IPEの果樹園2004

今週のReview

12/20-12/25

IPEのタネ

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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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三つ(+1)だけ推奨するとしたら?

1.   中国の農村は震える :農民や鉱夫,都市の下層労働者が,マンションブームや政治家の腐敗をいつまで黙って認めるでしょうか?

2.   共和党政権の逆襲 :貿易と通貨において方針転換を示し,ニュー・ディール政策を葬る.

3.   ヤギの悲鳴 :ヤギが「助けてくれ!」と叫ぶ.国連軍への希望と限界.

4.   繊維の自由貿易 :繊維製品における自由貿易は,史上空前の産業再編成を促すか?

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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, JT:Japan Times, CSM:Christian Science Monitor


LAT December 8, 2004

'You're (Not) Fired!'

BG December 16, 2004

Rumsfeld must go

By Joan Vennochi, Globe Columnist

(コメント) 多くの閣僚が交代する中で,ラムズフェルド国防長官が留任したことについては,ブッシュ再選の結果とは言え,その政治姿勢を示す事件として注目されました.LATは,バスケットボール・チームやディズニーの経営陣と比較しています.

ラムズフェルドは,すでに数ヶ月も前に辞任していたはずの人物です.グァンタナモの囚人たちやアブグレイブ刑務所の虐待問題など,彼が責任をとるべき事実はそのままです.彼はまた,イラクの占領に関しても間違った発言や指示を与え続けました.軍の補充を怠り,それを求めた指揮官を事実上解任し,初期の混乱を拡大したのです.

ファンに暴行を働いたバスケットボール選手が,NBAによって残りのシーズンを出場停止となりました.また,ディズニーを前任者から受け継いだMichael Ovitzは,1年後に1億4000万ドル(約145億円)を受け取って辞任しました.その職務に適さなかったようですが,解任されたわけでは無いのです.そして,ラムズフェルドは留任です.

アメリカ社会も,その地位が上がるほど,決して容易に解雇されず,富や地位を失わないようにできている,とLATの論説は批判します.


NYT December 8, 2004

Farmers Being Moved Aside by China's Real Estate Boom

By JIM YARDLEY

Gao Ladingを含む多くの農民たちが5ヶ月間も共産党の農村支部を占拠し,立てこもっていた.それは絶望に駆られた座り込みだった.Yulin市の役人が,清の時代から農村の土地であったものを収用したのである.農民たちは二年近くも抗議してきたが,遂に村の権力者の居場所を占拠するに及んだ.

10月4日の早朝,政府は反撃した.目撃者によれば,寝静まった村を武装警官のトラックが取り囲んだ.支部にいた数百人が負傷したのは,警察が催涙ガスやゴム弾を使ったからだ.女性たちは家畜用の棒で叩かれた.近くで眠っていた農民たちも叩き起こされた.29人の逮捕者の中に自分の夫も含まれていた女性は,「警官たちが農民に目隠しし,引きずり出した」と述べた.

中国の地方ではどこでも,土地取引が一方的に行われる.Yulinの役人は曖昧な法的根拠を持ち出し,農民たちに60ドルで出て行くように命じた.農民たちは,泥棒だ,と叫んだ.しかし中国では,土地を所有できない彼らが,そもそも奪われることさえ無いのだ.世界で最も急速に成長する経済を実現している同じ経済改革が,二重の所有制度を生んだ.それは都市住民を有利にし,かつては社会の中心にいた農民たちを不利にしている.

その結果,都市では個人の不動産市場がブームになり,住民たちはアパートや郊外住宅を売買し,投資が都市の中産階級に流れ込んでいる.他方,農民たちは今も,彼らが耕す土地の所有や売買を禁ずる農村の集団システムの下にある.そのシステムにより,彼らはしばしば土地を維持する力も失っている.

Sanchawanの例でも,市政府は利益の多い開発計画を進めるために,不誠実,勝手な布告,そして強制力によって,土地を押収した.この10年間で7000万人の農民が土地を奪われた,と推計されており,一説には1億人を超えるとも言われる.政府は勝手に土地を没収できる.だから農民は都市化の利益を受けられないばかりか,むしろ損失を受けている.

都市住民も土地収用と無関係ではありえない.上海や北京,その他の,都市の旧市街は,新しい開発のために取り壊されてきた.住民たちは,しばしば,わずかな補償しか得られず,より不便なアパートに移住させられる.しかし,農民たちの場合は,まさにその生活を奪われるのだ.彼らが他の土地を得る機会は無く,都市での安定した生活を始めるのは極めて困難だ.土地を奪われれば,社会保障も失う.土地があれば,農民は少なくとも食べていけた.

こうした土地収用や不十分な補償に抗議して,中国全土に争乱が広まっている.また,土地収用が余りにはびこっているために,耕作地が減って中国の食糧自給を脅かす,と中央政府も警戒するようになった.そこで農地を侵食する経済開発区を一時凍結し, 土地システムを改革すると約束した.

Shaanxi Province北部のこの辺りは,共産党が農民の怒りと革命とを得たという伝説の土地であった.毛沢東が1930年に国民党の追撃を受け,この辺境にまで逃亡してきたのだ.ここで彼は赤軍の再建に成功し,革命の決定的な政治的公約を制定した.すなわち,地主から小作へ土地を分け与える,ということである.

10月4日にここで衝突が起きたとき,中国のニュースは報道を禁止され,村人たちを恐れさせた.政府に反抗し,決然と対決するというのは,大きな変化であった.インタビューに答えた者や,政府の記録,投獄された抗議運動の指導者たちが行った請願によると,農民たちの中心となった者は繰り返し抗議と座り込みを行ってきた.Gao Ladingのような情熱的な指導者は,北京にまで赴いて救済を願った.

彼らは1670エーカーの砂漠に近い荒れた土地のために戦っていた.

何千年も,農民と土地とは血によって結ばれてきた,と村人たちは言う.しかしこの数年,Yuxi River やYulin市場に近いため,Sanchawanは繁栄し始めた.特に,天然ガスや石炭,石油が発見されると,「中国のクウェート」として注目され,にわかに活況を呈した.Yulinは西域と上海とを結ぶパイプラインと地域経済のハブとなったのだ.江沢民主席が訪問し,市政府はもっと早くから来ていた.

