IPEの果樹園2005

今週のReview

1/31-2/5

IPEのタネ

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

*****************************

三つだけ推奨するとしたら?

1.   就任演説 :アメリカ大統領の政治的レトリックと現実の外交方針との違い.イラク自由民主主義

2.   台湾海峡 :世界でもっとも危険な地域が,成長を共有する仕組みを築くこと.

3.   ダヴォスのフォーラム :天上の声か,欧米エリートたちの傲慢か?

******************************

ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


ST Jan 19, 2005

Tokyo must retool its foreign labour law

By David Mcneill(上智大学 Sophia University in Tokyo)

FT January 21 2005

Unfinished business

IHT Saturday, January 22, 2005

Again a land of the rising sun

David Howell

FT January 27 2005

Koizumi's challenge

(コメント) 日本の政治経済秩序が改造されつつあることに,時折,外国のメディアも関心を持ち,紹介します.彼らの視点を参考にできるかもしれません.

STは,日本政府がフィリピンとの自由貿易協定FTA交渉で外国人労働力の規制を緩和する点に注目するDavid Mcneillの記事を載せています.日本の人口動態が労働力不足を招き,投資や成長,年金財政を損なうのではないか,という懸念は増しています.他方,日本の「単一民族」や「安全」を強調し,「外国人の犯罪」を非難する声もしきりに報道されます.

日本の外国人人口比率はわずか1.5%であり,オーストラリア24%,アメリカ16%,イギリス5%に比べて,異常な水準です.フィリピン人の家政婦や看護婦が増えることは,日本にとってもフィリピンにとっても利益になるでしょう.セックス産業と非合法外国人の犯罪が注目されるだけでなく,財界が労働者を求めている以上,自民党政府は保守派のイデオロギーと両立可能な解決策を求めるでしょう.

FTは,OECDが日本の経済成長を賞賛したことを受けて,慎重ながら改革の成功を称えています.小泉構造改革として政府がやろうとしていることは,FTから見れば単純です.日銀はデフレを止める.財政赤字と国債の累積を知っている政府は,増税を我慢し,日銀とともに不良債権処理を促し,銀行システムを健全化して,日銀の金融緩和が景気を刺激し,緩やかなインフレを生じることに利益を見出す.企業のリストラや生産性向上を促し,必要なら銀行からの債務を返す見込みのないゾンビ企業と一緒に,銀行を整理・統合することも行う.

おそらくFTから見れば,それらは当然行うべきことであり,日本の場合は改革が遅すぎたし,時間がかかりすぎるし,自民党や日本政治システムの内紛で余計な混乱を生じているわけです.

イギリス上院の外交問題を扱う保守党代表であるDavid Howellは,日本の軍事・外交政策が転換しつつあることに注意を促します.

日本は従来の装備に加えて,大規模な衛星による監視システム,情報収集力の強化を目指しています.これは自衛にのみ限定してきた従来の「吉田ドクトリン」を破棄したことを意味する,と言います.アメリカの「対等なパートナー」として,地上でも空中でも海上でも,迅速な共同行動に参加できる体制を目指しています.核装備には向かわないとしても,アメリカと一緒に,大規模なミサイル防衛システムを開発する計画を進めています.

Howellは,その理由を世論の変化と中国との対抗に見ます.日本の世論は戦後の平和主義・不戦論を離脱し,政府のイラク派兵を支持しています.ブッシュ政権の「テロとの戦争」を支える重要な国として存在を示しました.また,中国と争ってロシアのパイプライン敷設を奪い取り,東南アジアやインドを,中国との対抗として取り込もうとしています.さらに,ソフト・パワーとして,アニメやゲーム,音楽,ファッションをアジアに輸出し,「クール・ジャパン」を浸透させています.

アメリカから見れば,EUの横にイギリスを,中国の横には日本を配し,また,EUの向こうのロシア,中国の向こうのインドを取り込むという戦略になるでしょう.日本がその一翼を担い,中国の経済的・軍事的台頭と日中貿易の急速な増大に対応して,アメリカとの関与を強める姿勢を鮮明にすることでバランスを取ろうとしている,その政治的な意図を,西側諸国が正しく理解しなければならない,と論じています.そのような国際的支持を得ていなければ,日本の転換は非常に危険なものになるからです.

最後のFTの論説は,小泉政権の郵政改革についてです.FTから見て,小泉首相がこの改革を進めることは,彼以外には期待できない歴史的に重要な政治課題です.なぜなら,郵便局のもたらす地方の雇用,銀行に拠らない優遇された貯蓄,国債購入,不透明な財政投融資,自民党の財源と地方支配,などを翻すことだからです.日本の価格構造や労働市場,銀行システムを歪め,蝕んでいる重要な病巣を切り取るべきだ,ということです.

