IPEの果樹園2005
今週のReview
3/7-3/12
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つだけ推奨するとしたら?
1. グローバリゼーション :グローバリゼーションと言えば,中国とインド.ウォル・マートとトヨタ.
2. ドル安 :ローラ夫人,ホーマッツ,カウフマン,アジア諸国,に尋ねてみたら?
3. EMUの小国 :ユーロ圏において,スウェーデンは財政運営の基準と政治的な説明責任を求めます.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor
FT February 22 2005
The challenge of failing states
By Martin Wolf
(コメント) FTの編集者であり,主任エコノミスト,そして多くの論説(最近,Why globalization works, Yale Univ. Press. も書いた)執筆者であるMartin Wolfが,グローバリゼーションにおける破綻国家,中国とインド,について論じています.
世界の繁栄や安全を保障するためには,豊かな諸国の政府が「破綻国家」の混乱にも介入して,これを立て直す共同の責任を負うべきだ,と考えられつつあります.すなわち,治安,所有権,公共サービス,基本的なインフラ,といった国家としての基本的な機能を住民に対して保証できない政府は,テロや麻薬,組織犯罪,疫病,難民の源泉を拡大しているのです.
「破綻国家」とは誰のことか? もちろん,完全な合意は難しいわけです.しかし,2億1200万人の人口を抱えるインドネシア,1億3300万人のナイジェリアが完全な「破綻国家」になれば,その影響がどれほど深刻かは想像できます.あるいは,世界銀行が示した危機に瀕する貧困諸国としては,アフガニスタン,アンゴラ,中央アフリカ,ギニア,ハイチ,リベリア,ビルマ,ソロモン諸島,ソマリア,スーダン,ジンバブエ,が挙げられています.総人口は1億6500万人です.
他方,開発援助の最近の傾向は,経済改革の効果を重視するなら,こうした破綻の危機に瀕する国家ではなく,もっと豊かになりつつある成功した諸国に援助を集中する方が良い,と言われます.破綻国家の多くは全く成長しておらず,貧困から抜け出す希望もありません.そして,国家の統治能力と貧困,政治的正当性の間には,互いに密接な関係があります.すなわち,貧困や国家破綻の原因は,政府の弱さ,政治的不安定性にあるのです.
問題は,なぜこれらの国家は脆弱なのか? また,豊かな諸国が抗した諸国に対して何をできるのか? です.
Mick Mooreの論説により,豊かな世界から直接に及ぶ脆弱さの5つの源泉をWolfは指摘します.すなわち,@不正な富の隠し場所,A資源を支配する悪質な政府に対する支援,B武器輸出,C豊かな世界が高価に購入する石油,ダイヤモンド,麻薬,D企業による政治家の買収,です.それゆえ,Wolfは,1.全ての国が正統な主権の満たすべき原則を認めること,2.豊かな諸国が貧しい諸国に対する害となるような行為を取り締まること(たとえな不正取引,麻薬や武器の取引),3.政治的・軍事的な支援も含めて,破綻する前に,政府機能の悪化を積極的に予防すること,4.ユーゴスラビアやルワンダ,スーダンのような危機に対しては迅速に行動すること,5.開発援助とその他の軍事・経済支援と密接に統合して行うこと,を求めます.
FT February 22 2005
Asia's giants take different routes
By Martin Wolf
FT March 1 2005
Martin Wolf: Promoting India's inexorable ascent
By Martin Wolf
(コメント) 全人類の5人のうち2人は中国人かインド人です.それゆえ,彼らが成長し始めることは,ヨーロッパとその植民地が形成した世界秩序の歴史的な終焉を意味しています.それゆえ両国について,Wolfは明日の世界,さらには明後日の世界を予測するために必要な重要な問いを示します.@この25年間における両国の経済実績はどうか? Aなぜ成長が加速したのか? Bなぜ中国はインドよりもはるかに急速に成長したのか? C両国はこのまま将来も成長し続けるか? Dインドが中国に追いつくことはあるか?
これらの難問に,Wolfは単純で正直な答えを示しています.両国の経済実績は,戦後の計画経済化において抑圧されていましたが,市場改革を進めることで,特に中国で成長の加速に成功しました.急成長の理由は,1.安価で勤勉な労働力の供給と,2.技術ギャップを一気に解消するキャッチ・アップが,特に直接投資によって起きたことです.
なぜ中国の方がインドよりもはるかに高い成長を実現できたのでしょうか? Wolfが挙げる理由はここでも分かりやすいものです.中国は国内の政治的統一や文化的な均質性が高く,経済成長を加速することに強い政治的な支持を得ていました.そのため国内資源や制度を変えることも積極的に受け入れたのです.他方,インドは国内の政治的な分裂や,特に社会的なカースト制度の影響が強いため,決して市場改革を全面的には受け入れず,多くの政治的統制が残っていました.国内の貯蓄率も低く,労働者の一部が高度な教育を受けていることで知識産業が発達したに過ぎない,と.
