IPEの果樹園2004
今週のReview
12/13-12/18
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世界の英字紙HPからコラムを要約もしくは紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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三つだけ推奨するとしたら?
1. フランスの革新 :国家主義のフランスを変える保守派の革新政治家が登場した背景.
2. アジアの予兆 :貿易・投資・通貨,そして安全保障においても,アジアは急速に変化する.
3. ドル安の解剖 :ドル安が世界の不均衡を調整するのか? 解決策とは,市場より政治家の問題か,政府間の合意は可能か?
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ただしFT:Financial Times, NYT:New York Times, WP:Washington Post, LAT:Los Angeles Times, BG:Boston Globe, ST:Straits Times, IHT:International Herald Tribune, CSM:Christian Science Monitor, JT:Japan Times
Dec. 2 (Bloomberg)
Too Many BMWs in Shanghai? China Returns to Earth
Doron Levin
(コメント) 中国自動車市場も,離陸から着陸の時期を迎えているようです.一方では政府の景気過熱に対する抑制策,他方では自動車会社の過剰投資が,自動車価格の引き下げ競争と,デフレ期待による買い控えをもたらしつつある,と指摘されています.先発したGMやフォルクスワーゲンは市場シェアを保ちつつ利益を確保できるでしょう.しかし,日本企業が厳しい状況を迎えるかもしれない,という指摘は特に見えません.
中国におけるインフレとデフレは同時に進行しています.そんなバカな!? と貨幣を重視する研究者は起こるかもしれませんが,8割引の特価と過剰投資とが同時に起きている国,いくつものマンションや高級自動車を現金で購入する企業家と駅や高架下で野宿する労働者が同居する国なのです.インフレとデフレだって,多分,同居できるでしょう.
市場が分断されて,統計も正しくない,と言う方がよいのでしょうか?
NHY December 2, 2004
Talking Our Way to Peace
By JAMES A. BAKER III
FT December 3 2004
Mideast upheaval may be welcome
LAT December 6, 2004
Stark Choice for Palestinians
FT December 9 2004
The need for a new framework for Gulf security
(コメント) BAKER IIIは,イスラエル,パレスチナ,アメリカによる中東和平の交渉再開を呼びかけます.なぜなら,ブッシュ氏の再選とアラファト没後のPLOは,中東和平の交渉再開を可能にするからです.ブッシュ氏はイラク再建と中東民主化を自身の政治課題をとして公言しています.BAKER IIIは,パレスチナ国家の建設をふくむ和平の進展が,イラク再建と互いに好循環をなすものである,と主張します.
同時に,相手の殲滅を種著する両者の過激派を除けば,イスラエルもパレスチナも対等な独立国家として平和的に共存する「ロード・マップ」の考え方を国民・住民の多数が支持しています.交渉が再開されれば,クリントン,ムバラク,アラファトが合意の寸前まで至った2000年のキャンプ・デービッド会談は有効な出発点となるでしょう.
交渉によって平和的に解決するためにBAKER IIIは,1.パレスチナが選挙によって民主的代表を決めること,2.パレスチナ政府はテロを政治的な目定のために使用することを明確に否定し,そのような集団を排除すること,3.イスラエルは選挙のためにパレスチナ住民の選挙活動や投票の自由を保障すること,4.シャロン首相はガザからの撤退をその他の占領地域からも撤退する最初のプロセスとして認めること,また,5.テロを止めなければ交渉を始めないという立場を改めること,などを主張しています.そして,アメリカが交渉再開を積極的に促すことです.
イスラエルの獄中にありながら,PLO選挙でパレスチナの民衆に支持されるMarwan Barghoutiの引き起こした混乱を,FTは支持しています.Barghoutiは,ヨルダン川西岸のパレスチナ人若手指導者としてインティファーダを戦いました.オスロ和平プロセスにも参加し,獄中ではヘブライ語を習得して交渉に貢献しました.イスラエルの和平派とも親交があります.Barghoutiは2000年の反抗の際に逮捕されましたが,西岸で抜きん出た支持を得ています.獄中からPLO議長選に立候補しました.
他方,イスラエルの政治はいつも分裂していますが,今は特に流動化が強まっています.ガザからの撤退でシャロン政権の与党,リクードは分裂しましたが,労働党や和平派が政権を執るには,やはりイスラエルでも選挙が必要だ,とFTは考えます.すなわち,Barghoutiがパレスチナの独立国家案を支持する政治勢力を再編する必要があるのと同じように.実際,先に短期間の停戦が合意できたのは,アッバス首相よりも,Barghoutiが武闘派を説得できたからだった,と言います.その和平も,イスラエルによるインテリファーダ指導者の暗殺で終わりました.
パレスチナの選挙による新しい指導者が,ハマスなどの武闘派や,和平交渉の相手を求めるイスラエルやアメリカに,政治的な正当性を示せるかどうか,それは選挙の過程に懸かっています.和平のためには,イラクの選挙にも劣らない困難を克服して,新しい指導者が現れるしかありません.まず,イスラエルによる就職者への支援を終わらせ,パレスチナ過激派によるイスラエル市民への自爆テロを終わらせることです.
最後の論説は,指導者よりも,地域の安全保障制度に注目します.より一層の協力関係を目指して,交渉の常設化,安全保障面での協力,地域外との協力と参加,などを考察しています.
WP Thursday, December 2, 2004
The End Of the Age Of Inflation
By Robert J. Samuelson
(コメント) インフレの時代は終わった? では,何が必要か? アメリカのインフレは1960年に2%足らずであったが,1979年に13%に達し,その後は次第に低下して,2003年に再び2%を切った.インフレ率が上昇する時期には不況が多く,インフレが低下する時期は生活水準が改善して好況が多い,とSamuelsonは考えます.インフレの低下は金利を抑え,投資を促し,株価と生産性を上昇させます.
しかし,こうした利益は高インフレを克服する過程のものであり,今後は生じないだろう.脱インフレの経済ではどうなるか?
FT December 3 2004
France must embrace vision of its Little Prince
By John Thornhill
(コメント) フランス政界の貴公子,あるいは新君主,Nicolas Sarkozyに関する論説です.2007年の大統領選挙に勝利することを望む彼は,フランスについて,ヘビが象を飲み込むようなものだ,と言います.国家は余りにも多くのことを引き受けてしまい,身動きが取れないのだ.もはや消化不良と運動不足で死にかけている,と.
右派である与党UMPの党首となった彼は,その演説で,この動けなくなったヘビに対して,フランスの新しい成功モデルを示す政治家は自分だけだ,と述べました.彼は,フランスがもはや変化を恐れておらず,それを待ち構えている,と考えます.
