IPEの果樹園2005

今週のReview

1/17-1/22

IPEのタネ

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   アメリカ社会 :はなはだしい不平等.新しい貴族政治による新しい帝国の建設.

2.   パレスチナとイラクの選挙 :戦闘地域の選挙は希望をもたらすか?

3.   天災と革命救済 :自然災害と政府の対応.地震は社会・政治制度の変化にも及ぶ.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


NYT January 6, 2005

The Country We've Got

By THOMAS L. FRIEDMAN

WP Friday, January 7, 2005

A Bridge to Iraq's Future

By Brett H. McGurk

The Guardian, Tuesday January 11, 2005

A man-made tsunami

Terry Jones

NYT January 11, 2005

Can We Save Iraq? No, but the Iraqis Can

By DAVID BROOKS

NYT January 12, 2005

Facing Facts About Iraq's Election

The Guardian, Thursday January 13, 2005

This election could plunge Iraq further into the abyss

Seumas Milne

WP Thursday, January 13, 2005

No 'Owning' Iraq

By Jim Hoagland

(コメント) FRIEDMANは選挙の実施を求めます.なぜなら,選挙によってイラク人自身が民主的な政府を組織し,自分たちの政府を守るために戦うからです.なぜなら,アメリカ軍は憎まれており,アメリカ軍を追い出すために戦っている,というイスラム原理主義者や多数を支配するためのスンニー派の抵抗を,民主的な政府への反抗であると示せるからです.なぜなら,いずれにせよ民主的な政府は新しい社会契約の下で,異なった民族や意見が共存し,内戦を終わらせるしかないからです.

そのような民主的な勢力がイラク国内に育っているかどうか,それは分かりません.しかし,アメリカ軍が押し付けることもできません.選挙によって,イラク国民が自分たちの民主的な合意を模索するでしょう.それがいつなら可能なのか? 選挙をしても内戦になるだけか? FRIEDMANは,フセインを追い出したことで,ブッシュ氏は既に内戦の蓋を開けたのであるから,アメリカ軍は選挙を実施して,イラク国民に問うべきだ,と言います.そして成功すれば,アラブ諸国が自分たちの手で民主的な社会契約を結び,国家を再建することを,地域の他の支配者にも示せるはずです.ただし,アメリカ政府も従来の政策を転換しなければなりません.

McGurkも,暴力ではなく,自由な選挙によって,法律や政府を変えることができる,ということを示すことが最も重要だ,と選挙の実施を求めます.たとえ十分な選挙運動ができなくても,選挙に参加し,選挙で政府を決めること自体に,武装蜂起やボイコットではなく,重要な意味があるのです.どのような政府にも対立が含まれています.しかし,首を切り落としたり,自動車爆弾で攻撃したりすることはありません.

Terry Jonesは,なぜ津波の被災者たちに寄付が集まるのに,イラクの戦闘で死亡し,負傷する人々には,同じように同情しないのか,と訴えます.しかも,この悲劇は人間がもたらしているのです.それは死者の数ではなく,それを伝えるメディアの姿勢に大きな違いがあるからです.主要なメディアが破壊されたイラクの町や村,傷ついたイラク人たちを報道する機会はほとんどありません.また,政治指導者たちも被害に遭った市民たちに同情し,寄付を募ることもありません.なぜなら,津波と違って,それは彼らの失敗と見なされるからです.だから,死者の数を数えようともしないのです.

BROOKSは,イラクからの出口を求めます.そして,機能するイラク社会の基礎を探しました.アメリカ政府の考えは,上手く行けば,三つの段階を経て,それは実現できる,ということです.1.反対派は政府の支持者や民間人を誘拐し,殺害し,爆破する.その結果,スンニー・トライアングルから住民が離散し,他の地域でも政治的な支持を失うだろう.2.社会制度が整備され,人々の争いは,次第に,中世的な,宗教的狂信から距離を措くようになる.伝統的な宗教指導者も近代化を望んでいる.3.新しい民主的政府が,アメリカによる占領という時代を終わらせる.

NYTは選挙の延期を支持します.なぜなら,イラク侵攻の目的や是非については意見が分かれても,スンニー派とシーア派との内戦を回避するべきだ,という点では多くの意見が一致していたからです.内戦を回避し,テロリストの巣窟が広がる状態を出現させないということは,最も重要な目標でした.このまま選挙を強行すれば,スンニー派を新しい政治過程に取り込めない,と考えます.またそれが,サダムを追放し,バース党や軍隊を解体する過程でアメリカ軍が犯した過ちを修復するために必要だからです.

ブッシュ氏が選挙の実施を支配しているような印象を与えるのは間違いですし,イラク民衆の状態を過度に楽観的に描く政治的な過程に選挙を利用してもなりません.選挙による暫定政権成立が,アメリカの占領を長期化し,正当化するための政治ショーになってしまうでしょう.もしイラク民衆が選挙活動を行えないのであれば,彼らが選挙を実施するか,延期するか,検討するべきです.延期は必ずしも反政府武装勢力の勝利を意味しない,とNYTは考えます.

Milneは,外国の軍隊に占領された状態で選挙が操作された例は多い,と警告します.また,ファルージャのように町を破壊され,あるいは治安が極端に悪化して,アメリカに批判的な住民が避難してしまったら,反対投票は行われません.世論調査では,今すぐ外国の軍隊は撤退せよ,という意見が支配的であっても,候補者たちの意見は示されません.ヴェトナム戦争であろうが,ロシアであろうが,投票を偽装し,結果を作り上げることは権力を握る者の常道です.

Hoaglandは,20世紀の最も明白な政治的教訓を,他国を支配する国は敗北する,と表現します.要するに,アメリカはイラクを思い通りに支配できません.他国を支配する者の最大の欠陥は,その国を動かす現実の社会力学を理解できず(しようとせず),しかも,彼らを信頼しない(できない),ということです.

