IPEの果樹園2005

今週のReview

1/3-1/8

IPEのタネ

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つだけ推奨するとしたら?

1.   スマトラ沖の地震と津波 :弱く,貧しい者から先に死ぬ.政治的な災害と救済.

2.   地球温暖化の政治論争 :温暖化は誰のためのものか?

3.   移民をめぐる恐怖心 :移民を恐れることとは別に,人間としての権利を認めること.

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


NYT December 23, 2004

Worth a Thousand Words

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) FRIEDMANの論説は,しばしば,アメリカから見た世界の真実を明晰に示すことで秀でています.アメリカにとってイラク戦争は,独裁者を排除し,民主主義を世界に拡大する戦いです.イラクの武装集団は,こうしたイラク国民にとっての素晴らしい未来を潰すことを目指しています.そのためには,どのような手段も正当化されます.例えば,FRIEDMANは最近の事件を大書します.選挙準備に奔走する若者が,武装集団によって殺害された事件です.

武装集団は,残虐で,愚劣な行為を重ねてきました.その動機と,それが持続させる理由とは何でしょうか? 彼らは三つのタイプに分けられる,とMichael Mandelbaumは述べたようです.すなわち彼らは,豊かな油田を狙う,@真正ファシスト.A真正植民地主義者.B真正帝国主義者,である.そして,アメリカ兵はこうした政治的愚行を終わらせるために尊い命を捧げており,しかもなお,ラムズフェルドの度重なる失策により,戦争には敗北しつつある,というわけです.・・・どういう意味か? と考えてしまいます.アメリカ人には当然の考察でしょうか?

武装集団が殺戮を続ける理由は,@世界はブッシュを強く嫌っているから,「自決権」として,自分たちを支持するだろう.Aアラブ諸国は,イラクで民主的な選挙が成功し,自分たちの国でも実施されることを恐れている.Bスンニー派の諸国は,イラクでシーア派の支配が確立されることを嫌う.Cヨーロッパ諸国は,イラクでアメリカが成功することを嫌う.

確かに,トニー・ブレアは天才的な政治評言を提示します.イラクについては,民主主義とテロの戦争,すなわち,民主主義が機能し,民主的な自由を享受したいと願う人々と,それを抹殺し,イラクの人々から未来を奪いたい人々との戦争,と言いました.

問題は,ブッシュ氏,そしてFRIEDMANも,どちらの側なのか明確でないことです.彼らは石油の支配し,アメリカの利益を重視し,親米政権を選挙によって正当化しようと考えます.それは,当然のことですが,そのことを「邪悪」であるとは非難しません.イラク人やアラブ世界が,たとえイラクで市民を殺害する武装集団を好ましいと思っていなくとも,それ以上にアメリカに対して,ファシストや植民地主義や帝国主義,という呼称をふさわしいと考えるのは,自然なことでしょう.

ブッシュ政権は国連を否定し,アブ・グレイブを放置しました.占領政策の転換を,国際機関が組織することを,提唱できたはずです.しかし,アメリカ政府が拒むなら,この戦争は続くでしょう.


WP Thursday, December 23, 2004

War Crimes

(コメント) たとえブッシュ政権が戦争やテロを理由に情報公開を拒んでも,市民団体や人権団体は,アブ・グレイブ刑務所やグァンタナモ基地の囚人たちが受けている人権蹂躙に対して,資料を請求し,裁きを求めてきました.真実を隠し続ける限り,アメリカはその失敗を繰り返すに違いないから,と.


WP Thursday, December 23, 2004

Where to Start With Europe

By Morton Abramowitz and Heather Hurlburt

(コメント) 米欧関係の修復は,コソボから始まる,とAbramowitz and Hurlburtは主張します.なぜなら,安定化のために,ヨーロッパがアメリカの一層の関与を必要とするからです.

アフガニスタンやイラクの将来を占う意味で,コソボの現状は深刻です.その政治的な将来が定まらず,主権を移譲されないまま,ベオグラード政府は機能せず,その結果,経済復興が始まりませんでした.今では,ハーグの国際裁判所に送られるべきセルビア人虐殺の容疑者,Ramush Haradinajがコソボの代表として首相に指名されるような事態になっています.コソボ内で人種隔離が進み,セルビア人たちが実力で分離する動きも強まっています.しかし,そのような事態は周辺諸国を不安定化し,新しい暴力と,すべての地域で少数民族に恐怖をもたらすでしょう.

論説の展望は不明確です.関係諸国が政治的な関与を強めて,主権の移譲や政治的将来を明確にし,経済資源の移転にも責任を果たすべきだ,というに止まります.アメリカとヨーロッパが,ヨーロッパの小国を再建できないとしたら,一体,ほかに何が期待できると言うのか? と批判するだけです.


WP Thursday, December 23, 2004

Global Warming? Hot Air

By George F. Will

WP Sunday, December 26, 2004

Undeniable Global Warming

By Naomi Oreskes

FT December 27 2004

Emission trading

FT December 30 2004

Can a divided world tackle global warming in 2005?

By Fiona Harvey

(コメント) 地球温暖化の事実,その影響について,さらには対策やその効果について,正確に予測することはできません.温暖化が,本当は,誰の利益になって,どのような損失をもたらすのか,良く分からないのだ,とWillは注意します.温暖化防止に飛びつくより,マイケル・クライトンの新しい小説を読む方が良い,と.