しかし多くのメディアは,500万ユーロ(660万ドル)を費やしたアメリカ型の派手な党大会を「サルコジ・ショー」として揶揄しました.しかもこれは,政界の保守派に君臨してきたシラク大統領を,49歳のサルコジが蹴落とす,20年に及ぶ二人の間の確執が詰まった政争の集大成です.
実際には注目を集めていないけれど,彼の示すフランス大改革を示すビジョンは非常に重要だ,とFTは考えます.それは前IMF専務理事のMichel Camdessusが委員長となり,サルコジも参加した委員会の報告書に依拠しています.週35時間労働の導入などに示される労働市場の硬直性を批判し,人口動態や失業問題を心配します.財政赤字の削減や,人件費の膨張によって財源を社会的不平等の解消に使えないという問題を批判します.フランス労働市場を「インサイダー」と「アウトサイダー」との対立として分析します.
こうしてサルコジは,シラクと違って,大幅な改革によってフランスは成長や雇用を大きく伸ばせる,という,保守派の強気のビジョンを明確に打ち出します.自律,厳しい労働,成果への報酬,そして社会的な移動性.それは「アングロ・サクソン型のリベラルだ」と非難する声もあります.しかし彼は,それがフランスにおいても社会的に公正であると認められるなら,やるべきだ,と言います.改革は,社会を粉砕するのではなく,統合するために行うのだ,と.
何よりも必要なことは,外部から,すなわち,失業者や移民や貧困家庭から,優れた才能を発揮できる者を社会的に押し上げる「ソシャル・エレベーター」を回復することだ,と主張しました.父親の「インサイダー」の地位を,特に公共部門で,その子供が引き継ぐのは間違っている.人々の成功を阻む「似非カースト制度」に抗議して,彼は「われわれの社会をもっと流動的で,もっと参加できる,寛大な社会に変えねばならない」と,主張します.
しかし,フランスの有権者に彼の人気が高いのは,彼が解決した過去の問題によるものです.フランス人たちは,彼の思想がもっと過激であることを知るべきです.それでもFTは,サルコジを高く評価します.少なくとも彼はただしい問題を立て,タブーと思われるような挑戦を引き受けた.フランスの公的な議論は,彼のおかげで,健全な転換を遂げつつある,と.
はたして日本の政治家に,小泉氏も含めて,それだけの勇気と能力,雄弁さがあるでしょうか? “Japan: Lotus politics”, The Economist, November 27th 2004 は,公明党が小泉政権を見限るという選択肢について考察しています.靖国参拝やイラクへの自衛隊派遣延長問題で,小泉氏は政治的同盟の相手に対してすら,何か十分な説明ができたのでしょうか? あるいは,自民党内の強硬派と一緒になって,北朝鮮への制裁発動や中国へのODA廃止問題で,再選されたブッシュ氏の盟友として,その保守化・軍事化路線を踏襲するのでしょうか?
FT December 3 2004
Christopher Caldwell: The luxury of double loyalty
By Christopher Caldwell
(コメント) 「二重国籍」という,市民権の裁定取引,は国家にとっても深刻な問題になるでしょうか? 私たちは,どこで教育を受け,どこで働き,どこで裁判を受け,どこで年金を受け取ったり,戦争に参加したり,自由に選択できるなら,さまざまな地域に「市民権」を分散し,あるいは逃避させて,最も有利な政治生活を送りたい,と考えるかもしれません.彼らが重要で,しかも容易に逃げるほど,国家は「忠誠」を求めて好条件を示し,買収しなければなりません.
最近になって,さまざまな国家が手段として「多重国籍」を認めるようになりました.しかし「二重国籍」や「選択権」を認める開明的な制度が,テロと移民によって動揺しています.オランダの政治的暗殺事件により,政府はテロリストには二重国籍を認めない,と宣言しました.すでに,経済的必要や文化的融合を推進する手段として,安易に,国籍を付与する考え方は後退しつつあるようです.
それゆえ政治学のテキストにも,マンデル=フレミング・モデルや「不可能の三角形」が繰り返し議論されるようになるわけです.そして,例の,もう一つ重要な議論も政治学に現れないかって? もちろん,現れるでしょう.すなわち「最適政治空間論」,「社会帝国主義論」,「貿易=投資共栄圏論」・・・などです.むしろ経済学が輸入したのかもしれませんが.そのバランスは容易ではありません.
Dec. 2 (Bloomberg)
Asia Stands Divided Against Dollar and Euro
William Pesek Jr.
(コメント) 東南アジア諸国が必要としているのは,自由貿易か? 通貨同盟か? 経済=政治統合か? 通商政策や自由化交渉においては,市場の規模が必要です.景気変動が波及するに連れて,共通の通貨政策を議論するようになります.そして,もし通商政策と金融政策を共有し,それが混乱した際にも,より一層の統合化を選択するのであれば,それを促し,逆転させないために,政治的統合化が推進されます.
自由化をめぐっては,国内に政治的な反対があり,また通貨同盟に関しても,ヨーロッパのような財政安定協定に合意することは無いでしょう.互いに難しい問題を避けて,地域的な協調を賛美することに,何か意味があるでしょうか? むしろ資本移動と通貨危機の恐怖,あるいはこの地域を軍事的・政治的に支配しようとする域外からの圧力を,互いに牽制させるために,ASEAN諸国は互いを必要としているようです.ただし,アジアがヨーロッパのような統合モデルに近づく見込みはまるでない!
NYT December 2, 2004
Dollar's Fall Drains Profit of European Small Business
By MARK LANDLER
FT December 4 2004
Relying on the US
NYT December 4, 2004
Dollar's Fall Tests Nerve of Asia's Central Bankers
By JAMES BROOKE and KEITH BRADSHER
FT December 5 2004
John Plender: Weighing risk of Asian evacuation
By John Plender
(コメント) ドル安がどれほど加速すれば,ヨーロッパは分裂するでしょうか? アメリカに輸出するヨーロッパ企業は,ドル安が進めば損失を増やします.政府や中央銀行への不満は強まるでしょう.ユーロ圏内の温度差によってECBが金利引下げや介入を拒むなら,また,政府が農業保護や失業対策に税金を必要とするなら,自分たちの求める政府や中央銀行を作るためにユーロ圏から離脱した方が良い,と思うはずです.
