IPEの果樹園2005

今週のReview

2/21-2/26

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   北朝鮮 :核兵器保有宣言に関する反応.選択肢は余りない?

2.   ドルと人民元 :世界経済の不均衡をどうするのか?

3.   イラク投票 :国民が示した勇気と方針とは何か?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


FT February 10 2005

A more attractive exchange rate

By Stefan Collignon

(コメント) 国際収支の不均衡を税制しなければならないのは明らかです.しかし,どうやってするか? 為替レートか,国内需要の調整か? アメリカはどちらについても協調政策への関心を示しません.

これまでヨーロッパの論調は,アメリカの過剰消費やドル安放置だけでなく,アジアのドル・ペッグを非難することでした.しかしCollignonは,アジアとの政策協調を主張します.まず日本と協調して,外国為替市場に介入します.これによって過度のドル安を防ぐ,というわけです.さらに,中国がドル・ペッグによって成長を維持してきたことを評価し,今後は主要通貨のバスケットにペッグすることを求めます.他のアジア諸国もこれに従うでしょう.

Collignonの目指す国際通貨秩序とは,アメリカの不均衡に対して,たとえアメリカが協調姿勢を示さなくとも,ヨーロッパと日本が為替レートを管理し,アジアの成長を維持して,協調型の不均衡是正を実現できる,という状態です.


Feb. 10 (Bloomberg)

Bush's `New Deal' Needs Economic Literacy

Kathleen M. Camilli

(コメント) 社会保障制度の大改革を支える基本思想とは,資本主義を生きるための教育を万民に施すことです.なぜなら,資本主義のもたらす富を享受するには,特にインターネットを利用して,個人が株式投資や企業の設立についての知識を必要とするからです.それはまた,ミルトン・フリードマンが称揚した,個人の自由を通じて社会を豊かにするシステム,という理想です.

1960年代にできた富の再分配による社会保障制度は,個人の自由に依拠する新しい制度に取って代わられねばなりません.誰もが良い教育を受け,良い職場を得て,良い所得を蓄え,さらに増やすためには,投資についてウォール街が助けになるでしょう.個人が自分の人生に責任を持つ社会を,ブッシュ氏は「所有社会 “ownership society”」と呼びます.

ここはますます急速に変化する市場経済です.職場は持続せず,一人の雇用主と生涯の永続的な関係を保つことなど望めません.人々は転職や転業を繰り返します.だから,安定した金融力,それゆえ安定した所得,を得るには,金融市場を利用する知識が不可欠です.なぜ全国民に株式投資や起業のためのノウ・ハウを教えないのか? 資本主義は世界中に広まって繁栄しています.それは利潤によって動く経済システムであり,金融市場の知識が同じように普及していなければなりません.

それによって分配の平等や安定した所得が本当に実現すればよいのですが.


NYT February 10, 2005

Encouraging Nuclear Proliferation

FT February 11 2005

Try diplomacy

FT February 10 2005

North Korea urged to return to arms talks

By Anna Fifield in Seoul, Daniel Dombey in Brussels and Peter Spiegel in Nice

(コメント) アメリカ政府と国防総省は実際に使用できる核兵器の開発に熱心です.広島と長崎で使用されて以後,一度も使用されなかったのは,核兵器がどのような戦闘においても不適切な,市民の多大な犠牲をともない,他の方法で軍事目的を達成することが常に可能であったからです.それでもアメリカ政府は新しい核兵器の開発計画や地下実験を続けています.そして,それこそが冷戦後にもアメリカの方針に従わない中小国に軍事的圧力をかけるために使用する,という疑念と,さまざまな核開発を誘発するのです.

アメリカ政府は,北朝鮮が核兵器を廃棄するために6カ国協議を進めています.なぜ同様にイランに対するEUの協議に参加しないのか? とFTは批判します.北朝鮮のように,一旦,核拡散防止条約から離脱すれば,その姿勢を変えさせることは非常に困難です.国際テロリズムを支援している,という理由でイランとの交渉を拒むより,核開発をあきらめさせることが,金正日の独裁国家を国際体制に復帰させる交渉と同様に必要です.