しかしHoaglandは,アメリカがイラクに侵攻した以上,その再建にともなうコストも引き受けるしかない,というのも,選挙で正当性を高められる,というのも神話であると批判します.ブッシュ氏はアラウィを支持し,スンニー派の武装派を撃破し,サウジ・アラビアやヨルダンが嫌っても,シーア派に依拠した民主的政府を支援するでしょう.


NYT January 6, 2005

Korean Shipbuilders See China's Shadow

By JAMES BROOKE

NYT January 9, 2005

A Divide China Must Conquer

FT January 11 2005

Lex: Chinese dual listings

FT January 11 2005

A country in love with luxury

By Justine Lau

FT January 13 2005

China's big hope is not Hong Kong

By Yasheng Huang

NYT January 13, 2005

China Goes Beyond Oil in Forging Ties to Persian Gulf

By BORZOU DARAGAHI

NYT January 12, 2005

China's Trade Surplus May Stir Currency Debate

By KEITH BRADSHER and ELIZABETH BECKER

(コメント) 中国経済が拡大する過程で,韓国の発達した重工業部門を吸収し,アメリカ市場に浸透し,日本企業から精密機械や技術者を,また欧米企業から世界的ブランドを買収して,国際金融センターの発達した資本市場にも企業の資金調達先を求め,蓄積された外貨準備や資本流入で銀行システムの整理・再編を賄い,さらには社会福祉の整備にも役立てることは好ましいことです.それが安全保障上の摩擦や,政治的な安定化と改革にも,有利な条件を作り出すと思います.

もちろん,それには厳しい競争がともないます.

現代重工業は世界最大の造船所を持っています.それは,中国が必要とする大規模なコンテナ船や石油タンカーを造るのにふさわしいでしょう.2004年に日本から奪った世界一の韓国造船業が,早くも2015年に,中国によって抜かれると予想されています.中国の工業力に,時折,アメリカの労働者が強い不満を述べるとしたら,近隣のアジア諸国は悲鳴を上げ続けているわけです.韓国は,単純な分野を捨てて,より高度なLNG運搬船や超巨大コンテナ船,スーパー・タンカーに特化しようとしています.

韓国企業が生き残るには,日本や中国の企業の先を行くしかない,と考えています.そして,その試みが成功するかどうかは,中国の動向に左右されます.中国の成長によって,現代重工業は高度な造船業に特化し,さらに中国の造船所に投資しています.他方,造船所の経営は,鉄鋼価格の高騰によって脅かされているのです.しかも,中国の造船技術は急速に追いついてきます.

中国の成長は,貧富の格差が急激に拡大することも意味しているようです.この社会変化に翻弄される多くの個人が悲劇的な事件として伝えられます.携帯電話を手にしておしゃべりし,海外旅行を楽しむ中産階級も増えています.しかし,ある者は故郷を遠く離れて出稼ぎし,ある者は工場排水で汚染された川の側で発ガンし,またある者は大学に入れず自殺します.病気や自殺,犯罪の背景には,それぞれの社会が抱える問題があります.しかも政府は,こうした問題に反応するジャーナリストや学生を弾圧します.

中国への投資は,他の国と違って,その商慣習や規制が外国のビジネスマンには容易に理解できません.そこで,地方政府がフランスの経営者と「商社」を作り,さまざまな交渉や賄賂を不要にして,ヨーロッパ企業の誘致に勤めています.日本企業の進出も「商社」を介していたことを思い出しました.また,中国の成長と資源・エネルギーの枯渇は,世界で孤立した供給地にも積極的に投資させます.それは,しばしば,欧米政府から制裁を受けている国でもあります.スーダン,イラン,イラク.あるいは武器を輸出する.

つまり,中国の大国化には,国際秩序の将来に向けた不安があるわけです.中国の成長が,国際秩序と上手く行かないとすれば,何が起きるでしょうか? 今は,アメリカが中東の油田地帯で秩序維持に奮闘するのを見守るだけでよい,と今は考えているかもしれません.しかし,将来はどうでしょう?

中国の貿易黒字は7ヶ月連続で増加し,12月に111億ドルという最高額を記録しました.それは外貨準備を増やして,ドル・ペッグを維持するために金融緩和が続き,インフレやバブルを爆発させるはずではなかったか? それでも昨年はインフレ抑制に成功したようです.ブッシュ大統領は中国の黒字(やアメリカへの失業の輸出,中国への工場移転)を非難するより,貿易障壁や資本規制を撤廃させることに関心を示します.特に,中国がコンピューターや電子製品でも輸出を増やし始めたことを警戒します.

すなわち,人民元の水準が間違っているわけです.それでもインフレが起きないのは,出稼ぎなどを利用できるため,中国の賃金が上昇しないからです.政治的な紛糾が生じる前に,為替市場で投機が始まっています.


BG January 7, 2005

Window of hope in Mideast

By H.D.S. Greenway

BG January 7, 2005

Rumors of peace

IHT Tuesday, January 7, 2005

Voting is good. Freedom is better

Michael F. Brown

NYT January 7, 2005

Softly Going Where Yasir Arafat Feared to Tread

By HELENE COOPER

WP Friday, January 7, 2005

Arafat's Heir

By Charles Krauthammer

CSM from the January 07, 2005 edition

Rewarding the Palestinians

NYT January 9, 2005

Remapping the Middle East, Maybe

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) アラファトが死んだから,和平の機会が生じた.そんな話を信じてよいのでしょうか? 確かに政治対立は人間やシンボルに固執するものです.アラファトの死は,新しい局面を開きました.しかし,アラファトとの交渉を拒んだシャロンやブッシュ政権はそのままです.