しかし,彼らの政治的な影響力が小さく,その影響が無視された場合,彼らが取る次の行動は何でしょうか? また,企業はますます東欧や中国に生産を移転して利益を上げようとするでしょうから,その際,失業する労働者や地域社会は何を想うでしょうか? 彼らもまた,輸入原材料,輸入中間品などを利用し,豊かになった消費者に国内市場で販路を求める新しい雇用や投資を見出せるでしょうか? あるいは,ネオ・ナチや社会的給付に救いを求めるのでしょうか? 小規模でも優秀な家族企業に,適切な情報や融資が提供されるなら,きっと彼ら自身の生き残る道を見つけるでしょう.しかし,銀行や資本市場は,もっと他の事に忙しい?
アメリカの雇用や消費が停滞するなら,世界は恐慌を来たすでしょう.グリーンスパンが金融緩和に戻って,世界の資本市場で肝試し大会を始めることになります.もしヨーロッパや日本が景気回復の勢いを増していたら,これほど危ない橋を渡ることにならなかったはずです.もちろん,それは,世界的な金融緩和(協調政策)として歓迎されるかもしれません.しかし,同じことでも,市場の不安が強まるとしたら,そこには政治が関わっているはずです.
アジア諸国はいつまでこのロシアン・ルーレットを続けるつもりか? 彼らのうち,誰かがドルを売り始めたら,残された者の損失は一気に膨張します.彼らは互いにモニターで監視し合っています.アメリカにいる財務省の担当者は,眠れない,と言います.日本,中国,台湾,韓国で,アメリカの公的債務の40%を保有します.あるいは,彼らはこれを使って,アメリカ政府に対し,もっと慎重な財政運営や十分な金利水準を求めるでしょうか?
実際,中国の通貨当局は少しでも利回りを上げるためにモーゲージ市場にドル資金を向けている,と言います.中国がドル市場そのものから資金を引き揚げるのかどうか,それは分かりません.そして,アメリカに貸し込みすぎた日本という「銀行」は,もはや何をしても,その債務者から逃れられないのでしょう.日本が買うのを止めれば,自分の首を締めるだけです.それどころか,ドルの暴落は,輸出に頼る日本企業(と銀行や景気)を奈落の底に突き落とします.
日本と中国が協力できるなら,アメリカ政府に財政再建を強く求めるでしょう.しかし,アメリカがその代わりに為替レートの調整を求めるでしょうから,固定レートを維持する人民元への投機的な買いが殺到するのは目に見えています.すなわち,中国は協調に参加せず,日本はアメリカと宿命を分かち合い,アメリカ政府は都合の良いように赤字を続ける・・・? 市場が動く前に,ECBも加えた四者が政策対応を打ち出すときです.
FT December 5 2004
Lex: Joint intervention
NYT December 5, 2004
A Field Guide to the Falling Dollar
By DANIEL ALTMAN
FT December 7 2004
Martin Wolf: A dangerous hunger for American assets
By Martin Wolf
FT December 6 2004
Trichet should not bemoan the rising euro
By Melvyn Krauss
Dec. 6 (Bloomberg)
Asia Draws Nearer Shocking U.S. Treasuries
William Pesek Jr.
(コメント) あるいは,日欧でドル買いの協調介入を行うでしょうか? しかし,ECBの政治的な基礎は危うく,アメリカ政府は協調する気がありません.日本が昨年のように介入を続けるだけでは,ユーロ高が続き,日本もますます長期的な「脱出策」を失います.
ドル安は,アメリカにとっても,「輸入の抑制と輸出の促進」という単純なものではありません.その結果は,投資家の行動次第である,とALTMANは述べます.緩やかなドル安であれば,アメリカの競争力改善に役立つでしょう.資産市場や企業の投資は時間をかけて調整されます.しかし,急激なドル安になれば,企業も消費者もいきなり購買力を失い,債務に対する利子負担が重くなったことを知ります.
また,長期的なドルの水準が下がる(減価する)のであれば,アメリカの投資や貿易パターンは国内に回帰し,賃金や生産性も見直されます.アメリカは,少し,普通の国に戻るわけです.その方が,家は持てなくても,雇用を取り戻して借金を減らす普通の国民には幸せかもしれません.
しかし,たとえドル安が進んでも,アメリカの輸入は減るでしょうか? Obstfeldは,世界の貯蓄と投資の配分が変わらなければ,ドル安だけでは赤字を減らせない,と言います.アメリカの投資を減らすことは誰も望んでいないから,どうすればアメリカの貯蓄を増やすことができるか.長期金利を高くする? むしろ成長によって所得を増やす? あるいは社会保障制度改革の問題か?
短期的には,ドルから他の通貨にどの程度急速に資産が移転されるのか? が問題です.それが抑制されるのは,投資家たちがドルの長期的な調整に信頼を寄せているときです.他方,アメリカ政府が財政赤字を無視した政策を取れば,ドル暴落は近づきます.この問題は,1980年代に経験したことです.ほんの些細なニュースが,アメリカと世界の運命を変えます.
Wolfは,こうした状況で,アメリカもアジア諸国も政府や中央銀行が何もしないことを批判します.事態は,放置したまま市場で解決できる程度を,大きく超えているからです.たとえば,なぜ貧しい,発展しつつあるアジア諸国が,その貯蓄を富裕な諸国に向けて,大幅に輸出しているのか? 赤字と黒字の不均衡は広がるばかりです.世界の貯蓄を吸い込む,アメリカというブラック・ホールが嵐をもたらす?
Nouriel RoubiniとBrad Setserは,現在の危険な傾向をいくつか指摘します.@アメリカのGDP費で,輸出は増えないのに,輸入は増えている.Aアメリカの対外債務は総額で輸出額の約11倍,純債務も3倍に達し,アルゼンチンやブラジル並みだ.B経常収支の赤字は,このままでは,2008年までにGDP比で8%を超える.そうなれば,純債務を増やさないためだけでも,輸出額を80%も伸ばす必要がある.Cアメリカへの投資は既に以前の魅力を失っている.D国内においても相対価格の調整をもたらす必要がある.E調整は,遅れるほど,その傷みが増す.
Wolfは,アメリカの債務の罠を前提にした不均衡拡大に,世界が依拠している状態を,持続不可能であり,放置されれば危機になるしかない,と考えます.
グリーンスパンがフランクフルトにおいて,アメリカの経常赤字を理由にドル暴落を警告したことで,ユーロは一気に増価しました.これについて,ECBのトリシェ総裁は激怒しています.投資家の不安を煽ってドル安を中央銀行がドル安を誘導し,ユーロ高を牽制し続けるトリシェの顔にタマゴを投げつけたからです.
