IPEの果樹園2005
今週のReview
3/28-4/2
*****************************
世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
*****************************
三つだけ推奨するとしたら?
1. ジョージ・ケナン :本当の保守主義,本当のリアリストが描いた,理想の国際秩序とは?
3. 移民政策 :イギリス,アメリカ,スペイン,そして労働組合.
******************************
ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor
LAT March 17, 2005
Esperanto for Neocons
(コメント) さて次は? ラムズフェルドをユニセフの長官にでも指名するつもりだろうか? とLATはブッシュ政権を揶揄します.
LAT March 17, 2005
Exactly What the World Bank Needs
By Jacob Heilbrunn
NYT March 17, 2005
Why Paul Wolfowitz?
NYT March 18, 2005
The Ugly American Bank
By PAUL KRUGMAN
(コメント) ウォルフォウィッツであれば,マーシャル・プラン以来,最大の援助計画を実現するかもしれません.もちろん,イラクに対する.
彼が世銀を動かす能力を持つかどうかより,そのイデオロギーが問題です.
ペンタゴンのタカ派として,彼は国務省による戦後の占領計画を一切無視しました.そして経済開発の経験があるスタッフも居ないまま,イラクを過激な自由市場経済学の実験室にしてしまいました.Paul Bremerについては,その企業民営化に対する情熱が称えられながらも,誰も民主化について彼の情熱を問う者がなかったわけです.Jay Garnerに政府が望んだことも,とにかく石油部門を民営化し,その他の国家管理を廃止することでした.
危機や強制的介入に際して,イデオロギーは重要です.
ラテン・アメリカでは,1990年代,「ワシントン・コンセンサス」がイデオロギーとして利用されました.クリントン政権の幹部やウォール街,保守派のシンク・タンクにおいて,その主張を正当化するために多用されたわけです.民営化せよ,規制緩和せよ,貿易を自由化せよ,そうすれば経済発展が起動する,と.しかし実際は,経済が停滞し,不平等は拡大し,この地域を繰り返し経済危機が襲いました.
結果として,ラテン・アメリカの政府はアメリカ製の政策を嫌うようになりました.ヴェネズエラの指導者がそうです.アルゼンチンの破局がそうです.メキシコの,かつてコカ・コーラの支社長であったフォックス大統領は自由市場の信奉者かもしれません.しかし,メキシコ・シティーの左派の市長は圧倒的な人気を得ています.
Foreign Policy の編集者であるMoises Naim は,ウォルフォウィッツが総裁になれば,世界銀行ではなく,アメリカ銀行となるだろう,と言いました.ウォルフォウィッツは援助を与えると同時に,ラテン・アメリカ諸国が失敗と見なす自由市場のイデオロギーを押し付けるでしょう.
WP Saturday, March 19, 2005
Wolfowitz's Tough Tasks
By Colbert I. King
The Guardian, Monday March 21, 2005
Why the west is always in the saddle
Larry Elliott
(コメント) これでブッシュ氏に近い人物が開発援助に関与するわけです.イラクの債務削減などを積極的に進めるかもしれません.あるいは,ブッシュ氏が嫌った世銀の方針を,ネオコンを輸血することで,直接,変質させるため乗り込んでくるのでしょう.いずれにせよ,世銀や各国の開発援助スタッフは混乱を来たしています.
Larry Elliottは,ブッシュ政権のスキャンルとしてだけでなく,第二次世界大戦後の国際秩序,世界管理をめぐって,未だに開発世界の一握りの政治家たちが独占して運営していることを問題にします.この戦後管理の小さなカルテルを改革することは長年の課題でした.世界経済の安定確保や貧困の解消を,こうした大国の駆け引きが支配しているということ自体がスキャンダラスだ,と.
FT March 22 2005
It is time to free the World Bank
By Jeffrey Sachs
(コメント) J.サックスも,発展途上諸国に民主的な統治を求めるなら,世界銀行自身がそれを実現しておくべきではないか,と批判します.
彼によれば,ホワイト・ハウスが世界銀行に対して持つ不満は三つです.@世界銀行を通じて安上がりに発展途上国への援助を支配することに対して,さまざまな他の発言がアメリカの意図を妨げている.Aアメリカ政府は,他の世界の開発目標に対する合意から,独り,かけ離れている.B開発や金融における経験のないウォルフォウィッツを総裁にしたい.