ニクソンやレーガンがそうであったように,シャロンやブッシュが方針転換することの方が大きな機会でしょう.アラファトの死は,彼らに方針転換の口実を与えるのです.自爆テロを防ぐ壁を張り巡らせ,入植者を切り捨てる.パレスチナとの領土交換と治安対策を交渉し,互いに強硬派を懐柔する機会をうかがっているのではないでしょうか? 和平の実現というのは,誰にも拒みにくい口実です.本当の交渉テーマは,領土や軍備,補償,経済復興です.

和平を維持し,交渉条件を左右するのは,アメリカ政府の方針であり,積極的な関与です.アメリカが関心を失えば,強硬派が暴れて和平も終わります.もしネオコンが外交政策を支配し続けるなら? もしイラクから敗走し,中東への関与がアメリカ外交のタブーになれば? あるいは,アメリカ以外の大国が和平実現に深く関与するでしょうか? たとえば,EU,エジプト,ロシア,日本,・・・中国?

穏健派の指導部に対して,ヒズボラ,ハマス,イスラム聖戦機構などの強硬派はどうするのでしょうか?

Brownは,ブッシュ大統領がパレスチナの現実を無視し続けている,と言います.問題は,パレスチナが占領されている,ということです.それはイスラエルによる占領であって,パレスチナ人は解放を求めています.ところがブッシュ氏にとって,問題はパレスチナ人の民主的な指導者を決めることです.だから選挙によって指導者が決まれば,ほとんど解決したようなものです・・・!? 土地は市場で売買し,政府は選挙で決める.治安は軍隊が回復するだろう.他に何か質問があるか?

パレスチナ人に必要なのは自由であり,経済発展です.民主的な選挙を行っても,その二つが得られなければ政治的な安定も続きません.そして,イスラエルへの軍事的,経済的な隷属から独立することが彼らの希望です.ブッシュ氏は,パレスチナの選挙が行われたとき,その独立への支持を表明するべきだろう,とBrownは考えます.

アッバスは,アラファトでさえ言えなかった真実を,ヨルダン川西岸の自爆テロを頻発した最前線の町で,パレスチナ人たちに語りました.インティファーダはイスラエルを苦しめる以上に,自分たちを苦しめてきた,と.そして,「武器のカオス」と彼が呼ぶものを終わりにしたい,と述べました.イスラエルを攻撃することは非生産的であった.インティファーダはイスラエルの思う壺になった,と.それはアラファトの演説と全く違うものです.平和は妥協無しには得られない.

ナブルスの壁には,まだ,自爆テロで死んだ英雄たちのポスターが並んでいます.しかし,イスラエルの追跡するリストで上位を占めるアル・アクサ殉教者団Al Aksa Martyrsのナブルス代表は,アッバスに機会を与えるため銃を置く,というメッセージを伝えました.

いいかげん,中東和平などありえない,ということを学んではどうか? とKrauthammerは言います.アラファトはイスラエルと永遠に戦うしかなかった.和平交渉は戦闘の準備でした.しかしアッバスは違う,と専門家たちは再び楽観しています.まだ学ぼうとしないのか? 中東では行動がすべてです.アッバスはアラファトとして選挙を戦わなければ決して勝利できなかった.専門家たちは,それも選挙だから仕方ない,と言います.しかしアッバスが,イスラエルとの和平を決断したサダトになれるか? それを見るまでは,何も信じない,と.

アメリカ政府がパレスチナ暫定政府に要求した条件を,パレスチナ人たちは苦労して達成してきました.その選挙結果は,アメリカやイスラエルだけでなく,EUやアラブ諸国にも支持されました.今こそ,ブッシュ政権はパレスチナ人たちに援助を与えるべきだ,とCSMは主張します.

パレスチナ難民たちは絶望的な生活を強いられています.国際社会が彼らに迅速で効果的な援助を与えるべきです.アメリカ政府の高官が訪問して交渉を支援し,定期的にスタッフが関係者と会って,問題の解決に向けて決断を促すべきです.イスラエルも占領地に対する態度を変えるべきでしょう.特に,境界線による移動の妨害を止めるべきです.また,イスラエルの撤退したガザ地区で,ハマスなどが支配を強めないよう,ヨーロッパやアラブ諸国は緊急に経済支援を行うべきです.

あるいは,FRIEDMANが言うように,中東地域全体で国家の再分割が行われるのでしょうか? 中東の国境線は,第二次世界大戦中にイギリス軍が支配する必要性から決まったに過ぎません.再び「新しいチャーチル的瞬間 “a new Churchillian moment”」が訪れました.パレスチナ,イスラエル,イラクの三つの「火山」が同時に噴火すれば,中東の地形を変えてしまうでしょう.

それは民主的な実際的妥協と民族を超えた社会契約によって形成されるのか,それとも救世主的な誓約に導かれる専制主義によって形成されるのか?


The Guardian, Saturday January 8, 2005

A leader banking on the US to deliver a breakthrough

Hussein Agha and Robert Malley

(コメント) Agha and Malleyは,アッバス(もしくはAbu Mazen)への支持がもろいものであると指摘します.(Hussein Agha, senior associate member of St Antony's College, Oxford, has been involved in Israeli-Palestinian affairs for more than 30 years. Robert Malley is Middle East programme director at the International Crisis Group and was special adviser to President Clinton for Arab-Israeli Affairs.)

アッバスはアラファトのような信望を得ていません.彼の政治理念は合理的な計算です.武装闘争は損失が利益を超えているから,もはや割に合わないのです.むしろ,イスラエルの政治集団と話し合い,ワシントンでも通用する演説を繰り返し,世界にパレスチナの大儀をわかってもらうことを目指します.そのためにパレスチナ暫定政府が機構改革し,法と秩序を強調し,イスラエルに対する武装闘争を放棄します.パレスチナが自制することは,彼の考えでは,国際社会やイスラエル国民から支持される条件なのです.