問題は錯綜しています.「改革無くして成長なし」と唱える小泉氏の真理法的単純論法(これは,複雑な問題を単純な真理の繰り返しにすり替えることで,都合の良い解決策を強いる,という政治的造語です)に,内紛と国会審議が混乱しています.地方の雇用や発言は重要ですし,財源と使途の説明は国民への責任です.郵便局よりも自民党や銀行が,正統な社会的機能を果たすために,改革が必要でしょう.

本来は,野党が政権を握って,こうした改革を行うべきだった,と私は思います.


WP Thursday, January 20, 2005

Fighting Global Poverty

(コメント) もしユートピアが地上にあるとしたら,それは世界の最も貧しい,戦乱や疫病で荒廃した土地に住む人々が,豊かな土地からの援助によって自らの力を回復し,秩序や繁栄を取り戻せる希望を得たときに現れるでしょう.

世界の援助額を倍増せよ,というコロンビア大学のJ.サックスが議長を務めた国連報告の提案は,しかし,本当にそれで貧しい人々が救われるのか? という疑問を生むでしょう.被援助国が移転された資源を正しく利用しているのか,腐敗していないか,問題になります.しかし,政府機関が有効に利用できないほどの援助を行うのでない限り,貧しい国への援助は成長を促します.むしろ,「オランダ病」やインフレを回避するように,資源の移転形態や購入のパターンに配慮する必要がある,と言います.特に,伝染病や風土病を解消し,子供たちの栄養状態や教育を改善する投資,輸出向けの農産物を育成する支援などは有効です.

魔法の杖は無いけれど,援助を有効に利用すれば,小さくとも多くのユートピアが生まれるでしょう.


The Guardian, Friday January 21, 2005

Fireworks in Washington, despair around the world

Robin Cook(元イギリス外相)

就任式は著しい対比を示した.花火に包まれた首都と,軍隊が24時間占拠するイラク.勝利に酔った政府首脳たちと,現実の世界.テロに怯える人々と,「所有社会」の理想.

何の謙虚さも無い祝賀会.しかしアメリカ史において再選された大統領の中で最も僅差の勝利でしかない.就任直後の支持率も最低である.自国を分断したことに何の反省も示さない.

国内の選挙における勝利で満足する政府と,海外の破局的な軍事的失敗になったイラクの冒険.・・・「イラク政府なんてテレビに出てくるだけだ.」

目前に迫った選挙も法的な根拠を欠き,秘密投票というより,候補者のリストさえまだ知ることができない.これがブッシュ政権の最重要な計画である.その真実は,占領することも,撤退することもできないだけだ.イギリスは,イラク軍を解体するなと助言したにもかかわらず無視され,ブレア政権の間違いにより今なおバスラに囚われている.現状の完全な失敗を認めて戦略転換を図るべきだが,ブッシュ政権Uはイラク占領の成功を唱える者ばかりだ.

確かに,解放や自由は世界が受け入れる価値だ.しかしアメリカの建国の父たちが発明したわけではないし,独占しているものでもない.それらはヨーロッパの社会民主主義では全く異なった伝統に根ざしている.まして,ジョージ・ブッシュの新しい帝国主義にイデオロギー的な言い訳を提供するわけではない.

ブッシュの外交政策は,3万8000フィート上空から爆弾を投下して自由をばら撒くという幻想に過ぎない.他国を占領し,アメリカが支配することを自由と呼ぶ.


NYT January 21, 2005

Bush's 'Freedom Speech'

By WILLIAM SAFIRE

WP Friday, January 21, 2005

The Rhetoric of Freedom

WP Friday, January 21, 2005

Visions in Need of a Little Realism

By E. J. Dionne Jr.

WP Friday, January 21, 2005

Big Goals, Unshakable Faith

By David S. Broder

WP Friday, January 21, 2005

Tomorrow's Threat

By Charles Krauthammer

(コメント) アメリカの主要メディアはブッシュ氏の就任演説に好感の持てる評価や解説を加えています.それがアメリカの伝統なのか,あるいは何かのシグナルなのか?

WILLIAM SAFIREは, “Freedom Speech” の意味を考えます.ブッシュ氏は,平和や民主主義よりも自由を最優先の目標に掲げました.演説の中で49回も自由という言葉を発しています.その主張は,リンカーンやJ.F.ケネディーの演説を利用して表現されています.アメリカの自由の伝統は,他国において自由が蹂躙されることを許しません.平和が実現するとしたら,それは世界のどこにおいても自由が拡大するときである,と彼は主張します.