他方,Oreskesは,温暖化の事実を認め,その対策を検討するときだ,と主張します.温暖化が信仰していることは事実です.マス・メディアが誇張する学会内の意見対立は,ごく少数の反対を取り上げたものであり,大陸が移動することや,細菌が病気を引き起こすことについて,異説を唱えるのに等しい,と.

温暖化ガスの排出権を売買する方式the emission trading scheme (ETS)は,EUがアメリカの経験に学び,最小のコストで排出を減らすために導入した画期的な枠組みです.ただし,それが25カ国で実施されるためには,排出量の計測や売買システムの運営に,正確さと信用を維持する,前例のない国際協力が必要になります.

排出権取引により,エネルギーは石炭から再生可能な資源や原子力に転換するでしょう.さまざまな規制や課税に比べて,経済的なコストが最小に抑えられると期待されます.しかし,惜しいことに,この計画では何百万台という個人の自動車やトラック運転手が,排出するガスの計測や権利の売買に参加できません.

イギリスのブレア首相が,少なくともスマトラ島沖で大地震が起きるまで,世界の貧困解消と温暖化対策を,G8のテーマとして重視していたのは確実です.それはEUも強調してきた問題です.しかし,Harveyの論説が示すように,温暖化をめぐる政治論争は未だに混沌としています.アメリカ政府が慎重な,事実上,あからさまに反対する姿勢を採っている中で,国際システムが機能することなど,本当に,あるのでしょうか?

人類が燃やした化石燃料などにより,温暖化は進み,さまざまな異常気象や海面の上昇,旱魃による飢饉などが起きるでしょう.温暖化による経済的コストは,この10年間で,年に1500億ドルに達し,それは保険額にして400億ドルと推定されます.

しかし,ヨーロッパや日本,ロシアも参加した国際システムに対抗して,温暖化に懐疑的な論調も政治的な攻勢を強めています.懐疑論の筆頭には,コペンハーゲン・グループのLomborgがおり,効果の怪しい温暖化対策で富を浪費するより,人類にもっと良いことができるはずだ,と言います.アメリカはもっと事実を正確に知る必要がある,と繰り返すだけであり,中国やブラジルなど,工業化を進める発展途上諸国は,富裕諸国のもたらした温暖化のツケを自分たちに押し付けられることを拒んで,参加しません.

そんな中で,EUが2005年初めから開始した排出権取引の市場は,世界の主要企業の行動パターンを変え,それゆえ,懐疑派の政治力を削ぐかもしれません.


IHT Friday, December 24, 2004

Congo: Calling the UN and the African Union

Omar McDoom

IHT Friday, December 24, 2004

In Congo, dark heart of mineral exploitation

Adam Hochschild

(コメント) コンゴやルワンダの虐殺,難民,政治不安を増幅しないためにも,明確な行動目標と,そのための武力行使を認められた国連軍が,大規模に展開していることは重要です.たとえ内戦や武力衝突そのものを防ぐことができないとしても,難民たちが武装集団の残虐行為から保護される避難所を確保できるからです.それは内戦終結や,難民帰還,復興のための拠点にもなるでしょう.アフリカ機構による関係諸国の合意形成や,援助を行っている主要国の政治的関与が重要です.

アフリカ中部には地下資源が豊富で,歴史的に,諸外国の搾取が繰り返されてきました.その意味では,内戦や武力紛争に,主要国が援助を介してどのように関与するつもりなのか,問題を残しています.援助の多くが,しばしば,支配者への供物に変わってしまうのです.現代のように,多国籍企業や地域の軍閥が加わっても,基本的な構造は変わっていません.

奴隷貿易が禁止されたように,ダイヤモンド,金,木材,銅,コバルト,などの取引も,それを禁止するか,内戦や政治的腐敗と切り離す合法的な枠組みが必要です.


NYT December 24, 2004

In Roaring China, Sweaters Are West of Socks City

By DAVID BARBOZA

NYT December 25, 2004

China's Elite Learn to Flaunt It While the New Landless Weep

By JOSEPH KAHN

(コメント) どちらも中国の経済変化がもたらす世界的なインパクトを考えさせる記事です.

多角繊維協定による輸入割当制度が廃止されることで,繊維製品市場における中国の躍進は確実と思われます.すでに,中国沿海部には,繊維製品の個別品目に特化した生産拠点が形成されています.

Datangは,毎年,信じられないことだが,90億足の靴下を生産する.つまり,地球上の全人類に靴下を履かせても,まだ余るわけだ.ソックス・シティーと呼ばれるこの町で開かれる見本市に,世界中から10万人のバイヤーが集まる.Shenzhouの南東にはネクタイ・キャピタルがあり,他にも,西へ向かえばセーター・シティ,子供服シティ,南には下着シティがある.

それは世界市場向けに,低賃金と規模の経済を生かした結果ですが,同時に,政府の生産拠点に対する指導も行われました.「アダム・スミスも,カール・マルクスも,決して想像できなかったような,このような資本主義が共産主義のシステムから生まれた」,と驚いています.

豊富な出稼ぎ労働者の供給,急速の品質の向上,世界市場へ向けた投資の拡大,が述べられています.多くの成功物語が生まれ,多くの労働者が農村から出て,生活水準を改善しています.それとともに,賃金上昇や輸入国による規制,高品質や急速な変化,多数の生産拠点を近隣に維持する必要から,中国の限界も指摘します.

