IPEの果樹園2005
今週のReview
1/24-1/29
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つだけ推奨するとしたら?
1. アメリカ大統領就任演説 :ブッシュ氏の就任式に,人々は何を想うか?
2. 日本外交と右翼 :中国や韓国との信頼を軽視する日本政府の外交方針は,国民のためになるか?
3. 日本国債の海外説明会 :国債を保有するのは国内金融機関ばかり,という将来の不安.
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor
FT January 13 2005
China floats idea of highway to Taiwan
By Mure Dickie in Beijing and Kathrin Hille in Taipei
FT January 16 2005
Taiwan seeks new era of links with China
By Kathrin Hille in Taipei and Mure Dickie in Beijing
(コメント) 中国政府は,台湾政府を消滅させることに熱心です.それは台湾を認める他国への厳しい対応,ビザ発給に対する非難,国際機関からの台湾の追放要求,などに示されています.
同時に,中国政府は台湾経済を統合することにも熱心です.たとえば台湾海峡に世界最長の海底トンネルを掘って,台湾政府の主権を掘り崩すことも考えています.その計画には,すべての主要都市を結ぶ8万5000キロの高速道路と北京−上海間の超特急列車も含まれます.もちろん,台湾政府はこれを,政治的な宣伝だ,と批判します.
海峡トンネルが夢でしかないとしても,海峡を越える直通の定期航空路線開設は現実です.もしここで軍事衝突が起きれば,介入しなければならないアメリカ政府は,海峡間の交流が平和的に拡大することを歓迎しています.
CSM the January 13, 2005 edition
Why it pays to forgive poor nations' debts
By David R. Francis
FT January 14 2005
Argentina's foolish debt gamble
FT January 16 2005
Seized funds should be spent on social schemes
By Calestous Juma
(コメント) 最貧諸国の債務について,津波の被害を救済するために支払猶予や債務免除が検討されています.1996年以来,IMFや世銀が最貧国の債務免除を合意してから,多くの国がそれを認めています.貧しい諸国が債務を免除されて発展できた方が,世界にとって利益となるからです.
しかし,問題は将来の免除を期待する「モラル・ハザード」が生じ,また,誰が免除されるかを決めることにあります.もしIMFや世銀が免除すれば,それらの機関の財源が失われ,それによって融資されるはずであった諸国は損失を被ります.また,債務を免除するより融資条件を緩和する方が良いのではないか? 完全な譲与にする場合,最貧国の政府を健全化し,その使われ方を改善できるのか? また,債務免除がアメリカの帝国建設に結び付いていたり,多国籍企業の利益に向けられたりするだけかもしれません.
アルゼンチン政府は,3年に及ぶ債務不履行の交渉を,今や債務切り捨てに変えようとしています.FTは債権者の不満を代弁して,このような取引がアルゼンチンや債務諸国の利益にはならない,と断言します.アルゼンチンは今後もこの交換に応じない債権者たちと訴訟を闘わなければならず,さまざまな国内経済の再建に必要な外資を得ることが難しくなるでしょう.また,新興市場に対する債務不履行を頻発させる懸念を強めて,アルゼンチンが他の新興市場の資金調達を妨げた,と批判します.
Jumaは,パリ・クラブの津波被害に対する債務免除を,もう一つの分野で改善する取り組みと一緒に考察しなければならない,と主張します.すなわち,汚職の追放です.長期の開発には教育への投資などが重要です.しかし,アフリカやその他の多くの貧しい諸国で,援助額の半分以上が汚職によって消えてしまうこともあるのです.ガバナンスを改善し,民間の投資や寄付を得る法整備を促すことで,彼らが競って汚職を追放するようになるでしょう.他方,援助を増やすだけでは,その多くが貧しい者には届かないのです.
Jan. 14 (Bloomberg)
Malaysia May Scrap Dollar Peg Before China
William Pesek Jr.
(コメント) 今度は,マレーシア通貨を売るためではなく,買うために,投機的な資本が狙っています.6年に及ぶドル・ペッグ政策が破棄され,リンギが急激に増価することを期待しているのです.いつ変更されるか,は人民元の動き次第だ,と通貨当局は応えてきました.しかし,上昇期待がある内にペッグを廃止するのが良いでしょう.世界的な商品価格の上昇,ドル安の進行で,マレーシアはインフレを心配しています.それゆえ,今なら,リンギの増価はインフレを抑制するでしょう.中国よりも金融システムが整備されたマレーシアは,変動制に移行してもショックを吸収できるはずです.
マレーシアの変動制復帰が,アジアの通貨制度を新しい枠組みに向かわせます.
BG January 14, 2005
Generational warfare
By Ben Hubbard
NYT January 14, 2005
The British Evasion
By PAUL KRUGMAN
The American Prospect, February 2005
A Bloody Mess
By Norma Cohen
WP Friday, January 14, 2005
It's More Than Social Security
By Robert J. Samuelson
BG January 16, 2005
Divide and conquer on Social Security
By Ellen Goodman, Globe Columnist
NYT January 16, 2005
How to Retire Rich
NYT January 16, 2005
Who Wants to Be a Millionaire?
By PAUL O'NEILL
WP Thursday, January 20, 2005
Social Security: Opportunity, Not a Crisis
By George F. Will
Jan. 21 (Bloomberg)
Bush Makes False Claims About Social Security
John M. Berry
LAT January 21, 2005
Hear 'Reform,' Think 'Destroy'
By Susan Jacoby
(コメント) 老人になることは,誰にとっても確実であるのに,もし十分な資産が無ければ,災害にあったような悲劇となります.社会保障制度の改革について,ブッシュ政権Uは民営化を提案しています.これに対して,民主党は強く反対しています.支持派と反対派とでは,何が大きく異なるのでしょうか?