核保有を正式に宣言したことで,周辺諸国が一致して経済制裁に踏み切る機会にもなるでしょう.北朝鮮の核廃棄問題に関しては,アメリカ,ヨーロッパ,日本,中国が一致しており,統一した行動が取れるはずです.あるいは,ここで破棄を実行させなければ,実際に核開発を進める国が,北朝鮮などから支援を受けて,急増するのではないでしょうか?

The Guardian, Friday February 11, 2005

Signals from the palace of smoke and mirrors

Simon Tisdall

NYT February 11, 2005

The North Korean Challenge

ST Feb 12, 2005

Keep working on Pyongyang

ST Feb 12, 2005

N. Koreans will always starve if Kim stays inflexible

By Shim Jae Hoon

CSM the February 11, 2005 edition

North Korea's Fearmongering

BG February 12, 2005

North Korea's tactics

By Leon V. Sigal

(コメント) もちろん,単なるハッタリかもしれません.北朝鮮は経済改革にも失敗し,もはや核兵器の幻想を誇大に宣伝して,その廃棄を高く売りつけるしか明日の食糧にも事欠いている状態なのです.その国民は真実を知らず,関係諸国も核の存在を確信できません.独裁者は誰に対しても,自分の危険性を誇示することで生き延びようとします.

アメリカの姿勢も柔軟性を欠き,北朝鮮を嫌悪し,その支配者を憎悪するだけで,解決の道筋を示す姿勢が見られない,とNYTは批判します.6カ国協議に委ねるだけで,統一した行動を中国と相談する姿勢も見られません.他方,STは,軍事的な手段を議論することは狂っており,中国が強い圧力をかけることで解決に導く筋道を示すべきだ,と関係諸国の忍耐と強い姿勢を求めます.CSMは,日本が核武装し,アジアで核軍拡競争を招きたくなければ,中国は行動しなければならない,と求めます.

日本でも拉致家族などで強まっている北朝鮮への強硬論は,必ずしも交渉を進める条件に役立っていません.独裁政権を解体することを望むとしても,核廃棄には交渉が必要です.Leon V. Sigalは,アメリカの交渉姿勢に「悪魔との取引」を拒む硬直的な対応を見ます.しかし,独裁政権だから,ルールを破って核開発したから,まず処罰しなければならない,まず服従させるべきだ,と主張することは現実的ではありません.

むしろ,北朝鮮にも「しっぺ返し(因果応報)」的な戦略が適当だ,とSigalは主張します.もしアメリカが北朝鮮に激しい憎悪と体制転換への意志を示し続けるなら,ますます核配備と核兵器による安全保障を目指すでしょう.しかし,北朝鮮がアメリカに求めている「軍事的攻撃の意志が無いこと」や「体制転換や経済的破綻を目指さないこと」は合理的に受入可能な要求です.それに応じて,北朝鮮が核兵器を破棄し,核開発施設を廃棄するために,重油や食糧の援助を交渉していくことは,安定的な国際システムに復帰する条件となるでしょう.

NYT February 13, 2005

Stranger Than Fiction

By B. R. MYERS

LAT February 14, 2005

Days of Thunder

ST Feb 15, 2005

Seoul 'should stop ignoring Pyongyang's excesses'

By Doug Bandow

(コメント) 北朝鮮が独自に核軍拡を進め,核大国になる力はないのです.しかし,北朝鮮にとって,外交は既に戦争の一部です.北朝鮮の国民や政府幹部にとって,アメリカに対する誇大な表現はそのまま現実であり,譲歩しないという姿勢を真剣に受け取る必要があるでしょう.

LATは,イランにも北朝鮮にも,ブッシュ政権がさらに交渉に向けた強い姿勢を示すべきだ,と考えます.それは貿易や援助を約束する見返りに,核開発を放棄することを約束させ,彼らが自ら進んで国際査察を受けることです.敵対国であるから処罰するのではなく,国際ルールに復帰することで利益を約束するのです.

Doug Bandowは,北朝鮮に対する有効な対抗策は一つである,と言います.それは,国境を開放して難民を歓迎することです.しかし,中国は難民を強制送還しており,さらに,韓国は難民を阻止する北朝鮮の政策を支持しています.北朝鮮に多大な援助を続ける韓国政府の姿勢は,宥和を超えて,犯罪者への報酬を与えることに等しい,と.

