IPEの果樹園2005

今週のReview

1/10-1/15

IPEのタネ

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   中東和平の新しい展望 :どれほど憎しみ殺し合ったとしても,和平は実現できるはずです.

2.   津波被害からの復興 :津波被害の広がりや情報,それに対する援助支援体制が,新しい世界に向かいます.

3.   世界経済の嵐に備えて :過去から引き継いだ成長力とリスクの卵を,今年も市場と国際協調体制で温めます.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


BG December 30, 2004

Time is ripe for a US-led coalition for Mideast peace

By David Matz

(コメント) 中東和平の機は熟している,とMatzはその条件を列挙します.

1.   双方の政治体制が揺らいでいる.アラファトは死に,シャロンの撤退戦略,厭戦気分が満ちている.

2.   和平の条件について広範な合意が形成されつつある.すなわち,2003年のジュネーブ合意はほぼすべての論点を尽くしている.

3.   双方の多数派がそれを支持しているが,重要な欠陥もある.イスラエルはエルサレムの分割を認めず,またパレスチナはイスラエル内の土地に対する帰還権を放棄しない.

双方に,よく組織されて,外部から資金援助を受けた,深く憎しみ合う(宗教的に敵対した)和平反対派が存在するからです.彼らによれば,互いに,相手を滅ぼして,この地域一体を統一して支配するまで戦うことだけが答えです.そこで,国際社会の連帯と支援,そして圧力が必要です.アメリカだけではできないし,一方の勢力を支持するだけでは和平は実現しません.

アメリカは,国連,ヨーロッパ,ロシア,日本,中国,サウジ・アラビア,ヨルダン,エジプトと一緒に,関係者を和平の受入に向けて動かし,テロリストや入植者からの反対を阻止しなければならない政府を,支援する必要があります.すなわち,彼らはイスラエルの長期的な安全保障を協力して支持し,パレスチナ国家の政治的・経済的な繁栄を保証し,当事者の最終合意についてジュネーブ合意の実現を求めるのです.

さらに国際支援グループは,貿易や経済発展の機会を増やし,外交的に承認し,安全保障上の支援を与えることができるでしょう.テロリストを支援しているイランやシリアとも交渉し,支援国グループとの交渉に合意することで得られる利益もしくは阻むことの不利益を教えることができます.最終的な地位について合意に含めれば,その実現過程には過激派との合意や暴力的な介入が主要な役割を果たすことを防げます.


NYT December 30, 2004

All Justice, Too, Is Local

By ERIC A. POSNER

(コメント) コソボに対するNATO軍の攻撃は,明らかに,国際的な「違法行為」でした.しかし,裁判所に訴えることはできません.国際的な「法の支配」は存在しないからです.ハーグの国際裁判所は,その国が裁判権を移譲する限りでのみ,判断を示せます.しかし主要国が国際裁判所に権利を移譲することは無く,訴えることもありません.その創設者たちが,将来は,多くの国が国際裁判所に司法を委ねるだろう,と考えたのは幻想でした.

パレスチナ人がイスラエルの占領を裁判所に訴えることもできません.この60年間で国際裁判所が扱ったケースは100に及びません.対照的に,WTOの紛争処理システムは十年足らずで数百のケースが扱い,またヨーロッパ裁判所も半世紀で数千のケースを扱いました.各国はさまざまな理由で裁判を回避しますし,条約によって国際裁判所を認めるケースも減りました.その理由は,各国が判決を信用しなかったからです.実際,判事たちは法律よりも国籍によって支配されていた,ということです.


The Guardian, Friday December 31, 2004

Not a good way to start a democracy

Jonathan Steele

ST Jan 1, 2005

Signs are good for democracy in Ukraine

By Alfred Stepan

IHT Monday, January 3, 2005

Ukraine: The revolution is over. Now what?

Ian Bremmer

(コメント) 民主主義には,人々が異なった考えを持つ自由がなければなりません.外国が,特にアメリカが,他国の民主主義や選挙のあり方,特定の候補について支持を表明し,その過程に関与することを控えて,もっと慎重に行動しなければならない,とSteeleは主張します.そして,アメリカなどの個別政府が関与するのではなく,スウェーデンのInternational Institute for Democracy and Electoral Assistanceのような信頼できる機関が,公正さの点で優れている,と考えます.

さらに懸念されるのは,選挙過程がむしろ国民の分裂を拡大したことです.ユシュチェンコ氏の勝利は,決して,大勝ではなく,対立候補の強さが何を意味するのか,反省を迫りました.選挙が論功行賞や報復人事,国有資産の分捕り合戦になれば,国民の間に政治への不信感だけが残り,民主主義など育ちません.アメリカが支持や選挙結果の承認を表明する姿勢はあまりに性急で,拙劣であったかもしれません.

Stepanは,多くの場合,民主主義が「国民国家」型の統治を意味しないことを指摘します.スペイン,インド,ベルギー,スイス,これら4カ国は,それぞれの民主主義を発達させました.彼らは信仰や言葉,文化が異なっても,政治制度を共有し,一人一人に対等な権利を保証したのです.そして,ウクライナが選挙後に完全な和解を達成するのは無理でも,国民国家を維持する可能性は高い,と考えます.国民の多くは,分割されたウクライナよりも,国民国家の団結を理想としています.その理由をStepanは共通の歴史に求めています.

また13年前の独立宣言も,ウクライナの単一民族国家によって国境を正当化したわけではありません.ウクライナ人も,ロシア系市民も,民族対立を回避することの重要性を強く意識しています.また選挙過程で,ロシア系市民にもウクライナ語を第一言語として教育することが認められました.各地域の自立性は,分離独立ではなく,地域主義として理解できます.これまでのような過度の中央集権体制は修正されるでしょう.

キエフを中心としたモスクワへの支持は強く,エネルギー供給のロシア依存も顕著です.かつて,1991年にウクライナを訪問して演説した現大統領の父,ブッシュ元大統領は,ウクライナの自由を歓迎しつつ,「自殺的なナショナリズム」は支持しない,と明言しました.その演説を書いたのは,現在のライス国務長官です.今後の安定した秩序と経済発展のためには,ユシュチェンコの慎重な判断が必要です.