今では,彼の理念を「ウィルソン型の理想主義」と呼ぶようです.好意的に.目標は自由であって,人々を奴隷化し,戦争を始め,革命を唱えるような独裁者こそ,彼の主要な敵です.そして,独裁者を倒すために,戦争も辞さないわけです.中国やジンバブエ,サウジ・アラビアのような専制国家において牢屋に繋がれた民主活動家たちに,彼は希望を与えます.その方法は武力に限らない,と断っていますが.

確かに,この保守派の大統領が自由を理由にこれほどの国際介入を行うのは,奇妙なウィルソン主義に思えます.むしろ,棍棒外交や軍艦外交,アメリカ帝国主義である,となぜ言わないのでしょうか? 9・11に対して断じて怯まず,攻勢を続ける,という姿勢がアメリカ国民に支持される面はあるでしょう.ブッシュ氏によれば,アメリカの最も弱い部分をテロリストは狙っており,それを利用する外国の独裁者こそがアメリカの主要な敵なのです.

ブッシュ氏を支持する者は,その主張にアメリカの伝統を見出すでしょうが,批判する者は現実との乖離,自己弁護,失敗の正当化を見ます.当面の目標実現に失敗すればするほど,彼は大きな目標を掲げてその評価を避け,アフガニスタンとイラクは世界的な計画の一部にしてしまいます.誰も反対でいないような目標を掲げて自分の選択を正当化します.

歴史的な使命や世界の目標ではなく,アメリカがそれを実現する手段やコース,その経済的な負担,人命の損失,破壊された生活に苦しむ人々が問題なのです.つまり,自由のために,より多くのイラクを世界中にもたらすのか? 世界の自由や民主主義に対して応援演説をすることは好ましい.しかし,中国,ロシア,サウジ・アラビアに対してアメリカはどのような政策を取るのか?

9・11を経て,アメリカという国と,そこに生きる人々が描く政治的な未来は,どのような合意を見出しつつあるのか,自由のために戦うだけでなく,平和を築くためにも,アメリカは方針を示すべきではないか?

ブッシュ氏の演説は,矛盾し,現実を無視したものです.アメリカが支持する勢力が各地で人々から自由を奪っているのでは無いか? アメリカは自由を無視し,人権を踏みにじる支配者とも合意を守り,それを助けさえするのではないか? 自由や民主主義に十分な敬意を払わないからといって,ロシアや中国,パキスタン,エジプト,サウジ・アラビアの反政府勢力を支援するのか? むしろ,「自由の演説」は,具体的な政策を行うために吹き上げた巨大な煙幕です.

より現実的な,リアリストの見方に拠れば,大国間のパワー・ゲームは続いています.民主主義の十字軍か,自由の女神か,何であれブッシュ氏がアメリカの軍備と海外派兵を称える表現は変わっても,同時に,アメリカを取り囲む反米同盟は明確になりつつあります.

良いニュースとしては,イスラム過激派の政治的な支持は世界的に見て後退しつつあります.他方,悪いニュースとして,Krauthammerは,パクス・アメリカーナに対抗する大国が明確に同盟を組んで,反米主義を指導し始めた,と言います.もちろん,フランスとロシア,さらには中国です.歴史的に見て,覇権体制は必ず反対派の同盟をもたらす,と言います.

中国の拡大が,アメリカの嫌う多くの無法国家,イラン,シリア,北朝鮮,キューバ,ヴェネズエラ,などと資源や貿易,安全保障で協力するのであれば,アメリカの十字軍はどこに向かうのか? 新しい冷戦が誕生したわけではないが,大国間のパワー・ゲームに終わりは無い,と考えます.


FT January 23 2005

Davos prepares for great and the good

By Haig Simonian

NYT January 25, 2005

Antiglobalization Gathering in Brazil Sees Little to Celebrate

By TODD BENSON

NYT January 26, 2005

All the Talk of Davos: the Weak Dollar and the U.S. Deficits

By MARK LANDLER

IHT Thursday, January 27, 2005

Look who's coming to Davos

Philip Bowring

(コメント) スイスのダヴォスで開催される世界経済フォーラム(WEF)は,世界の財界人が集まって情報交換し,政治家たちに一般原則を要求する場です.しかし,かつてはサナトリウムで栄えた町であったと知って驚きました.WEFによって名声を得て,会議中は宿泊施設が足りません.市は巨大な建設計画を進めています.フォーラムの精神を示すかのように,ダヴォス市長の考えは,「一層,発展し続けるか,それとも滅ぶか」なのです.「開発独裁」という言葉を思い出します.