ブッシュ政権Tが,富裕層に対する労働者家族からの所得(逆)再分配であったように,ブッシュ政権Uは,老人・退職者に対する若年・勤労層からの所得(逆)再分配であるかもしれません.そして,最後に,遺産相続を無税にして,死者に対する生者からの所得(逆)再分配も行いかねません.名目を変えながら,常に,保守派の資産家層に(それゆえ保守政治家に)利益を与えるわけです.
それゆえ,世代間対立ではない,というのがブッシュ政権の宣伝する最重要なポイントです.たとえ,学校への財政支出や奨学金を削っても,若い世代に莫大な財政赤字を債務として残しても,政府はそれを無視します.日本でもそうであるように,銀行危機や年金危機を喧伝して粗末な再分配政策を押し付けようとすれば,ますます危機が悪化し,その解決策は信頼されなくなって,システムを不安定にします.そもそも社会保障の危機は,イラク戦争ほど重要な財政負担でもないのに,イデオロギー的に再編を主張したいわけです.官僚よりもウォール街の方が,資産を増やすことにかけては上手いはずだ,と.しかし,年金の財源を投資の失敗でなくすわけには行きません.
民営化によって年金財政が強化される,とは言えません.そのことをKRUGMAN はイギリスの20年に及ぶ経験から考えます.アメリカ政府やメディアは民営化の情報を十分に伝えていません.Norma Cohenによれば,年金を自分たちで投資するようになれば,彼らを間違った時期に売買させます.当初は厳しく規制されていた売買が,業者からのおびただしいロビー活動で緩和され,高収益を目指して投資に励み,結局,退職するまでに使い果たすでしょう.
「言葉は大切だ」と,Samuelsonは言います.ブッシュ大統領が言うことは真実を伝えていません.破綻しているのは社会保障制度ではなく,むしろ連邦政府の財政全体です.若者から退職者に,どの程度の所得移転が行われるべきでしょうか? 世代間の合意が必要です.富裕層への減税で財政赤字が増え,他方,年金支給を維持するために若者たちはさらに増税されるでしょう.
ブッシュ氏は老人たちに,その年金を決して奪わせない,と保証し,若者には,君たちの年金制度が破綻する危険がある,と脅かします.こうして両者を分断し,支配する,というわけです.カール・ローブが書いた狡猾なメモの通りに,国民は社会保障制度が「氷山に向かって突き進んでいる」と信じ始めています.そして人々は世代によって分割され,もっと重要なライフ・スパンの全体や,老人たちの所得格差を忘れてしまっているのです.
危機を強調し,民営化だけを解決策だと強調することは間違いです.大恐慌や,バブルを知っている世代には,社会保障を民営化する気持ちが強いとは思えません.ブッシュ氏がこのアイデアによって富裕層の貯蓄を免税し,社会保障制度を銀行・証券業者のビジネスにすることは,投資に失敗した貧しい老人たちを増やすだけではないか?
しかし,政府がいちいち税金を課して,財源を補充しなければならない社会保障制度よりも,各人が課税されずに株式ファンドを購入できる制度の方が好ましいではないか? とPAUL O'NEILLは考えます.株価の変動で利益をあげるために買うのではなく,その配当を得るだけであれば,何も複雑なことなど無い.所得から免税措置によって導かれる積立額で,引退するまでに約1億円を用意し,老後の金銭的な保障として人々は貯蓄できる.むしろ,今すぐに老後の資金を融資するなら,制度を即座に移行させることができる.前財務長官はそう考えます.
平均寿命が大きく変化し,所得水準も変化した.その意味では,社会保障をめぐる哲学が見直しを求めている,とWillは考えます.さらに,社会保障制度の将来を予想するには,成長率や移民の流入を予想しなければなりません.さらに,自由な競争が最善の結果をもたらす,という理念があります.社会保障制度も,その理想を実現すべく再設計されるだろう,と.
Berryは,Mankiwを含むホワイト・ハウスの杜撰な破綻予想を批判します.そしてJacobyは,政治家が「改革する」と言えば,それは「破壊せよ」という意味だ,と述べたオーウェルの語法を思い出します.
NYT January 14, 2005
A Chinese Revaluation May Not Help U.S.
By KEITH BRADSHER
(コメント) 中国の生産コストは非常に安いので,たとえ人民元を切り上げたり,変動制に移行したりしても,それでアメリカの貿易赤字がなくなるわけではない,と言われます.さらに,アメリカは中国からの輸入に依存している割合が,中国のアメリカに対するそれを大きく上回っているために,人民元切上げは輸入価格を引き上げても輸入量を減らさず,他方,アメリカから中国への輸出は伸びないと懸念されます.
たとえ25%の切上げが行われても,多くのおもちゃメーカーは中国から輸出を続けるでしょう.しかし,かさばるおもちゃなど,一部は生産拠点をカリブ海域・中南米などに移すでしょう.何よりも中国人の低賃金が魅力を失います.また衣類工場では15%の切上げで致命的だ,と言います.分野によって人民元の切上げがもたらす影響は異なっており,期待するほど大きな貿易収支改善は起きないだろう,と論説は述べています.それでも,為替レートによる産業の調整は起きるのです.
お正月の番組で,森永卓郎氏が「中国は人民元を安くして日本の製造業を完全に解体し,その後で人民元を引き上げて日本経済を壊滅させるつもりだ」と述べていました.1980年代にアメリカの製造業が日本の黒字を非難していたとき,同じことを言っていました.こうした略奪的な独占企業として中国政府が行動することもありうるでしょう.しかし,たとえそうであっても,その成否は,世界市場における日本の貿易パターンや,国内経済構造の質に関わる問題です.
FT January 15 2005
Turning the corner?
