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IPEの種 4/11/2005

バチカンで亡くなったヨハネ・パウロ2世と葬儀に向かう500万人の人々に関する多くの報道がありました.京都では新興宗教の教祖が信者の少女に対する性的暴行容疑で逮捕され,また,戦争,領土,教科書,安保理常任理事国をめぐる日本への非難が中国や韓国で続いています.

水曜日,NHK衛星放送で観た「FBI」に感心しました.推理ドラマの面白さは,失踪や犯罪を通して人間関係の複雑さや社会のひずみが浮き彫りになることです.それはちょうど,スパイ小説や戦争小説が外交や国際政治にかかわる個人の複雑な意味について考えさせるように.

11歳の誕生日に野球のチケットをもらい,独りで野球場に向かった少年が姿を消します.ニュー・ヨークのヤンキース・スタジアム.最初は一緒に行かなかった父親が疑われます.しかし,少年は球場の前でダフ屋にそのチケットを売り,金に換えていました.両親が語るまじめで幼い少年のイメージは壊れます.少年はインターネット・カフェでアダルト・サイトを観たり,スケート・ボードの仲間と韓国人の商店を襲撃する遊びに興じたりしていました.

FBIは少年と接触したダフ屋を指紋から割り出して前科を洗い,あるいは性犯罪者リストから少年に近づけそうな場所に住む男を見つけて部屋に押し入ります.その迅速果敢な行動は,多分,アメリカ社会の好む勇気とともに,その強烈な危険性を感じさせます.警官たちが銃を抜いて(何の罪もない)容疑者に床へ伏せるよう命令し,後ろ手に手錠をかけてから,部屋の中を捜索します.抵抗すれば・・・? まるでイラクのテロリスト狩りのようです.

さまざまな誤報,いたずら電話,偽情報の中から,クロス・チェックで真実の破片を探します.失踪した少年が,実は養子であり,本当の父親を探していたことが分かります.インターネット・カフェで送ったメールは「パパ宛」でした.ところが,本当の父親は既に死亡しています.彼はその「パパ」の言葉に従い,長距離バスのターミナルでチケットを買おうとしました.しかし,15歳以下は買えない,と言われます.チケットはテキサス行き.しかし,テキサスに知り合いはいない.

結婚や養子を仲介するビジネスは裕福な国で栄えています.なかなか結婚しない,子供を作らない,資産のある男女が多くいるからでしょう.離婚,再婚,暴行,家出,・・・家族は次々と解体しています.他方,若くして子供を生んだため,あるいは育てるだけの経済力や意志を欠くため,その他の理由で子供を手放したい(手放すしかない)親も多くいます.貧しい国から子供を「買う」に等しい国際的な養子縁組もしばしば問題になっています.

少年は,自分の本当の親を探すためにインターネットを利用し,そこで養子の子供たちをだますサイトに釣り上げられたわけです.本当の親を探してやる,と信じさせておいて,実際は,子供を金儲けやセックスの道具にする犯罪者が罠を仕掛けています.西海岸,サンタ・フェの公園で,犯人と接触する寸前の少年をFBIが保護し,犯人を逮捕します.

休みには精神を刺激するための何かを探します.100円で買える古本屋では,ジョン・ル・カレの『われらのゲーム』,田原総一朗の『頭のない鯨:政治劇の真実』,などを買いました.100円で借りるビデオ屋では,神山健治監督の『攻殻機動隊』「笑い男シリーズ」26話を借りて観ました.よく練られた脚本に脱帽です.

1993年6月18日,宮沢内閣への不信任案可決から,96年11月7日,橋本首班指名まで.細川・羽田・村山政権とは何だったのか? 現実は余りにも複雑で,一人ひとりが予想を超えた変化に呑み込まれます.その過程を追った田原氏の執念に感嘆します.そしてバブル破綻の処理からアジア通貨危機(あるいは北朝鮮のミサイル・核兵器開発・拉致問題)に至る重要な時期に,国際的なショックを吸収できる政治システムが日本には無かったのだ,と絶句しました.

そんなスリルを経済学では味わえないのでしょうか・・・? いや,そんなはずはありません.今春の大学院演習では,キンドルバーガーの『熱狂,恐慌,崩壊:金融恐慌の歴史』と,ローウェンスタイン『天才たちの誤算:ドキュメント・LTCM破綻』を読みたいと思います.・・・そして,日本の外相や首相がアジアにおける歴史的な使命をどのように果たすのか,注目したいです.

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