WP Thursday, December 30, 2004

Questions for 2005

By Jim Hoagland

NYT December 31, 2004

Real-World New Year's Resolutions

The Guardian, Saturday January 1, 2005

A year for change

LAT January 1, 2005

Wishful Thinking

NYT January 1, 2005

Rising to the New Year

(コメント) 新年には,各自がさまざまなことを願います.新しい世界が姿を現すとしたら,何をともなっているのでしょうか?

フォークナーは,「過去はまだ過ぎ去っておらず,われわれが生きているうちは,まだ終わってさえもない.」と主張しました.Hoaglandにとって,新年の願いは,最近起きた二つの事件によって決まります.すなわち,ウクライナの大統領選挙と,スマトラ島沖の大地震によるインド洋の大津波です.21世紀を決める過去からの問題とは,1.ブッシュ政権Uの閣僚人事と外交政策の転換.2.米欧関係の修復.3.脱共産主義圏でプーチンが果たす役割.4.トルコとウクライナがEU加盟を目指し,アメリカは影響力を失うのか.5.欧米でも日本でも,年金や老人医療費で予想される将来の財政破綻.6.パレスチナとイスラエルが和平の機会をつかめるか?

NYTが掲げた新年の抱負は,アメリカと世界を改良するために,1.世界の貧困を減らし,2.セックス産業の奴隷売買・国際貿易を阻止し,3.医療サービスの質を高め,4.農業補助金を減らし,5.政治献金の規制を強化する,というものです.

The Guardianは,もし津波の被害が,世界で最も貧しい大陸から関心を奪ってしまうとしたら,皮肉なことだ,とアフリカの貧困解消に本気で取り組むことを富裕な諸国に求めます.アフリカにはこれまで多くの助言が与えられてきました.そのいくつかは効果が無く,間違っていたわけです.1960年代には資本不足だからインフラ投資を,1970年代にはハード・カレンシーが不足しているから輸出促進を,1980年代には「構造調整」と税率や関税の引き下げ,そして1990年代には民営化が勧められた.そして2000年までに,サブ・サハラ・アフリカは10年前よりも7500万人も貧困が増えた,と言います.

そして,自由貿易や援助を約束し,エイズの惨禍を描きつつも,国連に対して十分な資金を提供しなかった裕福な諸国の偽善を強く批判します.G8がその行動をどのように変えるのか,マスコミとして監視する,と.

LATの新年の抱負は,実現しない多くの希望を述べるより,実現できる希望,リアリズムを示すことです.@ブッシュ大統領がラムズフェルド国防長官を解任し,イラクにより多くの兵士と装備を送って,脱出策を示すこと.Aコンドリーザ・ライス国務長官が早期に辞任すること.B開くことのできるCDパッケージを発明すること.Cシャロン首相がガザ地区から撤退し,新しいパレスチナ政府と関係を改善すること.Dハリウッドとシリコンバレーが著作権で和解して,新しい技術を開発すること.Eシュワルツネッガー知事が選挙区の改変に反対し,カリフォルニアの過度の選挙戦を止めさせること.・・・世界の貧困問題.石油供給.マイクロソフト社.州知事選挙.CEO.最高裁.NFL.レッド・ソックス.クリントン夫妻.移民法改正.テストをめぐる教育改革.スーパーマーケットの進出規制.マイケル・ジャクソンの公判.

LATは西海岸のアメリカ人が年頭に何を想うか教えてくれます.他方,NYTは,抱負の意味を考えます.それは,白昼夢ではなく,世界を変えることです.犬やネコでなく,人間である限り,人は抱負をもって行きます.そして,それを実現する道を探します.そのために世界を理解し,これを変えようとします.今年も,その変化に関わって生きるのです.


ST Dec 31, 2004

The world should hang together

By Janadas Devan

(コメント) 地震や津波の被害は,国境の無い時代を象徴しています.地球温暖化も,アメリカや中国が排出規制に協力しなければ防げません.エイズやサーズのようなウィルスも,インターネットを介して感染するウィルスも,問題への地球的な対応を求めています.

アメリカでは政府の援助額の少なさを反対派が批判しています.他国では,政府の行動の遅さが批判されています.しかし,他の問題に比べて,なぜ津波の被災者には支援の声が上がったのか? 一つは,自分のみに迫らなければ,問題を大きく割引いて考える,という心理的な理由,もう一つは,人々の想像力の欠如です.100年後の海水面がどこにあっても,今すぐ誰も気にしないのです.

少なくとも,地球規模の災害に対して,地球規模の支援が提唱されました.この教訓が,自然ではなく人間が引き起こしている,他の諸問題にも拡大されるように,とDevanは期待します.


FT December 31 2004

Prosperity, aid and the tsunami

アジアで巨大な水難事故が起きたのに,世界経済は影響を受けなかった.金融市場の無関心は,津波の被害が非常に貧しい末端のコミュニティーで起きたことを示した.

津波の犠牲者たちは発展途上諸国に広がっている.2005年から2015年までの10年間で,国連がミレニアム開発目標として掲げた,教育も富も栄養も不足した貧しい人々がそこには多くいる.その課題にどこまで立ち向かうのか,答は定かでない.豊かな国も貧しい国も,最も貧しい人々が成長やグローバリゼーションの進行によって利益を受けるような何もしていないからだ.

津波の犠牲者は世界の末端であるだけでなく,それぞれの国の末端でもある.ある推計では,今回の津波によるインドの被害は,インドのような貧しい国でも,そのGDPのわずか0.07%に過ぎない.もし豊かな国であれば,肩をちょっとすくめるだけで,行ってしまうだろう.

