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IPEの種 4/25/2005

ロッキー・イナゴの大群がどれほどの猛威を振るったか,アフリカ諸国が今も苦しむイナゴの大量発生と並行して歴史の謎解きに挑む番組が面白かったです.また,「平成若者仕事図鑑:あすをつかめ」で,バスの運転手として働く若者の姿にも感心しました.こうした優れた映像を中国でも放送して,相互に理解を深め,優れた社会的価値を共有してほしいです.

なぜ若者は,電車の中でも,友人と大声で私的な会話に熱中するのでしょうか? 周りを無視してヘッドホンで音楽を楽しみ,疲れた老人たちが乗ってきても足を広げたままゲームに夢中になる者が多く居ます.電車の中と言えば,かつては新聞や文庫本を読む人が居ました.友人もおらず,仕事もない若者が衝動的な犯罪に走り,あるいは殺人を犯したというTVニュースを毎日のように観ていると,彼らがもっと社会的な広がりに関心を向け,互いに暮らしを豊かにしたり,楽しくしたりできる関係を,もっと自由に持つことができれば,違った人生を生きたのではないか,と思います.

ヨーロッパがEUによって政治的に統合される日は来るのでしょうか? 最近のヨーロッパ憲章をめぐる世論は,フランスでもドイツでも悲観的です.・・・ベルリンの壁を再建し,できればソビエト連邦と冷戦も再現してくれたら,もう一度,個人の努力が報われる,安定した,より平等な社会が戻ってくるのではないか? アメリカ帝国とヨーロッパ帝国が対峙し,ソビエト帝国と中華帝国が彼らのバランサーとなる世界秩序を樹立すれば,辺境における民族紛争や不安定な市場秩序を排除してくれるのではないか? ・・・そんな妄想さえ漂います.

私はEUが,政治統合としては独仏同盟とベネルクス3カ国に縮小した方が良いのでは,と思いました.そして,ユーロの加盟諸国は為替レートの固定化や通貨同盟からの離脱をもっと自由に選択すればよいでしょう.ヨーロッパ憲章が,いわばIMF協定と同じように,加盟諸国に対する政治的な基準を示し,その社会・政治的危機に際して,協調して軍事的・財政的に支援する枠組みを提供すればよい,と思います.10億人に及ぶ巨大な民主主義制度に合併することは,むしろ矮小な差別化,もっと野蛮な憎悪によって,政治的合意を阻むようになることを恐れます.

経済的に見れば,自由貿易による相互利益こそグローバリゼーションの基礎です.さらに,経済の相互依存と資本移動が増大すれば,為替レートの変動を安定化する必要に気づいて,発達した工業力と民主主義を確立した諸国は共通通貨を樹立するだろう,とかつてリチャード・クーパーは予測しました.そのためには政治的な連邦制も必要とされるのか,それは分かりません.

民主主義が正しく機能するためには,間接選挙の規模と,教育およびメディアの役割が重要だ,と思います.民主主義は,その起源から,群集と彼らを煽動する野蛮な指導者を恐れてきました.それゆえ,独裁者を追放する手続きを明示し,拮抗する勢力を維持するような制度を育てています.より多くの人が隣国の言葉を自由に話し,世界共通語(英語?)で教育を受け,仕事をするようになれば,世界はより平等になるでしょうか? しかし,ほとんど差異のない言語でありながら,民族差別や流血の紛争に陥った事例もあります.最終的に異なる政治社会が統合するとしたら,それは言語の習得や通婚によって人間関係が融合していくからでしょう.

産業社会のグローバリゼーションが進めば,中産階級や平等な社会秩序は失われる,という懸念があります.すべての社会が問われるでしょう.知識による優位を常に再生できるか,あるいは,低コストを武器に安価な輸出品で世界市場を奪えるか? と.つまり,ヨーロッパも日本も選択を迫られます.「アメリカになるか? それとも,中国になるか!」 豊かな国の中産階級,世界システムの中所得国は,ともに破産する危険が高まっている,とG. Garrettは指摘します.( “Globalization’s Missing Middle,” Foreign Affairs, Nov./Dec. 2004 )

市場統合を優先するグローバリゼーションにおいて生じる不安定化やショックに対して,私たちは経済的な調整とともに,政治的な調整や和解,補償も必要としています.それにも関わらず,政治家たちは問題を単純化し,粗悪な感情論にすり替えます.スケープ・ゴートの政治,人種差別の政治,エリート主義,排外主義,産業や文化の保護主義,集団化と英雄願望の政治,・・・などがはびこります.

私は中国が,将来,民主的に競争する複数政党制や連邦主義に移行し,アジア諸国との制度的な調整メカニズムにも参加するだろう,と思います.安全保障も,資源・エネルギーも,交易の安全や輸送インフラの整備も,移民や資本移動の安定化も,私たちは国家を超えて協力する必要があるからです.

もっと自由で,もっと平等な(所得においても,社会的地位においても),安定した秩序の下で,活発に革新を実現できる社会を地球規模で組織してほしい.・・・私の願う,そんな社会は,どの国にも,誰にとっても,未来の領域にはきっと含まれているでしょう.

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