しかし,ユーロが増価するのは,アジアの愚かなドル買い介入に追随しなかったからです.そうであれば,将来のドル危機をユーロだけは事前に回避した,と満足するべきかもしれません.そこでKraussがトリシェに与える助言は,ばたばたせずに余裕で座っていることだ.交易条件が改善して国内市場に活気が出ても,インフレは起きないから利上げは遠のいた.この機会を生かすことだ,と.
ところが,ユーロとインフレは結び付いていない,という問題があるようです.ヨーロッパ経済のインフレ傾向は,ユーロ高によっても抑制されません.要するに,ECBは金利を下げることもできないのです.口先介入でも,金融政策でも,ドルとユーロとの比率を転換できるのはグリーンスパンであり,トリシェではないようです.
インドネシアがドルに対して牽制(脅迫)する発言を行いました.インドネシアでさえ? Pesek Jr.は,1997年6月の有名な橋本竜太郎首相のドル売り発言を紹介しています.ニューヨークの聴衆を前に,彼は述べました.「日本は何度も,アメリカの財務省証券を大量に売ってやろうか,という気になったものです.」 「そう思うたびに,結局,われわれは財政的に見て最も有利な選択を取らなかったわけです.」
今や,アジア諸国の中央銀行は同じことを考えています.実際,それが理由で,グリーンスパンは市場に事前の警鐘を鳴らしたわけです.市場関係者がにわかにこの点に注目するより,事実として知っておく方が良い,と.日本は,財政赤字とドル安を容認するアメリカ政府に,どこまで介入で付き合うのか? また,アメリカはいつまでアジアの忍従を再生への踏み台にする気か? (もちろん,アメリカ人は思うわけです.アジアはいつまでアメリカ市場に頼って生きるつもりか? アメリカ政府はいつまでアジアの金貸しに物乞いする気か?)
FT December 8 2004
Why there can be no alternative to the US dollar
By Henry Kaufman
Dec. 9 (Bloomberg)
Questions to Ask Before You Sell That Next Dollar
Mark Gilbert
(コメント) ドル暴落は戯言・タワゴトだ!? ドルが基軸通貨でなくなり,ユーロや円,さらには将来の人民元がドルに交代するのか? Kaufmanは,そんなことは起こらないだろう,と考えます.
1960年代のドル危機,1970年代のSDRs,1980年代のルーブル=プラザ合意,繰り返し,ドルとの交代は主張されてきました.しかし,激しい攻撃を受けても,その後,ドルの地位は回復しました.その理由は,@超大国アメリカの地位,Aヨーロッパや日本に比べて,アメリカの高い成長率,Bグローバリゼーションによって,アメリカのインフレは低く抑えられる.Cアメリカの金融市場や中央銀行が示す優位.ヨーロッパや日本の銀行は世界的なビジョンを持っていない.Dアメリカへの投資意欲は今後も強い.Eヨーロッパに比べて,アメリカの政治システムの方が権力を集中できている.
Kaufmanは,ドルへの圧力を下げるために主要国が政策を変更することは,彼らの交渉能力を超えている,と考えます.中国が通貨を50%や70%も切り上げるとか,日本がその貯蓄過剰の文化を改めて,高齢化ではなく,多くの子供を育てるとか,ヨーロッパが財政赤字を増やし,金融緩和するとか,考えても無駄です.アメリカも,成長を抑制して金利を引き上げる気など無いでしょう.
最も起きそうなことは,日本と中国がいやいやながらアメリカの赤字に融資し続けることです.両国は,今後も,膨大なアメリカの債券を購入するでしょう.日本の金利がアメリカよりも低いのであれば,まだ当分,この「キャリー・トレード」は両者の利益を満たします.特に,その為替リスクを負うのが民間ではなく政府であれば,維持しやすいでしょう.また中国は,不安を抱える銀行システムにとって,アメリカの債券が貴重な資産です.ヨーロッパだけは,ドルからの離反を目指しています.その重商主義的な態度,政治的な不統一性,経済的硬直性を考えれば,これまでと同じように,ユーロ高が続くでしょう.
アメリカにいくら双子の赤字が膨張しても,当面,ドルに変わるものなど無い.これがカウフマンの予想です.
誰か本気でユーロや円の資産を持ちたいと思うだろうか? とGilbertも反問します.本当にドル安に賭けるのは儲けが確実な「フリー・ランチ」なのか? 金利差や成長率の差を見れば,たとえルービンの頃に比べて,サマーズ,オニール,スノーの「強いドル政策」に対して信認が失われてきたとしても,誰がユーロや円を保有し続けられるだろうか? なるほど,今はドル安が続くから,もっと安く買って,長期的なドル高で儲けよう,という話を投資家たちはしているのか?
(“The economy: A series of fortunate events”, The Economist, November 27th 2004 も参照してください.)
NYT December 7, 2004
Don't Let the Dollar Take the Fall
By JEFFREY E. GARTEN
不均衡の調整を理由にドル安を歓迎してはいけない.ドル安は消費税に過ぎず,それで輸入は減らない.
なぜなら輸入の4分の1はドル建の石油関係だ.さらにアジアからの製品輸入(パソコン,おもちゃ,テレビ,など)は生活スタイルに欠かせないから,値上がりしても容易に輸入量は減らない.また,ドル安がアメリカ国内の生産を拡大することもない.たとえば自動車のエンジンは,メキシコやその他の発展途上国で生産しており,世界的な供給体制を為替レートに合わせて容易には変更できない.
確かに,ヨーロッパや日本からの輸入は減るかもしれない.しかし,その成長はさらに抑制され,アメリカからの輸入も減らす.そして工場は東欧やアジア諸国に移転される.また,アメリカの工場も既に海外にある.海外展開したアメリカ企業の輸出にとって,ドル安は大きく影響しない.
何よりも,ドル安でアメリカの貯蓄不足が解決できるわけではない.国内の貯蓄が枯渇している以上,アメリカ政府は財政赤字を賄うためにも資本を輸入し続ける.先進諸国の市場は,価格変化に反応するより,品質,それゆえ労働者への教育や訓練,社会保障などによる競争を必要とする.
毎日,2兆ドルを取引する為替市場で,アメリカ政府がドル安を奨励すれば,しかもドル安が調整を短期にもたらす見込みも無いから,ドルは急激に安くなる.すなわち,誰もがそう思う以上,ドル安は一方的な投機の餌食となる.多くの国で中央銀行がドルの外貨準備を売るという噂が流れている.ヘッジ・ファンドなどが動き出すだろう.その勢いが増せば,ドルは暴落し,金融市場のパニックと世界不況が来る.