しかし,多くのパレスチナ人が思っているように,武装闘争より説得というアッバスの理念は,壊れやすい,無謀なものです.なぜならパレスチナから見れば,紛争を軍事的に拡大しているのはイスラエルだからです.パレスチナ人が武装して対抗しなければ,イスラエルは入植や占領を続け,パレスチナ人を追い出すばかりです.しかしアッバスは,イスラエル社会は複雑であり,彼らの多くが社会を正常に戻し,安全を確保したいと願っているはずだ,と考えます.だから平和のためには妥協するだろう,と.

確かにパレスチナ人は指導者を失い,衝撃を受け,戦いと恐怖に倦んでいます.民衆はいかなる武装派も支持しないでしょう.アッバスは,彼らにとって最後の国民的指導者なのです.ハマスなどの強硬派は,イスラエルが和平のチャンスなど彼に与えないと確信しています.だから,当面は民衆に従って,アッバスの破綻を待っています.人々は安全な暮らし,正常な日常生活を取り戻すため,いたるところに検問所があり,外出禁止令が出され,住居の破壊や撤去が行われる現状を変えて欲しいのです.

結局,シャロンが勝利しました.パレスチナ人が苦しめることは彼の目標ではありません.シャロンの目標は,現在の国境戦を画定し,エルサレムを首都にし,難民の帰還権を永久に無視することです.しかし,占領と紛争,生活困窮によって疲れはてたパレスチナ人が,政治的目標を棚上げして,とにかく生活を再建したいと願うのは,彼にとって有利な条件なのです.

パレスチナの指導者たちはイスラエルとの妥協を期待します.しかし,両者の主張は大きく隔たっているために,当分は,一方的な決定によって事態を好転させるしかないでしょう.特に,シャロンがガザ地区から撤退し,ガザと西岸にも暫定政府を設ける提案をしています.それは表面的には好ましいことですが,Agha and Malleyは警戒します.シャロンはガザ地区の解放を,「防御壁」の強化と,他の占領地域の支配強化に利用しています.また,ガザと西岸にもパレスチナ国家を作ることで,交渉を分断し,長引かせて,包括的な妥協を無視するつもりだろう,と.

アッバスが手玉に取られて,パレスチナ人の絶望が深まれば,強硬派は復活します.


FT January 7 2005

Looking beyond the tsunami

The Guardian, Tuesday January 11, 2005

Punitive - and it works

George Monbiot

NYT January 7, 2005

Waves of Change

By DAVID HALE

FT January 13 2005

After the tsunami, flexible debt relief is needed

By Lex Rieffel

(コメント) インド洋の津波,イラクのアメリカ軍,アフリカの貧困,・・・

津波の被害が救済できるのであれば,同じように,国際社会が支援しなければならないテーマは多くあります.イギリスのブラウン蔵相が「第三世界のためのマーシャル・プラン」を提唱しました.世界の貧困を解消するためには,債務免除,貧困解消に役立つ貿易自由化,援助の増額によって開発を促す必要があります.しかし,その財源をどうするのか? それを誰に分配するのか? それをどのように利用するのか?

IMFの保有する金を再評価することで財源をえる方法は各国の利害対立を招きます.援助が有効に利用されなければ,援助額が減ってしまうでしょう.むしろ,少数の援助国が集まって,援助の条件を示す,ミニIMF方式が良い,とFTは考えます.

Monbiotは,ブラウンの提案に否定的です.イギリスがネオリベラリズムを捨てない限り,成長によって世界の貧富の格差は拡大するでしょう.他方,スウェーデンが示したように,平等を実現する再分配政策はその国の競争力も改善しました.IMFやイギリス政府が認めないとしても,貧しい国には自由化以外の選択肢があるのです.

博覧強記のデイヴィッド・ヘイルは,an economist and financial adviserという肩書きを超越?して,自然災害の影響を考察します.人類史を通じて,地震は経済変化や政治変革の引き金となった,と.例えば,1906年のサン・フランシスコ大地震があったから,1913年に連邦準備銀行が成立した! というわけです.

イギリスの保険会社がサン・フランシスコの保険に対する再保険を契約していたから,何百万ポンドもの保険請求がロンドンから金を流出させ,イングランド銀行はイギリスの銀行がアメリカの債券を購入しないように自国の金利をほとんど二倍に引き上げたほどだった.高金利はアメリカにパニックをもたらし,アメリカ議会は事態を深く憂慮し,通貨供給に政府がより大きな役割をはたすべきか,検討する委員会を設置した.その結果として,連邦準備銀行が作られたのである.

1755年にリスボンを破壊した地震は6万人以上を死亡させ,ポルトガルの王制やカトリック教会は批判されて,政治革命に至った.1972年のニカラグアを襲った地震も,ソモサ一族による支配を終わらせた.1999年のトルコ大地震は,その1ヵ月後に隣国ギリシャにも地震が起こり,互いに救援を与え合って,対立していた両国間の和解につながった.他方,アチェの支援体制がインドネシア軍の横領によって毒される懸念があります.そもそも,アメリカの救済活動には政治的な打算が明白でした.日本であれ,EUであれ,中国であれ,この地域対する影響力を競う意味で援助を増やしました.

もちろん,技術の進歩とグローバリゼーションは災害の救援においても強力な基盤を提供しています.今後は,人々の関心が薄れる中で,政治家たちが何をするか,です.

たとえば,政治家たちが集まって債務免除を約束することは簡単です.しかし問題は,その後,民間でその分担を決めることです.公的債務の不履行を処理するパリ・クラブで債務免除のルールが作られたのは1950年代や60年代でした.現代では民間債務がほとんどであり,しかも証券投資が増えています.それを合意に導くのはきわめて困難です.さらに,1990年代の債務危機に対して,アメリカでは「モラル・ハザード論」が強まり,また債務諸国も金融市場での格付けを気にしています.