これに対してサックスは,誰であれ,世銀総裁になる者が答えるべき問題として,四つの問いかけを行います.1.ミレニアム開発目標を支持するか? 2.GNPの0.7%を公的援助の目標として認めるか? 3.公的医療や教育インフラの整備に自由市場のイデオロギーを持ち込むのか? 4.世銀やIMFに発展途上諸国の声を拠り多く反映させるか? あるいは,全ての答は世界銀行ではなく,アメリカ銀行になる,ということか?
NYT March 22, 2005
For McNamara and Wolfowitz, a War and Then the World Bank
By ELIZABETH BECKER
CSM March 21, 2005 edition
Bush's Man at the World Bank
CSM 03.18.05
Bank of America
By Kenneth Rapoza
March 25 (Bloomberg)
Asia's Concerns About a Wolfowitz World Bank
William Pesek Jr.
(コメント) 旅行していたために,記事の集め方が変則的です.再び,ウォルフォウィッツの世界銀行総裁指名に関して.
扱われる問題はさまざまです.イラク戦争に対する関与の仕方,マクナマラとの比較,ブッシュ大統領との関係,世界銀行で働く多くのヨーロッパ職員,クリントンが指名したウォルフェンソン現総裁との比較,世銀債によって集められる投資家のお金,・・・
1980年代のソロモン・ブラザーズとJohn Gutfreund,1990年代のLTCMとJohn Meriwether,そして2000年代はウォルフォウィッツと世界銀行だ,と早くも次のスキャンダルを予想する声があります.アジアは,1990年代にIMFが扱ったアジア通貨危機で手痛い仕打ちを受けました.世界銀行がネオコンの巣窟になることを恐れるのは当然です.アジアにおける,貧困解消よりも民主主義の実現,体制転換・・・?
NYT March 17, 2005
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) イラクやアフガニスタンに対しては歯切れ良くタフな決断を示せたブッシュ政権も,中国に関しては不明確な外交姿勢を継承しています.THOMAS L. FRIEDMANは,アメリカが「米中依存法 “US-China Dependency Act”」を成立させたような状態,と考えます.なぜなら,一国の安全は,単に近代的な軍事力だけでなく,財政基盤や産業の国際競争力にも依存するからです.そして,後の二者に関して,アメリカはますます中国に依存しています.
たとえばブッシュ氏は巨額の減税策を実施してアメリカの富裕層を喜ばせ,消費を持続させて再選されました.その結果,アメリカの公的債務や対外債務は空前の規模に達し,その大きな部分を中国が保有するに至っています.もちろん中国が財務省証券を使ってアメリカ政府を脅迫するというわけでは無いでしょう.しかしアメリカ政府は,台湾海峡に関与する際,その債務額を考慮するでしょう.
あるいはアメリカ政府がアラスカの油田開発を認める決定は,中国政府の関心を惹くでしょう.それは石油価格を抑制し,より多くの二酸化炭素の排出と地球温暖化をもたらします.しかし,アラスカ油田を止めて石油価格の上昇を放置し,中国やインドの石油需要がバレル当り100ドルの高値をつけるのは,産油地域の独裁者を喜ばせるだけです.FRIEDMANは,Geo-green戦略として,ガソリンに課税し,アメリカが政治的に不安定な地域からの石油輸入に依存する状態を止めさせ,同時に,対外債務を減らして中国への債務依存を回避することを求めます.
最後に,ブッシュ政権と議会は科学技術振興への予算を削り,また企業のストック・オプションを抑制する法改正を行いました.ところが,中国は革新的な企業を育成するためにストック・オプションの利用を認め,科学者の帰国を奨励しています.
中国を世界経済のルールに組み込むことを目指すとしても,アメリカがその強さを維持しておかなければ成功しない,と警告します.
FT March 22 2005
History tells us to keep the arms ban on China
By Wang Dan(a Chinese student leader in the 1989 democracy movement who was imprisoned for seven years for his political activism, was exiled to the US in 1998)
「私は中国を(世界市場に)組み込むことの重要性を理解している.私個人としてはアメリカが中国に「最恵国待遇」を認めたことを支持していたし,中国がオリンピックを開催地となることも支持した.しかし,中国に武器を売ることはまったく別の問題だ.堅実な貿易取引により,中国の普通の人々は利益を受ける.しかし,武器の販売は単に武器取引に関わる政府要人や中国政府の利益にしかならない.それは中国における市民社会の発展に何ら貢献しないし,中国の庶民の生活水準を高めるわけでもない.6月4日の虐殺(天安門事件)について中国政府が何も真実を明かさず,説明も拒んでいるというのに,また中国における人権無視が引き続き悪化しているというのに,ヨーロッパの指導者の中に武器輸出の禁止を解除したがる者がいることに,私は戸惑う.」
FT March 23 2005
A superpower faces the rise of China
The Guardian, Thursday March 24, 2005
Chasing the dragon
Timothy Garton Ash
WP Thursday, March 24, 2005
Tiananmen's Legacy
By Jim Hoagland
(コメント) アメリカではなく(あるいは,同様に),中国の軍備拡大や国際秩序への関与をめぐって,台湾に対する威嚇的な立法と,ヨーロッパからの武器輸出解禁が,北朝鮮の各開発問題に加わって,にわかに複雑な論争となっています.