WEFに対抗する世界社会フォーラム(WSF)はブラジルで開催されます.かつてWSFを指導したダ・シルバは今や労働者出身の初めてのブラジル大統領です.しかし,反グローバリゼーション運動の活動家たちは,彼の「裏切り」を許せないようです.野党党首として批判してきたネオ・リベラルな政策を受け入れてしまった,というわけです.

ダ・シルバ大統領は,必要な公共工事への資金調達に協力してくれるよう,ダヴォスの会議で投資家たちを説得したい,と考えていたようです.しかし,政治顧問たちが支持者の感情を考えて,WSFで貧困問題について演説してから,スイスに飛ぶことにした,と言います.WSF開催地のPorto Alegre市長選では,さらに左派の対立候補を批判して,WSFを「イデオロギーのディズニーランド」と非難しました.

WEFもまた,アメリカという主人公を失っています.二つの主要なテーマが多くの関心を集めました.ドル安とアメリカの赤字です.しかし,経済学者や政治家からなる多くの発言者の中に,アメリカ政府の姿は見えません.アメリカはイラク戦争の正当性を説明するために来ただけです.ある意味で,モルガン・スタンレーのS.ローチが心配するように,もはやブッシュ政権Uには経済政策を理解するものなどいないのです.

唯一のカギはグリーンスパンです.彼が金利を高めて財政赤字を強いる以外に,政府はこの問題を無視するでしょう.それゆえ,金利引上げをパニックなしに行えるのか,また,もしグリーンスパンが何もできずに引退すれば,危機の前兆が始まるのではないか,と考えます.ブッシュ政権が財政政策を国際協調に使わない限り,合意によるドル安の交渉はできないでしょう.

あるいは,プラザ合意がそうであったように,貿易赤字と中国との貿易摩擦,国内の保護主義がブッシュ政権の議会運営を縛り,国際協調に救いを求めるのでしょうか?

ダヴォスとは何か? とPhilip Bowringは問います.そこに集まっているのは,西側の裕福な諸国の指導者たちばかりです.アジアからの代表は少なく,貧しい国からは費用が高すぎて行けません.これでも世界フォーラムでしょうか? ブラジルでNGOが集まるWSFに加えて,中国も海南島でアジア・フォーラムthe Boao Forum for Asiaを開きました.

WEFとは,世界でも,経済でもなく,フォーラムでもないようです.衰退する西側指導者たちの傲慢さと自己満足を誇示する政治ショーといった中身なのです.


Jan. 24 (Bloomberg)

John Snow's Selective Vision on Dollar Pegs

William Pesek Jr.

(コメント) なぜ人民元のドル・ペッグは政治的な論争になって,かつてのように,投機をもたらさないのでしょうか? マレーシアがかつて苦しんだにもかかわらず,そのドル・ペッグを維持することに今は苦しんでいません.アメリカの動きが無いからでしょう.

ジョン・スノーはアジアのドル・ペッグ政策に黙っています.中国への要求はどうなったのか? 単に,そうした要求は,今,アメリカ政府の利益に合致しないのです.マレーシアや香港のドル・ペッグが崩壊しても気にしないでしょう.しかし,アメリカ企業が大規模に投資して,生産拠点を築いてきた中国経済となると,話は別です.@イラク戦争に加えて,人民元攻撃で,13億の中国人が反米主義を掲げて欲しくない.A中国経済や金融システムの脆弱性とパニックの懸念を強めたくない.B人民元問題では,アメリカがEUや日本と難しい対応を迫られる.だから,G7前に触れたくない.


BG January 24, 2005

Achievable goals in exiting Iraq

By Anthony Lake

(コメント) アメリカ国民は,兵士たちが自由と民主主義を根付かせるまでは留まるものだ,と教えられている.しかし,その任務を政府は間違って理解している,とAnthony Lakeは批判します.ブッシュ政権は答えなければなりません.何のために兵士たちはイラクにいるのか? 何を達成すれば兵士たちは帰国できるのか? 政治的目的を明確にしなければならない,と.

選挙と,今年末までに編成される政府を守れば,アメリカ軍は帰国するべきです.イラクの内戦に無制限に関わることは間違いです.ヴェトナムでの失敗を避けるためにも,アメリカ政府は政治的・軍事的に達成可能な目標を掲げて,その手段を評価し,選択して進まなければなりません.ヴェトナムでは,曖昧な,達成できない目標のために,多くのアメリカ人が死にました.