BG January 7, 2005

The 'tsunami' victims that we don't count

By Derrick Z. Jackson

・・・抽象的に,感情を撒き散らすことは構わない.しかし状況次第では,同情それ自体が悪臭を放つものだ.自然の猛威によって何万人も死んだ.その恐怖は想像を絶する,とわれわれは言う.われわれはそれを了解し,それを災難と呼ぶ.

イラクで,われわれは何千人も殺している.われわれは自分の手で,多分,何の罪も無い市民たちを何万人も殺した.しかし,われわれがしたことが何であるか,了解しようとはしない.数え切れないイラク人がホームレスになった.われわれはそれを解放と呼ぶ.・・・

・・・ “God Bless America!” 民主党の下院指導者であろうが,その他の政治家であろうが,この2年間,イラク人のために祈った者はいない.ブッシュ大統領は,一度だけ,イラク人の将来を祝福した.サダム・フセインが逮捕された日に.・・・

・・・パウエルは津波について述べた.「驚くべき波の力で,橋が破壊され,工場が破壊され,住宅も,作物も,それが通っただけで,すべてのものが破壊された.」 彼は,「これほどの破壊力を今まで見たことがない」と述べた.

いや,彼は見たはずだ.イラクで.その津波とは,われわれのことだ.


FT January 9 2005

How to head off an aerospace battle

By Jeffrey Garten

(コメント) ボーイングとエアバスとの間で,政府補助の規制をめぐって合意が崩壊した欧米間の通商摩擦は,WTOが扱う最悪の訴訟になるだろう,とガーテンは憂慮します.それはイラクやイランの問題でも,米欧間の協調を乱します.

その結果は見えています.既に両者は政府から巨額の補助金を受け取っており,WTOはルールに照らして両者を違反とするでしょう.しかし,彼らはWTOの罰則に従わず,結果的に,世界のルールを破綻させるに至ります.

しかし,ガーテンはアメリカの通商代表部がWTOに提訴して,時代遅れの米欧合意を破棄し,WTOの下で産業補助金に関する規制のルールを決めるべきだ,と主張します.その要点は,@日本,中国,台湾,ブラジルなど,世界の航空業界に拡大する.A補助金は,直接も間接も,統一した会計基準ですべて報告させる.B補助金の上限を示すだけでなく,期限を決めて,その削減目標を示す.C違反に対する罰金を決めておく.Dルールを監視する役割を,関係諸国以外からWTOが指名する,特定の国際的な指導者に委ねる.

雇用規模,研究開発,安全保障など,その重要性から見て,アメリカもEUも,航空産業を他国の独占企業に任せるとは思えません.すなわち,管理された競争を続けるしかないのです.そうであれば,管理の改善を図るべきだ,と.


WP Sunday, January 9, 2005

The Real Global Challenge

By Jim Hoagland

(コメント) ビル・クリントンは外交政策で失敗し,ジョージ・W・ブッシュは経済政策で失敗しています.だから,どちらも二期目に軌道修正を試みるわけです.

世界政治と世界経済は次第に効果を累積し,一気に,相互が交じり合って爆発するものです.たとえばアメリカでもロシアでも,その大統領は津波の被害を受けた国にも,イスラム過激派と戦う地域にも,軍隊を送って介入・救援し,逆に,ヨーロッパや日本は資金を与え,中国は輸出市場を得ました.

第二次大戦後の再建と違って,軍事的に占領することは重要ではありません.アメリカとロシアは軍事的・財政的なコストに苦しみ,すぐに,世界的な不均衡を融資できなくなるでしょう.そして,ワシントンとモスクワで経済原理が無視され始めたとき,世界経済が管理不能に落ち込むことは明白です.それは,主要諸国は津波に取り組み以上に,重要な世界的政策課題です.


FT January 10 2005

Palestine poll offers hope of new era

By Rashid Khalidi

BG January 11, 2005

A better climate for peace

By James Carroll

ST Jan 11, 2005

Can Abbas forge lasting peace for Palestine?

By Daoud Kuttab

WP Tuesday, January 11, 2005

The Power of Elections

(コメント) パレスチナやイラクが公正な選挙を行うことは,イスラエルやアメリカが占領している状態で,移動や集会もできないような,なにより独立した政治的決定が認められないような状態では,不可能です.

パレスチナとイスラエルは,ともに国境を画定して独立を尊重し,安全保障に協力して,難民たちが平和で繁栄した生活を回復できるような補償と支援を行う必要があります.そのような政治的方針が支持されることに,中東の民主化と地殻変動はかかっています.

アッバスは,メキシコのフォックスや,ウクライナのユシュチェンコに似ています.たとえアッバスが武闘派を説得できても,パレスチナ人を占領支配するイスラエル兵や入植者たちが何かすれば,衝突はいつでも再発します.

アメリカが和平に関与するのを確実にするには,次に,イラクの選挙も成功させることです.


FT January 11 2005

Martin Wolf: How to help Africa escape poverty trap

By Martin Wolf

(コメント) 津波でアジアに残された孤児たちは数千人います.しかし,アフリカでエイズのために孤児となった者は1200万人もいます.7億人を抱える大陸が世界の発展から取り残され,疫病が蔓延し,難民を流出させている事態を,われわれは放置できません.

イギリス政府が指名した検討委員会は,アフリカへの援助額を倍増せよ,と求めました.また,コロンビア大学のJ.サックスなどが書いた報告書は,@「ミレニアム開発目標」の達成,Aアフリカは「貧困の罠」に陥っているから,目標を達成できない.B外部からの資源移転と包括的な開発計画によって,「貧困の罠」から抜け出すべきだ,と主張しました.

貧困,低貯蓄,低投資,貧困という悪循環が,輸送手段の欠如,市場規模,農業の低生産性,高い罹病率,外部からの介入,技術の普及難によって,構造的に生じています.そこで,「ビッグ・プッシュ」が必要である,と20年来,主張されました.農村の生産性を高め,病気を減らし,基礎教育や中等教育を広め,都市部の金融支援を提供してビジネスを助け,技術開発や性差の解消,地域統合も図るのです.