台頭する中国の存在を,アメリカはどのように扱うのか,曖昧な「関与政策」と言う以外に,明確な方針は無いようです.ライス国務長官は,当然,ケナンの「封じ込め」戦略を良く知っているでしょう.アメリカが沖縄にあれほど軍隊を維持する理由は,何よりも,中国とのバランス維持です.
しかし他方で,中国はソ連と違って,同盟国である韓国や日本以上に,アメリカなどの外国資本を積極的に受け入れ,世界市場における生産拠点としての地位を確立しています.政治的抑圧だけなく,経済的な繁栄を実現することが,自分たちの支配を永続化する条件であることを中国政府は自覚しており,グローバリゼーションが今日の生き残り戦略なのです.
アメリカが中東での失敗を繰り返さないよう,周辺諸国はライス国務長官の中国訪問に注目しています.シンガポールのリー・クァン・ユー氏は,今後10年の内に,中国と台湾が戦争に突入する可能性を,40%と述べたようです.アメリカの強い圧力によって,ヨーロッパは禁輸阻止の撤廃を延期するでしょう.
Timothy Garton Ashは,ヨーロッパが冷戦下でも,苦労してソ連との「デタント」を通じた生産的な対話と貿易を行い,その変化を促したことを強調します.それこそがヨーロッパの道だった,と.それにもかかわらずシラク大統領は,「多極世界」を建設するという名目で,中国への武器輸出を目指しました.もちろん,本当の理由は「重商主義」的なものかもしれません.フランスもドイツも,世界最大の市場に参加して自国の経済停滞や失業を解消したかったのです.
もちろん,アメリカは台湾海峡を挟んでヨーロッパの武器と対峙することに憤慨しました.あるいは,アメリカの軍需産業がヨーロッパ企業の先行を許さなかった,とも言えるでしょう.また,かつてキッシンジャーが「中国カード」を使ってソ連を牽制したように,今度はシラクが「中国カード」を使ってアメリカを牽制しようとしたわけです.
そして中国政府は,現体制のままであれば,必ず天安門事件を糾弾されることも理解しなければなりません.
LAT March 18, 2005
FT March 23 2005
Over the Rio Grande
(コメント) アメリカに住む百万人ものメキシコ人たちは,選挙の際に,メキシコへ帰って投票する権利を認められるべきでしょうか? アメリカ国内で投票できる法改正は,それを有利と見るか,不利と見るかで,国内各派が論争するばかりで決着がつきません.メキシコの選挙は,最近の改革で,非常に腐敗した過去の選挙と断然して,洗練された高度に技術的に管理されたものに変わりました.それも,国境の北における実施の問題点です.移民が選挙に参加することは,メキシコの政治的関心や論争を大きく変えるでしょう.そのことにアメリカの地方政府も協力するべきだ,とLATは主張します.
メキシコ人はすでにアメリカ社会の一部であるから,ブッシュ政権を支持する保守派の求める,移民の帰還や分断を求める政策は間違いです.むしろ,アメリカは非合法移民を合法化する一時雇用計画や,規制の調和や共通関税なども含めた地域協力の深化,そして何より地域開発基金を設けて,地域的な格差を解消する投資を促すことが重要である,とヨーロッパの歴史を引きながらFTは指摘します.
NYT March 18, 2005
Two Years Later
(コメント) イラク戦争がはじまって2年目を記念した論点の整理です.
ブッシュ政権は開戦理由を変え続けました.大量破壊兵器は忘れられてしまったのです.
もう一つの説明は,サダム・フセインの独裁を倒し,中東世界を民主化する,というネオコンの論理です.それにはさまざまな条件が付け替えられました.しかし,どのような言い訳も,この不必要な戦争で夫や家族,息子を亡くした人々の慰めにはなりません.
アメリカが負ったコストは既に甚大です.ブッシュ政権はアメリカの同盟関係を損ない,国連安保理の権威を損ない,スペインのように,かつての同盟国でさえ去りました.反米感情は世界中で高まっています.