両国が成長を持続するとしたら,それは二つの条件に依存する,とWolfは考えます.一つは世界との生産性ギャップであり,もう一つは,それを縮小するために内外の制約が少ないことです.中国の方が生産性ギャップは大きかったでしょう.しかし,インドの方が発達した民主主義を機能させており,中国には,一党支配を破棄し,法の支配や財産の所有,人権を確立できるかどうか,将来の不安となります.
Wolfは,急速な経済発展を指導する点で民主主義は独裁よりも劣る,という説明を採用しません.むしろ,インドの社会的な多様性を統治できるのは民主主義しかないのだ,と言います.大蔵大臣のPalaniappan Chidambaramは,初めての予算案で,中道から右派を代表する連立政権が経済改革を前進させることを示した,と評価されています.財政赤字を削ることには成功しませんでしたが,貯蓄や直接投資を増やし,企業への課税を減らし,関税率を引き下げ,医療や高速道路などのインフラを整備します.中国を抜かないまでも,年7%の成長も可能である,と.
BG February 24, 2005
Russia's forgotten war
By Ilyas Akhmadov(appointed foreign minister of Chechnya in 1999)
LAT February 24, 2005
Beyond Putin's Soul
NYT February 24, 2005
To Russia, With Tough Love
By STROBE TALBOTT
BG February 27, 2005
Oil and Russian hubris
(コメント) ブッシュ大統領とプーチン大統領との会談は,EUとの軋轢を解消する訪問とは違った意味で,重要な政治的意味を持ちます.彼らはともにテロの時代の地域紛争と安全保障を管理することで政治的な権威を高めてきました.しかし,戦後ヨーロッパで最大の流血を続けるチェチェン紛争に関しては,二人が対立する条件が揃っています.
Ilyas Akhmadovは,チェチェン紛争を平和的に解決するには,1997年に民主的な選挙でチェチェン大統領になったAslan Maskhadovとロシア政府が正式に和平交渉を行うしかない,と主張します.Maskhadovには,今も,チェチェン人を代表する政治的な支持が存在し,また武装闘争を続ける各派を一方的な停戦に従わせた権威が存在します.また,彼との交渉を行うよう,ロシア政府に積極的に働きかける責任がブッシュ大統領にはある,と考えます.なぜなら9・11テロへの支援を約束することで,プーチン大統領はチェチェンに対する国際的な非難を和らげ,紛争に軍事的な打開策を模索してきたからです.
その結果は,すでに失敗であったことが明らかです.10年に及ぶ戦争は,チェチェン人口の4分の1に及ぶ20万人を超える死者,虐殺を逃れる30万人の難民を生み出しました.疫病や身体の障害が蔓延しています.家族を引き裂かれ,身内を失った絶望から,自爆テロに走る狂気があまねく沸騰しています.その結果,既にロシア兵の死者はアフガニスタン侵攻の被害を超えています.ロシアの防衛予算は膨張し,世論はますますチェチェン紛争を解決できないプーチンの無能さを批判するようになりました.これに対して政府は言論を統制し,絶望したロシア兵による戦争犯罪を誘発させているのです.
プーチンは政治的な秩序を安定させ,石油価格の高騰を利用して経済的な安定と繁栄を確立しました.ブッシュ政権は9・11やイラク戦争に関して,プーチンの反イスラム原理主義というチェチェン紛争の正当化を受け入れることで取引し,その後のプーチンの人気凋落と政治的抑圧に不快感を示す程度で,明確な攻撃を避けてきました.
人権尊重や言論の自由について,北朝鮮やイランに関して,またロシアのWTO加盟について,ブッシュ氏はプーチンの真意を正す必要があるでしょう.彼が政治的,経済的な支配を続けるために,過去の官僚統制や軍に頼るのか,財閥攻撃やポピュリスト的な政治手法に向かうのか,あるいは外国人排斥に不満の捌け口を求めるナショナリズムや極右の政治運動を利用するのか,いずれにせよ「民主主義と自由」の拡大を説く第二期ブッシュ政権は政治的な対決を迫られるのです.
しかし,その行方を決めるのは,石油価格の動向かも知れません.サウジに代わって,ロシアの石油供給を支える政治的な<安定化>が,G8に集まった西側世界の新しい生命線となるからです.