新しい経済開発計画が進むまで,Xishaと呼ばれる地元や西域の住民たちは,何世代も土地を維持し,トウモロコシやキャベツを植えた.しかし,ほとんどの住民が,ゴビ砂漠のそばを流れる川と,その畑を守るために,若木を植えていた.

「われわれは何十年も土地を守ってきたのだ.」 共産党の支配により,土地は村の共同管理に代わったが,Yulinの役人は何も関心を示さなかった.しかし開発区が決まると,役人たちは1951年の曖昧な条文を使って土地を没収した,と村人は言う.ムー(約6分の1エーカー)当り60ドルの補償を示したが,その土地が開発業者に50倍以上の値段で貸し付けられたことを知って,農民たちは激怒した.

このようにあつかましい土地収奪が中国の地方で頻発している.たとえば,裕福なZhejiang Provinceのある村では,農民にムー当り3040ドルしか払わず,開発業者には12万2000ドルで貸した.しかも,村の役人が上前を取るから,農民たちがもらえるのは補償額の一部でしかない,という.Sanchawanの村長は,最初,収容に反対していたが,その後,Yulin政府の支持に変わった.開発区の建設を請け負い,経営にも参加したからだ,という.

「詐欺が横行している」と,ノッティンガム大学の中国研究者Sally Sargesonは言う.「ほとんどのケースで,農民たちは十分な代価を受け取っていない.」

Sanchawanの農民たちは抗議するしかないと決意した.2002年12月,800人近い人々が建設作業を阻止した.村人たちは16班に分かれて,交代して座り込んだ.抗議活動は2003年初めまで続き,男たちが働く間,主に年老いた婦人たちが座り込んだ.しかし,4月27日に,Yulin政府は我慢の限界に達した.開発区の計画が遅れていたからだ.警察と300人以上の建設労働者が婦人たちを取り囲み,地方の役人がメガホンで脅した.

「お前たちは狂っている」と,役人は叫んだ.「お前たちの頭には砂が詰まっているんだ!」

ある女性は北京の上部機関に苦情を言うぞ,と反発した.

「すると,お前は汚らしいクズのくせに,市政府に反対できると思っているのか?」と,役人は叫んだと言う.「たとえ地獄まで行ったとしても,そんなことはできないぞ!」

警察は抗議運動の参加者を引きずり出して投獄した.Sanchawanから親類たちが集まって助けようとしたが,警察は道路や橋を封鎖した.役人たちはインタビューを拒んだ.村人たちはたっぷりと補償してもらった,と言う役人もいた.しかし,抗議に参加したわけでもないのに拘束されて何日も尋問され,「何も知らない」と言い続けて,殴打され,蹴られた者は,そんなはずが無い,と言う.彼は解放後も,4週間,寝込んだ.「私は全く無関係だった.なぜ公安はこのように拷問したがるのか? 私は正義を求める.」

Sanchawanの仲間たちも同じことを願った.しかし,彼らには戦い抜く意志のある者が必要だった.その人物を,彼らは洞窟で見つけた.

Liu Zhandou,57歳,は時代に適応できない古い毛沢東主義者であった.1960年代の文革時に,その熱狂から逃れるため名前を変えた.Zhandouとは「闘争」を意味する.Yulinからは4時間ほど離れた,伝統的な洞窟の住居に住んでいる.彼は妻とジャガイモを育て,暖めた煉瓦のベッドを共有した.アンテナ付きの,小さなへしゃげたテレビを,赤いベルベットのカバーに包んでいた.

Liuはナツメヤシを育て,年に一度,省都のXianに売りに出る.彼はShaanxi北部におけるポピュリスト(人民主義者)として有名であった.地方政府に対する納税をめぐって1990年代後半に起きた抵抗運動を指導したからだ.彼は,共産党の推薦名簿に載ることなく,町の人民議会にも選出された.

2003年6月,LiuはSanchawanの農民たちに会い,彼らの事情を聞いた.彼は法的な訓練を受けたことが無かったけれど,高校を出ていた.今も上着に毛沢東のボタンを付けて,彼は,地方政府が土地を収用するのは,共産主義以前の時代の腐敗した地主や政府役人と何も違わない,と言う.Liuは農民たちにYulinでは埒があかないと言い,北京へ行くことにした.

毎年,何千,何万の絶望した農民たちが同じように北京へ来る.さまざまな文書や記録を持って,彼らは騙されたと言う.Liuも少数の農民たちと,二度,北京へ行った.清の時代からある請願局が,今では,人々の不満を中国の政治システムに伝える主要な経路となっている.

二度目に行ったときは,最初,上手く行きそうだった.請願局は調査を約束してくれたからだ.しかし,北京で拒否された.「彼らは請願を地方政府に差し戻し,無駄に終わった」と,Liuは言う.「地方政府は問題を決して認めない.」 北京の役人は苦情をわずか0.2%しか救済していない,という研究がある.

それでも12月にLiuが再び北京に向かった.それはヴェテランの共産党員,Gao Ladingが一緒だったからだ.63歳のGaoは,生まれついての抵抗者であり,役人たちが農民を食いものにすることに我慢ならなかったのだ.と,LiuはGaoのことを話した.

請願には次のように書かれている.「今や村人たちは熱いストーブの上のアリと同じ不安・焦りを感じている.」「われわれの苦しみは大きすぎる.われわれが北京を訪ねることで,中央政府の指導力が問題を解決できなければ,1000人以上の村人も北京へ来るだろう.」 しかし,土地資源局長官への直訴はかなわず,請願は速達で送れ,と護衛に言われた.

彼らは素朴にもそれを信じて郵便局を訪ね,幸運にも,Sanchawanの出身者に出会って,北京最大の請願所の友人に渡してもらえることになった.何世紀もの間,中国の農民たちがそうであったように,LiuとGaoも話を聞いてくれる役人を探したが,彼らが話せたのは郵便局の職員だけだった.

漸くその職員から手紙が届いた.そこには,彼の友人が示唆するほかないことを記していた.すなわち,農民たちでYulinの役人に贈り物をしなさい.高価な夕食に招待しなさい,と.中国では,これが最善の方法であった.