FT January 16 2005
A framework for a stable Europe
By Gerhard Schroder
(コメント) ヨーロッパやドイツが構造的な改革を必要とすることも強調されてきました.改革は短期的には成長を悪化させますが,長期的には改善すると思われます.その成果が,漸く,部分的に現れたかもしれない,と.企業は特に労働組合との交渉を抑制的に行い,労働市場に弾力性も回復しつつあります.
シュレーダー首相は,ルクセンブルグのJean-Claude Juncker首相がヨーロッパ委員会の議長を務める今年,安定化協定の見直しをEUが本格的に始めることを期待しています.見直しの目標は三つの考え方に分かれています.すなわち,成長と安定性を回復するには,@社会保障制度を守り,労働市場と税制を改革する.A各国政府が自国のマクロ安定性を回復する政策の余地を確保する.Bドイツのように,東西再統一やEUへの巨額の財政移転を行っている国の特殊事情を考慮する.
安定協定は,EU機関が各国政府の財政健全度を監視して,積極的に介入することでEU経済やユーロの改善を促すでしょう.しかし,その条件は明確に限定されていなければならない,とシュレーダーは強調します.また,たとえ基準を逸脱しても機械的に制裁を科すのでなく,その回復策をEU機関と合意する形で,各国の政策変更を許容するべきです.EU諸国はこうした点で新しい合意を必要としています.
ST Jan 15, 2005
Who is deadlier: Man or Mother Nature?
By Janadas Devan
FT January 16 2005
Tokyo prepares for 'the big one'
By David Pilling
NYT January 16, 2005
Why Stock Markets Stayed Calm in Southern Asia
By CONRAD DE AENLLE
(コメント) 津波に触発された比較論はいくつかありました.天災と人災とは同じか? 何が違うのか? その修復やその影響をどう見るか? Devanは多くの例を挙げて考えています.
死者の数で両者を比較することは無駄です.たとえアル・カイダのテロがインド洋の津波よりも少ししか死者をもたらせなかったとしても,彼らが核兵器を入手していたら,数百万人を殺すこともできたのです.さらに自然災害はどれほど甚大な被害をもたらしても,それを封じ込めて,回復を促すことができます.他方,社会・経済・政治的な崩壊は,その影響が広範囲および,容易に封じ込めることができず,その効果は非常に長く,歴史的な考察になります.
すなわち,30年戦争,太平天国の乱,ロシア革命,スターリンによる粛清,第二次世界大戦,毛沢東が繰り返した社会混乱,など.他方,自然のもたらす死者としては,エルニーニョによる飢餓,ペスト,HIV,マラリア.長期に及ぶと言う意味では,イスラム過激派の闘争はすでに数世代を経ていますし,オスマン・トルコの崩壊から約90年,十字軍からでは1000年近い歴史を経て,その影響があるわけです.
めったに起きない自然災害を監視し,被害者を救済するより,歴史の中で起き続けている社会・経済・政治事件の被害者を救済する方後,はるかに難しいわけです.
FTは,6500人以上の死者と2500億ドルの被害を出した阪神淡路大震災の記念日とともに,将来襲うに違いない関東地方の大地震が与える被害を予想し,対策を考えます.建物の耐震性は低く,企業は地震対策に投資していません.政府の危機管理体制も不十分でした.リスク評価,リスク回避,セーフガード,保健,訓練,などが重要です.
なぜ自然災害の通例に従わず,今回の津波は株価を下げなかったのか? その被害額は経済規模から見て無視できる,ということがあります.しかし,その被害地域が東南アジアの生産拠点ではなかった,ということです.巨額の援助もプラスでした.長期的に見れば,津波の被害は新しいインフラ建設への投資によって,その後の成長率を高めるでしょう.
BG January 15, 2005
By James P. Moore Jr.
The Guardian, Saturday January 15, 2005
Cultural vandalism
(コメント) 大統領の就任演説は,アメリカにとってその政治的統合を回復し,国民に進路を示す,重要な歴史的瞬間です.ワシントン,リンカーン,ケネディーがそうであったように.アメリカは「祈り」によって統合されている国です.神,あるいは絶対者に対して祈り,理想を掲げます.アイゼンハワーがしたように,ジョージ・ブッシュも戦争の暗雲を振り払うより,それに勝利するために祈ります.
他方,アメリカ軍が駐留したのは古代文明の重要遺跡であるバビロン市内です.その結果,避けられたはずの破壊を人類史の遺跡が被りました.これが信仰心に富むアメリカの歴史観でしょうか? ヘリコプターの着陸地や重機械の停車地を作るために遺跡を破壊した,と言います.他者の文化を破壊する者とは「野蛮人」barbarismです.
The Guardian, Saturday January 15, 2005
In defence of history
Eric Hobsbawm
(コメント) 尊敬されるマルクス主義歴史家のエリック・ホブズボームが,マルクス主義を選択する理由を語っています.彼の目標は「全体史を描くこと」です.マルクス主義にとって,歴史とは人類が転換して行く姿でした.1880年代から1970年代まで,多くのマルクス主義に加わった歴史家たちは,歴史を解釈するよりその変化に参加しようとしました.彼は,客観的な歴史を否定し,また,科学的な実証主義を否定します.
今では,「普遍的歴史」が拒否され,あるいは証拠さえあれば「誰にとっても真実である」という主張が好まれます.彼らは合理的な説明よりも,個々の「意味」を重視します.その結果,政治的な意図によって歴史を歪曲する人々に利用されます.
NYT January 15, 2005
Cambodia, Where Sex Traffickers Are King
By NICHOLAS D. KRISTOF
NYT January 19, 2005
Leaving the Brothel Behind
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) セックス産業のために女性を売買し,密輸する産業は,現代の奴隷貿易であるだけでなく,21世紀になっても,ますます成長している産業です.それはカンボジアの首都でthe Chai Hour II Hotelの2階に行けば理解できる,とKRISTOFは書きます.水族館のようなガラスの壁の向こうに,番号を付けた多くの少女たちが,肌にぴったりした白い服を着て立っています.