NYT February 24, 2005
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) 石油か,ドルか? どちらが世界にとって重要でしょう? どちらが世界の「自由と民主主義」にふさわしい商品でしょう? あるいは,どちらも独裁者のためのリベートでしかない?
ブッシュ大統領に一つ聞きたい,とTHOMAS L. FRIEDMANは指摘します.「ローラ夫人とヨーロッパでショッピングを楽しんだか?」 と.もしドルで買物したのであれば,ローラは不満を示したはずです.「ジョージ,このチョレートはちょっと高すぎないかしら? ドルはどうなっているの? どうしてユーロはこんなに価値があるって言うの,あなた! ヨーロッパなんて古臭いだけだ,とラミーは言ったわね.でも,もし私たちがエア・フォース・ワンに乗れないとしたら,あなたの給料でヨーロッパ旅行なんてできないわよ!」
ブッシュ政権は,世界に対して表明してきました.それがニュー・ヨークの株価を暴落させて世界恐慌をもたらしたり,貿易戦争が勃発したりしない限り,ドルの下落には何もしないつもりだ,と.増税して,消費を削って,石油輸入を減らして,要するに財政赤字や経常赤字を減らすことがドル下落を止めるとしても,そんなことはしたくない,と.
要するに,世界市場はドル下落を「秩序正しく “Orderly”」吸収できる,ということにこの政権は賭けています.しかし,「秩序正しく」とはどういう意味か? 通貨市場のトレーダーたちに,そんな言葉を知っているか,尋ねてみてはどうか? そして,いつも「秩序正しく」ドルを売るように,と頼むわけです.
アメリカ人の生活は社会保障だけによって守られているわけではない,とクリントン政権時の官僚は指摘します.彼らの生活は住宅価格の上昇によって維持されており,それを支える異常なほどの低金利がいつまでも続くと思っている.もしドル下落が続けば,こうした期待は一掃されるはずだ,と.つまり,ドル下落は頭の皮に降りてくる「デモクレスの剣」なのです.
ブッシュUのアメリカは,石油の輸入と資本の輸入を止めるつもりが無いのです.市場がそのことを不快に思うほど,ドルの下落は強まります.ゴールドマン・サックスのRobert Hormatsは市場の不信感を説明します.アメリカはもっぱらその浪費癖を続けるために,世界の貯蓄の80%を吸収してしまった,と言うのです.その結果として,アメリカが発行した財務省証券の43%が海外で保有されています.彼らはドル下落をどれほど不愉快に思っているでしょうか? 彼らの資本をふんだんに使って,アメリカの政治家たちは社会保障の民営化も容易にできると議論し合っているわけです.
月曜日,韓国銀行が外貨準備の多様化を語りました.ドルの準備を売却するのではないか,と市場は一気に雪崩を心配したわけです.翌日,韓国銀行はドル売却を否定しました.しかし,1987年のブラック・マンデーや,1997年のタイの破綻もそうであったように,バブルを挫くのに,ドルを売る必要はないのです.ただ買い増すことを控えるだけで,雪崩が始まるでしょう.
NYT February 27, 2005
The Alpha Currency? It's Still the Dollar
By WILLIAM J. HOLSTEIN
(コメント) NYTのWILLIAM J. HOLSTEIN は,ドルについては強気のHenry Kaufmanに尋ねてみました.なぜか? と.
それは,アメリカが世界の覇権国であり,ドルはまだ暫く世界通貨であることに疑う余地はないからです.アメリカ経済の成長も,企業の利潤も,アメリカへの投資を支持するでしょう.誰が赤字を融資するのか,という問題です.もちろん,莫大な輸出を行いながら通貨の増価を恐れる日本や中国はドルを買い続けるでしょう.金融政策を少しずつ引き締めている連銀と,石油価格高騰に潤う産油諸国も,財務省証券をさらに購入します.
しかし,対外赤字を減らすためにアメリカ政府がドル安を吹聴するようなら,それは非常に危険な政策です.チェイニー副大統領が財政赤字を軽視したことも間違いであり,問題は景気循環の局面です.もし民間部門が資本を活発に必要とすれば,金利が急騰するでしょう.政府が本気で「安定したドル」を追及していないかもしれない,という不安はあります.しかし,Kaufmanは,中国や日本が本気でドルを売るとは全く思っていません.それは彼ら自身の輸出を損なうからです.
中国やインドからの輸入品に対抗できるほど,ドル安が進むことなどありえないのです.ドル安は経常収支赤字の問題ではありません.しかし,Kaufmanも,国際的な不均衡が異常な規模に達していることを認めています.ただし,当分は,それを安定的に維持することが参加者たちの利益となるのです.もしその均衡が崩れるとしたら? 1.深刻なテロ攻撃を受ける.2.石油価格が上昇し続ける.3.ヨーロッパと日本が景気を回復させて,アメリカに厳しく是正策を要求する.