アラブ世界の慙愧と憎悪は言うまでもありません.アブ・グレイブの蛮行はブッシュ政権の幹部が9・11により法律を無視できるとする姿勢と一致しています.非常時において,政府は人権や民主主義さえも犠牲にするのです.
ブッシュ氏は開戦の過程で国民を欺いたと言えます.大量破壊兵器の証拠や戦争のコストを,彼は都合よく操作しました.その結果,選挙でも罰せられることがなかったのです.財政赤字や債務についても,政府は国民を欺いていますが,国際市場はこれを忘れません.
アメリカの普通の人々は,今,幻滅と未来への不安を感じています.
多くのアメリカ人やほとんどのヨーロッパ人と同じく,NYTの論説は,イラク戦争に反対の立場を取ってきました.その最も重要な理由は,アメリカ型の世界から孤立しては生きられない,ということです.地球温暖化から,核拡散防止まで,世界には多くの問題が存在し,それを解決するためには主要国が協力するしかないのです.より深い意味で,共通の利益を見出すべきです.
戦争を始める,とは何であるか,政治家に良く考えて欲しいです.
BG March 19, 2005
BG March 22, 2005
If Kennan had prevailed
By James Carroll
CSM March 21, 2005 edition
Kennan's profound global effect
By Daniel Schorr
IHT Thursday, March 24, 2005
George Kennan's lessons for the war on terror
Ian Bremmer
(コメント) 3月17日にジョージ・ケナンが亡くなりました.101歳でした.彼はもちろん,1946年の電報と,翌年,フォーリン・アフェアーズに投稿した匿名論文で対ソ「封じ込め」論を展開し,それによって歴史を変えた人物です.
いずれも興味深い論説です.BGの二つの論説は,ケナンがソ連の共産主義を,合理的に説得できないとしても,恐怖によって自制できる存在であることを認め,その拡張主義を食い止めるならばいつか自壊するのであって,核軍拡を進めて戦争する必要は無い,と主張した現実主義者であった,と言います.ソ連の脅威を取り除くために,赤軍を破壊する必要は無いのであり,彼らに共産主義に代わる理想を教え,それが他の方法で実現できることを示すことが重要でした.
同じことは,現在,戦われている(そして勝利の見込みもない)「テロとの戦争」に適用できます.「冷戦」初期のように,ソ連の力を過信し,その原因や性格を見誤って,軍事力による直接的な占領と体制転換にアメリカ政府が関与することは間違いなのです.
ケナンは,朝鮮戦争が全面的な東西対決に発展することを阻止し,北側におけるスターリニズムの支配を容認しました.スターリンが死亡した際も,軍拡競争を加速するのではなく,外交的な機会として改革志向的な後継者がソ連で権力を握ることを助けました.アメリカ政府が水爆実験や開発を加速するのではなく,ソ連が先行しない限り,その拡散を防止することに関心を集中しました.そしてヴェトナム戦争は,アメリカが行うべきではなかったのです.ケナンは,アメリカ政府が自由のための十字軍などを唱えず,他国の文化を尊重した方が良いと考えたでしょう.
50年も前から,ケナンはアメリカが外交や経済発展を犠牲にして戦争を準備することに反対してきました.彼は冷戦を捉える大きな見取り図を示し,軍事力以外のさまざまな方法を駆使することで,初めてこの戦いに勝利できる,と説得したのです.
アメリカが冷戦に勝利できたのは,赤軍を軍事的に粉砕したからではなく,ヨーロッパを経済的に復興し,ヨーロッパに有効な政治的統治が形成されることを支援してきたからです.ソ連圏が崩壊したのは,そこに暮らす人々が共産主義のイデオロギーや政治的・文化的な魅力に幻滅したからです.
ケナンは保守主義でリアリストでした.すなわち,アメリカや西側が富を独占する世界秩序を政治的に安定化し,維持することを望んでおり,そのためには国家を強化し続けねばならないと信じていました.しかし,そのためには過大なイデオロギーや政治的価値を掲げて世界で紛争に関わるべきではないし,紛争の背景となっている貧困を解消し,地域に根ざした統治の改善や国際機関の強化に関与し続けるべきでした.
すなわち,現在であれば,中国との競争を軍事的な面で刺激してはならないし,テロとの戦争に勝利するには中東の民衆が最も望むもの,すなわち,経済的繁栄とイスラエル・パレスチナ紛争の解決に手を貸してやることだ,とケナンは考えたでしょう.
NYT March 19, 2005
Captains of Piracy
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) ロシアでは,資本主義を悪用して富を簒奪した,オリガークと呼ばれる人々が牢獄に入った.しかしアメリカでは,同様のことに耽る企業重役たちが,めったに牢獄へ入らない,とKRISTOFは嘆きます.