ついに警察が入って少女たちを連れ出したにもかかわらず,売春ビジネスの帝王は私兵を使って保護施設を襲撃し,少女たちを奪い返しました.このホテルに対する捜索を指揮した警察の女性幹部は,一時的に職務を解かれたと言います.カンボジアは21世紀に栄える最初のセックス奴隷国家になりつつあります.
もう一つの記事は,KRISTOFが一年前に売春宿から買い取って,故郷に連れ戻した娘の話です.彼女は小さな店を持ちますが,家族や親族に邪魔されて失敗します.タイへの出稼ぎは儲けにならず,親や兄弟の借金を返すため,彼女が再び売春婦とならねばならないときが迫っていました.そのとき援助団体と協力して,再びNYTのKRISTOFたちが手助けし,彼女はプノンペンで美容師の学校に入り,勉強を始めます.
もちろん,誰にでもこうした機会があるわけではない,と思います.しかし,一つでもあったことを喜んで良いでしょう.債務,雇用,教育,わずかな投資,・・・
NYT January 15, 2005
After 100 Years, Japanese Will Go Abroad to Sell Bonds
By TODD ZAUN
(コメント) 日本の財務省が国債を海外の投資家に売るために,ニュー・ヨークとロンドンで説明会を開きました.それは1904年に日露戦争で外債を発行して以来の,100年にわたる沈黙を破るものでした.NYTは説明します.
「日本は,世界第二の経済規模を有するが,財政の健全度は発達した国の中で最悪である.その国債発行残高は来年には774兆円(7兆4000億ドル)に達すると予想され,それは全産出高の150%にも達する.その数字は,G7の工業諸国中,ずば抜けて最大である.政府の今年の財政赤字額は34兆4000億円(3300億ドル)であり,15期連続して赤字である.赤字額が改善する見込みは当分ないだろう.」
同じく財政赤字を抑制できなかったアメリカを批判してきたロジックが並びます.金利の上昇,景気悪化,投資家の信頼,通貨価値の暴落,・・・ その大きな違いは国債の持ち手でした.これまでは郵便貯金や保険会社,銀行,その他の金融機関を介して,バブルに懲りた老人たちが保有してきました.つまり,彼らは海外資産を積極的に購入する人では無いのです.
もし金利が上昇する際に,国際価格が暴落して中小の金融機関が破綻したり,国債を投売りしたりするようなパニックが起これば,もっと安定した投資家が必要です.たとえば,海外の機関投資家です.しかし,彼らは国債の管理や財政政策に厳しい注文を付けるはずです.それでも,金利の急騰を避けるために,景気回復時にこそ海外投資家の安定した国債需要を呼び込みたいわけです.
しかし,価格が上昇しきった,ほんのわずかな利回りしかない国債を,進んで購入する投資家を探し出すことは非常に困難です.日本の国債は容易に減るものではありません.それゆえ,長期にわたって投資家に宣伝し,その資産としての魅力を説くしかないわけです.さもなければ,教科書が言うように,大幅に通貨価値を下落させて,それが回復する過程で利益を期待する投資家が保有するだけでしょう.
NYT January 15, 2005
China Promotes Another Boom: Nuclear Power
By HOWARD W. FRENCH
FT January 17 2005
China's coal entrepreneurs tap a rich seam
By Richard McGregor
(コメント) 中国政府が経済成長を持続させることに向ける情熱は,急速に,原子力発電所を建設する計画を増やしつつあります.しかし,各国が原発事故の後,その建設スピードを緩めたように,技術的な不安や環境への悪影響,そして地球的な規模で被害を及ぼすことへの諸外国,特に日本の態度などが問題になるはずです.チェルノブイリ原発事故がもたらしたコストは,ソ連全体の原子力エネルギーがもたらす利益よりも大きかった,と言われます.
日本政府は,アジアの安全保障とともに,資源や環境,原発事故の問題などについて,多面的な交渉を進めているのでしょうか?
またFTは,中国の成長を支えるエネルギーの供給には,「ブラック・ゴールド・ラッシュ」と呼ばれる無数の鉱夫たちと,彼らを引き寄せる零細な鉱山にまで及ぶ爆発的な石炭需要があることを紹介しています.
BG January 16, 2005
An exit strategy for Iraq
By Marty Meehan
FT January 17 2005
Delaying Iraq poll will solve nothing
FT January 17 2005
A Sunni role is essential in new Iraq
By Michael O’Hanlon
(コメント) Meehanは,計画的なアメリカ軍のイラク撤退を提案します.アメリカ軍は必要な限り永久にイラクに留まる,というブッシュ大統領の方針を批判します.なぜなら,アメリカ軍の存在がイラクの治安を回復する障害になっているからです.イラクの治安警察が十分に整備されるまでは,アメリカ軍が撤退することはできません.しかし,撤退のスケジュールや条件を示し,早期にイラクの自治を促す方が,治安は回復されるだろう,とMeehanは考えます.そして,アメリカ政府は駐留軍の経費に代えて,イラク人の雇用や経済復興にもっと支出することです.
事態が混乱すれば,政治指導者たちの好む選択は,予定通りに段階を進めることだ,と聞きました.なるほど,ブッシュ氏も迷っているでしょう.しかし,すべての選択肢にコストはかかる,とFTは主張します.選挙の日程を遅らせることで確実に得られるものは多くないのです.特に,スンニー派を選挙に取り込むような政治的譲歩を,アメリカ政府が受け入れることも無いのであれば.それは逆に,これまで暫定政府を支えてきたシーア派を裏切ることにもなりかねません.