Liuが二人の農民に最後に会ったのは2月だった.農民たちは,彼らの努力が無駄になることを心配していた.彼らを励ますために,Liuは地方における貧困と搾取を暴露したベスト・セラー『中国農民の研究』を数冊購入した(その後,この本は発売禁止となった). 「私は彼らに読むように命じた.なぜなら,農民たちが問題を解決したいなら,自分たちではっきりと発言する必要があるからだ.」

3月はYuxi川沿いの村々で作付けの季節だ.しかし,今年の初めに,開発区の役人たちはもっと多くの土地をSanchawanから奪って追加した.それは最も肥沃な土地だった.農民たちは抗議のために,残された土地を耕作しないまま放棄した.彼らは村の備蓄で生きたわけだ.

「彼らは,地方長官が苦情を聞きに来るまで耕作しない,と言った.」「しかし,そんなことは起きず,役人が彼らを逮捕し始めたのだ.」と,抗議の人々に夫も参加していた婦人は言った.

この逮捕に憤慨して,多数の村人が4月に村役場を占拠した.彼らは役所の封鎖を解いてからも座り込みを続けた.親戚たちが食べ物を届けた.Gaoは,すでに地域の有名な指導者になっていた.「警察が彼を逮捕しに来る,とわれわれは知っていた.」「われわれは逮捕されないように,特に,彼を守るために,固まった.」

最初,Yulinの役人は座り込みを止めるように説得を試み,農民たちに一人120ドルを与えた.しかし,農民たちはこれを賄賂と考え,金は取ったが立ち去らなかった.5ヶ月経って,10月4日の朝,武装警官が村を取り囲んだ.その数は2000人に達する,と村人は言う.攻撃は熾烈で,多くの人々が病院に運ばれた.Gaoなどの指導者たちは逮捕された.

結果的に抵抗運動は潰された.人心を騒がせた罪で,Gaoたちは牢獄にいる.役人は労働者たちに命じて,村の壁にスローガンを書かせた.政府に従え,と.農民たちは,次の耕作の準備を命じられた.「誰もが恐れて,抵抗しなくなった.」

Yulinの役人は開発区を新しい都市として売り込んでいる.そのモットーは,「あなたが投資し,私は奉仕する.」・・・「あなたは富を得,私は開発する.」


NYT December 9, 2004

The Suicide Supply Chain

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) アメリカが諜報機関を統合して,巨大な闇の政府を作った,と言わないまでも,情報の収拾と分析,利用?でも世界的な優位を強めるかもしれない,というニュースを聞きました.

FRIEDMANは,諜報機関を改善するには,ワシントンの巨大な統合組織を考えるより,必要な言葉を話せて,型にはまらない思考ができる人々を,もっと現場に配置することだ,と言います.なぜなら,イラクの失敗も,大量破壊兵器(WMD)の情報を誤ったというより,「大量破壊人(PMD)」がイラクで生産されていることに気づかなかったことだ,と考えます.

PMDは,国連の経済制裁とサダム・フセインの支配によって生産されました.すなわち制裁は,既に8年に及んだイランとの戦争,クウェート侵攻,サダムの独裁で疲弊していたイラク社会を粉砕しました.戦争前にイラクを分析した専門家たちは,その高度な知的水準を賞賛し,独裁を倒せばイラクの統治は彼らが担える,と期待したわけです.

しかし,イラクの優秀な知識人たちはフセインの激しい弾圧と教育や文化の破壊に耐えられず,周辺のアラブ世界に亡命してしまいました.フセインは,残った国民,特に若者を近代的な情報や知識から隔離し,自らイスラムの神聖性によって守られるよう,徹底的な宗教教育とナショナリズムで染め上げたのです.そして,10年に及んだサダム主義と制裁の結果として,暗黒時代の子供たちが育ったわけです.

彼らについて,ブッシュ政権は何の情報も得ていませんでした.彼らは情報の収集やその提供者の理解する世界から外れていたのです.この失業した若者たちこそ,ウォル・マートと同じ原理で,世界中の自爆テロを供給するシステムの基盤となりました.彼らはパレスチナ人の自爆テロと異なり,名前を告げて家族に別れの挨拶を録画します.それほど彼らは深く信仰し,それほどまでに蒙昧で,テロ組織は彼らを完全に服従させて利用している,とFRIEDMANは嘆きます

アメリカを攻撃する反政府軍には,思い通りに自爆テロを起こす自信があります.彼らは,自分たちもウォル・マートに負けないインターネットを介した世界的なサプライ・チェーンを構築した,と考えているでしょう.その源泉はイラクにあります.もしその生成メカニズムを説明できる諜報機関があれば,私たちも安心して眠れたでしょうが.


FT December 9 2004

America's ominous housing bubble

By Stephen Roach

(コメント) アメリカの住宅市場バブルに関してRoachは警告します.今度のバブルは,アメリカがゼロ貯蓄と経常収支の赤字に深く落ち込んでおり,住宅資産がアメリカ人家族に株式よりも多く保有されており,その負債を介して,ドル安と長期金利の上昇が最悪の結果をもたらす,という意味で深刻なのです.しかも,連銀は先の株式市場のバブルを封じ込めることに徹する余り,より大きな住宅市場バブルを招いたために,もはやバブル破綻を緩和する術も無く,その責任を負いかねないという不安に苦しんでいるはずです.

資本流入があれば経常収支の不均衡は重要でない,という俗説に対して,資本流出が起きれば経常収支の黒字はさらに大きく要求される,と指摘するのが,当然ながら,関心を引かれます.すなわち,大幅なドル安や不況は避けられない.


BG December 10, 2004

Treasury Snow job

NYT December 10, 2004

Secretary Snow

LAT December 12, 2004

A Diminished Treasury

(コメント) スノー財務長官の留任に関するコメントです.ホワイト・ハウスに逆らわない.特に,減税や社会保障制度の民営化によって,財政赤字が膨張しても反対しない.スノー留任は,市場に対する悪いシグナルです.政策はいつもブッシュ氏の個人的な仲間内の相談で決まります.「スノー氏は,ブッシュ政権の多くの閣僚がそうであるように,単なるメッセンジャーに過ぎない.」 それは国内的にも,国際的にも,重要な課題に対して財務省に発言力やアイデアが欠けることを示しており,深刻な事態を招きかねない.