WP Tuesday, March 1, 2005
Dollar Jitters
March 2 (Bloomberg)
Greenspan Humbled By Asia's Central Bankers
William Pesek Jr.
(コメント) 韓国銀行が誘発したドル不安に関して,いくつかの論説が書かれています.ドルは利子と元本の返済に対して,急速に追加の債務を必要とします.日本のようなゼロ金利ではないからです.危機や破綻を回避するには,アメリカ政府が増税するしかない,と.
William Pesek Jr.は,1960年代にドル準備の累積を批判したヨーロッパの研究者グループにならって,日本,中国,韓国,東南アジアの金融関係者がバンコクに集まって話し合った会議を``The Asian Bellagio Group''と命名しました.グリーンスパンにも彼らの言動は無視できません.もちろん,ドル暴落はアジアの利益になりません.しかし,長期的には,アメリカの政府に融資するより,自分たちの教育や生産性改善に投資する方が好ましいのです.そこには,1997年に提唱された途端,アメリカ政府によって潰された,「アジア通貨基金」案の流れも見えます.
グリーンスパンの仕事は,二つの点で難しくなります.ドル暴落や金利急騰のリスクが増大します.また,アジアが協調してドル買いを続ければ,アメリカのインフレ抑制ができなくなります.このままの不健全な共生関係を断つには,アジア諸国が協力して,ドルに頼らない,自分たちの投資や為替レートの調整メカニズムを立ち上げるしかないでしょう.たとえアジアが今まで地域協力に成果を挙げてこなかったとしても,それはグリーンスパンのためにドル暴落を回避してやるだけでなく,彼ら自身の利益だからです.
FT February 27 2005
Why Goliaths need to be careful
By Jeffrey Garten
(コメント) M&Aに関する考察です.Procter & GambleはGilletteと合併し,MetlifeはTravelers Life & AnnuityとCitigroupの海外保険部門を買収し,NovartisはドイツのHexalを買収,情報通信分野ではSBCがAT&Tを呑み込み,QwestとVerizonがMCIへの買収合戦を過熱させる・・・
それは大きな金儲けの話です.競争的にM&Aが拡大し,それにともなう金融ビジネスや弁護士,広告業界の儲けを生み出します.アメリカ企業には余剰資金があり,ヨーロッパ企業には強いユーロがある,というわけです.
Jeffrey Gartenは,世界市場における競争が強まっている中で,M&Aを過去の反独占法で阻止するのは時代遅れだ,と考えます.最近のM&Aは競争を強め,そのための戦略的な企業再編に目標を絞っています.彼らはコストを削って,消費者へのサービスを重視します.
問題は,@巨大な規模に達した企業を経営者が以前と同じように統治できるのか? A大企業に集中する政治力を市民社会が受け入れるか? ということです.Gartenは,かつてモルガンやロックフェラーがその力を恐れられて,さまざまな規制をかけられたように,世界市場でも規制による混乱が再現するだろう,と懸念します.
Feb. 28 (Bloomberg)
Livedoor vs Fuji Is New Japan vs Old Japan
William Pesek Jr.
FT February 28 2005
Guy de Jonquieres: Why big is not beautiful
By Guy de Jonquieres
(コメント) 日本について海外のメディアが関心を示したのは,ライブドアの日本放送買収問題と,巨大銀行の更なる合併です.しかし,どちらも日本だから話題になるような,多分,時代遅れの大騒ぎなのです.
William Pesek Jr.は,ライブドアによる敵対的な買収に注目するだけでなく,フジテレビによる「ポイゾン・ピル」戦略の評価にも注目します.どちらが株主の利益になるのか? あるいは,どちらが将来の日本の株式市場による企業統治を改善するのか? そして,もちろん,日本の投資家や経営者に決定的な新旧交代が起きるのか? 外資の参入が日本経済の再生に貢献できるのか?
そして,忘れないように.新生銀行や日産を立て直したのは誰か? ダイエーやカネボウの企業再生を妨げ,多大の公的資金を浪費し続けたのは誰か? 旧式の野球チーム経営やリーグ運営を立て直せるのは誰か?
たとえば,MTFGとUFJの合併は,日本の銀行ビジネスが過去の肥大化した資産や店舗を整理する過程として見れば,その巨大さに問題があるわけです.彼らがその規模に見合った収益を上げられるとは思えない,とGuy de Jonquieresは警告します.