O’Hanlonは,現在のイラクが従う政治日程に疑問を示します.機能していない選挙公約を守って政治日程を変えないことは,イラクの社会をさらに混乱に陥れます.選挙を人口比によって割り当てること,憲法において石油からの収入を地方が分割すること,そして,駐留するアメリカ軍を早期に削減すること,などを再検討すべきです.
FT January 17 2005
How to make world trade fairer
By Peter Sutherland(a former director-general of the World Trade Organisation)
FT January 18 2005
Trading up
(コメント) WTOが直面している課題について,検討委員会の提言を要約しています.すなわち,ドーハ・ラウンドが進展せず,各国が特恵的な2国間取り決めを行って,「スパゲッティ・ボール現象」を拡大していることです.
WTOは,ラウンドを主催し,審議を進め,期限を定めて,最終的な合意を促す十分な力を発揮していません.委員会は,WTOの基本原則である多角主義の重要性を再認識し,合意されたルールによる自由化の意義を説きます.そしてWTOに対する間違った批判として,開発に関して特別な優遇措置を求めたり,主権を脅かすと非難したりする例を挙げています.WTOは自由貿易の機会を保障するのであり,そのために加盟諸国が自由化に対応できる能力も高められるよう,助言・支援をもっと行いたい,と述べています.
改善すべき点として,WTOにおける審議を恒常化し,常駐の政府代表者にジュネーブで交渉させることを求めています.その際,加盟諸国の中で貧しい国はその財政負担を軽減される措置も必要です.また,新しい事務局長の選出についても,政治的なゲームにするべきではない,と注意しています.
WTOの多角主義が成功することで,多くの国が自由化を進めるでしょう.それは好循環です.しかし,もしアメリカやEUが特恵的な二国間取決めに走り,さまざまな不利益を他国に押し付ければ,自由化は信用されなくなります.そしてWTOも無視されるでしょう.これは悪循環です.
FT January 18 2005
How far has China to go?
By Minxin Pei
(コメント) 中国共産党の総書記を務めた趙紫陽(Zhao Ziyang)が亡くなりました.多くの記事は,趙氏が1989年の天安門事件の際に,学生たちのデモを排除するため軍隊を導入することに反対して,その政治的な地位を抹殺された,と紹介しています.彼の死は,中国の改革がどれほどまだ多くのことを成し遂げねばならないか,その未完の部分を照らしたようです.
趙紫陽が目指した穏健な民主化は,天安門事件によって後退しました.共産党は,一方では反政府勢力を封じ込め,増加しつづける暴動や抗議行動を政治的に無力化しています.同時に,知識人や専門家,経営者などを共産党の支持者に取り込み,改革開放の過程でも共産党の支配が強化されています.
しかし,趙紫陽はかつて,市場改革は政治的な民主化を必要とする,と知っていました.共産党への参加を促し,地方レベルでの民主的な意志決定を拡大する路線を見失ってしまえば,改革開放による社会的不満がどこに向かうのか,共産党はもっと恐れるべきではないでしょうか?
IHT Friday, January 18, 2005
For China's nervous leaders, a timely reminder
Philip Bowring
IHT Wednesday, January 19, 2005
He knew the truth of Tiananmen
Jonathan Mirsky
IHT Wednesday, January 19, 2005
A legacy Beijing would do well to embrace
David Shambaugh
ST Jan 19, 2005
Zhao set the stage for economic reforms in China
By Bao Tong
LAT January 19, 2005
The Dead Man Feared by China
BG January 20, 2005
Afraid of a funeral
NYT January 20, 2005
China's Lost Leader
By DAVID C. UNGER
(コメント) 1976年に周恩来が亡くなったときも,1989年に胡燿邦が亡くなったときも,その死を悼む人々の集会は政府に対する大規模な抗議行動に変わりました.だから中国の指導者は,国民の支持を受けた政治家が亡くなることを恐れます.
天安門広場に集まった民衆は,共産党の腐敗やその親類縁者による権力と富の蓄積に憤慨しました.日増しに抗議の群集が膨れ上がり,民主化を要求するに至ったとき,戒厳令が敷かれて広場に人民軍の戦車が現れたのです.
戦車と軍隊が民衆を蹴散らす数週間前に,趙紫陽は民衆を支持し,彼らの理想は共産党の理想でもある,と述べました.デモ隊との集会に現れた彼は,泣きながら「来るのが遅すぎた.来るのが遅すぎた」と詫びたそうです.彼の政治活動としては,それが公の場に出た最後のものとなりました.
中国の民主化に関して寛容な姿勢を示した政治指導者が,なぜ民衆と政府を和解させることができなかったのか? 本当に民主的な政府が成立するときまで,その答えは留保されます.
FT January 18 2005
Bush gets chance to be Republican Roosevelt
By James Harding
(コメント) 政治家は有権者たちにさまざまな期待を抱かせて当選し,その素晴らしいキャンペーンを終わります.しかし,当選してからも政治は続くのです.異常に高まった有権者たちの期待を裏切らないようにしなければなりません.少なくとも,あからさまには.
ブッシュ氏は,その第二期において国内改革を掲げています.彼は父親と比較され,マッキンレーやレーガンに比較されてきました.しかし今や,フランクリン・ルーズベルトの成し遂げた国内改革とその政治基盤,ニュー・ディール連合に代わる,共和党の新しい国内政治基盤を築く方針を示したわけです.社会保障制度,すなわちアメリカの年金改革は重要です.この扱い次第で,ブッシュ氏ならびに共和党は,労働者やヒスパニック人口にも支持を確立する制度的な基礎を得るからです.
しかし,ブッシュ氏の得た「政治的資本"political capital"」は,本人が思うほど大きくないでしょう.彼は既に第一期でこれを前借してしまい,第二期ではその赤字の始末や政権後半のレイム・ダックに悩むはずです.他方,ブッシュ氏の当選に献金した業界は見返りを求め,支持活動に動員された団体は自分たちの方針が政策や人事に反映されることを求めます.
