IPEの果樹園2005
今週のReview
4/11-4/16
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つだけ推奨するとしたら?
1 ヨハネ・パウロUの死 :死者への賛美.ローマ法王となった人の,宗教と政治について.
2 アジアの不安 :日本,中国,韓国をめぐって大きな不安を解消する時機を逸するのか?
3 EUの不安 :すでにヨーロッパを賛美してきた者さえ離反した政治制度をどうするのか?
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor
The Guardian, Thursday March 31, 2005
The neocon revolution
Martin Jacques
(コメント) Martin Jacquesは,現実の変化より認識が大きく遅れることを指摘します.サッチャリズムがその後も長く広く影響する,新しい重要な変化を示していることを,評論家たちはなかなか認めませんでした.「ブッシュ政権とネオ・コン革命」もそうだ,と言います.
ネオ・コン革命は,ブッシュの再選を支える国内政治の保守的転換を果たし,パウエルを排除してライスを国務長官へ,ボルトンを国連代表へ,ウォルフォウィッツを世銀総裁へ送りました.イラク戦争をめぐる対立もヨーロッパはアメリカの新しい指導者と権力の性格をようやく受け入れ,京都議定書や国際刑事法廷,グァンタナモの捕虜問題でも,国際的な枠組みがアメリカの権力に譲歩するしかないことを認めました.
北朝鮮や中国に関しては,イラクやソ連と異なった対応が取られています.それはネオ・コン革命が単にイデオロギーではなく,韓国・日本との近接性や,日本の同盟国としての役割変化など,現実の国際秩序が転換する過程に組み込まれるからでしょう.
アメリカを欠いた国際秩序はありえないし,アメリカが変われば国際秩序も変わることを,誰もが次第に認めるようになるのです.・・・ようこそ! ワシントンの描くすばらしい新世界へ!
LAT March 31, 2005
A Dangerous Line in the Sand
IHT Friday, April 1, 2005
It's the working class that bears the burden
Jonathan Power
(コメント) 社会保障制度を民営化することができそうにないことをブッシュ氏は理解しつつあるかもしれません.しかし何も議論せずに,移民と国境の管理は民営化が進んでいます.あたかも花粉症に苦しむ日本人のように,非合法な越境を取り締まるために苦しむのはアリゾナ砂漠に接する住民たちです.もちろん,厳しい国境警備を避けて出稼ぎに向かう移民たちこそ,過酷な砂漠の横断で,ますます多くの命を落とすでしょう.ようやくたどり着こうとした労働者たちを,住民の「自警団」が銃を持って待ち受けます.
フランスでもアメリカでもマレーシアでも,新しい移民たちが増えて最も負担を強いられるのは労働者たちです.しかし,移民政策や国境問題の議論を支配するのは中産階級と保守派の思想です.Jonathan Powerは,移民が受入国の利益になる,という経済学の認識に反対する研究を紹介しています.
George Borjasは,移民労働者の大規模な流入はその国の労働者の所得を大きく減らす,と言い,Donald Davis and David Weinsteinは毎年700億ドルと推定しています.ところが最近の移民排斥や人種差別事件を引き起こす過激な政治集団は,かいがいりょこうをたのしむような裕福な家庭が多く,高齢化や経済過程の急激な変化で労働市場の隙間を埋めてくれる移民たちの役割を理解していません.
各国の移民をめぐる是非は微妙なバランスで政治的に維持されてきました.しかし,このまま大規模な移民流入が続けば,政治的な混乱が深刻な影響をもたらす,と言います.Powerは三つの対応策を指摘します.
1.アメリカのthe Cato Instituteが主張するように,移民を含めて労働市場を完全自由化する.プエルトリコからの移民に対して,既にアメリカは部分的に実施しています.2.フランス政府が最近決定したように,従来は移民労働者が満たしていた仕事(育児,洗濯,庭の手入れ,老人介護,など),いわゆるマック・ジョブを自国の労働者によって充足する.3.スウェーデンが行っているように,出生率を高め,高齢者の労働参加率を維持する.70歳や75歳でも,健康であればバスや電車を運転できる.
FT April 1 2005
Christopher Caldwell: The paradox of John Paul II
By Christopher Caldwell
ローマ法王ジョン・ポール(ヨハネ・パウロ)2世は,1990年代半ばから病人とみなされてきた.その話は先週まで語られなかった.法王はその驚異的なたびを続け,かつての法王264人をしのぐ長い期間を務め,その後継者を選ぶ136人の枢機卿の内130人を選んだ.しかし今や84歳で亡くなった彼の遺産について語るときだ.
法王を熱愛する者も,また非難する者も,同じ事件を取り上げる.すなわち,第2回バチカン会議の近代化です.非難する者にとって,その会議は裏切りであり,特に,性の問題に関して,カソリック教会を近代化する流れを逆転させたのです.擁護する者にとっては,その会議でカソリックは「神の民」として描かれ,セクシャリティーに関して一貫した教えを法王は授けた.信者たちにとっての矛盾した性格は,40年前には教会がかかわる問題と予測できなかったことが含まれるからだ.すなわち,「アイデンティティーの政治」と性的な自尊心である.
ジョン・ポール2世は政治的な保守とリベラルの分類を超越する.多くのヨーロッパ人やアメリカ人にとって,共産主義に反対し,1979年の最初の訪問国をポーランドとした彼は保守派である.1980年代初めには,ブラジルやニカラグアで左派の聖職者たちが政治に関与しないよう警告した.神学上の保守主義が政治的な保守主義と結びつくと見られる.法王は良心の自由を絶賛するが,それが制御できないときには相対主義に陥ると警告した.1990年代初めに,ヨーロッパは「新しい不信心(偶像崇拝・快楽主義)」に向かっていると警告した.ワシントン・ポストの最近の論説は,彼を「中道寄りの権威主義的儀礼崇拝者」と描いた.