NYT December 10, 2004

Trade Envoy Is Favorite to Lead World Bank

By ELIZABETH BECKER

ST Dec 15, 2004

Identity test for WTO

(コメント) アメリカ通商代表部のゼーリックRobert B. Zoellickが,ブッシュ政権Uでは,世界銀行総裁になるかもしれません.

パウエルは明確に断り,スノーは留任しました.現在のウォルフェンソン総裁が,来春,再選に立候補するとき,ブッシュ氏は自分の指名する人物を総裁にするチャンスがあるわけです.しかし,ゼーリックの発展途上諸国における人気は高くありません.

有力な競争相手もいますが,ワシントン・ポストのSebastian Mallabyはゼーリック(と国際システムの改革)を強く支持しています.

他方,ゼーリックと競い合ってEUの通商政策を統括したラミーPascal Lamyは,EUからWTOの事務総長候補に指名されました.もちろんSTは,ヨーロッパの農産物保護政策について彼(あるいはEU)の不十分な対応を批判します.国際機関の人事をめぐる政治的駆け引きは複雑です.


ST Dec 11, 2004

Dangerous temptation to spend US dollar holdings

By Harold James

中国人民銀行と日本銀行は問題に直面している.

両国は莫大な外貨準備を既に蓄積し,2兆ドルを超えると推計される.問題は,その大部分が,価値を失いつつあるアメリカ・ドルである,ということだ.

アジアの中央銀行に示されるすべての政策がどれも魅力を欠く.もし彼らが何もせず,準備を維持するのであれば,その損失も増えるばかりである.もしドル価値を高めるために買い増せば,同じ問題を拡大してしまうだけだ.

逆に,もし他の通貨に準備を分散しようとすれば,ドル安は加速し,彼らの損失も増える.そして他の可能な準備通貨について,同様の問題を抱える.

ユーロが,ドルに代わる国際通貨として喧伝されている.熱狂的なヨーロッパ人は,アジアに準備を分散するように薦めている.しかし,数年前に見た,ユーロについての同じシナリオが繰り返されるだろう.巨額の財政赤字,低成長によって,外国為替市場はユーロの将来を全く信用せず,売りに火がついて,ユーロを保有した中央銀行は損失を被った.

世界の主要準備通貨について,今日の懸念と重なる歴史がある.戦間期に,1930年代の大不況でバラバラになった経済が,苦痛に満ちた,しかし重要な教訓を残している.

1920年代には,世界経済は固定為替レートによって再建された.この制度では,多くの国が(第一次大戦前の制度のように)金ではなく外国為替,特にイギリスのポンド・スターリングによって準備を保有していた.1920年代を通じて,イギリスの貿易パフォーマンスに不安を感じる通貨当局もあった.すなわち,今日のドルのように,通貨が過大評価されており,下落する必要がある,というわけだ.

外国の中央銀行は,イングランド銀行がポンドの為替レートについて見解を見解を変えようと熟慮しているのか,と尋ねた.もちろん彼らは,イギリスが金とのリンクを切るような意図はまったくない,と言われた.強いポンドこそが,厳粛な,長期に及ぶ約束である,と(「強いドル」政策について,今日も,スノー財務長官はその維持を公言した).ただフランスだけはイギリスの言葉を無視し,そのスターリング保有額を大きく売却した.

避けがたいものとしてイギリスの切下げは1931年9月20−21日に起きた.多くの外国中央銀行は深刻な損失を被り,外貨準備管理の失敗を責められた.多くの者が解任され,関わりのある人々は信用を失った.オランダの中央銀行家,Gerard Visseringは辞任し,彼の期間が負ったバランス・シートの痛みの結果として,遂には自殺した.

イギリスと多くの取引がある国や,イギリス帝国の支配下にあった国は,引き続いてポンドを準備とした.第二次世界大戦を通じて,イギリスはこのことを利用し,アルゼンチン,エジプト,特にインドに対して,魅力の無い通貨であったけれども,スターリング建で莫大な債務を残せた.戦争が終わると,それらの国は準備を新しい使い道に向けた.すなわち,支出したのだ.

その結果,この準備は経済的なポピュリズムの炎に油を注いだ.巨額のスターリング残高の保有者であったインドのネルー,エジプトのナセル,アルゼンチンのペロンは,国有化を推進し,公的部門の支出を増やした.彼らは鉄道を敷き,ダムを築き,製鉄を行った.スターリング残高こそ,あの莫大な,非効率的国家計画体制の出発点であったのだ.それは成長の見通しを長期にわたって損なってしまった.

今日,巨額の準備を保有する国に同様のことが起きるだろうか? インフラを近代化する主要な計画に融資するため,外貨準備を使うという明確な要請は,インドで起きたように,中国と日本でも起きるだろう.その他の分野でも同じような誘惑がある.

こうした誘惑は取り除くべきだ.外貨準備保有は時代遅れの考え方であり,世界はもっと中央集権的でない国際金融システムに向けて進もうとしている.確かに,固定為替レート制度では,不均衡をならすために準備が重要であった.しかし,1970年代以降,為替レートの弾力性を拡大する方向に世界は動いた.

準備は,少数に財を生産する諸国にとって,特に商品生産者にとって,明らかに重要である.なぜなら彼らは世界市場の価格の予測し得ない大きな変動に直面するからだ.コーヒーやココアの輸出に依存することは,慎重な準備の蓄積を要求する.

しかし,このようなことは,多様な輸出を行っている中国や日本,インドに当てはまらない.現代の大幅な黒字国は,巨額の準備を必要としないのだ.彼らはできる限り速やかに準備を減らすべきだし,そうでないと蓄積された財源をとんでもない使途に向け始める.


WP Friday, December 10, 2004

A Chechnya Plan: Talk

By Ilyas Akhmadov(foreign minister of Chechnya in 1999)

(コメント) 第二次チェチェン戦争,とAkhmadovが呼ぶロシアによる軍事侵攻は,国際テロリズムのネットワークによるものではなく,一貫して,ロシア軍の撤退を求めている.反政府軍は市民を攻撃対象とせず,キリスト教やアメリカを敵視してもいない.他方,ロシア軍はチェチェン政府との交渉を拒み,人民を全面的なテロ行為で脅し,穏健な勢力を排除しようとしている.ロシア軍は地域の犯罪者と同盟し,むしろテロを産業としてしまった,と.