ヒューレット・パッカードを辞めるCarly Fiorinaが得た815万ドルとは何か? ウォルと・ディズニーを追い出されるMichael Eisnerが得る725万ドルのボーナスとは何か? 金正日もすっかり親しみを感じるだろう,と.
The Observer, Sunday March 20, 2005
Mao's children seek their fortune
Will Hutton
(コメント) 中国には中国の資本主義が繁茂しつつあります.それは,より社会的な問題に関心を払う,儒教型の資本主義とヨーロッパ型の資本主義を組み合わせたものであっても,雇用と解雇を繰り返すアメリカ型の資本主義を批判しても,資本主義であることは確かです.民間部門の投資が急速に伸びて,それを支える外資との提携や雇用を求める貧しい人々の群れ,沿海部に広がる裕福な都市消費階層は,中国資本主義のエンジンを高速で回転させ続けています.
しかし,このグローバリゼーションと中国資本主義化の最初の段階は最も容易な局面であった,と中国共産党も気づきつつある,とWill Huttonは考えます.市場経済の発展を支えるソフト・インフラが共産党による政治的な正当性を脅かすとして拒まれ続ければ,早晩,成長は行き詰まるだろう,と.ソフト・インフラとは,会計原則の厳密な適用,信用の評価,企業のよる資源配分,信頼でき,予測可能な法の支配,専門職として,汚職を拒む経営倫理,労働者の代表制や発言権,情報の公開,批判的なメディア,などです.
南京の広大な開発計画にも,中国資本主義のブームには,毎年1000万人の新規雇用をもたらさなければ共産党の支配を脅かす社会不安が起きる,という恐怖心が見えます.国有企業の経営者にはビジネスに関する合理的な観念がなく,資本はタダだと思っています.銀行の融資に金利を支払うことなど考えず,上海の株式市場では,半分の株式が配当を出したこともないのに,値上がりを期待して売買されています.
経済のソフト・インフラが整備されるには,同時に,政治面でもソフト・インフラが必要だ,とWill Huttonは主張します.すなわち,政治システムに透明性や多元性,説明責任を増やすような仕組みです.それはすなわち,中国的な民主主義をどのように発展させるか,という課題です.
IHT Wednesday, March 23, 2005
Disparity mars East Asia's economic gains
Carol Bellamy(the United Nations Children’s Fund)
NYT March 22, 2005
Wave of Corruption Tarnishes China's Extraordinary Growth
By DAVID BARBOZA
FT March 23 2005
Lex: Shanghai property
NYT March 23, 2005
Investment Bubble Builds New China
By JOSEPH KAHN
(コメント) 急速に資本主義化する中国を襲うのは,不平等と汚職,そして,土地投機にバブルです.
Carol Bellamyは,急速に富を増やすアジア・太平洋地域で,子供たちの教育や健康に関して大きな較差が広がっていることを警告しています.
富があって,制度には多くの矛盾がある.そして,情報は公開されない.それゆえ中国の金融ビジネスは,腐敗の温床となるのです.2005年の最初の2ヶ月間だけで,1億ドル以上の現金と一緒に重役が失踪し,数週間後,10億ドル近くを盗もうとした,という嫌疑で他の銀行の数十名が逮捕され,さらに,約800万ドルを持って中堅幹部が逃走,・・・
DAVID BARBOZAは主張します.「一連の事件が示すのは,資本主義的な即席の富裕化を手放しで称えてきた,攻撃的資本主義の中国がもたらす醜悪な副産物である.企業と政府を蝕む汚職の長期に及ぶ波が押し寄せる.」 幹部から下級職員まで,海外口座を利用した収賄や秘密取引がはびこっています.それは中国の金融システムをますます脆弱化する,と恐れられています.
外国資本の参入を認めて競争を促し,悪質な業者を破綻させることで,市場の健全化を図る,というアイデアが語られています.しかし,そもそも証券市場の取引が限られています.アメリカなど,西側のスキャンダルの方が規模は大きいが,中国の汚職は遍在しており,市場の価格が何か分からないほどだ,と嘆きます.
香港や上海など都市部の不動産バブルと,郊外の宅地開発が進みます.それは金融部門を次第に深く巻き込んで,バブル崩壊後の深刻な不況を予感させます.道路,地下鉄,製鉄所,など,余りに多くの固定資本投資によって成長が維持されている,と記事は警告を発しています.それは結局,多大な浪費でしかない,と判明するでしょう.