ドルは少し過大評価であるだろう.しかし,政府は安易にドル安を促す口先介入を行わず,公式にヨーロッパ,日本,中国と交渉して,為替レートの調整と国内政策の変更を合意するべきだ.すなわち,1985年,レーガン政権下で日米が交渉したプラザ合意にならうことだ.それは成功して,貿易赤字は次第に減少し,債券市場で高金利を強いられることも無かった.
では,それぞれが約束するべきマクロ政策の変更とは何か?
ブッシュ政権は,成長すれば財政赤字は減る,と繰り返すよりも,恒久化した減税策を一部延期もしくは取りやめることだ.また社会保障制度の民営化も,財政赤字を増やさないような制度移行のための財源を確保してから行うことだ.研究開発への支援や,企業の医療費負担を軽減して,輸出を促進することも重要だ.ヨーロッパ諸国は規制緩和と自由市場を支持し,輸入を増やすべきだ.また,主要国はドルの円滑な減価を支持するような協調介入に合意すべきだ.
真の大国は,その通貨を投げ捨てたりしない.その通貨によって世界の取引が動いている.市場に責任を押し付けて,舵を手放すべきではない.膨大な貿易不均衡によって引き起こされた問題を解決するには,国内でも国外でも,真の政治家が求められている.
CSM the December 09, 2004 edition
Why the world frets over the dollar's fall
By David R. Francis
1970年代.ジョン・コナリー財務長官はヨーロッパに言った.「ドルはわれわれの通貨だが,ドル問題はあなたたちの問題だ.(知ったことじゃない.)」
それは今でも真実である.ドル安についての反応は,アメリカではなく,海外からばかりだ.日本とヨーロッパの官僚たちは,ドル買い介入の相談をしている.しかし先週の報道にもかかわらず,ドル暴落が起きない限り,協調介入は実現しない.
2002年2月のピークから,ドルは主要貿易相手国の通貨に対して15%減価した.ヨーロッパはユーロ高で輸出が減り,成長も損なわれる,と強く抗議してきた.しかし,スノー財務長官は無関心だ.アメリカ政府は,保有する外貨建資産でドル買い介入する気配も無い.「ワシントンでは誰もドル安を気にしていない.」と,David Haleは言う.
30年前,ドル安はアメリカが経済的・政治的に衰退するシンボルである,と考える外国人もいた.しかし,イラク侵攻を経た今,それはむしろアメリカの過剰拡張を示唆するものと見なされている.しかし,「それは全くのナンセンスだ.」とDavid DeRosaは言う.「ドルの価格が調整されているに過ぎない.」 しかしHaleは,ドル安にアメリカの地位が「少し」失われることを見るだけでなく,ドルへの信認が失われているのではないか,と心配する.
信認は重要である.この10年間,アメリカは世界の投資を集めてきた.外国人は6兆ドルもアメリカの金融市場に注ぎ込んだ.それはアメリカの経済を1兆ドルも増やした.民間投資家は,ヨーロッパや日本よりも,より良い収益を求めてアメリカに投資する.こうした資本流入こそドル高の主要な要因だった.少なくとも昨年まで.しかし,財政赤字の膨張や,6200億ドルの経常赤字を見て,投資家は慎重になっている.
それゆえ,グリーンスパンを除く,世界の中央銀行家たちは心配になった.もっとドルを買って自国通貨の増価を抑えるべきか? あるいは,価値の失われて行くドルを売るべきか? その反応は,中央銀行の世界がどれほどめちゃくちゃになっているか,を示している.
従来のアメリカの同盟諸国の中にも,ドル安による損失を切る国が現れた.カナダ,オーストラリア,ニュー・ジーランドは,既にドルを外貨準備の50%以下に減らしている.世界の平均では66%である.「伝統的な同盟国がドルを見放した.」
他方,アジアの主要な経済競争相手である日本と中国は,過去2年から3年に渡って,自国通貨の増価を抑えてきた.既に日本の外貨準備は8170億ドルに達し,そのほとんどがドルである.しかし,少なくとも今は,これ以上の介入に手を出していない.この春から介入を止めて,円の増価を許した.中国は,世界第二位,約6000億ドルの外貨準備を保有する.まだ人民元をドルに固定しているから,より多くのドル資産を蓄積することになる.
主要国は,小国と違って,容易にドルを手放せない.もし中国の中央銀行が黒字の一部をドルからユーロに変えようとすれば,ドル価値は下がって,自国のドル建外貨準備の価値を損なう.また,アメリカの金融市場と同じくらい,巨大で,しかも流動的な市場は他国に無い.中国も日本も,多額のドル資産を売るのは難しいだろう.ユーロ市場は数十億ドルの取引なら吸収できるが,数百億ドルは無理だ,とRichard Cooperは指摘する.日本の金融市場も相対的に小さく,しかも,アメリカより利回りが低い.
いずれにせよ,ドル資産の切下げを中央銀行が心配しているかどうか,はっきりしない.というのも,1999年にユーロができる前,ヨーロッパ12カ国の共通通貨があったが,オーストリアの中央銀行は中央銀行の資本損失を,保有金の再評価によって埋めてしまったからだ.
しかし,もしドル安圧力が続いてアメリカの金利を上げるなら,アメリカは「ビナイン・ネグレクト」政策を改めるだろう.連銀は,財務省とともに,ドル救出のために他国に協力を求める.それは「有志連合」になる,とCooperは述べた.
FT December 3 2004
China's champions
NYT December 4, 2004
An Unknown Giant Flexes Its Muscles
By DAVID BARBOZA
NYT December 4, 2004
Contemplating a PC Market Without I.B.M.
By GARY RIVLIN and JOHN MARKOFF
FT December 8 2004
Deal divides opinion over future trends
By Francesco Guerrera in Hong Kong and Richard McGregor in Shanghai
NYT December 8, 2004
Sale of I.B.M. PC Unit Is a Bridge Between Cultures
By STEVE LOHR
Dec. 9 (Bloomberg)
Big Blue Is in Chinese Hands. Get Used to It
William Pesek Jr.
(コメント) 一方では,中国の国有企業が行う海外での金融取引が失敗しました.石油に関するデリバティブで5億5000万ドルの損失をChina Aviation Oil (CAO)が出しました.それはまた,シンガポールの株式市場を利用して,かつてベイリングズ商会を倒産させたニック・リーソンの詐欺事件以来,最大の規模となりました.中国企業に対する外国金融機関の楽観が,この事件の背景にあるようです.
他方,中国の聯想企業集団Lenovo GroupがIBMの中国におけるパソコン事業を買収し,中国市場から世界に向けて支配的な地位を拡大しようとしています.それはブランド名を手に入れ,主要国市場でシェアを拡大して需要の落ち込みに備える,成熟した企業戦略です.アジアのパソコン市場をめぐって,日本企業の深刻な競争相手となるでしょう.しかしアジアであれ,その他の先進市場であれ,競争は熾烈で,後発のブランドが利益を上げるのは至難です.