しかし,アフリカの人口の3分の1は天然資源により,他の3分の1は貿易で暮らしています.彼らに「貧困の罠」は当てはまらないでしょう.実際,モザンビーク,ウガンダなど,多くの国が成長しています.また,もしアフリカの統治が悪いのであれば,一層の援助を与えることは問題を解決しません.


FT January 10 2005

IMF's immunity to loss in jeopardy

By Adam Lerrick

FT January 12 2005

Lex: Argentina

NYT January 12, 2005

Argentina Starting Drive to Emerge From Default

By TODD BENSON

(コメント) アルゼンチンの債務不履行をどのように処理するべきか? アルゼンチン政府は,810億ドルの民間債務を無視して,IMFへの150億ドルだけを先に返済する計画を示しています.しかしヨーロッパの12億ドルに及ぶ民間債権者をまとめるLerrickは,歴史的に,民間債権者が公的な債権よりも大きな負担を引き受けたことは無い,と反対します.IMFは融資期限が来れば借り換えさせるだけです.しかも民間融資を大幅に下回る金利で,事実上の補助金として,追加融資されてきました.その結果,IMFの債権は不良化します.

こうしてIMF融資が増えれば増えるほど,また長引けば長引くほど,IMF融資が民間融資や債券を肩代わりすることになるのです.債務国政府,IMF,投資家の間には,このような暗黙の合意が形成されていました.債務を大幅に切り捨てて,その負担はIMFが大部分引き受け,民間債務を削減するためにIMFからの融資を受けて返済する,と.

しかし,IMFの不良化に抵抗し,IMF融資を厳格にすることが今は重視されています.銀行の過剰融資により債務国政府の過剰支出する時代が終わって,国際金融における債務の圧縮が避けられません.G7諸国はIMFの気前よさを再吟味し,不良債権を自分たちの財源移転で減らすか,破産処理申請しなければなりません.

Lexも,債務削減以外にアルゼンチンの処理は進まない,と認めます.50万人以上のイタリア人が,元の債権を3分の1の新債券と交換されるでしょう.IMFも小口投資家も,この条件を呑むしかないのでしょう.3年も全く支払われない債券を保有しているより,支払われる方が良いからです.そして,たとえ不満を訴訟によって晴らすにも,時間と費用がかかり,その方法は特別な投資家だけに可能です.

キルチネル大統領は,債務への支払を拒み,IMFとの交渉でも緊縮財政を拒みました.社会主義的な理念を掲げて当選し,国民に強く支持されていたからこそ,景気回復や優先的な社会目標について財政支出を削るつもりは無かったのです.その結果,債権者やIMFとの関係は悪化し,国際金融市場から締め出されました.

新興市場の債券が市場で人気を取り戻し,アルゼンチンの新債券に対する評価も上昇してきました.すでに債権者も交渉の疲れがたまって,わずかな条件の改善でも合意を模索しています.アルゼンチン経済は年8%で成長しており,追加の好条件を出す財源を持っています.しかし,追加の措置は一切ほのめかさず,新債券への交換に応じない債権者には,将来も,支払うことなど考えられない,という広告を出しました.

個人投資家はアルゼンチンの債務切り捨てを受け入れられないかもしれません.しかし,資産の60%以上を持つ銀行など機関投資家はそれを吸収する体力があります.


WP Tuesday, January 11, 2005

Deficit Dance

By Isaac Shapiro

FT January 12 2005

Sharp rise in November’s US deficit hits dollar

By Christopher Swann in Washington

Jan. 12 (Bloomberg)

It's a Dollar-Eat-Dollar World Here in Asia

William Pesek Jr.

(コメント) Shapiroは批判します.ブッシュ氏はテキサス・ステップでダンスを踊る.一歩目は大幅減税だ.美味しい話ばかりで済ます.そして二歩目を引き伸ばし,知らん顔で財政赤字を非難する.無駄遣いしているのは誰か? 犯人探しを煽って,医療費や教育費,環境保護が財政赤字の責任をかぶる羽目になった.こうして億万長者たちだけが減税を楽しむ,と.

貿易赤字も急増しています.9月以降でも100億ドル増えて,11月には603億ドルの赤字です.主要な原因は,石油価格の高騰と,アメリカの資本財に対する需要減退です.アメリカの成長率予想は下方修正され,ドル安も進みます.市場の関心は構造的な不均衡に向かいました.ドル安によって貿易赤字が減るかもしれない,という期待は裏切られました.

ドル安が終わるとき,世界の資産市場がピークに達し,過大評価された水準が是正される.アジアでもデフレ的な価格調整が起き,新興市場の成長を損ない,世界経済を脅かします.1998年の1ドル=78円にまで進んだ円高を思い出せばよい,と.アジアに資本が殺到し,その後のドルの回復に連れて,津波のように資本は去った.

もちろん,アジアの金融システムは改善されており,ドル高が生じても危機にはならないでしょう.ただし,アジアでも資金がヘッジ・ファンドに流れており,それが破壊されます.アメリカはドル安になっても基軸通貨であるから資産市場への影響が限定されます.しかし,新興市場では過大評価による資本の流入から資本流出へ,ドルの変動がさらに増幅されて資本市場を襲います.


FT January 12 2005

Why are English-speaking nations doing best?

By Martin Wolf

(コメント) マンカー・オルソンの仮説を利用した,英語圏(アメリカ,イギリス,カナダ,オーストラリア)と非英語圏(ドイツ,日本,フランス,イタリア)の成長比較です.

非英語圏における戦後の急成長は,1990年代以降,英語圏の高成長と地位を逆転します.なぜか? 常識的な答えですが,生産性のキャッチ・アップが終わったので成長率が低下したわけです.しかし,なぜ逆転したのか? 急激に減速した理由として,Wolfは以下のように指摘します.