山岳や森の住民と同じく,海岸のコミュニティーは世界の最も貧しい,最も脆い人々が住む.中産階級に属する,世界的な観光地となったタイの海岸でも,小さな,孤立した,イスラム教徒のコミュニティーがある.彼らは,その移動する習性から「海のジプシー」と呼ばれる.絵のように美しい海岸線がこうした貧困を隠している.彼らは,しばしば生存ギリギリの水準で,小船を使って漁業で生計を立てている.

それは世界的な開発問題を示している.彼らを津波の犠牲にしたコミュニケーションやインフラの欠如は,彼らをその国の経済や国際経済に繋ぐものでもあった.もっと良い道路や冷蔵施設があれば,漁民たちは大きな市場に参加できたはずだ.

もちろん,地元のコミュニティーが排除されず,利益を受けるためには,開発過程を扱える知識も要る.例えば,アジア中に大規模なエビの養殖が広まっているが,それは地元のマングローブの生態を破壊するだけでなく,しばしば漁民たちの漁区を破壊した.しかし,開発のためにインフラや技術を利用することは可能である.ITで豊かになったインド南部のケララ州では,漁民たちが成功している.彼らは出荷する前に,携帯電話で,各地の価格を調べるのだ.

世界的には,開発は決して常に悲観されるわけではない.中国やインドの急成長で,貧困の発生は減っている.最大の課題であるアフリカでも,その統治方法を長期的に改善してきた国がある.しかし知的で,弾力的な,目標を詳しく検討した援助を受けられる開発政策は,まだ余りにも少ない.

貧しい,不安定な諸国に対して,自然災害や洗脳の直後に行われる援助の伝統的なパターンとは,代替できないような,効果の限られた援助や資金の提供が,事件後の数日間,急激に示される.それはしばしば,情報がまだなく,分配や支出のためのネットワークもないときである.再建が始まるまでに,関心は薄れてしまい,実際の援助額は約束した額よりも少ない.最後には,災害の最悪の部分が修復され,また単に見えなくなると,その国は再び誰にも省みられなくなり,慢性的な貧困問題と,災害のコストを増幅した無能な政府がそのまま放置される.

こうした非効率さは長期的な開発援助にも典型的に示されている.協調されない,官僚主義的で,気まぐれな援助ビジネスが有名である.新しい資金源を見出すのと同じくらい,年間600億ドルの政府援助が機能するように改善することが重要である.もちろん,援助だけでは貧しい諸国が豊かにはなれない.貧しい諸国が豊かな市場に信頼できるアクセスを得て,彼ら自身が良好なビジネス環境を育成することがもっと重要である.

このような災害の後に,そうした問題に関わることは,無神経で,意味の無いことのように見える.しかし,成長や繁栄こそが,動揺する大地の災厄から傷つきやすいコミュニティーを守る最善の道なのである.


ST Jan 1, 2005

Rich govts can do more

By Jeffrey D. Sachs

(コメント) 今年の願いは明らかだ.指導者たちがより平和な世界,貧困の解消,清浄な環境を実現することだ,とSachsは言います.知識や科学,旅行,情報通信などにより,世界的な問題に対する新しい対応が可能になって来るでしょう.マイクロソフト社のゲイツ会長が寄付したり,品種改良でアフリカの収穫量が増えたりするけれど,エイズやマラリア,貧困,飢餓,スラムを解消するために必要な,富裕諸国のわずかな予算も実現していません.

解決策はあるのに,国際協調によって実現する方法が無いのです.もし国際的な支援が行われれば,経済は安定し,繁栄がもたらされると分かっているのに.アメリカが戦争のために年間4500億ドルを支出しながら,最貧諸国が病気と戦い,子供たちに教育し,環境を保護することに対して150億ドルしか支出しないのは間違いです.常任理事国を目指すドイツや日本も,国連を通じた援助の約束を果たしていません.


BG January 1, 2005

How to help

LAT January 2, 2005

A Marshall Plan for South Asia

NYT January 4, 2005

Raining Money

WP Tuesday, January 4, 2005

Haphazard Charity

WP Tuesday, January 4, 2005

More Water Bottles, Fewer Bullets

By David Ignatius

(コメント) 多くの援助が約束されるでしょう.しかし,スリランカだけでも200万人が家を失ったと言うのに,支援活動を組織して,社会の再建に役立てる組織が不足しています.

例えば,マーシャル・プランのような? もしヨーロッパを津波が襲い,アイルランドからスウェーデンまで,10万人の死者が沿岸で発生したなら,72時間以内にブッシュ大統領は国際支援体制を組織したでしょう.しかし,それがアジアであれば,3500万ドルです.われわれはアジア人の命を安く評価しているわけです.1991年にバングラデシュで14万人がサイクロンの犠牲になった,と伝えられたときに,何かしたでしょうか?

もしも保守派が数十億ドルの南アジアに対するマーシャル・プランを承認すれば,ブッシュ氏は最大のイスラム国家であるインドネシアを彼の「テロとの戦争」に引き入れたでしょう.貧しいイスラム教徒たちがテロリストに取り込まれるのを防いだはずです.そして世界中で彼らの反米感情を和らげたはずです.

最大の問題は,必要な支援を,必要な人々に,いかにして届けるか,ということです.それは交通手段や組織だけでなく,腐敗した軍や官僚が物資を横領し,自分の身内や支持者にだけ与えて,本当に貧しい者には与えないことです.国連が重要な役割を担うはずです.この機会に,イラクとの石油・食糧交換プログラムにおける不正事件で失った信用を取り戻すべきです.

次の災害を防ぐためには,より長期的な援助が必要です.緊急援助はバンド・エイドであり,開発援助はワクチンです.災害に対する安全基準や警報システムのような予防策がアメリカやヨーロッパにはあります.それゆえ同じハリケーンが上陸しても,ハイチでは200名の死者を出し,フロリダでは100名でした.

Ignatiusは,アメリカ政府の課題を,津波の被害にあった地域でイスラム教徒の被災者に飲み水を渡すアメリカ兵の姿に見ています.アメリカは「出口戦略」ではなく,「入り口戦略」を必要としている,と.ゲリラたちと交戦するよりも,住民たちの生活を支援する方が,アメリカの関与は支持されるのです.安全保障のためには,アメリカ軍の規律や装備とともに,そのイメージを改善することが重要です.