JT Wednesday, February 16, 2005 

Answering Pyongyang's divisive tack

By RALPH COSSA

LAT February 17, 2005

Kim Jong Il May Be Crazy ... Like a Fox

By Bradley K. Martin

LAT February 17, 2005

The Specter of Nuclear Proliferation

By Graham Allison

(コメント) RALPH COSSAは,2000年の歴史的な南北和解の合意により,今では韓国からの経済援助が北朝鮮の生命線となっている,と指摘します.今回の核保有宣言は中国政府を内心では大いに憤慨させたはずですが,韓国政府は慎重な対応を変えていません.ライス国務長官が関係各国と協調して対応したい,と声明を出すことは,唯一の正しい対応だった,と考えます.すなわち,経済制裁は韓国が主導しなければ意味が無いのです.

金正日は狂人か? 核兵器を使って世界を終末に導けると信じているのか? あるいは,それは交渉のための狡猾なスタイルか? 国民は指導者と一緒に戦争で死ぬことを確信しています.それは,アメリカなどが企んで,飢餓による死を待っている現状と同じことなのです.Bradley K. Martinは,北朝鮮を訪れた際の印象を,ジム・ジョーンズの人民寺院に集まった信者にそっくりだった,と書いています.結局,1000人近い信者がギアナのジョーンズタウンで1978年に集団自殺しました.

北朝鮮が実際に6個から8個の核兵器を保有していたとして,どうなるのか? とGraham Allisonは問います.まず,確実に,アジアの核軍拡が進むでしょう.日本が核武装すれば,中国は一気に核の冷戦を再現します.さらにもっと深刻な事態は,経済破綻に瀕する北朝鮮が売れるものなら何でも売ろうとして,ミサイルや核物質の大規模なバーゲンセールを始めることです.Allisonはトイザラスをもじって,北朝鮮をミサイラザスやニュクラザスと呼びます.もしキッシンジャーが述べたように,政治家にとってもっとも重要な資質は安全保障の変質を見抜き,脅威の登場を阻止することだ,とすれば,北朝鮮がそれである,と.


Feb. 11 (Bloomberg)

Fed Officials Don't See China Dropping Peg Soon

John M. Berry

(コメント) 人民元のドル・ペッグが直ちに解除される見込みは少ない,と連銀も認めています.それは,為替レートの選択が政治問題であるからです.中国は国内の雇用を維持するために成長しなければならず,そのためには輸出を伸ばす必要があり,ドル・ペッグはその重要な基礎なのです.

しかし,対外赤字よりも,アメリカも含めて主要国の財政赤字が拡大していることは深刻です.アメリカだけが多くのドルに追随する諸国とともに為替レートを変化させるという非対称性は,国際的な資本移動に不測の事態を招きかねません.サン・フランシスコ連銀のシンポジウムでは,多くの参加者が今年中に人民元は弾力化される,と予想しました.

他方,少なくとも5年以上,ドル・ペッグが続く,と予想するのが,ドイチェ・バンクのPeter Garberたちです.中国などが採用しているドル・ペッグは新しいブレトン・ウッズ体制なのであり,国内の貯蓄をアメリカの赤字に振り向けても,成長を持続するために輸出を伸ばすことで政治家たちは満足しているのです.だから,アジアの過剰労働力が吸収されて,インフレが加速するまで,ドル・ペッグを止める必要は無い,というわけです.

RoubiniやEdwin M. (Ted) Trumanは,こうした見方に反対です.それはドルからの資本流出という危険を孕んでおり,一定の規模に達した経済は為替レートによる調整に単独で参加しなければならない,と.他方,Ronald McKinnonは,アメリカの貿易赤字はアジア通貨の増価やドル安によって解消されない,と言います.むしろ,ドル・ペッグを維持して,長期的に実質賃金が上昇することで不均衡は是正される,と.