4日間に及ぶ就任式の行事にかかる費用は4000万ドルです.そのほとんどが企業からの寄付で賄いました.たとえば,1万人の楽隊,25万本の花々,三つのロック・コンサート,「自由を祝う」花火大会,など.それゆえ大企業は要求します.年金を民間のビジネスに開放すること.より多くの原発建設.自然保護地区における石油の採掘.ホテル・チェーンのマリオットは非合法移民たちが市民権を得られる法制度を求めます.
25万ドルを寄付すれば,就任式のすべての行事に参加できるパスがもらえます.ブッシュ氏やチェイニー副大統領との昼食会や夕食会に参加するためのチケットが売られているわけです.
保守派やキリスト教のグループは「道徳的価値」の実現を求めます.たとえば,同性愛者の結婚を憲法で禁止すること,など.最高裁の判事を指名する戦いが始まっています.また,特に招待された2000人の兵士たちが大統領と歓談し,ダンスに興じる機会を与えられました.しかし,彼らが切実に求めるイラクからの帰国スケジュールは未定です.
就任式とは,しばしば,選挙を終えて国民の団結を訴える場です.しかし,内外で戦争を引き起こし,国民と世界を分断させた大統領が,政治的和解を演出できるかどうか・・・?
l 大統領就任演説より
“With malice toward none, with charity for all, with firmness in the right as God gives us to see the right, let us strive on to finish the work we are in, to bind up the nation’s wounds...to do all which may achieve and cherish a just and lasting peace among ourselves and with all nations” /Abraham Lincoln, 1865
“Let me assert my firm belief that the only thing we have to fear is fear itself” /Franklin D. Roosevelt, 1933
“And so my fellow Americans, ask not what your country can do for you. Ask what you can do for your country” /John F. Kennedy, 1961
“With the idealism and fair play which are the core of our system and our strength, we can have a strong and prosperous America at peace with itself and the world” /Ronald Reagan, 1981
“There is nothing wrong with America that cannot be cured by what is right with America” /Bill Clinton, 1993
BG January 17, 2005
King's nonviolent army
(コメント) マーチン・ルーサー・キングの記念日は大統領就任式の影に隠れてしまいました.しかし,もしキング牧師が生きていたら,9・11テロ攻撃や,イラク戦争について,その「非暴力の軍隊」をどのように適用しただろうか? とBGは問います.
「報復すること無しにどのような暴力にも耐えられると,彼自身,そしてわれわれが確信できないようなら,われわれは彼を派遣しない.」 キング牧師は人々に自分自身を守るための武器さえ捨てるよう求めました.「われわれはすべての武器の中で最も恐るべき武器を持っていることを証明した.それは,われわれが正しい,という確信だ.われわれは肌の色ではなく,われわれが正しいことを行っているという知っており,その知識によって守られる.」
キング牧師は,沈黙を破って,ヴェトナム戦争を非難しました.この戦争は,国内における黒人の解放を遅らせ,また何よりも,ヴェトナム人民の生命と国土を破壊した,と.彼にとって政治的党派による違いは重要でなく,人類全体の使命として,それぞれの社会における最良の部分を維持しなければならない,と考えたからです.
人類における正義を確信するものにとって,戦争や兵器は無意味です.非武装・不戦の憲法を持つ日本の指導者たちは,この教えに何を思うのでしょうか?
The Guardian, Tuesday January 18, 2005
Sino-Japanese 'cold war' stirs new tensions
Simon Tisdall
JT Tuesday, January 18, 2005
Same old contrived hysteria
By GREGORY CLARK
(コメント) イスラエルやEUが中国に最新鋭の武器を売却するとき,外務省・日本政府は憂慮します.国境線に近い無人島に近づく中国の漁船や監視船があれば,海上保安庁や防衛庁は緊急事態を予想します.
Simon Tisdallは,ますます相互依存を深める日中間で再び戦争が起きるとは考えられないが,北東アジアで「新しい冷戦」が始まったのではないか,と指摘します.1930年代の戦争を,中国は決して忘れていないし,それを許すことも無いからです.争いは,資源問題やロシアとの関係,憲法改正,にも影響を及ぼします.
中国政府は政治的な権威を維持するために反日キャンペーンを利用してきました.小泉首相の靖国神社参拝によって,両国間の首脳訪問は途絶えています.それは,日本側における中国への反感にも起因しており,互いに国民感情を悪化させています.北朝鮮の拉致問題や核開発に関しても,日本はアメリカの軍事力だけに依存する古い体制から転換しつつあるのです.
要するに,中国が経済や軍事力を近代化すれば,それに対して日本も対抗するだろう,と.
Gregory Clarkは,こうした保守派の感情的な対応を批判します.日本人を朝鮮や中国に対する蔑視や恐怖から解放してくれる政治指導者たちが,自国にも相手国にもいるはずです.もし横田めぐみさんの骨ではないと分かったのであれば,なぜ政治家たちは憤慨するよりも安堵し,制裁を議論するより交渉によって真実を求めないのか? 保守派の政治家たちは,北朝鮮の不誠実な対応に,日本として制裁や先制攻撃のための長距離ミサイルを要求しています.
むしろ,不誠実とは日本政府の対応ではないか? とClark氏は批判します.日本政府や企業は,数万人を超える強制労働に従った朝鮮人や中国人に対して謝罪や補償をしません.東京で生体解剖に利用された囚人たちの骨についても調査していません.
同様に,政治的に増幅されたヒステリーは中国にも向かっています.右翼の政治家たちは,どの国も戦没者を称える権利があり,中国の非難は内政干渉である,と反発します.しかし,中国政府は,日本が300万人の戦死者たちを称えることが問題ではない,と明確に述べています.問題は,日本人300万人と,中国人2000万人を戦死させた戦争指導者たちが,その神社で祭られていることである,と.