しかしまた,法王の政治姿勢は貧しい国から見ると違って見える.彼は単にキリスト教徒だけでなく,人類に向けて語った,最初の法王である.他宗教との和解が第2回バチカン会議の中心課題であった.彼が法王として執着したことは,教義の違いを解決し,カソリックと正教会との和解を進めることだった.彼はユダヤ教会にもモスクにも訪れた.宗教以外の問題について,彼の姿勢は反動主義者を喜ばせなかった.かれはふぉるランド紛争,湾岸戦争,イラク戦争に反対した.ベルリンの壁崩壊の直後に,資本主義の「社会的な罪」を罵倒し,特に世界的な規模の貧富の差を非難して,世界経済の改革を求めた.そしてブラジルを訪れた際,法王の指輪を極貧のスラム住民に与えた.
法王をイデオロギーで判断することはできない.際立った学術的な哲学者であり,強烈な知識人であったが,その政治的立場は非論理的で恣意的に見えた.その自伝作家であるGeorge Weigelは,法王を前任者たちよりもはるかに非政治的であった,と言う.ジョン・ポール2世は国家の指導者のように振舞うことを拒み,一人ひとりに説得を通じてその良心を動かそうとした.彼の神学は古典的なカソリック神学(トマス・アキナス)と20世紀の現象学(フッサール,マックス・シェーラー,など)を結び付けたものだった.「自由と道徳的な行為を愛するという至高の価値を,各人がその個人性を理解する中に」求めた.
それゆえ法王を超モダン空想家とみなす者や,狭量な反動家と見る者があった.特に彼の性問題に関する発言は論争の焦点となった.法王の世界観は,社会に関する非宗教的な理論と共通した部分がある.それは,「アイデンティティー政治学理論」だ.それは,通常,宗教的な人々は相対主義的,快楽主義的,退廃的であるとあざけっている.カナダの哲学者であるCharles Taylorはアイデンティティー政治を,人々が伝統的な階層性なしに世界の中に位置づける方法,として理解する.すべての人に役割や地位を与えた過去の社会システムが失われたとき,今や,人々はその関係性を通じて自分の意味を発見する.「関係性は自分を発見し,事故を確認する鍵とみなされるのだ」と,Taylorは述べている.
法王もまた,関係性を発見の鍵だとみなす.それ以上に,結婚生活における「性的な交友(聖体拝受,の意味もある)」が「人間にとって神を理解させる」と発言し,性に関してオープンに語ってきた.しかし神を関係的な倫理に持ち込めば,その結論はTaylorと異なり,アイデンティティーと言われているものは無神論者の独我論だ,ということになる.Taylorは関係性のために性的な自由を要求したが,ジョン・ポール2世は性的な倫理,すなわち神が創った人間の全体を愛する,彼・彼女を自己肯定するための道具にしてはならないと要求する.この論理が,「生の文化」をめぐる法王の価値判断を導く.そして,避妊,中絶,同性愛の権利,女性の叙階に反対することになり,人々の意見を最も激しく分裂させた.
ジョン・ポール2世は性革命前の道徳的結論を,最新の哲学的問題提起により引き出した.それは彼の前任者たちが考えたこともない問題であった.論争は彼の在位期間26年に及んだが,それこそ多分,彼の質問の正しさを証明するものだろう.
FT April 2 2005
Pope John Paul II’s legacy of paradox
By Robert Graham and Tony Barber
FT April 3 2005
Next Pope must reinforce spiritual leadership
By Tony Barber in Rome
(コメント) ローマ法王がこれほど世界中のメディアと政治権力者の関心を独占するのは,何か尋常ではない状態を連想させます.イタリア政府・治安当局はテロを心配するでしょう.500万人がヨーロッパ中から集まってくることは歴史的な政治経済統合の成果です.まるで神聖ローマ帝国の復活? 宗教的な粉飾を施さなければ,深刻な対立を和解する話し合いは進められないのか? 宗教によって加速し,拡大した多くの地域紛争を,再び宗教によって克服することに意味があるのか? ・・・IMF総裁や世界銀行総裁の指名の根拠や妥当性が争われるのであれば,法王や天皇となる者は何によってその正当性を得るのか?
ジョン・ポール2世を示す特徴は,その精神の勇敢さが持続したことだ,と言います.本当に,レーガン政権と同じくらい,ローマ法王はソビエト連邦を倒すのに重要な役割を果たしたのでしょうか? Robert Graham and Tony Barberは,彼がポーランドの連帯による平和革命にどれほど重要な貢献をしたか示そうとします.それはヨーロッパの統一,信仰世界による世俗界の統一を進めたのでしょうか? 確かにEU統合はキリスト教をその本質に求め,それゆえ移民問題やトルコ加盟,パレスチナや「テロとの戦争」に曖昧な部分を残したように思います.
その論説は,突然,ドイツやロシアの占領からポーランドが独立を回復したのとほぼ同時,1920年5月18日に生まれたKarol Wojtylaという男の人生をたどります. 6歳のときに母を亡くし,彼が20歳になる前に家族のすべてが亡くなります.ドイツ軍に国外追放されるのを逃れるため,石灰岩の採石場で労働者として働きました.非常に多彩な人物で,優秀なスキーヤーにして,詩や脚本,演技に秀でており,検閲の技術を知り尽くしてナチス占領下の地下活動にも貢献した,と言います.1946年に始めてローマを訪れ,倫理学と哲学を専攻し,彼は間違った経済学によって,人間の尊厳を損なう資本主義への批判を説いたようです.38歳でポーランド最年少の司教になります.1967年,枢機卿になります.1978年10月,法王となった彼が,ジョン・ポール2世と名乗るのです.