ハイアールのような成熟した価格競争を行える家電製品と違って,パソコンは技術革新も急速で,所得の上昇につれて,どこでも低価格戦略だけでは対抗できなくなります.ここでも,中国経済や企業の本当の強みが何か,内外のM&Aで,慎重に再考することが求められます.
FT December 2 2004
How to base world security on principle
世界をより安全にするために101の勧告を含む報告書の基調は暗澹としたものである.しかし,それは,アメリカのイラク侵攻について,アナン事務総長と同じ危機意識があるからだ.彼は,国際連盟のときのように,国際連合から脱退しないようにアメリカを説得している.特に,アメリカが自国の安全保障上の関心を,他の世界も,国連の集合行為の原則に照らして,理解しようと努めている.
アメリカはその忠告を聞くだろうか? 実際,パネルには現大統領の父が大統領であったときの国家安全保障委員会議長であるScowcroftも参加している.しかし,ほとんどのネオコン共和党員たちは,むしろアナン事務総長の辞任を求めている.
アメリカは聞くべきか? 大量破壊兵器をテロリストや無法国家から取り上げるために,また,貧困や開発の問題とも結び付けて安全保障への支持を得るために,あるいは,テロ攻撃による世界経済への二次的影響で無数に多くの人々が貧困の淵に落ち込むのを防ぐために,この報告書を読むべきである.
この点で,パネルにアラブ連盟の代表が加わって,市民に対するすべてのテロを定義し,非難することに合意したことは重要だ.また,さらに多くの国が核兵器を生産する能力を得ることがないよう,対策を示したこともアメリカにとってプラスであろう.核開発設備の取引を監視する,アメリカ主導の拡散防止体制に参加するよう要請してもいる.
アメリカであれば,国連憲章の51条により国家の自衛権をもっと広く考えようとしただろう.パネルは自衛権の拡大を否定しながら,それを制約もしなかった.その代わり,軍事力を行使するに当って,伝統的な「正当な戦争(武力行使)」の概念を,予防的攻撃にも適用できるように,ガイドラインを提唱した.報告は,アメリカのイラク攻撃がこの基準にかなっていないことを非難するより,もっと安保理で各国が議論を尽くし,現実の脅威についての「十分な証拠」を前提に,軍事力の行使を正当化するべきだった,とアメリカの情報の誤りを暗黙に譴責している.
唯一つの分野において,構造の変更を提唱している.しかし,パネルが安保理の拡大に合意しても,それをどのように拡大するかでは加盟している181ヶ国の意見が対立する.この難局もいつかは克服されるだろう.しかし,より迅速に安保理を強化する道は,ブッシュ政権がその安全保障政策をパネルの提言に近づけることだ.そしてアメリカが国連改革に取り組む意志を明確にすることだろう.
The Guardian, Friday December 3, 2004
A UN for this century, not the last one
Robin Cook
ST Dec 6, 2004
UN's reform ideas will not work
By Gwynne Dyer
WP Sunday, December 5, 2004
Failure of Nerve in U.N. Reform
By Jim Hoagland
IHT Tuesday, December 7, 2004
No additional permanent seats
Gianfranco Fini
(コメント) アメリカにおける国連の印象は極端に悪化しているようです.アナン事務局長の汚職容疑で,彼を辞任させるか,アメリカが脱退するか,といった保守派の脅迫がエスカレートして行きます.イギリスの元外相Cookは,こうした時期に,国連の抜本的な改革案が提言されたことは良かった,と言います.あるいは,同様に,パウエル国務長官の挙げた証拠が間違いだったり,イラクで大量破壊兵器が見つからなかったりしたことも幸いだった,と言います.アメリカと国連とは,まだ,ギリギリの和解を示せるはずだ,と.国連は,国際社会が人権を守るためにも,大国の一方的な軍事力の行使を抑えるためにも,必要なのです.
Dyerは,この改革も成功しない,と考えます.なぜなら,改革は西側に属さない貧しい諸国の支持を得るように書かれていますが,国連を動かす唯一の国,アメリカの政府を満足させるものではないからです.ブッシュ氏が求めているのは,国連がアメリカに服従することです.カナダを訪問した際の彼の発言も,結局,国連はアメリカの行動を挫こうとしたではないか,というわけです.しかも,安保理拡大において,参加国を決めたり,拒否権の問題を解決したりすることはできないだろう,と.
Hoaglandは,せっかくの提言も,アナン氏の収賄疑惑やウクライナにおける東西分裂の危機,中央アジア,パキスタンなどでの権力政治・外交の展開で,色あせた,と考えます.パネルを支配するのも,スコークロフト,プリマコフといった,時代遅れの冷戦思考だ.それはゴルバチョフが「改革された共産主義」を延命しようとしたことに似ている,と.国連総会を抜本的に改革し,職員たちの行動にも説明責任が求められる,と.
イタリアのFini外相は,小手先の安保理拡大に反対します.そして,国連の大幅な構造改革を求めます.
LAT December 3, 2004
Lynch Mob's Real Target Is the U.N., Not Annan
By James Traub
FT December 4 2004
Destroying the UN
BG December 4, 2004
Pushing the UN to act when it must
By Ivo Daalder and James Lindsay
IHT Wednesday, December 8, 2004
What about the log in your eye, Congress?
John G. Ruggie
FT December 8 2004
Quentin Peel: Stop this demonising of the UN
By Quentin Peel
JT Thursday, December 9, 2004
U.N. will reform or slide into oblivion
By TOM PLATE
LAT December 9, 2004
Why U.N. Stays Mired in Its Defects
Max Boot
(コメント) アメリカ議会と保守派のメディアにおいて,国連とアナン事務総長(とその息子)へのスキャンダル追求・辞任要求,アメリカにおける国連脱退キャンペーンは,どのような展開を見せるのでしょうか? 日本からは思いもよらないほど,アメリカにおける国連批判(記事によっては「魔女狩り」と呼びます)は深刻なようです.常任理事国を目指してアメリカの唯一の支持を得た国だとということは,日本もそれほど国連から遠くにいることを意味します.
ブッシュ氏はイラク戦での誤りを認めず,それを「違法である」と断言したアナン事務総長を許す気は無いのかもしれません.今回の汚職事件で国連の信用はさらに悪化しています.それゆえ,どのような国連改革も,アメリカに支持させることは困難になったでしょう.しかし,アメリカやブッシュの気分で,国連改革の成否が決まるようなことでは,改革そのものが信用を失います.他方,チェチェンやチベット,カシミールについて国連が発言すれば,ロシアや中国,インドの同意は得られません.