無駄な投資を削る必要があるとしても,それは深刻な不況に繋がらないか? 政府が投資を減らせば,現在の成長率も半分になる,という予測があります.他方,中国の社会資本を近代化するには,まだ数年を要する,という見方もあります.中国からヴェトナムなど,各地を結ぶ高速道路も建設されています.
NYT March 20, 2005
An Immigration Experiment Worth Watching in Spain
By DAVID C. UNGER
(コメント) 西側諸国は競い合って移民の流入を規制しようとしています.しかし,その前にスペインの例を研究して見てはどうか?
Jose Luis Rodriguez Zapateroの率いるスペインの社会主義政権は,より開明的な移民システムに移行しつつあります.すなわち,非合法移民や地下経済を減らすために,移民労働者を合法的なものとして承認することです.それが成功するかどうか,評価するには早過ぎるようですが,もしこの実験が成功すれば,多くの西側諸国に画期的な先例となるでしょう.
スペインの失業率はいまなお10%以上もありますが,国民が就きたがらない建設や農業分野の仕事を移民労働者が満たしています.それゆえスペイン政府は,急速な移民流入をスペイン雇用者の需要に対応したもの,と考えているわけです.推定では,270万人の移民労働者が雇用されており,そのうちの100万人,2001年の3倍以上が非合法です.このことは,今まで行われてきた警察による非合法移民の排除や強制送還が有効でなかったことを示しています.
より洗練された移民アプローチでは,合法的な移民過程を公的に監視し,円滑に行うことが重要であり,非合法移民をより効果的に規制できます.地下経済を解消するために,アムネスティーと雇用者への罰金を用意しています.
このシステムには,高度な熟練労働者やエンジニアを優遇する規定も含まれますが,それによって影響を受ける送出し国の政府関係者とも,継続して協議することを認めています.移民排斥や熟練技術者の不足を解消したい諸国にとって,スペインの例は注目されるでしょう.
WP Sunday, March 20, 2005
An Opportunity in Darfur
BG March 21, 2005
Africa's forgotten war
By Nancy E. Soderberg
(コメント) 日本政府が自衛隊をダルフールの国連PKOに派遣するかもしれない,というニュースに驚きました.私がニュースを追ってきた限り,ダルフールでは殺戮が続いています.
自衛隊が介入するには,現地の情報を独自に集めて,何が可能かを,分析しなければなりません.そして,自衛隊を過大な危険にさらさないことです.それは,現地の事情に通じた近隣の軍隊を組織する方が効果的なのではないか,という疑問を生みます.
実際,スーダン政府の政策変化を伝えるWPの記事は,駐米スーダン大使がアフリカ連合からの平和維持軍が住民の安全を保証してくれることを望んだ,と伝えています.問題は,その規模が小さすぎることです.現在の2000人弱ではなく,25万人は必要だ,と.もしそうであれば,日本は自衛隊の役割を限定し,むしろ財政的な支援を提供するべきではないのか?
また,隣接するコンゴでも,内戦と飢餓や病気により,大量の死が政治や社会を崩壊に向かわせているようです.
WP Monday, March 21, 2005
A Threat to Latin Democracy
NYT March 22, 2005
The Return of Latin America's Left
By ALVARO VARGAS LLOSA
(コメント) WPは,ラテン・アメリカにおける左派のポピュリズムが政権を握る傾向を憂慮しています.それはアメリカに対抗して,ヴェネズエラのチャベスが左派の連合を形成する力となるでしょう.
その理由は明らかに,1990年代の自由化政策に対する国民の不満が強いことです.インフレ抑制には成功しても,自由で,競争的な市場や強固な法制度が形成されるよりも,クローニー資本主義や権威主義がはびこったのです.
AlvaroVargas Llosaは,新しい中道寄りの左派政権が,かつてのような激しいインフレや外国投資家への攻撃を好まなくなった,と指摘します(アルゼンチンは例外).それゆえ,過度の保守的出るよりは,こうした改革志向の穏健な左派が政府を取ることは歓迎できる,と.
FT March 21 2005
US interest rates must rise, and quickly
By Stephen Cecchetti
(コメント) アメリカの金融政策をどう考えるか? FOMCの決定が市場とのコミュニケーションを円滑にして予測可能なものである,という評価より,Stephen Cecchettiは,中立的な金利水準と,それを実現する時間を問題にします.
FT March 21 2005
John Kay: Huge problems for ungainly giants
By John Kay
(コメント) 規模の拡大は必ずしも成功を約束しません.大企業であることの不利な点を,John Kayは,市場や技術の変化についていけないことに見ています.USスティール,AT&T,GM,・・・SONY?