IHT Thursday, January 6, 2005

Make this the moment the world woke up

Barbara Stocking(the director of Oxfam)

The Guardian, Thursday January 6, 2005

What will be left?

Timothy Garton Ash

ST Jan 7, 2005

Disaster relief efforts: Seeing is giving

By Janadas Devan

(コメント) 「津波は避けられない.しかし,貧困は避けられる.」とOxfamのStocking所長は主張します.津波の被災者たちが苦しまないように支援したい,と国際社会が決意したのであれば,世界中で貧困のために,毎日,3万人の子供たちが亡くなっていることにも同情し,支援するべきではないか? 一日2ドル以下で生活する人々,マラリアで死亡する人々には,有効な支援が与えられれば避けられる苦しみが一杯あるのです.津波の被害に対して取られた行動を,豊かな諸国の指導者たちは債務削減や市場開放にも拡大するべきです.

Ashも,津波の被害を克服することが終われば,21世紀には何が課題として残されるだろうか? と問います.そして,世界が日増しに一つの意識を形成するようになれば,いつか世界の貧しい者を豊かな者が助けるようになるだろう,と考えます.世界に残された課題は,この大きな貧富の格差です.

Devanも24時間のニュース番組が被害状況を伝えるようになった現代において,「グローバル・ヴィレッジ」が誕生するのです.そしてこの「世界」では,テレビで見えないものは存在しないことになります.津波が巻き起こした「利他主義の嵐」がもたらす,深刻な無秩序(無政府性)についても,私たちは考えるべきです.


WP Friday, December 31, 2004

Responding to Asia's Tragedy

By Andrew S. Natsios(the U.S. Agency for International Development)

IHT Saturday, January 1, 2005

Old grievances fuel Muslim unrest

Sunanda K. Datta-Ray

The Guardian, Tuesday January 4, 2005

The victims of the tsunami pay the price of war on Iraq

George Monbiot

The Guardian, Thursday January 6, 2005

The neocons have a hand in Aceh, too

Sidney Blumenthal

(コメント) 自然災害は,政治的分配システムの成果であり,また救済者を演じる政治ショーでもあります.テロ対策と同じように,安全の確保は政治的な論功行賞であり,戦争への号令や参加は指導者たちに国民の結束を訴える口実となります.

実際,被災地はアジア諸国に分散する少数派のイスラム圏を含んでいます.タイ南部やアチェは,かつてイスラム教の政治システムによりスルタンたちが独立していたため,その後も,繰り返し分離独立を求めた地域です.ヨーロッパの植民地主義や米ソの冷戦は,勝手に彼らを国民国家に統合し,少数派の意見として凍結されました.

Datta-Rayは,彼らの独立を認め出したら,国家の統一した枠組みが宗教や民族によって細分化されてしまうことを懸念し,同時に,資源採取や人口移動,開発から取り残されている地域社会について,単なる多数決で統合することも正しくない,と考えます.それぞれの地域が自立的な発展を模索し,同時に,政治システムに統一性を維持する方法は無いのか? そのような立憲的枠組みのモデルをEUや国連に求めます.

Monbiotの批判は厳しいものです.アメリカやイギリスの政府は,「殺すことkilling them」と「助けることhelping them」との区別もできないのか? 実際,スリランカで救済・支援活動に展開するアメリカ海兵隊が,数週間前には,市民を殺し,住宅を破壊し,イラクのファルージャで全住民の退去を命じていた.アメリカ政府は津波の被害に対して3億5000万ドルの支援を約束し,イギリス政府は5000万ポンド(9600万ドル)を約束した.しかし,イラク戦争には,それぞれ1480億ドルと60億ポンド(115億ドル)を支出した,と.

イギリスでもアジアの被災地が映像で伝えられると,ホームレスの女性まで寄付の列に並び,空っぽのポケットを探って,何かしてあげたいと話していた,とMonbiotは言います.しかし,なぜ史上かつて無いほど繁栄した世界で,被災者たちの救済を市民たちやポップ・スター,コメディアンの気まぐれに頼らなければならないのか? 極端な貧困を解消するためにわずかな予算しか政府は割かないのに,被災者たちは豊かな国のホームレスの人々に残された小銭を期待するしかないのか? その答は,政府の優先順位です.政府は,戦争にお金を出すけれども,貧しい者にはお金を出しません.

われわれの政府が,せめて,人々を殺戮するときと同じくらい,貧しい人々を支援するときにも気前良くふるまってくれたら,誰も飢餓で苦しまないのに!

Blumenthalは,ブッシュ大統領が津波の二日後に約束した援助額,1500万ドルは,ボストン・レッド・ソックスがその年のスター選手に支払った年俸より200万ドル少なかった,と書いて,アメリカの豊かさとブッシュ政権の姿勢を象徴しました.ブッシュ氏の外交政策は「テロとの戦争」がすべてであり,アジアのイスラム教徒が天災に苦しむことを悲しむ気持ちなど表明しても無意味だ,と考えたのです.

チェイニー副大統領はカモ猟に出かけ,ライス顧問は大統領に何も示唆せず,パウエル国務長官が「アメリカはケチではない」とコメントしました.ネオコンが支配する外交政策では,戦争によって人権が無視され,テロリストを支援するとアメリカ政府が見なす人々が,攻撃されることはあっても,救済されることなどありません.ここでもアメリカの政策は混乱し,衝突している,と.


Jan. 4 (Bloomberg)

Some Disasters Fuel Growth; Asian Tsunami Won't

Andy Mukherjee

FT January 5 2005

Quentin Peel: Help should have a light touch

By Quentin Peel

FT January 5 2005

Debt forgiveness and the tsunami

IHT Thursday, January 6, 2005

Philip Bowring: Debt relief? No. A disaster force? Yes

Philip Bowring

(コメント) 災害からの復興によって,むしろ経済全般の繁栄がもたらされる場合もあります.突発的な生産の落ち込みや変動要因を,特別に低利融資したり,債務免除したりすることが有効な場合があります.津波の被害はどうでしょうか?

