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IPEのタネ 1/10/2005

津波で亡くなった子供の小さな手を握って,血のような涙を流す父親の姿が悲しいです.「泣血」という言葉を知りました.また,市場で働いていたため自分だけ助かった女性は,一瞬にして家族も住居も失いました.すべてを失ったのに慰めてくれる者さえいない,と胸を叩いて慟哭します.各地の避難所には,誰かが迎えに来ることを待って虚空を見つめる子供たちが多くいます.

スマトラ沖大地震と大津波に対する国際援助=支援体制は画期的な規模になりそうです.TVニュースが音と映像で悲惨な被害状況を刻々と伝え,しかも,クリスマス休暇の国際的なリゾートとして欧米人の犠牲者が増えたからでしょう.アジア通貨危機と違って,救済に対するモラル・ハザードを警戒する声や,マレーシア,アルゼンチンのような金融的逸脱を懸念する声は,今のところ,富裕な債権者から起こっておらず,政府の動きを封じていません.

結果的に大津波の後,イラク統治と再建計画,中東和平と民主化・経済支援,アフリカの貧困解消・政府再建,ラテン・アメリカの債務組換えや経済改革に対して,国際支援体制の新しいモデルが現れるかもしれません.・・・本当に,その約束が実行できるのであれば.私は,街頭で500円玉を募金しただけでした.もっと何かしなければならない,と思いながら.

お正月休みには,大森実『ザ・アメリカ 勝者の歴史』を読み,家族でなんば花月の漫才と吉本新喜劇(!)を観に行きました.

大森実のシリーズは10冊あります.不思議な啓蒙書で,名著かどうか怪しいですが,アメリカを考えるのに有益でした.20年以上前に買って,ほとんど読まずに積んでいました.子供たちに勧めたのですが読んでくれません.最初の3冊を自分で読みました.西部開拓者ジェイムス・リード,サッター将軍,石油王ロックフェラーの話でした.

印象に残ったのは,アメリカの自然風土,その歴史,そして何より精神,すなわち,プロテスタント的な信仰心と資本主義的な強欲が,アメリカ人や政府の行動を理解する上で重要なことです.自由や平等,民主主義が,実際には資本主義的強欲を実現する手段なのか,それとも,資本主義には世界を文明化する力があると賞賛すべきなのか? アメリカが世界に示す条件にどちらの面を見るべきか,分からなくなります.

例えば,西部開拓と米墨戦争,奴隷解放と南北戦争などは,土地や労働力を求めて,すなわち富とその独占,更なる富の増大,というアメリカの拡張主義を表します.各地に現れた無法状態,はなはだしい非人道性,酒とギャンブル,犯罪,私刑,ゴールド・ラッシュ,鉄道,土地投機,株式市場,訴訟,インフレ,人種差別,ギャング,開拓者魂,めまぐるしく変わる富と権力の中心が,アメリカ人にとって統治の原型です.・・・なるほど,イラクが失敗だ,などと誰が言うのか?

さて,アメリカほどではないですが,自然風土と歴史,その精神で異彩を放つ「吉本興業」のタレントたちは,大阪のおばちゃんパワー,携帯電話に観る若者感覚,パソコンに苦しむ中高年の悲哀,リストラ,ヤクザ,テレビ・ショッピング,バーコード頭のおじさん,喫茶店の奇妙なメニュー,新幹線の情景など,さまざまな社会風俗を話題にします.お笑いの原点は話術だけでなく,むしろ彼らのユニークな観察眼と演技力(精妙な身振りと呼吸)なのだ,と知りました.特に,結婚式の披露宴を活写した「まるむし商店」は面白かったです.

吉本新喜劇の筋書きは,いつもテレビでおなじみのドタバタ,人情,ギャグの連発でした.漫才,落語,喜劇,を組み合わせた劇場に,連日連夜,地方からバスで団体観光客が押し寄せる,というのも納得できました.まさに大阪のエートスですね. ・・・ン? 何やて? たこ焼きソースかいな?・・・

サッターやロックフェラーが支配したアメリカ西部や南部も,今では,独自の民主的統治を行っています.だからイラクであれ,南北アメリカ大陸であれ,アチェであれ,アメリカがモデルにならない土地などない,とブッシュ氏は信じているのでしょう.その確信が現実を好転させるエネルギーになって欲しいです.日本政府も,せめて孤児たちを引き取って教育や労働の機会を提供し,あるいは・・・吉本興業に「お笑い」を輸出してもらってはどうでしょうか!?

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