NYT February 11, 2005

Bush's Class-War Budget

By PAUL KRUGMAN

(コメント) ブッシュ政権は明確な階級戦争を指導する政府である,とKRUGMANは批判します.富裕層への減税による財政赤字を減らすために,貧しい家庭からさまざまな給付を削り,公共投資を減らしています.例えば,子供を持つ労働者家族が食糧スタンプを受けにくくなって,およそ30万人から補助が奪われました.同様に,低所得の労働者家族から30万人分の養育費が補助を削られました.他方,裏口から100万ドル以上の所得を稼ぐ富裕層への減税が行われています.


LAT February 11, 2005

Snubbing Kyoto: Our Monumental Shame

By Laurie David

FT February 15 2005

Despite a tricky and slow birth Kyoto is sound

By Michael Grubb

(コメント) アメリカのブッシュ政権が示した一方的な外交政策の転換はイラク戦争だけではありませんでした.特に,地球温暖化を無視し,核兵器廃絶を無視し,国内補助金をばら撒いて保護主義を蔓延させたことは,イラク戦争に劣らず,協調のための国際システムに毒を注いでいます.Laurie Davidは,アメリカが国際的に孤立し,世界の利益を無視して温暖化ガスを排出し続ける国になっていることを糾弾します.

しかし,産業界が反対するからというだけで,アメリカ政府はこれほど逸脱した行為を正当化できたのでしょうか? 例えばJames M. Inhofe上院議員(R-Okla.)は,地球温暖化がアメリカ人をはめるための捏造であると宣伝してエネルギー産業から支援されています.また,マイケル・クライトンは,アメリカ人の多くが環境問題として呼んだことのある唯一の本であるベストセラー小説"State of Fear"を書いており,その中で地球温暖化を環境団体が寄付集めのためにつくったものでしかない,と幻滅させます.

Michael Grubbは,京都議定書の意義は工業諸国の排出量に期限を決めて上限を課しただけでなく,今後,科学知識の増大や条件の変化に合わせて,問題が解決するまで排出量の交渉を行うことを政府に求めたことだ,と主張します.ブッシュ氏はこの最初の上限に反発し,しかし,それに代わるより良い制度を提案することも無く,オーストラリアだけがアメリカと同じように離脱しただけで,議定書の発効を迎えたわけです.

アメリカに限らず,発展途上諸国の排出量を規制していないことを,京都議定書の欠陥として批判する声が強いです.もちろん,彼らが排出する量は世界全体の極一部でしかなく,一人当りの排出量では一層限られています.しかし,彼らも枠組みには合意し,工業諸国が最初の目標を達成するのを見て,交渉に参加することを決めています.さらに,工業諸国が目標を達成する意志を示していない点も重要です.EUは排出権取引システム(ETS)を立ち上げましたが,なお,取引が安定的に行えるか不安があります.

George Monbiot, “Mocking our dreams,” The Guardian, Tuesday February 15, 2005

Thomas E. Lovejoy and Lee Hannah, “Global warming: While scientists quibble, species vanish,” IHT Tuesday, February 15, 2005

David B. Sandalow, “Emissions trading is Kyoto's success story,” BG, Thursday, February 17, 2005

MARK LANDLER, “Mixed Feelings as Treaty on Greenhouse Gases Takes Effect,” NYT February 16, 2005

Chris Mooney, “Beyond Kyoto,” The American Prospect 02.16.05

“Thinking beyond Kyoto,” The Guardian, Thursday February 17, 2005

(コメント) 経済学は,人間活動が資源に与える影響を無視してきました.成長を実現することは自然に対する負荷を考慮することなく行われたのです.しかし,すでに生態系や農業,辺境の生存水準に浮かぶ人々,特に敏感な弱小の動植物は破壊的影響を受けています.

一方では,アメリカや中国,インドが参加しない国際システムに実効力があるのか? と言われます.しかし,他方で,ヨーロッパや日本がアメリカ以外の国を参加させれば,世界市場に目を向けるアメリカ企業には大きな圧力となるでしょう.例えば自動車です.環境規制だけが投資の基準では無いから,京都議定書に参加しないことでその国への投資が増えるとは言えません.しかし,環境規制を受けない勲位の企業の製品が市場で消費者に受け入れられないとしたら,むしろ規制を望むようになるでしょう.上限を守るために,中国など,他国の排出量を減らすことに投資し,技術移転することも途上諸国の参加を促します.