IIEのC. Fred Bergsten所長は,このタイプの災害は長期的に経済を刺激するだろう,と述べました.それは,犠牲者の苦しみにもかかわらず,住宅やインフラの再建に多くの新投資をもたらすからです.他の投資がそうであるように,それは雇用と成長をもたらします.本当に,経済的な損益だけに限れば,災害はプラスでしょうか?

Mukherjeeは二つの反対理由を示します.まず,犠牲者の苦しみを経済的コストと切り離すことはできません.それ以上に,もう一つの理由である仮説「窓ガラスを壊す間違い」があります.19世紀のフランスの経済学者バスティアFrederic Bastiatは,窓ガラスの修繕費は,もしそうでなければスーツを買うはずのお金だった,と言います.しかし,それを見ないから,窓ガラスを割れば売上が伸びて,成長や雇用が増すように見えるのです.実際には,産業にも雇用にも増加は見られません.

どのような災害でもそうだろうか? とMukherjeeは考えます.新しい研究では,繰り返し襲ってくることが予測される洪水やハリケーンと,長期にわたって起こらず,突然,襲う地震や津波とを区別します.なぜなら,前者はインフラの更新に役立って,社会の生産性を高めるからです.それでも,「災害は社会に利益をもたらさない」というバスティアの警句を知っておくべきです.

たとえ援助であっても,それが植民地主義を再現するような形で押しつけられてはならないし,現地の政府や組織を汚職や分配をめぐる対立に巻き込んではならない,とPeelは指摘します.そのためには,もっと小規模な援助を,長期にわたって続ける方が良いでしょう.

津波被害地域への支援は,政治的なオークションになった,とFTは言います.そして,再建や開発という長期の目標に注目することは正しいが,ブラウン蔵相がG8の関心を債務免除に集めるのは間違いだ,と主張します.被災諸国の政府に債務を免除しても,それが再建に役立てられるかどうか分かりません.むしろ,IMFと世銀が各国の再建計画を審査し,必要額を裕福な諸国が多国間で分担するべきでしょう.

たとえ債務免除を許すとしても,インドやマレーシア,インドネシアなどは格付けが悪化することを嫌って,免除を受けないでしょう.インドネシアは巨額の債務を負いますが,その大部分は民間債務であり,津波の被害と関係ありません.被害の大きなアチェはインドネシアのGDPの2.5%に過ぎません.ジャカルタの債務を免除しても,アチェに資金が届くわけでは無いのです.

Bowringも,債務免除は間違った方針だと言います.津波の被災者と債務とは直接関係無いからです.スリランカとモルジブだけは,経済的コストに対して債務免除が関係あるでしょう.また,地理的に集中した昨年イランの地震被害と異なり,津波が及んだ各地の異なった被害について,債務免除では対応できません.

しかし,それは新しい資本供給を得たわけですから,1.貧困解消のための長期資本供給が増える.2.債務免除と貧困解消とを組み合わせて,国連やアメリカが重要な役割を果たす機会がある,とBowringは考えます.つまり,債務免除も有益な対策の一部である,と.


The Guardian, Saturday January 1, 2005

This can't go on forever - so it won't

Joseph Stiglitz

(コメント) 株価の上昇を煽る金融業界の楽観的な予測に反して,2005年のアメリカ景気は2004年ほど良くないだろう,とStiglitzは考えます.その理由は,石油価格の高騰です.これに対して,中央銀行は1970年代の教訓を強調し,高金利で対応します.すると,これまで景気を支えてきた消費が抑制されるでしょう.住宅価格も上昇しなくなるはずです.

アメリカはこれまでのツケを支払うでしょう.すなわち,昨年の選挙戦で膨張させた政治的な支出であり,これまでの財政赤字と貿易赤字です.ブッシュ氏の公約であった社会保障制度の民営化や減税策の恒久化は,いつとは言えなくとも,一層の財政赤字とドル安を予感させます.

バランスと取るべきヨーロッパや日本は回復していません.ヨーロッパは安定協定に示されるマクロ政策の間違いを修正するでしょう.しかし,それだけでは雇用が回復しません.中国やアジアの成長も,安定的に維持される保証は無いのです.主要国の経済は,その潜在的な成長力を発揮できず,過去からのさまざまな制約に悩まされるでしょう.特に,アメリカの示す家計と政府における債務累積,そして,中東政策の失敗.


NYT January 1, 2005

The Saudi Syndrome

(コメント) アメリカの輸入石油に対する依存と,石油市場を左右するサウジ・アラビアの政治的な脆弱さや間違った政策に関与することの危険を,NYTは「サウジ・シンドローム」と呼びます.これは,原子力発電所の炉心が溶融し,高温の核物質が中国から地球を突き抜けてアメリカまで貫通する,という危惧を象徴した「チャイナ・シンドローム」をもじった表現です.

アメリカのエネルギー政策も悪い.しかしガソリンを浪費する自動車を買う家族は,アル・カイダやタリバンのイスラム原理主義,パキスタンの核兵器輸出を金融してきたサウジ・アラビアの危険な政治体制に協力し続けている,と批判します.


NYT January 1, 2005

Trouble in the Forests

FT January 5 2005

US war over environment rolls toward forest battle

By Fiona Harvey

FT January 2 2005

Generosity as an effective weapon

By Ronald Brownstein

FT January 2 2005

Amity Shlaes: Nationalise or privatise Fannie Mae

By Amity Shlaes

(コメント) 環境保護を避けてきたブッシュ政権が支持する森林保護体制とは,一体,どのようなものでしょうか? 山火事を理由に「健全な森林管理」を主張し,155ヶ所の国有林を材木会社に委ねる,という「狼による牧場経営システム」といった趣向です.

アラスカの保全や希少生物種の保護も,ブッシュ政権によって葬られる予定です.Harveyは,EPAの指導力が復活することを望みます.