Akhmadovは紛争の解決方法も示します.まず交渉の席について,停戦に合意し,軍事衝突を避けることです.もちろん,交渉のためには信頼醸成が必要でしょう.それは避難所や非戦闘地区を設け,捕虜を交換し,人道支援のための輸送経路を合意すること,などです.

「すでにこの戦争は,第二次世界大戦後のヨーロッパでもっとも激しい暴力と残酷さを示している.市民の犠牲者はコソボに対するセルビアの戦争をはるかに越えており,ボスニアの水準に達する.しかし国際社会は概ね無視している.解決に向けた政治的意志が無ければ,チェチェン紛争はさらに10年を要し,あるいは,すべての住民がいなくなるまで続くだろう.」

LAT December 14, 2004

An Old-Fashioned Poisoning

WP Monday, December 13, 2004

Russian Motives

By Fred Hiatt

FT December 15 2004

Quentin Peel: Putin is a victim of his own errors

By Quentin Peel

NYT December 15, 2004

The Poison Puzzle

By NICHOLAS D. KRISTOF

FT December 16 2004

Is Putin too authoritarian for his own good?

By Stefan Wagstyl and Arkady Ostrovsky

(コメント) プーチンの冷戦型発想や東欧・周辺への介入が批判されています.なぜプーチンは介入したがるのか? 帝国のノスタルジー,個人的な保身,絶対的な統制への欲求,安定性を求める当然の願い?

はっきりした一つの理由は,盗み,である,とHiattは考えます.人口減少,エイズの蔓延,アルコール中毒,などに示されるように,ロシア社会は崩壊しつつあります.法や秩序を失った社会では,石油と犯罪だけが富をもたらします.メディアを支配する政府がユコス型の収奪を行っても,誰も反対などしないのです.そして収奪できる富を探して,支配を拡大します.

いつまで西側諸国はプーチンを宥和し続けるのか? 誰もロシアを孤立させたいとは願わないけれど,ブッシュ氏は明確に批判するべきである,とPeelは求めます.来年のモスクワ・サミットでは,プーチンに説明を求めることが多くあるでしょう.

プーチンは,ロシアをさ迷う,頭を失った騎手にも喩えられます.独立した周辺諸国は,この亡霊が冷戦を復活させるのではないか,と恐れています.西側はプーチンに騙されました.彼はしらふのボリス・エリツィンなどではなく,むしろロシアのピノチェトやフランコでした.ロシアを自由市場型の民主主義に導くどころか,ファシズムに導いている,とKRISTOFは批判します

(プーチンのロシア) = KGB(硬質国家論,ユコス解体,チェチェン戦争,ウクライナ介入,・・・資本逃避)


IHT Saturday, December 11, 2004

What if things go wrong in China?

William Pfaff

CSM the December 15, 2004 edition

Love and money reshape family in China

By Robert Marquand | Staff writer of The Christian Science Monitor

CSM the December 17, 2004 edition

Women in China finally making a great leap forward

By Robert Marquand | Staff writer of The Christian Science Monitor

(コメント) 1914年,1929年と,国際経済の変動に対して示された各国の脆弱さは,今また,中国の政治経済変動によって示されるだろう,とPfaffは考えます.1914年以前に人々が国際経済の発展で戦争は不可能になったと信じたように,今また,中国の政治的急進化や経済破綻は不可能だと信じています.どちらも間違いだ,と分かるはずだ.要するに,トレーダーたちは歴史をまるで知らないだけだ,と.

通貨,貿易,資源,・・・ 特に関係を深めた日本は,その破壊力に何か備えがあるでしょうか?

他方,中国の家族に何が起きているのか,以前から,私には関心がありました.共産党支部も,労働単位のボスも,公安も,今では若者の結婚に関わらない,という叙述で始まる特集記事です.もし社会保障が整備されなければ,4人の老人たちの面倒を見たくない女性は,よほどの金持ち男性と以外は,結婚しないのではないか・・・? おそらく中国社会の変化は,成長やその破綻よりも,世代交代によって加速するでしょう.


WP Saturday, December 11, 2004

Stitching Up Global Labor Rights

By Karen A. Tramontano(president of Global Fairness Initiative)

FT December 14 2004

Capturing the rent

NYT December 14, 2004

Bangladesh Is Surviving to Export Another Day

By KEITH BRADSHER

FT December 16 2004

China must back its textiles sector

By Pamela Mar

FT December 16 2004

Greatest economist of the 20th century cannot be described as an 'apostate' on free trade

By Jagdish Bhagwati

WP Thursday, December 16, 2004

Textiles and China

(コメント) Tramontanoは,多角繊維協定による割当制度が廃止されても,カンボジア型の,労働者の権利を保証する生産国が優先される新しい国際制度を望んでいます.

カンボジアの22万人に及ぶ繊維産業の労働者に含まれる22歳の女工Yung Vannaは,この世界的な割当制度と,アメリカとの通商協定から利益を受けてきました.カンボジアの繊維産業は目覚しい発展を遂げており,1999年から2002年で300%も投資が増えた.ILOはその理由の一つに労働条件の改善を挙げています.

カンボジアには労働者が苦情を言えるシステムが構築されており,ILOの求める労働基準を確実に守るような工夫がなされています.その結果,先進諸国の消費者や労働者から,生産国の労働条件に関する懸念や厳しい不満を受けている衣料品メーカーは,カンボジアに投資することを「質の保証」と見なし始めた,というわけです.市場型の社会的責任モデルとして,カンボジアの発展に注目すべきだ,とTramontanoは主張します.

しかし,もしこのまま中国との価格競争が始まれば,生産者たちは再び労働条件を無視し,世界の繊維・衣服産業は中国の労働条件で競争を強いられるのではないか? と警鐘を鳴らします.既に工場は閉鎖されつつあり,Yung Vannaも職を失いました.

FTへの投書を二つ読みました.スイス在住のMar女史は,中国が繊維製品輸出によって雇用を増やし,成長を実現することを理解しています.しかし他方で,競争に敗れて生産を止める発展途上諸国もあるでしょう.そこでメキシコからバングラデシュ,ロサンジェルスからイタリアに広がる中小の生産者は,その生産の質を高め,注文から仕上げ・配送までの時間を短縮して,中国との競争に立ち向かいます.