アメリカではマッケイン上院議員(共和党)とリーバーマン上院議員(民主党)とがClimate Stewardship Actを議会に提案しました.これが成立すれば,アメリカも参加して京都議定書の次の国際システムを築く鍵となるでしょう.しかし政府は?


ST Feb 12, 2005

The case against attacking Iran

By Shirin Ebadi and Hadi Ghaemi

FT February 17 2005

Iran has the right to develop nuclear power

By Mohammed Hossein Adeli

(コメント) イラクについて行った国際合意への軽視も,再びイランに対して示されています.Shirin Ebadiらは,アメリカ政府がイランをしばしば人権抑圧で攻撃する点について,これを軍事的な介入の理由にしてはならない,と主張します.イランには政治的な表現の自由や人権擁護の市民団体が育ちつつあり,国際社会と連帯すれば大きな成果が得られる,と考えるからです.

また,イランの外交官であり,中央銀行と財務省にも関わったMohammed Hossein Adeliは,国際条約を守って原子力の平和利用を進めることが,京都議定書に参加するためにも必要だ,と主張します.


The Guardian, Saturday February 12, 2005

Sorry George, but Iraq has given you the purple finger

Naomi Klein

(コメント) イラク国民の多くが投票済みを示すインクに染まった指を振ってアメリカ兵やカメラに応えたのは,アメリカ国民が待ちに待った勝利の歓声と花束による歓迎であったのか?

そうではない,とNaomi Kleinは考えます.多数が投票した統一イラク連合(UIA)の公約を見れば良いのです.その第二項目は「多国籍軍がイラクを撤退する期限を決める」です.他にも「社会保障システムを通じて国家が全ての者に雇用を保障する」,「市民に住居を提供する」,「イラクの債務や賠償を拒否し,石油の利益は経済発展のために使う」,などとなっています.要するに,国民はアメリカ政府が送り込んだブレマー行政官やIMFの決めた過激な自由市場政策を拒否したのです.

イラクの選挙は遅れ,治安は悪化し続けてきました.その間に,汚職や武器の密輸が蔓延し,支配者たちの間で妥協が成立したわけです.聖職者たちが家庭を支配し,テキサコが油田を支配し,アメリカ軍はイラク内に長期の軍事拠点を支配する,と.そして,命がけで全く異なる政策を求めた国民の多くが何も得ていません.選挙結果は無視され,アメリカは占領の正当性を得た,と結論したわけです.

WP Saturday, February 12, 2005

How to Move Iraq Forward

By Kofi A. Annan

JT Sunday, February 13, 2005

Iraq election exposed two faces of China

By HARVEY STOCKWIN

WP Tuesday, February 15, 2005

No Fast Exit From Iraq

By Fareed Zakaria

(コメント) この選挙がもたらす複雑な効果は,アメリカの政治家に辞任要求されているアナン国連事務総長がアメリカと国際社会との連帯を呼びかけ,香港や台湾の民主的な住民投票を拒む中国がイラク国民の勝利を称えるような事態に示されます.

「さあ,これでイラクとはおさらばだ!」と,選挙の成功を祝うテレビ番組の人気者は叫んだと言います.しかし,「火事だ,と叫んで,真っ先に逃げ出す気か?」という非難も受けるでしょう.むしろ,長期の米軍駐留こそが成功を鍵だ,とZakariaは主張します.

イラクに信頼できる治安部隊を整備し,イラクの主要勢力間で政治的な安定性を確保し,何よりもイラクに広まった反米主義を転換して親米的な国民感情を育てるためには,今後の経済復興で生活が改善することをアメリカ主導で実現しなければなりません.アメリカ軍が早期に撤退した地域は,すべて内戦や麻薬王が支配する紛争地帯に呑み込まれました.他方,アメリカの占領が最も成果を挙げたのは,ドイツ,日本,韓国なのです.