LAT January 24, 2005

Inside the Heart of Darkness

By Daniel Jonah Goldhagen

FT January 27 2005

Philip Stephens: Sense of shame obliterates borders

By Philip Stephens

BG January 27, 2005

A factory for death

By Jeff Jacoby, Globe Columnist

LAT January 27, 2005

The Auschwitz Imperative

NYT January 27, 2005

Always, Darkness Visible

By AHARON APPELFELD

WP Thursday, January 27, 2005

Evil Too Great to Grasp -- or Remember

By Richard Cohen

(コメント) アウシュビッツ解放60周年を記念した論説です.

Goldhagen によれば,5つの疑問に対して4つの答えがあります.@誰がやったのか? ナチスと,多くのドイツ人やヨーロッパ諸国の仲間たち.Aなぜやったのか? 人種偏見による正当化を信じたから.Bどのように裁くべきか? 広く支持された法と道徳の基準によって.Cどのように償うべきか? 金銭的,政治的,その他の多くの方法で.しかし,Dナチスとは何か? 虐殺の意味は何か? ヨーロッパにとって,キリスト教にとって,文明にとって.単に殺人が600万回行われたのではなく.・・・

アウシュビッツは,ヒトラーとドイツ人が作り出した奴隷的生産システムを底辺で支えた,殺戮のための工場です.彼はヨーロッパとその文明を1000年の闇へ投げ込むまで,ほんのあと一歩にまで迫っていた,ということをアウシュビッツの遺跡が永遠に示すでしょう.

人間がなしうる虐殺には限りが無いようです.虐殺を集めた歴史叙述があり,国際関係が取り上げる「民族浄化」や人種対立のケースも絶えることがなさそうです.そして,神戸で起きた「酒鬼薔薇聖斗」を名乗った「少年A」による連続殺傷事件について,犯人の父母が書いた手記を読みました.

人がその精神を病むことは何から起きるのか,私にはわかりません.しかし,病とそれがもたらす社会的な帰結との間には,どちらの方向にも,関連付けるメカニズムがありそうです.それゆえ,人間が狂気や虐殺を抑制できる余地もあると思うのです.


FT January 25 2005

China growth hits 9.5% despite restraint policy

By Andrew Yeh in Beijing

FT January 26 2005

Goldilocks in China

FT January 26 2005

China overtakes US on trade with Japan

By David Pilling in Tokyo

NYT January 27, 2005

A Growing China Becomes Japan's Top Trade Partner

By TODD ZAUN

Jan. 28 (Bloomberg)

If China Shuns Dollar, Look Out U.S. Bonds

William Pesek Jr.

(コメント) インフレ率は2%台と低く,それでも9.5%の成長を遂げた中国経済を,魔法のように素晴らしいマクロ経済管理だ,と誉める人は少ないようです.固定投資が急速に拡大しており,不動産バブルも続いています.貧富の格差拡大が政治問題化している中で,再び金利を引き上げ,アメリカからの人民元切上げ要求が強まれば,さまざまな不安が再生します.

日本にとって,こうした中国との貿易額がアメリカを抜いて第二位になった,というのは複雑な感情をもたらすでしょう.日本の中国向け輸出の4分の1から3分の1は最終的にアメリカ市場に輸出される,という推定に関心を持ちました.日中米やアジア,太平洋の市場統合が進んでいるわけです.

ダヴォスのWEFでは,ドルによる国際通貨体制から,人民元の求めるような参考レートに向かう,緩やかな離脱が始まっている,という議論が行われました.


FT January 25 2005

Don't rely on the dollar to reduce the deficit

By David Hale

FT January 25 2005

Dollar dilemma

(コメント) アメリカの貿易赤字はドル安では解消できない,とDavid Haleは言います.なぜならアメリカ国内に十分な工業生産力が無いからです.アメリカの製造業は年に1兆5000億ドルを生産しているが,その稼働率は79%である.連銀は稼働率が85%を超えるとインフレが生じると考えて金利を上げる.それゆえ,赤字はその生産額の40%にも及んでいるから,ドル安によっても製品輸出が伸びて赤字を大きく抑制したり,均衡や黒字を生じたりする余地は無い,と.

David Haleは,アメリカが大幅な不況によって均衡を回復するのではない,もう一つの可能性を指摘します.それは直接投資です.アメリカの工業生産力がドル安によって殺到する直接投資で増大すれば,あるいは拡大しながら均衡を回復する可能性があるかもしれない,というわけです.

