は終わったのです.

アメリカ政府が中国に変動レートを求めるとき,中国は商品を輸出するだけでなく,アメリカから証券を輸入していることを忘れるな,と言われます.かつて,1980年代に日本とアメリカについて言われたことですが,再び,貿易赤字と失業をテーマとして「中国叩き」を始めた議会が,同じような結末を期待しているとしたら,危ない話だ,と思います.

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The Economist, April 9th 2005

China: The silent majority

The West Bank: Life in the armpits of Palestine

(コメント) 中国の沿海部が目覚しい成長を遂げ,バブルも懸念されている一方で,内陸部の球状は外国メディアに閉ざされています.この記事は,地方レベルにおける代表選挙について,氏族による集票行為と対立が起きている,と指摘します.都市近郊の村では,外国企業や住宅建設に当局が土地を貸し与えるだけで容易に富をもたらしました.氏族による民主的選挙の支配と,集団化を解体する過程で発生した富の分配をめぐって,激しい政治対立が起きることはないでしょうか?

他方,ヨルダン川西岸から撤退するイスラエルは,セキュリティー・フェンスでパレスチナ人の村を孤立させています.救急車でさえも止められて病院に着けずに死亡し,学校に通うにも大きく遠回りを強いられ,農民たちは畑を強制的に接収されています.