ST Dec 4, 2004
Why E. Asia is rushing to seal FTAs
By Barry Desker
FT December 5 2004
China's market is not so lucrative
By Joe Studwell
IHT Friday, December 10, 2004
6 - 1 = a new regional force
Francis Fukuyama
JT Monday, December 6, 2004
Japan's response to threats
By HUGH CORTAZZI(a former British career diplomat, ambassador to Japan from 1980 to 1984)
ST Dec 10, 2004
Japan puts on muscle
(コメント) ASEANは域内の貿易自由化を急ぐとともに,中国との自由貿易協定FTAを結び,同じ2010年までに自由化します.他にも,オーストラリア,ニュー・ジーランド,韓国と,来年,交渉を始めます.国ごとにも,日本や韓国,アメリカとFTAを交渉しています.もちろん,シンガポールがその先頭を走っています.
その理由は,WTOによる多角的な自由化交渉が遅れたことです.アメリカのファスト・トラックが失効する期限,ブッシュ政権Uの求心力,各国の国内政治における選挙循環,などが作用して,アジア諸国の並行的自由化交渉が進んでいます.Deskerはそれを正しいと考えますが,NAFTAやEUと違って,植民地から独立して日の浅い各国は政治的独立をもっと重視するだろう,と予想します.
しかし中国市場に関する過剰な期待は,投資や貿易の判断を狂わせるかもしれません.そこは安価で勤勉な労働力が豊富に存在するとしても,国内の投資環境や消費市場は不安定で,過剰融資,過剰投資,デフレ的な価格競争が常態です.輸出以外で,もし中国国内市場から大きな利益を上げている企業があるとしたら,それは150億ドルを中国から購入したウォル・マートのように,生産に投資するのではなく,商品の購入に徹した企業である,とStudwellは考えます.
他方,Fukuyamaは東アジアにおける安全保障上の懸念を指摘します.そこで扱われるのは,北朝鮮の核問題や台湾海峡とともに,実際は,日本の再軍備問題です.中国の軍備増強や周辺における核疑惑によって,日本も憲法九条を改正し,将来は,正規軍を持つようになるでしょう.その際,地域の安全保障を話し合える常設機関が必要だ,と考えます.すなわち,北朝鮮に対する6カ国協議の枠組みに参加した5ヶ国を制度化する,ということです.
イギリスの外交官で日本大使も勤めたCORTAZZIも,9条改正,ミサイル防衛システムと武器輸出三原則の見直し,再軍備に対する海外の反応,小泉首相の靖国参拝,シー・レーン防衛,自衛隊の位置付け,イラク派遣で何を得たのか? などを論じています.
STは,日本が防衛政策を見直すことについて,アジア諸国に十分な説明も無く,互いの意図や軍備計画に関する情報も不透明なまま,静かに,軍備拡大競争を始めてしまうものだ,と批判します.
WP Friday, December 3, 2004
Why Only in Ukraine?
By Charles Krauthammer
NYT December 4, 2004
Let My People Go
By NICHOLAS D. KRISTOF
FT December 5 2004
A tide of democracy is sweeping the globe
By Amity Shlaes
NYT December 6, 2004
Putin's 'Chicken Kiev'
By WILLIAM SAFIRE
The Guardian, Thursday December 7, 2004
The price of People Power
Mark Almond
The Guardian, Thursday December 9, 2004
'The country called me'
Timothy Garton Ash in Kiev
IHT Saturday, December 10, 2004
The view from Russia
Lilia Shevtsova
(コメント) なぜイラク侵攻や中東民主化を非難する者たちが,逆に,ウクライナの民主化や東欧,そしてロシアへの「ドミノ効果」を熱狂的に語るのか? なぜ同様にイラクで戦うアメリカ兵やイラク国民をもっと強く支持しないのか,とKrauthammerは反発します.他方,KRISTOFは,パウエルに比べてブッシュ大統領のウクライナに関する曖昧な態度を非難します.そして,漸くヨーロッパが一つになって行動し始めた,とその姿勢を歓迎します.
それでも,民主主義は世界的に拡大し始めたのか? 超大国や独裁者がうろたえているところを見れば,諜報機関や政府,政治集団の謀略ではなく,民衆の声が本当に政治を動かしているのかもしれません.かつての父ブッシュの助言や,今回のプーチンの介入は,ウクライナ国民をむしろ民主化に突き動かしたようです.労働者が民衆に合流できなかった天安門の例を除けば,この革命の波及は成功してきた,とSAFIREは賞賛します.
しかし,オックスフォードの歴史家Mark Almondは悲観的です.独立広場に集まる民衆が,無料で,食べ物を支給される姿を見れば,かつてM.フリードマンがスターリン主義の兆候と見なした「フリー・ランチ」を思い出します.それは誰が用意したのか? それは,裕福な諸国のさまざまな諜報機関や政治団体が資金提供しているのではないか? 彼らは国際的に寄せ集められた出稼ぐ労働者や傭兵部隊ではないのか?
例えば,ウクライナのPoraを資金援助するのはNational Endowment for Democracy (NED)です.それは10年前にCIAを指揮していたJames Woolseyの組織です.もちろん,ジョージ・ソロスのように,個人的な信念で資金提供する者もいます.彼らはもちろん,朝,株式に投資し,午後は革命家に寄付して良いのです.こうして政治権力も革命も私物化されていきます.民主化を求めて戦った? 世界のメディアは写さないけれど,人民による民主化革命が成功した国では,大量失業,汚職,組織犯罪,売春などがはびこり,死亡率も急上昇しています.
「ピープルズ・パワーは社会を開くよりも,むしろ閉じさせることが分かった.それは工場を閉じさせ,さらには心までも閉じさせる.その支持者たちは何もかもに自由市場を要求した.ただし意見だけは別だった.新しい世界秩序という現在のイデオロギーを信奉する者は,その多くが変節した共産主義者であったが,彼らは市場型レーニン主義,すなわち教条化された経済モデルを,権力装置のマキャベリズム的な行使で,実現する.」
他方,Ashは権力に巣食う悪人どもが追放されたことを祝福します.Shevtsovaも,脱ソビエト社会においてさえ権力の質が変わったことを,ウクライナの革命は世界の支配者たちに知らしめた,と歓迎しています.特に,ロシアのプーチンに.
IHT Saturday, December 4, 2004
Is Turkey the next Argentina?
