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IPEのタネ 12/20/2004
1年をふり返る特集番組が並ぶ季節です.その映像とともに流れる「なだ,そうそう」を聞いて,良い曲だと思いました.でも,どうしてゲスト解説者がビートたけしや田中真紀子なのか? 東京と地方の人気者から,権力者に苦言や皮肉を飛ばせる異端を集めた,というわけでしょうか? そんな毒舌のバラエティー・ショーより,もっと映像や事実だけを知りたい,と思いました.
「殺人犯か! あんたらがこう言うのを昨日の夜あの人が聞いていたら,きっとあんたらも始末してたさ!」(張平『凶犯』より) 現実の事件を取材して書かれた小説である,と解説にありました.信じ難い気もしましたが,JIM YARDLEYの記事(NYT, December 8, 2004)は,その現実の一つを伝えています.
狗子の妻,桃花は,むずがる子供を平手で打って言い放ちます.「ごはんが食べたいだって! 父ちゃんが殺人犯になったっていうのに,まだそんなこと言ってるのか.母ちゃんの足でも食べるがいい.ご飯が食べたいなら,母ちゃんについて省政府まで行くんだよ.北京まで行くんだ.この世の中のどこかには,きっと筋を通してくれるところがあるはずだ.たとえ十年乞食をしても,きっと訪ねあててみせる.」(同上)
しかし,実際,筋を通してくれる者など見つかりません.天安門広場,毛沢東の肖像画の前で,灯油をかぶって自殺した農民がいたことを,私は思い出しました.11月28日には,炭鉱のガス爆発事故によって293人もの鉱夫たちが死にました.166人は事故後の救出が送れて死亡したようです.争乱が拡大すると,政府は道路を封鎖し,報道も規制します.また,地方政府による土地の強制収容をめぐって,中国全土で農民の抵抗や叛乱が起きています.もし中央政府が不満を聞く態度も,それを解決する能力も持たないのであれば,早く,この「ダム」を開放する方が良い,と私は思います.すなわち,政治的代表システムを開放することです.
NHK・BSで,セルビアの戦争犯罪者に関する「世界のリポート」を観ました.「息子は19歳でした.」 行方不明の息子を探す母親は言います.「深い悲しみが胸を締めつけます.私は死ぬまで,息子を探し続けます」,と彼女は訴えます.また,夫を殺された婦人は,その虐殺の写真を持っています.それは犯人たちが虐殺を自慢して撮ったものです.死体は見つかっておらず,未だに法の裁きもありません.イスラム系住民の虐殺を指導したカラジッチ,ムラジッチなどは,今も逃亡を続けています.彼らは国境付近の山岳地帯に住んでおり,セルビア民族主義者の英雄として扱われているのです.
こんな不正義と野蛮だらけの世界を考えるゼミのテーマ・ソングとして, “No, No, No, No!” を作りました.私の作詞(?)作曲です!?
アメリカのABCニュースでは,World Prayer Centerを紹介していました.ブッシュ再選に大きく貢献したキリスト教の強硬派たちが「祈りの力」を結集するため,何について祈るべきか,世界に指令を発するセンターを建てました.先進的な文明を実現しながら,信仰心を今のアメリカ大統領ほど政治的に利用する指導者はいなかったでしょう.まさに,十字軍の再現です.軍事力や,情報システム,通貨システムを通じて,そのような政府が指導する世界に,私たちは生きています.
世界的な経済変化は,確かに,天地創造ならぬ「創造的破壊」をもたらします.もし市場が人々の公平性や市民的な平衡感覚を失わせれば,正義が,しばしば,悪辣な政治家の毒ガスになり,虐殺の掛け声にもなるでしょう.宗教的な信念が,普遍的な愛ではなく,偏った政治的目的を絶対視する野蛮な意志を人々に植え付ける道具ともなるのです.
どうすれば,無名の市民たちが政府や狂信者の群による災厄を免れ,虐殺の犠牲者は報復に頼らず正義を得,宗教的な信仰心を政治的に利用されることのない,平穏な社会を得られるのでしょうか?
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