もしそうであれば,中国にも同じことが言えるでしょう.豊富な地下資源や海洋資源を保有する国が,その輸出を制限することで長期的に安定した成長を実現するように,例えば,中国も輸出税を課すことで,発展途上諸国や先進諸国の競争(と保護主義)を緩和し,国内の生産の質や労働条件の改善をはかる(そして批判をかわす)ことができます.

FTへのもう一つの投書は,自由貿易論の指導者であるBhagwati教授からです.彼は,最近の転向したSamuelsonの論文が保護主義の新しい支持論であり,Bhagwatiのような自由貿易論に敵対するものだ,という誤解を退けています.

Samuelsonが指摘したのは,「外部の」発展は自由貿易の利益を減らす可能性がある,ということです.例えば,イギリスが自動車を生産しているときに,日本が自動車生産を学んで輸出すれば,その価格が下がって,イギリスは不利益を被る,という具合に.しかし,@自由貿易論はそれを理解している.Aこの場合,貿易の利益は減少するが,保護主義に転換すれば,それをさらに悪化させるだけだ.Bこの可能性が憂慮するべき問題となるかどうかは,事実の問題だ.

実際,もし日本の生産システムが優秀なら,アメリカやイギリスの生産者は「ジャスト・イン・タイム方式」を学んで,自ら導入するでしょう.その結果,今度は日本の貿易の利益が減少します.しかし,いずれのケースも生産性は改善され,消費者の利益は増大している,と考えるわけです.まさにこの点で,BhagwatiSamuelsonの論文が示す関心,すなわち「自由貿易は労働者や中産階級の利益を損なう」という命題を批判します.もちろん可能性として,それは昔から自由貿易論者によって指摘されていました.そして実証の問題として,実質賃金を下げる主要な原因は技術革新であり,貧しい国との貿易ではないのです.もちろん,この点で,論争は継続している,と.

WPは,中国への生産移転に関して,その予測が過大であった,と述べています.人民元が切り上げられるでしょうし,中国の生産力拡大の余地は無限ではありません.生産者も複数の生産拠点を求めており,消費地に近い生産拠点のメリットを重視しています.また,「事前に」セーフガード的な保護関税を要求する動きは間違いだ,と批判します.批判を和らげるために中国政府が発表した,輸出への課税にも反対です.

WPは,この割当制度を廃止することが貧しい発展途上諸国に2700万人の雇用をもたらす,という予測を示して,実施を支持します.もし自由化によって実際に損失が急速に増大すれば,セーフガードも検討されるでしょう.しかし,中国に対する世界の保護主義を煽るよりも,その影響を受けるアフリカやラテン・アメリカ,その他の諸国に対するアメリカ市場の開放を示す方が,優れた対応である,と主張します.


FT December 12 2004

Germany struggles with the stability pact

By Bertrand Benoit and George Parker

FT December 12 2004

Wolfgang Munchau: Anything but a stability pact

By Wolfgang Munchau

The Guardian, Wednesday December 15, 2004

Stability pax

(コメント) 「安定協定」というEUの財政政策に関する合意が,ドイツとフランスの違反によって崩壊しつつあります.協定の中身や実効性が疑われるとともに,EUの統合化に対する不安やユーロへの不信が高まるでしょう.その協定は既に,改訂されてもされなくても,財政政策に有効な枠組みを提供していない,と報告されています.

確認された主要な効果とは,政府が財政赤字の統計や会計基準,制度などを偽って,協定を守っているように見せることです.それでは,どうするべきか? 改訂して強化するか,それとも完全に破棄するか? とMunchauは問い掛けます.

たとえ協定を強化して財政赤字を3%に制限しようとしても,政府はさらに偽装を強めるでしょう.すなわち,Goodhart's Lawが作用します.Charles Goodhartは,金融政策に関して,貨幣供給とインフレ率との関係が,インフレ目標を採用した途端,崩れ始めることを発見しました.

そもそも,なぜ安定協定は採用されたのでしょうか? Munchauは二つの理由を挙げます.一つはドイツのイタリアなど,財政規律のゆるい諸国に対する不信感です.もう一つは,アメリカが1990年代に成長を実現した"Rubinomics"を再現することでした.それは,ルービン財務長官が唱えた,@財政赤字の削減による金利低下,A金利低下による投資と消費の増大,B生産性と雇用の増大,C成長加速による税収の増大,その結果として,これらが好循環を形成するだろう,という主張でした.

しかしIIEのPosenは,ユーロ圏やドイツにはこの仮説がどれも当てはまらない,と言います.それゆえ,今の形であれ改訂されたものであれ,安定協定は機能せず,1980年代に主要諸国が毎年のように集まっては実行できず,改訂していた合意のように,信用を失うだけなのです.完全に放棄するのが望ましい,とMunchauは考えます.

FTは,EUの諸政府が必要としているのは,より緩やかな合意であり,同時に,各国政府が自国の需要不足を解消しながら,景気循環全体を通じて財政規律を回復し,市場から信用を得ることだ,と言います.そのための相互の監視と支援が,共通通貨と財政安定協定が目指した本当の目標であったはずだからです.

「ドイツの場合,持続的な財政赤字を示すことは完全に正しい.ユーロを採用することで,ドイツは通貨政策を放棄した.深刻な不況やドイツ再統一のような問題に直面すれば,ドイツには減税し,政府が借入れを増やすほかに,ほとんど選択肢は無い.」 「安定とは経済的な繁栄から生じるものであって,機械的なルールで作り出せるものではない.」


FT December 12 2004

A stronger Security Council is no solution

By Michael Glennon

(コメント) 安保理の拡大は世界の安全保障を改善することにならない,とGlennonは考えます.パネルは「世界的な秩序」を存在するかのように仮定するが,何が正しい戦争か,という問題に,唯一の答は存在しない.拡大された安保理がその基準をいくら議論し続けても,次の戦争や虐殺の犠牲者が減るわけではない,と言います.

なぜ武力衝突や大量虐殺が起きたのか? 国連憲章はどの程度有効であったか? 憲章を維持する利益はコストに値するか? それは今も国際的に支持されているのか? もっと地域的な平和維持活動の方が上手く機能するのではないか?