他にも,ブッシュ政権は災害に対して十分な同情心と犠牲者への寄付を示すことで,アメリカに対する国際的な理解を促進する機会を逃しました.

住宅市場を歪めているという批判を受けて,大恐慌の産物であるFannie Maeは完全に国有化されるのでなければ,民営化されるか,解体されるようです.そこでは90億ドルもの資金が消えてしまった,と騒がれています.すなわち,「アメリカン・ドリーム」でもある,個人の住宅所有を促す大恐慌後のアメリカを象徴するはずの一種の社会保障機関が,いつの間にか,オリバー・ストーン監督の映画『ウォール街』の新作に変わっていたわけです.


FT January 2 2005

Lex: China

Lex: The renminbi

Lex: Chinese banks

FT January 6 2005

Beijing must press on with its banking agenda

By William Rhodes(chairman of Citicorp and Citibank and senior vice-chairman of Citigroup)

(コメント) FTの三つのLex記事に,中国経済の論点が示されています.すなわち,@2004年のソフト・ランディングに成功したが,二つの構造問題は続く.A人民元に対する投機は押さえ込んだ.人民元の固定する対象を,ドルから貿易相手国の通貨バスケットに変更する.しかし,通貨政策の基本は外為市場ではなく,国内融資とインフレの抑制だ.B銀行システムの健全化には時間とコストがかかる.外貨準備を利用して時間稼ぎをしているが,結局,外資系銀行との競争は避けられない.資本参加を引き伸ばすことは,将来のコストを増やすだけではないか?

FTは,「社会主義的な性質を持った資本主義」が金融市場を拘束しており,急速な成長の主人公であるはずの労働者も投資家も,結局,十分な利益を分配されていない,と批判します.では,中国の成長は誰の利益になっているのか? もちろん,それは共産党の支配体制を延命するために利用(浪費)されているから,共産党エリートたちの利益だ,というわけです.

Rhodesの論説は,Citigroupの中国代表であり,アメリカと国際金融界の正統的な見解を要約しています.資本を効率的に配分する競争的な金融市場として,健全な銀行システムと債券市場(そして,それを助ける外国資本の参入)が重要だ,ということです.


WP Sunday, January 2, 2005

Delay the Elections

By Adnan Pachachi(foreign minister of Iraq, president of the governing council and chairman of the committee for drafting the Transitional Administrative Law)

LAT January 4, 2005

No Delay for Iraqi Elections

FT January 6 2005

Delaying Iraq poll is a bad idea

(コメント) ブッシュ大統領が1月末に行うと約束してきたイラクの議会選挙をどうすればよいのか,論争になっています.選挙によって代表を決め,議会を構成して,その議会が憲法と政府を決める予定です.それは望ましい目標です.しかしテロが頻発して選挙活動は行えず,ジャーナリストも自由に取材して報道できないまま,スンニー派の多数はボイコットを表明しています.そのような選挙結果は無効です.

Pachachiは,選挙を数ヶ月延期するべきだ,と主張します.そして,選挙に参加する国民や党派を増やすことが重要です.事態はますます悪化しており,バクダッドでは誘拐を恐れて,誰も自分の子供を学校にやらなくなった,と言います.投票日にはテロを逃れるために,バクダッドの外に非難する,という市民も多いのです.集会や演説を行えばテロリストが集まり,電波による広報活動も電力不足でできません.これで民主的な選挙などできない,と.

選挙の延期はテロリストの勝利を意味する,と言う反対意見があります.Pachachiは,それを認めつつも,たとえ選挙を強行しても,投票しない市民が多ければ選挙の正当性は失われる,と考えます.そのような法律や政府が反対派を支配しようとすれば,内戦の危機にもつながるでしょう.延期することで和解を勧め,参加を促すべきです.それは選挙の後ではなく,その前に行われる必要がある,と主張します.テロではなく投票によって,銃弾ではなく討論によって,国民の合意を形成できると言うことを,多くの党派に説得するべきだ,と.

しかし,LATもFTも延期には反対です.延期はむしろ武装勢力の強化に繋がる,と考えるからです.LATは,ワシントンで決まった暫定政権を引き伸ばすことで,テロリストたちはますます攻撃を強める,とも指摘します.多数のイラク人コミュニティーがボイコットする事態にはならず,延期によっても選挙に反対するスンニー派の参加を促せない,と考えます.自爆テロや反対する政治家がいることで選挙が延期されるのであれば,もっと良い条件が示されるまで妨害できると思うはずだ,と.

1月中に選挙することは,イラクを占領したアメリカがイラク国民に約束したことであり,それを延期することはアメリカ政府に対するさまざまな憶測や反発を強めるでしょう.イラク国民の多数を占めるシーア派とクルド人地域から多くの候補が当選するのは,どのような形で選挙を行っても予想される正当な結果です.

アラウィ首相とブッシュ大統領は,スンニー派の参加を促すとともに,議会の定員の一部をスンニー派に割り当てよう,とも考えていうるようです.特殊な条件で行われる今回の選挙について,その暫定的な性格から,こうした妥協も有効でしょう.

FTも,延期によって,むしろシーア派の不満が高まり,暫定政権さえ維持できなくなると懸念します.現状でも国民の8割が選挙に参加する意志を持っており,スンニー派の指導者たちが伝統的な支配権を失うことで反発する声に応じるべきではない,と考えます.しかし,いわゆる「スンニー・トライアングル」内では,投票日を変えて,別に行うことも検討されています.これは選挙の延期とは異なった問題だ,としてFTも容認します.


FT January 3 2005

John Kay: The dollar will fall - except when it rises

By John Kay

NYT January 3, 2005

Reacting to a Dollar With No Muscle

By FLOYD NORRIS

NYT January 3, 200

Drubbing of the Dollar: Dangerous or Therapeutic?