FT March 21 2005
Lex: Eurozone I
FT March 21 2005
Lex: Eurozone II
(コメント) とうとう「安定と成長のための協定」が公式に,しかし,オーウェル的な文章で廃棄されました.通貨秩序の安定性は,不況において無視されるべきか? ECBと市場は,政治家たちの浪費に向けた誘惑を高金利で予め罰します.
EUに欠けているのは,むしろ「調整メカニズム」である,と分かります.不況地域と好況地域とを結ぶ労働力や資本の移動が少なすぎます.それに対して,政府は公的な融資や支出を求められるのです.ECBの決める金利や為替レートは誰にとっても不満です.
それゆえ最初から,「安定協定」は政治的な駆け引きの材料に過ぎなかったのです.FTは,EUやECBが個別の政府に対する財政赤字を保証しないことさえ明確であれば,後は市場の評価に任せるだけでよかった,と考えます.ところが「安定協定」は問題を政治的に難しくしてしまいました.
FT March 21 2005
Toughen up EU reform agenda and make it count
By Mario Monti
The Guardian, Monday March 21, 2005
Save less, spend more
IHT Tuesday, March 22, 2005
Don't let the Stability Pact die in vain
Holger Schmieding
FT March 22 2005
Europe must compete from within
By Ivan Miklos
FT March 22 2005
Death of a pact
(コメント) Mario Montiは,EU経済回復の課題は,「安定協定」の改訂ではなく,リスボン・アジェンダを達成して競争力を回復することにある,と主張します.Ivan Miklosも,労働力の移動や課税など,ヨーロッパ企業の活性化を目指します.
The Guardianは,ドイツ経済の成長を回復する刺激策が必要だ,と主張します.ドイツは高度な製造技術によって輸出を増やしており,他方で,旧東ドイツを中心に高率の失業が存在する.すなわち,マクロ経済学の教科書が景気刺激策を求める典型的なケースである.理想的には,金利を下げるべきだろう.しかし,ECBはドイツのためだけに動かず,財政政策も縛られている.もしECBがドイツの景気回復に手を貸せば,ヨーロッパ全体で景気がよくなり,労働市場の改革もヨーロッパ憲章の承認も円滑に行えるだろう,と.
同様に,安定協定とリスボン・アジェンダとは分離して評価できない,とHolger Schmiedingも考えます.またFTは,会計基準を政治家が都合よく解釈できるような「安定協定」は意義を失い,各国政府の長期的な財政規律が市場で問題にされるだろう,と考えます.
FT March 21 2005
Exports to remain China economy’s key driver
By Arthur Kroeber(Managing Editor, China Economic Quarterly)
(コメント) 中国経済に関する三つの周知の命題を検討しています.@過剰投資を抑制する政府の介入は効果がない.A消費が成長を担うべきだ.Bアメリカの需要が落ち込めば,中国の成長のエンジンである輸出も停止する.
最初の二つは間違いであり,最後の命題も半分しか正しくない,と.
Arthur Kroeberの意見では,投資の抑制は成功しており,消費による成長を実現できるには程遠い.そして,中国の輸出は爆発的に増大し,その政治的帰結に注意するべきだ,と考えます.歴史的に見て,消費の拡大は投資の変動を1年後れで追っています.2006年についても,真の成長のエンジンは輸出なのです.投資を抑制すれば,過剰貯蓄は輸出の急増へと向かうでしょう.それが現在の局面なのです.
中国の輸出が30%も増え,対米黒字が急増すれば何が起きるか? たとえアメリカやヨーロッパ,日本が不況になって輸入を減らしても,世界の輸出競争は激化し,価格を引き下げるでしょう.そして,中国以上に価格を引き下げる国があるだろうか? とArthur Kroeberは問います.そして,中国の対米黒字が突出することは,経済的には自然であっても,政治的に何をもたらすか?
March 21 (Bloomberg)
Investment Banks Are Too Dependent on Hedge Funds
Matthew Lynn
(コメント) 投資銀行がヘッジ・ファンドにますます大きく資本を投げ込むことの意味は?
BG March 21, 2005
By John J. Sweeney(president of the 13-million member AFL-CIO)
(コメント) 他方,アメリカ最大の労働組合は中米の「自由貿易」協定を牽制します.
CAFTA(the Central American Free Trade Agreement)は,経営者の権利ばかりを守って,労働者の権利や人権,環境を少しも守っていない,と.グァテマラにおける教師や労働者,農民たちの抗議デモに対して警察が発砲し,多くの死者が出ました.これが「自由貿易」か?