Erinc Yeldan and Mark Weisbrot
(コメント) ここでも資金流入とIMFによる改革促進.しかし,トルコの首都,カンカラの楽観は,かつてアルゼンチンを動かしていたものです.その後,史上まれな破壊的金融崩壊を引き起こしました.自由化や資本流入が製造業を破壊し,雇用を失っているにもかかわらず,金融市場の活況で騒いでいます.政府は金融危機を克服するためにIMF融資を受け入れ,自由化や政策転換を受け入れました.高金利,緊縮財政,企業買収,民営化,補助金の削減,などです.
インフレは抑制され,成長が加速し,何も問題ないように見えるが,危機は醸成されている,と論説は警告します.何よりも巨額の資本流入が問題です.2003年に109億ドル,2004年は最初の8ヶ月間で125億ドルです.直接投資はむしろ減少して,ほとんどが投機的な短期資本です.さらに,それはトルコの通貨リラを大幅に増価させました.伝統的な製造業は壊滅し,失業者が溢れています.
経済規模に比べて70%に達した公的債務も持続不可能です.これに対してIMFは財政黒字を求めますが,その結果,教育やインフラへの投資が削られています.また,IMFの求めた高金利が経済を破壊しました.要するに成長は投機的なバブルでしかなく,失業が倍増して実質賃金は下がったのです.将来の経済危機こそ,トルコのEU加盟を阻むだろう,と危惧します.
NYT December 4, 2004
Don't Let Banks Turn Their Backs on the Poor
By ROBERT E. RUBIN and MICHAEL RUBINGER
(コメント) 前財務長官のルービンが示す,低所得者を助け,地域社会の再生を図るにも銀行を利用できる,というアイデアです.すなわち1977年に成立したthe Community Reinvestment Actは,銀行が低所得者やマイノリティーの多い地区で融資を拒むことに対して,そのような偏りを是正するためにできた法律です.これによって低所得者にも住宅の所有や起業家が可能になりました.現在,金融の規制緩和と貯蓄増を名目に,この法律の撤廃が審議されています.しかし,むしろ銀行業が低所得者にも商機を見出してきたことに注目すべきではないか? 地方のコミュニティーが活発に成長することこそ,アメリカにとってグローバル化の健全な基礎である,と.
NYT December 5, 2004
Fly Me to the Moon
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) FRIEDMANは提案します.ブッシュ政権はエネルギー政策を転換し,エネルギーの完全な自給化を目指すべきだ.そうすれば,ケネディーが月に宇宙船を飛ばしたのと,ニクソンが電撃的に中国を訪問して国交を回復したのを,一気に二つともするようなものだ! アメリカが石油を輸入しなくなれば,@テロリストたちの財源は断たれ,Aイラン,ロシア,ヴェネズエラ,サウジ・アラビアの改革は加速し,Bドル安も解消されて,さらに C地球温暖化に貢献することでヨーロッパでも尊敬されるだろう.一石四鳥!
LAT December 5, 2004
Sizzle to Fizzle
By Joel Kotkin
FT December 6 2004
Workers of the world are uniting
By Brendan Barber(general secretary of Britain's Trades Union Congress)
(コメント) 世界的な規模の社会運動は誕生するでしょうか?
都市化と人口転換,少子化・高齢化の将来について.ヨーロッパからアジアへ,経済成長や都市は映りつつあります.しかしさらに将来は? シドニーやバンクーバー,アメリカ西海岸の,土地が豊富で,家族が暮らしやすい都市へ,人類の重心は再び移動して行くでしょう.
そして,資本が世界化すれば,労働組合も世界化する.
NYT December 7, 2004
Inventing a Crisis
By PAUL KRUGMAN
(コメント) 社会保障制度を解体し,民営化したいと考える保守派とブッシュ政権の企てを,強く批判しています.社会保障とは,特定の目的に国民から財源を集めて再配分する意味で,高速道路の建設や維持と同じです.それはグリーンスパンの間違った助言により,貧しい労働者の家族からも広く集められましたが,今は黒字であり,将来の赤字もイラク戦争の費用に比べて些細な額です.それでも保守派は社会保障制度が財政赤字の根源であり(間違い),民営化によってそれを解消する(間違い)と主張し,国民に信じ込ませるキャンペーンを続けています.
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The Economist, November 27th 2004
Old France, new France: The changing of the guard
(コメント) とても興味深い特集記事です.官僚が支配する硬質国家・重商主義国家として,日本はフランスとよく比較されます.そのフランスに,新しい大統領候補が誕生しました.日本では考えられない!?
「われわれは矛盾した状況にある.世界的に見て,フランスは豊かな繁栄した国であり,生活水準は最も裕福な国に属する.われわれの企業は素晴らしい業績を上げている.われわれの労働者は最も高度に鍛えられた者たちである.インフラや社会サービスの質も世界中から羨望を集めている.・・・ しかし,世界は変化し続けており,過去のわれわれの成長メカニズムはもはや擦り切れてしまった.方針を変えなければ,衰退が現実にやってくる.」
この報告書を作った保守派の政治家Sarkozyが新しいフランスを展望し,政界から国民を指導します.ネオ・ゴーリストのシラクと対比する人物評を読んで苦笑してください.そして,Sarkozyの父親がハンガリーからの移民であり,母親はギリシャ系のユダヤ人,妻はスペインとロシアの混血であることに驚いてください.フランスの保守派において,そのハンディを超える能力と実績,プラグマティズムと雄弁を示したという記述に感嘆します.彼は国民に改革の理由を説明し,説得によって勇気を呼び起こせる,と考えます.
Ukraine: On the brink
Sudan: The worst is yet to come
Zimbabwe: Where have all the people gone?
(コメント) ウクライナ,スーダン,ジンバブエ.政治家の態度,政治思想,政治システムを動かす人々の動機は,その社会に暮らす人々の生活を激変させます.
アジアでも,そして日本でも,数年後にウクライナのような政変を経て,スーダンのような政府が誕生し,10年を経て,ジンバブエのように殺戮,疫病,逃亡・離散・出稼ぎで,数千万人の国民が統計から消滅する恐れもあると思いませんか?
Capitalism’s new kings
Asian currencies: A need for flexibility
(コメント) あるいは,通貨市場をめぐる政府や中央銀行の錯綜した関係,それとも,資本主義世界の新しい君主である“Private Equity”の指導者たちが,世界を再編・整理して行くのでしょうか? J.P.モルガン・パートナーズ,ブラックストーン,トマス・H・リー,KKRアソシエイツ,TPGパートナーズ,ウォーバーグ・ピンカス,・・・