JOSEPH KAHNの記事は,中国もかつてのアメリカで展開されたような「どろぼう貴族」の時代に入った,とさまざまな事実を紹介しています.中国社会科学アカデミーは,1000万ドルを超える純資産を持つ実業家が,中国には少なくとも1万人いるだろう,と推計しています.

しかし,事実上,土地の売買を禁止されている農民たちは,土地を介して富の形成に参加できません.都市の富裕層は,郊外の農村地帯を超リッチなマンション開発のために侵食して行きます.長年にわたり耕した土地も雇用も奪われた農民たちは,そのような宮殿を見て涙を流すしかありません.他方,不動産開発で富を得る業者は,ヨーロッパ文化の粋を中国人に伝える自分の使命を説いて,さらに高額なマンションの販売に邁進するのです.


NYT December 24, 2004

If Home Prices Plunge, Will Damage Be Worst in Democratic States?

By FLOYD NORRIS

FT December 26 2004

John Plender: Bubbles, Balzac and the dismal science

By John Plender

(コメント) 世界中で,もちろん日本ではなく,住宅価格のバブルが形成されています.その破綻は家計を直撃し,2005年に世界景気を急速に悪化させるでしょう.しかし,ドル安が過度に進まない限り,金融政策によってその影響は抑制できる,とNORRISは楽観します.

Plenderの論説は,バブルについての曖昧な定義の陳列棚です.ヘッジ・ファンドの大きさ.多幸症の蔓延.市場が効率的であればバブルはありえない.不安定家的な投機は不可能だ.ディッケンズはトロロープ,バルザック,ゾラに劣る.

金融市場が重要である限り,バブル(とその影響)についての定義も議論され続けるでしょう.


ST Dec 25, 2004

The best and worst that didn't happen

By Janadas Devan

(コメント) 最悪のことも,最善のことも,起きないとして予想するのが賢明であろう.しかし,どれらが起きるかもしれないことは,知っておくべきだ,とDevanは書きたいようです.そこで,彼の考える最悪のケースを知っておくのも良いでしょう.なぜなら,それらは≪まだ≫起きていないから.

1.   カシミール,台湾海峡,朝鮮半島など,主要な国際紛争の発火点に火がつく.

2.   核や生物・化学兵器を用いた大規模テロが世界の主要都市で起きる.

3.   アメリカの財政赤字や対外不均衡から国際金融システムが崩壊する.

4.   動物から人間に感染した新しいウィルスで人類の多数が冒される.

5.   聖戦組織がサウド家を追放して,サウジ・アラビアを支配する.

6.   世界の主要な石油供給・備蓄施設が破壊されて,エネルギー供給がストップする.

7.   マレーシアやインドネシアでイスラム過激派が選挙結果を支配する.

8.   アジア地域の企業は透明性を高められず,アジア通貨・金融危機の後遺症が残って,次の危機を準備するような間違った政策に頼りだす.

9.   南極の氷河が溶け,オゾン層の破壊も進む.

10.巨大隕石が落下し,空中に広がった噴煙が太陽光をさえぎって,突如,氷河期に入る.

おそらく,2005年にもそれらは起きないでしょう.しかし,それは永遠に何も起きないことを意味していない,とDevanは注意します.危機の可能性は,単に無視される場合もあれば,社会システムを鍛える場合もあるでしょう.


FT December 26 2004

The migration fallacy

By Saskia Sassen

WP Sunday, December 26, 2004

Immigration Maze

By Helen Epstein

(コメント) サッセンは,EU拡大のたびに繰り返された大量移民による社会的分裂への恐怖を退けます.ヨーロッパは,その歴史により,大陸規模の移民を吸収して融合することができることを示しています.例えば,フランス人の4分の1は両親や祖父母が外国生まれであるし,ウィーンだけであれば,この割合は40%に達します.

18世紀のアムステルダムでは,ドイツ北部から労働者を連れてきて干拓地を作り,沼地を埋め立てた.フランス人がブドウ畑を作るときはスペイン人を雇ったし,ロンドンが水道や下水道のインフラを建設するときにはアイルランド人が働いた.19世紀には,オスマン男爵のパリ建造にドイツ人,ベルギー人が連れてこられた.ドイツの鉄道建設や製鉄所ではイタリア人やポーランド人を使った.

イタリア人の主要な移民先は,普通思われているアメリカではなく,ヨーロッパであった.1876年から1976年までに,1260万人のイタリア人が移民として他のヨーロッパ諸国に向かい,100万人がヨーロッパ以外に向かった.イタリア移民の最大の受入国はアメリカで,570万人を受け入れた.しかし,フランスに入ったイタリア人も410万人,スイスは400万人,ドイツ240万院,オーストリア120万人であった.」 

さらに,第二次大戦後には約2000万人が移民として受け入れられたのです.移民は,トルコ人やモロッコ人,あるいは迫害されたクルド人やベルベル人,ロマ,そして「ヨーロッパ人」を自認する先進的な中産階級など,特定の集団に偏っています.低賃金労働力への強い需要やヨーロッパの人口動態から,今後も移民の流入は続くでしょう.

社会制度や市民意識の発達したヨーロッパにも,よそ者への強い差別意識がありました.しかし,このような文化的,宗教的に異なる大規模移民を受け入れることができたのは,同時に,政治的な権利を主張する伝統があったからだ,とサッセンは考えます.新しい法律や制度を工夫することで,彼らの同化を促したのです.人種差別は今もありますが,市民権もまた強化されるのです.