最も好ましいシナリオは,政府の予想通り景気が回復し,融資が増え,金利も上昇することです.第二の可能性は,海外におけるヴェンチャー・ビジネスを拡大することです.しかし,アメリカや中国で投資や融資を拡大するのに,日本企業の展開や国内の株価上昇といった1980年代の利点にはもう頼れません.最後に,危険な見通しとして,国内の融資基準を甘くして,再び融資の規模を競い合うことです.そして景気回復は,将来,再び銀行を土地バブルに狂わせます.
WP Sunday, February 27, 2005
Ignoring the Invisible Hand
By Jim Hoagland
(コメント) グリーンスパンは2月6日にアダム・スミスの生地,スコットランドのカーコーディーに来て,素晴らしい記念演説をしたそうです.「歴史を見渡せば,本当に重要なのは思想であると分かる.世界がそれ以外のもので変えられることは無い.」・・・「多くの皇帝や軍隊が来ては,去っていった.彼らがもし新しい思想を持たなかったなら,歴史に何も残さなかっただろう.」
グローバリゼーションにおいて各国が富を実現し,それを広める仕組みは,今でも,スミスが見出した新しい社会の思想です.国家も,理想的には,その利己心に従って世界に富をもたらすはずでした.しかし,9・11以後,スミスの合理的な軌跡が一時的に断たれるのを見ました.指導者たちは世界の不均衡をさまざまな理由で拡大しています.「見えざる手」は機能しなくなったのでしょうか? あるいは,核による最終戦争までの時間を示す時計を説明していた冷戦期の物理学者たちに変わって,世界の金融的は局までの時間を示す時計の前に,今や,経済学者たちが座るのでしょうか?
新しい「恐怖の均衡」は,ドルの外貨準備として,アジアとアメリカの間に蓄積されています.他方,ブッシュとヨーロッパの政治指導者たちが過去の戦没者たちに花輪を捧げるのは,こうした不均衡の解消に役立ちません.
WP Sunday, February 27, 2005
Children Going Hungry
By David K. Shipler
WP Sunday, February 27, 2005
Bye-Bye, Housing Boom
By Michael Kinsley
FT February 28 2005
America takes heed of the British pensions 'disaster'
By Chris Giles and Andrew Balls
(コメント) アメリカが国内に抱える問題は,決して消え去ったわけではないのです.ブッシュ氏の唱える,魔法のような解決策の効き目は・・・?
FT February 28 2005
East Asia's faultlines
ST March 1, 2005
Case for an East Asian security order
By Joseph Liow Chin Yong and Tan See Seng
IHT, Thursday, March 3, 2005
Heading off a Japan-China conflict
Michael Vatikiotis
(コメント) 東アジアにおける伝統的な日本と中国との勢力争いが再び強まってきた,と世界の関心を集めています.たとえば,中国の軍備近代化やヨーロッパからの最新兵器購入,日米間の安全保障に台湾海峡への対応が含まれる懸念,たとえ,相互の経済的利益が大きく,北朝鮮問題では協力しても,両国におけるナショナリズムの高まりは深刻です.
もちろん,シンガポールの関心は東アジアと東南アジアの安全保障をリンクさせ,拡大された地域で安全保障を制度化することです.既にあるさまざまなパッチワークが,中国の影響力が強まることに対応して,一つに統合されて行くでしょう.
Michael Vatikiotisは考えます.特にアジアの小国は,中国と日本が冷戦を加速する中で繁栄することが不可能であると知っているはずだから,アジア通貨基金や自由貿易協定,アジア経済統合を進める両国の競争的な呼びかけに,むしろ積極的に参加すべきだろう,と.
FT February 28 2005
John Kay: A recipe for healthy debate on migrants
By John Kay
FT March 2 2005
Quentin Peel: A dynamic Europe needs immigrants
By Quentin Peel
(コメント) 人種の坩堝か,トマト・スープか,バラバラのサラダ? 移民と国民との関係をめぐって,特に多文化主義への批判として,アメリカでもヨーロッパでも激しい議論が起きています.たとえば,サミュエル・ハンチントンのWho are We? です.
アメリカでもヨーロッパでも,左派は多文化主義や移民の文化的な自律を支持し,右派は政府が独自の文化を守るべきだ,と主張して選挙で得票を伸ばします.アメリカの人種による階層化やナチス・ドイツの記憶に反発してきたヨーロッパは,移民や文化について議論することを避けてきました.しかし,その社会や歴史に新しい文化を担う人々が積極的に参加できる社会を,人種差別主義者としてではなく,オープンに議論できる時代が来るでしょう.
各地の紛争によって生じた移民や難民を押し付けあって,強制的な退去や収容所の建設を争っている豊かな工業諸国の政府は,むしろ,自らの経済的活力を維持するために,移民たちを奪い合う必要もあるはずです.それにもかかわらず,一旦,移民排斥や外国人嫌いの演説で政治的な人気を博した政治家たちは,その政治的に歪曲されたイメージを修正できません.