CAFTAであれ,NAFTAであれ,自由貿易協定は市場を拡大して雇用や賃金を改善すると主張されてきました.しかし,実際はアメリカの労働者から職場を奪い,賃金を引き下げました.メキシコの農民は土地を失い,今では工場も次々と中国へ移転して,人々はアメリカへの移民となっています.それは参加する諸国に,労働者の権利や労働基準を著しく欠いた法律や制度しかなかったからです.自由貿易協定はこの点を無視しています.
「自由貿易」がアメリカの労働者にも,メキシコや中米の労働者にも,十分な職場や賃金をもたらす条件をJohn J. Sweeneyは要求します.
FT March 22 2005
Wooing America
(コメント) アナン事務総長の改革提案に,アメリカはボルトンを通じて何と答えるか?
WP Tuesday, March 22, 2005
Feeds Wrong Man for This U.N.
By Peter Beinart
American Prospect, Web Exclusive: 03.24.05
Hawks Taking Wing
By Robert Kuttner
(コメント) 国連代表にボルトンを指名したことが,アメリカをますます国際政治で孤立させることを予想させます.国内政治で社会保障制度を改革できないときの自分の保険に,ブッシュ氏は国際政治の粉砕劇を準備している,というわけでもないでしょうが.
FT March 23 2005
Street protests
WP Wednesday, March 23, 2005
Another Post-Soviet Revolt
FT, BISHKEK, March 24 (Reuters)
Opposition party seizes power in Kyrgyzstan
CSM the March 25, 2005 edition
Central Asia's Tulip Revolution
(コメント) ポスト・ソ連圏の政治システムは,まだ,市場の導入に見合う政治改革の模索を始めたばかりです.
地下資源をめぐる国際資本や大国の政治介入,ロシアへの依存と支配,少数民族の流動化と残留ロシア人,ソ連時代の官僚制度,テロとの戦争,・・・そして,何の役にも立たない地域は無視されて,貧困と難民のブラック・ホールを広げます.
******************************
The Economist, March 12th 2005
Race and education: Black marks
American immigration: Dreaming of the other side of the wire
(コメント) イギリスとアメリカの移民政策をめぐる論説です.
イギリスの人種平等委員会のTrevor Phillips委員長が,黒人児童に対する特別クラスが必要だ,と発言しました.人種の問題を白人が言及することは差別と採られます.また,黒人の社会的な劣勢を論じることは,彼らの人種的な劣位を暗示しており,白人層にも容易に受け入れられます.
Phillips委員長の発言に対して論争が起きていますが,The Economistは,黒人児童は成績が悪い,という前提を誰も疑わないことを批判します.実際,人種による統計が黒人児童の成績を低く示していますが,それは黒人の所得が低いからです.もし所得階層によって成績を示せば,低所得の家族は児童の成績も悪いと分かります.そして,低所得の白人の方が,黒人よりも悪いのです.プアー・ホワイトの問題の方が重要だ,と.
問題は,白人か黒人かではなく,これはイギリスの問題だ,と理解することです.
アメリカでは,ますます国境警備に税金を費やすことに疑問を示しています.なるほど,越境者を取り締まることで移民の流入は減るかもしれません.しかし,入国を阻止できたとしても,彼らが再び越境を試みるのを阻止するわけではありません.それはますます過酷な条件で入国する非合法移民を増やすことにもなります.
アメリカ国民は,確かに地方レベルで移民への財政支出を拒否するような直接立法が行われてきましたが,同時に移民の国として,非合法移民の雇用を保護するべきだ,という同情も広範に存在します.経済の現実を見れば,多くの分野で移民労働者が欠かせません.それゆえブッシュ大統領は,非合法移民の合法化に向けた一時雇用計画を提案しました.
The Economistは,以前から,移民の完全な自由化を支持しています.移民を規制すれば,彼らは帰国できなくなり,長期かつ非合法に滞留します.むしろ移動を合法化した方が,労働需要に合わせて移民が自由に流入し,帰国するから,非合法な形の滞留人口は減少する,というわけです.それは経済の活力を高め,財政的な負担も減らします.
しかし,問題は政治です.移民自由化を支持する政治家はほとんどいません.
Testing Iraq’s nuclear intentions: A grand bargain with the Great Satan?
Turmoil in Bolivia: Throwing down the gauntlet
Obituary: Aslan Maskhadov
(コメント) イランと,ボリビアと,チェチェン.核開発と,多国籍企業と,内戦・虐殺の長期化.これらの記事を読めば,世界政治を考える知識と時間がもっと必要だ,と思うでしょう.