しかしドル安に対して,アジアの中央銀行家たちは何を考えるでしょうか? ドル安による自国通貨の増価を嫌ってドル買いを続けることを,FTは「ファウスト的な取引」と見なします.まず小国が準備資産をドルからユーロに多様化するでしょう.そして最後に日本と中国が,ドル暴落を避けたいのであれば,ドル安と自国通貨の増価を受け入れるのです.


WP Tuesday, January 25, 2005

Onward and Upward and . . .

By Richard Cohen

from CSM the January 26, 2005 edition

Cheering Iraq's first steps on a messy march to freedom

By John Hughes

WP Wednesday, January 26, 2005

Reality Check for the Neo-Wilsonians

By David Ignatius

(コメント) ブッシュ氏の就任演説は,ある人にとっては素晴らしく,また,ある人にとっては宗教的過ぎる.あるいは,余りにも曖昧だとか,軍事的な色彩が濃いと思えるし,あるいは,人によっては軍事的な色彩が足りない,と思う.ところでRichard Cohenは,好みに合ったようです.なぜならJ.F.ケネディーもそんな風に演説したでしょうから.

ブッシュもケネディーも,世界に民主主義を広める,と宣言しました.その責務をアメリカが担っている,と.独裁者を倒すことに,ケネディーも賛成したでしょう.ただし,保守派もあきれるほど,ブッシュ氏はその演説を宗教的な修辞で飾りました.

二人に共通するのは,アメリカ国民を動かす宗教的な使命感,です.冷戦やヴェトナム戦争に関わることと,「独裁,貧困,病気,そして戦争そのもの」をなくす戦いを唱えることが,同時に行えるのです.

しかし,結局,戦争は高くついて,レトリックとは関係なく,敗退することを強いられます.

ブッシュ氏の演説は,これからイラクを始め,世界中で試されるわけです.

「私がブッシュ氏の演説で最も気に入ったセリフは,世界中の人々がアメリカ人と同じ物を求めている,ということだ.そうだ,ブッシュさん,自由を求めている.それとともに,安全,経済的な正義,平等,法の支配,を求めている.ブッシュ氏が示した普遍的な目標をアメリカが最も上手く実現するのは,勝利のラッパを吹きまくるよりも,畑でいっしょに働いているときだ.」


ST Jan 25, 2005

Land issue key to Mid-East peace

By Sunanda K. Datta-Ray

IHT Wednesday, January 26, 2005

How Palestinian property was seized

Henry Siegman

(コメント) 中東和平を難しくしているのは,土地と宗教の問題である,と言われます.しかし,土地を奪い合い,異なる宗教で殺しあった地域は世界中にあるでしょう.

ただし,これほど長期にわたって最終的な解決が長引き,そのことが,さらに対立をもたらすケースは稀なのです.そこに生まれ,そこで育ち,そこで働き,そこに死ぬ土地が,自分たちのものでは無いという現実.それによって軍事的にも,社会的にも,心理的にも支配されること.イスラエルは占領地に軍事的な道路を建設し,パレスチナ人たちを検問し,40万人の入植者が住宅を建てることを奨励してきました.

たとえアッバスがハマスのテロを一時的に止めても,流血は終わらないのです.


The Guardian, Tuesday January 25, 2005

Immigration is a necessity for prosperity and power

Martin Kettle

FT January 27 2005

Martin Wolf: In search of an immigration policy

By Martin Wolf

(コメント) Martin Kettleはヨーロッパに経済停滞よりも移民促進を求めており,Martin Wolfはデタラメな移民排斥論に代わる移民政策論を求めています.

Martin Wolfの政策論は,@移民の規模は住民の厚生を改善する程度にしなければならない.A移民に対する根拠の無い非難と同様,根拠の無い支持論も取るべきではない.すなわち,移民はその規模や内容によって選別されるべきだ,というわけです.

しかし,Martin Wolfの主張には,人口増加と人口移動に関わるインフラ・教育投資のような内容しかありません.この点には不満です.


NYT January 25, 2005

The Greenspan Succession

By PAUL KRUGMAN

(コメント) アメリカ連銀の次の議長は誰がなるべきでしょうか? KRUGMANは3人を比較しています.ハーヴァード大学のM.フェルドスタインMartin Feldstein,コロンビア大学のグレン・ハバードGlenn Hubbard,そして連銀理事のB.バーナンキBen Bernankeです.