正直に,そのことを国民に訴えることのできる政治家が必要です.
NYT February 28, 2005
By ROBERT B. REICH
(コメント) ウォル・マートとトヨタ.どちらがグローバリゼーションの利益を世界に広める資本主義的福音派でしょうか? あるいは,貧しい人民を食らう資本主義的怪獣?
たとえばニュー・ヨーク市へのウォル・マートの最初の出店は住民や地元小売業界の反対で阻止されました.反対派に言わせれば,ウォル・マートは120万人のアメリカ人労働者に平均で9.68ドルの時給しか支払わず,保険に加入せず,労働組合も許さない.街のメイン・ストリートをゴースト・タウンに変え,零細業者は破産する.
しかし,ウォル・マートを責めるだけで良いのか? とROBERT B. REICHは問います.ウォル・マートの創設者やその後継者たちは,われわれの頭に銃を突きつけて世界最大の小売店になったわけではない,と.ウォル・マートはそのどこよりも安い価格で消費者を惹き付けたのです.そのコスト削減は供給ラインの全てに及びます.今では小売業だけでなく,あらゆる業界が中国の工場やインドのバック・オフィスを使ってコスト削減を競います.
これこそが現代の「ファウスト的契約」なのです.なぜなら,私たちは消費者であると同時に,労働者であり,コミュニティーの住民です.私たちは大企業を責めるけれど,同時に,彼らにもっと安い価格を要求しているのです.あるいは,インターネットで世界中の価格を比較しています.たとえ,それがコミュニティーを破壊し,自分たちの賃金を引き下げているとしても.
どうすれば,適当なバランスを得ることができるでしょうか? REICHは,公的な規制や法律により,市場に全てを正しく反映させるべきだ,と考えます.たとえば,雇用者には医療保険を義務付け,最低賃金を市民生活に十分な高さまで上げ,投資や撤退に関して,労働組合や住民組織と正式に話し合うべきです.
確かに,航空業界を再び規制して格安航空券を禁じたり,中国やインドとの自由貿易を妨げることは間違いでしょう.しかし,政府は競争によって失われた雇用や労働者の苦しみを補償してやれます.また貿易協定を結ぶ際には,労働基準についても交渉するべきだ,と.
現在の販売価格には,私たちが労働者や市民として生きる条件が正しく反映されていません.全てを反映したコストの削減について,私たちは正しく議論するべきです.
WP Monday, February 28, 2005
Making Globalization Work
By Sebastian Mallaby
LAT March 1, 2005
Strange Hero Indeed
March 3 (Bloomberg)
Don't Blame Toyota for Europe's Jobless
By Doron Levin
(コメント) グローバリゼーションの支持は,反対を超えて増大しつつある,とSebastian Mallabyは歓迎します.不満は和らぎ,9・11による非観派の予想も乗り越えました.しかし,グローバリゼーションに見合った政治的な意志や国際制度の構築は進みません.第一期グローバリゼーションが破綻したコースから,まだ完全に離脱できたわけではないのです.
ウォル・マートは,コミュニティーの再生や,低所得者の生活改善に役立っている点で,破壊者ではなく救済者として支持される場合もあるのです.
他方,トヨタのヨーロッパ進出は失業を悪化させるでしょうか? トヨタの成功の秘訣は決して秘密ではありません.トヨタはあらゆる無駄を省いて,労働の時間をはかり,生産コストを引き下げるのです.そして貿易摩擦が激化したとき,GMを招いて工場を共同で経営し,アメリカの労働者や経営者からもその成果を認められました.フランスやイタリアの経営者や労働者も,トヨタの工場に招かれるでしょう.そのとき,彼らはどうするのか?
FT March 1 2005
Countries should embrace stability targets
By Lars Heikensten (governor of the Swedish central bank)
(コメント) EMUの安定協定改正について,スウェーデン中央銀行の総裁が各国の財政政策運営そのものを改善できる,と主張します.
安定協定が問題となっているのは,その制約が景気循環を増幅するような財政的制約を課し,しかも加盟国への罰金という政治的に決定困難な方法でこれを強制しようとしたことです.不況の際の赤字拡大だけに注目し,あるいはEUからの強制に反発する政治家の声で議論が過熱するのは間違いなのです.Lars Heikenstenは,財政政策の運営が不況のときだけでなく,好況のときにも十分に考慮されるべきだし,長期的な財政運営計画を示して,これを定期的に各国の議会で報告させることで,政治的な支持を得ながら有効に監視・強制できる,と考えます.
