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IPEのタネ 1/24/2005
ブッシュ氏の就任演説,すなわち勝利者の満悦は,「ほくそ笑む」どころではありません.愉快な教養ミニ講座「大希林」を観ていたとき,「ほくそ」は中国古代の思想家で,何事も控えめな表現が望ましい,と主張した人だと聞いて驚きました.確かに,「自由」や「民主主義」を掲げて,自分のしている戦争が与えた苦悩や恐怖を無視するような政治家は,多くの人に浅薄な(そして酷薄な)印象を与えます.
先日,私はすっかりくたびれて,教育テレビを観ていました.「愛知県藤前海岸」の湿地帯は,糸ゴカイやハゼの群がる,渡り鳥の休息地として「ラムサール条約」に加盟している.しかし,この湿地は,人間が環境を汚し,さまざまな土砂や都会の汚物を流し続けて形成した新しい≪自然≫である,と知って驚きました.また,「富山県栃波平野」の「カイニョ」(垣根)は,厳しい強風から家を守るために植えられた,田園に浮かぶ5000に登る屋敷林です.しかし第二次世界大戦では軍需物資の調達として多くの木が伐採されました.今また,老人たちが落ち葉を集める作業を続けられないために,枝を切りすぎて倒木を生じています.
憲法九条をめぐる改憲論議が日本の進路を変えるかもしれません.NHKは特集番組でバランス感覚を示しました.日本はアメリカとともに戦い,対等に意見を言えるイギリスのような国になるのか? あるいは,北東アジアに安全保障共同体を築くため,中国や韓国とさらに多面的な友好関係と信頼感を育てるのか? アメリカと多くの社会的理想,国際秩序の理念を共有しているとしても,ブッシュ政権の唱える「テロとの戦争」に進んで加担できるでしょうか? 中国経済とますます緊密に統合化していく中で,中国がかかわる国際対立や軍事衝突についても,中国政府と交渉し,説得することができるでしょうか?
読売新聞を読んでいると,日本の保守的なイメージが身近に感じられることがあります.先日,保守派の研究所が憲法草案を載せていました.政治の肝要はバランスですが,日本では多くのことが議論を尽さずに変わります.EU憲章についてはThe Economistが草案を示していました.日本でも,右翼をたしなめる天皇や靖国参拝を批判する財界人・政治家がテロの標的にならないためにも,政治家たちが国民に向けた議論を尽さなければなりません.
もと「極道」であった?作家の安部譲二氏が,テレビで思い出の料理を紹介していました.母親から教わったロースト・ビーフです.「肉」を食べることが貧しい(戦争の)頃の思い出と重なる大人たちは,かつて日本にも多くいたはずです.今では,料理の漫画やテレビ番組がさまざまな高級食材を紹介しています.しかし,チャンネルを変えると戦争や貧困,災害に苦しむ人々がいます.
ようやく講義を終えた週末,小磯良平美術館に行きました.自動車を走らせた湾岸高速道路は,神戸市の遠景を望める位置にあります.神戸が大震災のときにどうなっていたのか,私はよく知りません.何かを通じて復興に役立っていたら,この景色をもっと異なった感慨で見たでしょう.小磯良平の立派な西洋絵画に比べて,その記念コンクールに入賞する現代絵画のポップな様式には閉口しました.ポストモダニズムの思想・文化・政治体制と,新しい蓄積様式の形成を議論する,優れた思想家のエッセーを読んでみたいです.
ノーム・チョムスキーの『中東 虚構の和平』を卒業研究に取り上げた学生がいます.この本の表紙がとても印象的でした.瓦礫と化した住宅の中で,娘を膝に乗せたパレスチナの婦人は,怒りや苦しみ,不満,不安のまなざしを私たちに向けています.片手に食べかけのパンを持った愛らしい娘も,こちらをじっと見ています.中央に位置した二人の周囲だけ,窓のようにカラーの映像が輝き,その外はモノクロの廃墟が写されています.
究極において,人は十全な存在として意味を持つことを求めます.さまざまな季節を経た果実のように,あるいは,深い森をさ迷い歩いてきた獣のように,ついに得られた平穏な日々において,満たされることを知り,詩を詠み,絵を描くでしょう.あるいは,川の流れや潮の満ち干,雲の重なりのように,変わり行くものを受容して,なお,その意図を自ら生かす方策を知るのです.
年金制度や郵政省の改革がどれほど政治家にとって大きな問題であるのか,私は(多分,多くの若者や労働者も)理解していません.日本の選挙結果を支配してきた,老人と地方の郵便局(そして公共工事・土建業)を田中角栄が作ったと聞いて驚きました.自民党に権力を集中することで日本の政治過程は安定し,保守化してきました.しかし今後,国債として,もしくは自民党の財源として隠されてきた,数百兆円の国民の貯蓄をどう活用するのでしょうか?
郵貯であれ憲法であれ,国会を通じて,さまざまなグランド・デザインを聞くときです.
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