他方,Epsteinの論説は,アメリカの変化を憂慮させます.彼女の夫はチェコ人であり,アメリカの永住権を申請していますが,なかなか認められません.祖母が亡くなっても,再入国への不安から帰国できません.その認可権はFBIやBCIS(the Bureau of Citizenship and Immigration Services)が握っています.2001年9月からテロに対する防衛を強化すると言う意味で,申請者をチェックしています.しかし,組織の変更や手続きの遅れ,アメリカに居住する移民たちにとって不便を強いる制約が増やすばかりで,アメリカの安全に役立ったとは思えません.

永住権を申請する者は増えていますが,その承認作業は不透明で,何年もかかります.Epsteinは上院議員や本土防衛省のトム・リッジ長官などに手紙を書きますが,返事をもらえません.ヒラリー・クリントンの事務所も尋ねますが,BCISに関する苦情は殺到しており,とても返事が間に合わないのだ,と聞きます.この窮状を解決するために上院議員や他の誰かが法的措置を提案したか? という問いに,事務所の誰も答えられませんでした.

「彼らの多くはこの国で政治的発言の機会がない.それこそが,行政や政治家がこの問題を軽視する理由である.」「多くの移民たちが,アメリカ人の就かないような低賃金の職場で働いている.彼らはタクシーを運転し,われわれの家を建て,庭の草を刈り,ファスト・フードの朝食や昼食,ディナーを用意してくれる.彼らがいなければ,現在のアメリカ経済を支えているサービス産業は崩壊するだろう.彼らはもっと大切に扱われるべきだと思う.」


NYT December 26, 2004

Argentina's Economic Rally Defies Forecasts

By LARRY ROHTER

(コメント) マレーシアが資本規制に踏み切ったときと同様に,アルゼンチンが1000億ドル以上の債務不履行と海外債権者に大幅な債務の減額を要求したことは,IMFやアメリカ政府・財務省を含む国際金融界から強い批判を受けてきました.デフォルトは,厳しい引締め政策と対外債権者との合意を得られないなら,激しいハイパー・インフレーションに繋がり,ペソは紙切れになって,海外からの投資も外貨準備も失われ,成長見通しなどは窒息させられるだろう,と.

しかし,この史上最大のデフォルトも経済崩壊をもたらしませんでした.それどころか,この2年間,経済は7%を超える成長を実現し,輸出が伸びました.債務交渉やIMFとの合意もなしに,通貨価値は安定し,投資は収益を回復し,記録的な水準に達した失業も減少しています.その理由は,彼らが正統派に逆らって,債権者や銀行,IMFを満足させることより,国内の消費を刺激して,債権者もこれに従うよう求めたからです.アルゼンチンは,たとえ資本流入が止まっても,健全な経緯財運営が可能であることを示した,とアメリカのリベラル派の研究所the Center for Economic and Policy Researchに属するMark Weisbrotは考えます.

政府部門を含む雇用拡大策は,景気を刺激し,所得水準を回復しました.危機を収拾できると感じた人々が,ようやく支出を増やす気になったのです.しかし,正統派の経済学者は政府部門を評価せず.アルゼンチンの成長を外部の要因によって説明します.The Latin American Foundation for Economic ResearchのJuan Luis Bourは,国際商品市場の活況と低金利を指摘します.

IMFは,アルゼンチンがIMFの指導した政策を,実際に,採用したからだ,と考えます.すなわち,財政規律を重視し,黒字を出したのです.ただし,財政黒字をもたらしたのは,IMFなどの正統派経済学者が廃止を求めている,輸出取引や金融取引に対して課税したからです.

アルゼンチンの元経済大臣Lavagnaは言います.結局,「債務国が成長しなければ,誰にも債務の返済を強いることはできない」,と.


JT Monday, December 27, 2004

Democracy by cookie cutter

By HUGH CORTAZZI(a former British career diplomat)

NYT December 27, 2004

Setting Standards for Fair Elections

(コメント) 民主主義国は互いに戦争しない,という仮説によって,ブッシュ氏は世界に民主主義を拡大する外交方針を正当化します.しかし,政治家が民主主義体制を支持することと,民主主義の定義や,どの国が民主主義的であるか決めることとは,同じではありません.

アメリカの大統領選挙に採用された代表人制度は民主主義的か? アメリカで少数派の政治的意見は正しく選挙に反映されているか? 同様に,多くの国の投票制度には疑問があります.日本やドイツの比例代表制は,政府が独裁的にならない点で有効でしょうが,少数派の意見はしばしば無視されます.アメリカでもイギリスでも,テロの脅威を理由に,個人の自由や裁判の権利が制限されました.スペインの選挙結果が示したように,ブッシュ政権は自分たちに反対する結果をもたらす民主主義的選挙には冷淡です.

アメリカが世界中で民主主義を広めている,と信じるのは難しい,とCORTAZZIは考えます.たとえば,チェチェンにおけるロシアの振舞いや,チベットに対する中国の対応を無視して,アメリカ政府は両国の民主主義を支持しているからです.また,中東地域でアメリカが民主主義を支持してきたとは思えません.サウジ・アラビア,エジプト,さらにウズベキスタン,パキスタンを支持することは民主主義を拡大するのか?