多くのEMU参加国は,参加前に議論された条件を,その後は重視しなくなりました.しかし,財政的な規律を守ることは,共通通貨にとって重要であるとともに,各国の経済運営にも利益となるのです.スウェーデンは自国の財政再建によって得た経験をEU諸国にも伝えたい,と.
WP Tuesday, March 1, 2005
The Nuclear Core of North Korea's Strategy
By Nicholas Eberstadt(the American Enterprise Institute)
(コメント) 北朝鮮の目標は武力によって朝鮮半島を再統一することであり,1950年の攻撃が失敗したのはアメリカが軍事介入したからである.だから,核兵器と大陸間弾道ミサイルを開発し,アメリカが再度介入することを牽制できるなら,再統一が実現する.今は停戦によって次の攻撃を準備する時期でしかない.北朝鮮の指導者が,積極的な援助や安全保障によって和平を推進する考えは全く持っていない.状況はゼロ・サムであって,ウィン・ウィン・ゲームとは考えていない.核開発を諦めることは無いだろう,と.
CSM the March 03, 2005 edition
More money, more risk in the new economic order
By David R. Francis
(コメント) 世界を急速に変化させているのは,ますます統合化する資本市場です.その規模は118兆ドルを超えました.それは1993年の倍以上,1980年の10倍です.世界の経済バランスも大きく変わるでしょう.それは韓国の中央銀行がドルや債券相場を動揺させたことに示されました.統合された資本市場は,ますます深く,流動的で,リスクも大きくなるでしょう.投資家たちはいつでも背を向けて去ってしまえるのです.アジアや旧ソ連圏,そして世界中の新興市場で資本取引が自由化され,拡大しています.しかも銀行ではなく債券市場が,資金を循環させるのです.
ここでどのような秩序が生まれるのでしょうか?
FT March 3 2005
A faulty strategy weakens China's prospects
By Morris Goldstein and Nicholas Lardy(the Institute for International Economics)
(コメント) アメリカの経常赤字も,アジアに累積するドル建の外貨準備も,心配する必要など無い,と「再建ブレトン・ウッズ体制」の提唱者たちは考えます.介入によって過小評価された通貨を維持することで,輸出指向の成長は持続し,社会的な安定を保てる,というわけです.さらに直接投資は国内の非効率な資本市場による制約を克服し,海外生産拠点からの輸入に対するアメリカの保護主義は抑制されるはずだ,と.
しかし,Goldstein and Lardyはこの意見を否定します.@中国政府はドルに対して過小評価された人民元を維持することを目標にしていない.一方で,中国の輸出はその半分以上がアメリカ以外に向かうのであり,ドルとの為替レートを固定しても意味がない.A他方で,中国は実質為替レートが大きく変動するのを許しており,特にマクロ経済管理にとって重要な実質実効為替レートの安定化はその開発戦略と無関係だ.B中国への直接投資はその固定資本形成の5%ほどでしかない.C不胎化介入は国内の金融取引を抑圧しており,健全な金融市場の発展をむしろ阻害している.Dアメリカ企業は主に中国の国内市場を狙って直接投資しており,アメリカにおける保護主義を抑制する政治的な意味は無い.むしろ,台湾や香港の企業が中国をアメリカへの輸出拠点にしている.
Goldstein and Lardyは,そもそも開発戦略として中国自身の市場の発展を妨げている,と「再建ブレトン・ウッズ」の維持に反対します.中国は金融市場を改革し,金利を自由化し,行政指導や金融規制の頼った経済運営を減らして行くべきだろう.15−25%の切上げと,通貨バスケットに対するペッグも含めた,中期的な為替レートの弾力性拡大を実現して,資本取引を内外で自由化するべきだ.そうすることで国内金融は安定性を確保し,均衡的な雇用の拡大,資源配分の効率化,健全な経済運営,そして輸出市場の開放も維持できるのだ,と.
The Guardian, Thursday March 3, 2005
Dark arts cloud Moldovan path to prosperity
Simon Tisdall
(コメント) モルドバはヨーロッパでも最貧の水準にある国です.著しく不正な選挙によって大統領となったVladimir Voroninは,西側を支持する,ソビエト時代の政治家です.ジョージア,ウクライナに続いて,モルドバがロシアのポスト・ソビエト外交と西側との間で影響を受けています.ロシアは近隣諸国に関して,その資源や物資の供給など,経済的なリンクにおいて圧倒的な優位を維持しています.しかし,それを外交政策として展開し,西側との経済的リンクと組み合わせることに成功していません.ここでもロシアとの関係が深い地域の分離独立運動を介入の手段に使う懸念があります.EUとロシアの対立が,支援ではなく内戦をもたらし,貧しい人々をさらに絶望させるかもしれません.