NYT February 13, 2005

No Democracy on These Ballots

By PATRICK McGEEHAN

(コメント) 「ブッシュ大統領は中東地域に民主主義を広めることの利益を人々に説いた.しかしアメリカでは,企業の重役や証券規制の担当者たちが,イラクにとって良いことがGMにとっても良いことだ,などと信じていないこと,まして,他の公共事業にとって良いことだ,などと信じないことは明らかだ.」

アメリカは誰のものか? というわけです.アメリカの富や権力は株式会社に集中しています.そして,この株式会社は十分に民主主義的で透明な運営を行っていると言えるでしょうか? 敵対的企業買収とポイズン・ビルによる対抗策で,企業の価値を破壊されたと確信した株主が,株主総会で動議の発案を求めましたが,大企業は法律事務所や証券規正法を駆使して,彼の提案そのものを違法だと決め付けました.

Emil Rossi氏は,株主による多数決で企業の統治を決めるべきだ,と確信していました.そして30年間も株主としての権利を行使したいと訴え続けてきたのです.しかし,企業統治を熱心に説くビジネス・エリートたちも,彼の声を聞く耳など持たないようです.

富も発言も,少数者だけに隔離された民主主義が,ブッシュ氏の「所有社会」を動かすのです.


FT February 13 2005

Unbowed Japan stands up to China

By David Pilling

FT February 14 2005

There are dangers in Japan's search for normality

By Victor Mallett

(コメント) David Pillingは,田中明彦氏の意見を紹介しています.すなわち,小泉政権の対中強硬姿勢は,日本外交の「普通の国」への転換を意味する,と.それについて,Victor Mallettは,日本が再びナショナリズムという不治の病に冒され始めた,と危惧します.今まで狂人に近かった,右翼の宣伝カーから街頭に叫ぶ言葉が,国会の政治家たちにも受け入れられつつあるからです.

普通の国へ,本当の意味での終戦を経て,不戦主義の見直しへ.・・・北方領土,南洋の領土争い,天然ガス開発,東京都の石原都知事,国旗・国家問題・・・

しかも,経済発展とともに高まる中国のナショナリズムと互いに影響しあって加熱します.エネルギー争奪戦が絡み,台湾における分離独立やナショナリズムへの支援も関わっています.・・・李登輝氏へのビザ発給問題,小泉首相の靖国神社参拝,憲法改正,自衛隊の海外派遣,米軍再編問題,日米安保条約の見直し,・・・

アメリカが進めるイラク,イランへの軍事圧力を支持することが,日本にとって「普通の国」の態度なのか? ・・・北朝鮮のミサイルに対する監視衛星の打ち上げ,ミサイル防衛システムの共同開発,中国の潜水艦を追跡し,近代化する中国軍に対抗してアメリカの楯となる?

これらは小泉首相の一人相撲ではない.日本の世論や政界が,正常への復帰を求めており,日本の脆弱性について不安を深めているからだ.そして外国勢力を嫌う多くの政治家たちが小泉の次を狙う,と.


ST Feb 14, 2005

Workers of China unite in a paradox for communism

By Dorothy Solinger

FT February 15 2005

China coal mine accident kills more than 200

By Mure Dickie in Beijing

(コメント) 中国についての報告です.ますます多くの労働争議が起きて,社会的・政治的安定性を至上命題とする中国共産党の対応が注目されます.しかし,基本的に非効率な国有企業は廃止し,再雇用プログラムや社会保障制度の整備を目指すにしても,貧富の格差拡大と労働争議の頻発は,貧しい労働者や農民に依拠して毛沢東が創設した共産党の思想的な根幹を脅かします.


FT February 14 2005

Cause of world trade demands a powerful patron

By Claude Barfield

(コメント) 行き詰まったドーハ・ラウンドを動かし,WTOが機能するためには,事務総長の役割と権威を高め,世界貿易の秩序を代表する政治的な機能を発揮させるべきだ,とClaude Barfieldは主張します.

戦後の貿易自由化を実現したGATTの成功を,コヘインとナイは「クラブ・モデル」の利点が活かされたと考えました.すなわち,少数の発達した諸国が,官僚を集めて,分野ごとの密室協議で進められた,というわけです.その方が国内事情を考慮した政治的取引ができたからでしょう.

しかし,その後の加盟国の増加と全体の80%が発展途上諸国であること,交渉分野の広がり,その解決に国内政治・社会問題が深く関与する紛争が増加したこと,などはルールを重視した法的強制力をWTOに求めさせました.ところが,強力なルールを使用するWTO内部の合意を形成できないのです.