By JONATHAN FUERBRINGER

(コメント) 2005年の世界経済を決める最重要な要因は,ドル価値の変動です.アメリカは赤字を永久に拡大できないし,アジアはドル・ペッグ(そしてドルの外貨準備)を永久に続けられないことは誰でも知っています.しかし為替レートを予想することは難しく,その安定化に必要な国際協調も,むしろ市場のパニックを促すだろう,と批判されます.

購買力平価は長期的な傾向を示すものでしかなく,国によって消費財が異なること,一物一価を実現するグローバリゼーションの程度も完全ではないこと,が指摘されます.しかしKayは,金融資産史上におけるドルの重要性に注目し,貿易赤字を維持したまま金融資産の「購買力平価」が成立していた,と考えます.

その金融市場でさえ,ドル建資産への需要が失われ,アジアの中央銀行がもっぱら介入によって均衡を維持している,ということを問題にするわけです.そして,たとえドル安が進んでも,貿易に置いてドルの需要が増えるだろうが,今度は,資産の保有や取引を媒介する手段として,ドルへの需要が回復しないかもしれない,と警告します.試算市場のバブルで示されるように,ノイズ・トレーダーが多くいて,同じ貨幣でも機能によって,ドルへの需要が別々の方向に向かいます.だから,将来のドル価値を予想するのは特に難しい,と.

国際的な経常収支の不均衡を,アメリカは為替レートに委ねて調整しようと考えます.自由な為替レートを受け入れる代わりに,国内のマクロ管理は独自に行える,というわけです.また,中国は為替レートを固定し続けて,国内需要を刺激するから不均衡は次第に解消される,と考えます.変動レートを回避したい理由は十分にあるから,不均衡の調整は他の手段を使って行うわけです.

もしドルが安くなるとすれば,投資家はアメリカから離れて,他国に投資するでしょう.ところが,ユーロ高にもかかわらずヨーロッパ経済の低迷は続くと悲観されており,為替リスクのない,しかも成長の著しい中国やアジア地域に投資が向かうわけです.

確かに,アジアが太平洋を越えたアメリカの新しいフロンティアである,と思えば,ヨーロッパ人が望む複雑な協調政策は不要です.通貨価値を固定し,アメリカ企業の直接投資を歓迎し,生産性が上昇し,市場統合が進むだけでなく,アメリカ市場に安価な商品を輸出して利益を上げることで中国やアジアの所得が上昇し,消費や投資が刺激される形で不均衡は維持されます.こうした中国やアジアの姿は健全であり,有望でもあります.それが投機によって破壊される危険を排除できるなら.

こうした「世界フロンティア」を監督する国際機関はあるでしょうか? 危機に対する安定化介入や安定化政策・基金,融資計画などは,主要諸国の政治的合意と公的機関の明確な行動,それに対する市場の信頼を必要とします.


FT January 3 2005

Asia must help in managing the dollar

The Guardian, Monday January 3, 2005

Making it count

FT January 4 2005

Martin Wolf: Turning upswing into sustained growth

By Martin Wolf

(コメント) 世界のマクロ的な不均衡を調整するために,どのような協調が必要か? とFTは問います.その答は平凡です.@赤字国は需要を抑制し,それに代わって,黒字国は需要を刺激せよ.A為替レートの方向については,赤字国の通貨が減価し,黒字国の通貨は増価することを認めよ.というだけです.

もし調整が協調によって進まず,アメリカが不況やドル暴落を強いられたり,ヨーロッパだけがユーロ高やバブルを強いられたりするようであれば,開放的な世界経済は後退する,すなわち保護主義や市場介入,通貨管理が広まる,と予想されます.その危機を回避するため,20年前にプラザ合意は成立しました.

現在の条件で,FTはアメリカの対外赤字がGDPの3%に抑えられるように,アメリカを除く世界全体の黒字がGDPの1%抑制され,またアジア諸国がその為替レートを市場で決める,変動レート制を受け入れることが,協調の十分条件である.それは実現可能である,と説得します.

具体的に,たとえば,ユーロ圏では住宅市場を改善して住宅建設を刺激し,日本では企業利潤を再分配して家計にもっと支出させ,中国などのアジア諸国は金融システムを改善すれば需要が増える,と考えます.他方,アメリカは構造的な歳入不足を解決することです.また過剰な外貨準備に依拠して,インフレやバブルをともなうような介入は控えるべきです.

ところがアメリカもアジアも現状維持に満足し,不均衡のツケをユーロ圏などの諸国に変動レートを介して転嫁します.このようなシステムが維持できるはずは無く,問題は,いつ,どのようにして崩壊するか,だけなのです.開放型の世界経済を協調して調整する必要があることを無視するアメリカとアジアは,将来の調整コストを増幅しているに過ぎない,と批判します.

同様に,The Guardianは,アジアからの資本逃避によってドル暴落と世界不況が起きるシナリオを検討しています.左派のメディアとして,The Guardianはヨーロッパと日本が景気を刺激して不均衡を調整することに期待します.また,イギリスが主催するG8を機に,ドーハ・ラウンドを進めて農産物市場を自由化し,世界の貧しい農民たちを富の創造に参加させるために,富裕諸国の農業部門が調整を受け入れることを主張します.

他方,FTのWolfに拠れば,2004年の最大の成果はインフレ抑制が世界中で定着したことです.世界市場統合と低インフレが持続すれば,2005年も成長を維持できるでしょう.ただし,@石油価格高騰,Aドル暴落,Bヨーロッパと日本の景気低迷,C住宅市場のバブル破綻,D中国経済のソフト・ランディング失敗,E開放型経済の崩壊,という六つのリスクを回避することが必要です.

Wolfが求めるのは,政策担当者たちが実質的な国際協調を円滑に進めるためにG7(アメリカ,日本,イギリス,ドイツ,フランス,イタリア,カナダ)を改革することです.中国を参加させ,ヨーロッパから3ヶ国が参加するような時代遅れの枠組みを改革するべきだ,と.