The Observer, Sunday December 12, 2004

America's biggest export: anarchy

William Keegan

(コメント) G8を主催するにあたって,イギリス政府は何を主題とするか,議論しています.ブレア首相は地球温暖化対策を,ゴードン・ブラウン蔵相は貧困解消のための援助倍額と「アフリカのためのマーシャル援助」,を求めます.しかし,Keeganはかつてのイギリス政治家が言ったことを思い出します.「アメリカはより豊かになることと,より強くなることにしか関心が無い.そして,必要なときだけ,他国に協力を求める.」

だから,次のG8で話し合うことは「経済政策の国際協調」である,と言います.イラクに無秩序を輸出したように,アメリカはヨーロッパにも金融市場の無秩序を輸出しつつある,とヨーロッパ人に見られています.ドル暴落を煽るような,スノー財務長官やグリーンスパン議長の最近の発言は最悪でした.しかし金融市場は,政府が完全に思い知るまで,極端な動きを示すのが通例です.もはや1ユーロ=2ドルも視野に入っています.

為替レートなど重要ではない,という連中は,今こそ思い知るべきです.イングランド銀行の金融政策も,その効果はポンドの動きに左右されます.かつては,中央銀行総裁と財務長官が集まって,外国為替市場への介入を相談していました.今も,日本や中国はそうやっています.ただし,ブッシュ政権やアメリカ連銀は為替レートを無視しています.アメリカは安定性を無視して成長を求め,ヨーロッパは成長を犠牲にして安定性を求めています.

アメリカの経常収支赤字は,史上空前の,GDP比6%です.ゴードン・ブラウンが望むような理想の世界では,G8で世界経済の災厄を逃れるための合意が形成されます.しかし,現実の理想とは異なる世界では,アメリカが緊急の必要に迫られたときだけ,そのような合意が形成されます.計画的なドル安(むしろ主要通貨の増価)を求めたプラザ合意ではなく,急激なドル安を止めようとしたルーブル合意に,初めて,アメリカは財政赤字削減を声明に入れました.

今また,アメリカへの資本流入が減少し始めています.中国は人民元を切上げ,ヨーロッパは内需を刺激することです.こうした政策の変更に関する合意があるなら,協調介入は効果を発揮するはずです.


FT December 12 2004

Amity Shlaes: Focus on growth, not backbiting

By Amity Shlaes

FT December 14 2004

Credible policies will break dollar's fall

By Raghuram Rajan(economic counsellor and director of the research department at the IMF)

Dec. 14 (Bloomberg)

Asia Can Save Global Growth From Dollar's Slump

Andy Mukherjee

Dec. 15 (Bloomberg)

BOJ a Role Model for ECB? Okay Stop Laughing

William Pesek Jr.

(コメント) はたして,経常赤字はアメリカの過剰消費が責められるのか? ドル暴落は避けられないのか? 主要諸国による政策協調は不可能か?

ドル安は,懸念されるほど大きなものではないでしょう.アメリカが黒字を出す必要はなく,また,正しい政策と供給側の弾力性が前提できれば,ドル安による調整が迅速に進むはずです.むしろ,調整を回避する言い訳にアメリカを非難し続けてきたアジア諸国の方が,通貨間の大幅な為替レート調整を市場に強いられるかもしれません.政府は非難合戦を止めて,何よりも自国の利益(長期的な成長と安定を確保すること)に従い,行動を起こすときです.

たとえばIIEのJohn Williamsonは最新の研究で,中国の人民元を調整し,経常収支の黒字を解消することが,中国国内のバブルを抑えて,長期的な成長を確保する道である,と主張しています.あるいは,かつて日本が行ったように,その過剰貯蓄をアメリカに民間投資することでしょうか? カリフォルニア大学デイヴィス校のWing Thye Wooは,健全な金融システムが構築されて国際的な仲介や投資を円滑にするよう求めます.

Pesek Jr.は,シュレーダー首相が日本で「その素晴らしい通貨政策から学びたい」と発言したことに仰天します.日本は先進工業諸国中,唯一,過去70年間で深刻なデフレを続けた国であり,ゼロ金利でもマイナス成長しかできない国なのだ.何を学ぶと言うのか!?

もちろん,その発言の意味は,外国為替市場への介入と円高阻止です.しかし,ドイツと日本との違いは,ドイツには金利を下げる選択肢もありますが,日銀は為替介入しか手がないことです.他方,Pesek Jr.は,日本が模範どころではなく,アジアで最大の市場規模を持ちながら,国内需要を管理できず,そのため輸出や為替市場での円安誘導に頼って,アジア諸国に「重商主義的政策」を輸出している,と批判します.それは結果的に改革を遅らせ,長期的な成長を破壊して,国民を苦しませている,と.


FT December 13 2004

Bush needs decisive change of course

By Fred Bergsten(director of the Institute for International Economics)

(コメント) ブッシュ政権Uは,社会保障制度や税制の改革,外交政策の革新などを唱えていますが,それより前に,二つの国際経済における深刻な脅威に対応を迫られるだろう,とBergstenは考えます.その対応次第で,他の政策は大きく変わってくるのです.二つの脅威とは,経常収支不均衡によるドル暴落と石油価格高騰です.

Bergstenの以下のような指摘に,アメリカ政府の今後の姿勢を示すものとして,私は関心を持ちました.

世界貿易問題もエネルギー問題も,主要なプレーヤーが主要な価格を操作することで大幅に強められている.中国やその他のアジア諸国は通貨の調整を阻止するために激しく介入している.またOPEC諸国はエネルギー分野の投資と生産を30年間も妨げてきた.ブッシュ政権とその他の市場指向的な政府は,こうした露骨な価格操作に対して,特に抗議するべきだ.」

「かつての共和党政権は,第二期ブッシュ政権が直面するのと同じ状況に対して,その政策を変更して対処した.特に,為替レートと貿易に関する政策を転換した.ほぼ3年に及ぶドルの「ビナイン・ネグレクト」政策を経て,ニクソン政権は金との交換性を停止し,必要な切下げを実現させるために輸入に課税した.またレーガン政権は,第一期の純粋な「ビナイン・ネグレクト」政策を経て,プラザ合意による30%のドル減価を画策した.ブッシュ政権がこれらの問題に決定的な行動を示さないまま4年間を平穏に過ごせるとは,実際,考えられないのだ.そうであれば,二期目の成功を期して,政府はアメリカおよび世界の経済を守る新しい経済・エネルギー政策を即座に始動するべきだ.