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The Economist, February 19th 2005
Mr. Bush goes to Belgium
Anti-Americanism: The view from abroad
(コメント) ブッシュ氏が再選された以上,彼を好きでも嫌いでも,ヨーロッパの指導者たちは彼と仕事をするしかないわけです.少なくとも,今すぐに,どこかの国を攻撃する計画は立ててないのですから.イラクの選挙やパレスチナのアッバス当選,イスラエルの撤退など,ブッシュ氏を見るヨーロッパの目も変わりつつあります.
しかし,その単純化された自由の宣言や,イラン,シリアへの強硬姿勢には反発があります.ヨーロッパの政治家は,テロの掃討よりも,テロの原因を解消するように求めています.すなわち,貧困を解消し,地域紛争を解決することです.ブッシュ氏がそのための指導的な役割を果たすなら,大西洋を結ぶ同盟の橋は再強化されるでしょう.
中東紛争に関して欧米で意見が分かれることについて,The Economistは欧米のそれぞれの心情を基本的に解説しています.ヨーロッパはブッシュ政権が第一期においてパレスチナの問題を無視してきたと感じており,イスラエルの占領政策は改められるべきだと考えます.他方,アメリカは9・11以後の安全保障を重視する姿勢に関して,自爆テロに対抗するイスラエルとイスラム原理主義者や独裁者への警戒(そして憎しみ)を共有しています.欧米はともに市民社会を強化し,和平と経済再建を支援する点で一致しています.
しかし,その背後にある感情は,ヨーロッパの指導者たちがイスラエルの占領政策に自らの植民地支配の歴史と罪悪を連想し,もはやアウシュビッツにおけるユダヤ人虐殺に対する配慮によって批判を躊躇することはなくなった,という姿勢を反映しています.しかも,アメリカ政府にキリスト教右派やユダヤ人組織の影響を詮索されるのと同様に,ヨーロッパの政治ではトルコのEU加盟や自分たちの内側に広まるイスラム教徒の影響,中東地域の政治紛争がもたらす難民を恐れています.
両者の間には多くの対立点があります.ブッシュ氏の考える自由やアメリカ的な価値の輸出を,ヨーロッパは支持しません.それらがもたらす悲観的な結果について,ヨーロッパはむしろ憂慮しているのです.もはや両者を決定的に協力させる合意となった冷戦の恐怖は存在せず,テロの脅威は明確な対抗戦略を示せません.アメリカもヨーロッパも,協力するかどうかは選択の問題となりました.
ではヨーロッパがロシアの石油や中国の市場・軍事力と,国際的に協調することを選択するでしょうか? アメリカは単独で世界の秩序を再編できるのでしょうか? 両者の協調にともなう犠牲はあるとしても,まだ多くの果実をもたらすでしょう.
冒頭の特集記事は,世界各地に広まる反アメリカ主義について,なぜ地域や国によって異なったパターンが見られるのか,政治文化的な特徴を整理しています.アメリカはしばしば憎まれ,同時に尊敬されているのです.むしろ,政治的にも経済的にも,自分たちが目指す社会モデルとしてのアメリカが曇ってきたことを,ブッシュ政権はもっと意識する必要がある,と.
Hedge funds: A wise investment?
Hedge funds: The new money men
(コメント) ヘッジ・ファンドは,もはや周辺的な,個人資産家だけの問題ではありません.その桁外れな報酬や,公表されない取引内容に対して,金融市場の透明性や安定性が脅かされています.年金や銀行もヘッジ・ファンドに資金を流し,裕福な資産家に限らず,誰でも資金を持ち込める状態が広まって,彼らの行動が社会的な基準に照らして正当化できるかどうか,議論され始めたわけです.The Economistは過度の規制を嫌います.しかし,少なくとも,旧来の金融ビジネスにないような方法で,金融市場の効率性を改善し,秩序を安定化すると言われた「ヘッジ」ファンドの存在理由は,新しい規制との兼ね合いで,慎重に再検討されるでしょう.
Germany’s economy: A view from another planet
Economics focus: The real picture
(コメント) もし火星人が地球に来て有望な投資先を捜したら,今なら,アメリカではなくドイツに投資するだろう,と言います.ドルに対するユーロの増価にもかかわらず,ドイツは他の先進工業諸国と違って,唯一,輸出を伸ばし続けている国です.それは工場の海外移転や労働市場の規制緩和,競争激化などで,賃金が抑制され,技術革新が促されたからです.アメリカのように,財政赤字を省みない減税や,低貯蓄を反映しない投資や消費,ドル安を無視した低金利などが,成長を嵩上げしているわけではないのです.