フェルドシュタインは保守派の信念と最近のブッシュ政権の政策とを一致させるのに苦心し,それでも保守派から財政赤字を攻撃した過去によって嫌われています.ハバードは大統領の言うことを何でも聞くばかり.他方,バーナンキは優れているから,自分が間違っていると思ったことを支持できない.そこで政府は,聞く気もない経済諮問委員会の委員長にして,彼を特訓するのだろう.市場にとっては傷モノになってしまうけれど,と.


WP Tuesday, January 25, 2005

Results, Not Timetables, Matter in Iraq

By Henry A. Kissinger and George P. Shultz

(コメント) イラク選挙の実施をめぐる評価と結果の予想は分かれています.

ヘンリー・A・キッシンジャーとジョージ・P・シュルツという明晰で狡猾(?),経験豊かな二人の政策家がイラクの選挙を説得的に評価しています.すなわち,アメリカ外交政策の将来と世界の安全保障,政治的な正当性を持った民主的なイラクの政治システム構築,という視点で選挙後を展望します.

彼らの主張は,「脱出戦略 “exit strategy”」の有無に論争を閉じ込めないこと,です.アメリカがイラクを再建できなければ,今後の外交政策は縛られ,世界の安全保障は致命的に損なわれます.イラクの占領統治が成功するとは,民主的で,軍事的にも政治的にも機能するイラク政府を確立することです.それによってアメリカは軍隊を帰還させることもできるでしょう.恣意的に時限を決めた「脱出戦略」など無意味です.

選挙結果について,二人は警告しています.シーア派に頼って多数派支配を実現するだけでは民主主義は実現しない,と.歴史的に宗派間で紛争を繰り返してきた人々が,欧米型の多元的民主主義を容易に実現できないのは当然である.選挙は,さまざまな宗派や部族による一時的な合意でしかないが,政府の正当性を高める.その後も,政府が多数の支配を強化するためだけに権力を行使してはならない.もしシーア派が偏った宗教支配を目指せば,イラクの内戦と分裂が危惧される.

選挙後も,アメリカは政治的な対話を促す役割を担う.@かつてのスンニー派支配と同じ事態を再現させない.Aテロリストやイスラム過激派の支配する地域を生み出さない.B神権政治やイラクの支配,土着の支配に陥らせない.C民主的なプロセスに地域の自立性を組み込む.

イラクの治安回復には,イラク警察や軍隊が再建されなければならず,それはイラク政府の政治的な正当性が回復することと循環的に影響する.政治制度が正当性を高めるためにも,国内の政治的対話に加えて,国際的な支援が重要である.イラク政府に助言し,経済援助も行う,支援国グループを形成することだ.そこには,ヨーロッパ諸国やインド,ロシア,イスラム諸国も加わってもらう.

私は,このほとんどの論点について同意できます.

FT January 26 2005

The real issues in Iraq's premature elections

By Saad Jawad

FT January 26 2005

Failure in Iraq is dangerous for all

By William Cohen

BG January 26, 2005

Voting, Iraqi style

By Lee Kalcheim and Marshall Efron

WP Wednesday, January 26, 2005

Democracy on the Wing

By Michael Rubin


ST Jan 26, 2005

Democracy first is bad policy

By Richard N. Haass

(コメント) 現在のアメリカの外交政策を「民主主義の拡大」として唱えることは間違っている,とRichard N. Haassは考えます.外交政策は,どの政府との関係を重視するか,という問題を扱えますが,相手国の社会や政府の性格を変えることにまで及ぶものではない,と考えるからです.

たとえば,未成熟な民主主義は平和を志向しませんし,安定した政治体制でもありません.また,民主主義を称えることと,それを拡大することとは全く違います.それぞれの国に異なった民主化のプロセスがあります.占領して民主的な制度を構築したドイツや日本の例は表面的であり,民主的な文化を移植できたわけでは無いのです.

イラクは,そのような条件が無いときに,民主主義を唱えて介入しても,人命としても財政的にも,どれほど多くのコストがかかり,しかもなかなか成功しないか,を示しています.たとえ自由になったイランが,反米主義や核兵器を掲げるようになっても,われわれはそれを止められません.

問題は常にトレード・オフです.中国の協力が,北朝鮮の核開発を止めるためには必要です.パキスタン政府の支持が,アル・カイダを追跡するためには必要です.それは,中国やパキスタンが民主的だからではありません.アラファトが死去して民主的な選挙を行っても,それで中東和平が保証されるわけではありません.イスラエルはエジプトやヨルダンと和平を維持していますが,それは彼らが民主的だからではないのです.

アメリカ政府には,もっと現実的な外交政策が必要です.