その後の多くの論争にも彼の信仰と勇気は持続します.1989年にベルリンの壁が崩壊した頃,世界の指導者の中で真っ先に資本主義の勝利を否定します.法王としてのさまざまな重大事件とかかわったとき,ある男の戦争と共産主義,ポーランドや労働者とのかかわりを通じて得た現実感覚が,神の啓示だけでなく,彼を導いていたことを知ります.
Tony Barberは,フランス革命の際には当時のローマ法王が幽閉され,二代にわたって非業の最期を遂げたのに,今ではヨーロッパどころか,世界中の権力者が喪に服し,新しい法王の誕生を待っています.こうした歴史の成り行きに,神の恩寵を感じるか,人間の愚かさを感じるかは,信仰の問題でしょう.
すっかり有名になった「コンクラーベ」の政治学がどのようなものか,余り議論されません.精霊が導くのであれば,世界中から100人以上も司教が集まって,投票を繰り返す必要など無かったでしょう.どのような組織も正当性を得る特別な手法を持っています.「選挙による3分の2以上の得票」というのは,むしろ近代的過ぎる印象です.5%は左派,5%は右派,他の9割は中道,という枢機卿たちの描く宗教世界と俗界のイメージを,フル・カラーのビジュアル映像で見てみたいです.
カソリック信者たちの生活が,教会以上に急速に近代化し,教育を受けた都市市民となったことは,その財政基盤だけでなく,教義や正当性の根拠を変えたのかもしれません.そして,ジョン・ポール2世は,信者たちの生活と信仰との矛盾を解決するより,むしろ深めたと非難されます.性革命や人口計画に対する教会の頑迷さは,政治的にも経済的にも人類の負担となりました.
かつてバチカンが信仰や教義の解釈を独占することで世界中の世俗の権力を操り,あるいは,少なくともその支配を助けている,という旧秩序の擁護者を任じたイメージは,ジョン・ポール2世によってダイナミックに変わりました.しかし,次の法王とカソリック教会が何をするのか,教義ではなくその解釈と行動が,再び,「信仰」そして「教会」を判断する基準となるのでしょう.
BG April 3, 2005
The legacy of Pope John Paul II
By John I. Jenkins and John Cavadini
(コメント) John I. Jenkins and John Cavadiniは,この法王が「神への愛」を「文明・市民化」した,という評価に触れます.彼は,神に祈りながら,同時に,現実世界の和解に尽くし続けた,というわけです.真偽や正邪をめぐる論争とともに,彼の発した14の回勅と100以上の回状は,カソリックの信仰世界を通じて強い影響力を発揮しました.シニシズム,不確実さ,そして物質主義が蔓延する世界で,彼は理想主義を掲げて生き抜いたわけです.
The Guardian, Saturday April 2, 2005
The best and worst of times
Clifford Longley
(コメント) 葬儀に際して,その人の最善のときと最悪のときが噂になるのは当然です.ジョン・ポール2世の法王がカソリック界を治めた時代もまさにそうです.
女性,ポーランド人,アメリカ,ユダヤ人,・・・多くの問題で自分の判断を教会によって強制し,聖職者や信者たちの判断力を奪った(lobotomized)のか? 信仰と絶対的な権力,それゆえの腐敗.教会における腐敗や性的虐待が公表されたとき,しかし,彼は裁くことを嫌いました・・・?
NYT April 3, 2005
Pope John Paul II, Keeper of the Flock for a Quarter of a Century
WP Sunday, April 3, 2005
A Celebrant of Freedom
By George F. Will
FT April 4 2005
John Paul's divisive drive for unity
By Andrew Greeley
FT April 4 2005
The mixed legacy of Pope John Paul II
BG April 4, 2005
The paradoxical pope
By Jason Berry
(コメント) 矛盾した側面を描く.よき意図が必ずしも教会や世俗の世界を幸福で満たし,歓迎される解決策をもたらすわけではありません.むしろ混乱や対立を教会に持ち込み,教会を分裂させました.間違いを犯すことのできない地位についても,同じように間違いを犯しやすい行為にかかわることを諦めなかった頑固な聖職者でした.若き優れた俳優として学んだ,道徳的なカリスマ性.
April 4 (Bloomberg)
Pope John Paul Symbolized European Integration
Matthew Lynn
(コメント) ヨーロッパ中から500万人の信者を集めた法王のカリスマ性は,ヨーロッパ東西統合の象徴であり,政治的な支持基盤にもなっていた,と考える者がいます.戦後ヨーロッパの秩序を完全に解体する過程が平和的に進んだのは,ソビエト帝国や共産主義のイデオロギーが解体する一方で,キリスト教信仰の復活があったからだ,と.それを典型的に示したポーランドとその法王は,スターリンが分割したものを回復する力を示したわけです.
The Guardian, Monday April 4, 2005
The first world leader
Timothy Garton Ash
(コメント) Timothy Garton Ashは,グローバリゼーションの象徴である,と考えます.なぜなら,彼が世界的な指導者となれたのは,従来の教会組織に加えて,飛行機やTVメディアを利用できたからです.
彼は「世界的な指導者」であり「世界的な俳優」でした.すばらしい声と表情によって,数百万の聴衆の一人ひとりの心に語りかける力があった,と言います.
彼の功績は,単に冷戦の平和的な終結やポーランド,EU統合にあっただけでなく,むしろ「第三世界」への歴訪にあっただろう,と言います.彼は毎日2ドル以下で暮らす貧しい人々の声を代弁しようとしてきました("I speak," he said, "in the name of those who have no voice.").その世界でこそ,現代でも,急速にカソリック信者を増やしているのです.
彼を単に「保守派」と呼ぶことはできません.社会的な正義を求めて,第三世界の独裁者や西側の資本主義を繰り返し批判しました.フォークランド紛争も,イラク戦争も反対し,広島においては「広島を,そしてアウシュビッツを,繰り返してはならない!」と説きました.