FT January 3 2005

Values define Europe, not borders

By Olli Rehn

(コメント) EUの拡大はどこまで進むのか? ヨーロッパ委員会のRehnは,その限界が地理や歴史ではなく,社会的価値観や未来にある,と考えます.すなわち,自由,団結,寛容,人権,民主主義,法の支配,です.そして以下の条件を満たす限り,どのような国も加盟を申請できる,と考えます.

1.国民がヨーロッパ人となる使命を感じていること.2.ヨーロッパの価値を重視し,それによって生きること.3.法の共同体として,加盟による利益だけでなく,コストも負担すること.4.ヨーロッパ統合を維持する能力が受け入れる側にあること.


FT January 3 2005

‘This is the hour, this is the time.’

By Harvey Morris

(コメント) 中東和平のさまざまな条件を現時点で総括した論説です.和平が成功するためには,「国際社会の関与」や「土地交換」という要素も加わって,双方の合意と関与が試されます.


FT January 3 2005

A flame of enlightenment has been extinguished

By Ian Buruma

LAT January 4, 2005

Susan Sontag and a Case of Curious Silence

By Patrick Moore

(コメント) 12月29日に亡くなった,前衛的なコスモポリタンでレスビアンでもあった先鋭な思想家・文明批評家,スーザン・ソンタグSusan Sontagの追悼文です.俗悪で,表面的なものを嫌い,異なる文明間で優れた成果を翻訳し,テレビを持たないマンハッタンで唯一の住民であった,という彼女の思想とは? カフカ,ムジール,ベンヤミン・・・啓蒙主義の末裔であった,と.


NYT January 3, 2005

A Village Grows Rich Off Its Main Export: Its Daughters

By HOWARD W. FRENCH

(コメント) 農産物を輸出できず,投資も誘致できないような,世界の辺境に散らばる貧しい村は,たとえば,娘たちを輸出することで富を得ています.貧しい農村で,耕作によって得られるよりも,容易に,もっと大きなお金を得てくる者があります.それがタイやマレーシアの売春宿で得た金であっても,農民たちには逆らえない,と.かつては人攫いであったリクルーターたちが,今では,自発的な農家からの申し出により交渉します.

貧しい農民の父に売られた娘たちは,海外で中国人と結婚するか,大金を稼いで帰国することを夢見て働きます.彼女たちが帰国して大きな家を建てることが,より多くの娘を輸出する広告塔になる,といいます.同時に,エイズなどの病気が貧しい地域に蔓延します.Sex貿易が家族,結婚,住宅,人口,その他,地域社会全体を大きく変えてしまう場合もある,と.


FT January 4 2005

Policy critics have it all wrong

By Stephen Green

(コメント) 中国の企業改革は進んでいるのでしょうか? 1990年代半ばから,経営者による国営企業の買収(MBO)が許されて,企業の経営権だけでなく,所有権の拡大に繋がっています.経営改善に優れた経営者が果たす積極的な役割を評価する意見が支配的であり,彼らを企業にとどめて,改革を促すために所有権やMOBを認めるかどうか,論争が活発になっています.Greenは,腐敗を防止することと,地域の発展を願うこととを,今後も政府は同時に進めるだろう,と予想します.


FT January 5 2005

How to turn the tables on outsourcing

By Michiyo Nakamoto

FT January 6 2005

In the fast lane

(コメント) 日本に製造業は残らない? NakamotoはKenwoodが工場の無駄を省いて効率を改善し,賃金が4倍もするのに,マレーシアから山形にミニディスク・プレーヤーの生産を移転した例を紹介します.家電産業は,中国との部門内分業やデジタル家電の普及によって復活した,といわれますが,工場の現場でも効率は常に改善されているわけです.

他方,自動車産業で日本が世界市場を席巻している,とFTは賞賛します.もちろん,アメリカ市場でもビッグ・スリーを凌駕しつつあるからです.日本車の成功理由は,労働組合のない西部や南部で工場を新設してきたこともありますが,その品質と生産システムの弾力性,そして技術革新を遂げてきたことに求めています.

もちろん,こうした要因は「日本」に固有のものではなく,世界市場の競争は続きます.

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The Economist, December 18th 2004

Video games: Hand-to-hand combat

Trade politics: A new knot in textile trade

(コメント) 任天堂とソニーが世界のゲーム機市場で対決していることは世界的なニュースです.ゲーム・ボーイとプレイ・ステーションとが急速に売上を伸ばす現象を目の当たりにして,昔からの商品を商うお店は,羨望より,いっそ絶望に近い感情を持ったのではないでしょうか? 情報関連の新興企業や投資家が日本社会の特質を塗り替えている情勢も,既にアメリカやイギリスで見られたことです.

多角繊維協定のタガが外れた自由貿易の世界は,保護されてきた生産者たちの終末論や,消費者と消費地に隣接した高度な生産者の新世界とを,ともに十分には実現しないようです.政治力を保持し続ける繊維業界が消費国政府に働きかけて保護措置を取るのを見越して,中国政府が輸出税によって自国で抑制することを決めたからです.


The world’s oldest companies: The business of survival

The greatest trade in history: Why didn’t I think of that?

Academics and The Economist: Capitalist, sexist pigs

(コメント) 世界最古の企業が日本にある旅館なのか? あるいは旧時代の企業は血縁者や信者の団体で,本当の企業では無いのか? 世界最大のトレードは誰がしたのか? ルイジアナ州を買った大統領か? ジョージ・ソロスか? The Economistをポスト・モダン批評で解読すればどうなるか? “〜〜スタディーズ”とか,“クリティカル〜〜スタディーズ”とか,そんな脱構築・権力・欲望批評ブームも去ったのか?

そんな特集記事と並んで, “Economics focus: Aiming for a happy medium” という定番記事もありました.アメリカ連銀が「中立的な」金利,もしくはヴィクセルが提唱した「自然金利」に戻ろうとしている,という話です.しかし,何が「中立」か,誰にも分かりません.明晰に考えて,しかも意図的に曖昧にしゃべることができる,そんなグリーンスパンや世界中の中央銀行家たちが一番ポスト・モダンな批評家である,と言えそうです.