コヘインとナイは,事務総長に特別な政治的機能を持たせる必要がある,と考えました.事務スタッフを充実させ,世界的に権威のある選挙で選ばれた政治家を事務総長に迎えるべきだ,というわけです.メキシコのZedillo元大統領や,アメリカのクリントン元大統領を推薦しています.こうしてグローバリゼーションのルールを作るため,選出された政治家が個々の国家や産業分野の利益を超えて主張するときに,民主主義の不足を克服できる,と.


BG February 14, 2005

Threats vs. diplomacy

By Ray Takeyh

WP Monday, February 14, 2005

Shifting Atlantic Alliance

By Josef Joffe

LAT February 17, 2005

A Transatlantic Truce: Isn't It Pragmatic?

Max Boot

(コメント) イラク,イラン,中東和平,ボスニア,など大西洋を挟む協力関係が重要であると互いに指摘しながら,しかし,アメリカのヨーロッパも互いに非難することを止めませんでした.ラムズフェルドからライスに交代することで,欧米間の和解は可能でしょうか?

現実的に考えて,アメリカにもヨーロッパにも,協力するしか選択肢は無い,とMax Bootは述べます.離婚は不可能なのです.冷戦期にも,ヴェトナム戦争やパーシング・ミサイル配備,などで対立が起きました.しかし,大西洋戦争の危機は考えられませんでした.年間1兆ドルを超える貿易と投資を行う相手と対立を深めることは,回避したいと思う多くの理由があるのです.

ヴァレンタイン・デーの後で,愛のない結婚を続けるべきだ,という結論はロマンチックではないが,ヨーロッパ人なら良く分かっているはずだ・・・!


LAT February 14, 2005

Taking Child Slavery Out of Valentine's Day

By Tom Harkin and Eliot L. Engel

NYT February 14, 2005

Historically Incorrect Canoodling

By STEPHANIE COONTZ

WP Monday, February 14, 2005

Love's Dying Ritual

By William Raspberry

(コメント) 11歳でココア畑に奴隷として売られたAly Diabateは,チョコレートが何か知らない,と言います.象牙海岸のココア農場で働く多くの子供たちが,トウモロコシのパスタとバナナしか食べたことがないからです.そして,ネスレやハーシーなどのチョコレート・キャンデーが象牙海岸から来ることを,誰も知りません.

他方,歴史的に見て,キリスト教会は女性を男性に隷属させ,結婚は主人への服従でしかなく,相手への感情は問題になりませんでした.17世紀後半になってヴァレンタイン・デーのお祭りが行われたようですが,若者が愛を理由に自分の結婚相手を探すことを認められるようになるのは,さらに100年後だったと言います.しかし,愛を理由に,自分で相手を選んだ結婚は,その後の失望とともに,高い離婚率をもたらしました.

今では,セックスからも,愛からも,結婚からも,若者たちは自由でありたいというエゴを育ててしまいました.


FT February 15 2005

Resistance to systemic risk may be eroded

By John Plender

(コメント) 国際金融システムはより安全になったのか? 再びドルの価値が下落する過程に入れば,LTCMの危機や,為替レートの不安定化が,金融危機を頻発しないだろうか? 危機は,基本的に,マクロ政策の失敗から生じる,と専門家たちは考えます.それに,間違った規制緩和や,過度のセーフティー・ネットなど,政策のミスが重なります.

今では,余りにも金融ビジネスの集中が起きて,危機の拡大を(全面的な国有化?でもしないと)防げないでしょう.しかし,マネー・センターの銀行は世界的なネットワークを拡大し,債務の連鎖を繋いでいます.金融デリバティブ,ヘッジ・ファンド,自己資本に注目した金融規制,ますます低金利における収益を確保するためにリスクが無視されています.今では,住宅価格の上昇を利用して,家計までが債務によって消費を拡大しています.そして,ますます資本移動や為替レートの変動は大きくなっています.