東シナ海の国境問題はさらに深刻です.Clark氏は,大陸棚を基礎として排他的経済圏を決めることは国際法にも根拠がある,と考えます.この問題で中国は交渉を求めているのに,日本政府は対応せず,右翼団体に反中国キャンペーンを許しているわけです.沖ノ鳥島問題でも,日本政府の対応は国際的なルールにそぐわないものである,と指摘します.ところが,石原東京都知事のような右翼政治家は,この岩礁を「島」として領土と主張しています.
何より問題であるのは,日本人がこうした問題で是非を十分議論していないことです.右翼政治家が白を黒と言い張れば,多くの政治かも国民も議論を止めてしまいます.台湾問題でも,日本の対応は矛盾したままです.
中国の軍備強化を問題にして,右翼政治家は日本の軍事力を強化しようとします.しかし,中国は台湾について武力介入を約束しているアメリカのネオコンを意識しているのです.日本の軍備強化は,それと協力して進められます.アメリカの対中姿勢に従う一部の右翼政治家の議論に支配されたまま,国民は受動的に好戦論を新しい方針として認めるのか? と警告します.
IHT Tuesday, January 18, 2005
Overhaul the UN's human rights body
By Loubna Freih
(コメント) 国連改革を提言した委員会も,人権委員会の抱える問題は無視しました.人権委員会には,国連のすべての国が参加し,議長を務めます.それゆえ,国内で人権を蹂躙している悪名高い国々が,委員会の活動を妨げてきました.その理由は,国家主権を侵す,というものです.Loubna Freihは,人権を守る意味では,委員会のメンバーに参加資格が要求されるべきだし,人権の保護には,国際的な干渉が認められるべきだ,と主張します.そして,ここでも国際機関はより恒常的なスタッフと政府の代表を討議に参加させて,情報を蓄積し,最新の事情を監視して,いつでも行動できる体制を整えるべきだ,と求められます.
JT Monday, January 17, 2005
Unprecedented migration has EU on edge
By CONSTANTINE PLESHAKOV
(コメント) ヨーロッパにおける移民の現状を伝えるエッセーです.戦後の成長を支えた移民労働者は,次第に差別されるようになりました.戦闘的な労働者や充実した社会福祉が,必ずしも,成長を損なうとは思いません.しかしノルウェーでさえ,パキスタンから労働力を輸入しています.アラブ人,アフリカ人,アジア人の流入を,ヨーロッパ諸国は脅威や時限爆弾と感じています.
PLESHAKOVは,オスロの月曜日の朝,フェリーで交わした会話を思い出します.税金を逃れるためにデンマークでたらふく酒を飲んだノルウェー人たちが帰ってきます.中年の酔っ払いがPLESHAKOVの子供の手をつかんだので驚きました.
「どこから来たのか?」 と酔っ払いは尋ねました.
「ロシアだ.」と,PLESHAKOVは彼の反応をさぐって言いました.
酔っ払いは顔をしかめ,暫く,子供を見つめてから言ったそうです.「まあ,いいさ.」
「パキ(パキスタン人の蔑称)よりはましだ」,と.
「どうしてか?」とPLESHAKOVが尋ねると,彼は答えました.「お前たちは白人だし,クリスチャンだ」,と.しかしPLESHAKOVは,この理由がもはや重要ではなくなっている,と考えます.
旧ソビエト連邦からの移民がヨーロッパに流入し続けています.もしホテルのメイドがウクライナ人でなければ,彼女たちはきっとモルドバやベラルーシから来たはずです.いたるところで,セックス・クラブにはスラブ系の訛りを含んだオランダ語やドイツ語が満ちています.ナポリの町では,数ブロックも,イタリア語ではなく,ウクライナ語しか聞こえません.ポルトガルでは,ロシア人のために数種類のロシア語の新聞が発行されています.
ミュンヘンの中央駅で,PLESHAKOVは一人のウクライナ人少女に会いました.彼女は重いバッグを下げて,ナポリに行く決意を固めていました.一言のドイツ語も英語も話せないけれど,ナポリ行きの列車を探していました.彼女のよろめくようなイタリア語は,雇い主をいらいらさせるでしょうか? あるいは魅了するでしょうか? EUの移り行く主権と,ナポリを目指して旧ヨーロッパ要塞の豪勢な門を叩く,一人のウクライナ人少女に,PLESHAKOVは未来を望みます.
NYT January 18, 2005
The President's Shoelaces
LAT January 19, 2005
No More Manana
(コメント) 就任演説についての質問に答える中で,ブッシュ大統領は何度も移民システムの改革を真剣に進めると約束しました.しかし,改革に反対する議員たちは,ブッシュ氏が「靴の紐をスタート・ブロックに結んだようなものだ」,と非難しています.
ブッシュ氏は,国内にいると言われる800万人から1000万人の非合法移民を免責する気は無い,と言います.それによって非合法移民が一時雇用制度に移行するのか,不法滞在に対する刑罰を恐れて帰国するか,あるいは,完全に地下経済にもぐってしまうか,分かりません.他方,もし外国人労働者の短期的な雇用を合法的に行えるなら,安全保障面でも全身である,と訴えます.そして,一時雇用から市民権の獲得まで,一貫した過程を示すことを目指します.
ブッシュ氏は,実際,メキシコと接するボーダー・ステートの知事でした.彼は移民労働者を悪者扱いしてはならない,と正しく指摘しています.さまざまな分野の労働需要に,彼らが応えているからです.それにもかかわらず,労働する権利も無く,移民労働者の市場は抑圧されています.それは治安問題ではなく,ビジネス界と移民社会が利益を共有する経済問題なのです.