@     成功そのものが衰退の条件を強めた.すなわち,オルソンが指摘した「分配同盟」が強固に形成されて,増税や規制も増やし,その後の発展を制約したわけです.

A     三つの要素を指摘します.1.高貯蓄は高投資を支えましたが,労働市場が硬直化し,その後の投資機会を枯渇させた.2.後発資本主義国として製造業や重工業に偏った成長を遂げた結果,1980年代にはキャッチ・アップ型工業化が終わった.3.高所得を維持する現代の基幹産業は情報分野であるが,そのための十分な弾力性を欠いた.

B     二つの要素があります.1.バブルを経験した日本や,ドイツ再統一を抱えたユーロ圏は,十分な拡大的マクロ政策を採らなかった.2.特にユーロ圏で,需要が少ないにもかかわらず,労働市場の改革が遅れて,インフレ率がなかなか下がらなかった.

こうした要因は変えられるはずです.マクロ政策の間違いは是正されてきましたし,塹壕化された利益集団も成長を回復する改革に取り組むでしょう.それが成功すれば,再び英語圏の成長を凌駕するわけです.

この論説を読みながら,私は中国経済について考えていました.


Jan. 13 (Bloomberg)

China's `Long Landing' Looks Deceptively Soft

Andy Mukherjee

(コメント) IIEのMorris Goldstein and Nicholas Lardyによれば,中国経済は「ハード・ランディング」でも「ソフト・ランディング」でもなく,「ロング・ランディング」を目指すわけです.すなわち,長期に及ぶ「ハード・ランディング」を繰り返すために,それは「ソフト・ランディング」に見えるわけです.成長率は,為替レートや金利を調整して,数年に渡って5%程度までに下がるでしょう.

一部の分野に過剰投資があるとか,不動産バブルだけを強調するのは間違いです.広い範囲で投資や消費が過熱しているからです.しかし,金利を引き上げるだけでは投機的な資本流入を招くでしょう.そこで為替レートの弾力化や調整も必要になります.

景気過熱は所得分配の格差を拡大して,政治的な反発を強めます.今のドル・ペッグが強いるように,グリーンスパンの金融政策に頼って,中国が危機を回避し続けるとは思えません.それゆえむしろ成長を減速して,管理された「ハード・ランディング」を目指すのです.


NYT January 13, 2005

Ballots and Boycotts

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 25年も中東に関して記事を書いてきたFRIEDMANは,選挙が行われるかどうかについて,注意すべき点を列挙します.

@レバノン,ガザ,イラクの和平は記事にするな.次の新聞までに消えてしまっている.A彼らは決して妥協しない.Bいつでもイスラエルが勝つ.パレスチナ人はそれを喜ばないと言うだけ.C人々は陰謀説しか信じない.それ以外の説明は無駄だ.Dいつでも過激派が勝つ.穏健派は消え去るのみ.E穏健派の決まり文句は,「われわれは悪者どもに立ち向かう寸前だった.ところがアメリカは余りに愚かなことをして,それどころではなくなった.今ではもう遅い.みんな愚かなアメリカのせいだ.」 F中東には政治的な中庸など存在しない.G私的な話は無意味だ.彼らがアラビア語やヘブライ語,その他,地元の言葉で公的に発言したことだけが重要だ.英語で話したことには意味がない.

この原則に拠れば,彼らが選挙を遅らせる話をしても,無視することだ,と考えます.スンニー派の反乱軍は選挙を延期しても,実施しても,反対を止めません.彼らは選挙で少数派になることを受け入れないのです.彼らはサダム・フセインの去った後も,少数派の支配を維持したいだけです.そして,延期は彼らに穏健派のスンニー派を抹殺する時間を与えるだけだ,と.

そうではなく,スンニー派であれ,その他の少数派であれ,穏健派は選挙に参加して,その得票に応じて,新しい民主的政府に代表を送るべきなのです.そして,同様に,シーア派やクルドも,穏健な多数派でなければなりません.

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The Economist, January 1st 2005

Meritocracy in America: Ever higher society, ever harder to ascend

Iraq: When deadly force bumps into hearts and minds

(コメント) アメリカ社会が示す内外の矛盾を強く感じさせる論説です.

アメリカは所得格差の大きな社会です.しかし,この論説を読んで,その格差がますます拡大しているだけでなく,特定の人々に固定されていることを知りました.つまり,アメリカはますます不平等で特権的な,貴族社会に変化しつつあるようです.

その不平等に驚嘆します.ある研究機関(The Economic Policy Institute)の調査では,1979年と2000年とを比べて,底辺の20%を占める家計が実質所得を6.4%増やしただけであったのに,最上位の20%は70%も増やしました.頂点の1%が得た家族収入は184%も増えたのです.1979年に頂点の1%が得た平均所得は,底辺の20%が得た平均所得の133倍でした.そして2000年には189倍に増大しています.

企業重役の報酬も跳ね上がりました.トップ100人の実質年間報酬は,30年前,平均で130万ドル,平均的労働者の39倍でした.今ではそれが3750万ドル,1000倍以上に増大しています.2001年に,上位たった1%の家計が,全所得の20%を受け取り,純資産の33.4%を所有したのです.それは大恐慌前の時代以来,かつて無かったほどの不平等です.

さらに,社会的な地位について,それが裕福な階層の間で固定されてしまっている,と言います.ジョージ・ブッシュは大統領の息子であるばかりか,上院議員の孫であり,アメリカ・ビジネス貴族の出身です.ジョン・ケリーも,裕福な妻のおかげで,上院の富豪たちの中でも最高の金持ちであり,ボストンの旧家の出身です.彼もまた高貴な私立学校に通い,ブッシュ一族と同じイェール大学に入って,中でも超エリートだけのSkull and Bones Societyに所属していました.アル・ゴアも上院議員の息子であり,私立学校,ハーヴァード大学を出ています.