FT December 13 2004

John Kay: The right to join the EU is not a reward

By John Kay

IHT December 15, 2004

Offer Turkey a 'privileged partnership' instead

Karl-Theodor zu Guttenberg

FT December 15 2004

The EU seems set to start talks with Turkey

By Daniel Dombey and Vincent Boland

FT December 15 2004

European Comment: Turkey can boost EU business

By Brian Groom

FT December 16 2004

Turkey would be better off outside the EU

By Hasan Unal

(コメント) トルコのEU加盟やユーロ採用は,互いの経済成長にプラスとなるでしょうか? また,ウクライナもEUに加盟することが望ましいのでしょうか? しかし,EUに既に加盟している諸国は失望を語っています.それは矛盾したことでしょうか?

Kayは,自由と民主主義を制度的に拡大し,確立するメカニズムとして,EUは一定の成功を収めた,と考えます.しかし,ヨーロッパで前世紀のすべての期間に民主主義を守った3カ国,イギリス,スウェーデン,スイスは,EUに関しても,ユーロに関しても懐疑的です.

「EU加盟は報償ではない.アメリカ人の多くは,プエルト・リコがアメリカの51番目の州に加えることで,その民主主義や平和的な共存,経済発展に報いるべきだ,などと議論しない.しかし,EU拡大については,多くの者がそれと同じことを話している.」

トルコの加盟や,それ以外の選択肢について,他の論説は考察しています.本当に,トルコのような発展途上国が,EUと同じ金融政策や社会的規制,ブラッセルの煩雑な管理や基準に従うことが好ましいことなのか? むしろ必要なのでは自由貿易協定ではないか?


LAT December 13, 2004

Dollars, Sense and Social Security

By Olivia S. Mitchell and Thomas R. Saving

WP Monday, December 13, 2004

Flaws of Private Accounts

By Sebastian Mallaby

FT December 14 2004

Bush’s new deal

By Andrew Balls and James Harding

BG December 14, 2004

What they don't tell you on Social Security reform

By Thomas Oliphant, Globe Columnist

WP Wednesday, December 15, 2004

Who Will Say No?

By Robert J. Samuelson

FT December 16 2004

New New Deal

(コメント) 社会保障制度の何が問題なのか? その費用は財政にとってどれほど深刻なのか? 民営化が問題を解決する見込みはあるのか? 増税との関連は?

ブッシュ氏の願いが,フランクリン・D・ルーズベルトのニュー・ディール政策を逆転させて,アメリカ史を書き換えることであると言われても,もはや誰も驚かないでしょう.税制による所得再分配を破棄し,社会保障制度を解体・民営化して,株式市場が政治・社会システムまで支配する,ニュー・ディール以前のアメリカは,どこか彼の故郷テキサスに似ているのかもしれません.

いや,赤字まみれの政府の貯蓄になど頼らず,どの家族も「自己責任」で株式や債券に投資し,社会保障を自前で手に入れなさい,というウォール街への勧誘です.


IHT December 15, 2004

Letter from Europe: Dear President Bush...

Giuliano Amato, Ralf Dahrendorf and Valery Giscard d'Estaing

(コメント) イタリア,イギリス,フランスの政治家が示した,大西洋間政治=経済同盟の再建を呼びかける論説です.ただし,多角主義を好まないブッシュ氏にとって,アメリカ政府の利益を反映しているようには見えないでしょう.

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The Economist, December 4th 2004

The disappearing dollar

The future of the dollar: The passing of the buck?

(コメント) ドルが国際通貨の座を退くことは,かつてポンドがそうであったように,紆余曲折を経た時間のかかる作業です.しかし,退くことに違いはありません.The Economistは,何に対してか? と問います.

確かに,ドルが巨額の債務を抱える国の通貨であることは,投資家たちを不安にさせるでしょう.しかしユーロや円は,国際市場で,その地位を引き継ぐ力がないようです.人民元はまだ登場もしていません.アメリカの経常赤字がドル安を予想させるとしても,結局は,世界の貯蓄と投資のバランスが変わらなければ調整はできません.誰も極端な不況やパニックを経て調整されることは望んでおらず,ドル暴落の回避が合意されるはずです.もちろん,歴史が示すように,政治的な危機によって阻まれることもあるわけですが.

ドルの退位した世界は,ユーロでも人民元でもなく,複数通貨による安定化を模索する「システム」の世界です.


Ukraine’s election: Russian roulette

Ukraine: In search of plan B

(コメント) ウクライナについて注目されるのは,ユシュチェンコ支持派の冷静で,計画された民主化運動と,東西分割も軍事紛争よりはましだ,というThe Economistの現実的な指摘です.ソ連邦崩壊後の国境を画定することは,ロシア人の帝国意識を解体することと同じく,時間のかかる作業なのだ,と感じました.


Kofi Anan: Courage to fulfil our responsibilities

Congo, Rwanda and the UN: Is this the world’s least effective UN peacekeeping force?

(コメント) アナン事務総長は,私たちが「結ばれた世界」に住んでいること, “extraordinary interconnectedness” を強調します.国連改革を進めるには,アメリカの関心と発展途上諸国の関心,すなわち,「テロリズム」と「貧困」とを,国連の本源的な超国家権力の源泉である「集団的な安全保障システム」の正当性と結び付けなければならないからです.

しかし,現実のPKO・PKFは失敗を重ね,住民たちから軽蔑され,憎まれてさえいる,という記事に沈黙します.コンゴの平和維持を担うはずであった最大規模の国連軍(MONUC)は,1999年から展開していますが,基地の周辺でさえ住民たちが武装勢力に惨殺されるのを止められません.「死体を数えに来ただけだ」と非難されています.国連軍が発砲したのは,その不介入に抗議する住民たちのデモに対してだけであり,住民3人が死亡しました.

国連軍兵士たちの士気は低下し,コンゴ人の子供に対して性的暴行を加えた嫌疑をかけられる者や,精神障害に冒される者もいます.ある兵士は,ヤギが話し掛けてくる,と苦しみます.なんと言っているのか? 彼には,「助けてくれ! 助けてくれ!」と聞こえるのです.