たとえ議会が有効に機能しているとしても,アラブの少数派を差別しているイスラエルは民主主義的か? たとえイランが議会制民主主義では無いとしても,神権政治では無いし,アメリカが言うような「悪の枢軸」でもない.イラクに民主主義を押し付けることは,多分,不可能であって,準備されている選挙によって正当性を少しでも高めることができれば幸いでしょう.しかし,イラク国民に支持される最低の条件とは,政府がアメリカの操り人形では無い,と信じてもらえることです.すなわち,イラクの国益を守るために,アメリカ政府を批判できなければならないのです.

ブッシュ政権は,自分たちの方針を支持する「良い」政府と,それに反対する「悪い」政府を区別するだけです.そして,民主主義国がアメリカに反対すると,それは本当の民主主義では無い,もしくは有権者が間違った指導者にだまされている,と主張します.

NYTは,アメリカの投票システムを改善するために投票と開票作業を機械化する計画について,論評します.そこに,何らかの特殊利益が反映されていないか,機械化によって投票の信頼性が本当に高まるのか,十分注意するべきだ,と考えます.特殊利益とは,さしあたり,この電子投票システムを開発する企業の関与です.正確な投票と開票,集計には,正しい機械化検討委員会やガイドラインの作成・監視グループが必要です.


FT December 27 2004

Fish have fallen prey to our greed

By Fiona Harvey

BG December 27, 2004

Bush's win-win plan to protect the oceans

By David Benton(the Alaska-based Marine Conservation Alliance)

(コメント) Harveyが言うように,人類の多くは魚のことに無関心です.しかし,もし彼ら(魚)が地上で生活し,われわれに身近な存在であれば,その急速な絶滅への過程は,大きな暴動さえも引き起こしたでしょう.

例えば,タラ.1990年代に,ニューファンドランドの漁獲量は激減し,回復できないほどに減少してしまいました.同じことは北海でも起きています.イギリスのRoyal Commission on Environmental Pollutionは,漁区の3分の1を閉鎖するべきだ,と進言しました.しかし,魚は最後の食用にできる野生生物であり,誰でも自由に捕れます.近代的技術により,漁は崇高な狩猟ではなく,魚という単なる商品の争奪戦になりました.彼らは周辺海域を枯渇させ,ますます遠方にまで漁に出ます.

その収奪方法は余りにも完全であると同時に,魚にとって国境や管理手段は存在しません.漁獲量を集計したり,監視したりするのは,余りにも難しく,煩雑で,コストを要します.魚の養殖も海を汚し,魚の豊富な海がもたらす豊かさに代わるものではありません.

Bentonが支持するブッシュ政権Uの唱える海洋保護政策は,地球温暖化対策と違って,より科学的で,人間とエコ・システムの全体を対象としたものだ,と言います.例えば,海が許容できる世界的な漁獲量も計算されるでしょう.市場に依拠した保護でありながら,地元や地域,州レベルの決定を重視し,それぞれに合った条件を認める弾力性がある,と言います.そして,もちろん,大統領は海洋を産業にとっても重要な対象と考えています.保護と経済発展はこの計画の両輪です.

なるほど,それはブッシュ氏の思想です.それが正しいかどうかは,アメリカ国民だけでなく,世界中で広く議論されるべきでしょう.Bentonが言いたいのは,多分,最後のセリフです.「ブッシュ大統領の発言は,政治の潮の満ち干を決めるもっとも稀な出来事である.すなわち,彼が発言すれば,すべての船が浮上する.」

逆に,アメリカが反対すれば,すべての船が難破する!


BG December 27, 2004

Social Security's value

(コメント) 社会保障制度に関して,ブッシュの政治思想と,フランクリン・D・ルーズベルトの政治思想とを比較しています.

大恐慌を経験した人々には,なぜ社会保障制度が重要か? と訊くまでもなかったはずです.彼らは老後のための貯蓄を株価の暴落で失ったからです.社会不安が広がる中で,政府は個人の貯蓄を超えて,社会が最低生活を保障することを制度化しました.人口構成の変化による部分修正はありえても,この制度を廃棄することは間違いです.ルーズベルトは,才能も,遺産も,幸運も恵まれなかった人々にとって,現実の社会が厳しいものであることを知っていました.他方,ブッシュ大統領は,配当と資産を増加させる,所有に基づく社会,を夢想します.


The Guardian, Monday December 27, 2004

Wide-awake giant will shake west's strategy

Larry Elliott

(コメント) 2005年は,アメリカと中国という双発のエンジンを得て,久しぶりに豊かな気分で寛げる年になる,とIMFなどは期待しています.アメリカの消費は止まるところを知らず,これを満たす中国の投資も尽きることが無い世界です.ヨーロッパだけはパーティから外されていますが.

Elliottは,5つの警戒するべき変調要因を指摘します.@ドルの緩やかな調整が,無秩序な暴落に変わる.A世界の不均衡を円滑に調整するメカニズムが無い.B政策担当者たちが,最近の変調(成長減速や住宅バブル)に関して,過度に楽観している.C石油価格の低下は続かない.D中国の急成長に対して,世界経済がうまく対応できていない.それは長期的には覇権の誕生,当面は景気の大幅な振幅です.

Elliottの指摘では,中国の製造業が持つキャパシティーとそのインフラの間には,大きなギャップがあり,ボトルネックが生じています.それゆえ製品はもっぱらデフレ気味に海外へ向けて輸出され,原材料がインフレ気味に海外から輸入されています.政府がインフラ投資に集中しても,このギャップを埋めるには数年を要し,その間は,ハード・ランディングが起きる恐れもあります.