確かにAIDS撲滅のキャンペーンではその教義が妨害となり,9・11以後の世界では宗教的な分断化によって影響力を殺がれたでしょう.しかし,彼はカソリックを代表する以上に,道徳世界のグローバリゼーションを代表していた,とAshは考えます.
1979年,彼がアウシュビッツで説教した後,修道女が彼の前にひざまずいて囁きました.「私はポーランドの修道女であるとともに,ロシアのユダヤ人です.」 そして2005年,私たちは囁くのです.「私は繁栄する西側の住民であり,同時にダルフールの女性です.」 と.
The Guardian, Monday April 4, 2005
The Pope has blood on his hands
Terry Eagleton
The Guardian, Monday April 4, 2005
Radical authoritarian
WP Tuesday, April 5, 2005
The Whole Picture on John Paul II
By Richard Cohen
(コメント) 他方,Terry Eagletonは,むしろロナルド・レーガン,マーガレット・サッチャーに並ぶ政治家として彼を思い出します.すなわち,彼は1070年代の経済不況に続く80年代の政治的右傾化を推し進める中心的役割を担いました.あるいは,第2回バチカン会議の保守化,ラテン・アメリカのマルクス主義追放に乗り出した法王です.カソリックの保守派に歓迎され,ソビエトのエージェントから憎悪された法王でした.
バチカンの保守派が1522年以来はじめて,非イタリア人から法王を認めたのも,バチカン会議のカソリック自由化運動を阻止するためであった,とEagletonは考えます.各教会に分散しつつあった権力を,彼が法王となって再び集中しました.彼は自身の精神的・知的能力を確信しており,「ジョン・ポールがイエス・キリストを聖者に加えた」と揶揄されたほどでした.そして司教たちはローマで査問を受けたのです.
そして,貧しい世界をエイズから救うためにコンドームの使用を拒んだことで,彼の両手は発展途上諸国の無数のカソリック信者たちの血で染まった,と.
なぜ保守派はポーランドの田舎から古いタイプの司教を法王にするため呼び寄せたのか? 法王として激しい対立を招いた彼の確信とはどのようなものか?
NYT April 4, 2005
Above All Else, Life
By HELEN PREJEAN
WP Monday, April 4, 2005
The Power of Faith
By Charles Krauthammer
(コメント) スターリンは今も「リアリズム」を代表しており,国家を軍事力で奪い合った男です.法王について聞かれたとき,「そいつは何個師団を動かせるのか?」と聞いたようです.法王は答えるでしょう.「あなたよりも多いだろう.あなたの想像を超えるほどに.」
まだ共産主義が,ベトナム戦争における勝利の後,世界で攻勢に向かっていた時期に,法王は自由世界の反転を組織した,と.ルーズベルト,チャーチル,レーガンに並ぶ,しかし信仰の求める精神的軍隊を動かした.
BG April 5, 2005
The human face of Catholicism
By James Carroll
The Guardian, Tuesday April 5, 2005
The limits of autocracy
NYT April 5, 2005
Poland's Holy Father
By STEFAN CHWIN
WP Tuesday, April 5, 2005
Whence the Next Pope?
By Eugene Robinson
WP Tuesday, April 5, 2005
A Papacy of Spirit
By E. J. Dionne Jr.
FT April 6 2005
The vision that fired the Pope's global mission
By Henryk Wozniakowski
(コメント) スターリンとパウロ2世はよく対比されます.「スターリンの伝記作者は,彼の天才は誰についてもその最悪の,もっとも弱い部分,もっとも惨めで最低の部分を見つけ出せたし,人間性の邪悪な側面を利用できたことだ,と言う.法王ジョン・ポール2世の天才は,まさにその対極にあった.彼は人々に最高の美徳を,ときには深く埋められた,その善と真実を求める欲求をもたらした.」
法王は心から人々を愛していた,と言います.彼に会った人は誰でも,彼が人々の言葉をどれほど大切に聴いたかを覚えているはずだ,と.彼が人々の愛と尊厳を求めた呼びかけは世界中の人々に,特に,欺瞞と偽善を嫌う若者たちの信頼を得ていました.
二人の「政治」手法は,まさに北風と太陽です.
NYT April 6, 2005
The Pope and Hypocrisy
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) NICHOLAS D. KRISTOFの論説は視点が逆です.ダルフールを見れば,精神の軍隊は精神に留まり,美徳は,所詮,美徳でしかないことが分かる.無数の葬列と犠牲者の墓を,彼の呼びかけた愛が止めたわけではない,と.
世界の政治指導者たちがジョン・ポール2世の偉業や徳を称えることこそ,目に余る偽善ではないか? たとえばブッシュ大統領は,法王が唱えた「生命の文化」を称え,強者が弱者を守るべきことを知った,と言います.スーダンの兵士たちが子供を燃やしているときに,良くそんなことが言えたものだ!
政治家たちはローマで死んだ法王の葬列に参加し,密談している暇があれば,スーダンに兵隊を送って,レイプされ,切り刻まれ,燃やされようとしている,まだ生きている子供たちを助け出すべきではないか!?
法王が持っていたのは道徳的な力に過ぎません.彼はその力を駆使して,世界に道徳的な基準を広めました.それを現実の力に変えるのは政治指導者や私たちの側の責務です.
WP Wednesday, April 6, 2005
How the Pope 'Defeated Communism'
By Anne Applebaum
The Guardian, Friday April 8, 2005
We are rewriting the history of communism's collapse
Jonathan Steele
(コメント) 共産主義体制を倒すことに法王が果たした役割とは何でしょうか? それを経験したAnne Applebaumは,法王が訪れたポーランドに何が起きたのかを思い起こします.
