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IPEのタネ 12/13/2004
ウクライナについての論説を読みながら,「ロシアン・ルーレット」という言葉を思い浮かべました.
ウクライナをめぐるロシアとヨーロッパのロシアン・ルーレットは既に始まっています.安保理改革や軍事力行使をめぐるアメリカと国連の,靖国や自衛隊のイラク派遣をめぐる小泉政権と自民党,公明党との,ドル安をめぐるアメリカやアジア諸国の中央銀行間の,アジア地域統合をめぐる市場自由化と政治統合の,フランスの将来をめぐるシラクとサルコジの,中国への武器輸出(あるいはプレイボーイ・クラブの進出)をめぐる国際・国内政治の,アフリカや中東地域をめぐる人道的介入と和平交渉の,貧困をめぐる麻薬栽培と出稼ぎ・人身売買の・・・ ロシアン・ルーレット.
土曜日には,合同ゼミ企画として,グリーンピース・ジャパンの鈴木かずえさんに来てもらいました.冷蔵庫の冷媒や断熱材として,オゾン層を破壊するフロンの使用を止めさせ,環境への負荷が圧倒的に少ない「グリーンフリーズ」の普及を図る運動について,ご自身の経験を話していただきました.
学生たちが質問した後,私も三つの質問をしました.
1. もしフロンが廃止されるべきなら,税金や法律によって廃止を求めるべきではなかったか? なぜ政府は動かないのか?
2. もし企業がフロンを前提として設備投資してしまったのであれば,日本市場で売れないとき,彼らはまだ規制されていない発展途上諸国に売ろうとするのではないか?
3. なぜ自分の得にもならない環境保護のために,あなたは活動する(できる)のか? 自分の利益や社会的な地位を得るためでなく,何のために働くのか?
経済産業省は企業の方を向いているので,なかなか動かせない.環境省が何か言っても採用されない,と鈴木さんは答えました.私は,環境規制に関する政府間の協定を守る,という圧力も働いているのではないか,と思いましたが,グリーンピースとしては消費者を動かすことに力を注いだわけです.環境を変えるためにパワーを分析し,政府が動かないのであれば,直接に,企業や消費者に働きかけよう,という方針です.鈴木さんは,国内の規制だけでなく,ヨーロッパ諸国で行われている輸出規制や国際技術支援を紹介されました.国内で消極的な日本政府や企業が,国際面で,どれほど積極的に環境に関わっているのか,やはり疑問でした.
最後の「哲学的な問題」に対して,最初は「湾岸戦争を止めたかった」から,そして子供の頃に「かわいそうな象の話」を読んだから,自分も何かしなければいけないと思った,という鈴木さんの答に,私は満足でした.私たちの社会は,公共的な目的のために行動する人々に,非常に冷たい気がします.NGOやボランティアがもっと社会的に高く評価されて,そうした貴重な経験を持つ人を,すべての組織や企業が競って採用し,またスタッフや情報を積極的に提供するような時代が必ず来ると思います.
確かに,ジェームズ・ボンドじゃないですが,World Is Not Enoughです.何が足りないのか? それは地球的な,公正さ,ではないか? 日本には,特に希薄だと感じませんか? まるで頭上に,巨大なオゾン・ホールが広がっているみたいに!
偶然,中国の社会派小説,張平『凶犯』(新風舎文庫)を読んでいました.主人公の狗子(ゴウズ)は,森林監視員として,国有林を守るために辺境の村に赴きます.そして,私欲に流された村人たちが木材の密売業者に従い,国有林を伐採して広大な禿山を生み出している実態を知るのです.狗子はたった一人で村人たちと戦います.買収にも,脅迫にも屈しません.彼の誇りや正義感,戦争で失った仲間や自分の片足が,法を無視する者たちへの妥協を許さないのです.
中国を訪れた際に,その急速な発展がもたらす社会問題に対する義憤が,何千,何万もの魯迅を生み出すだろう,と私は思いました.ロシアン・ルーレットは,犯罪者が好むチキン・ゲームです.法を無視し,自分たちの暴力によって略奪と支配を拡大していく者たちがいます.誰が勝つのか? たとえ動き出すのが遅くとも,いつか,政治がそれを示さねばなりません.
世界には今も,かわいそうな象や,狗子のような森林監視員が,一杯いるのでしょう.
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