中国が,繊維製品に代表されるように,世界市場を過剰生産で破壊する,という懸念は誇張されています.中国には中産階級も急速に増えており,彼らが消費を拡大しているからです.ただし,ここにも不均衡の危険が生じています.


LAT December 27, 2004

Sovereignty for a New Century

By John D. Podesta

(コメント) 世界から政治的な虐殺行為をなくすためには,各国政府が住民の保護に対する責任を認め,それが満たされない場合は介入を求める.アメリカが積極的に関与する姿勢を示す.国際社会が安保理を強化し,その決議を実行する.などの条件が必要だ,とPodestaは主張します.すなわち,人道主義的国際介入レジームです.


WP Monday, December 27, 2004

Quake at Sea

ST Dec 28, 2004

Man-made fears vs forces of nature

By Michael Vatikiotis

ST Dec 28, 2004

Politics flounders in wake of nature's fury

By Ooi Kee Beng

ST Dec 30, 2004

Resolving differences in disaster's wake

By Ooi Kee Beng

FT December 29 2004

Quentin Peel: Global lessons from a tragedy

FT December 29 2004

Asian disaster is a test for the world

IHT Friday, December 30, 2004

Out of the wreckage, a chance for peace

Michael Vatikiotis

(コメント) 津波の犠牲者には,クリスマス休暇を利用した世界中からの観光客と,危険な土地に住み着いた多数の貧しい人々が含まれています.また特に,逃げる力の乏しい子供や老人,病人,女性が犠牲となりました.

世界的な観光地に大量の死者をもたらしたのは,国際テロではなく,地震と津波でした.地球温暖化やイスラム過激派の撲滅に多額の資本を投入してきた人類が,全く異なる形で犠牲を強いられたことに,Vatikiotisは憤慨します.それは自然災害であるとともに,政治的災害です.9・11による3000人の死者に比べて,今回の犠牲者がどのように扱われるか,その差も政治的です.オーストラリア政府はタイ南部のイスラム過激派掃討に部隊の協力を約束しても,プーケットの死者を整理することには協力しないでしょう.

伝染病や食料の不足などで犠牲者が増え,経済再建には多くの支援が必要であるのに,主要国政府がイスラム過激派やテロ対策にエネルギーを使い果たしていることにも,アメリカの外交方針が影響を与えています.

Bengは訴えます.一瞬にして津波の犠牲となった者には国境も,階級も,民族も無い.被災者たちにも,国境,階級,民族の区別無く,支援を与えて欲しい,と.もしこの災害が紛争地帯で起きたとすれば,どうなっただろうか? と考えます.戦いを止めて,敵味方の区別無く,互いに助け合って被災者を助け,犠牲者を弔ったのではないか? そうであって欲しい.民族独立の対立,イスラム過激派の掃討,貧困から抜け出すための密輸や犯罪行為に関わる辺境の人々が,犠牲者の中には多くいます.

もし大きな政治的和解を導く指導者たちがいれば,この災害は長年の怨念を捨てる機会ともなるでしょう.南アジア,東南アジアの諸国間で,国際協調の重要性は高まっており,SARS,トリ・インフルエンザ,テロ,津波などがなくても,協調できるはずです.大地の神が,地域主義から国際主義への道を,われわれに示したのかもしれない,と.

FTも,地震や津波を予測し,情報を共有する国際警戒システム以上に,犠牲者の間の格差や残された人々の救済,復興を重視します.そこは世界的なリゾート地であるとともに,浜辺に多くの貧しい漁民たちが住んでいました.豊かな者には保険があり,さまざまなセーフティー・ネットもありますが,貧しい者は災害の後にさらに苦しむでしょう.彼らは最も危険な地域に,粗末な家屋を建て,あるいは廃屋を利用して,政府の支援から離れて暮らしていました.

多くの貧しい人々は,犠牲者として数えられることも無く,次第に食糧や水が枯渇し,疫病によって斃れ,難民となって流浪します.津波から回復する過程で,社会はこうした貧困を解消し,これまで政治的に隔離され,差別されてきたマイノリティーを統合できるでしょうか?

FTはまた,欧米や日本など,裕福な諸国からの援助が重要であるが,それらは増額されるのではなく,しばしば配分を変えているだけで,他の貧しい地域から奪うことを意味する,と厳しく批判します.災害に対する資金調達や,国際協調の組織化をめぐって,主要国が指導的な役割を果たすべきです.また,支援が政治的な理由で,反政府地域や少数民族を支援先から外すような,偏った結果をもたらすことを警戒します.

The Guardian, Tuesday December 28, 2004

How can religious people explain something like this?

Martin Kettle

LAT December 28, 2004

... and What We Make of I

BG December 29, 2004

Easing the pain in south Asia

By Regina Szwadzka

NYT December 29, 2004

The Year the Earth Fought Back

By SIMON WINCHESTER

NYT December 30, 2004

The One Face of Grief

(コメント) あるいは,津波の犠牲者を9・11テロや占領下のイラクで殺害される米兵・イラク人と比較しています.クリスマスの祝祭や信仰心,18世紀の思想家や科学者たちが,津波による犠牲者に並べられます.過去の津波,イランの大地震,コソボの難民救援活動,阪神・淡路大震災,セント・へレナ山の噴火,ロサンゼルス大地震などの経験が比較されます.あるいは,サン・フランシスコ大地震,関東大震災,・・・ そして,もしJ.ラブロックのガイア理論が述べたように,地球が一個の生命体として振舞うのであれば,これらも地球からの警告であった?