「本質的に,法王は全体主義としての共産主義体制崩壊に二つの点で貢献した.その体制の下では,国家がすべてのものを所有し,物質的な所有物,すなわち工場,農地,住宅,そして知的な生活を国家が独占していた.誰も私的なビジネスを許してもらえず,誰もマルクス主義以外の信念を表明できなかった.教会は,最初,ポーランドで,それからいたるところで,これら二つの独占を打破した.人々が出会い,この世界に関する異なった考え方を知的に示すことのできる安全な場所を提供した.」
法王は,若い頃,ナチスに占領されたポーランドで行ったように,「市民社会」を再生させたのだ.法王が示した異なる考え方は,決してカソリックの信仰だけではなかった,と彼女は書きます.むしろ歴史を回復したのです.東欧のマルクス主義は「進歩」に関するカルト集団であり,歴史や伝統を破壊するほど大いに喜びました.新しい社会,新しい市民を作るためには,過去や個人の農地は破壊されなければならない,と.しかし法王が来た際,聖Adalbertの1000回忌,ポーランド最古の大学の600年祭,ワルシャワ・ゲットー蜂起60周年があり,彼は13世紀の修道女Kingaの人生を称え,長く語ったのです.
「誠実さは過去を忠実に真似ても実現できない.」「誠実さは常に創造されるのであり,深く遡り,そして新しい挑戦に開かれていることなのだ.」と彼は説きました.その教えは,歴史も文化も,あらゆることを体制が支配する諸国において,衝撃でした.
最後には人々が街頭を埋めて,体制の崩壊を導きました.共産主義体制(全体主義)が最も成果を挙げるのは,人々がばらばらになって,互いを遠ざけ,恐れているときだけだ,と言います.1979年に法王が始めてポーランドを訪れたとき,政治指導者たちが予言したような少数の老婦人たちが出迎えたのではなく,すべての世代の数百万の市民たちに迎えられました.当時,まだ16歳であった彼女の夫は,法王が降り立つ空港の近くの木に登って,各方面から3キロも連なって人々が集まってくるのを見た,と言います.それに比べたとき,体制も,警察も無意味でした.法王は説教で繰り返したのです.「恐れることはない.」
Jonathan Steeleは,ポーランドの平和的な体制転換を可能にしたのは,やはり法王ではなく,ゴルバチョフだった,と考えます.法王が1979年の訪問で連帯の活動を刺激したのは認められるけれど,その後,連帯は政治路線の対立で分裂し,政府は戒厳令を敷いて主要な活動家を逮捕し始めます.その際,法王は反体制派が直接行動に出ることを抑えて,ソ連に軍事介入を止めるよう警告します.
その後も連帯の拘束は続きますが,1989年,ゴルバチョフが新思考外交を確立して,ポーランドの変化を受け入れたのです.ソ連が東欧の体制変化に対しても軍隊を送ることはない,と.その決定は,西側の圧力や法王の説得よりも,自国の経済停滞やエリート内部の権力抗争によるものでした.
The Guardian, Friday April 1, 2005
The mythology of people power
John Laughland
Asia Times Online, Apr 2, 2005
What kind of revolution is this?
By Pepe Escobar
(コメント) キルギスタンで行われた政変劇と,「民主革命の波及」に関する考察です.アメリカのNGOによる支援.中央アジアの政府が依拠する脆弱な政治・経済構造.ロシアとアメリカの関与.中国の資源問題.など.
FT April 2 2005
Cross-currents make currencies choppy
NYT April 2, 2005
Before the Fall
(コメント) 主要通貨が弱くなる中で,ドル安は目立たなくなりました.むしろ人民元切上げの投機が問題です.投資家たちの間で,貿易不均衡,成長率,そして将来の為替レートについての予想が交錯しています.すべての通貨が下落するのは,もちろん,不可能です.中国政府は,かつてのアメリカ財務長官と同じことを繰り返します.「人民元はわれわれの通貨だが,人民元が安すぎるというのはあなたたちの問題だ.」
アメリカ政府は,アジアの中央銀行がドル建て債権を保有すればするほど,その価値が暴落することを恐れて強調的なドル安を歓迎するしかない,と事態を放置しています.しかし,連銀が金利を上げたら? 住宅価格が下がり,消費が減り,企業業績が悪化して,株価も下げ始め,民間資本はアメリカを脱出するわけです.それでもアジアの中央銀行は一致してアメリカを支え続けるか?
1月の資本流入額は915億ドル.これに対して貿易赤字は583億ドルでした.問題は,その多くが短期的な利益を求めるヘッジ・ファンドであったことです.既に,日本,韓国,インド,ロシアが外貨準備をドルから分散することに向かいつつあり,中国もドルに自国の政策が影響されるのを好ましくないと考えており,市場は動揺しています.
突然のドル暴落を回避するには,アメリカ政府は財政赤字を減らし,外貨準備を保有する諸国や貿易相手国と交渉しなければなりません.
FT April 3 2005
Wolfgang Munchau: EU is not ready for a French No
By Wolfgang Munchau
FT April 5 200
Martin Wolf: EU needs labour and welfare reform
By Martin Wolf
(コメント) 5月29日に行われるフランスの国民投票で,ヨーロッパ憲章が否決される恐れがあります.もし否決されたらどうなるのか? それはヨーロッパの中心にあるべき仏独にとって,EUが「アングロ・サクソン的すぎる」とか「ウルトラ市場主義だ」と言う問題であり,また,フランス国内政治の危機であり,EUにとってフランスを欠くことができないだけに,イギリスが否決し,オプト・アウトする場合とまったく違う問題です.コアの数カ国が集まってEU内の政策グループを形成するような事態は,実際に,起きると思います.その場合,EU拡大やEU内の政策決定に関する合意がどこまで保持され,あるいは破棄されるのか?
Martin Wolfは,政治的行き詰まりの打開策をむしろ経済回復に求め,サービス分野の自由化と労働者の域内移動を促すこと,福祉国家の財政負担を軽減することに求めます.