BG January 26, 2005

Oh yes, it can happen here

By Robert Kuttner

(コメント) アメリカ政府も破綻する,という話です.

例えば,C.プレストウィッツが示すシナリオ: 中台関係が緊張し,アメリカ海軍は動き出す.中国政府はライス国務長官に,軍艦を500マイル以内に近づけるな,と要求するが,回答を得られない.翌朝,中国人民銀行はアメリカ財務省証券を売り始める.そして市場が震動する.

ブッシュ再選は,そんな市場を犠牲にするだろう,と.

******************************

The Economist, January 1st 2005

Four more years

South Korea and human rights: Silence emboldens

Argentina’s debt: Grinding them down

Chechnya: Still calling for help

(コメント) The Economistは,ブッシュ氏の政策方針にことごとく賛成です.しかし,その手法には反対します.特にイラク占領を失敗したラムズフェルドの留任を求めたことを批判します.それ以外の点で,ブッシュ政権の政策はThe Economistの考える目標に沿っています.イラク戦争,減税による不況回避,社会保障制度の改革,税制の簡素化,いずれも必要だった,と.

韓国政府の「陽光政策」は,北朝鮮からの避難民を保護するより阻止することに協力し,住民の人権を無視することまで正当化するのでしょうか? 日本と韓国,アメリカの足並みが揃わなければ,中国やロシアを含めた合意による圧力は生じません.

他方,アルゼンチンの記事は,債務不履行に対する国際社会の是認がアルゼンチン政府をその過誤から解放するわけではない,と言います.チェチェンの記事では,紛争が抱える政治的な暗黒と,それを利用する者たちが描かれています.

Valentinaは,グロズヌイに住むロシア人の年金受給者です.彼女はロシア軍が来て,解放されることを楽しみにしていました.しかし,最初に会った兵士たちは,彼女をチェチェン人と一緒に暮らす『強盗,売春婦,けだもの』と呼びました.一人の兵士はカラシニコフ銃で彼女の足元を掃射しました.他の兵士たちは彼女の隣人を撃ち殺し,焼き払いました.『あれがロシアだよ』と彼女は言います.」

公式にも1万人のロシア兵が死亡した,と認めています.チェチェン人は,100万人の人口中5万人〜20万人が死んだと言われます.覆面をした秘密警察が,突然,多くの住民を連れ去って,そのまま帰ってきません.


Dancing with enemy: A survey of Taiwan

(コメント) 台湾海峡こそ,世界で最も深刻な危機を生じる可能性のある国際安全保障の臨界点です.2008年までの陳水偏の任期中に,北京オリンピックを機会と捉えて,強硬な民族主義者たちが一方的な独立宣言を行うかもしれません.

重要なことは,台湾が中国の一部であるという主張は,ますます台湾住民の意思とかけ離れつつあることです.国民党政府が独裁権力から退いて,民主化を実施し,民族主義の運動と政治的革新が相互に強め合う中で,もはや自分たちを中国人とは思わない人々が多数を占めています.理想をいえば,NAFTAのような市場統合を実現し,さらに将来はEUのような独立と民主化や法体系を共有した単一市場を実現したい,と台湾は思うでしょう.

しかし,中国の胡錦涛政権は「一つの中国」という政治スローガンを変えていません.中国政府・共産党の正当性を維持するには,こうした軍事的なスローガンと,経済的繁栄を持続させ,生活を改善することが重要です.台湾は,後者の点でも,非常に重要な役割を担っています.台湾企業はますます高度なIT分野でも中国に工場を建てて,世界市場に輸出を増やしているからです.台湾人のビジネスマンを狙った誘拐や強盗殺人がしばしばニュースになっています.しかし,台湾企業の中国進出は双方にとっての利益であり,後退することは無いようです.

台湾の民族政治家が,最近になって過激な報復宣言を行ったことは,アメリカを憂慮させました.アメリカは,双方が望むなら,交渉の仲介を行いたい,と述べています.暫定的な現状維持に関する協定を積み重ねて,いわば中国政府の支持基盤と台湾政府の依拠する国民感情をバランスさせ,長期的には「事実上の独立」による経済統合の安定化を国際社会が保障する体制にもっていくことを考えています.

まず,金門島と中国本土を結ぶ橋を建設し,春節に帰国する台湾人ビジネスマンに直行便をチャーターさせ,金門等を結ぶ「三通政策」を実現するでしょう.そして,双方が経済的な繁栄を共有する限り,政治的な「圧力鍋」の蓋をアメリカが抑え続ける必要があるわけです.