もしかすると,喜びや怒りと異なって,深い悲しみは人々を宥和させるかもしれません.


FT December 28 2004

Martin Wolf: The wider challenge in Ukraine

By Martin Wolf

LAT December 28, 2004

Uncovering Ukraine's True Colors

By Douglas E. Schoen and Frank I. Luntz

FT December 29 2004

Ukraine needs western help in the coming cold peace

By Janusz Bugajski

LAT December 30, 2004

Exporting the Ukraine Miracle

Max Boot

(コメント) ウクライナの「オレンジ革命」は,当面,英米の熱狂的な支持を受けています.それは市民社会の誕生であり,ヨーロッパにおける第二次世界大戦後の民主化における第四の波,と呼ばれます.さらに,民主化革命は各地に輸出されるでしょう.

しかし,経済的な自由化や繁栄を拡大することは国際的に支援できるでしょうが,政治的な民主化を支援することは無条件に支持できるでしょうか? ウクライナの東西分裂や,安全保障,エネルギー供給をめぐって,大国が深く関与することは避けるべきではないでしょうか? 「冷たい戦争」が再現しないまでも,「冷たい平和」になる,とBugajskiは予想します.Bootは,この革命をイランに輸出することも考えます.


FT December 28 2004

How foreign reserves could make China yet stronger

By Deepak Lal

IHT Wednesday, December 29, 2004

A Marshall Plan is not what Africa needs

Todd Moss

(コメント) 中国とアフリカに対して,マクロ安定化と競争促進を目指しつつも,対照的な政策が検討されます.

中国の国有企業を閉鎖するため,その莫大な外貨準備を利用して,中央銀行が管理する基金を設置することで社会保障制度を整備できる,とLalは主張します.すなわち中国は,自分たちの間で,戦後賠償やマーシャル援助計画などに匹敵する補償メカニズムを制度として立ち上げるわけです.国有企業の解体はデフレ要因であり,補償メカニズムによる外貨準備の支出はインフレ要因です.どちらにせよ,政府と中央銀行のマクロ管理能力が問われるでしょう.

他方,アフリカにマーシャル・プランは必要ない,とMossは言います.戦後のヨーロッパ復興は,長年の援助依存で腐敗・疲弊したアフリカ経済に希望をもたらしません.むしろ,韓国がそうであったように,短期的な支援でマクロ経済の均衡を回復し,市場の競争を促すべきだ,と考えます.


NYT December 28, 2004

Supermarket Giants Crush Central American Farmers

By CELIA W. DUGGER

(コメント) IMFや世銀から融資を受けて,その条件であるマクロ管理や市場開放を行えば,それだけで人々が幸せになる,というわけではありません.

中国だけでなくアメリカ大陸でも,市場のもたらす社会変化は葛藤を生みます.1990年代に,メキシコから中米,南米にかけて,巨大なスーパー・チェーンが農産物市場を支配し,貧しい農民たちの暮らしが変わりました.まるでトマス・モアのユートピアのように,農民たちは土地を捨てて町のスラムに向かいます.

貧富の格差は歴史的な危機水準を超えています.社会学者のMonterrosoは,自分の子供たちのために,もっと違う社会を望みます.「私なら富を再分配して,人々が仲良く暮らせるようにする.」


NYT December 28, 2004

Leading Chinese TV Exporter Has Huge Loss

By CHRIS BUCKLEY

FT December 30 2004

A waking dragon shakes the world

FT December 30 2004

Powerful abroad, fragile at home

Dec. 31 (Bloomberg)

John Maynard Keynes Misses Out on China Rise

William Pesek Jr.

LAT December 30, 2004

China's Luster Fades

By Elizabeth Economy and Adam Segal

(コメント) 中国経済は,アメリカ市場に向けて輸出する多くの企業の収益に依存しています.それゆえ,アメリカが反ダンピング規制や,特許料の支払を求めれば,その利益を奪われることになります.他方,中国経済の成長とともに,その通貨価値や賃金が調整されて,不均衡や競争圧力を低下させるのであれば,それはアジアの近隣諸国や世界にとって好ましいことです.しかし,資源やエネルギーを海外に求める勢いは世界市場を撹乱しており,1930年代の日本の台頭と日米決戦に向かう情勢を思わせる,と指摘されています.何よりも,中国の挑戦は国内の政治・社会体制を,その経済発展にふさわしい形へ改革することです.

中国の台頭は,アジアの停滞を疑わなかったヨーロッパで,ケインズもマルクスも予想し得なかったことです.さらに,次はインドが変化するでしょう.中国とインドが世界市場を競い合う時代について,Pesek Jr.は考えます.中国の景気循環は制御できるか? 中国は主要諸国と平和を保てるか? 中国は通貨価値を市場に従って調整できるか? 中国は銀行システムにたまる不良債権を処理できるか? インドは,中国から直接投資や世界市場を奪ってしまわないか?

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The Economist, December 18th 2004

Making poverty history

(コメント) 世界の貧困が解消できないのは,援助が足りないのではなく,もっぱらその国の政府が愚かであるからだ,とThe Economistは考えます.基本的な医療や教育に投資せず,市場の力を解放しないからです.もちろん,それは豊かな国が間違った支援や保護を与えているからでもあります.