実際,EU内部の労働コストにはまだ大きな格差が残っています.1980年代に参加したスペイン・ポルトガルの労働コストは,当時,EU水準の半分でしたが,最近参加した東欧諸国の労働コストは平均でもドイツの7分の1です.もしこれほどの較差が続けば,工場は雇用を止めて移転し,労働者たちは移民となって,雇用のある地域に移動するしかないでしょう.ところが,移民が経済全体に利益をもたらすのは物価や賃金が弾力的な場合です.
EUの福祉国家や労働規制は弾力性を欠き,失業増大と財政赤字をもたらしています.しかも,福祉国家が充実した国ほど多くの移民を引き寄せるでしょう.結局,移民は阻止され,物価や賃金の格差は減りません.福祉国家の水準は支配的な国の水準に引き上げられます.それでも潤沢な福祉給付は削減され,特に移民には支給されなくなるでしょう.EU統合の約束した経済の復活は実現不可能です.
EU統一の原則は失われ,東西ドイツの格差と財政負担問題が東西ヨーロッパに再現し,政治的混乱と二流市民としての移民を多く抱えるようになります.市場統合と競争を促すことで,物価,もしくは賃金を直接に調整させるほうが良い,とWolfは考えます.それと両立する福祉国家体制とは,@賃金を弾力化して,低賃金への補助金は自国民に限る.A雇用されている移民労働者だけに福祉は給付される.B雇用されていない労働者には出自国が給付する.
NYT April 3, 2005
My Big Fat C.E.O. Paycheck
By CLAUDIA H. DEUTSCH
NYT April 3, 2005
The New Executive Bonanza: Retirement
By ERIC DASH
NYT April 3, 2005
An Early Advocate of Stock Options Debunks Himself
By CLAUDIA H. DEUTSCH
NYT April 3, 2005
Pity the Billionaires
By DANIEL AKST
NYT April 4, 2005
The Billionaires' Club
By BOB HERBERT
(コメント) アメリカの企業重役が何をしているのか,M&Aにからむ汚職ではなく,どれほどの報酬をもらっているのか,が問題になっています.アメリカ大企業179社の重役たちが平均で784万ドル(約8億円),2003年より12%アップした報酬を得た,と言います.どれほどすばらしい仕事をすれば,この報酬を正当化できるのか? それは彼らの手腕と言うより,経済が好調であったから,と分かります.
そして,企業業績と報酬との開きは拡大している,と言います.かつて,企業業績を重役たちの報酬に反映させる最善の手段として賞賛されたストック・オプションも,今では汚職の引き金として有名です.重役になれば収益や株価を会計的に操ってボーナスを増やし,巨額の退職金を得る.それでも企業は,良い重役を求めて競争し,報酬は引き上げられています.
NYTの特集記事は,たとえば,過去25年間に最も多く稼いだ重役たちの報酬(インフレ調整なし)と企業業績との関係を示しています.最高額は706ミリオン・ダラー! 2001年に700億円以上を得たEllison はOracleの創業者兼経営者でした.
1. Lawrence J. Ellison, $706.1m (2001) Oracle:現職 (評価は省略)
2. Charles B. Wang, $655.4m (1999) Computer Associates:退職
3. Michael D. Eisner, &575.6m (1998) Walt Disney:離職(解雇と書くべきか?)
4. Sanjay Kumar, $359.2m (1999) Computer Associates:訴追
5. John S. Reed, $293.0m (2000) Citigroup:退職
6. Raymond J. Lane, 233.9m (2000) Citigroup:離職
7. Sanford I. Weill, $230.7m (1997) Citigroup:離職
8. Michael D. Eisner, $203.0m (1993) Walt Disney:離職
9. Mel Karmazin, $201.9m (1998) CBS:離職
10. Alfred Lerner, $195.0m (2002) MBNA:現職
11. L. Dennis Kozlowski, $170.4m (1999) Tyco International:訴追 ・・・他
NYT April 3, 2005
Help Wanted: China Finds Itself With a Labor Shortage
By JIM YARDLEY and DAVID BARBOZA
FT April 4 2005
Guy de Jonquieres: In need of a cultural revolution
By Guy de Jonquieres
(コメント) 工場を建てていると職探しの人が集まり,門に張り紙をするだけで望むだけ労働者を雇用できた,という話を中国で聞きました.それが変化し始めたようだ,という記事です.政府の人口抑制策と輸出向け生産の拡大は次第に労働需要を供給よりも増大させ,ついに労働者たちが「足による投票」を行って,労働条件を改善する圧力を生じているのです.一人だけの息子や娘に高度な教育を受けさせ,できるだけそばに住んで働いてほしい,という両親の願いも,優れた労働者を探してハイテク企業の方から移転する理由になっています.地方からの出稼ぎ労働者が拒まれていたさまざまな権利も,地方によっては改善されつつあります.
Guy de Jonquieresは中国の銀行改革について紹介しています.中国政府は成長を持続すれば不良債権は解消できると考えているかもしれませんが,それは間違いだ,と言います.なぜなら過大な融資が止まらないからです.銀行が企業にコストなしに融資し続ける限り,経済は過熱し,資源や労働のコストも上昇して成長を損なうでしょう.あるいは非効率な投資による過剰生産やバブルを生じて破綻します.
FT April 4 2005
European Comment: Chinese textiles set a trade test
By Brian Groom
NYT April 4, 2005
Stream of Chinese Textile Imports Is Becoming a Flood
(コメント) 中国のEU向け衣類の輸出は2月に前年比188%でした.割当制の廃止が中国からの輸出を予想通り激増させつつあります.EUもアメリカも緊急輸入抑制措置に動くでしょう.WTOのルールでは念増加率が7.5%を超えれば,輸入割当も含むセーフガードを発動できます.EUには10万以上の工場と250万人の雇用があります.しかし,消費者にとっての自由貿易の利益は失われ,産業転換も遅れます.そしてフランスが憲章を否決し,イギリスがローバーの救済に傾けば,投資家の悲観論が刺激されます.
