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IPEのタネ 1/17/2005
アメリカ,イラク,パレスチナ.共通する論点は? たとえば,選挙です.しかも,選挙が常に答えではない,という苦い教訓を含んでいます.ウクライナ,コソボ,ヴェネズエラ,チェチェン,・・・ 激しい対立や暴力によって,特別な地位,富の分割を求める紛争・戦争を,平和的な交渉や権力への参加,富の分割・共有へと変える仕組み(社会的均衡や補償メカニズム)は,本当に実現可能でしょうか?
私の考えでは,戦争よりも,選挙や裁判が有効になるためには,三つの条件が必要です.つまり @社会の富が増加すること,A知識が社会を変えること,そして B「平等な参加」,「平等な社会」という理想,です.
書棚にあったE.O.ライシャワー『日本近代の新しい見方』(講談社新書,1965年)をたまたま手に取って,そこに「近代化」論を再発見しました.真摯で柔軟な思索を,実に簡潔に,分かりやすく表現していることに驚きます.この本が書かれた1960年代前半と違って,今やアメリカはヴェトナムではなくイラクを占領し,ドイツや日本の軍事統制国家ではなく内外のテロ組織と対峙しています.また政府は,イスラム教とユダヤ教・キリスト教の対立や,アメリカ社会内部の文化的・階級的衝突を克服することに,その資源の多くを振り向けています.
2005年最初のThe Economistは,アメリカ社会が不平等を拡大し,社会的地位を世代間で固定する傾向を強めている,と注意します.つまりアメリカは,世界を民主化するより,旧ヨーロッパの貴族制を復活しつつあるのです.そのことを指導的な階層や知識人,ジャーナリストたちは批判せず,むしろ議論を避けています.桁外れの富への誘惑,見知らぬ群集への恐怖心が,指導者たちを社会改革より保守主義に向かわせます.
日本は,アメリカ,中国,ロシアと境界を接して生きています.ビジネスや文化,あるいは軍事戦略や移民などを通じて,現代の社会変化は確実に波及します.中国(やアメリカ,ロシア)に対して嫌悪感や敵愾心を示す学生が多いことに,私は不安と不満を覚えました.サッカーの自国チームを応援したり,中国の(安すぎる)工業製品にクレームをつけたりすることと,中国の行う反日教育や周辺諸国との国境紛争,経済政策の世界的影響について議論することとは,区別しなければなりません.
今の日本や中国,アメリカやロシアを見て,ライシャワーなら何を考えたでしょうか? その時代の技術変化や国際状況にふさわしい社会・経済・政治制度を作り出せる人々が,どこにいて,どのような役割を果たせるか.それが社会の活力を左右します.またライシャワーは,東洋で学問が神秘化され,西洋では,特にアメリカで学問が蔑視される,と述べています.
要するに,誰が社会を変えるのか? 選挙の最適基準とは何か? 最適な頻度(任期),対象(地位と権限),範囲(選挙区),代表者数(代表率と合議制の限界),投票方法,そのレベルや組み合わせ,代表や有権者の資格,選挙資金,選挙活動,メディア,宗教や価値観,その他の団体・組織,・・・ 世界にかつて存在したすべての選挙や投票形式について比較してほしいです.覇権戦争と同じように,実効的な権力を生み出す大きな選挙と,合意形成をめぐる代表を交代させる,分散した多くの選挙を組み合わせて,社会制度が調整されます.
「イラクのブッシュ氏」が示す政治=経済命題とは,富が(あるいは土地や投資・雇用が)増加しなければ,選挙や裁判は答えにならない,ということです.また,もし富が急速に増加し,その過程に誰もが平等に参加できるなら,大きな選挙や裁判はそれほど必要ないでしょう.イラク戦争はまだ終わりません.治安と投資を回復できる「最初の社会」を,人々は探し求めます.
経済成長,所得分配,選挙,知識,地位,その他,社会を理解する鍵は一つではありません.日本の社会が活力を取り戻すためには,何が必要でしょうか?
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