そこで2005年の政策として,1.援助を増やす,2.貧困国の債務を減らす,3.農産物市場を自由化する,ことが課題となるでしょう.しかし,援助とは,まず何よりも,貧しい国の発展を妨げないように注意しなければなりません.援助供与国の都合でしばしば増減する援助は,アフリカ諸国を債務と腐敗に導きました.むしろ,債務免除の方が好ましい,と考えます.

この点で,イギリスのブラウン蔵相が提唱した貧困への国際融資枠の設定は重要です.賢明な政策を実施している貧困諸国に対して,より安定的に,予測可能な形の融資が行われるようにします.それらは無論,政治的なシンボルを作るためではなく,エイズ対策やマラリア撲滅に使うべきです.

また,富裕諸国が農産物市場を自由化することこそ,貧困撲滅を支持する政治家たちの試金石でしょう.それは,貧困を減らす効果が明らかでありながら,裕福な有権者に不満をもたらし,政治家たちが国際的な枠組みに合意することが難しかったからです.WTOの開発ラウンドを指示する姿勢に注目したい,と.


The servant problem: A moderate proposal

(コメント) 家政婦に便宜を払ったイギリスの閣僚が辞任に追い込まれました.そこで多国籍企業を参考にThe Economistは考えます.いっそ家庭や育児をオフショア拠点に移してはどうか? さもなければ移民の労働を自由化(合法化)せよ.


Bhutan: The pursuit of happiness

The end of the world: A brief history

George Bush and God: A hot line to heaven

Press freedom: Prometheus unbound, a bit

The last great personality cults: Toughs at the top

(コメント) The Economistの年末特集号が,その表紙に隕石と巨大な津波を描いたことは,余りにも不幸な偶然でした.あるいは,さまざまな終末論者に拠れば,これも悪魔のサインでしょうか?

グローバリゼーションに参加する過程で,ブータンが得たものを,失ったものを比較し,美しい自然に暮らす人々が「幸福」とは何か,を考え始めます.伝統的な社会的統合,文化,政治システムが失われ,自動車や道路,携帯電話,インターネットが現れました.王様は議会を設け,人々に伝統文化を推奨し,強制もしますが,移民や土地をめぐる対立が激化し,不思議な発展指標に対する国際的注目を浴びる中で,社会は崩壊しつつあります.

終末論は繰り返し熱狂的な支持者を集め,ブッシュ氏のような政治指導者にも勝手な妄想を抱きます.何度予言が間違っても,終末論が衰えるわけでは無いのです.約束の土地,自分たちだけが選ばれた者だという誇り,現実世界の腐敗に対する嫌悪と呪い,その悲惨な終末に従う断定的な態度,・・・ それがUFOや宇宙人,偉大な科学信仰であっても,終末論の中身に大きな違いはありません.

では,ジョージ.ブッシュや日本の天皇も,彼らが神とのホッと・ラインを持つと信じる,終末論者のアイドルなのでしょうか? 本人がそれを否定しても,そのような含意や願望があれば,政治的な危うさがあるわけです.ブッシュ氏の支持者には,過激な布教ラジオ局の創設者のように,彼を現世の神である,と断言する者がいます.

世界のジャーナリズムは,総じて,自由化の流れを引き継いでいると思われます.しかし,政府や政治組織によって公然と,または秘密裏に,抹殺されるジャーナリストたちがいます.ある推計では,1992年以来,625人のジャーナリストが死にました.中国政府も,さまざまな広報機関が赤字を減らせるように,国営のままで自由化を進めています.民間のジャーナリストたちが新聞や雑誌を発行するには,巨額の投資が必要です.そのため,しばしば新聞は財閥家族や政府の補助を受けます.

むしろ,民間ラジオ局を開設する方が有望だ,と言います.アフリカでは,手回し式の発電機を付けたラジオとともに,民間のローカル・ラジオ局が開設され,情報の自由化に大きく貢献しています.電波に国境は無く,女性や子供も,男性と同じく,外の世界について情報を得ることができます.それは彼らの社会的地位を改善し,さまざまな学習を促します.自由な言論が広がれば,人々は政治指導者を神として恐れたり,政治家や役人の収賄や横領,虚偽を糾弾したりし始めます.自由な報道とは政府の発表をそのまま伝えることではなく,コミュニティーに入って,何が起きたのか,人々にどのような影響があるのか,を調べることです.

その逆に,個人崇拝が肥大化した政治体制は概ね衰退しました.ただし,北朝鮮は顕著な例外です.北朝鮮の金日成,トルクメニスタンのニャゾフNiyazov,そしてTogoのGnassingbe Eyademaが紹介されています.なぜ彼らは生き残ったのか? いつまで続けるのか? なぜそれほど卑劣な個性を示すのか?

彼らの個人崇拝がもたらす社会的破滅の兆候は豊富にあります.いずれも興味深いですが,漸くはしません.最初の二つの問いに対しては,情報の隔離と,富もしくは食糧の統制,それゆえ自分とその体制の優越さを誇示する教育や宣伝が続けられたこと,を指摘します.ニャゾフは,石油資源と地理的・安全保障上の優位を保つ限り,その個人崇拝を維持するかもしれません.しかしEyademaは外からの金融支援を受けるために情報を自由化しました.金日成も,食糧不足に絶えられない難民が中国などで情報を得ています.

ルーマニアのチャウシェスクがそうであったように,一見,強固な支配体制も,情報さえあれば,たった一人が大量の離反者にもたらすのです.