アメリカでも1-3月期の中国から輸入される衣服の前年比伸び率は63%でした.下着など,特に割当で抑制されていた分野では2000%に達する,と言います.セーフガードは中国製品が世界市場を制覇する時期を少し遅らせるわけです.
April 5 (Bloomberg)
China and India May Put Commerce Above Conflict
Andy Mukherjee
NYT April 4, 2005
U.S. Blocks Use of Mapping System in China
By WAYNE ARNOLD
FT April 5 2005
Japan asks China to protect its businesses
By David Pilling in Tokyo
FT April 6 2005
Fears of attack on Taiwan increase
By Victor Mallet
(コメント) 政治と貿易と,どちらが重要でしょうか? それは決めるのも国内政治と経済情勢です.中国とインドとの関係は,中国と日本との関係と同じように,重要な意味を持っています.ロシアやインドとの国境紛争を解決して貿易の拡大に向かう中国も,国内の反日感情には特別な扱いを続けるのでしょうか?
地下資源を探索する地理的観測システムを中国に使用することをアメリカは拒みました.日本の教科書問題に抗議する中国の群衆は増加し続け,商店や大使館への投石さえ行われた,というTVの映像を観ました.日本企業は,中国政府が政治的な抗議と経済関係とは区別している,と表面的には平静さを保っています.そして日本政府や経団連も,中国国民の感情を刺激したくない,と言うばかりです.
中国軍が急速に組織も装備も近代化しつつあること,そして,台湾に対する軍事力の行使を否定しないことは,アメリカ(そして日本)政府の悩みの種です.IISSの資料を基にFTは軍事バランスを掲げています.中国軍に対して,台湾,韓国,日本は米軍を加えて均衡を保つ計算だと言われます.特に海軍・空軍では.
The Guardian, Friday April 8, 2005
Beijing bravado hides growing internal strain
Simon Tisdall in Taipei
(コメント) 中国が成長するとともに,その単一統治に適さない広大な土地の多様性は,アメリカやドイツと同じように,地域の自主権拡大要求につながるでしょう.そして,もし共産党が分権化を拒み続ければ,ゴルバチョフと同じように,胡主席には破綻と帝国解体の汚名だけが残るのかもしれません.
CSM April 04, 2005 edition
The dangers of falling home prices
By David R. Francis
WP Wednesday, April 6, 2005
Economic Death Spiral
By Robert J. Samuelson
LAT April 7, 2005
What Goes Up (House Prices) Must Come Down
By Robert J. Shiller
NYT April 7, 2005
Shameless Photo-Op
(コメント) アメリカでは住宅価格の上昇がバブルの段階に入ったと恐れられています.
NYT April 4, 2005
It's a Flat World, After All
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) コロンブスは500年前に世界は丸いことを発見しました.しかし,グローバリゼーションやアウトソーシングは,その逆です.インド,バンガロールのInfosys C.E.O.であるNandan Nilekaniは,THOMAS L. FRIEDMANに「世界が平坦になった」と教えます.コロンブスが苦労してたどり着いた(と信じた)インドに,Friedmanはジェット旅客機のビジネス・クラスで到着し,Infosysのサービスは世界中の企業が数秒単位で利用できます.
グローバリストの本領発揮,といった論説ですが,彼のこれまでのグローバリゼーションに関する主張を融合させただけです.アメリカや裕福な工業諸国は,情報革命の幻を信じて狂ったように投資した挙句,平坦な世界を作ってしまった.生産拠点は中国へ,ハイテク拠点はインドに移る.世界がますます平らになれば,所得水準も政治システムも平らになるでしょうか? ・・・そういうわけではないようです.
世界を組織するイズムが失われたようだ,とたった一人の演習参加者と話し合っていたら,二つのイズムを見つけました.一つは「個別主義」.『攻殻機動隊』のセカンド・ギグで,「招慰難民居住区」から来たテロリストたちの主張として提示されました.もう一つは,ここでFriedmanが見つけた(と主張する)「平坦主義 “flattism”」.世界が一つの情報システムに結ばれた工場になり,私たちは中国人やインド人と一緒に働き,競争して職場や住宅を得なければなりません.
この平坦な世界を解く鍵は,Friedmanによれば,競争と教育システムです.・・・かつて,ご飯を残して母親に叱られた.「中国ではご飯を食べられずに飢えている子供がいるのに!」 しかし,自分たちは勉強しない子供を叱るとき言います.「中国人やインド人は,お前の仕事をほしがっているのだよ!」
WP Monday, April 4, 2005
Chechnya's Disappeared
WP Monday, April 4, 2005
Zimbabwe's Enabler
By Sebastian Mallaby
The Guardian, Tuesday April 5, 2005
Life under Mugabe
(コメント) チェチェンとジンバブエは,世界政治におけるブラック・ホールのようです.政治という理由があれば,人を殺すことは許されるのでしょうか? いや逆に,人を殺しても許されるという理由を人々が受け入れるとき,それを政治と呼ぶのです.ルソーが,人間の不平等について考えたように.
The Guardian, Tuesday April 5, 2005
I'm with Wolfowitz
George Monbiot
The Guardian, Tuesday April 5, 2005
The end of the world as we know it
Jeffrey Sachs
(コメント) 開発をめぐる瞑想? George Monbiotがウォルフォウィッツの世銀総裁使命を歓迎するのは,これで紛れも無くアメリカが国際秩序を支配し,拒否権を通じて改革を阻止していることが明確になったからです.
Jeffrey Sachsは,貧困撲滅は選択できる,と政治的決断を促します.トニー・ブレアがサミットで主要国の政策を動かすべきだ,と.アジアと比べてアフリカの発展が起動しない理由は三つだ,と言います.@食糧生産.A病気.B輸送・発電・情報インフラ,です.こうした長期投資を組織できるのは,繁栄するアフリカとの交易に長期の利益を見通す政治的な主体です.