FT February 16 2005

The debt crisis that has taught lenders nothing

By Alan Beattie

(コメント) 国際金融に関するジャーナリストの書いた本を紹介しています.Paul Blustein, AND THE MONEY KEPT ROLLING IN (AND OUT) Wall Street, the IMF and the Bankrupting of Argentina, Public Affairs. です.同じ著者の前著も,アジア通貨危機に関する重要な本でした.

この本で,Blusteinは,@IMFが最初からペソとドルの固定化を疑っていたこと,Aワシントン・コンセンサスを押し付けるどころか,ひたすら破綻を回避させたがったこと,B決して表面に現れなかったが,IMF内部にも大きな意見の対立があったこと,などを指摘しています.

危機の原因は,基本的に,こうした為替レートと物価の安定化を熱狂的に支持し,投資家に売り込んだ,アルゼンチン政治家やウォール街に向けられます(それは,ワシントンではなく,ブエノス・アイレスとニュー・ヨークで作られた).資本市場は決して政府に対する効果的な「市場の規律」にならず,危険を知らずにイタリアやドイツの小口投資家が高利回りな債券を買いました.

アルゼンチンの破綻について,二つの問題が重要です.まず,資本市場における投資の仲介機関が,利益相反関係にある,という点です.彼らは顧客に債券を売りつける際に,安全性を軽視し,高利回りを強調します.それはアメリカ国内でITバブルが崩壊したとき,多くの訴訟が起きたのと同じです.

もう一つは,債務不履行がもたらす社会的なコストを抑制すべきだった,という点です.Blusteinは,国際破産法廷やアメリカ国内の破産法のような仕組みを政府にも適用するべきだ,と考えます.新しい国際金融アーキテクチャーに必要な部品となるべきです.しかし,皮肉なことに,アルゼンチンは一方的なデフォルトを宣言した後,経済が回復し,このまま放置しても債務の組替は実現できる,という見通しを与えました.

アルゼンチンのケースを考える重要な手がかりとしたいです.

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The Economist, January 1st 2005

Anti-social behaviour in Britain: Taking liberties

(コメント) 若者たちの反社会的行為,野蛮さ,Vandalism,などに手を焼いたイギリス社会と政治家たちは,コミュニティー自身が規律を決めて法的な強制力を発揮できるようにしました.これにたいして,刑事訴訟制度の慎重な手続きには重要な歴史的意味があった,ということを記事は警告しています.あいつが気に入らない,こいつも気に入らない,・・・次は自分か? あるいは政府や警察がそれをどのように利用するか?

社会の安全性を高めるのは,必ずしも強い法律や警察ではない,ということでしょう.


China’s exchange rate: Cock-a-doodle-doo

The world economy: Still gushing forth

(コメント) 人民元,ドル,G7,という世界経済の安定化装置には,何かが欠けている,と思いませんか?

人民元を切り上げることで世界経済は有効に均衡を回復できるのか? しかし,中国の黒字は短期資本の流入であり,もし資本取引が自由化されたら,金融資産を分散するために資本流出が起きる,と指摘します.人民元は,今のドル安の前は,ドル高にも一致して変化したのであり,むしろ変動レートへの移行が目標である,とします.

中国との貿易額はアメリカの貿易全体の10%でしかなく,人民元を10%切り上げても貿易赤字は1%しか減りません.むしろ中国は通貨バスケットに人民元を固定するようになり,その結果,ドルの外貨準備を減らして,アメリカの債券市場に金利高騰をもたらすでしょう.だから赤字が減るのだ,と.

また,そもそもドル安の起源は,世界におけるドル供給が急速に伸びたことだ,と指摘しています.ITバブル崩壊後,グリーンスパンは資産価格が暴落しないように超低金利政策を引き伸ばしました.世界にふんだんに供給される流動性は,ユーロ高を嫌ってECBにも金融緩和を強制し,アジア諸国は外貨準備を累積させています.こうした金融緩和はアメリカに循環し,債券市場の長期金利を低水準に抑えている,というわけです.

確かに,過去のようにインフレが現れるより,資産市場や投資家のリスク評価が甘くなることを通じて市場に不均衡は蓄積されます.それゆえ,グリーンスパンの次の連銀議長は,アメリカ経済の景気回復だけでなく,世界の安定性に何をできるのか,という難問に悩むでしょう.