政治システムも教育システムも,こうした不平等と地位の独占を容認し,むしろ助長しています.もしイギリスで候補者たちがこれほど有名校出身の上流階級で占められたら,タブロイド紙が徹底的な非難キャンペーンを張って追放したでしょう.しかし,ハリウッドやウォール街は全く知らぬ顔です.アメリカはますます,かつての大英帝国に似てきた,と言います.世界から優秀な人材を引き寄せてしまうアメリカの大学群もそうです.

「金ぴか時代のアメリカ」が再現する中で,なぜ社会改革運動も復活しないのでしょうか? その理由として,The Economistは5つ挙げました.@支配エリートたちは,自分たちの間で,猛烈な競争に生きている.A教育システム,特に大学が,所得格差に拠らない実力主義,という理想を軽視し始めた.奨学金制度の改変.B財政支出も再分配を軽視し,富裕層に対して潤沢に与えられる.Cアファーマティブ・アクションの誤用.人種に偏った特権的な入学・雇用割当.D社会的平等化と実力主義を重視した旧巨大企業の衰退.企業は地域社会と分離され,経営者革命はプロフェッショナルな重役の報酬を爆発的に増やし,その在職期間を短縮した.

アメリカは「暴動の時代」に回帰しつつあるのです.

他方,イラクでアメリカ軍が嫌われる理由は多くあります.ラマディにある唯一の交通規則は,アメリカ人が近づけば,イラク人の自動車は警笛を鳴らしてひたすら四散することです.アメリカ人の自動車の後にはステッカーが張ってあります.「50メートル以上離れよ.さもないと,致命的な攻撃を加える.」 アメリカ軍の自動車に30メートル以内に近づけば容赦なく発砲され,多くの市民が殺傷されています.また,反乱軍は携帯電話を起爆装置に使います.その結果,爆発が起きると,そのとき携帯電話を手にしている誰であろうと,アメリカ兵から銃撃を受けます.

アメリカ兵13万8000人の駐留は素晴らしい後方支援を受けています.暖房付きのキャビン,美味しい食事,高級なスポーツ・ジム,インターネット接続,が用意されているのです.他方,占領されている住民の心情には無関心です.誰もアラビア語を理解しません.ラマディのアメリカ軍全体に通訳は4人だけです.テロリストや武器を隠していないか,夜間でも,突然,ドアを蹴破って,アメリカ兵が民間人の住宅に押し入ります.疑わしい住民は,パジャマのまま,凍りつくほど寒い屋外に連れ出し,フードを被せて座らせます.「イラク人の多くは,反乱軍よりもアメリカの軍隊の方を,より強く恐れている.」


China and Latin America: Magic, or realism?

The peso crisis, ten years on: Tequila slammer

Endangered languages: Babel runs backwards

Obituary: Lord Scarman

(コメント) 中国が,ラテン・アメリカにとって,成長の救世主になるか? ヴェネズエラのチェベス大統領は北京で社会主義の連帯精神を示し,ラテン・アメリカ諸国を歴訪した胡総書記は地域のインフラ整備に投資する約束をしました.国際金融界から締め出されているアルゼンチンが中国の市場と投資を歓迎するのは当然です.しかしそれが,ラテン・アメリカに起きた従来のブームとどう違うのか,分かりません.

メキシコが1995年に通貨危機を経験してから10年が経ちました.経常収支の赤字はGDPの7%を超え,外貨準備が枯渇し,ドルとの固定レート政策が破綻したのです.通貨の価値は半減し,多くの銀行が倒産しました.その後,クリントン政権におけるルービン財務長官が400億ドルの融資を提示し,NAFTAのおかげで輸出や投資が回復しました.ところが,その成果は曇っています.成長率はブラジルやチリより低く,失業や貧困の解消に不十分です.

世界の言語が消滅し続けている,という記事も興味深いです.現在でも6800種類の言語が存在し,その内の400語以上が死滅しかかっています.バベルの搭の寓話にもかかわらず,言語の統一が政治的な調和をもたらす保証はありません.グローバリゼーションにより,主要な言語は絞り込まれており,上位11言語で世界人口の半分が占められます.言語学はエコロジーほど絶滅の危険を訴える点で成功しておらず,保護活動は遅れています.しかし,「言葉を失えば,その世界を失う」というナヴァホ族の警告は深遠です.

1981年のロンドン南部,Brixtonにおける人種暴動について,調査報告をまとめたスカーマン卿の追悼文です.


Tony Blair: A year of huge challenges

(コメント) G8の議長国となるイギリスの首相として,トニー・ブレアが寄稿しています.ブレアはG8諸国が動かせる政治・経済的なパワーを,二つの焦点に向けて活用することを訴えます.一つはアフリカの貧困,もう一つは地球温暖化です.

ブレアは,共通の利益,共通の目標,共通の脅威を強調します.G8は,主要国の政治的目標や危機意識を共有する場所です.アフリカの美しさや人々の勤勉さを説くブレアの主張は素晴らしいです.そして,アフリカの人口の半分以上が15歳以下である,という指摘も重要です.エイズで家族を失った孤児たちが多くいます.彼らに食事や教育を与える必要があります.繁栄するアフリカ大陸は,疫病やテロ,内戦や避難民の大陸より,はるかに世界にとって好ましいのです.

また,地球環境は明らかに人類の関与によって悪化しました.ブレアは,これこそG8が取り組むべき共通の脅威である,と考えます.資金があり,技術があれば,温暖化は抑えられるでしょう.京都議定書にアメリカ政府が反対しても,アメリカ企業は積極的に取り組んでいます.ブレアは,技術を開発し,ビジネスや市場と両立する形で,地球温暖化を促すことがG8の課題だ,と主張します.