The Guardian, Tuesday April 5, 2005
Pacific power play puts Japan and China between a rock and a hard place
Simon Tisdall
IHT Wednesday, April 6, 2005
Michael Vatikiotis: East Asia club leaves U.S. feeling left out
IHT Wednesday, April 8, 2005
The so-called rise of China
Jonathan Power
(コメント) デモ,投石,襲撃,不買,・・・東アジアの戦争外交が加熱しています.領土問題は,資源や交易,そして安全保障を意味します.だとすれば,資源の共同開発,国際交易路の安全確保,そして安全保障上の脅威を取り除くため軍事力の共同監視・削減計画,などが必要なのです.せめてその展望と指導者たちの政治的合意が無ければなりません.
日本は「東アジア経済圏」で本当に良いのでしょうか? 中国の台頭は国際秩序に何をもたらすのか? アメリカや日本は何を目指すのか? シンガポールの論者はアメリカに頼みます.「どうか中国と争わないでほしい.われわれにも地域の協調メカニズムを発展させる時間を与えてほしい.われわれがアメリカを無視することは決してない.」と.日本は,どうしますか?
Jonathan Powerは,中国に関してゼロ・サムの発想を批判します.権力も富も,中国が増やしたからと言って,自動的にアメリカ(や日本)が減らされるわけではない.今後も,中国を市場に結び付けて改革を促すべきであり,封じ込めてはいけない,と.
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The Economist, March 26th 2005
China and the key to Asian peace
America and China: A relationship reconsidered
(コメント) 中国の軍事力増大について,The Economistはアジアと世界の将来を決める,と注目します.アジア諸国は,ますます中国を中心に,秩序再編を進めるようになりました.
TVで報道された日系商店や大使館への襲撃を観て,対立の構図を考えてみました.T.まず中国において,@軍事力近代化,A工業力の移転,B資源・エネルギー需要,が言われます.U.さらに,C戦後処理と周辺領土の確定,D周辺諸国との政治姿勢の違い,E日本・アメリカとの対抗意識,などで,中国政府や国民が日本や国際的合意の範囲と大きな食い違いを残しています.V.最後に,F共産党独裁体制への政治的不満,G反日イデオロギーの浸透,H経済改革と社会不安,I民主化運動の弾圧,メディアや大衆行動への統制,など,中国自身の抱える問題です.W.同時に,中国政府に限らず,韓国も国際メディアも指摘する日本側の問題,J日本政府の消極的な戦後処理,K日本の政治指導者や政治家・政界の浅薄な論調,L教科書問題など,毎年問題視されながら進展させなかった外交姿勢,です.
特殊な条件として,まず,アメリカの「ネオ・コン体制」が北朝鮮の核開発問題について,中国政府と協調しておく,という判断に立っていることです.これは,北朝鮮の姿勢や台湾海峡の情勢次第で大きく変わるものです.また,中国の現政権が継承した「貿易・成長システム」が緊張度を増していることです.国内のインフレや失業,貿易摩擦,通貨摩擦,などは成長見込みを狂わせ,成長への期待で抑えられている不満を噴出させるでしょう.どちらも,いずれは起きることです.
中国国内や中日・中米間の緊張度が増せば,日本は限定的な中国からの離脱を進めるでしょう.合意できるルールや制度的枠組みを積極的に示して,双方の利益と危機回避を基本とした緊張緩和政策が重視されるはずです.また,もし中国の経済や政治が大きな混乱に陥れば,日本はアジア諸国を代表して国際的な協調と支援を明確に呼びかけるでしょう.
かつてR.ドーアが指摘したように,中国が国際的な地位を向上させ,その過程でナショナリズムの高揚を経験するのは,ある意味で,当然のことです.日本の政治家が対抗してナショナリズムを鼓舞するべきではありません.しかし,中国が国内の不満を反日運動や軍事的な拡大に向け続けるなら,アメリカや韓国,インド,ロシア,EUなどと一致した方針を示して,アジアの摩擦を解消する展望を具体的に示す必要がある,と思います.
France and the European Union: Are they winning?
Charlemagne: Debasing the currency
(コメント) EUもユーロも,解体の時期と他の選択肢を具体的に検討しなければならないのでしょうか? EU憲章がフランスで否決され,安定と成長のための合意が破棄された後,財政規律が失われ続ければ,EU統合の既存の政治的枠組みは確かに解体するかもしれません.しかし,だからといってベルリンの壁を修復したり,ヨーロッパ規模に拡大した企業や流通システムを再び分割したりするでしょうか? もちろん,再び戦争すれば,そうなるでしょう.
Credit-rating agencies: Who rates the raters?
The Philippines: Mixed economy
Property in China: Sky-high Shanghai
(コメント) 国際通貨制度もしくは国際金融市場を脅かす三つの悪夢です.1.IMFも格付け会社も債券市場を監視できない.2.債務国政府のブームと資本流入は楽観と次の破綻を準備する.3.中国市場の世界統合は,上海の土地バブルや共産党の政治的リスクも世界化する.
Economics focus: Punch-up over handouts
(コメント) WTOの多角高尚が成功して裕福な諸国の理不尽な農産物補助金が削減されるのは良いことです.しかし,誰にとってか?
補助金によって農産物の国際価格が下落し,貧しい農産物輸出国は損害を受けています.しかし,貧しい農産物輸入国は,いわば補助金を間接的に受けているわけです.もし補助金を削るだけなら,最も貧しい農産物輸入国はさらに貧しくなり,比較的裕福な農産物輸出国,たとえばブラジルやアルゼンチンが大きな利益を受けるでしょう.裕福な諸国は,自由化によって苦しむ自国の農民だけでなく,むしろ最貧国への援助を増やす必要があるのです.