FT January 19 2005
BG January 19, 2005
Inaugural success
WP Wednesday, January 19, 2005
Bush's Next Test
By David Ignatius
American Prospect, Web Exclusive: 01.19.05
Our Own Ownership Society
By Robert B. Reich
(コメント) 戦時中の就任演説は慎ましく行われました,1917年のウッドロー・ウィルソン,1945年のフランクリン・ルーズベルト.ルーズベルトは短い就任演説で済ませ,「コールド・チキン・サラダとパウンド・ケーキだけ」でもてなしました.
ブッシュ氏は,就任の祝賀会で,民主主義と彼自身の勝利を,皆と祝えることを喜んでいます.それは,言い換えれば,戦争に留まる多くの同胞や,アジアにおいて津波という天災に苦しむ人々を気にすることなく,4000万ドルの寄付を得て大騒ぎし,支持者たちに特別な利益を与えることで,民主主義を奪うことに,満悦至極である,と.
WPは,震えて,泣き出しそうな,緊張した4年前の就任演説に比べて,ブッシュ氏が政治指導者に変貌した,と指摘しています.しかし,その強さは,以前の大統領たちが複雑で,悲劇的な要素を持っていたことに比べて,ブッシュ氏が異なったタイプの人間だからだ,と考えます.
二期目のブッシュ氏が目指す"Ownership Society"とは何か? 頂点の1%と,底辺から90%の国民が同じ大きさの富を「所有する」社会とは何か? もし90%の人々の所有を満たすことを考えているのであれば,現在の税制は不公平であり,政府はイラクにおける戦争よりもっと教育に投資するべきでしょう.
ブッシュとは何者か? ブッシュ政権の遺産を,既に多くの人々が語り始めています.
BG January 21, 2005
Freedom's requirements
BG January 20, 2005
Same man, different president
By Jeff Jacoby, Globe Columnist
The Guardian, Friday January 21, 2005
Promises and reality
WP Thursday, January 20, 2005
Inauguration Day
(コメント) 就任演説は「自由の宣言」でした.国内でも,世界でも,ブッシュ氏は「自由」を求める最強の支援者です.しかし,ブッシュ氏の話には謙虚さが無く,多面性を無視しています.要するにそれは,ブッシュ氏のイデオロギーに対する非難や攻撃に向けた弁解なのです.ブッシュ氏の称えるものより,彼が触れようとしないものに,より多くの深い考察が求められています.
自由と,経済的繁栄と,安全保障.アメリカはそのいずれも世界で追求しなければなりません.十分な思慮と広い信頼感があるでしょうか?
Jan. 20 (Bloomberg)
What's This? A Weak Dollar Isn't a Miracle Cure?
Caroline Baum
(コメント) ドル安はアメリカの貿易赤字を解消できるか? その多面的な考察です.Jカーブ効果,貿易相手国との成長率格差,オフショア生産拠点の利用,国内製造業のキャパシティー不足,そして,国内需要抑制策はキャパシティーを改善するより,悪化させるかもしれません.
NYT January 19, 2005
A Diplomatic Hearing for Ms. Rice
CSM the January 20, 2005 edition
Bush's Democracy Project
FT January 20 2005
Lessons from the Bismarck model of diplomacy
By Dominique Moisi
The American Prospect Web Exclusive: 01.20.05
From Lincoln to Lott
By Harold Meyerson
(コメント) 国務長官がパウエルからライスに変わることで,外交政策の転換が起きるかどうか,も注目されています.多角主義の牙城であった国務省もライスの強硬路線が支配的になるとしたら,アメリカはますます強くなり,孤立して,それを止められるのは経済的破綻だけ,ということになるでしょう.しかし,強硬派のジョン・ボルトンではなく,多角主義のロバート・ゼーリックを副長官に指名しました.
外交政策というものが,条件の変化やその国の政治目標,経済的能力とともに,重要ポストを占める人物やその信念,政策思想によって支配されることを確認できます.
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The Economist, January 1st 2005
The oil industry: Big oil’s biggest monster
(コメント) アラムコARAMCOの本社ビルは,サウジ・アラビアの石油キャピタルであるダーラムにあります.そこは繁栄と安全,近代的な自由の飛び地です.なるほどここが,「漆黒のドル」を世界に供給する中央銀行なのです.
アラムコは資本を公開しておらず,外部に債務を負うわけでもありません.その意味では,何一つ市場に情報を公開する必要がありません.しかし,ある程度,自主的に取引量を公開しました.その理由は,市場のため,そして世界の石油価格を安定化する,という公共の利益に奉仕する責任を自認しているからです.もしその責任者であるアブドラ・ジュマーの言葉どおりなら.
世界がグリーンスパンとアラムコにその秩序維持を依存していることは,大きな不安にもつながります.@アラムコの石油供給余力が減ってきた.A採掘を拡大する計画が遅れている,という疑い.Bテロ攻撃への脆弱さ.
China’s champions: The struggle of the champions
(コメント) 中国が世界の工場であり,世界の市場でもあれば,世界的な企業が誕生するのは時間の問題です.しかし,政府による育成策は成功しないでしょう.それは中国政府の開発モデルが企業の発展を損なっているからです.
何よりも,共産党は経済の支配権を手放す気がありません.それゆえ国内企業の経営者は,本来の研究開発や新製品に投資するのではなく,安価な労働力と資本,土地を利用して,外資との提携によって単純な工業製品を大量生産し,輸出するパターンを繰り返しています.利益はあっても,政治家への賄賂や新しい提携先からの技術導入などに消えてしまうのです.
日本や韓国は産業政策によって世界的企業を育成しました.しかし,中国の経済発展はさらに大きな技術ギャップを前提に,国内企業の自由な競争を遅らせ,各地の国営企業を救済合併する中で,外資導入による淘汰と拡大を許したのです.こうした政治的産物に過ぎない巨大企業は,世界市場で競争できません.